私は所詮、代理人に過ぎない   作:Dr.クロイツ

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 ようやく四話目を投稿しました。ただでさえ遅いのに、更に投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。忙しかっただけでなく、書くのにも結構苦戦してました。
 しかも長くなりそうだから前編と後編に分割したのに、結局後編だけでもかなり長くなってしまいました。読み辛かったり、キャラの口調に違和感があったらごめんなさい。

そういえば今更ですけど、危機契約お疲れ様でした。やっぱり難しかったですね。皆さんは等級いくつまでいけましたか?私は初心者の赤ちゃんドクターなので、16等級までしかいけませんでした。悔しいです。はい。


たかが訓練、されど訓練:後編

「おはようございます、ノーリ教官! 本日はご指導ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願いします!」

 

「あっ! ノーリさんだ! おはようございます!」

 

「ノーリさん、おはようございますぅ! 今日はよろしくお願いしますね!」

 

 解錠された扉が開くと、そこには行動予備隊A1の子達が集合──いや待て。フェンとビーグルとハイビスカスの三人しかいないではないか。クルースとラヴァはどこに行ったんだ? ひとまず武器を壁際に立て掛けておこう。

 

「おはよう、三人とも元気そうだね。武器は持ってきたから、各自必要なものを持ってくれ。では早速本日の訓練を開始──したいところだけど見てわかるように、欠員が二名生じている。クルースとラヴァだ。その二人がどうしたのか、わかる人いる?」

 

 私がそう言うと、三人ともバツが悪そうな顔をする。まずはフェンが手を挙げた。

 

「クルースは、恐らく部屋でまだ寝てると思います……。無理矢理にでも起こしてくるべきでした。ノーリ教官にご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません……」

 

 次いでビーグルも手を挙げた。

 

「あの、実は私がクルースちゃんを七時に起こそうとしたんですけど、その時は部屋の中から返事もあったから大丈夫って思ってそのままにしちゃったんです……。ごめんなさい……」

 

「いや……フェンとビーグルが謝る必要はないよ。まぁ、ある程度予想できていたことだ。……じゃあ、ラヴァのことは誰かわかる?」

 

 次に手を挙げたのは、ラヴァの双子の姉であるハイビスカスだ。

 

「ラヴァちゃんは、またどこかの空き部屋でサボってるんだと思います。大体の場所はわかるので、よろしければ私が連れてきましょうか?」

 

「これも、大体予想はできていたことだな……。じゃあ悪いけど、ハイビスはラヴァを連れて来てくれ。フェンとビーグルはクルースを連れて来るように。訓練開始は、全員が揃ってからにしよう」

 

「「「はい!」」」

 

「うん、良い返事だ。三人とも、多少手荒になってもいいから、引きずってでも連れて来るんだ」

 

 私がそう言うと、三人は直ぐに訓練室を出ていき、二名のサボり魔を探しに行った。全く、クルースとラヴァは相変わらずだな……。もしかしてドーベルマン教官が担当の日も同じようにサボっているのだろうか? 私だったらそんなことは怖くて出来ない。

 

 それにしても、彼女等が戻ってくるまで暇なので、備品が足りているかや武器の整備状況などを点検しておくことにしよう。たとえ訓練といえども、些細なことで大事を引き起こすこともある。油断は禁物だ。

 さて、先ずは各種備品の点検からだな。ちゃんと数が足りているか確かめないと──

 

 

 

 

 

「遅いな……」

 

 点検は終わったが、一向にフェン達は戻って来ない。フェン達がクルースとラヴァを連れて来るために訓練室を出て行ってから10分以上は経っているが、手間取っているのだろうか。

 既に予定の訓練開始時刻を過ぎてしまっているため、急かすのは申し訳ないが早く来てほしいところだ。

 

 

 

 

 

 ……もう八時二十分になる。まだ来ない。そんなに手間取っているのだろうか。フェンとビーグルの話によればクルースは部屋にいるようだし、ハイビスもラヴァの居場所をある程度はわかっているようだった。

