ようやく一息つけたので、小説の方にも手が回るようになりました。これから頑張ろうと思います。
あと一応、必須タグにアンチヘイトを追加しました。人によっては不快に感じる可能性もあると思ったので、念の為です。
色々と考えてる間に教官室についたようだ。事前に行くことはドーベルマン教官に伝えてあるため部屋にいるとは思うが、一応確認しておいたほうがいいだろう。
トントントン、と均等な間をおいて扉をノックする。ロドスは──私が言うのも何だが──結構先進的な企業だ。しかしこういうところは意外と、というかアナログな部分がある。
と言うのも、ロドスでは重要な部屋にしかドアホンの類は設置されていないのだ。私的にはドーベルマン教官の教官室も十分に重要だと思うのだが、何故設置していないのだろう。以前私が派遣されていたライン生命では、全室にドアホン、もしくはインターホンが設置されていた。
鉱石病関連分野ならばロドスはライン生命をも凌ぐほどだが、企業としての規模で比べると、ライン生命とは大きな開きがある。ロドスはまだ若い企業であるだけに、特別多くの利益を上げるには至っていないことが、こうした設備の差にも現れているのだろう。
特段不便に感じているわけではないが、羨ましく思うのも事実だ。誰だって文明の利器があれば、そちらを使いたくなる。別に無理にとは言わないが、やっぱりあったほうが便利だと思う。
……それにしても、ノックしたというのに全然反応がない。ドーベルマン教官に限ってこの時間に寝てるなんてことはないだろうし、もしかして部屋にいないのだろうか。事前に連絡しておいたからいると思ったのだが、何か別の用事でも入ってしまったのかもしれない。
いないのであれば仕方ない。メールで後で改めて伺いに行く旨を伝えて…………よし、送信っと。
ドーベルマン教官にメールを送ったことだし、先に昼食を食べに行くとするか。
「それにしても、昼は何を食べようかな……。別に食堂に行ってから決めてもいいが、それだとまた券売機の前で悩むことになりそうだし、予め決めておいた方がいいか……」
もはや癖となっているらしい。毎度の如くブツブツと呟きながら、食堂に行くために廊下を歩く。いくつか角を曲がって、次はそこの角を右に曲がればあとは食堂まで真っ直ぐだ。
「結局何を食べるか全く決められないままここまで来てしまった……。どうして私はこんなにも優柔不断なんだ……。全くもって嫌にな──!?」
「──! おっと……。誰かと思えばノーリじゃないか」
「これはドーベルマン教官……、奇遇ですね。不在だったものですから、メールでお知らせして後で改めて伺うつもりでした」
「ちょうど良かった、メールを見て急いで部屋に戻るところだったんだ」
「そうだったんですか。しかしここで会えたのであれば、その必要はなさそうですね」
予想外のことではあったが、これは僥倖だ。別に後回しにしたら困るということではないが、用事は早めに片付けておくに越したことはない。
「私としても色々と忙しくてな……。せっかく事前に連絡してくれたのに、すまなかったな」
「そのことは特に気にしてませんよ。ドーベルマン教官がお忙しい方であることは周知の事実ですから。──それに、最近特に忙しいのは、例の《ドクター救出作戦》が近いからでしょう?」
作戦に参加することになっているのは私もドーベルマン教官と同じである。だが、ドーベルマン教官は本命のドクター救出にあたる部隊を指揮することになっているため、その立場の重要性から事前にやることも多いのだ。
勿論私もやることはあるが、ドーベルマン教官ほどではない。作戦に全力で望むのは私も同じだが、役割が違えばそれだけ責任の重さも違う。
「ドーベルマン教官、貴方は私なんかとは違って、まさに作戦の中核を担う存在です。ならば、準備はやり過ぎるぐらいがちょうど良いと思いますよ。備えあれば憂いなしです」
「それを言うならお互い様だ。ノーリ、お前の役目だってとても重要なものであることを忘れるな。あまり自分を卑下するのはやめろ」
