私は所詮、代理人に過ぎない   作:Dr.クロイツ

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 たいっへん遅くなりました。申し訳ないです。かなーり手間取ってました。
 個人的な感情で、今年終えるまでに投稿しておきたかったので、駆け足になりました。

 皆さんWお迎えできましたか? できた方はおめでとうございます。できなかった方は、まだチャンスがあるので諦めないでください。お迎えできるように祈りましょう。


私の尻尾

「…………よしっ! これで今日の分は終わりだ。あとはアーミヤさんのところに持って行って、不備がないか確認してもらうだけだな」

 

 やはり少なめだっただけあって、いつもよりかなり早く終わった。しかし、これだけ早く終わらせることができたのは、私が書類仕事に慣れたから、という事でもある。以前の私なら、これぐらいの量でも四苦八苦して、容易に終わらせることはできなかっただろう。

 

「だが早く終わったと言っても、やはりずっとデスクワークというのは疲れるなぁ……」

 

 両腕が抜けるほど伸びをすると、それに呼応するように肩がバキバキと音を立てる。こんなに音が鳴るとは、随分と肩が凝っているらしい。今度誰かに頼んで、肩を揉んでもらうのも良いかもしれない。

 

 それにしても、これ程早くに終わらせることができたのは予想外だった。これならレッドとの約束の時間までに、風呂に入ってたりしても間に合うだろう。せっかく手伝ってくれたご褒美として、尻尾をモフモフさせてあげるのだ。いつも以上に丁寧に手入れして、最高のコンディションに整えてやるとしよう。

 いつも以上とは言っても、私が普段の手入れを疎かにしているわけではない。むしろかなり気を遣ってる方だ。と言うのも、私がフェリーンの中でも長毛種であるためだ。ロドスにいる同族、例えばエリートオペレーターのブレイズさんや行動予備隊A4の隊長のメランサ、私と同じくケルシー先生に師事しているフォリニック等に比べると、私の尻尾は毛量が多くボリュームがある。そのため少し手入れを怠ると、直ぐに毛並みが乱れてしまうのだ。特に冬毛の時や換毛期の時期は大変で、いつも以上に丁寧に手入れをしている。

 

 長毛でボリュームがあるとは言っても、それはフェリーンの中での話であり、流石にループスやヴァルポには及ばない。だが尻尾は私のささやかな自慢の一つであり、私は自分の尻尾にはある程度の自信を持っている。

 ただ、私の尻尾に触らせて欲しいと言う時々あるお願いは、数少ない事例を除いて今まで例外なく断ってきた。何故か? 触られると後で手入れするのが面倒というのもあるが、最大の理由はフェリーンに限らず、尻尾を持つ種族にとって尻尾──特に根本──はかなり繊細な部位だからだ。

 

 元々嫌だったことではあるが、過去に何度かひどい目にあったことがあり、それがトラウマになっているのも大きな一因だ。

 

 例えば、そう、あの人だ。エリートオペレーターのブレイズさんの一件だ。

 

 

 

 ──あれは確か二、三年ほど前のことだったか。

 

 任務が終わってロドスに帰還したブレイズさんと、珍しく寮舎で一緒になった時のことだ。寮舎ではお酒は飲めないので、備え付けのジュースやおやつを口に運びながら、他愛もない話で盛り上がっていた。

 

『それでね、私がアーミヤちゃんの頭撫でてたら、背が伸びなくなるので止めてくださいって! もーホントに可愛くない!? ノーリもそう思うでしょ?』

 

『ああ、そうですね。可愛らしいと思いますよ』

 

『何その冷めた反応……。ノーリはアーミヤちゃんのこと好きじゃないの?』

 

 ブレイズさんはジトッとした目でこちらを見ながら私に訊ねた。あらぬ誤解をかけられている気がする。

 

『そりゃあ好きか嫌いかで言えば、好きですけど。とても優しく良い人ですし』

 

『じゃあなんでそんなつまんなそうにしてんのよ。一緒にアーミヤちゃんのことで盛り上がろうよ!』

 

『ブレイズさん。貴方がアーミヤさんの話を始めてから、どれぐらい経ったと思ってるんですか? 軽く一時間は過ぎてます。そりゃあ飽きてきますよ』

 

『別にいーじゃん! ここじゃお酒も飲めないから、おしゃべりぐらいしかやることないんだし』

 

『そんなにやることがないのなら、部屋に戻って寝ればいいんじゃないですか? 任務終わりで疲れてるでしょうに』

 

