ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 GWの予定はないので初投稿です。



セッションその10-7

 ウーム、無貌の神(N子)さんの卓も万知神さんの卓も盛り上がってますねぇ。断片的にしか聞こえませんけど、どうやら万知神さんがキャラ作の時に仕込んでおいた設定を開示し始めたみたいです。相変わらず一癖も二癖もある裏設定をGMに投げといたんだろうなぁ……。

 

 あ、万知神さん。そろそろこっちの卓で動きがあるっぽいです! そちらの切りが良さそうなら儀式阻止組のほうを始めたいんですけど……。OK? よし、じゃあ気合い入れていきましょう!!

 

 

 

 えー、前回、陽動組と制御室奪還組にケリがついたところから再開です。

 

 制御室奪還組と一緒に光を通さぬ空間(ダークゾーン)を抜け、やってまいりました昇降機(エレベーター)前。電車ごっこで使用していたロープを吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんがいそいそと≪手袋≫に仕舞い込んでいます。道中遭遇したゴブリンやら何やらはみんな纏めて勇者ちゃんが薙ぎ払ってくれました。いやー楽ちんちんです!

 

「おさきにどうぞ~」

 

「ありがと~」

 

 順番を譲ってもらったので、早速昇降機(エレベーター)へ乗り込む一行。女性多めの構成なのでスペースも荷重も十分に余裕があります。まぁガチガチに装備を固めた戦士六人とかでも問題なく動いてくれるんですから気にする必要は無さそうですね。結構な速度で降下しているはずですが不快な震動を感じないのは、やはり高度な術式で制御されているからなんでしょうか。吸血鬼侍ちゃんも狼に跨ったままバランスを崩さずにいるあたり是非とも解析したいところです。

 

「それにしても、随分大人しい狼だね! 頭も良さそうだし!!」

 

「わっふぅ」

 

 勇者ちゃんに撫でまわされても嫌がるような素振りを見せず、されるがまま泰然自若としている狼。その視線は待ち構えているであろう黒幕への対処を話し合っている剣聖さんと賢者ちゃんのお山に釘付けになっています。身振り手振りをする度にたゆんたゆんと揺れるのに合わせ、吸血鬼侍ちゃんを乗せたまま身体ごと視線が行ったり来たり。目の前にもあるんですからそっちを見たらどうです? 胸甲と同じくらい硬そうですけど。

 

「うむ、此処に来る前に一党(パーティ)で挑んでいた遺跡で見つけたのだ。自然発生したと思われる亡者を光り輝く剣を振り回し滅していたのだが……はて、どうやって剣を振っていただろうか?」

 

 ウーム、ウームと考え込み始めてしまった聖騎士さん。肉球付きの手で剣を握れる訳は無いですし、口に咥える(シフ方式)くらいしかないと思うんですけど(名推理)。

 

「……大丈夫なのですか? あまり元気がないようですが」

 

 思い思いに決戦までの時間を過ごす一行の中でずっと静かだった吸血鬼侍ちゃんを心配して、賢者ちゃんが話しかけてきてくれましたね。ひょっとして搾り過ぎましたかと聞いてくる賢者ちゃんに対し、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。お腹が空いた以外でこんな顔をしているということは珍しいですね。また何か悩み事でもあるのでしょうか?

 

「ここのところ、みんなにめいわくかけっぱなし。やっぱりぼくじゃなくて、あのこがほんたいになるべきだったんだ……」

 

「!? アンタまたそんなコト考えて……ッ」

 

「待つのです。……まさか、≪分身(アザーセルフ)≫を使う前から互いを認識していたのですか?」

 

 コクリと頷く吸血鬼侍ちゃんを驚愕の目で見つめる賢者ちゃん。そりゃひとつの身体の中に複数の精神が入っているなんて普通思いつきませんもの。……ん? でもそうしたら今この場にいる『吸血鬼侍ちゃん』の基盤となっている魂は一体誰のモノなんでしょう?

