ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 今がその時なので初投稿です。



セッションその10-9

 吸血鬼侍ちゃんと太陽神さんに蹴り出された化身(アバター)は下方次元界に落下、中の人(吟遊詩神)は別室で≪真実≫さんと≪幻想≫さんによるお説教中……と。

 

 ふぅ、なんとか収拾がつきましたかね。これで彼ももう少し他()の気持ちを考えて行動してくれるようになれば良いんですけど。

 

 さて、あとは吸血鬼侍ちゃん……本体ちゃんのほうをどうするかですが……。

 

 ん? 万知神さんGM神さんと何話してるんです? いいから気にしないでって、その邪悪な笑みを見たら誰だって気になりますって!

 

 あーもう! わかりました。こっちはそろそろ〆に入りますから、適当なタイミングでイベント起こしてくださいね!

 

 

 

 お待たせしました! 前回、見事ボスを撃破したところから再開です。

 

 バッチリ勝利のポーズを決めている吸血鬼侍ちゃん。ずっと抱えていた色々な気持ちに整理がついたのでしょう、眉を立てた明るい顔になってますね。ああいう顔をしているとコンプレックスだった三白眼もヤンチャな男の子みたいで可愛いものです。あれ、そういえばさっき三分で時間切れって言ってませんでしたっけ?

 

 

 

ぷしゅ~……

 

「あ、もうだめ~……」

 

「わふ!?」

 

 ああもう言わんこっちゃない。全身から噴き出ていた魔力もその勢いを急激に弱め、生まれたままの姿に逆戻りしてそのままひっくり返っちゃいましたね。体中のひびからは僅かずつですが魔力が漏れたまま、これあんまり良い状態じゃないですよね? 慌てて狼……太陽神さんが背中に乗せ、みんなが待つ池のほとりに運んでくれました。

 

「うわ、大丈夫って()っつ!? ……ゴメン、大丈夫?」

 

「あいた~……」

 

 おわ、太陽神さんの背中で伸びてる吸血鬼侍ちゃんを受け取ろうとした勇者ちゃんが、触れた肌が持つ予想以上の熱さに驚いて吸血鬼侍ちゃんを落としちゃいました。受け身も取れず顔面から地面とちゅ~して涙目になってますね。同じ太陽の熱だと身に纏う加護で防げないみたいです。うーむ、これじゃあ介抱するの苦労しそうですが……。

 

「まったく手のかかる頭目(リーダー)だこと。ほら、じっとしてなさい」

 

「は~い……」

 

 お、賢者ちゃんと一緒に歩いてきた女魔法使いちゃんが羽織っていた外套(クローク)で吸血鬼侍ちゃんを包んで抱き上げました! そういえばその外套(クローク)革手袋(グローブ)、赤竜が素材でしたっけ。上手いこと熱を遮断してくれているようです。持ち運ぶだけならこれで十分そうですね。女魔法使いちゃんに抱きかかえられて安心したのか、吸血鬼侍ちゃんは寝てしまったみたいです。もしかしたら消耗を抑えるために最低限の機能以外をカットしちゃったのかもしれませんね。

 

「≪転移≫を阻害していた術式は既に解除されているのです。すぐに地上まで戻って……もう一人のこの子に話を聞いてみるのです」

 

 いつもの鏡を取り出さず、静かに目を閉じた賢者ちゃん。小さな声で何かを呟いていますが、もしかして直接転移するために座標を計算しているんですかね? あの、お願いですからここまで来て*いしのなかにいる*だけは勘弁して下さい……。

 

 

 

「やぁおかえり。他の組は既に帰還して……どうやらねぎらいの言葉をかけている余裕は無さそうだね。君たちの仲間は知識神の天幕(テント)で休息をとっている、案内しよう」

 

 賢者ちゃんの≪転移≫によって地上へ帰還した一行。手に鈴のようなものを持った銀髪侍女さんが出迎えてくれました。≪転移≫してくることが予め分かっていたような出待ちでしたが……あの鈴が転移を察知する呪物とかなんですかね。外套(クローク)に包まった吸血鬼侍ちゃんを見て容易ならざる事態だと判断したのでしょう、挨拶もそこそこにみんなのところへ案内してくれるみたいです。

