ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 中の人の崩壊が激しいので初投稿です。


セッションその12-5

 うぷ……いくら好きだからって流石にあの量のドーナツは無理ですって成功神(エルヴィス)さん……。

 

 オオサカでも食べ過ぎで化身(アバター)を何度もダメにしてるっていうのに、まったく懲りないんですから……っと。

 

 おや正道(ルタ)神さん、珍しいですね。ダブル吸血鬼ちゃん卓はRTAじゃないから興味ないものとばかり。

 

 ほう、同じ盤面で王国繁栄RTAを走っている信徒のストレスがマッハだから、息抜きをさせてあげたいと。

 

 なるほどなるほど、ではこんな≪託宣(ハンドアウト)≫を送ってみては如何ですか? きっと喜んでくれると思いますよ!

 

「――オリチャーはわるいぶんめい――」 正道神さんの残したチャートより抜粋

 

 


 

 

 前回、吸血鬼君主ちゃんが歌姫デビューしたところから再開です(嘘)。

 

 日付は進み現在2日目の夜、一党(パーティ)の拠点たる自宅のリビングには明日の朝女騎士さんと来る予定の白兎猟兵ちゃんと吸血鬼君主ちゃん以外の面子が勢ぞろい。庭先で吸血鬼侍ちゃんに礼儀作法を叩き込んでいた令嬢剣士さん親子と森人少女ちゃんが作ったおゆはんを頂いているみたいです。

 

「おじぎを……おじぎをするのだ……」

 

 吸血鬼侍ちゃんの目がゲッ〇ー線を浴び過ぎたようにグルグルになっていますが、ただちに影響は無いでしょう。きっと。

 

 美味しくおゆはんを頂いた後は、それぞれが調べてきた情報の報告と精査に取り掛かった一行。森人少女ちゃんの淹れてくれたお茶を相棒に顔を突き合わせていましたが……。

 

 

 

「いやぁ、想像以上にどうしようもない連中みたいだね。火打石団ってのは」

 

 やれやれと肩を竦める森人狩人さんの言葉に全てが集約していると言って良いでしょう。あまりのやらかし具合に「同じ貴族として本当に申し訳ありませんわ……」と半森人夫人さんが青い顔になっちゃってます。

 

 

 

「商隊の護衛に無理矢理同行して護衛料を集る、臨検と称して商品を掠めとる、酷い時は破落戸とグルになって荷を奪おうとすることもあったらしい。王都から冒険者が逃げてくるわけだよ」

 

「その方々はまだマシですね。至高神の神殿で裁きを待っている連中は実際に何度も商隊を『消して』いたようですので。貴族連中に無理矢理脅されていた、俺たちは被害者だと主張していましたけれど、新任の大司教猊下(元見習い聖女ちゃん)の目を誤魔化すことは出来ませんでしたわ」

 

 森人狩人さんを補足するように、省エネモードの剣の乙女ちゃんが冒険者の屑(福本モブ)たちの余罪を暴露してますけども……あいつら本っ当に碌な事しませんねぇ。

 

 

 

「学院も似たようなモンね。金の力で卒業した馬鹿息子(アホボン)どもが我が物顔でやってきては、家名をチラつかせて優秀な生徒を引き抜こうとしてたみたい。上層部は門閥貴族とズブズブだから今まで多少は大目に見てたみたいだけど、最近は露骨に圧力を掛けて来てたらしいの」

 

「住人に対する横暴っぷりは最悪、ヘルルインから聞いた太陽神の神殿みたいな騒ぎがそこかしこで起きてるわ。よりにもよって地母神に仕える娘を手籠めにしようとした時に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて言ったらしいし」

 

 わーお。地母神の神殿がゴブリンの被害に遭った女性が心身の傷を癒し、暮らしていく場所であることは誰もが知っている事実なのにその言い様、全方面に喧嘩を売ってるとしか思えません。そういった蔑視を払拭するために、寄生虫の駆除や母体の受胎機能回復方法を確立しようとみんなで頑張っているのに……。

 

「偶々研修に来てて現場に居合わせた辺境(こっち)の神殿の娘が割って入った時にも、『ゴブリンの娘が邪魔立てするか!』って吐き捨てたんだって。……ああ、そいつらは全員あのおっかない女(聖人尼僧)が半殺しにしたって本人が言ってたから、そんなに殺気立つんじゃないわよヘルルイン」

 

 ああ、葡萄尼僧さんは王都に行ってたんですか。後輩である女神官ちゃんが出世の道を三段跳びに駆け上がってますので、尼僧さんもその補佐をするための勉強かもしれませんね……って、妖精弓手ちゃんの言葉通り吸血鬼侍ちゃんが激おこ状態に!