 だがここまで遅いということは、何かイレギュラーな事態でも発生したということだろうか。何かあったとしたら困るし、私も行ったほうがいいかもしれない。

 

「やはり私も初めから一緒に探しに行ったほうが良かったか? フェン達を信用していないということではないが、ちょっと遅すぎやしないか……?」

 

 心配になってきたので、私もクルースとラヴァを連れて来ることにした。とは言っても、ラヴァがどこにいるかは見当がつかないので、自分の部屋にいると思われるクルースの方からにしよう。

 しかし、クルースの部屋に行くために訓練室を出ようと踵を向けたところで、丁度訓練室の扉が開いた。そこにはフェンとビーグルに両脇を支えられた──半分寝ているように見えるが──クルースと、ハイビスに文字通り首根っこを掴まれたラヴァがいた。それにしてもまさか本当に引きずってくるとは……。

 

 何はともあれ、これでA1の隊員が全員揃ったので、ようやく訓練を開始でき──

 

「ほら! ちゃんと起きなきゃだめだよ、クルース! 寝坊して遅刻したこと、ちゃんとノーリ教官に謝らないと!」

 

「そうだよクルースちゃん。ちゃんと謝れば、ノーリさんもきっと許してくれるよ?」

 

「謝らなきゃなのはわかってるけどぉ〜……うぅ〜……眠いよぉ〜……」

 

「ハイビス! 苦しいから離せって! もう訓練室に着いたんだから離してくれてもいいだろ!?」

 

「だめ! だって私が手を離したら、ラヴァちゃんったらすぐ逃げようとするじゃない! ちゃんとノーリさんに謝るまで離さないからね!」

 

「……」

 

 相変わらず、賑やかだな……。

 

「う〜ん……おやすみぃ〜…………zzz」

 

「あっ! 寝たらだめだってクルース!」

 

「ク、クルースちゃん! ちゃんと起きてってばぁ!」

 

「ほらラヴァちゃん! 私も一緒に謝ってあげるから、ノーリさんに謝るよ!」

 

「謝ることぐらい一人で出来るし! 子供扱いするなよ!」

 

「……」

 

 ……本当に、賑やかだ……。元気があるのは良いことだが、このままでは埒が明かなそうだな……。割って入ったほうがよさそうだ。

 

「えー、ゴホン……全員、一旦静粛にしてくれるかな? そろそろ訓練を始めたいんだけど。フェン、号令を」

 

「も、申し訳ありません! ノーリ教官! ……全員、整列!」

 

 フェンの号令でA1の隊員たちがピシッと整列する。……クルースはまだ眠そうにしているが。

 

()()()()全員が揃ったから、これから今日の訓練を開始する。本日の訓練は私が担当することになっているが、私の担当は午前中だけで、午後からはドーベルマン教官に引き継ぐことになっている。訓練だからといって、手を抜くことのないように。だが無理はしないように。怪我をしたり、体調が悪くなったら直ぐに私に言うこと。いいね?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「よし、それではこれから訓練を開始したいところだけど……始める前にクルースとラヴァは、なにか言うことがあるはずだ。二人とも、前に来なさい」

 

「「はい……」」

 

 返事をしてクルースとラヴァが前に出て来る。流石にクルースも眠気はもう飛んだようで、ちゃんとしている。

 

「寝坊して訓練に遅刻しちゃってごめんなさい……」

 

「……訓練をサボろうとしてごめんなさい……」

 

 二人とも、頭を下げて私に謝った。……悪いことをしたら謝るのは当然のことだが、こうした当たり前のことをちゃんとするのは大事だ。

 

 とは言っても二人共まだ子供だし、正直庇ってあげたいという気持ちも幾分かある。それはそうだ、好きで叱る人なんていない。ただ、だからといって甘やかすのも良くない。少しなら良いかもしれないが、程度が過ぎると自分にも相手のためにもならなくなってしまう。

 

「私だけではないだろう? 三人にも謝るんだ。君たちが遅刻したことで、フェン達にも迷惑がかかったんだよ」

 