『そんなのつまらないでしょ。こうして君と二人で話してたほうが何倍も楽しいよ』

 

 ブレイズさんならこう言うと思っていた。確かにブレイズさんと一緒にいると中々楽しいが、大体の場合はほぼ一方的に私がブレイズさんの話を聞いてるという状況なので──別に嫌というわけではないが──段々と飽きてくるのだ。因みに酒が入るともっと凄いことになる。

 

『でも確かに暇になってきたね。話のネタも尽きてきたし、かと言ってここには他にテレビとか雑誌ぐらいしかないし……』

 

『そうでしょう? ならここらへんで解散するのはどうですか?』

 

『それだともっとつまらないって。せっかく寮舎で一緒になったんだからさ……。なんか面白いことない?』

 

『そんなこと言われても直ぐには思いつきませんよ』

 

『うーん……何かないかなぁ…………あ』

 

 ブレイズさんは腕を組んで唸っていると、急に何か思いついたかのように私の顔をじっと見てきた。……直感的に、なんだか嫌な予感がしたので、念の為いつでも逃げられるようにしておいた。

 

 ブレイズさん相手に、私が逃げ切れる可能性は低いだろうことは分かっていたが。

 

『じゃあさ、ノーリの尻尾触らせてよ! 前から触ってみたかったんだ〜』

 

『嫌です』

 

 やはり、私の予感は的中したのだ。何故かブレイズさんには絶対に尻尾を触らせてはならないような気がしたので断ったが、ブレイズさんも簡単には引き下がらなかった。長い戦いになりそうだと思った。

 

『なんでよ! 減るものじゃないんだし別にいいじゃない!』

 

『嫌なものは嫌です。お引き取りください』

 

『お願いだって! ほら、同族のよしみってことでさ!』

 

 あれほど食い下がるとは、どうしても私の尻尾を触りたかったらしい。断固拒否したが。

 どうしてそこまでと言いたくなったが、言ったらさらに面倒なことになりそうな気がしたので、言わないでおいた方が良さそうだと思い口には出さなかった。

 

『それなら私以外のフェリーンに頼めばいいじゃないですか。ロドスには結構たくさんいますよ』

 

『私はノーリの尻尾が触りたいの。私と君の仲でしょ? 少しだけ! 少しだけでいいから! 優しくするから、ね?』

 

『私にとってブレイズさんの優しくする、はワルファリンさんの少し検査するだけ、と同じぐらい信用できません』

 

 私がそう言うと、ブレイズさんはいかにも心外だと言わんばかりの顔をした。まぁ誰だってあの人と同列に並べられれば、否定したくもなるだろう。自分で言っておいてなんだが、その気持ちは私にも分かった。

 

『はぁ!? ちょっと、それは流石にひどくない!? いくらなんでもあの人と一緒って、それはないでしょ!』

 

『私からしたら、その後のことを考えるとどっちも似たようなものです。とにかく私の尻尾には触らせません』

 

『ノーリって意外とけちなんだね……。よしっ、こうなったら力ずくで触らせてもらうから。悪く思わないでね』

 

 そう言うと、流石はエリートオペレーターと言うべきか、ブレイズさんは一瞬で私と向かい合って座っていた机を飛び越えて、私に飛びかかってきた。

 こう来るとは予想していなかったため流石に反応できず、そのまま床に押し倒されて仰向けになった私に、ブレイズさんが馬乗りになる形になった。

 

 ……今思い出すと、中々凄い絵面だったと思う。

 

『痛っ! いきなり何するんですか! 暴力反対!』

 

『君が散々嫌がるからでしょ! 素直に尻尾触らせてくれればこんなことしないって!』

 

『尻尾には絶対に触らせません。それよりも早く退いてくださいよ! それにこの格好は色々とまずいでしょう! もしも誰かに見られたら誤解され──』

 

『あっ確かに仰向けだと尻尾触れないね。ちょっと裏返すよ』

 

『そういうことじゃない!』

 

 抵抗も虚しくブレイズさんに軽々と持ち上げられ、今度はうつ伏せにさせられた私に、ブレイズさんが馬乗りになった。

 ブレイズさんが重いということではなかったが、ちょうど腰と背中の中間あたり、尻尾の付け根の上あたりに乗られたため、結構苦しかった。

 

 一言で言って、詰んだ。

 

『ふふふ……。思う存分堪能させてもらうよ!』

 

『やめろぉぉぉぉぉ!』

 

 

 