 

「とってもくらいところで、あのこがたたかってているのをずっとみてた。がんばれ、がんばれっておうえんしてたら、あるひおひさまのひかりがみえたの。いっしょうけんめいてをのばして、そのひかりをつかんだら、いつのまにかあのこのとなりにいた……」

 

「『吸血鬼侍(あなた)』を祈る者(プレイヤー)にしたのは、信仰と発動する奇跡から万知神であることは確かなのです。でもそれは≪分身(アザーセルフ)≫として活動している分身ちゃん(あの子)であって、貴女はまた別の神に……」

 

「……ねえちょっと、なんか身体から生えて来てない?」

 

「ぼ、ぼくのことはいいから!? それよりもこんどのしゅじゅつなんだけど……」

 

 それからはずっと2人一緒だったと話す吸血鬼侍ちゃんの言葉を聞いて、思考の海に沈み始めた賢者ちゃん。若干ですが発狂ゲージが上昇し始めていますね。ピシリピシリと身体から生える血の棘を見た吸血鬼侍ちゃんが、慌てて気を逸らそうとしています。そういえば次の安息日に手術って言ってましたっけ。それがひと段落したら諸々解決しなきゃいけない問題に手をつけましょうか。差し当たっては吸血鬼侍ちゃんの身体がいちばん……おっと、どうやら到着したようですね。固く閉ざされていた昇降機(エレベーター)の扉が自動的に開いていきました。

 

 

 

「さーて、ここからは歩いていくんだっけ? ……あれ? キミ何してるの?」

 

「おっとっと。えーとね、さきにおそうじするね!」

 

 勇者ちゃんの視線の先には狼の背中から飛び降りた吸血鬼侍ちゃん、若干よろけながらの着地は見ていてちょっと心配です。勝手知ったる我が家と言わんばかりに歩を進め、左右一つずつある扉の左を躊躇いなくキック! 突然扉が開いて立ちすくみ状態の下級魔神(レッサーデーモン)の群れに容赦なく血刀からの火炎放射を浴びせています。

 

「「「「LEMOOOOOOON!?」」」」

 

 燃やし祭りにお友達を呼ぶことも出来ず、あっという間に黒焦げとなった魔神たちを押し退けて玄室に入る吸血鬼侍ちゃん。後を追って入ってきた一行に自分より前に出ないようジェスチャーをしながら壁沿いに歩いています。

 

「い~ち、に~ぃ、さ~ん……よん!」

 

「「「「「あ!」」」」」

 

 あ! 掛け声とともにジャンプした吸血鬼侍ちゃんの足元がポッカリと口を開きました!! 慌てて駆け寄ろうとする勇者ちゃんの前で闇へと消える吸血鬼侍ちゃん。伸ばした手は虚空を掴み、残るは奈落へと通じる大穴……ん?

 

「えへへ……びっくりした?」

 

 ああ、飛べるんだから落ちる心配は無いですもんね。悪戯が成功してニッコニコです。みんなの緊張を解すつもりだったのかもしれませんけど、残念ながら目論見は失敗なんだよなぁ……。背後から伸びてきた繊手に首根っこを引っ掴まれ、宙吊りとなった吸血鬼侍ちゃん。恐る恐る振り返れば、そこには青筋を浮かべた女魔法使いちゃんと、にこやかな笑みを浮かべた賢者ちゃんが……。

 

「あ、あれ? リラックスできなかった?」

 

 

 

 

 

 

「「正座」」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「貴公、場を和ませようとするのは良いが、時と場合は考えるべきだと思うぞ!」

 

「わふっ」

 

「ごめんなさい」

 

 こんなこともあろうかと用意されていた『私は悪いことをしたいけない子です』プレートを首から下げ、ロープグルグル状態で狼の背中に据え付けられた吸血鬼侍ちゃん。流石に悪ふざけが過ぎたと反省しているみたいですね。先ほどまでぷんすこ怒っていた賢者ちゃんもそんな吸血鬼侍ちゃんを見て怒りを鎮め、次やったら枯れるまで搾り取るのですと言って許してくれました。……許されたんですよね?