 私がそう言うと、二人はフェン達三人の方に向き直った。

 

「「訓練に遅刻してみんなに迷惑をかけてしまって、ごめんなさい……」」

 

「……うん。二人とも戻っていいよ。本当なら罰で何周か走ってもらうところだけど時間もないし、それに二人も反省しているようだから、今回はこれでいいだろう。今後同じことがないように。──それじゃあ、今度こそ訓練を始めよう。午前中だけだけど、今日はよろしくね」

 

「「「「「はい! よろしくお願いします!」」」」」

 

「そしたらまずは準備体操だ。これを適当にやると後で怪我に繋がることもあるから、ちゃんやるように。準備体操が終わったら基礎訓練に移る。応用訓練は午後からドーベルマン教官が担当するから、ドーベルマン教官に後で叱られたくなければ、基礎訓練にはしっかり取り組むように」

 

 それを受けてA1のメンバーは屈伸や前後屈、伸脚といった運動をこなしていく。面倒臭がって適当にやる人も多いが、準備体操はとても重要だ。ついさっきフェン達にも言ったように、いきなり体を激しく動かすことは思わぬ怪我をすることがある。そのため多少時間をかけても、準備体操はしっかりやらなければならない。

 私も見てるだけではなく、彼女らと一緒に準備体操をしっかりやる。因みにフェン達がクルースとラヴァを探しに行っている間に、私は訓練室に備え付けられた着替え室で訓練服に着替えている。私も一緒に訓練をするわけではないが、念の為だ。流石に白衣は運動には向かないし。

 

 

 そうして準備体操が終わったら次は基礎訓練だ。基礎訓練ではそれぞれの役割に応じた行動をひたすら反復することで、個々人の技術の向上を図る。

 具体的に、フェンやビーグルといった前衛職種オペレーターは人型AIロボットを仮想敵とした戦闘訓練。フェンはその戦闘スタイルから足さばきに重点をおき機動力の向上を、ビーグルは重装としての耐久力、及び持久力の向上を図る。

 

 狙撃オペレーターのクルースは静止目標だけでなく、動く目標にも正確に矢を撃ち込めるようにするため、通常の射撃目標と人型AIロボットやドローンを目標とした射撃訓練を交互に行う。静止目標及び運動目標に対する命中精度の向上を図る。

 

 医療オペレーターのハイビスは、いかなる状況に置いても迅速に味方の治療を行えるように習熟度を高めての回復アーツの使用の迅速化と、戦場における応急処置を正しい手順で且つ、素早く行えるようにする訓練。

 

 術師オペレーターのラヴァは術師のなかでも範囲攻撃術師に大別される。ラヴァのような範囲攻撃術師は単体攻撃術師より火力は高いが、その代わり攻撃速度で劣る。その欠点を少しでも補って攻撃速度を向上させるために、ひたすらアーツを使ってアーツの習熟度を高める。

 

 

 基礎訓練は開始時間が遅れたことに合わせて、一セット十五分×十回の百五十分、二時間半だ。セットごとに五分間の休憩を挟むため、休憩は五分×九回の四十五分。訓練時間と合わせて三時間十五分となる。今が八時四十分だから終わるのは十二時の五分前だ。本当なら十二時丁度までだが、五分ぐらい早く終わってもバチは当たらないだろう。十二時から一時間の昼休みがあって、午後一時から午後の訓練が始まる。

 人によっては基礎訓練に時間を割きすぎている、と言われることもあるが、私はそうだとは思わない。確かに応用も大事だが、その応用は基礎があってこそできるものだ。何事も基礎がしっかりしていないと進歩することはできない。それが私の考えであり、訓練の方針だ。

 

「準備体操が終わったところで、これから基礎訓練を始める。基礎訓練の内容は予め連絡しておいたから、理解していると思う。それでは各自、それぞれの武器を持って位置についてくれ。セット終了や休憩の際は私が知らせる」

 

「了解しました! 改善点などは休憩中にノーリ教官が指摘して下さって、次のセット時に改善する、ということでよろしいでしょうか?」

 