 

 攻撃色に染まった瞳を輝かせ牙をガチガチと鳴らしているのを見た森人狩人さんが後ろから抱きしめ、そっと手で眼前を覆いながら落ち着かせようとしています。

 

「その怒りは明日に取って置きたまえよご主人様。腸が煮えくり返っているのは私たちも同じだからね」

 

「……ん、ありがとう。もうだいじょうぶ」

 

 両目を覆っていた森人狩人さんの手を取り、そっと口付けをする吸血鬼侍ちゃん。森人狩人さんのおなかに顔を埋めるように抱きつき、くぐもった声でみんなに話します。

 

「ぼくもあのこも、みんなのことを『けがれたおんな』だなんておもったことないよ。みんなとってもきれいで、かわいくて、せんさいな、ぼくたちのたいせつなかぞく!」

 

 だから、明日はあいつらをわからせてやると静かに告げる吸血鬼侍ちゃんを見て頷く一同。王都に蔓延している病巣を一息に切除する絶好の機会です! 全力で相手してやりましょう!!

 

 

 

「そういえばヘルルイン、今日シルマリルを見かけたかしら?」

 

「んと、ひるすぎにかえってきてそのまま≪てんい≫のかがみでおうとにいったよ。あしたはちょくせつかいじょうにくるっていってた」

 

「ふーん。……ねぇ、今シルマリルが何してるのかって、わかったりする?」

 

「ん、ちょっとどうちょうしてみる」

 

 おっと、妖精弓手ちゃんのお願いに応えて吸血鬼侍ちゃんが目を瞑って脳内通信を試みてますね。吸血鬼君主ちゃんの動向は太陽神さんが見守っているのでちょっと映像を回してもらい……ん? どうしました太陽神さん、そんな真っ赤な顔になって……って、吸血鬼侍ちゃんの顔もみるみる赤く染まっていってます! ちょっと回線を繋げてみましょう!!

 

 

 

 

 

 

「へぇ、これが話しに聞いていた霊薬かい? 思っていたほど不味くはなさそうだね」

 

「ん、りんしょうしけんがおわったあとのかいりょうひんだから、そのあたりもばっちり」

 

 むむむ、映像が乱れて音声しか届いていませんが……これは吸血鬼君主ちゃんと女将軍さんの声ですね。どうやら豊穣の霊薬の話をしているようですが……。

 

「ちゃんとみんなおまつりにもさそったし、あしたになったらあえるからね!」

 

「そうだな、おちびちゃんはしっかりと約束を果たしてくれたよ。……さて、依頼料の残りはあとひとつだ。最後までキッチリ付き合って貰うよ?」

 

 ほほう、吸血鬼君主ちゃんが蜥蜴僧侶さんと重戦士さん一家に声をかけていたのは、決闘のお膳立てを女将軍さんにお願いするときの依頼料だったんですか。話を聞く限り豊穣の霊薬もその一部みたいですね。んで、これから残りの支払いをするっぽいですけが……おや、何やら布が擦れるような音が。同時に寝台(ベッド)が軋む音も響いてきましたけど……え、まさか。

 

「だいじょうぶ、ぼくにまかせて。さぁ、ちからをぬいてぼくにぜんぶをゆだねて……こころも、からだも……ね?」

 

「ああ、わかった。……フフッ、忘れられない夜になりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 こ れ は い け ま せ ん 。

 

 同時通訳を行っていた吸血鬼侍ちゃんの顔色が赤と青を往復して面白いことになってますが、それ以上に女性陣が怖い! 能面の如き無表情の女魔法使いちゃんにレイテルパラッシュをガシャガシャ変形させ続ける剣の乙女ちゃん、虚ろな笑い声を上げていた妖精弓手ちゃんがポツリと呟きました。

 

「これは、シルマリルとしっかり()()()しないといけないわね……」

 

 吸血鬼君主ちゃん、どうして……?

