続きです。
未だ夜は明けず、だが時刻は刻一刻と迫っていた。
放たれた拳を正面から斬り、再生力にモノを言わせ刀を腕に取り込み折ろうとするのに間一髪で気付き、刀を戻すと同時に飛び膝蹴りが迫る。
瞬時に身を翻して回避して回転、勢いと共に振るわれる斬撃は裏拳によって弾かれた。
「ヌ、ぉぉォォォオ!!」
咆哮と共に刀を振るうは炎柱、煉獄杏寿郎、目の前に相対するは修羅、上弦の参 猗窩座。
素晴らしい闘気、心地好い反応速度、見惚れてしまいそうな刀の練度、今まで相対した鬼殺隊の柱の中でも煉獄杏寿郎は上位に位置する。
それこそ世辞でも何でもなくこの男は
江戸時代で戦ったあの力そのモノを象徴するかのような強者の気迫を彷彿とさせる程。
やもすれば百年以上、悠久の様に戦い続けた上弦の参である自分と同じ所まで差し迫っていると言っても過言ではない。
経験に裏付けされた行動力、対応力、判断力、実際に相対して現在に至るまでこの男に対する評価は止まることを知らない。
「鬼になれ杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう!」
「断る!」
振るわれる刀に対して側面を叩き折ろうと試みるがそれより前に煉獄は刀を立てて叩き折ろうとした拳を腕ごと切断する。
だが上弦の血は切断された腕を瞬時に回復し、数秒もすれば猗窩座の傷は全て治る。
煉獄杏寿郎は僅かに表情を苦ませた、一体どれ程の血を与えられ、血を喰らったのか。
如何にどれ程有効打を与えようとしても上弦の鬼には通用しない、圧倒的生命力。
反則じみた回復能力によって、上弦を討伐するには決定打を打つ事でしか討伐する事を成し得ない。
だがその決定打にもどかしくも手が届かんとは……ッ!
「何故だ!お前は選ばれし強き者なのだぞ!」
「だからこそだ!強く生まれたのなら、弱き者を助ける!それが俺の責務、使命だ!」
「下らない戯言だな、杏寿郎ッッッ!」
破壊殺・脚式 流閃郡光
無数の蹴り技を放つ猗窩座に対して、煉獄は炎の様に燃える様な呼吸音と共に刀を振るう、互いに譲らない拮抗、強者のみが許された武の極み、限り限りの死闘。
だがーーーーああ、惜しいな杏寿郎……!隙を見せたな!
無数の蹴り技を完全に防ぐには煉獄は全力で向かい過ぎた、端的に言えば体力の限界に近付いたのである。
人としての活動限界、それはつまり隙という事に他ならない、この素晴らしい果たし合いも次の攻撃で終わりが見えてしまう。
鬼になれ、鬼になれば永遠に戦い続けられる!だというのに。
残念だよ杏寿郎。
両腕が空を舞う。
ーーーーー何処か落胆した様子で、幕引きをしようとする猗窩座の動きが。
闘気が反応するより先に来た攻撃によって防がれた。
「ーーーッ女……!」
なんだ、今、俺は何を……腕を斬られたのかーーー!?
猗窩座が確かに戦闘を愉しんでいた、だがそこに油断や慢心があった訳ではない、武人として誠意を持って手加減などもっての外。
入れ替わる様に自らの視界から消えた女を警戒していなかった訳でも無い、卑怯な手を使う女だ、どこから何かしらの行動をするとは踏んでいた。
それを分かった上で戦闘を愉しんだのは単に、闘気を感じれば何処から奇襲が来るのか、どこから攻撃を繰り出してくるのか、理解出来るからだ。
だというのに、今のこの一瞬、まさかとは思うが、理解し難い事に……術式が反応しなかった、闘気を感じ取れなかったと云うのか……!
ーーーーーやっぱりだ、そうだ、この鬼……!