 

「うう……さっきから転移床(ワープポータル)ばっかりで気持ち悪くなってきた……」

 

「なんだだらしのない、帰ったらみっちり修行だな」

 

 連続で5つも転移床(ワープポータル)を通ったからでしょうか、いつでも元気いっぱいな勇者ちゃんが顔を青くしています。腰のポーチから取り出した水薬(ポーション)を飲んで頭を振っていますが、人によって酔いやすいとかあるんですかね。対照的にケロっとした顔の剣聖さん、鍛えられているからなのかそれとも神経が鈍いのか。謎は深まるばかりです。

 

「つぎのポータルをぬけたら、()()()()がいたへやがみえてくるよ」

 

 身体を捩ってロープから抜け出そうとしている吸血鬼侍ちゃんの言葉に気を引き締める一行。そろそろ反省したのですねと確認しながら賢者ちゃんがロープを解いてくれました。ゆっくりと進む一行の前に現れたのは豪奢な扉。壁には『赤い手』の御印(シンボル)が掲げられ、床には以前かかっていたであろう標識(プレート)が無残に打ち捨てられています。それを何処か悲し気に眺めている吸血鬼侍ちゃんの前で、扉がゆっくりと開き始めました……。

 

 

 

「……どうやら既に異界化しているようなのです。空間中に嫌な魔力が充満しているのです」

 

 顔を顰めた賢者ちゃんが呟くのも無理はありません。扉を抜けた先は、今まで通過してきた玄室とは似ても似つかぬ有様に変わり果てていました。

 

 怪しく脈動する有機的な床に、地下でありながら浮かぶ緑と赤の2つの満月。空間の中心には小さな祠のようなものがあり、この空間全体を震わせるほどの鼓動が定期的に発せられています。

 

「ガルルルル……!」

 

「ム、あそこに居るのが今回の黒幕だろうか?」

 

 聖騎士さんが指し示す先、祠の傍にローブ姿の人影が見えますね。フードに隠れて顔は見えませんけど、どうやら人型のようです。あれが総大主教(グランドビショップ)なんでしょうか? 吸血鬼侍ちゃんを背に乗せたまま、狼も威嚇するように唸っています。

 

「お前がグランなんとかだな! 神妙にお縄に着くか、ここでボクたちにぶっとばされるか、好きなほうを選ぶといいよ!!」

 

「……ようやく来たか。忌々しい神の走狗(コマ)共め……」

 

 勇者ちゃんの啖呵に舌打ちを返し、不穏な事を口走るローブ服。響く声は若い男性のそれで、煩わしそうにフードを取り去った下の素顔は端正と言って良いものです。銀髪に真紅の瞳、人形のように整った美丈夫(イケメン)ですが、何故か心に響くものが感じられません。きっとそれは、内面が悍ましいものであることを主張するほどに歪んだ表情のせいでしょう。苛立たし気に髪を掻き上げながら一行に向けるのは、侮蔑と憤懣に満ちた視線です。

 

「何故僕だけが邪魔されなければならない。好き勝手に世界を弄んでいるのは貴様らとて同じだろう」

 

 ……いえ、彼は一行のことなんて見ていません。部屋の隅の塵芥を眺めるような超越的な視線で睨みつけているのは吸血鬼侍ちゃん。そしてその後ろにいる……。

 

「己の欲望のままに世界を歪め、贔屓の走狗(コマ)の一挙手一投足に一喜一憂! 挙句の果てに()()()()()まで造り出す!! 僕が同じことをして何が悪い!!!」

 

「いったい何を言っているのです? この世界に殴り込んできたのはそちらなのです」

 

 困惑した表情で問いかける賢者ちゃんを一瞥し、再び舌打ちをする総大主教(グランドビショップ)。大仰な身振りで振りかざすのは、常人には理解の及ばぬ超越者の主張です。

 

「ハッ。お前たちなら既に察しているのだろう? この世界が神を名乗る痴愚共の遊び場(ボード)に過ぎないことを。そしてこの世の全てが奴らの被造物であることを! そしてソレはお前たちとて例外では無いこともな!!」

 

 そう言い放つ彼の目には勇者ちゃんたち3人と同じ、いや、さらに強い()が宿っています。乱入者は他の神が生み出した祈る者(プレイヤー)だと思ってましたけど……もしかしてこの男、化身(アバター)!?