「いや、それでは非合理的だ。それだと間違ったやり方を一セットの間ずっと続けることになる。つまりは一セット分が無駄になってしまうということだ。訓練中は私が各自の様子を見て回るから、その時に私が指摘したら直ぐに改善するようにしてほしい。そうしたほうが時間を無駄にしなくて済む」

 

 時は金なりという言葉がある。時間はお金と同様に貴重なものだから、決して無駄にしてはいけないという戒めだ。

 ただ、私は少し違うと思うことがある。どちらも大事なのは勿論だ、しかし、時は金なんかよりも遥かに大事だと思う。金など損失があっても後で立て直すことはいくらでも可能だ。

 

 だが時はそうもいかない。なぜならいくら大金を積もうとも、たったの1秒でさえも買うことはできないからだ。時間を浪費することの不合理さは、過去の経験をも踏まえてよく知っているつもりだ。

 

「なるほど……確かにそのほうが合理的ですね! さすがはノーリ教官です!」

 

「そんなに大したことではないよ……私は如何に時間を効率よく使えるか、それを第一に考えただけだ。……そろそろ基礎訓練を始めよう。各自の準備が整ったら私が合図するから、直ぐに準備を」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 返事をしたらそれぞれの武器を持って、隊員たちがそれぞれの訓練スペースに向う。既にロボットや攻撃目標の準備は整っている。あとは彼女らを待つだけだ。

 

「ノーリ教官! 全員、準備が出来ました!」

 

「よし。──それでは、第一セット、訓練始め!」

 

 私の号令とともに、全員がそれぞれの訓練を一斉に開始する。それとともに、私もそれぞれの訓練の様子から改善点がないか、あるとしたらどのような点か、を見極めるために各自の訓練を邪魔にならない距離まで近寄って観察する。

 

 

 先ずはフェン。仮想敵のロボットの攻撃をクランタ特有の強靭な脚力から生み出される機動力で躱しながら、ショートスピアを操ってロボットに斬撃や刺突などを叩き込む。

 一見問題はないように見えるが……少し力み過ぎているようだ。まだところどころに動きの硬さが見られる。それに、初めからあんなに飛ばしていては、長時間体力が持たない。ペース配分というものを考える必要があるだろう。

 

「フェン、もう少し肩の力を抜いたほうがいい。力み過ぎると動きに柔軟さが失われる。それとペース配分を意識するんだ。訓練に全力で臨むのは決して悪いことではないが、初めからそれだといくら途中で休憩を挟むと言っても、後半まで持たないよ」

 

「了解しました! ご指導ありがとうございます!」

 

 完璧に改善とまではいかないが、それでも私から言われたことを意識して、それまでの動きに改善を加えているのが見て取れる。やはりフェンの最大の武器はその真面目さだろう。

 こうした部隊ごとでの訓練時間以外にも、ドーベルマン教官に頼み込んで個別に訓練を受けているようだから、方向さえ間違えなければ順調に上達するはずだ。 

 

 ただ、本人に自覚はないようだが少しせっかちな部分があるから、そこには注意したほうがいいかもしれない。

 隊長であるがゆえに、その性格と相まって色々と抱え込んでしまうこともあるようだから、しっかりケアしてあげるようにもしなければ。

 

 

 フェンの次はビーグルだ。ロボットを相手に訓練を行うという点はフェンと同じだが、重装オペレーターは敵の進行を食い止めるために、一人で複数の敵を抑えるという役割を持つ。そのためビーグルの場合は、ロボットを前半五セットは二体、後半五セットでは三体を同時に相手にすることになっている。

 しかし様子を見るに、かなり苦戦を強いられているようだ。ただでさえ新米のビーグルにとっては、一人で複数の敵を相手にすることは骨が折れることだというのに、更に訓練用の重量を増した盾が枷となっているように見える。先程から防戦一方でろくに反撃もできていない。このままではジリ貧だ。

 

「ビーグル、君は重装オペレーターだから守ることが第一の役割なのは間違いない。しかし、守っていてばかりでは敵を倒すことはできないし、勝つこともできない」

 

