仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はいつもと違い、三次創作の投稿になります。前書きにも書いてある通り、本作は大ちゃんネオさんが執筆されている「仮面ライダーツルギ」のスピンオフ作品です。
今回の主人公は大ちゃんネオさんの仮面ライダーツルギに私が応募した、オリジナルライダーを主人公とした物語です。本編では決して描かれる事のないライダーの物語を、どうぞお楽しみください。


仮面ライダーウィドゥ編
エピソード ウィドゥ・1:解き放たれる飢餓


「はぁっ!? はぁっ!? はぁっ!?」

 

 日も傾き、夜の帳が下りてきた街中を奇妙な人物が走っていた。仮面と鎧を身に着けた人物――声から察するに少女――だ。現代日本の感覚で言えば明らかに異常な姿をしたその人物ではあるが、周囲をよくよく見てみればその光景における異常が鎧の人物だけではない事が分かるだろう。

 

 全てが鏡写し。看板や標識の文字も、信号機の色の並びも全てが鏡に映したように正反対。

 それもその筈、ここは鏡の中の世界…………ミラーワールドなのだ。そこに生命の気配はなく、街中だと言うのに人の気配のない中をその鎧の人物――仮面ライダー――は必死に駆けている。

 

 よく見ると負傷しているのか、片腕を押さえ時折後ろを振り返りながら何処かへ向けて走っている。何かから逃げているかのようだ。

 

「はぁ!? はぁっ!? あと少し……あと少しで――――!?」

 

 鼠の様な紋章が刻まれたバックルを身に着けた仮面ライダーが向かう先には、打ち捨てられた鏡が置かれている。所々割れて薄汚れてはいるが、まだ鏡としての役割は健在で周囲の景色を映していた。

 

 仮面ライダーがあと少しで鏡に辿り着こうとしている。

 

 その時であった。

 

「キャプチャーベント」

「あっ!?」

 

 突然何処からか粘着性の糸が飛んできて、仮面ライダーをその場に立ったまま拘束してしまった。必死に藻掻く仮面ライダーだが、糸は藻掻けば藻掻くほど絡み付き自由を奪っていく。

 

 糸に絡め捕られた仮面ライダー。その仮面ライダーに、近付く者が居た。

 

「つっかまえた!」

「ひっ!?」

 

 現れたのはまたも仮面ライダー。その様子は黒いベールを被った姿から未亡人かシスターを彷彿とさせた。

 

「いきなり逃げるなんて、シャイなのね! さっきはあんなにアタシの事を愛してくれたじゃない?」

「こ、来ないで!? お願い、見逃して!?」

 

 両手を広げながら近付いてくる未亡人の様なライダーに、鼠のライダーは必死に命乞いをする。だが黒いライダーは止まらない。彼女はゆっくりと近付くと、鋭い爪の手甲を着けた両手で鼠のライダーの両頬を包み、キスをするのではと言うほどに顔を近付けた。

 

 目前に迫った黒いライダーの顔に、鼠ライダーの口から歯が小刻みにぶつかるカチカチと言う音が聞こえてくる。

 

「大丈夫よ、安心して! アタシ……“私達”は、どんな愛でも受け入れるし、受けた愛はしっかりお返しするから…………ね?」

 

 途中でガラリと声色を変える黒いライダーは、鼠ライダーの頬にを包んでいた両手を離すと大きく両腕を広げた。

 

 その様子は、愛する者を全力でハグしようとしている様でもあり…………蜘蛛が獲物に襲い掛かろうとしている様でもあった。

 

「さぁ、貴女も…………アタシ達が愛してあげる!!」

「いやぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分と経たず、鼠ライダーが近付いていた鏡から黒いライダーが姿を現した。黒いライダーが鏡から出ると、鎧とアンダースーツが鏡が割れるように消え制服姿の少女が残った。セミロングの髪で左目が前髪で隠れた、美人に数えられる容姿の少女だ。

 

 その少女――氷梨 麗美(ひょうり れみ)は、どこか熱に浮かされたように頬を上気させながら口を開いた。

 

「あぁ…………素敵」

 

 つい先程1人の人間の命を奪ったとは思えないほどの恍惚とした表情を浮かべる麗美。だがその顔は直ぐに愁いを帯びたものへと変化した。

 