「……大丈夫です。私は私の役目を軽視している訳ではありません。しかし、私は自分を卑下しているつもりは全くありませんよ。自分の能力については、自分が一番把握しているつもりです」
私がそう言うと、ドーベルマン教官は呆れているともとれるような表情になり、ため息をついて諭すように言葉を紡いだ。
「はぁ……。お前は相変わらず、自己評価が低すぎる。謙虚なのは結構だが、謙虚も過ぎれば嫌味になるということを忘れるな」
「自己評価が低い、ですか。私はそんなつもりはありませんが、ドーベルマン教官がそう仰るのなら、一応気に留めておきます」
「まぁ分かればいいんだ。──それよりも、私に報告することがあるのだろう? 部屋に移動するか?」
「いえ、ここで大丈夫です。……それでは、こちらが午前の訓練内容を記した報告書です。確認をよろしくお願いします」
「ああ」
私が手渡した報告書をドーベルマン教官は短く返事をして受け取って、目を通して確認する。午前の訓練内容を確認した上で、午後の訓練内容をどうするか今一度考えているのだろう。
ドーベルマン教官は新米達にその厳しさから鬼教官と恐れられているが、厳しくしているのはそれだけ新米達のことを大切に思っているということだ。
現に新米達の中にドーベルマン教官を恐れても嫌っている者は一人もいない。むしろ全員がドーベルマン教官を尊敬している。行動予備隊A1のクルースとラヴァ、A6のカタパルトなど訓練を嫌がってサボろうとする者はいるが、なんだかんだで最終的にはちゃんと訓練に参加している。
それに、『訓練についていけない者が実戦に耐えられるわけがない』と以前に口にしていたため、ふるいにかける意味もあるのだろう。実力のない者が実戦に出ても死ぬだけだ。ドーベルマン教官は新米達に死んでほしくないからこそ、あれ程までに厳しくしているのだ。いわゆる愛のムチと言うやつだろう。
「……ふむ。訓練を何回か経ると、基礎を疎かにする者も出てくる。それだけに、こうして基礎を重視した手堅い訓練を実施してくれるのはありがたいことだ。感謝するぞ」
「それほどでもありませんよ。単に私の能力では、基礎訓練を重点的に行うというやり方しかできないだけです」
「そうだとしても、助かっているのは事実だ」
ドーベルマン教官にここまで言われては、あれこれ言うのは失礼に当たるだろう。先ほど謙虚も過ぎれば嫌味になると言われたばかりだし。
「そこまで言われるのであれば、素直に受け取っておきます。都合が合えば、今後も引き受けますよ」
「じゃあその時はよろしく頼むぞ。他に報告することはあるか?」
「ああ……、そういえばクルースとラヴァが遅刻しましたが、反省しているようだったので特に罰は与えてません。まぁ少しキツめに注意しといたんでもう大丈夫だと思いますよ」
しかしドーベルマン教官は苦い顔をしている。何か問題でもあるのだろうか。何だか空気が少し重くなったような気がする。
「またその二人か……。全く懲りない奴らだ。ノーリ、言っておくがお前の対応は甘すぎる。それだと必ずまたやるぞ」
「でも、ちゃんと反省してましたよ? 確かに罰を与えなかったのは甘かったかもしれませんが……」
「こういう規則違反に甘い対応をしては駄目だ。甘い対応ばかりしていると、つけ上がって更に面倒なことになるぞ」
ドーベルマン教官は続けて言う。
「……ノーリ、お前の気持ちもわかるが、そういう事には心を鬼にして対応してくれ。それがお前のためであり、彼女達のためでもある」
確かに、そのとおりだ。間違った行いには、それ相応の罰を与える必要があるだろう。今回のように甘く対応してばかりでは、次第に規律は形骸化し、いずれ組織は成り立たなくなる。
「わかりました。これからは、そのように厳しく対応します」
「今回のクルースとラヴァの遅刻に関しては、私が午後の訓練の際に改めて対応しよう。規則を守れない者には、デッキを五十周ランニングさせておく」
「ご、五十周ですか……。流石に厳し過ぎるのでは?」
「いいや、これは以前から決めていることだ。誰であろうと、規則を守れなければ罰を与える必要がある。例外はない。──もちろんノーリ、お前もだぞ?」
