ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 車の運転中、ふと横を見たら野生の雉とエンカウントしたので初投稿です。

 近くで見ると意外と大きくて驚きました。近くを通過しても逃げようとしない辺り舐められていた可能性が微レ存?

 UA72000、お気に入り720、感想272……聖なる数字ですね! これを機に更新速度をあげていきたいところですが、仕事の進捗具合に左右されそうです。


セッションその10-2

 はーいちゅうもーく。みなさん、自分の信徒への集合場所と時間の≪託宣(ハンドアウト)≫は送信し終わりましたか? ……うん、大丈夫みたいですね! これで盤外からちょっかいを出して来る輩が出なくなれば良いんですが……。

 

 さて、じゃあそろそろ再開しましょうか……ってあれ? どなたか太陽神さんを見てませんか? ≪託宣(ハンドアウト)≫送るって行ってから、まだ帰ってきてないんですけど。

 

 え!? さっき下界に向かって出発した!? まさか直接≪託宣(ハンドアウト)≫を告げに行ったとか……ちょっと確認してきますね。

 

 ……あ、やっぱり。お出かけ用の化身(アバター)が無くなってる。

 

 うーん……まぁ太陽神さんならそんな酷いことはしないでしょうし、太陽大好きな吸血鬼侍ちゃんと一度お話ししてみたいって言ってたからなぁ……。

 

 ええい、ここは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にいきましょう! ちょうど一枠空いてますし、せっかくだから直接乱入者をわからせてやってもらうのも悪くなさそうですね!

 

 お待たせしました! それじゃ再開していきまーす。

 

 

 

 

 

 うぉっほん! 前回、勇者ちゃんがダイレクトエントリーしてきたところから再開です。

 

唐突に現れた当代の白金等級の登場に声を失う冒険者の面々、まあ生ける伝説ですからね。イエーイとVサインをしている勇者ちゃんの後ろから剣聖さんと賢者ちゃんもやって来て、これで勇者ちゃん一党が勢ぞろいです。

 

「遅れてしまい申し訳ないのです。交易神の神殿に潜んでいた内通者(インサイダー)魔神兄弟(ブラザーズ)をしばき倒していたら、思った以上に時間がかかってしまったのです」

 

 おかげで神殿は大騒ぎ(ショック)なのですと言いながら席に座る賢者ちゃん。ブラザーズ……ショック……あっ(察し)。うん、この話題に踏み込むのは止めておきましょう!

 

「紹介する必要は無いと思うけど、彼女たちが最深部に突入するCチームに参加してもらう3人だよ。ああ、せっかくだから全員チームごとに座り直すといい」

 

 銀髪侍女さんの声に従って席を移動する一行。吸血鬼侍ちゃんの向かいに勇者ちゃんが座り、その隣には剣聖さん。女魔法使いちゃんと賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんの両隣ですね。

 

「今回も大変だと思うけど、よろしくね! もちろんそっちのおねーさんも!!」

 

「ああ、うん。あんまり年齢は変わらないと思うのだけど……」

 

 ちょっと複雑そうな顔でよろしくと返している女魔法使いちゃん。下手すると勇者ちゃんのほうが年上だったりするような……。ほら、きっと大人びて見えたからですよ! おもに吸血鬼侍ちゃんに当ててるとことかが。

 

 

 

 さて、各チームともそれぞれの役割や使える呪文・奇跡の回数や種類の確認作業に入ったみたいですね。とはいえみなさん(一部を除いて)ベテラン冒険者ですし、新人だって等級詐欺にもほどがある子ばかりです。冒険を共にした関係の人も多いですし、他のチームは問題ないでしょう。唯一不安そうな顔をしているのは……。

 

「はぁ……。やっぱりアンタと同じチームに入ったのは失敗だったかしら。この面子の中で私がする仕事なんて無さそうじゃない。足手纏いにならないよう立ち回るだけで精一杯よ」

 

「そんな、こと、言うもんじゃ、ないわ。貴女にしか、出来ないことが、あるはず、よ?」

 

 椅子に浅く腰掛け、お山を机に乗せて背もたれに寄りかかった状態で大きな溜息を吐いているのはやっぱり女魔法使いちゃん。他の卓の邪魔にならないように避難してきた魔女パイセンがそれを窘めるように笑っています。同じように席を移動していた女騎士さんも、その横でうんうんと頷いています。