「でも、あの人もお父さんたちみたいに居なくなっちゃった。私達を心行くまで愛してくれる人、なかなか見つからないね、“瑠美”?」

 

 そう呟くと、麗美は前髪に手を掛け右目の前にずらした。今度は右目が隠れ、左目が晒される。

 

「……大丈夫だよ“麗美”! きっと何処かにあたし達の事を思いっきり愛してくれる人が居る筈だから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麗美の両親は、彼女が生まれて直ぐの頃はまだまともだった。普通に彼女を愛し、普通の赤ん坊と同じように育てていた。

 だが彼女の父親の会社が不況で倒産し、無職になってから彼女の運命は狂い始めた。

 

 なかなか職に就けず、アルバイトで生計を立てるも生活は苦しく、父親は次第に酒に溺れる様になっていく。酔った父親は妻と麗美に暴力を振るう様になった。

 そんな状況になった時、信じられない事に母親が父親の味方をし始めたのだ。母親は自分に暴力が及ばないようにする為に、自身もバイトで金を稼ぎつつ夫と共に麗美を虐待する事で攻撃対象から逃れようとしたのである。

 

 物心ついた頃には既に麗美は両親からの虐待を受け、毎日両親からの暴力に怯える毎日を送っていた。世間の目を気にしてか、両親は彼女の顔を傷付ける事だけは絶対にしなかったが、服に隠れて見えない所には幼いながら大小様々な傷や痣が刻まれていた。

 

 それらを両親の手で隠されながら通った小学校時代。傷の存在がバレて面倒を起こしたら、両親からキツイ罰を受ける事を理解していた麗美は周囲の全てに怯えながら過ごしていた。

 

 そんな彼女の目に映る、自分以外の少年少女の家族の様子。学校帰りに寄り道した公園で目にする同年代の子供達が、両親と幸せそうに笑う姿が彼女には堪らなく羨ましかった。

 

 何故自分の両親は自分にあんな風に笑いかけてくれないのだろう? 何故自分はあんな風に笑えないのだろう?

 

『違うよ』

 

 父も母も、自分の事は愛していないのだろうか?

 

『愛してくれてるよ』

 

 自分はあんな風に遊んでもらった事が無い。衣食住以外で、彼女が両親から与えられるのは暴力のみだった。

 

『でもお父さんとお母さんの事は好き』

 

 自分はこんなに2人の事を愛してるのに。

 

『愛してくれてるから、じゃない?』

 

 虚ろな目で公園にいる他の家族を麗美が眺めていると、不意に1人の子供が母親に頬を叩かれた。子供は泣き出すが、母親は子供に厳しくも優しい声で語り掛ける。

 

「どうしてこんな危ない事をしたの! 怪我したらどうするの!?」

 

 その子供は、ジャングルジムの上でふざけてバランスを崩し、あわや落ちそうになっていたのだ。母親は、そんな子供にそれがどれだけ危険で一歩間違えたら大怪我では済まなかったかもしれないと言う事を分からせる為に、敢えて手を上げたのだ。

 

 それもまた一つの愛の形。我が子を愛するが故に、自らの手を痛めてでも危険を説いたのである。

 

 この光景を見た瞬間、麗美の中の疑問が氷解した。両親の暴力の意味を見つけ、彼女の心は歓喜と愛しさに包まれた。

 

「そうか、そうだったんだね、お父さんお母さん――――!!」

 

『ね? 言った通りだったでしょ?』

 

「私の事、愛してくれてたんだ!」

 

『暴力が、お父さんたちなりの愛情なんだよ』

 

 麗美の目は先程までの虚ろなものではなくなっていた。目は潤んでらんらんと輝き、頬は熱に浮かされたように紅潮していた。

 今までずっと愛されていないと思っていたのが、実は愛されていたと知って感情が振り切れたのだ。

 

 勿論それは彼女の勘違い。彼女の両親には娘に対する愛など微塵も存在しなかったが、只管に愛を求める彼女は暴力の中に愛情を見出すことで自らの心を守ったのだ。

 

「ところで…………貴女は誰?」

 

 麗美は先程から頭の中で聞こえるようになった声に問い掛けた。自分の周りには誰も居ない筈なのに、声だけは聞こえてくる。暴力が愛情だと分かったことが嬉しくて流していたが、落ち着いて考えると疑問を抱かずにはいられない。