「えっ、あっ、はい。気を付けます」
いきなり私に矛先が向いてびっくりしてしまい、つい敬礼して返事をしてしまった。そうだ。例外がないのなら、私だって当然ドーベルマン教官が定めた規則を守らなければいけない。
「ふふっ……そんなに畏まらなくていい。実は私は、あまりノーリのことは心配していないんだ」
「え、そうなんですか?」
「お前が規則を違反するようなことはないだろうからな。ちょっとした冗談さ」
ドーベルマン教官は珍しくにこやかな微笑を浮かべながらそう言った。いつも鉄仮面を被っているように全く笑わないから、笑顔のドーベルマン教官は新鮮だ。
前から思っていたことだが、やはり美人なだけあって笑顔が似合う。普通にしてても綺麗だが、笑うともっと綺麗だ。普段からもっと笑えば、新米達に怖がられることも少なくなるだろうし、近づき難い印象も薄れるだろうに。もったいないと思う。
「そんな……買い被り過ぎですよ」
「そんなことはないさ。ノーリの真面目さは、他の奴等にも見習わせたいぐらいだ。アーミヤとケルシーも感心していたぞ?」
「そうなんですか、アーミヤさんとケルシー先生が……」
「お前の行いはちゃんと周りが見て評価している。だからお前は、もっと胸を張って、自分に自信を持っていいんだ」
どうやら、ドーベルマン教官は私のことを気遣ってくれているようだ。思えば、以前からなにかと私のことを気に掛けてくれていた気がする。
こうして考えると、普段はとても厳しいが、やはり根は優しい方だ。
「ありがとうございます、ドーベルマン教官。あなたの言うとおり、これからはもう少し自分に自信を持つようにします。──色々とお話させて頂いて、ありがとうございました。私はそろそろ昼食をとってこようと思いますが、ドーベルマン教官は食堂に行かれないのですか?」
「私は部屋で食べるから大丈夫だ。報告感謝する。時間を取らせてしまって悪かったな」
「いえ、大丈夫ですよ。それでは私はここで失礼します。ではまた」
「ああ、またな」
ドーベルマン教官と別れて私は食堂に向かう。昼は何を食べようか。さっさと食事を済ませて早めに書類仕事を開始したいところだ。
……それにしてもドーベルマン教官は部屋で食べるとのことだったが、恐らく食堂で食べれるような、ちゃんとした食事ではないだろう。それで十分に栄養をとれているのだろうか。毎日こうしているというわけではないだろうが、心配だ。まぁあの人のことだし、私が心配する必要なんてないかもしれない。
火傷をしないように冷ましてから、ズズズッと麺を啜る。最初は音を立てて食べるというのは慣れなかったが、今はもう慣れた。
私が昼食に選んだのは炎国の料理であるラーメンだ。ただ、食文化としては発祥元の炎国よりも、ラーメンは極東において発達しているらしく、今ではむしろ、ラーメンと言えば極東と言っても過言ではないぐらいだ。私が今食べているのも、極東で生まれたしょうゆラーメンというもので、他にもみそやとんこつ、塩というものがあるが、私はしょうゆが一番好きだ。
それにしても、麺はもちろんだが、スープが美味い。ダシというものを入れているらしいが、極東の料理においては、そのダシとやらはとても重要なもので、他にも多くの料理に取り入れられているらしい。
ロドスにはヤトウやノイルホーンなど極東出身のオペレーターもいるし、今度色々と聞いてみよう。調べて自分で作ってみるのも面白そうだ。
そうした普通のラーメン以外にも、もっと手軽に食べられるように作られたインスタントラーメンというものもある。ロドス内の売店でもそこそこの種類が売っているため、そこで買ってたまに食べることもある。
お湯を注いで三分ほど待つだけで食べられるため、自分の部屋でも簡単に食べることができる。長期保存もできるため、私はある程度の数を常に部屋にストックしている。
簡単に食べれる上に種類も豊富、そして長期保存も可能とは、なんて素晴らしい! 是非ともロドスで有事の際の非常食として採用して頂きたいものだ。今度アーミヤさんとケルシー先生に掛け合ってみよう。