 

 知識神の天幕(テント)が並ぶ一画、他の天幕(テント)と違ってここだけ国際色豊かな面子が集まっていますね。道中で戦況を聞いたところ、軍による二重包囲が成功して殆ど殲滅に近い戦果だそうです。包囲を突破できたのは飛行ユニットの一部くらいで、ゴブリンやオーガなど地上ユニットは鏖殺完了とのこと。前もって巡回説教者さんや核武僧さんたちが間引いていたとはいえ中々の大戦果。これで天秤が秩序側に傾いたかな?

 

「あ、やっと帰ってきた! お疲れ~って……シルマリル? なんでそんな格好してるの?」

 

「近付いてはダメなのです。今から状況を説明するので、主だった面子を集めてくるのです。……惚けてないで早く動くのです!」

 

 いち早く一行を見付けたのは妖精弓手ちゃんでした。跳ねるような勢いで近付いてきましたが、女魔法使いちゃんに抱きかかえられたまま死んだように動かない吸血鬼侍ちゃんを見て表情が固まってしまいました。その尻を蹴とばす勢いで指示を出す賢者ちゃんの声で我に返り、慌てて他のメンバーを呼びに行ってくれました。

 

 

 

「……というわけで、現在非常に危険な状態なのです」

 

 知識神の神官さんの好意で貸切らせてもらった大型天幕(テント)の中、机の上に外套(クローク)をシーツがわりにして吸血鬼侍ちゃんが寝かされています。賢者ちゃんから吸血鬼侍ちゃんの正体と現在の状況、身体が痛んだ経緯を聞いた一同の顔は等しく暗いものに。浮かない顔ばかりの天幕(テント)を見渡した賢者ちゃんが、分身ちゃん……『吸血鬼侍ちゃん』へと歩み寄っています。

 

「あの子は、貴女に身体を返そうとしていたのです。それが本来の姿、自然な姿なのだと主張していたのです。ですが……」

 

「そうだね。それであのこがいなくなっちゃうのはぜったいにダメだし、なにより……」

 

 そこで言葉を区切った分身ちゃん。力無い笑みを浮かべながら、嘘偽りのない今の心情を吐露します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかあたらしいからだがてにはいっちゃったから、いまさらかえされても……こまる?」

 

 ですよね~。喜ぶべき事の筈なのに、なんとも喜び辛いタイミングで手に入った新しい身体。先に帰還した2組を見ていた無貌の神(N子)さんと万知神さん曰く、2人になっておめでとうパーティをするつもりで盛り上がっていたそうです。おお……もう……。

 

「まぁまぁご主人様、逆に考えるんだ。そっちの身体はあげちゃってもいいやって」

 

「上姉様、場を和ませる冗談にしては少々趣味が悪いと思います」

 

 森人狩人さんのジョークも上滑りしているこのなんとも言えないグダグダ空間。咳ばらいをした賢者ちゃんが気を取り直して今後の動きについて話し始めました。

 

「先程も話した通り、あの子の身体は罅の入った水瓶のようなものなのです。今は私が魔力を送り続けていますが、それが尽きれば消耗し続け、最後には存在すら危ぶまれてしまうのです」

 

「ええと、でしたらその罅を埋めてしまえばよろしいのでは? 幸いにも()()()頭目(リーダー)が潤沢に魔力を保有しておりますし……」

 

 おずおずと手を上げて発言する令嬢剣士さんの意見に首を振る賢者ちゃん。女魔法使いちゃんも同様なところを見ると既に検討したのでしょうね。どうしてですのという令嬢剣士さんの問いに憂いを隠しきれない様子で答えています。

 

「その方法では水瓶の表面を覆うだけで、内部の罅は残り続けてしまうのです。一見修復できたように見えても、いつまた割れてしまうか分からない状態が続くだけなのです……」

 