 

「その通りだ。冒険者の能力は単純な腕っぷしや魔法の強さで決まるものでは無い。お前には学院で学んだ知識と、それを実戦で生かすセンスがある。私のような脳筋と違ってな!」

 

 呵々と笑っていますが、それ褒められたことじゃないですよね??? 重戦士さんが向こうで頭を抱えてますし。そんな女騎士さんを見て毒気を抜かれたのか、女魔法使いちゃんの目にハイライトさんが帰ってきてくれました。

 

「それに分割詠唱は出来るようになったのでしょう? であれば、私やその子と合わせれば十分に戦力として運用出来るのです」

 

「……ふぇ?」

 

「ああもう、こっち向きなさい。……よし、ちゃんととれたわね」

 

「ん、ありがと。あと、あしでまといなんかじゃないよ? いつもたすけられてるもん」

 

 賢者ちゃんの視線の先には、席を移動するときにこっそり持って来ていたお茶菓子を頬張る吸血鬼侍ちゃん。ハムスターのように口をパンパンに膨らませたまま首を傾げる仕草を見て、女魔法使いちゃんがハンカチで口元に付いたお菓子の欠片を拭いてあげてますね。されるがままの吸血鬼侍ちゃんをジト目で見ている賢者ちゃん、そこはかとなく羨ましそうなのは気のせいでしょうかね。

 

「基本的な立ち回りとしては、術者2人を私が護衛しつつ牽制、前衛2人が速攻をかけるのがセオリーだが……今回の敵の予想はどうだったかな?」

 

「先日邪神が引き摺って行った原型生物(シング)は、『赤い手』の総大主教(グランドビショップ)を名乗る召喚者が招いたものでした。どうやら己が奉ずる神を降臨させるために、次元の穴を開く呼び水として火石に偽装するかたちで召喚したようなのです。おかげで次元の境界は薄くなり、魔神やらも入り込みやすくなっているのです」

 

「それを利用して、強大な赤竜神をこの世界に招くのがそのぐ、グランなんとかの野望なんだ! そんな存在がこの世界に降り立って、通り抜けてきた空間の歪みを固定されちゃったら、週間世界の危機が毎日世界の危機になっちゃうかもしれないんだっけ?」

 

「はい、この世界を取り巻く囲い(スクリーン)が無くなり、三千世界のあらゆる厄介事が舞い込んでくるようになるのです。残念ながら、この世界はその変革に耐えられるほど成熟し(イカれ)てはいないのです」

 

 ああ、まさに混沌の坩堝(カオスフレア)になっちゃうと。たしかにそれではこの世界を維持するのは難しそうですもんね……。

 

「ええと、つまり私たちはその総大主教(グランドビショップ)を倒して、異界の神の召喚を止めればいいのよね? べつにその竜を倒す必要は無いのよね?」

 

 女魔法使いちゃんの言葉に対して、吸血鬼侍ちゃんを含め、全員が優しい目で笑みを返しています。まぁ、こういう時に召喚を阻止できるかといえば……ですよねぇ。あ、また女魔法使いちゃんのハイライトさんが家出しちゃいました。吸血鬼侍ちゃんがスキンシップをしてますけど、今度はなかなか戻って来てくれませんね。お、他の卓も話し合いがひと段落したみたいですね。賢者ちゃんが立ち上がって、四次元ポシェットからいつもの≪転移≫の鏡を取り出して設置し始めました。

 

「そろそろ出発するのです。鏡の先は『死の迷宮』近くの集合場所になっているのです。各宗派の神殿の長と、同行する僧兵や神殿騎士が待っているので、準備が出来たものから順番に通って、先に挨拶を済ませておくのです。……貴女と保護者はちょっと残るのです。話しておきたいことがあるのです

 

「? わかった」

 

「保護者って……いや、あながち間違ってはいないけど」

 

おや? みんなが続々と鏡を潜っていく中で、賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんを引き留めています。分身ちゃんに手を振って先に行ってもらい、残ったのは3人だけ。話しておきたいことってなんでしょうね?