 

 


 

 

「ヤベェ、滅茶苦茶緊張してきやがった……まだ来てないよな?」

 

「まったく、何をそんなに怯えている。父親として恥ずかしくないのか!」

 

 はい、吸血鬼君主ちゃん疑惑の夜が明けて決闘当日、早朝一党(パーティ)の拠点にやって来た重戦士さん一家と白兎猟兵ちゃんと合流し、現在時刻はお昼前。貴族の誇りを賭けた決闘(火打石団最後の日)を一目見ようと練兵場にはたくさんの人が集まっています。おなかを押さえながら辺りを見渡す重戦士さんの頭を女騎士さんが引っ叩き、その光景を娘さんが不思議そうに眺めていますね。

 

「では頭目(リーダー)、此度の決闘で守らねばならない事とは?」

 

「きゅうけつきのちからはつかっちゃだめ、とんだりはねたりしてかわすのもだめ、あいてのどひょうにたってむじひにじゅうりんする!」

 

「素晴らしい、頭を撫でてあげましょう」

 

「わ~い!」

 

 関係者席扱いの最前列に一行は集まり、吸血鬼侍ちゃんが令嬢剣士さん親子と一緒に最後の確認を行っているようです。赤ちゃんへの負担を考慮し残念ながらお留守番となった森人少女ちゃんでしたが、彼女の分までと言わんばかりに頭を撫でる半森人夫人さんに吸血鬼侍ちゃんもご満悦。やる気ゲージは満タンですね!

 

「フム、どうやら君主殿たちはまだ来ていない様子。出番に間に合えば良いのですが」

 

「まぁアイツの出番は決闘の後だし、放っておきましょ」

 

 一行でいちばん高い視点から会場を眺めている蜥蜴僧侶さんですが、やはりまだ吸血鬼君主ちゃんは来ていないみたいです。一般観客席にはこちらに向かってにこやかに手を振っている聖人尼僧さんと、その隣で無表情を貫いている蟲人英雄さんの姿が見えますね。まぁ女魔法使いちゃんの言う通り、決闘が終わるまで吸血鬼君主ちゃんの出番は無いのですが……。

 

 

 

「まぁまぁ、それよりも向こうを見てみると良い。どうやら彼らもやる気みたいだね」

 

「うっわ、ボンボンばかりとは聞いてたけど結構良い装備してるじゃない」

 

 森人狩人さんの示す先、ちょうど一行の反対側の席に放蕩貴族(アホボン)をはじめとする火打石団の連中が集まっていますね。妖精弓手ちゃんが呆れているように全員当世具足(フリューテッドアーマー)で身を固め、威圧感のある炎紋剣(フランベルジュ)片手半剣(バスタードソード)を手に持っています。盾を持たないのは鎧の防護に自信があるのとより剣の威力を高めるためでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「――それでは、両家の代表は前に!」

 

 声を張り上げる立会人。今回貧乏くじを引かされたのは最近良いとこなしだった交易神の神殿長さんですね。地母神と太陽神は連中と揉めてる当事者ですし、至高神の神殿は恣意的な判定を下すのではないかと火打石団がゴネたために選外。他の神殿も貴族間の諍いに首を突っ込みたくないとエンガチョしたために泣く泣く引き受けたっぽいです。『赤い手』の騒動の時に足を引っ張った前科がありますし、多少はね?

 

頭目(リーダー)、我が家の誇りと私の想い、貴女に託しますわ」

 

 ふてぶてしい笑みを浮かべて進み出る放蕩貴族(アホボン)を見て、吸血鬼侍ちゃんと頷き合う令嬢剣士さん。家宝である軽銀の双剣の短いほうを抜き、鞘ごと吸血鬼侍ちゃんへと手渡しています。なるほど、決闘代理人(チャンピオン)らしく自前の村正や暗月の剣(サタンサーベル)ではなく彼女の愛剣を使うんですね! 只人(ヒューム)の短剣は圃人(レーア)としても小さめの吸血鬼侍ちゃんにとっては長剣(ロングソード)サイズ、決闘には相応しいものでしょう。

 