真菰は確かな手応えを感じた。
この目の前の鬼は臨花と同じように通常、視界で見える情報とは別に“ナニカ”を感じ取っていた。
……いや、この場合、臨花より炭治郎の鼻の良さや、伊之助くんの勘の良さなどの方が当てはまるかもしれない。
とにかく、
結果は的中、驚くべき事にあの武の極みは元々の技術だという事に驚愕するが長く生きる上弦の鬼ならば不思議では無い。
真菰は透き通る世界を習得していない、無我の境地と云うべき到達点に真菰はまだ足を踏み入れる事を出来てはいない。
にも拘わらず闘気をすり抜ける事が出来るーーー否、出来たのは、元々水の様に凪いでいた真菰独特の特性、気質、それに加えて雪の呼吸が掛け合わさった特殊な方法。
雪のように溶けるような呼吸は存在感を薄らせ、真菰の
真菰の敵対者に対する動作、本命の一撃を隠す巧さは煌柱、戌亥臨花すらも上回る。
勝負事に対して、緻密な操作を可能とする事が出来る頭脳、或いは感覚。
ある種の天性、真菰は猗窩座の感じ取る「闘気」をある程度自由に変動させる事に成功した。
「次で決めるよ、煉獄くん」
「……うむ」
信じられないが、
猗窩座は今し方自分に起きた事を、苛立ちと共に飲み込んでーーー戦う時間がもうそれ程残ってない事に気付いた。
ここは陽光が照す、ぐずぐずしていると日が昇ってしまう。
奴らにとっての時間制限はこちらも同じ、とするのなら、次の攻防が最後の攻防。
良いだろう、受けて立つ、その上で、地面に横たわる弱者も、突っ立っているだけの弱者も、苛立たせるあの女も、素晴らしい強者である杏寿郎も。
殺す。
破壊する。
滅する。
こいつらを殺す。
そして更なる力を手に入れる。
もうやめましょう、狛治さん……っ
女の声が、聞こえた気がした。
「炎の呼吸ーーー奥義」
次の一撃に全ての力を乗せることにした煉獄は自らの持つ、独自に編み出した奥義を放つ事を決めた。
そしてその上でそれだけでは足りない事を感覚で理解した、目の前に相対する上弦の参は予想以上に強敵、強者。
拮抗している様に思えるがそれは偏に真菰の援護に他ならない、初めての共闘だがここまで動きやすいとは、合わせる事に対しての熟練度が高い、流石だ。
もし仮に遭遇したのが一人の時だとしたら、今頃自分の体はどうなっていただろうか。
これだけの全身全霊を懸けても倒しきれないのは偏に自らの鍛錬不足だろうか。
事今日に至るまで自らが尊敬して止まない柱の持つ力の一つ、そうそれこそ透き通る世界などが最も相応しいーーーそれを習得出来ていない事を悔やむ。
だが悔やみこそするが、次の攻防で決着がつく事は考えるまでもない、自分に出来る事はこの瞬間この一撃に全てを乗せて。
柱としての責務を全うするだけだ。
……根こそぎ、一瞬で多くの面積をえぐり斬る。
「玖の型ーーー煉獄!」
感じ取った闘気に猗窩座は歓喜した、気迫、精神力、一分の隙の無い構え。
だからこそ自らもあの攻撃を防ぐーーー否、上回る威力を放つ術式を展開すると決めた。
「破壊殺ーーー滅式!」
炎柱、煉獄杏寿郎の放つ、灼熱の業火の如き威力で猛進し、轟音と共に相手を抉り斬る奥義。
それに相対するは上弦の参、猗窩座の放つ、破壊の先、滅する事のみに重きを置いた、相手を殺し潰す為の破壊殺。
質量と質量がぶつかり合い、土煙が舞う。
煙が晴れ、炭治郎の視界に映ったのは。
「ぁ、ああ、煉獄さん……!」
煉獄の奥義、炎の呼吸を極めたモノにしか扱えない最奥の術はだがそれでも、戦う事以外全てを捨てた修羅には僅かに届かない。
煉獄は滅式に対応する為に己の腹の側面を犠牲にした、
だが猗窩座も無事ではない、再生するとはいえ両腕が切断され、肩から切り裂かれている。
迫り来る闘気に対応し、全力を以ってして反撃した、破壊殺の中でも特に威力の高い技、それが滅式だ。
にも拘わらず、この男ーーー土壇場で……!
「痣を発現したか!杏寿郎!」
燃える炎の様な痣が煉獄杏寿郎の顎下に浮かび上がっていた。
惜しい、実に惜しい、殺すのが勿体無い程の強者!この男は更に強くなれる!
目の前に相対する強者との戦闘、それが猗窩座の判断を狂わせたのか、それとも別の何かが。
羅針が反応するよりも速く猗窩座の武人としての第六感が「背後から来る」と告げ、振り向き様に瞬時に左腕を再生させ裏拳を放つ。
ーーー!?避けられただと!?不味い、再生が間に合わ……!
放たれた裏拳は空を切った、なぜか。
それは偏に「経験」
上弦との戦闘で生き延びた者の生命力の強さに他ならない。
この瞬間、この体勢。
確実にやれる、当てる。
絶対に斃す、ここで終わらせる。
私の灯した火は、上弦の参の頸を落とせるーーー!