 あー、それは厳しいですね。日常生活を送るだけなら大丈夫かもしれませんが、冒険者として活動したり、先程の核エネルギーを体内に取り込んだりしたら今度こそ体全体が砕け散って……あれ? 吸血鬼侍ちゃんが熱を帯びたままってことは、もしかして現在進行形で内部から崩壊しかかっているということでは? お、同様の考えに達した剣の乙女が賢者ちゃんに聞いてますね。ああ、やっぱりこのまま放置していたら爆発四散しちゃうっぽいです。

 

「根本的な解決としては、そちらの子のように新しい身体を用意するのが最善の策なのです」

 

「んだども、新しい身体を用意するっつったってよぅ……」

 

 分身ちゃんのほうでさえ、様々な要因が重なった結果の奇跡みたいなものでしたからねぇ。途方もなさ過ぎてみんな困惑している様子……おや、今まで沈黙を保っていたゴブスレさんが寝ている吸血鬼侍ちゃんに近寄っていきましたね。軽銀と吸血鬼侍ちゃんの血で鍛えられた籠手でそっと吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でています。そのまま賢者ちゃんに向き直って……。

 

 

 

「わかった。何が必要だ? 直ぐに用意する。遠方にあるのなら取りに行かねばならんな」

 

 

 

 ……。

 

 え?

 

「え、あの、ゴブリンスレイヤーさん? それはどういう意味でしょうか?」

 

 それにもうすぐ手術の予定日じゃないですかと慌てた様子の女神官ちゃん。他の面々の中にも同様の意見の人がゴブスレさんを見つめていますが、それを意に介することもなくポツポツと語ります。

 

「……手術が不安でないと言えば嘘になる。だが、俺はただ頭を垂れて手術の無事を祈るよりも、成長した子供達に『友を救うためにお前たちの出産に立ち会えなくてすまん』と頭を下げられる父親でありたい。……駄目か?」

 

 それに、成功率を上げるなら1人より2人いたほうが良いだろうという残りの言葉は果たして皆の耳に届いたでしょうか?

 

 夫となり、そしてこれから父親になろうとする1人の男の心情。それを吐露するのにどれだけの勇気が必要なのか? 同じく父親になる重戦士さんと槍ニキも、ハッとした表情でゴブスレさんを見ています。

 

「……そうだな。どうせ出産の時に男が出来ることなんざたかが知れている。精々手を握ってやるくらいだろうが、それもアイツに握り潰されるだけかもしれん」

 

「まぁそうだな。父親になるんだったら、ガキに胸張って話せるカッコイイ武勇伝の一つくらい用意しとかなきゃいけねえよな?」

 

 ……んもう、どうしてお嫁さんの居ないときに限ってカッコつけるんですかねぇこの男どもは! 未来のパパたちの奮起を見て他の面々にの顔にも力が戻ってきました! さて、じゃあ現実的にどうするかというと……お、どうやら賢者ちゃんに腹案があるみたいですね! ちょっと聞いてみましょうか。

 

 

 

「みんな、感謝するのです。あの子の新しい身体を作る……正確には再構成するのに必要になるものがいくつかあるのです。ひとつは膨大な魔力。これは既にあるものを流用すれば良いのです」

 

 皆の視線の先にいるのは分身ちゃん。大きく頷いた後に、何かに気付いた様子で剣の乙女に顔を向けました。

 

「ごめんね? けんぞくにするのがちょっとおそくなっちゃう」

 

「フフ、良いんですよ? それで私の大好きなあの子が元気になってくれるのでしたら」

 

「ん、ありがと。それにみんなも……またまりょくをもらうようになっちゃうけど、いい……おあ~……」

 

 あ、おずおずと上目遣いで訪ねていた分身ちゃんの姿が一瞬にして消えました。犯人である森人狩人さんが煙の上がりそうな勢いで分身ちゃんに頬擦りをしています。可愛いなあ可愛いなあご主人様はと繰り返す彼女の頭に拳を叩き込みながら、令嬢剣士さんも了承を返してますね。

 