 

「よってたかってそんなバケモノを作り上げ、好き勝手動かしているというのに! 何故僕を認めない!! 僕を受け入れようとしない!!!」

 

「うあ……!?」

 

 捻くれて歪み切ったものとはいえ、紛れもない神威をぶつけられ苦悶の声を上げる吸血鬼侍ちゃん。衝撃で隠していたひび割れが表面化し、一行に衝撃が走ります。

 

「んなっ!? このっ、その子は良い子なんだ! 乱暴しないでよ!!」

 

 振り下ろされた太陽の剣をバックステップで躱し、視線を勇者ちゃんに向ける総大主教(グランドビショップ)。その顔に浮かんでいるのは、モノを知らぬ子を嘲笑うような、見るに堪えない笑みです。

 

良い子だと? 当たり前だ、ソレはそうなる様に望まれた(作られた)モノだ! 誕生(キャラ作)前に設け(考え)られた仮初の人格(仮設定)、本来生まれ出る筈の無かった影法師(廃棄案)! ソイツは祈る者(プレイヤー)でも祈らぬ者(ノンプレイヤー)でも、いや有象無象(エキストラ)ですらない!!」

 

「やだ……いわないで……」

 

「ッ!? みんな聞いてはダメなのです!!」

 

 懇願するような吸血鬼侍ちゃんの声を聞き、笑みを深める化身(アバター)。賢者ちゃんの叫びが空しく響く中、致命の一撃(クリティカル)となる一言が全員の耳に届きました……。

 

 

 

 

 

 

()()()()は、『吸血鬼侍』という神の玩具(オモチャ)を作り出すためだけに用意された()()()。その隅にへばり付いていた残留思念(設定の消し残し)が身体を乗っ取って動かしていただけの……只の木偶人形だ」

 

 

 

 

 

 

  あ……

「あ……」

 

「ガウ!?」

 

 その言葉がトドメとなったのか、崩れるように狼の背中から落ちる吸血鬼侍ちゃん。慌てて駆け寄った女魔法使いちゃんが抱え起こしますが、その瞳には光が無く、ただ眦から涙を零すばかり。

 

 そっか……。『吸血鬼侍ちゃん』の中にいたのは、何の力も持っていない、何処にでもいる、ただの圃人(レーア)の女の子だったんですね……。『吸血鬼侍ちゃん』を誕生させるためだけに用意され、『死の迷宮』で命を散らし、それでももう一度太陽を見るために『吸血鬼侍ちゃん』の中で待ち続けていた。分身ちゃん……『吸血鬼侍ちゃん』と仲良くなれたのは、本当に奇跡に近い確率だったのかもしれません。

 

 

 

「フン、本来の持ち主ならいざ知らず、偽物の魂では幾ら優秀な肉体とて扱いきれまい。邪魔な不確定要素(イレギュラー)共々ここで消し去ってやろう!」

 

「うわっと!? あーもう、結界は卑怯だよ!」

 

「ちっ、全ては儀式の時間を稼ぐためのものだったのか!」

 

 果敢に斬りかかってきた勇者ちゃんを祠の近くから弾き飛ばし、手に持つ『赤い手』が表紙に刻まれた本を掲げる総大主教(グランドビショップ)。空間中に響く鼓動がどんどん強くなっていきます! 吹き飛んできた勇者ちゃんを受け止めた剣聖さんが零した言葉を耳ざとく聞いていた総大主教(グランドビショップ)が、呆れた様子でその疑問に答えます。