「雪の呼吸 壱の型 雪月花!」
下から突き上げるように、月を描くかのように振われた斬撃は。
猗窩座の頸を捉え、迫り来る刃に猗窩座は即座に右腕を再生させ対処しようと動かそうとしてーーー体がいう事を聞かない。
本能が否定した。
何故だ。
この感情はーーー。
その一瞬の思考が、猗窩座の動きを止め。
透き通る様な白群色の日輪刀は、上弦の参の頸の切断に成功した。
闘気を感じなかった訳ではない。
器用にも女の柱は闘気を自在に操れるのか、強まったり弱まったりを繰り返す。
どういう絡繰か知らないがそんな人間見た事もなかった、だが、それならそれで対応出来る、確かに出来た。
ただあの一瞬、刹那に満たない瞬間、闘気を全く感じられなかった。
俺の求めてる至高の領域、無我の境地とは違う、だが最もそれに近い状態。
そこにいるはずのない異物と対面している様な状態、俺の羅針が無反応を示した。
それでも予期せぬ遭遇を即座に対応する事は俺には出来た、杏寿郎が間に入って邪魔をするよりも先に肉体の回復の方が早い。
事実、右腕の再生は出来ていた、頸を守る事はあの瞬間でも出来た。
あの呼吸、その剣筋は数百年の武術の粋に迫る一撃だろう、だが対応する事は出来た。
終式、青銀乱残光を放てば女の柱だけじゃない、近くに居た杏寿郎もただでは済まない、それこそ人体の急所を確実に破壊し、この戦いを勝利で終える事が出来た。
はずだった しかし。
目の前に相対する女の姿を見て。
もうやめて……!
声が、聞こえた。
それが、俺の体を鈍らせた。
ーーーーまだだ!
まだ戦える!俺はもっと強くなる……!
切断された頸を固定するかの様に頸に留まらせる姿を見て、真菰は頸を繋げようとしていると直ぐに気付いた、だが真菰も煉獄くんもこの一手に全てを懸けた反動で直ぐに動けない。
不味い、早く、早く止めないと、頸が……ッ!
瞬間。
「ーーーっあああああ!」
炭治郎は咆哮と共に痛む体を無視して即座に行動した、自分に出来る事をずっと待っていた、今がその時だ、煉獄さんと真菰さんだけに任せちゃダメだ、自分も鬼殺隊士なのだから。
選んだ選択肢は刀の投擲。
炭治郎の投擲は天性の才能か偶然の産物か。
「ーーーガッ!」
繋げようとしていた頭部を貫通し、頸が地面に落ちようとしていた。
終われないーーー!こんな所で、俺は強くなる。
誰よりも強く、強くならなければ、強く。もっと強く……ッ!
どうして、ですか?どうして、強くなりたいのですか?
それは、強くなければーーー
目の前の違和感。
頸を斬った、頸から下が崩れるのも見た、なのに何故胴体は消えない。
強い鬼は消滅するまでの時間が長いのは知っている、見た事もある。
だが、それとは明らかに様子が違う。
まさか、有り得ない、ふざけるな、そんな、これは。
「ーーーッ煉獄くん!頸を再生しようとしている!まだ終わってない!」
「ぬ……ッ!」
真菰の優れた観察眼は目に映る事実をどうしようもない程理解した。
この鬼は日光で殺す他無い、日はまだ昇らないのか、夜明け前がこんなにも長く感じた戦いは“あの時”以来だ。
今この目の前の鬼は別の何かに変わろうとしている……止めないといけない、ここで終わらせないといけない。
第六感が、理性が、本能が今すぐこの鬼を
ここで逃したら
弱点が無くなったとはいえまだ再生しきってない、鈍い、まだやりようはある、私達は終わってない!