「──お、そこにいるのはノーリじゃないか。隣座っていいか?」
あ、この声は──
「ACEさん、こんにちは。この時間に食堂で会うのは珍しいですね。あ、席空いてるんでどうぞ」
「今日は珍しく結構直ぐに訓練が終わったもんでな。全く、うちの奴らはどいつもこいつも熱心過ぎて困ったもんだ」
そう言いつつも、満更でもなさそうな表情だ。やはり部下が熱心なのは、隊長としては嬉しいことなのだろう。
「訓練に熱心なのは良いことじゃないですか。日々の弛まぬ努力こそ、真に必要とされるものです」
「まぁ、確かにそうだがな。何事にも限度ってもんがあるだろう。この前なんか昼休み全部使っちまって飯が食えなかったんだぞ?」
「ははは……それは災難でしたね……」
私の隣でぼやきながら食事をとっているのは、ロドスの誇るエリートオペレーターの一人であるACEさんだ。ACEさんは数いるエリートオペレーターの中でも古株の方であり、私もここには長くいるため、ACEさんとはそれなりの長い付き合いだ。
ACEさんは重装オペレーターとして日々任務に従事しており、その高い実力と性格の良さから多くのオペレーターに慕われている。恐らくこのロドスに、ACEさんのことを悪く言うような人は一人もいないだろう。
もちろん私もACEさんのことは素晴らしい人だと思っている。最初は怖そうな人だと思ったが、話してみると思いの外気さくで話やすい人で、それから何度か一緒に飲みに行ったりして直ぐに打ち解けることができた。
「それに最近は、一人手のかかる奴がいてな……。悪い奴ではないんだが、どうも口下手というか言葉が足りないところがあるんだ。そのせいで他の隊員と衝突しちまったりしてるんだよ」
「話には聞いていますよ。グレースロートさんでしたっけ。……非感染者で、感染者に対する態度に問題があるとか」
オペレーター、グレースロート。非感染者で、狙撃オペレーターとしてロドスに登録されている少女だ。私はまだ彼女と直接関わったことはないが、あまり良い話は聞かない。
──いや、直接関わったことがないと言ったが、正確には偶然だが一回だけある。関わったことがあると言っても、その時の彼女は半狂乱で私のことは眼中になかったようだったから、やはり本当に関わったことがあるとは言えないだろう。どんな状況だったのかも、食事中の今はあまり思い出したくない。
なぜ私が彼女と直接関わることがなかったか。それはそうした機会が全くなかったからではない。私が彼女との接触を避けていたからである。
私は基本的に噂とかそういった類は、自分の目で確認するまで信じないが、この事ばかりは別だった。その度に違う人から話を聞かされ、彼女の問題行動やロドスの感染者との衝突等の事が、とても多く耳に入ってきたためである。そして、一度目にしたという事も大きかった。つまりは、信憑性が非常に高いと判断したからだ。
ロドスには感染者だけでなく、多くの非感染者も働いている。ロドスの非感染者は、感染者に対しても普通に接する人が殆どである。グレースロートさんはその中では珍しく、源石と鉱石病に強い抵抗感を持ち、感染者に対して露骨な嫌悪を示していた。
──早い話が、問題児だった。
私だって感染者だ。ならば、どうして自分たちを嫌っている人間と、自ら好き好んで関わろうと思うだろうか。思う訳がない。
「ああ、昨日もうちの奴らと一悶着あった。……これでも前よりも良くなったほうだ。最初の頃なんて事ある毎にうちの奴らと言い争って、ろくに訓練もできない有様だったからな」
「いつだったか、『あのいけ好かないツバメをぶっ飛ばしてやる!』って息巻いたブレイズさんを止めるのには、随分苦労しました」
「そういや、そんなことあったな……」
あの時は本当に大変だった。勝手に武器庫から持ち出したのであろう専用のチェーンソーを担いだ、ただならぬ様子のブレイズさんと鉢合わせたときは、本当に度肝を抜かれた。