 

「おいおい、僕は三流芝居の悪役では無いんだ。妨害される可能性が少しでもあるなら、長話なんてするわけがないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「儀式はお前たちが迷宮入りする前に完了している」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、空間を振動させていた鼓動が一際強くなり、そしてソレが姿を現しました。

 

 

 

  生物的様相を持った床が裂け、総大主教(グランドビショップ)が立つ祠を中心に円を描く様に走る亀裂。吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえた賢者ちゃんを守る様に後退する一行の眼前で、祠の周囲をぐるりと囲うように昇り立つ()()()()()()()。赤、青、緑、黒、白。クロマティックドラゴンの要素を持つ五本に加え、半透明のもの、骨と皮だけのもの、鉄と発条で組み上げられたものの三本、合計八本が亀裂の隙間から首をもたげる姿はこの世のモノとは思えない光景です。首に守られるように中心に浮かぶ祠の前で、総大主教(グランドビショップ)が勝利を確信したように両腕を突き上げています。

 

「やったぞ! これで僕を認めなかったあいつ等の干渉は遮断された! この世界は僕のモノだ!!」

 

「ふざけるな! この世界はここで暮らす人たちのものだ! お前のモノなんかじゃないぞ!!」

 

 念願の玩具が手に入った子供のように無邪気に喜んでいますが、好き勝手されるのはこの世界。そんな事を認めるわけにはいかないと立ち上がる勇者ちゃんですが、背後で女魔法使いちゃんと一緒に吸血鬼侍ちゃんを介抱している賢者ちゃんの顔色が良くありません。いったい何がががががががががががが

 

 

 

「不味いのです。この世界と情報次元を繋ぐ(ゲート)が遮断されたのです。これでは奇跡を使うことが出来ないのです……っ」

 

 

 

 ……あー、あー、繋がったかな? いきなり回線が切れるもんだからみんなびっくりですよ。どうやらあの竜みたいなのの影響で四方世界(あっち)盤外(こっち)が上手く繋がらなくなってしまっているようです。まったく、いくら相手にしてもらえないからって此処までやりますかね普通……。でも賢者ちゃんの言う通り状況はあんまりよろしくありません。先ほどから万知神さんが『吸血鬼侍ちゃん』が見えなくなったとパニクってます。交易神さんも勇者ちゃんとの繋がりが切れて不安そうな顔をしていますし、奇跡も届けられないのは非常に厳しいですね……。

 

 

 

「そら、どうした! それがこの世界を背負って立つ勇者とやらの力か!!」

 

「くっ この程度でやられるもんか!」

 

 炎、電気、酸、毒、冷気。それに加えてMPを削るアストラルのブレスや肉体を腐らせる瘴気、大口径の火砲を向けられ捌くのに必死な勇者ちゃん。身体から吹き出す太陽の加護(フレア)で軽減しているようですが、確実にダメージは蓄積されています。援護を求めようにも剣聖さんは吸血鬼侍ちゃんたちを守るのに手一杯でそんな余裕は無さそうです。焦りを隠せない勇者ちゃんを見て、総大主教(グランドビショップ)の端正な顔が酷薄に歪んでいきます。あっ! 死角を縫って接近してきた首が勇者ちゃんを上空にカチ上げました! ダメージは軽そうですが踏ん張りの効かない空中では回避が難しくなってしまいます。絶好の機会は逃さんとばかりに、白と緑の首が冷気と酸を滴らせた口で挟み撃ちにしようと迫って……!?

 

 

 

 

 

 

「≪(あま)照らし坐す我等が慈母よ、闇祓うその輝きにて、明日を照らす光明となれ≫!!」

 

「ガアァァァウ!!」

 

 

 

 幾重にも形成された結界を切り裂き、勇者ちゃんの危機を救った双光。酸が噴き出る筈の切断面を秘めた熱で焼き潰した一撃は、幅広の長剣を口で操り全身に朱の紋様を浮かび上がらせた狼によるものです。ではもう一条、白い首を根こそぎ消滅させた一撃を放ったのは……!