 

 

 

「そんなに時間を取るつもりはないのです。確認しておきたいことがあるだけなのです」

 

 不思議そうな顔をしている吸血鬼侍ちゃんの頬に手を伸ばし、何かを確かめるように撫でる賢者ちゃん。その顔はいつになく真剣で、女魔法使いちゃんも無言で見守っています。瞳を覗き込むように顔を近付け、目と目が物理的に接触しそうなほどです。普段と違う様子に困惑した吸血鬼侍ちゃんが口を開き、声を発しようとした瞬間……。

 

「んむぅ!?」

 

「へ? いや、こんな時に盛ってんじゃ……!? ちょっと、なんなのかしら、ソレ?」

 

予備動作無しに吸血鬼侍ちゃんの唇を奪い、濃厚に舌を絡め始めた賢者ちゃん。唐突な情事の始まりに呆然とする女魔法使いちゃんがツッコミをいれようとしたその時、吸血鬼侍ちゃんの身体に起きた変化に気が付いたようです。

 

「……ぷぁ。……何時からそんな状態だったのです? 正直に話すのです」

 

「……ことしのなつ、くろいあぶらにさわったあと。しばらくたってから……」

 

 女魔法使いちゃんの視線の先、賢者ちゃんのちゅーで上気した吸血鬼侍ちゃんの顔。その表面にはうっすらとひび割れが浮かび、微量の魔力が漏れているようです。どうやらさっきのちゅーは魔力を送り込むためのものだったみたいですね。体内に収まるはずの魔力が漏れ出しているということは……。

 

「再生能力で誤魔化していたようですが、それはひびの入った水瓶を外から塗り固めているようなもの。内側の損傷は治らないのです。……なぜ隠していたのです?」

 

「もうすぐしゅじゅつのよていびだし、それがおわるまではしんぱいをかけたくなかったから……。ちゃんとしゅじゅつのあとにはなすつもりだったよ? ほんとだよ?」

 

 いや、そんなウソ誰も信じないと思うよ吸血鬼侍ちゃん。2人ともキッツイ目で吸血鬼侍ちゃんを見ています。

 

「この事は、あの子は知っているのかしら」

 

「うん、だまっててもらってる。あ、しんぱいしなくてもあっちはだいじょうぶだよ。まりょくであみあげられたからだだから、こっちのそんしょうははんえいされないの。だからへいき……」

 

 うーん、分身ちゃんに口止めしているあたり悪い意味での確信犯ですね。しかもその返事は間違いなく逆効果、2人の怒りゲージがみるみるうちに上がっていってます。わたわたと取り繕う吸血鬼侍ちゃんの正面に目線を合わせる形で女魔法使いちゃんがしゃがみ込み、ニッコリと微笑んだ直後。甲高い音が会議室に響きました。

 

 

 

 

 

 

ぱぁん!!

 

 

 

 

 

 

 痛みには鈍感でも衝撃は伝わったのでしょう。すでに赤みが引き始めている頬を晒している吸血鬼侍ちゃんと、振り抜いた手を抑えている女魔法使いちゃん。賢者ちゃんも厳しい目で吸血鬼侍ちゃんを責めています。

 

「ねえ、なんで自分が叩かれたのかわかる?」

 

「……からだのことをかくしてたから」

 

「ええ、それもあるけどそれは一番の理由じゃないわ」

 

「あのこにだまっててもらったこと」

 

「それはちょっと違うわね。本当に危険だったらあの子も黙ってたりしないもの」

 

「…………」

 

 ありゃ、黙り込んでしまいました。俯いて目に涙を浮かべている吸血鬼侍ちゃんをそっと抱き寄せ、女魔法使いちゃんが頭を撫でています。そのまま小さな子どもに間違いを諭すような口調で語りかけ始めました。

 

「あのね、私たちが怒っているのは『そんな身体なのに、私たちを眷属化させるために魔力を集めていたこと』。いくらみんなが大好きで、ずっと傍に居て欲しいからって、それで無理して自分が死んだら元も子もないじゃないの。……もう死んでるけど」

 

「あ……」

 

「今の今まで気付けなかった身で言えた話では無いのですが、いくら恋人にせがまれたからといって自分の身を削るのは愚か者のやることなのです。魔力蒐集の効率も落ちますし、身体にかかる負担も大きくなるだけなのです。……今だって貯めこんだ魔力を抑えるのに力を割いているのでしょう?」