 

『アタシは、瑠美。麗美の中に居るの』

「私の中に? 何時から?」

『さぁ? 気が付いたら麗美の中に居たの』

「そっか~」

 

 麗美は自分の中にいつの間にか生まれていた、瑠美と言う人格に対して特に警戒する事は無かった。分かるのだ。瑠美は無条件で自分の味方をしてくれる存在だと。

 

 それに、今の麗美にはそれ以上に重要な事があった。

 

「ねぇ瑠美? お父さんとお母さんに今までの愛を返そうと思うんだけど、どうかな?」

『うん、良いと思うよ!』

「でも私、力も弱いからお父さんとお母さんみたいに出来るかな?」

『そう言う事ならアタシに任せて。麗美、アタシと交代して』

「交代? こう?」

 

 不意に麗美の体から力が抜け、ガクンとその場で項垂れる。項垂れた拍子に前髪が垂れ、彼女の右目が隠れた。

 

 彼女が項垂れていたのは数秒にも満たない時間。だが次の顔を上げた時、そこに居たのは麗美ではなかった。

 

「さ、行こうか、麗美? お父さんたちを愛しに行こう!」

『うん! 行こう、瑠美!』

 

 その日の夜、住宅街にある小さな一軒家で惨劇が起こった。被害者はその家に住んでいた一組の夫婦。夫婦は寝ている間に手足を縛られ、動けない所を家の中にあるあらゆる物で徹底的に痛めつけられた末に息絶えていた。

 

 その惨劇を作り上げた加害者は、その2人の一人娘。両親の叫びで異常を察した近所の住民が呼んだ警察が家の中に入ると、そこでは全身ズタボロになった夫婦とそんな2人に恍惚の笑みを浮かべて頬擦りする麗美の姿を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時が流れ、麗美は今や高校生。聖山高校の二年生である。

 

 あの事件は、地域住民の証言から麗美が日頃虐待にあっていた事と発見当時の彼女が心神喪失と判断された事、何より彼女が子供と言って差し支えない年齢だった事もあって公になる事は無かった。

 

 麗美は精神病院に入院させられるも、数週間程で退院しその後は孤児院に入れられた。

 

 今度の孤児院には彼女に暴力を振るう者は居ない。ある意味では幸運な事に、麗美は普通の孤児院に入れられたのだ。

 

 だが彼女にとってはある意味で不幸であった。ここには彼女を(暴力)してくれる人が居ない。両親がやってくれたように、彼女に愛をくれる者が居なかったのである。

 

 自身にとっての愛の無い生活に嫌気がさした麗美は、高校進学と同時に孤児院を出てバイトをしながら安アパートで1人生活していた。

 いや、正確には1人ではなかった。

 

「うん……うん……そっかぁ、フフフッ」

 

 麗美は通学路を歩きながら、1人虚空に向かって相槌を打ち時折クスクスと笑みを浮かべた。まるで存在しない何者かと会話しているかのような様子と体を左右にフラフラと揺らす姿に、同じ通学路を利用する生徒達は気味悪がって彼女から距離を取っている。

 

 今の麗美は、幼少期とはかけ離れた美人に育った。顔立ちは整い、左目を隠すセミロングの黒髪はまるで絹糸の様。特に目を引くのはその胸元で、制服の上からでも分かるほど大きさを主張していた。その見事な双丘に、男子の中には目を奪われるものも少なくない。

 しかしそんな彼らも、麗美に近付く事はしなかった。

 

 登校し授業が始まってからも麗美は相変わらずで、授業中こそ大人しいが休み時間は自分の中に居る瑠美とのみ会話し他の誰とも話さない。誰も近付いてこないと言うのが正しいか。

 

 誰も自分に話し掛けてこない事を特に気にする事も無く一日の授業を終え、下校の為下駄箱に向かって廊下を歩いていた麗美。

 そんな彼女に、曲がり角も向こうから現れた同校の少年がぶつかってきた。

 

「わぷっ!? おわぁっ!?」

「ん?」

 

 恐らく後輩だろうその少年は、麗美と出合い頭に彼女の胸にぶつかりその弾力で弾かれるようにその場に尻餅をついた。手にはキャンパスノートを持っている。恐らくは新聞部だろう。

 