 結局あの時はブレイズさんが満足するまで、延々と尻尾をモフられ続けた。その後ちゃんと解放されたが、疲れ過ぎてもう仕事をする気にもなれず、部屋に戻ってそのまま寝たような気がする。

 その時の私の姿を目撃した職員やオペレーターによると、生気がなくまるで生ける屍のようだったらしい。逆にブレイズさんはいつもよりも機嫌がよく元気だったそうだ。

 

 あれ? これもしかして、活力吸い取られてた感じ? そうとしか思えないのだが……。

 

 因みにその翌日、仕事をしてなかったのでケルシー先生とアーミヤさんに怒られた。ついでに──主にアーミヤさんに──尻尾もモフられた。なんでもアーミヤさん曰く、『仕事をしてなかった罰です。それにブレイズさんだけというのは不公平だと思います!』とのことだった。そう言われた時、触りたいだけだろと思ったのは内緒だ。

 

 なんにせよ、このことはかなりのトラウマになった。ただでさえ嫌だったのがそれ以来というもの、尻尾を触らせてと言われたら、ほとんどの場合は条件反射的に拒絶するようになったし、ブレイズさんと会う可能性が少しでもある場合には、常にスモークグレネードを常備するようになった。

 言わずもがな、いざという時に逃げるためだ。因みに何回か使ったことがあるが、逃げ切れた試しがない。流石はエリートオペレーター、煙幕程度では大した効果も期待できないようだ。何回も改良して今はトウガラシ粉末を混ぜ込んだりしてるが、効果があるかは使ってみなければ分からない。

 

 

 それでも私がレッドに許可したのは、手伝ってくれたことへのお礼というのもあるが、今までレッドが同族のループスの尻尾を触らせてもらおうとしても、相手が怯えて逃げてしまうため触りたくても触ることができない、という事情を把握していたからだ。

 正直可哀想だと思った。レッドはただ尻尾を触りたいだけなのに、本人に落ち度や悪気がないにも関わらず、その生い立ち故に、そうしたなんてことなく可愛らしい望みを成就させることすらもできないのだ。

 

 私が今回レッドに許可した理由は、第一にこうした哀れみがあったからである。それにレッドはいい子だから、尻尾を触るにしてもそんな乱暴に扱われることはないだろうと予想したことも理由の一つだ。他にもレッドがまだ幼いためか、つい甘やかしてしまうというのもある。

 

 本当はループスの尻尾が一番良いのだろうが、それが叶わない現状では、私の尻尾で満足させてあげる事ができれば幸いだ。レッドも私の尻尾は気持ち良さそうだと言っていたし、きっと満足してくれるはずだ。

 

「まぁ、先ずはアーミヤさんに書類を不備がない事を確認してもらって、今日の仕事を終わらせてからだな。早速アーミヤさんのところに行こう」

 

 書類の束を落とさないようにしっかり脇に抱えて、部屋を出て鍵をかけてからアーミヤさんのところに向かう。アーミヤさんがいるのは、今はその部屋の主がいないドクターの執務室だ。そこで自分の分の仕事をしている。量もCEOだけあって相応のもので、いくらCEOだとしてもあれ程の少女が立派に努めを果たしているのは、実に大したものだと思う。

 

 私の執務室からドクターの執務室までは特別近くもなく、それでいてそんなに遠くもない程々の距離がある。今日もだが、特に急ぐ案件がない限りは、普通にいつも歩くペースで向かう。

 

 

 

 しかし今日は、私も途中まで自覚していなかったがいつもより少し早歩きだったようで、いつもよりも早く到着した。もしかしたら私もレッドとの約束を心のどこかで楽しみにしていたことが、無意識に足取りを早めたのかもしれない。

 

 執務室にはドアホンがついているので、チャイムを押してから、部屋にいるアーミヤさんに呼びかける。

 

『はい、どなたでしょうか?』

 

「アーミヤさん、私です。ノーリです。今日の分の書類が終わったので、確認をしていただきに来ました」

 

『はい、ノーリさん。ドアは空いてるので、どうぞお入りください』

 

「わかりました。では、失礼します」

 

 ドアホン越しにアーミヤさんに入室を促されたので、一言いれてから部屋に入る。

 

「今日はいつもよりも早いですね。飲み物を用意するのでそちらにかけてお待ち下さい。飲み物は何がいいですか?」

 

「お手数をおかけして申し訳ありません。飲み物はホットコーヒーでお願いします」

 