 

「……うん」

 

女魔法使いちゃんの胸元に顔を埋める形の吸血鬼侍ちゃんを、背中から挟み込むように抱き締める賢者ちゃん。ひんやりとした吸血鬼侍ちゃんの身体が2人によって温められ、凝り固まっていた肉体と精神から力が抜けたようにふにゃふにゃになっていますね。

 

「今回の件がひと段落したら、ちゃんとみんなに自分の事を話しなさい? 一党(パーティ)だけじゃなくて、ゴブリンスレイヤーたち全員によ」

 

「ん、やくそくする。かならずみんなにはなす」

 

 

 

 顔を合わせづらいのか、お山とおへそのあいだから返事をする吸血鬼侍ちゃん。背後の賢者ちゃんがこっそりと腰帯(ベルト)に手を伸ばしているのに気付いていない様子です。その動きを察知した女魔法使いちゃんは即座にアイコンタクトを交わし、胸元に忍ばせていたブツを静かに吸血鬼侍ちゃんの指に……。

 

「ふぁっ!? えっ、なんで……!?」

 

「いえ、先程のはあくまで確認。本題はここからなのです」

 

 突然の全身を駆け巡る衝動に動けなくなる吸血鬼侍ちゃん。カチャカチャと何かを外しながら、賢者ちゃんが耳元で囁くように話しかけています。その息遣いすら刺激になるのか必死に逃げようと悶えていますが、女魔法使いちゃんにガッチリとホールドされて動けない様子。

 

「分割詠唱を使う上では互いの波長を合わせることが重要なのは周知の事実。とはいえ貴女たち2人と私で練習している時間はないのです。手っ取り早く貴女の魔力を取り込んで、さっさと調整を済ませてしまうのです」

 

「ああ、ついでに過剰な魔力をヌイておけば、身体もラクになるわよねぇ。……まさか、この期に及んで嫌だなんて言わないでしょう?」

 

 抱きかかえられた状態で運ばれ、先程まで会議をしていた長机の上に座らさせた吸血鬼侍ちゃん。息も絶え絶えな様子ですが、なんとか辞めさせそうと最後の抵抗を試みています。

 

「そ、そんなじかんないよね? みんなまってるよね?」

 

「安心するのです。時間をかけるつもりも、抵抗する暇もあげないのです。……あむ」

 

「うわ、一気にいくわね。……私も念のためにチャージしておこうかしら」

 

「ほのほうがよひのでふ。ふぐにほうふぁいふるのでふ」

 

「おあ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと時間かかってたけど、大丈夫? なにかあった?」

 

「いえ、なにも。ちょっとお説教が長引いただけなのです」

 

「背中のその子は問題ないのか? 精魂尽き果てたような顔つきだが……」

 

「ええ、足がしびれただけ。そのうち元気になるわ」

 

「おあ~……」

 

 ……はい、前半のお説教を含めて30分弱といったところでしょうか。普段に比べれば随分早かったですね! ナニがとは言いませんが。

 

 ≪転移≫の鏡の先には、既に展開された各神殿の陣屋が広がっていました。天幕(テント)にはそれぞれの御印(シンボル)が描かれており、一目でその信仰する神が分かるようになっています。

 

 どうやら先に出発したみんなはそれぞれ縁のある神殿勢力に顔を出しているみたいですね。分身ちゃんは……あ、知識神(ライブラ)天幕(テント)のところにいました! あの話している大柄な人物は半鬼人先生ですね。隣には傷あり司祭さんもいっしょにいます。先生に師事しているとはいえ、流石に少年魔術師君はいないみたいですね。学院の教師ではなく、今日は知識神の信徒として来ているということでしょうか。

 

 その向こう側、大音量で賛美歌を歌っている屈強な僧兵の集団がいますね。逃げ腰だった女神官ちゃんが捕まって胴上げされてますが……もしかして、地母神の信徒なんでしょうか。みなさん薄い袖無しの僧衣に身を包み、鍛え上げられた肉体を誇示するように入念なウォーミングアップをしています。っていうか、だいぶアレンジされてますけど、あの賛美歌もしかして般若心経……?