「どうやら逃げ出さずに来たようだな地べた摺り(ロードランナー)孺子(こぞう)。今ならすべての剣を捨てて這いつくばれば命乞いを聞いてやらなくもないぞ?」

 

 会場中央に進み出て来た吸血鬼侍ちゃんに侮蔑の表情をむける放蕩貴族(アホボン)。完全に吸血鬼侍ちゃんを下に見ています。令嬢剣士さん宅でのいざこざの時には気にしてませんでしたけど、並んでみると意外と良い体格をしてますね。重戦士さんほどの大きさではありませんが、だんびらを持った立ち姿は重心がブレず、貴族らしい堂々とした佇まいです。

 

「惨めに慈悲を乞う貴様の姿を見れば、彼女も真の愛に目覚めることだろう。冒険者如き下賤な連中とは違う、我ら高貴なる者の伴侶として彼女は生まれ変わるのだ!」

 

 どこか陶然とした様子で薔薇色の未来を思い浮かべる放蕩貴族(アホボン)。彼の中では吸血鬼侍ちゃんは単なる路傍の石でしかないようです。立会人である交易神の神殿長さんですら顔を顰めるような妄言を垂れ流す放蕩貴族(アホボン)を黙って見ていた吸血鬼侍ちゃん、彼の言葉が途切れた瞬間に先制の一撃を与えます。

 

 

 

「あんまりつよいことばはつかわないほうがいい」

 

「……何?」

 

「よわくみえるよ? ()()()()()()()()()()

 

 わーお、素晴らしい切れ味。一瞬にして放蕩貴族(アホボン)の顔は憤怒と羞恥によって真っ赤に染まり、立会人の静止が無ければそのまま斬りかかりそうな剣幕になりました。背後では令嬢剣士さん親子がグッとサムズアップ、()()の仕込みが上手くいってニッコリしています。

 

「貴様、貴族たる私を愚弄するかッ! おい、早く開始の合図を出せ!!」

 

 慌てて決闘の開始を告げる立会人を押し退けるように迫り、大上段に振りかぶっただんびらを吸血鬼侍ちゃんへと叩きつける放蕩貴族(アホボン)。その太刀筋を見た重戦士さんの口から感嘆の声が上がるのを長耳で捉えた妖精弓手ちゃんが説明を求める視線を向けています。

 

「見掛け倒しかと思っていたが、予想以上に鍛えてるな。剣の重さに身体が引っ張られちゃいねぇ」

 

「なによ、ただのボンボンじゃないっての?」

 

「いや、()()()()()()()()()()()()()。日々の暮らしのために汗水垂らすことなく、只管棒振りに集中出来る恵まれた立場でなきゃ戦場に出る駒は作れねぇ」

 

 ああ成程。庶民が労働に消費する時間を鍛錬に費やすことが出来る貴族ならではの力というわけですね。家督を引き継ぐ長男とは違い、戦場で武勲でも立てなければずっと冷や飯喰いの予備(スペア)でしかない次男三男。必死になって力を求めるでしょうね。

 

「どうした孺子(こぞう)、無様に逃げ回るだけか!」

 

 苛烈に攻め立てる放蕩貴族(アホボン)に言葉を返すこともなく、だんびらの連撃を捌き続ける吸血鬼侍ちゃん。振り下ろしは短剣を刀身に沿わせることで逸らし、横薙ぎの一撃は後退して躱しています。余程持久力(スタミナ)に自信があるのか、放蕩貴族(アホボン)の攻撃速度が落ちる兆候は見られません。

 

「ねぇ、いくら普段の戦い方が出来ないからって、あのままじゃちょっと不味くない?」

 

 防戦一方に見える戦いに思わず不安げな声を上げる妖精弓手ちゃん。観客たちも一方的な展開に溜息を洩らし、盛り上がっているのは火打石団の連中ばかり。思わず他の一行の顔を見渡す妖精弓手ちゃんですが……。

 

 

 

「フム、勝ちましたな」

 

「そうだね、ご主人様の勝ちだ」

 

「まったく、もう少し骨があると期待していたのだがなぁ……」

 

 

 

「……あ、あれ?」

 