「……どうやら大丈夫そうなのです。ふたつめに肉体の損傷を埋め、存在強度を増すための素材。あの子の中で燃え盛る太陽を完全に抑え込めるだけの強靭さを生む呪物が必要なのです」

 

「そりゃまたえらく珍しいモンが必要だのう。まさか鋼を埋め込むワケにもいかんじゃろうし」

 

「あの、雪山の製錬場跡で主さまが見付けた軽銀などではダメなのでしょうか?」

 

 森人少女ちゃんの提案に首を横に振る賢者ちゃん。魔力の通りは他の金属に比べればマシみたいですが、鉄よりも融点が低いので今回は向かないみたいです。真銀は、いっそ黄金ではと意見が飛び交いますが、どれも相性がよろしくないみたいです。うーんあと思いつくものと言ったら……。

 

「思い出した! アレよアレ!! アレならバッチリじゃない?」

 

 おや? 妖精弓手ちゃんに心当たりがあるみたいですね。しきりにアレアレと繰り返してますけどそれじゃ誰もわかりませんよ。流石にエルフの森の木とかでは無さそうですけど、他に妖精弓手ちゃんが知ってそうなものってなんかありましたっけ? 頭の悪そうな発言を繰り返している2000歳児を窘めるように、眉間を押さえた女魔法使いちゃんが詳細を聞き出そうとしています。

 

「いや、アレって言われても……。せめて何処で見たのかくらいハッキリして頂戴?」

 

「何言ってるのよ? あんたも見てたじゃない、シルマリルが知識神の文庫(ふみくら)で弄って遊んでたの!」

 

「知識神の文庫(ふみくら)? ……あ」

 

 どうやら思い立つ節があったのか、信じられないと言った表情で妖精弓手を見る女魔法使いちゃん。ドヤ顔2000歳児はアレならバッチリでしょと成功を確信した表情で笑っています。確かにアレなら……と呟く女魔法使いちゃんを見る限り、的外れな代物では無いようですが……。心当たりがあるのですねという賢者ちゃんに頷きを返し、吸血鬼侍ちゃんを抱き上げながら女魔法使いちゃんが立ちあがりました。

 

「とりあえず司祭様に譲ってもらえないか聞いてみましょう。話はそれからよ」

 

 

 

「やぁ、今回は大活躍だった……おっと、どうやら込み入った話のようだね。お茶は出ないけど奥へどうぞ」

 

 お借りしていたものからほど近いところにある天幕(テント)、その入り口で他の神官と事後処理について話し合っていた傷あり司祭さんと半鬼人先生を見付けた一行。にこやかに挨拶を交わす間も無く女魔法使いちゃんが抱えた吸血鬼侍ちゃんを見て事情を察したのか、すぐに天幕(テント)の奥へと一行を案内する傷あり司祭さん。机の上に散乱していた書類を退かし、吸血鬼侍ちゃんを寝かせる場所を用意してくれました。席に座り『死の迷宮』での出来事を離した後、女魔法使いちゃんが本題を話し始めます。

 

「損傷が激しいこの子を救うには、新しく肉体を作り直さないといけません。そのための素材として、文庫(ふみくら)で保管されている()()()()を譲っていただきたいんです!」

 

 あー! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! そういえばそんなモノありましたね。良く言えばフレーバーアイテム、素直に言えばゴミだと思ってましたけど、まさかこんな使い道があるなんて……。金剛石(ダイヤモンド)より硬く、永久不変で決して錆びない金属。太陽の欠片ともいわれる赤く輝くアレならば吸血鬼侍ちゃんの身体を形成する素材にピッタリですね! 傷あり司祭さんと半鬼人先生、どちらも吸血鬼侍ちゃんには友好的に接してくれてますし、これはもう勝ったと言ってもいいでしょう!