 

 

 

「フム、あ奴どうやら太陽の力に弱いようだな!」

 

 

 

 無手の右手に光を纏う、陽光を槍として投擲した聖騎士さんです! 空中で器用に勇者ちゃんを受け止めた狼がその横に着地し、背中から勇者ちゃんを降ろし再び唸り声を上げています。その自信に満ちた顔が気に入らないのか、端正なマスクを作画崩壊させた総大主教(グランドビショップ)の叫び声が響きました。

 

 

 

「何故だ、此処は既に神と切り離された世界。何故貴様は奇跡を使えるのだ!? 答えろぉ!」

 

 

 

「決まっている。太陽はいつも此処にある! そして遍く全てを照らしているのだからな!!」

 

 自身の胸元を指差しながら高らかに言い放つ聖騎士さんと、それに気圧されたように黙り込む総大主教(グランドビショップ)。沈黙した彼を放置して、聖騎士さんが吸血鬼侍ちゃんの傍にやって来ました。

 

 女魔法使いちゃんに抱き締められたまま、表情を失いただ涙を流している吸血鬼侍ちゃん。かける言葉が見つからないのでしょう。女魔法使いちゃんも賢者ちゃんも口を閉ざしたままその涙を指で拭い続けるばかりです。聖騎士さんが来たのに気付き顔を僅かに上げる吸血鬼侍ちゃんを見て、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ聖騎士さん。グレートヘルム(バケツ兜)のくぐもった、しかし慈愛に満ちた言葉を絶望の海に沈んでいる吸血鬼侍ちゃんに投げかけました。

 

 

 

「立て、小さき友よ」

 

「たとえ貴公が仮初の存在であろうとも、太陽は貴公を照らしている」

 

「それに貴公には、愛し、愛される人々がいるのだろう?」

 

「その者たちと育んだ絆、それを貴公は偽物だと言うのか?」

 

「顔を上げ周りを見るのだ。貴公の為に涙を流し、悲しんでいる彼女らを救えるのは貴公を置いて他にはおらぬ」

 

 

 

 

 

 

「そして笑え! 笑って明日へ進むのだ! 沈んでも必ず昇る、美しき太陽のように!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 それは、赤ちゃんが生まれて初めて出す声によく似ていました。

 

 ぼくはここにいる、そうみんなに伝えるような、とても大きな泣き声。

 

 そのあまりの大きさに女魔法使いちゃんと賢者ちゃんの涙も止まり、唖然とする2人の眦に残ったそれを舐め取りながら、泣き笑いの表情で吸血鬼侍ちゃんが口を開きます。

 

 

 

「ずっと、うそついててごめんね。ほんとはあのことちがって、なんにももってないただのこどもなの。あのこのこういにすがって、つよいふりをしていた、ちっちゃくてよわむしなひきょうものなの……」

 

 でもね、と言いながら2人を抱き寄せ、頬擦りをする吸血鬼侍ちゃん。ひび割れた皮膚が崩れるのも構わずに、2人の体温を確かめるように続けています。

 

「みんながだいすきで、ずっといっしょにいたいってきもちと、おひさまをさがしていたのはうそじゃないよ? ……いままでありがとう」

 

「!? なによソレ、まるで別れの挨拶みたいじゃない……ッ」

 

 キッと睨みつけるような視線を送る女魔法使いちゃんに、()()困ったような笑みを返す吸血鬼侍ちゃん。随分痛めつけちゃったけど、この身体はあの子のものだから。ちゃんと返さなきゃダメなのと続ける吸血鬼侍ちゃんをきつく抱き締めています。ひとつのからだにはひとつの魂、それが自然なコトでしょと笑う顔は曇りのない透明なもの。そんな顔を物理的に歪ませたのは、横から伸びてきた賢者ちゃんの両手でした。