 接近戦に覚えのある面子の勝ち確宣言に困惑する妖精弓手ちゃん。女騎士さんに至っては相手の不甲斐なさに半ばキレかかっているほどです。勝利の根拠が見えてこない妖精弓手ちゃんに対し、娘さんをあやしながら重戦士さんが説明してくれたのは……。

 

 

 

「確かに相手の剣は重いし早い。だが、ありゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。抵抗出来ない者ばかり相手にしていたせいで考えが凝り固まっちまってる。あれじゃチビ助には届かねぇよ」

 

 

 

「クソ、ちょこまかと目障りなガキが……っ!」

 

 重戦士さんの指摘の後、会場にどよめきが沸き立ち始めました。一方的に攻めていた筈の放蕩貴族(アホボン)の顔に焦りの色が見え、対照的に吸血鬼侍ちゃんに浮かぶのは冷めた表情です。

 

 最初に剣で逸らしていた振り下ろしも紙一重で避け、薙ぎ払いはまさかの前進し間合いの中へ飛び込んで躱す煽りプレイ。背後の取り巻きたちがざわつき始めたのを感じ取り、放蕩貴族(アホボン)が声を張り上げました。

 

「決闘の作法を弁えぬ地べた摺り(ロードランナー)め、騎士らしく正々堂々と戦え!!」

 

「……べつにいいけど、こうかいするよ?」

 

 ステップを止めて剣を構えた吸血鬼侍ちゃんを見て頬を歪める放蕩貴族(アホボン)。ジリジリと近付き、吸血鬼侍ちゃんの間合いの外で大上段に剣を構えました! 剣の重さと膂力、吸血鬼侍ちゃんの何倍もあるソレを十二分に乗せた一撃がその身体を粉砕せんと迫り……。

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……!?」

 

 渾身の一撃を受け止められ、驚愕の表情を浮かべる放蕩貴族(アホボン)鍔迫り合い(バインド)に持ち込まれた段階で彼にとっては屈辱でしょうが、それだけでは終わりません。短剣をいなそうと体重を掛けて押し込みますが吸血鬼侍ちゃんは微動だにせず、逆に吸血鬼侍ちゃんの手首のまわしによって剣がずらされています。

 

 大剣(グレートソード)、しかも両手で握ったソレを片手持ちの短剣によってまわされるという悪夢。体軸の左右にはみ出るだんびらに振り回されて無様な踊り(ダンス)を披露する放蕩貴族(アホボン)の醜態を見て、会場に歓声が飛び交っています。つまらなそうに剣をまわしつづける吸血鬼侍ちゃんの顔を見て、放蕩貴族(アホボン)の口から断続的に悲鳴が漏れ始めました。やがて2人のダンスも終わりの時間を迎え……。

 

 

 

「ヒッ、畜生!? 何だ、何なのだオマエは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な ん だ と お も う ?」

 

 

 

 

 

 

 鍔元で砕かれただんびらの柄を握ったまま呆然と立ち尽くす放蕩貴族(アホボン)と、陽光を反射して輝く刀身を天高く掲げた吸血鬼侍ちゃん。どちらが勝者なのかは一目瞭然です。決闘の終わりを告げる立会人の声の後、会場は爆発するような歓声によって埋め尽くされました。

 

 

 

「ヒューッ! さっすがヘルルイン……って何よ2人とも、もう勝負はついたでしょ?」

 

「まぁ、こっちはそう思ってもあちらさんは違うみてぇだからなぁ」

 

「左様、戦の余韻に水を差す無粋な輩が居ります故」

 

 吸血鬼侍ちゃんに駆け寄ろうとしたところで蜥蜴僧侶さんに首根っこを引っ掴まれた妖精弓手ちゃん。ガルルルと唸りながら振り返りましたが、完全装備の男子2人を見てキョトンとした顔になっています。それと時を同じくして対面の火打石団の連中が得物を構え、ワナワナと俯いて震えていた放蕩貴族(アホボン)が、後ろ腰に差していた小型の鎧貫き(エストック)を歓声に応えて手を振っていた吸血鬼侍ちゃんの背中に突き立てました!