 

「成程、事情はわかった。……今、彼女が酷く消耗していることもね」

 

 ……あれ、何か雲行きが怪しいような。

 

「それは、どういう意味でしょうか?」

 

 想定外の反応に対して、硬い表情で問いかける女魔法使いちゃん。無意識のうちに吸血鬼侍ちゃんを抱く腕に力が籠っているようですね……。その様子を見て、傷あり司祭さんも普段の柔和な(ペルソナ)とは違う、策謀家としての一面(キー)を表に出しているようです。

 

「迷宮内で奴らが語っていたことが事実なら、この国を脅かす吸血鬼の数は極僅か。僕たち牙狩りが半壊したあの件からこっち吸血鬼禍が起きていないのも確かな事だね」

 

「……何が言いたいのかしら? まさかこの子が吸血鬼禍を起こすとでも?」

 

 徐々に高まっていく剣呑な雰囲気。それを察知してか自分の得物に手を伸ばしかける者も出るほどの緊張感が天幕(テント)の中を支配しています。硬直した会話を爆発させたのもまた。傷あり司祭さんの言葉でした。

 

 

 

 

 

 

「いや、こう思っただけさ。弱り切った半死人(本体)とまだ完全に力が馴染んでいない吸血鬼(分身)。ここには頭目()を始め元牙狩りが集まっている。差し違える覚悟で挑めば、この地方から吸血鬼を根絶出来るんじゃないかってね」

 

 

 

 

 

 

 直後、天幕(テント)に響いたのは武器を抜き放つ音、驚きの声、そして数多の硬質なナニかが砕け散る破砕音です。

 

 

 

 傷あり司祭さんの周囲には砕けた氷柱が散乱し、無数の触手が全身を串刺しにせんと服に触れるギリギリのところで静止。一方で床面から伸びた真紅の十字架が、武器を抜きかけた西方辺境の冒険者たちを拘束しています。膠着状態に陥った場を収めたのは、呆れた様子で眉間を揉んでいる賢者ちゃんの声でした。

 

「……これで満足なのですか、文庫(ふみくら)の番人。もしこれ以上戯れを続けたいというのなら、我々も介入せざるを得ないのです」

 

「いや、十分だよ。どうやら2人とも、僕が思っていた以上に大事にされているようだからね」

 

 両手を上げて降参のポーズを取る傷あり司祭さん。同時に半鬼人先生が展開していた拘束も融けるように消え去り、天幕(テント)内に静寂が戻ってきました。大きな体をすまなそうに縮こませ、吸血鬼侍ちゃんを守る様に抱き締めていた女魔法使いちゃんに近付く巨体は半鬼人先生ですね。

 

「驚かせてしまってすまない……。だが、元牙狩りとしてどうしても確かめておかねばならなかったのだ。彼女たちが真に人間を友として見ているのか、人間から友として受け入れられているのかを」

 

 深々と頭を下げる半鬼人先生を何とも言えない表情で見つめる女魔法使いちゃん。恩師と想い人、どちらも大切に考えているが故の葛藤でしょうか。

 

「どうやら2人が人間に絶望することは無さそうだ。これなら安心してグハァ!?

 

 あ、胡散臭い笑みを取り戻した傷あり司祭さんが吹き飛んでいきました。僅かな助走距離から見事な飛び蹴りを決めた張本人は、肩で荒い息を吐きながらビシッと指を突き付け、傷あり司祭さんを睨みつけています。

 

 

 

「ハァ、ハァ……。馬っ鹿じゃないの? シルマリルがそんなコトするわけないし、万が一するような時は私たちが責任を持って殺してあげるの。その覚悟も無しに一緒にいると思われるのは侮辱以外の何物でもないわ」

 

 そこまで一気に言うと一呼吸し、天幕(テント)の外まで聞こえるような大きな声で、妖精弓手ちゃんは叫びます。

 

「アンタたちなんかに、シルマリルを終わらせる権利をやるもんか! それは私たちだけのものだ!!」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、さっさと譲渡を認めるのです。これ以上引き延ばして何か起きても責任はとれないのです」

 

「ああ、わかったよ。どうやら僕が思ってた以上に彼女は愛されていたようだね。……今すぐ向かうのかい?」

 