 

「寝言は寝てから言うのです。魂の入れ物が必要なら、作ればいいだけの事なのです。散々好き勝手やってハイさよならとか、ヤリ逃げ男よりも性質(タチ)が悪いのです」

 

「おあ~……」

 

 ムニムニとほっぺを引っ張られ、奇妙な声を上げる吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんと一緒に抱き締めながらぷんすこしている賢者ちゃん。たしかに、身体が足りないのならもうひとつ作ってしまえば良い。普通に考えれば荒唐無稽な話ですが、賢者ちゃんが言うと信憑性がありますねぇ。

 

「まずはあの友達がいなさそうなボッチをわからせて、そのあとみんなでお説教なのです。……それが終わったら、たっぷり愛してあげるのです」

 

「……ふふっ。そうね、先ずはあのスカシ面を凹ませましょう? 後のことはそれからでいいわ」

 

「……うん!」

 

 左右の頬に2人からちゅ~されて、やる気が上がった吸血鬼侍ちゃん。それを見た一行の顔にも余裕が戻ってきたみたいです。一方で蚊帳の外だった総大主教(グランドビショップ)も再起動し、忌々し気に吸血鬼侍ちゃんを睨みつけてきてますね。

 

「……半死半生の雑魚が1人増えたところでどうなる!? お前たちは全員ここで終わりなんだよ!!」

 

「ウーム、太陽を信じぬ湿度の高い男はこれだから困る。嫉妬の炎は太陽とは違うのだぞ」

 

 今までの慇懃無礼な態度をかなぐり捨て、感情をむき出しに絶叫する総大主教(グランドビショップ)、どうやらアレが彼の本性のようですね。醜悪なそれを半目で見ていた聖騎士さんの呟きでさらに激高し、残る六本の首を一斉に嗾けて来るようです。

 

「かつての悪竜神(ティアマト)は五本の首全てを落とされ、その胴体は下方次元に放逐された。だがこの残響(アバター)は違う! 弱点を補うために首を増やし、()()()()()()()関連付けることで高い神性も付与してある!! 死にぞこないに太陽神の信徒、おまけに犬が一匹増えようが、こちらの勝利は揺るがない!!!」

 

 

 

立ったな(フラグが)。迫り来る暴威を前にそれぞれの得物を構える一行。村正を抜こうとした吸血鬼侍ちゃんを見て、賢者ちゃんがアドバイスてくれていますね。

 

「先のダメージを見る限り、太陽の属性が弱点のようなのです。たしか太陽の直剣を持っていた筈なのです。それを使うのです」

 

「おお、貴公も所持しているのか! 俺もかつての冒険で手に入れ、愛用しているのだ!!」

 

「よーし、じゃあ今日は合わせて三兄弟だ!」

 

 嬉し気に剣を抜き放つ聖騎士さんと並び立ち、鮫のような笑みを浮かべる勇者ちゃん。ここからが反撃の時間(ターン)だと言わんばかりの気合いの入り様を見て、普段は冷静な剣聖さんも気を昂らせているみたいです。女魔法使いちゃんと賢者ちゃんには後方支援に回ってもらって、吸血鬼侍ちゃんも早速……。あれ? 吸血鬼侍ちゃんの顔が青褪めてますね。それに出る筈の無い脂汗も浮かんでいます。いったいどうしたんでしょう。≪手袋≫から剣を取り出そうとしない吸血鬼侍ちゃんを不審げに見ていた賢者ちゃんが心配して声をかけています。

 

「どうしたのですか? もしかして損傷が進んで動けないのですか?」

 

 背後からの問いかけにゆっくりと振り返り、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。じゃあ何が、という表情の賢者ちゃんに、半笑いの表情で言葉を返します。あ、あの顔はやっちまった時の顔ですね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラウマこくふくのときにわたしちゃって、かえしてもらうのわすれてた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あ。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 GW中にこのセッションを終わらせたいので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。
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