「で、でも重装オペレーターが食い止めた敵を、例えばラヴァちゃんみたいな範囲攻撃ができる遠距離オペレーターの攻撃で一掃することが有効な戦術だって教本に書いてありましたし、ドーベルマン教官も同じことを仰ってましたよ?」

 

「それも間違いではない。しかし重装オペレーターと言えども、最低限の攻撃能力は必要だ。もしも一度に、ラヴァの攻撃でも捌ききれない数の敵が押し寄せてきたらどうする? その時にビーグルが守っているだけだといずれ戦線が崩壊するだけだ。……敵の動きをよく観察しなさい。敵の動きをよく見て、全部じゃなくていいからここぞという隙を見つけて、反撃もするように」

 

「わかりました!」 

 

「あらゆる状況を想定するんだ。常にマニュアルが正しいとは限らない。戦場では、想定外のことなどいくらでも起こりうる」

 

「なるほど……つまり臨機応変に対応しなければならないってことですか?」

 

「そういうことだ。次からはそれを心がけて、訓練に取り組むように」

 

「はい! 頑張ってやってみます!」

 

 言ってしまえば、ビーグルは特別な技術やアーツは持っていない。しかし元々の負けず嫌いさをバネに、日々ひたむきに訓練に取り組むことで、彼女は間違いなく成長している。

 まだまだ未熟ではあるが、このままいけばいい意味で化けるかもしれない。有望な新米たちの中でも将来が楽しみな一人だ。

 

 

 次はクルース。今は静止目標を相手にひたすら矢を撃ち込んでいる。狙撃オペレーターはやはり命中精度が物を言う。数をこなして、自分が狙った場所に確実に攻撃を当てられるようにしなければならない。

 

 普段の態度からは想像しにくいが、クルースは狙撃オペレーターとしては確かな腕前を持っている。今だって目標を外した矢は皆無で、その全てが目標に命中している。

 ……ただ、あまり姿勢がいいとは言えない。フェンとは逆に、力が入ってなさ過ぎる。手を抜いているということはないが、姿勢が乱れると射撃の命中精度に大きく影響する。

 

「クルース、もう少し姿勢をよくしなさい。今の姿勢だと、重心が偏っている」

 

「でも、ちゃんと目標には命中してるよ?」

 

 確かにそうだ。クルースの命中精度は非常に高く、先程から目標に足しては文字通り百発百中だ。しかしそれは、目標が静止していて尚且つ、足場が平坦で強固な、更に天候の影響を受けない室内だからだとも言える。

 戦場ではこのような好条件で戦えることは稀だし、文字通り最悪な条件下で戦わなければいけない場合もある。むしろ、敵が来てほしくないタイミングに限って会敵する事のほうが多いのだ。私もそれで何度も窮地に陥ったし、文字通り本当に死にかけたことだってある。

 

「もしも足場が悪かった場合、姿勢が悪いと今のように上手く目標に命中させられる可能性はぐんと下がるぞ。多少面倒くさくても、撃つときはしっかりした姿勢を維持するように心がけるんだ」

 

「確かに戦場ではここみたいに、足場がしっかりしてるとは限らないよねぇ……。わかった〜、ノーリさんの言うとおりにするよぉ〜」

 

 どうやら理解してくれたようだ。クルースの射撃能力は今の段階でもそれなりのレベルにあるが、これで更に上達してくれるはずだ。そのクロスボウで、仲間たちに襲いかかる敵を確実に撃ち抜いてくれるようになるだろう。

 あとは寝坊癖を改善できれば言うこともないのだが、まぁ……これは今言ってもしょうがないか。朝起きたくないという気持ちは、私も理解できなくはない。

 

 

 ハイビスは今は人の模型を使って応急処置の訓練をしている。彼女が訓練に臨む態度からも、彼女がとても真面目に一生懸命取り組んでいることがよく伝わってくる。

 だが、まだ不慣れな部分があるようで、節々に覚束ない様子が見られる。戦場医療には早く丁寧に処置を行うことが求められるが、こればっかりは何度もくり返して状態毎の手順を覚え、慣れるしかない。