「はい、わかりました。ではいつも通りブラックでお淹れしますね」

 

 部屋に入ると、アーミヤさんがわざわざ出迎えてくれた。執務室はまず正面に来客用のテーブルとソファが並べられており、その奥にドクターの執務机がある。その脇には秘書用の机があり、その机の上には多くの書類が置かれていることから、先程までアーミヤさんが仕事をしていたことがわかる。

 

 私が書類をテーブルに置いてソファに座っていると、アーミヤさんがコーヒーを持ってきてくれた。

 

「アーミヤさん、ご厚意は嬉しいのですが、私なんかに一々ここまでしていただく必要はありません。私のために仕事を中断させてしまうのは……」

 

「ノーリさん、これは私が好きでやっていることです。貴方が気にすることはありませんよ」

 

「……アーミヤさんがそう仰るのであれば、私はこれ以上何も言いません。──それよりも本題に移りましょう。こちらが確認していただく書類です」

 

「はい、確認させていただきますね」

 

 私の向かいに座ったアーミヤさんは、受け取った書類を一枚一枚丁寧に確認し始める。書類を確認するアーミヤさんは真剣そのもので、まさにCEOとしての風格が感じられる。

 しかしこうして向かい合って座っていると、やはりアーミヤさんはまだ年端もいかぬ少女だということを改めて認識する。分不相応だとか相応しくないとか思ったことはないが、アーミヤさんに一企業のCEOをという重責を担わせるのは申し訳なく感じることもある。

 

 余計なお世話かもしれないが、少しでも肩代わりできれば幸いだと思っている。いくら大人びているように見えてもまだ子供なのだから、もう少し周りの大人に頼ってほしいと思う。

 

「……どこにも修正が必要な箇所はありませんね。流石はノーリさんです。いつも正確な仕事をして下さり、ありがとうございます」

 

「ただいつも通りにやっただけです。そこまで褒めていただくことではありません」

 

「だとしても、とても助かっているのは事実ですよ。ノーリさんにお任せして良かったと心から思っています」

 

 ……はっきり言って、むず痒い。

 

 今までの人生では、私に見え透いたおべっかを使ってきたり、自分もおこぼれに与ろうとごまをすって近付いてくる輩がいたりして、辟易することも多々あった。

 そういう経験をしてきたこともあって、こうした純粋な賛辞を向けられることにはあまり慣れていない。もちろん嬉しいことは嬉しいのだが、どうしても素直に受け取ることができない。なんだか恥ずかしくなってしまう。

 

「そ、そうですか。まぁ給料分はちゃんと働かなきゃですからね。これぐらいは当然のことです」

 

「……もしかして、照れてますか?」

 

「いえ、照れてません」

 

「尻尾が立ってますよ?」

 

「いや、これは……フェリーン特有の感情表現と言いますか……。はぁ……。照れてるってことで、いいと思います……」

 

 そもそもアーミヤさんに隠し事ってできないと思う。よくわからないが、どうやらアーミヤさんは相手の感情を感じることができるらしい。そういうアーツなのかどうかもわからない。

 アーミヤさんの主治医を務めているケルシー先生なら何か知ってるかもしれないが、多分教えてはくれないだろう。

 

「もう……どうして隠すんですか?」

 

「恥ずかしいじゃないですか。いい大人が褒められて照れるなんて」

 

「そうですか? 私は可愛らしいと思いますが……」

 

「っ……。書類の確認もしていただきましたし私はこれで失礼します。それでは明日もまたよろしくお願いします」

 

「え? もう少しゆっくりしていただいても……」

 

「それには及びません。では」

 

 

 

「……。ノーリさんの尻尾、触りたかったな……」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 恐らく、今の私は耳までりんごのように赤くしているのだろう。さっきからすれ違う職員やオペレーターには、変な目で見られているかもしれない。

 つい早口気味にまくし立てて、足早に執務室を立ち去ってしまった。アーミヤさんには失礼なことをしてしまっただろう。明日また確認してもらう時に謝っておかなければ。子供を前にみっともないことをしてしまったものだ。

 

 それにしても、可愛いなんて言われるのはいつぶりだろうか。まさかいきなりそんなことを言われるとは思わなかったため、驚いて頭がこんがらがってしまった。大人の男でいきなり可愛いと言われて、恥ずかしくならないやつなんていないと思う。

 

「いきなりなんてこと言うんだよ、まったく……。調子狂うなぁ……」

 