 

「あらあら、随分と可愛らしいお侍さんですね」

 

「きゃっ!? え、誰です……か……?」

 

 うわ、びっくりした! いつの間にか女魔法使いちゃんの背後に立っていた女性が吸血鬼侍ちゃんのほっぺをつついていました。条件反射で指をしゃぶり始めた吸血鬼侍ちゃんに対しても一切動じず、あらあらうふふと笑っています。つよい(確信)。

 

「あそこの筋肉たちを力で従えている地母神の神殿の長なのです。神殿を部下に任せて東方辺境を巡り、病人や負傷者を癒す片手間で魔神や破戒僧を素手で仏締(ぶっち)めていた女傑なのです」

 

「すっごい強くて、すっごいやさしいひとだよ!」

 

「あらいやだ、お恥ずかしい。私は只の尼僧ですよ?」

 

 半目の賢者ちゃんと抱き着いてきた勇者ちゃんに対してもあらあらうふふと笑う女性……聖人尼僧さんとでもお呼びしましょうか。身長は剣の乙女より少し低いくらいですが、その胸部装甲は勝るとも劣らない程のボリューム。

 

 でもそんなことより注目なのは、ゆったりとした装束の下に隠されている鍛え上げられた肉体ですね。女性らしい柔らかさを失わぬままに練り上げられたそれは、吸血鬼侍ちゃんに匹敵するほどの頑強さを秘めていそうです。指チュパしている吸血鬼侍ちゃんの目がマジになっているあたり本物でしょうね。作戦はガンガン行こうぜで固定されてそう。

 

「知識神の神殿からは先生が来てくださってますし、至高神はあの()が張り切って仕切ってましたね。交易神殿は魔神の影響で今回は不参加、当代の勇者が代わりに参加という形で落ち着いたのでしたっけ」

 

「ええ、出来れば来て欲しかったのですが、そこの馬鹿力が神殿ごと吹き飛ばしてしまってたせいで後始末に追われているのです」

 

「あはは……ごめんね?」

 

「となれば、規模の大きな宗派で参加してくださりそうなところは……ああ、いらっしゃったみたいですね」

 

「うわぁ、あんな恰好するのは焦った冒険者だけかと思ってたけど、ホントに着こなしてるのね……」

 

 聖人尼僧さんの指し示す先、地母神の僧兵が身体から湯気を立たせながらウォーミングアップをしている区画に近付く集団がいます。みな見目麗しい女性で片手に長剣、片手に盾を持ち、凛とした表情で男たちと対峙しています。あえて視覚的問題をあげるとすれば、全員下着鎧(ビキニアーマー)なことぐらいでしょうか。

 

 離れていても聞こえてくる言葉の応酬から察するに、どうやらお互いの恰好を問題視しているようですね。戦乙女の信徒たちは僧兵に向かってちゃんと防具を身に着けろと言い、僧兵は女性たちにもっと慎み深い格好をしろと返しているみたいです。それだけでは冒険者ギルドで深酒をした酔っ払いの罵りあいにしか聞こえませんが、不謹慎ですが面白いことに、双方とも互いを親身になって心配しています。もっと命を大事にしろという意味で防具を勧めている戦乙女と、ゴブリンやオークに襲われたらどうするのだと肌を隠すよう諭す僧兵。信じるものが違うために行き違っていますが、どちらも相手を重んじているが故の言動なのでしょう。……たぶん。

 

「そろそろ止めてあげたほうが良さそうですね。では私はこれで。みなさん、戦のあとの宴会でまたお会いしましょうね?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの口から指を抜き取り、頭をひと撫でして喧騒へと向かっていく聖人尼僧さん。敗北や死をまったく考えていないあたり、やはりおっかない人なのかもしれません。その後姿を両手をブンブン振って見送る吸血鬼侍ちゃん。あ、女魔法使いちゃんが地面に投げ落としました。これは……嫉妬ですかな?