 少年は尻餅をついた尻を摩りながら立ち上がると、麗美が自分の事を見ているのに気付き慌てて頭を下げた。

 

「あっ!? ご、ごめんなさい!? ちょっと、取材の為に急いでいたもので……」

 

 やはり新聞部だったらしい。少年は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 麗美はそんな少年に顔を近付け、すぐ間近でまじまじと彼を眺めた。

 突然鼻息が掛かりそうなほど顔を近付けられた挙句、いろいろな角度から観察するように見つめられ少年は身動きが取れなくなる。麗美の美貌に見とれていたと言うのもあるかもしれない。

 

「あ、あの……?」

 

 どれほどそうしていたか、困り果てて少年が声を掛けると顔を近付けてきた時と同様に突然顔を離すとまるで少年など存在していなかったかのように彼の横を通り過ぎていく。

 

 少年は訳が分からず麗美の後姿を見ていたが、急ぎの用事を思い出すと彼もその場を離れていった。

 

 1人廊下を歩く麗美は、徐に前髪を左目の前から右目の前にずらした。

 

「麗美、あの子どう思う?」

『どうって? 別に何とも。瑠美は?』

「アタシも。あの子もアタシ達の事愛してくれなさそうだし」

 

 今表に出ているのは、瑠美の方である。彼女は右目が出ている時は麗美、左目が出ている時は瑠美としての人格が出てくるのだ。

 

 そのまま瑠美として歩き、校門を出て帰路につく瑠美。

 

 彼女の表情は浮かないものであった。

 

「はぁ……アタシを愛してくれる人、何処に居るんだろう?」

『この間も当てが外れたしね』

 

 麗美はこれまでに、自分を心行くまで愛してくれる者を探そうと人知れず行動してきた。夜の街を出歩き、悪漢たちの中に自身の身を投げ入れた事も一度や二度ではない。

 

 だがいずれにおいても、彼女の心が満たされる事は無かった。街中に蔓延る程度の連中では、彼女からの“お返し”に耐え切れないのだ。大抵は彼女を放って逃げ出す。

 

 結局、日常でも多少日常からズレた程度の非日常でも、彼女が満たされる事は無かったのである。

 

 その時、何気なくカーブミラーを見るとおかしな光景を目にした。

 

 鏡の中から1人のセーラー服姿の少女がこちらを見て手を振っている。自分のすぐ隣で、だ。

 しかし少女が居る筈の方を見ても、そこには誰も居ない。もう一度カーブミラーを見ると、そこにはやはり少女が居る。

 

 これは一体どういう事だ? 疑問に思って首を左に傾けると、その拍子に前髪が揺れ動き左目が隠れ麗美が表に出る。麗美は鏡の中に居る少女に問い掛けた。

 

「貴女は、誰?」

「おっと、こちらから声を掛ける前に声を掛けてくれたとは! どうもこんばんは。私はアリス、貴女の願いを叶える為にやってきたキューピットの様なものとお思い下さい!」

 

 麗美はもう一度自分の隣を見るが、そこにはやはり誰も居ない。視線をカーブミラーに戻すと、アリスと名乗った少女が話し掛けてくる。

 

「貴女、満たされぬ願いを抱えているようですね。そんな貴女にこちらをプレゼント! このカードデッキがあればどんな願いも自由に叶えられますよ!」

 

 そう言ってアリスが麗美に向けて黒い箱の様な物を放り投げてくる。両手で受け取った麗美は、それが中に数枚のカードが入った物である事を知る。

 

「何、これ?」

「それは貴女の願いを叶えてくれる魔法のランプみたいなものです! 使い方はとっても簡単。それで変身して仮面ライダーになって、モンスターと契約したら他のライダーと戦って勝ち続けてください。見事勝ち残れば、貴女の願いが叶いますよ!」

 

 カードデッキからカードを出し、中身を確認する麗美。その中には確かに契約と言う意味の『CONTRACT』と言うカードがある。またそれとは別に、『LOVE』と書かれたカードもあった。

 

 それらカードの事は勿論気になるが、麗美はそれ以上に気になった事があった。

 

「戦う?」

「そうです! 貴女以外にも仮面ライダーは何人も居ます。その人達との戦いに勝ち残る事が出来れば――――」

 

 アリスがライダーバトルの事をあれこれと話していくが、麗美にとって重大なのはそこではなかった。

 