 それよりも私は今どこに向かっているのだろうか。頭がこんがらがったまま執務室を出て、そのまま早足で歩いていたため、目的地など全く考えていなかった。

 せっかく早く仕事が終わったのだから、ここから食堂に行って早めの夕食にしよう。時間があるとはいえ、レッドとの約束までに身だしなみも整えておきたい。風呂に入ることやドライヤーで髪や尻尾を乾かすこと、その後のブラッシングなどの尻尾のケアをすることも考えたら、意外と時間は少ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―*―*―*―*―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諸々の準備が終わり、あとはレッドを待つだけだ。時間もそろそろ、約束の時間である九時になろうとしている。

 尻尾の毛並みはバッチリ。今まででトップレベルの良さに手入れできたと自負している。レッドは、果たして満足してくれるだろうか。こればっかりは本人次第なので、その時までわからない。

 

 

 カチカチカチカチ

 

 

 ……時計が刻む音だけが、部屋に鳴り響く。ただ待つだけというのはやはり暇なもので、そして暇な時間というのは、得てして普段よりも長く感じるものだ。

 やることがなくてしきりに時計を確認したり、尻尾をパタパタとさせながら、ベッドに腰掛けて待つ。

 

 因みに私の部屋のベッドは特別製である。普通のものとどこが違うかと言うと、まずは大きさである。これは私がこの部屋で暮らすことになって初めの頃、そのままでは狭いと感じたためケルシー先生の許可をとって、費用を自分で工面してクロージャさんにお願いして大きいものにしてもらったのだ。

 その他にも自分で色々と手を加えたため、私の部屋のベッドはオペレーター達の個室に備え付けられた一般規格のものとは、所々が異なったデザインとなっている。自分に合うように設計したため、そのおかげでいつも朝までぐっすりだ。とても寝心地が良くて満足している。

 他の家具にも色々と手を加えた部分があるが、それらは今は関係ないことだ。

 

 それはそうと、そろそろレッドが来る頃だろう。今は一分前というところか。来てから慌てて迎える、と言うことにならないように、扉の前にいるようにしよう。

 因みに私の部屋の扉にも、私が自費でドアホンを設置している。ロドスではドクターの執務室やケルシー先生の研究室など、比較的重要な部屋にしかドアホンは設置されていないが、お金があれば個人の私室にもドアホンを設置することができる。

 

 レッドはあまり廊下のような広い空間に慣れていないため、普段は天井裏を移動している。部屋に入る際も、天井の板を外してそこから出入りしている。

 まぁ、流石に今回のように個人の部屋に来る際には、ちゃんと扉から入ってくるだ──

 

 

 ガタッ、ガタガタ

 

「……ん?」

 

 ガタッ、ゴトッゴトッ

 

「……。良い意味でも悪い意味でも、レッドはぶれないな……」

 

 扉に向かおうとしていた足を止め、戻って恐らくレッドがいるだろう、天井の下へ向かう。このまま放置してたら天井を破壊されるかもしれないから、こちらから呼びかけて、天井板を外してやったほうがいいかな。このままだと天井が抜けるかもしれない。

 

「レッド! 今こっちから外してやるから、大人しくしててくれ!」

 

 そう言うと、ちゃんと聞こえたのか音はしなくなった。どうやら大人しくしてくれたようだ。そのまま椅子を持ってきて、そのレッドがいると思われる付近の天井の下に置き、そこに乗って天井板を外しにかかる。

 

 ……ガタガタ、ゴトッ、ガコッ──

 

「よし……外れた。レッド、もう大丈夫だ。入ってきていいよ」

 

「わかった。ありがとう」

 

 天井板を外した場所からひょっこりと顔を出したレッドは、そのまま飛び降りて、軽やかに着地した。

 

 相変わらず、身軽なものだ。私にはできない。

 

「いらっしゃい、レッド。待っていたよ。何か飲み物でも出そうか?」

 

「レッドは、いい。それよりも、早くモフモフしたい」

 

「ん、そうか。じゃあこっちにおいで」

 

 先程まで腰掛けていたベッドに靴を脱いで上がり、あぐらで座ってレッドに背中を向ける。その私の行動で私の意志はレッドに伝わったようで、レッドは興奮しているのか尻尾をブンブンと激しく振りながら、小走り気味でこちらに向かってきた。

 

「ちゃんと靴は脱ぐんだよ。土足だと私のベッドが汚れてしまうからね」

 

「うん、わかった」

 