話を聞いてみたらグレースロートさんのことで、直感的にまずいと思った。それでこのまま会わせたら、下手したら殺してしまうのでは、と思って必死になって止めたのだ。
あまりにも強烈な出来事だったため、あの時のことは今でも昨日のことのように思い出せる。
「あの時のブレイズさんは、かなり感情的になっていましたね。私が説得していたら、お前はあの非感染者の味方をするのかって私に矛先が向いて、危うく真っ二つにされるところでした」
「俺やScoutが駆け付けるのが少しでも遅れてたら、大変なことになってただろうな」
「冗談抜きでそう思います。もしかしたら、私は今ここにいなかった可能性もありますから」
「笑えねぇ話だ」
「全くです。……本当に死ぬかと思いましたよ。あの後アーミヤさんやケルシー先生、騒ぎを聞きつけた他のオペレーター達も駆けつけて来て結構な大事になりましたけど、ケルシー先生のおかげでなんとかその場は収まりましたね」
本当に危なかった。ギリギリのところでACEさんとScoutさんが駆けつけて来てブレイズさんを抑え、その後も続々と駆けつけて来たオペレーター達によってブレイズさんは床に抑えつけられ、チェーンソーも取り上げられて──それでも激しく暴れていたが──なんとか無力化された。
その後アーミヤさんとケルシー先生が駆けつけ来て、二人が私の代わりに説得にあたった。しかし、それでもブレイズさんの怒りは収まらず、結局ケルシー先生が鎮静剤を注射してようやく大人しくなり、その場は収まった。
ブレイズさんはあの後、一ヶ月の謹慎を言いつけられた。それと一ヶ月の禁酒も命じられたが、それなりにお酒が好きなブレイズさんには、これは結構堪えたようだ。
謹慎期間の終了後に私のもとに謝りに来たブレイズさんは、生気がないというか、なんというか明らかに元気がない様子だった。ブレイズさんは決してアル中ではないが、お酒が好きな人にとって一ヶ月の禁酒というのはかなりキツかったようだ。
しかし、そうしなければならなかったとしても、ブレイズさんに謝られたのは複雑な気分だった。なぜならば、私もブレイズさんの気持ちはわからなくもなかったし、むしろ同調するところが多かったからだ
「でもね、ACEさん。確かに殺されかけはしましたが、私もブレイズさんの気持ちはよくわかるんです。グレースロートさんの言動には、確かに頭に来ることもありました」
……だが、よくよく考えればグレースロートさんの感染者に対する態度は、非感染者としては当然のものとも言える。ロドスでは異端だが、それよりももっと大きい範囲、このテラの世界全体で見れば、異端なのはロドスの方だからだ。
「まぁお前も同じ感染者だからな。俺も感染者だし、そりゃあグレースロートの言動に思うところはあったさ」
「私にも非感染者への恨みはあります。私も今まで、何度も酷い目にあってきましたから。それでも、私があの時にブレイズさんと行動を共にしなかったのは、私にとって非感染者が本当に憎むべき敵ではなかったからです。私の敵は──」
そこで一拍おいて、改めて口に出す。
「私の最も憎む敵は、
「誰が聞いてるかわからんぞ。ノーリ、滅多な事は口に出さないほうがいい」
「逆に、時々こうして口に出さないといけないんです。──この《怒り》を、いつまでも忘れないために」
私がそう言うと、ACEさんは珍しいものを見るかのように、ぎょっとした風に私の方に顔を向ける。ACEさんが驚くのも無理はない。私のこうした一面を知る人は、本当に限られた人だけだからだ。
逆に言えばACEさんの事を信用しているからこそ、目の前で口にした、口にできたとも言える。
「お前はそんな、執念深い奴じゃないだろう」
「それは思い違いですよ。……私は受けた恩は忘れませんが、受けた仇はもっと忘れません。絶対に」
「……そういやお前も、ウルサス出身だったな。過去に色々あったんだろうが、深入りとか余計な詮索はしないでおこう」
そう言うと、ACEさんは──いつの間にか食べ終わっていたようだ──昼食を載せたトレイを持って席を立った。
「それじゃ、俺は食べ終わったからそろそろ行く。お前も午後からも仕事があるんだろう?」