 

「……そっちのりゅうぎにつきあってあげたのに、ずいぶんなことをするね?」

 

「黙れ孺子(こぞう)! 貴様のような塵芥(ゴミ)が我々貴族に勝つことなどあってはならない! こんな勝負は無効(ノーカン)だ!!」

 

 うーんこのハンチョウ理論。あまりの傍若無人っぷりに毒気を抜かれたような吸血鬼侍ちゃん。腹部から鎧貫きの切先を覗かせたままこの会場で一番不幸な立会人である交易神の神殿長さんに退避を促しています。脱兎の如き勢いで観客席に逃げる彼と入れ替わるように、火打石団の連中が「ノーカン! ノーカン!!」と声を上げながら会場の中心へと歩を進めています。

 

頭目(リーダー)しっかり、傷は浅いです。……まさか此処まで愚か者の集まりでしたとは。とことん見下げ果てましたわ」

 

 重傷の(ふりをしている)吸血鬼侍ちゃんを抱え上げた令嬢剣士さんが絶対零度の視線を向ける先、焦点の合わぬ目で見つめ返す放蕩貴族(アホボン)が血濡れの鎧貫きを手に哄笑しています。脱ぎ捨てた兜の下に見える首元に光るのは天秤と剣を象った聖印(シンボル)。しかし秤の上には()()()()()()()()()、天秤の体を為していません。

 

 

 ま た 死 灰 神(アイツ) か 。

 

 

 

「我が愛を貫くための正義の道を邪魔するというのなら、婚約者の貴女とて容赦しませんぞ!」

 

 おっと失礼しました。完全に己が正義を信じた瞳で令嬢剣士さんを睨みつけ、取り巻きから受け取った長剣(ロングソード)の切先を突き付ける放蕩貴族(アホボン)……いえ、死灰神の信徒。何のために決闘を行ったのかさえ彼の脳裏には残っていないようです。

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えているのとは反対の手で栄纏神の聖印(シンボル)をギュッと握りしめた令嬢剣士さん。裁きの魔剣(アヴェンジャー)を召喚しようとした彼女を制したのはクスクスと笑う吸血鬼侍ちゃんです。

 

「そのまけんはせんゆうをたすけ、むこのたみをまもるりっぱなちから。あんなヤツをおしおきするのにつかうのはもったいないよ。それにほら……!」

 

 吸血鬼侍ちゃんの指差す先、練兵場の監視塔の上には複数の人影が! 逆光になって良く見えませんが、何やら腕組をしてポーズを決めているみたいですね。観客たちも気付いたようであちこちで声が上がっています。

 

「なんだあの人影は!?」

 

「鳥か!? 魔神か!? 羽ばたき飛行機械(オーニソプター)か!?」

 

「いや違う、あれは……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「――待たせたな諸君、私が来た!!」

 

 

 

 金剛石の騎士(K・O・D)のエントリーだ!!

 

 

 

「んな!? まさか実家から持ち出したのですか、姉上!!」

 

 見事なヒーロー着地を魅せた彼の後ろに続けて着地する2人の人物。その片方を見た女騎士さんの口から驚きの声が飛び出しました。彼女の見つめる先、土煙の中から立ち上がったのは、金髪の陛下……ゲフンゲフン、金剛石の騎士に比肩するほどの雄姿です。

 

 

 

 陽光を浴びて輝くは完全なる黄金の鎧

 

 見る者を圧倒する優美な頭飾りに、張り出した肩部装甲

 

 両腰に太刀を佩き、ヒールの高い脚甲で立つ姿はまさに美の極致

 

 何時の頃から始まったのか、それは定かではあらねども

 

 その姿を見たものは、誰もが思わず彼の冒険者の宿と同じ名で呼ぶという

 

 ――即ち、黄金の騎士(ナイトオブゴールド)

 

 

 

「ちょっとなにあの黄金の鎧? これだけ離れてるのに総毛立つほどの魔力を感じるんだけど」

 

「ええ。ですが、とても暖かいものを感じます……」

 

「確かに。拙僧も何やら身体の調子が良くなった気がしますな」

 

「はい! 妹様と似た太陽(アマテラス)の力を感じます!!」

 

 自分の身体を抱き締め、震えるように縮こまる女魔法使いちゃん。対照的に陶然とした顔を向けているのは剣の乙女ちゃんです。不思議そうに腕を回す蜥蜴僧侶さんを見て苦笑交じりに女騎士さんが口を開きました。

 