「雪の呼吸 陸のーーー!」
思考、伝達、行動、一連の流れは僅か数秒、その様子を離れた所で見ていた炭治郎と伊之助にとっては瞬時の出来事。
訓練され、経験を積み、何度の死地を潜り抜けた熟練の対応力、しかしそれでも、いや、それでは。
目の前の修羅には追いつけない。
頸を失ってもなお強くなる事に固執した“イキモノ”は止まる事を知らない、
呼吸の型を放つ前に上弦の参の振われた剛腕が日輪刀の刃に当たりーーー弾ける、放物線を描く様に刀身が真っ二つに
直後、ほんの一瞬遅れて煉獄が上弦の参に向かって踏み出すが、それより早く猗窩座は煉獄の懐に辿り着き、本能のままに肘打ちを繰り出した。
間一髪で刀で受けるが衝撃を受け流せないまま、刀が折れ腕が
上弦の参の頭部が再生しかけようとしていた。
ーーーーーー殺せる。
この女の刀は折った、折れた刀で破壊殺を止められる術は無い。
杏寿郎はもう動けない、感触的に死んではいないが腕は折った、あの腹の傷も相まって直ぐに戦線に戻れない。
俺に刀を投げ付けた苛立たしい弱者、あの奇妙な頭の弱者には何も出来ない、醜い奴には、弱い者にはどうする事も出来ない。
この拳を振るえばこの女は簡単に破壊できる。
ああそれこそ、頸を再生出来るようになった今なら上弦の弐、それから上弦の壱すらも殺せる、殺してみせる、俺は更に強くなれる。
誰よりも強くなれる、今以上、これ以上に。
惨めで、滑稽で、つまらない話を思い出した。
死んだところで三人と同じ場所には行けない。
過去を今度こそ無くすかのように、猗窩座の拳が真菰に迫り掛かる。
「ーーーッォォォおおおおアァ!!!」
何故闘気で感知できなかったのか、もし猗窩座の術式、血鬼術が正常に機能しているのなら、その乱入を許す事は無かった。
乱入者の行動を阻止し、破壊する事など、修羅である彼にとって容易な事なのだ。
だが実際はそうならなかった、なぜか?
奇跡か、偶然か、或いは必然か。
その何れでも無い、愛という、人の心なのだろうか。
狛治さん……私の声を聞いて……っ
「ーーーーー……!」
雄叫びを上げながら伊之助は死地に向かった、自分よりも傷の深い炭治郎があの時、刀を投げた行動を見て、伊之助は自分に出来る事は何も無いと考えてしまった事に激怒した。
この嘴平伊之助様が弱気になるとかふざけんじゃねえ。
伊之助持つ反骨精神、そして
その刃が頸に近づいた時に、上弦の参が反応し、その姿がブレてーーー第六感から伝わった情報が頭で考えるより先に体が動き。
間一髪で左回し蹴りを放った上弦の参の攻撃を防ぐ事に成功しーーー衝動のまま空に飛ばされる。
たった数秒、されど戦場に於いての数秒は。
「ーーーーありがとう、伊之助くん」
時に、絶望的状況を覆す一手となる。
真菰は伊之助が稼いでくれた僅か数秒を使って、絡繰義手を文字通り”飛ばして“地面に落ちている炭治郎の刀を掴み、手元に手繰り寄せて、右手に持ち替える事に成功した。
義手を飛ばすのは最終手段、腕から一時的に切り離して操作するという離れ業は慣れた真菰でも戦闘中一回限り、それ以上は義手の内部がイカれて壊れる。
だがこれ以上の機会はない、ここを逃せば次はない。
経験から、勘から真菰は理解した。
故に、真菰は自らの心に
目の前の鬼に刃を振るう、その呼吸は。
「スゥゥゥ……ッ、雪の呼吸 捌のーーーー!」
……そうか。
猗窩座は理解した。
何故この女をここまで殺す事に躊躇するのか。
何一つ、似ている所など無いというのに。
日が昇ろうとしている、もう夜明けはすぐそこだ、首の再生はもうほぼ終わりかけている、鬼の体力は無尽蔵。
次に来る女の攻撃さえ対処し、直ぐに影の差す森に隠れ逃げる。
これは確信だがその未来は実現出来る、この状態へと変貌した今の自分ならば不可能はない、太陽すら、喰らい尽くせるのかもしれない。
もういい、次はない。
この女は殺す、これ以上思い出す過去はない、この女を殺して、俺は漸く“完成“する。
そう思い、対処しようと上弦の参は目の前の敵を正面から見据えて。
瞬間、真菰は扱う型を
「
連続して続く刀の猛攻は止まる事なく続きーーー降り落ちる雪が霞となって、吹き荒れるように銀世界を作り出す。
水の呼吸使いの歴史を探せば同じ名前の呼吸を使う者は居たかもしれないが、真菰の雪の呼吸は土壇場で派生し独学で生み出した呼吸。
雪のように溶けて消えるような刀は真菰の真髄そのもの。
本命の一撃を隠す事に関しては、柱の中の誰よりも卓越している。