 聞き分け良くレッドは靴を脱いで、ベッドの私の後ろのところに上がった。目で見なくても、レッドが楽しみにしている様子が伝わってくるようだ。ここまで楽しみにしてくれていたとは、私としてはちょっと嬉しい。

 

「さてと……レッド、改めて今日は手伝ってくれてありがとう。そのお礼だから、ほら。満足するまで尻尾触っていいよ。約束していたことだしね」

 

 言いながら、レッドが触りやすいように尻尾を立てる。

 

「うん……。じゃあ、ほんとに触っていい?」

 

「ああ、いいよ。尻尾は繊細だから、なるべく優しく頼むよ」

 

 レッドはこくりと頷くと、恐る恐るといった様子で──私はレッドに背を向けているので見えないが──私の尻尾に手を伸ばし、そして──

 

 

 もふっ

 

 

「……!」

 

 もふもふ

 

 もふもふもふもふ

 

「……どうだい?」

 

「これ、すごい。このモフモフ……すごい!」

 

「うおおお!? ちょっ、レッド!?」

 

 そう言うが早いか、レッドは感極まったと言うような感じで、勢いよく私の尻尾に抱き着いてきた。

 とても興奮しているようで、荒い鼻息も聞こえてくる。……少し力が入り過ぎているようにも感じるが、まぁこれくらいなら大目に見て……

 

 

 かぷっ

 

「はっ!? レッド、な、何をしているんだ!?」

 

 突然の謎感覚に驚いて振り向くと、何故かレッドが私の尻尾に噛み付いていた。噛み付いているとは言っても、本気噛みではなく甘噛みなので痛くはない。

 いや、そういう問題ではない。何故噛み付く必要があるのか。というか口の中に毛が入って不快ではないのだろうか。

 

「レッド……何故噛み付いているんだい?」

 

「……」

 

「レッド? レッド! ……まるで聞こえてないな。それ程までに夢中になっているのか……」

 

 どうやら予想以上に、私の尻尾はレッドのお気に召したらしい。触覚は勿論、嗅覚、味覚(?)、など五感のうちの三つをふんだんに使って私の尻尾を堪能している。

 

 それにしても、味覚は必要あるのだろうか……。なんにせよ、私の声が聞こえないぐらいに夢中になっているようなので、暫くは好きにさせてあげよう。約束だしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい時間が経っただろう。一時間? いやもっとだろうか? 腕時計は外しているし、ずっと同じ姿勢なので時計を見ることができない。

 

 ただかなり遅い時間にはなっているだろうから、そろそろ終わりにしよう。レッドには申し訳ないが、あまり遅くまでレッドを拘束していると、後で私がケルシー先生に怒られてしまう。

 

「レッド。かなり長いことモフモフしていたようだから、そろそろいいかい? 時間も遅いだろうし、今回はこの辺にしてくれないかな? 物足りないのなら、今度また触らせてあげるからね」

 

「…………」

 

「レッド? ……気持ちはわかるが、流石にそろそろ──」

 

「……すぅ……ふう……」

 

「ああ……寝てしまったのか」

 

 後ろを振り向くと、レッドは私の尻尾を抱き締めたまま、安らかな寝息を立てながら眠っていた。道理で先程から尻尾を触る手の動きが緩慢になって、あれほど荒かった鼻息も聞こえなくなっているはずだ。

 

 ……さて、どうしたものか。

 

「起こして戻ってもらいたいところだが、流石に()()を起こすのは忍びないな……」

 

 はっきり言って、かわいい。その寝顔からは子供らしさが溢れており、なんだか父性が刺激されるような感じだ。

 

 ……起こしたくなくなってきた。

 

「はぁ……。仕方ない。かくなる上は、一緒のベッドで眠るしかないか……。レッドに限って変なことにはならないだろうし……。根拠ないけど……」

 

 一抹の不安を抱えながらも、レッドを起こさないように、できるだけ距離を取って静かにベッドに横たわり、布団をかけて寝る体勢に入る。

 

 遠隔操作で部屋の電気を消し、いよいよ私も寝る前にレッドの頭を優しく撫でて──

 

「おやすみ、レッド。良い夢を」

 

 そう小さく声をかけてから、目を閉じ、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なんとか滑り込みセーフで今年中に投稿することができました。投稿が遅くなってしまい、読者の皆様には申し訳ない気持ちで一杯です。

 かなり駆け足で間に合わせたので、色々と至らないところがあるかもです。ごめんなさい。

 それでは皆様、あと三分もありませんが、良いお年を。2021年になってもよろしくお願いします。
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