「ええ。午後からは書類仕事です」
「ならさっさと行ったほうがいいぜ。じゃあ、またな」
ACEさんはトレイを戻しに返却口の方に歩いていった。午後からも訓練があるため、早めに行ったのだろう。
私もゆっくりしてはいられない。午後からという事もあるので書類は少なめだろうが、それでも早めに始めておくに越したことはない。
残っていた麺を──伸び切ってしまっているが──スープと共に胃に流し込んで、矢継ぎ早にコップに注いだ水も飲み干す。
「ふぅ──。ごちそうさまでした」
直ぐに席を立って返却口に向かい、トレイを返したらそのまま食堂を出て執務室に向かう。
道すがら、先程の会話で自分が述べたことについて考えてみる。
「……少し、感情的になって、冷静さを欠いていたかな。らしくないことだ。しかし……」
ウルサスが、ウルサス人が憎い。
──嫌悪。
──憎悪。
──怨恨。
──遺恨。
──憤怒。
この思いが消えることはない。恐らくは、死ぬまで抱き続けるだろう。あの国に生まれたのは、本当に不幸な事だった。ウルサス族として生まれたかったとは全く思わないが、自分もウルサス族であったなら、と思うことはある。
自分もウルサス族であったなら、あんな思いをすることはなかっただろう。あんな扱いを受けることはなかっただろう。
ウルサスという国で、異民族フェリーンとして生まれた事は、私にとって災難以外の何ものでもなかった。しかし、そうであったからこそ、ケルシー先生に拾われて、色々あってロドスに所属している今の自分があるのも、また事実だ。
執務室に着いて、直ぐにロックを解除して中に入る。元々使われてなかった部屋を、私がドクターの代理に任命されてから、急遽私用の執務室として整備された部屋だ。アーミヤさん達は、『代理なのだからドクターの執務室を使ってくれていい』と言っていたのだが、いずれドクターが戻ってくることを考えたら、他人の部屋を代理とはいえ、我が物顔で使うのはなんだか申し訳なくなってしまったので、それは断った。
その代わりとして私にあてがわれたのがこの部屋というわけだ。アーミヤさんとケルシー先生が色々と手を回してくれたので結構快適なデザインだ。泊まり込みする時に使うためのシャワー室と寝室もついている。最近はあまり使うことはなくなったが。
基本的に私は、この部屋で一人で書類仕事を行っている。仕事量が膨大な時は、アーミヤさんのご厚意で手近なオペレーターで都合が合う人を一人、秘書としてつけてくれることもあった。
仕事が多くなくても常に秘書をつけるべきだ、と言われたこともあったが、私としては一人で黙々と作業を進めるのが性に合っているので、基本的に秘書はつけていない。まぁ、ずっと一人で部屋にいると、たまに寂しくなって人肌が恋しくなるときはあるが。
そんなことを思っていてばかりだと仕事が始まらないので、それらは頭の隅に追いやって早速仕事を始めよう。書類は予めアーミヤさんが部屋に運んでおいてくれている。CEO自ら、ありがたいことだ。
机の上に置かれた書類を確認すると、案の定今日は午前が訓練で、書類仕事は午後からだった分、量は少なめだ。これなら早めに終わらせることができる。今日は九時からレッドとの約束で、彼女に尻尾をモフモフさせてやらなければならないので、仕事が長引かないのは助かる。
……まぁ、本音としては毎回これぐらいの量だと嬉しいのだが、それは贅沢と言うものだろう。
さて、心機一転。気持ちを切り替えて、書類仕事を頑張るとしよう。
少しだけ過去が明らかになりました。ノーリ君はウルサス出身です。因みにここで言うウルサス人とは、あくまでも「種族がウルサスの」ウルサス人に限られてます。
過去に何があったのかはいずれ書きます。どうするかはまだ考え中ですが……。
あと、アークナイツはいよいよダークナイツ、邦題は闇夜に生きる、が始まりましたね。皆さんも大好きであろうWがメインのイベントです。私はイネスさんも良いなぁ……と思いました。
今回のイベントは特に異鉄がおいしいので、たくさん周回しましょう。