 

「ハイビス、丁寧にやることは当然正しいことだが、戦場という刻一刻を争う場では、そんなにゆっくりやっている時間はないよ。敵は君が処置を終えるまで待ってはくれないんだ」

 

「それが、早くやろうとすると手順を間違えてしまったり、雑になってしまって……。逆に丁寧にやろうとすると今度は時間がかかり過ぎてしまうんです……。なにかコツとかってないんでしょうか?」

 

「すまないが、こればっかりは数をこなして慣れるしかないから、これといって私から言えることはほぼないんだ。強いて言うなら、焦らないことかな。……仮にも教官ともあろうものが、これぐらいしか言うことができないとは情けないことだ」

 

「そんなことはありません! それではノーリさんが言ったことを踏まえて訓練に戻りますね!」  

 

 今でこそ上手くできない部分はあるが、ハイビスもフェンに負けず劣らず真面目な子だ。壁に阻まれても必ず乗り越えることができるだろう。

 ロドスに来る前から誰にでも優しく、よく気が利く面倒見のいい子だったと聞いているが、その性格故に医療オペレーターを志したのかもしれない。私は適任だと思う。

 

 

 最後はラヴァだ。ひたすらアーツを使って習熟度を高めることで、範囲攻撃術師の欠点である攻撃速度を可能な限り改善する訓練だ。

 クルースと同じようにサボり癖があるラヴァだが、訓練に取り組む態度は真面目そのものだ。ぶっきらぼうだが、本当は誰よりも優しい心を持っているからこそ、仲間達を助けるために努力を惜しまない。

 

「……なぁ、他のヤツから聞いたんだけどさ、ノーリさんってアーツ使うのも上手いらしいじゃん。だからさ、どうしたらもっと上手くアーツを使えるようになるのか、アタシに教えてくれよ」

 

「別に、私はアーツが特段得意というわけではないし、アーツの専門家でもない。だから私は、こうしてひたすら数をこなして習熟度を高めることで上達を目指す、という教え方しかできない。専門的なことは、アーツ担当の教官に教えてもらったほうがいい」

 

「でも今訓練を見てるのはノーリさんじゃん。確かに専門的なことは、それぞれの専門家に教えてもらうのが一番だけどさ、アタシはノーリさんから教えてもらいたいんだ。単にアドバイスとかでもいいからさ」

 

「……そこまで言われたら、答えないわけにはいかないね。役に立つかはわからないけど、私がアーツを使うときに一番意識しているのは安定性だ。火力も大事だが、その火力をちゃんとコントロールできていなければ話にならない。誰だって、味方を誤爆したくはないだろう?」

 

 私のアーツはその特性上、緻密なコントロールが求められる。そのため、アーツを使用する際は安定性に重点を置くようにしている。範囲や加減を誤ると、下手したら味方に重力を加重してしまったり、反重力によって浮かせてしまう可能性があるからだ。

 戦闘中にそんなことになったら大変なので、アーツコントロールには特別神経を使うようにしている。負担も中々に大きいのに使うのも難しいとは、我ながら難儀なアーツだと思う。

 

「ふーん、安定性か……。わかった、それだけでも十分だ。ありがとな」

 

「役に立てたのなら幸いだ。これからも頑張ってくれ、期待しているよ」

 

「ああ。どんどん強くなってやるから、期待しててくれ」

 

 再びラヴァは訓練に戻った。さっきよりも増して、黙々とアーツを放ち続ける。まだ簡単なアーツしか使えないが、その上達速度には驚かされる。

 ロドスに来るまでアーツには触ったことすらなかったというが、これは天性の才能か、それとも鉱石病によるものか。どちらが正しいかはわからないが、いずれにせよラヴァが短期間でアーツをものにしたことは間違いない。

 

 