 ……ふぅ、どうやら傷あり司祭さんも認めてくれたみたいですね。一行にひたすら頭を下げている半鬼人先生がちょっと可哀そうになってきました。お互い立場というものがあるので仕方ないとは思いますけど、吸血鬼侍ちゃんの周りにいる女性はみんな重量級ですからねぇ……。

 

 さて、ただいま賢者ちゃんと傷あり司祭さんが知識神の文庫(ふみくら)への≪転移≫準備を進めているところですが……あーあー、妖精弓手ちゃんがみんなからからかわれています。恋する2000歳児の周囲をNDKしながら回る森人狩人さんと鉱人道士さん、必死にフォローをいれようとして逆効果になっている森人少女ちゃん、それを見て笑い声を上げているのは蜥蜴僧侶さんと剣の乙女ですね。だれも怖くて指摘していませんでしたけど、傷あり司祭さんに≪聖撃(ホーリー・スマイト)≫をぶちかまそうとしていたのは秘密です。あ、至高神さんが先んじてこっそり決定的成功(クリティカル)にしてたのも内緒ですよ?

 

 

 

「ふふ、これで何とかなりそうですわね」

 

「うーん、これを何とかなったと言うのはちょっと心苦しいけど……」

 

 まだ休眠状態の吸血鬼侍ちゃんを抱っこしている女魔法使いちゃんの隣に、分身ちゃんを抱えた令嬢剣士さんがやって来ました。まるで子持ちの母親のような互いの姿に苦笑し、それぞれ抱き締めている想い人の頭を優しく撫ででいます。優しい目で分身ちゃんを撫でていた令嬢剣士さんが、ふと思いついた様子で分身ちゃんに問いかけました。

 

「あの、これからのおふたりの関係はどうなりますの? どちらかが本体でもう片方が分身というわけでは無さそうですし」

 

 柔らかな手の感触に気持ちよさそうに目を瞑っていた分身ちゃん、器用に腕の中で向きを変え、正面から抱き着くような姿勢になって答えています。

 

「ん~とね、やってみないとわからない。でも、きっといまとおなじ、ううん、いまよりもずっとすてきなかんけいになるとおもう!」

 

「あー、前にゴブリンスレイヤーのお嫁さんが誤解してた姉妹。もしかしたら本当にそんな関係になるのかしらね」

 

「……呼んだか?」

 

 不意に後ろから聞こえた声に驚き、慌てて保護者2人が振り向いた先。ゴブスレさん(角無し兜)聖騎士さん(バケツ兜)、2人を先導するように歩く太陽神さん(わんこ)の姿がありました。令嬢剣士さんの腕の中から抜け出た分身ちゃんが、とぼけた顔をしている狼に抱き着き頬擦りしています。

 

「ありがとう、あのこ(ぼく)をまもってくれて。ありがとう、あのこ(ぼく)をみちびいてくれて」

 

「……ワン!」

 

 気にするなと言わんばかりに分身ちゃんを押し倒し、顔中を舐める太陽神さん(わんこ)。戯れる1人と1()の姿にみんなの顔も緩んでいます。あ、万知神さんが凄い顔で見てるのでそのへんにしておいたほうが良いですよ太陽神さん。

 

「しかし貴公、先程の言葉、心に染み入るようであった! 俺も何時かはあのような言葉が似合う父親になりたいものだ! 相手は未だ見つかっておらんがな!!」

 

「…………」

 

 聖騎士さんの称賛に無言を貫くゴブスレさん。あれ絶対照れてますね。わかりやすい反応を見て、また笑顔の輪が広がっていきます。

 

 おっと、賢者ちゃんがみんなを呼んでます。どうやら≪転移≫の準備が出来たみたいですね。

 

 さて、眠り姫になってしまった吸血鬼侍ちゃん。やっと自分というものを手に入れるチャンスが巡ってきたんです。みんなも協力してくれているんですから、ちゃんと寝坊せずに起きなきゃダメですからね?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 コノシュンカンヲマッテイタので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。本当に自分では気づかないので有難い限りです。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。
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