左右上下、その何れもが頸を捉えた一撃、たとえそれが誘いであっても猗窩座は対処しなければならない、二度頸を斬られれば太陽が昇る前に再生が間に合わないかもしれないからだ。
対処は容易かった、だが何度と続けば、雪が津々と積もる様に体が重くなり、視界が霞始める、奇妙な感覚。
そして何より、闘気が不規則に動く、刀の軌道が読めない、だがそれも直ぐに慣れて。
途中で消えた、消えた瞬間ふと、俺は今一体、何の為にこの拳を振るっているのか。
思考がブレて、雪の風がーーー音を運んで。
もういいの、もういいのよ、狛治さん
懐かしき、愛した声。
恋雪さんの聞こえた、その瞬間。
振るわれた一撃が上弦の参の頸を捕捉し、到達し、そして。
ーーーそうだ、俺が殺したかったのは。
真菰の刃が猗窩座の頸を切断し。
ーーーーー日が、昇ろうとしていた。
真菰は最後まで油断をしなかった、首を斬っても、また再生する可能性はあった、というよりは再生する前提で警戒をし、次に上弦の参はどう動くのか片時も目を離す事なく。
だからこそ頸を斬った瞬間、あの刹那、
一先ずそれは心の内に仕舞い込んで、真菰は消え始めた上弦の参の身体を見て、昇り始めた太陽の光を感じて漸く、全身の力が抜け落ちるかのように地べたに座り込んだ。
……あぁ、これは暫く立てないや。
「ーーーーーっ、いき、てる……、みんな……やったよ……臨花っ……!」
軽傷では無い、それに運にも味方された勝利、それでも勝った、勝って、生き残れた。
煉獄くんの腹の傷は今から処置すれば十分間に合う、あの様子だと背中もだいぶやられて、もしかしたらあの瞬間の攻撃を受け止めた時に腕が折れたかもしれないけど、それでも生きている。
炭治郎は出血を抑えてるから深くはならないだろうし……伊之助くんは、打ち所が良かった、多分感覚的にそうしたんだろうけど、後の活動に支障はきたさない筈。
私が一番の軽傷だがそれでも全身の限界を超えて酷使した体は一月は休息は必要だろう。
そこまで真菰は考えて、ふと消えゆく前の上弦の参の姿が見えた。
まるで誰かに抱きついているかのように消えていく、ああ……きっと、この鬼は、この鬼も、悲しい過去から、鬼になったのだろう。
……せめて地獄でも、そう静かに黙祷して、完全に鬼が消えるのを確認した後に。
「……っ、真菰さん……!」
「へへっ……やったね、炭治郎……!」
駆け寄ってきた若き可能性、義弟のような弟弟子にぐっと親指を立てて、太陽に向けた。
上弦の参・討伐。
それは瞬く間に鬼殺隊に広がり、喜ばれ、100年以上変わらなかった形勢が明確に動き始めた瞬間だった。
惜しむべきは炎柱・煉獄杏寿郎の柱引退ただ一つ。
腹の傷が内臓まで達している事と、複雑に折れてしまった片腕により産屋敷耀哉の判断で柱を引退させ、余生を順風満帆に過ごして欲しいと言葉で告げたのである。
だが当の本人は「たとえお館様の命であっても柱を辞める事は承知出来ない!」と強く反発。
紆余曲折あり未だ若き鬼殺隊を訓練する者としてまずは“三人”継子(結果柱でなくなったので厳密には違うが)を取った。
上弦の参の戦闘時に居合わせていた竈門炭治郎及び嘴平伊之助、我妻善逸の容態も決して浅い傷などではなかったが、蝶屋敷にて休養、安静にし、適切な治療をしてもらう事となる。
そして上弦の参を討伐した当本人、真菰は全身の筋肉痛、摩耗、特に両腕の酷使が激しく、また左手の調整などによって二ヶ月間の休養。
上弦の参討伐は、死者〇人という、鬼殺隊の長い歴史でも類を見ない快挙、大勝利として、幕を引いたのであった。
「全く持って話にならない、上弦であるのにこの体たらく、期待していたのだがな」
その
「だが奴は一瞬、苛立たしい事に私と同じ存在まで高まった、それはつまり私の血を分けた者から進化する鬼が現れると言うことだ、それならば……太陽を克服する鬼が現れる可能性は高まったと言える」
試験管になんらかの液体と液体を混ぜて、その少年は薄く笑みを浮かべた。
「その点で言えば奴は大いに役に立ってくれた、褒めてやろう、尤も死んだ今、終わった事だがな」
「産屋敷……今は精々勝った気でいるがいい、だが最後に嗤うのは私だ」
紅い目をした少年は呟く。
鬼の始祖、鬼舞辻無惨は何かを模索する様に思考を加速させ。
何かに気づいたのか、顔を上げた後に。
ーーーーーー琵琶の音と共に、その場から消えた。
今までの上弦戦で一番どうするか悩みましたが何とか良い感じに纏められたかなと。
感想評価、ありがとナス!誤字報告助かるぜ!ほなお気に入りもよろしくな!
て事で次回は一月になりそうです、視聴者ニキネキ、良いお年を