 一通り彼女等を見てわかったことは、全員まだまだ未熟な部分はあるにせよ、確実に力を伸ばしているということだ。最初の頃に比べると見違えるほどだ。

 この分なら心配なく、例の作戦に彼女等を送り出せるだろう。正直、最初に彼女たち行動予備隊A1を参加させると聞いたときは不安だったし反対したが、今の具合なら余程のことがない限りは大丈夫だろう。

 重要な作戦であるが故に、不確定要素は出来るだけ排除しておきたいところだ。作戦日までの猶予もあまりない。その日までに、可能な限りまで練度を高めておかなくては。

 

 それよりも、先ずは今日の訓練を完了しなければならない。まだ最初の一セットも終わっていない。訓練はまだまだ続く。

 

 長いようでいて短いが、時間の限り、彼女等を教えて育成するのが私の役目なのだから。

 

 

 

 

 

 ―*―*―*―*―

 

 

 

 

 

「──そこまで! 全員武器を下ろして。……これで全部のセットが終わったから、午前の訓練は終わりだ。みんな、お疲れ様」

 

「「「「「お疲れ様でした!」」」」」

 

「君達は午後からドーベルマン教官の訓練だ。これから昼休みだからしっかり食べて、出来るだけ疲れをとっておくように……それじゃあ解散だ。荷物は職員さんが戻しておいくれるらしいから、食堂で昼食を食べてきなさい」

 

 いくら昼休みと言っても時間は有限だ。早いところ、昼食を済ませたほうがいいだろう。

 

「はい! ノーリ教官、ご指導して下さってありがとうございました! 本日学んだことを、これからも活かしていきたいと思います! 大変お疲れ様でした!」

 

「はぁ〜やっと終わったあ〜……。もう疲れてお腹ペコペコだよぉ……。それにしてもフェンちゃんは元気だねぇ〜」

 

「ほんとに疲れたね……。訓練だから仕方ないけど、やっぱりずっとあの盾持ってるのは大変だよ……」

 

「あーあ。せっかくノーリさんの訓練が終わったと思ったら、午後からはドーベルマン教官の訓練か……。めちゃくちゃ厳しいんだろうなぁ……」

 

「ノーリさん! 本日もありがとうございました! よろしければこのあと、私達と一緒にお昼ご飯食べませんか?」

 

 一緒にか……たまにはこういう大人数で食事というのも悪くないだろう。しかし、それでは彼女等を待たせることになってしまう。私はこのあと、ドーベルマン教官に引き継ぎの報告と午前の訓練内容などを伝えなければならないのだ。

 

「あ! それいいねハイビスちゃん! ノーリさんも一緒に食べましょうよ!」

 

「うんうん。良いと思うよぉ〜。ご飯はぁ、みんなで食べたほうが美味しいからねぇ〜」

 

「アタシもそれでいいぞ。たまにはこういうのも悪くないだろ」

 

「みんなもこう言ってますし、どうでしょうか、ノーリ教官。私としてもノーリ教官とはこれまでご一緒したことはなかったので、ノーリ教官がよろしければ、大歓迎です!」

 

 ……誘ってくれているのに悪いが、断るしかないか。

 

「誘ってくれるのはありがたいが、実はこのあとドーベルマン教官に色々と報告しなきゃなんだ。……申し訳ないが、またの機会にさせてもらうよ。今日はフェン達だけで行っておいで」

 

「そうですか……。それなら、仕方ありませんね。残念ですが、また今度にしましょう。──みんな聞いてたと思うけど、ノーリさんはこのあとドーベルマン先生のところに行かなきゃだから、一緒に食事はできないって。時間も限られてるし、私たちは食堂に行こう」

 

「そっかぁ……。ドーベルマン教官のところに行かなきゃなら、仕方ありませんよね……。ノーリさん、ご飯はまた今度にしましょう!」

 

「ノーリさんは偉い人だから、忙しいのよねぇ。私たちも午後の訓練頑張るから、ノーリさんも午後のお仕事頑張ってねぇ〜」

 

「ノーリさん! 今日はだめでしたが、いつか一緒にご飯食べましょうね!」

 