「アレは我が家に伝わる魔法の鎧なんだ。代々の当主が身に纏い、突き従う兵の先頭に立ち戦場(いくさば)へ赴く時の戦装束。姉上が継承権を放棄したために、いずれ私が引き継がねばならんのかと思っていたんだがなぁ……」

 

「その言い方だと、受け継ぐのは乗り気じゃなかったみてぇだな?」

 

「当たり前だ。私は当主なんて柄じゃないし、そもそもあの鎧は冒険ではなく戦争において最も輝くモノ。私が受け継いだところで十中八九蔵の肥やしになっていただろうさ」

 

 姉上が引き取ってくれてむしろ有難いと笑う女騎士さん。たしかに、冒険で使うにはあんまりにもきんきらきんですもんねぇ。

 

「しっかし、姉上め嘘をついていたのか。()()()()()()あの鎧は纏えないと言ってたのに……」

 

 

 

 ……あ、そういうことか吸血鬼君主ちゃん!

 

 

 

 

 

 

「どう、いたいところとかない?」

 

「ああ、あれだけ重かった身体がまるで嘘のようだ。二十は若返った気分だよ」

 

「それじゃあいもうとよりもとししたに……おあ~……」

 

 失礼なことを言うのはこの口かな?とほっぺを引っ張られている吸血鬼君主ちゃん、陛下金剛石の騎士に肩車してもらいご機嫌なようですね。頭上ではしゃぐ吸血鬼君主ちゃんをそのままに金剛石の騎士は火打石団を睥睨し、練兵場全体に響く朗々とした声で彼らの罪を告発します。

 

「貴族という臣民に支えられて生きる身でありながら、それを理解しようとせず民を苦しめる所業、決して許されるモノでは無い。痛い目を見る前に神妙に縛に就くことをお勧めしよう」

 

 聞く者の心を掴んで離さぬ天性のカリスマ。聴衆を聞きほれさせる筈のそれはあまり効果を発揮していません。観客のざわめきは広がり続け、告発された側の火打石団ですら困惑の色を隠せていない様子。やれやれ、どうやら話しても無駄なようだと金剛石の騎士が肩を竦めていますけど、原因はそこじゃないんだよなぁ……。

 

 

 

「ふ、巫山戯るな!? 一体なんの真似だ! 我々を馬鹿にしているのか!?」

 

 死灰神の信徒(アホボン)が震える指を向ける先、そこには飛び降りて来た3人目の姿がありました。

 

 豚のような被り物に裸の上半身、妙にピチピチな紫色のタイツにしか見えない全身布鎧(着ぐるみ)。腰に差した湾刀(イースタンサーベル)に刃は無く、虚ろな瞳は左右非対称な大きさで、指を突き付けて来た者たちを不思議そうに眺めています。

 

 

 

「申し訳ありません。私には止めることが出来ませんでした……」

 

「普段から彼には苦労をかけっぱなしだからね。偶にはストレスを発散する機会を用意してあげようじゃないか」

 

 何時の間にやら一行に合流していた赤毛の枢機卿が胃の辺りをおさえながら呻き、その隣では銀髪侍女さんがスキットルの(ウォトカ)を呑みながら、達観したように目の前に誕生したトンチキ空間を眺めています。

 

「ええと、騎士のお二人は何となく想像がつくのですが、あの良く判らない全身布鎧(着ぐるみ)を纏っていらっしゃるのは……」

 

「君のような勘の良い女の子は大好きだよ」

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えてなんとか撤退してきた令嬢剣士さん。頬をヒクつかせながらの質問を銀髪侍女さんがはぐらかしていますけど、それ答え言ってるようなモンじゃないですかヤダー!?

 

 硬直した空間を打破すべく一歩進み出た謎の全身布鎧(着ぐるみ)が、その場にいる全員の視線を受けながら言い放つのは……。

 

 

 

 

 

 

私は常に正しき道を歩む者の味方だ(CV:塩沢〇人)

 

 

 

 良い声と名言が合わさって全て台無しですってば正道(ルタ)神さん……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 次こそはクライマックスフェイズなので失踪します。

 お気に入りや評価、感想がとても励みになっております。

 原作との乖離が激しくなってまいりましたが、ご容赦頂ければ幸いです。

 今回もお読みいただきありがとうございました。
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