 

「それだけ元気ならもう背負ってなくてもいいわよね?」

 

「はい、ぼくはげんきです!」

 

 ならばヨシ! 埃を払いながら立ち上がった吸血鬼侍ちゃんの足はしっかりと地に付いており、先程までの腰砕けではないですね。キョロキョロとあたりを見回して、何かをさがしているみたいですが……。

 

「やっぱり、しんこうしているひとがすくないのかなぁ」

 

「なに、おなじ万知神の信徒でも探してるの?」

 

 女魔法使いちゃんの問いに首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。≪手袋≫の中から大事そうに取り出したのは、仄かに暖かい黄金色のメダル。胸元に抱く様に握りしめて残念そうに溜息を吐いています。

 

「ああ、彼を探していたのですか。残念ですが彼とは連絡が取れなかったのです。五柱の神々を信仰する長には≪託宣(ハンドアウト)≫が届いたとのことですが、彼の信じる神がそうしたのかはわからないのです」

 

「残念だなぁ、ボクも久しぶりに会いたかったのに……」

 

 おやおや、勇者ちゃんも一緒になって溜息を吐き始めてしまいました。いざ戦となれば意識が切り替わるでしょうが、モチベーションや仲間との会話は勇者ちゃん一行にとって非常に重要ですからねぇ、フレア的な意味で。クライマックス前に稼いでおかないと困ったことになりかねません。なんとかテンションを上げていきたいところですが……おや? なにかがこっちに向かって来ています。寒さを孕んだ秋空に似つかぬ温もりを秘めた風を纏い、駆け抜けた後に生命の息吹を残し疾走する白い姿。勢いを殺すことなく接近し、剣聖さんと勇者ちゃんの危険感知判定に引っ掛かることもなくそのまま……。

 

 

 

 

 

 

どーん!!

 

「へぶっ!?」

 

「え、今度はなに!?」

 

 白い何かに跳ね飛ばされ、そのまま押し倒された吸血鬼侍ちゃん。頭を振って意識をハッキリとさせたその目に映り込んだのは……。

 

 

 

「ワン!」

 

 これから絵を描くキャンバスのように真っ白な毛並みを持った、一匹の狼でした。普段自分がみんなにしているように喉元や頬へふわふわの身体を擦りつけられ、困惑だった表情があっというまに幸福に満ちていきます。

 

「ふわふわ……もこもこ……」

 

「わふっ!」

 

 どうだ、すごいだろうと言わんばかりに唸る狼と、その首元に抱き着き幸せそうに顔を緩ませている吸血鬼侍ちゃん。突如出現したゆるふわ空間に一同が動けない中、後を追うように1人の人影がやって来ました。1人と一匹の傍に近付き、吸血鬼侍ちゃんの上に乗っかったままの狼を引き剥がし、そのまま肩の上に担ぎ上げてしまいました。

 

「クゥーン……」

 

「俺のツレが粗相をして申し訳ない。貴公、怪我は無いか? こやつも悪気があってやったわけでは……」

 

 おや? グレートヘルム(バケツ兜)越しの視線が注がれる先には、ぶつかった衝撃で落ちたのでしょう、太陽のメダルが。辺りを見渡し勇者ちゃん一行に気付くと、納得した様子で深く頷き、吸血鬼侍ちゃんに手を差し伸べそっと引き起こしてくれました。

 

「そうか、貴公が太陽に焦がれた吸血鬼。陽光の下で人と歩むことを決めたデイライトウォーカーであったか!」

 

 そういうと口を閉じ、何かを待つように吸血鬼侍ちゃんと対峙する鉄兜の騎士。吸血鬼侍ちゃんが逡巡していたのはほんの僅か、彼の意図を察し、瞳を輝かせてしゃがみ込みました。空気を読んだ狼が肩から飛び降り、彼も同じように屈んでいきます。初対面でありながら互いの呼吸は把握していると言わんばかりに完璧なタイミングで立ち上がり、背筋を伸ばし、両手をY字に高く掲げる2人。2人が声を発するのに合わせ、狼が大きく吠えた瞬間。黒い雲に覆われていた空が割れ、輝きが一帯を照らし出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「太陽万歳(たいようばんざい)!」」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、なんとか合流してくれましたね……。太陽神さんてば現地での移動手段まったく考えてないんだから。聖騎士さんのEDに転移装置を捻じ込んで、一緒に跳んでもらったからなんとかなりましたけど。……まぁ、あの光景を見せられたらなにも言えませんて。みんな、いい笑顔で輝いてるなぁ……。

 

 





 頑張って聖なる数字を超えるために失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。

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