「用事があるんなら、そっち優先するのは仕方ないよな。しかもそれがドーベルマン教官のことならなおさらだろ。じゃ、ノーリさん、またな」

 

「ああ、またね。しっかり食べて、午後の訓練も頑張るんだよ」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 元気よく返事をすると、フェン達は一緒になって訓練室を出ていき、訓練室には私一人が残された。先程までの賑やかさが嘘のように、静かだ。

 私も着替え室でいつもの服に着替えたら、ドーベルマン教官のいる教官室に行くとしよう。

 

 

 

 服を着替えて忘れ物がないか確認して、訓練室を出る。後片付けは職員の方々がやってくれるから、私は最低限荷物をそれぞれ種類ごとにまとめて少しでも後片付けが楽にできるようにしたぐらいだ。

 ドーベルマン教官への報告が終わったら、私も昼食をとって午後の仕事だ。午後からである分、割り当てられた量も少ないはずだ。フェンたちが訓練を頑張るように、私も頑張ろう。

 

 

 それにしても、この短期間でのA1の子達の成長は目覚ましいものだ。あれなら直に新米を卒業して正式にロドスの行動隊として認められる日も近いかもしれない。

 ……嬉しいことではあるのだが、素直に喜べない。立派にやっているとは言っても、彼女等もまだ子どもなのだ。私は正直、子どもに武器を持たせたくはない。

 

 本来なら血を流すのは大人の役目であって、あの子達がやることじゃない。この狂っている世界において、私の考えは甘いのかもしれない。しかし、それでも私は、子どもが武器を持たねばならないという現状はおかしいものであり、変えなければならないものだと思う。

 子どもに罪はない。大人には、大人として子どもを守る義務がある。──その大人が、子どもを戦場という死地に追いやろうとしているとは、何たる皮肉だろうか。 

 

「……なんとも情けなく、不甲斐ないものだ……。結局のところ、私達があの子達にやらせようとしていることは、私達大人の尻拭いじゃないか……」

 

 誰に向けて言うでもなく、呟く。口に出したところで何かが変わるということはない。そもそも私一人では変えることなどできない。

 

 

 もしかしたら、このテラに生まれた時点で、源石に汚染されながらも、源石に依存しきったこの世界に生まれた時点で、老いも若きも男も女も争いから逃げることなどできないのかもしれない。

 

「だとしたら……この上なく、虚しいな……。本当にクソッタレな世の中だ」

 

 忌々しげに吐き捨てたその言葉を聞く者はない。元々単なる独り言のつもりだ。しかし、こうして口に出したくなるほど、この世界は理不尽に満ちている。

 その理不尽をなくすことは、私には不可能だ。いや、このロドスですらも不可能かもしれない。だがなくすことはできなくても、どうにかしてそうした理不尽によって被る損害を減らすことはできる。

 

 どちらにせよ私達の代で、この世界から理不尽を除いて正すことはできない。であるならば、次の世代に託すしかないだろう。私達がやるべきは、その次の世代のために、彼等彼女等が進むための道から可能な限り障害を取り除くことだ。

 

 100年後、1000年後の世界がどうなっているのか。そんなことは誰にも分からない。だが、たまにはこうして想像してみるのも悪くないだろう。

 鉱石病も、もしかしたらその時には根絶されているのだろうか。……そうじゃないとしても、今よりも住みやすく、より良い世界になっていることを願うばかりだ。

 

 

 




 最後に唐突のシリアス。なんか書いてたらこうなっちゃいました。テラの世界って私達が暮らす世界よりも生き辛そうではありますよね。鉱石病に感染したらその時点で人生ほぼゲームオーバーですし。

 それにしても、一度に複数のキャラを描写するのは難しいですね。話し方に特徴があるキャラは何とかなりますが、下手すると誰が話してるのかわからなくなってしまいます。読んでてわからなかったらごめんなさい。

 投稿頻度についてですが、少なくとも12月中旬辺りまではかなり忙しいです。そのため、今回のように遅めの投稿がしばらく続くと思います。楽しみにしてくれてる方々がいたら、申し訳ありません。
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