 戦うという事は、気兼ねなく相手を痛めつけまた痛めつけてもらえるという事。つまり、自由に愛し愛される事が出来るという事だ。

 

 それは彼女にとって何よりも甘美な言葉であった。

 

「どう使えばいいの?」

「お? 早速ですか? 良いですねぇ、やる気十分で! 使い方は簡単です! カードデッキを鏡に向けて、腰に巻かれたベルトのバックルにカードデッキを装填する。たったこれだけ。ね? 簡単でしょ?」

 

 可愛くウィンクするアリスを無視して、麗美は言われた通りカードデッキを鏡に向けた。すると鏡の中の麗美の腰に銀色のベルトが巻かれ、それが鏡から出て鏡の外の麗美の腰にも巻かれた。これが自分の願いを叶えてくれる物だと思うと、自然と口角がつり上がり笑みが浮かぶ。

 麗美は薄く笑みを浮かべながらカードデッキをベルトのバックル部分に装填した。すると鏡の中の麗美の体に鎧姿の騎士の様な姿が重なり、彼女を仮面ライダーに変身させた。

 

 鏡の中の自分が変身したのを見て、視線を下に向けると目に映る自分の体も変身しているのが分かった。

 

 だがこれでは不十分なのだろう。アリスの話によると、モンスターと契約しなくてはならないらしい。さてそのモンスターとやらは一体何処に居るのか。

 

「あ、気を付けてくださいね」

「え?」

 

 何に? と聞くよりも前に、麗美は自身の身に起こった異変に気付いた。何時の間にか、首に糸を束ねたような何かが巻かれていて、それは真っ直ぐ鏡の中に消えていた。

 

 これは何だと糸を手繰り寄せる麗美は、次の瞬間物凄い力で鏡の中に引きずり込まれた。

 

 まるで鏡で出来たトンネルの中を移動しているかのような光景を眺める麗美に、アリスが何処からか声を掛ける。

 

「言い忘れてましたけど、その姿では鏡の世界――ミラーワールドでは長く持ちません。ですから向こうに着いたら早急にモンスターと契約する事をお勧めしますよ」

 

 アリスの言葉が終わると同時にミラーワールドに放り出される麗美。周囲を見ればそこは確かに鏡の世界と言うに相応しく、文字から何から全てが反転した世界が広がっていた。

 

 だがそれに感心している暇はない。ミラーワールドに引きずり込まれた彼女の前には、その下手人だろう大きなクロゴケグモの様なモンスターが居たのだ。

 

 自身に向けて殺意を向けてくるクロゴケグモの様なミラーモンスター・ブラックスキュラ。向けられる殺意に、麗美はしかし恐怖に震える事無く寧ろ嬉々としてカードデッキからCONTRACTのカードを取り出しブラックスキュラに向けた。

 

 契約が進む中、麗美は期待に胸を膨らませていた。これからこの鏡の世界で、自分はどれだけの人間と愛を育めるだろうか? 相手は男だろうか、それとも女だろうか? いやどちらでも良い。大事なのは愛し愛される事。そこに性別の違いは存在しない。

 

 今まで愛されなかった分、これからは思う存分に愛されよう。

 

 今まで愛せなかった分、これからは存分に愛そう。

 

「『あぁ……はぁ――!!』」

 

 契約が完了した時、麗美と瑠美は同時に恍惚の溜め息を吐いた。仮面に隠れて見えないが、きっとその下の顔は今まで彼女が見せた事が無い程紅潮しているだろう。それこそ、男を床に誘う淫靡な娼婦の様に。

 

 契約が完了した事で、ブランク体だった彼女のライダーの姿にも変化が起こった。頭、肩、腰はそれぞれ黒いボロボロの布で出来たベール、ケープ、前開きのスカートが巻かれ、右肩にはブラックスキュラを模した召喚機ブラックバイザーが取り付けられている。

 今ここに、新たなライダー・仮面ライダーウィドゥが誕生した。

 

「は~い! おめでとうございます! 契約完了です! あ、一つ言い忘れてましたけど仮面ライダーになっても鏡の中に居られるのは最大9分55秒ですのでお気をつけて。それでは良きライダーライフを!」

 

 その言葉を最後にアリスの気配は消えていった。だが麗美にとってそんな事はどうでも良かった。

 

 重要なのは、自分が理想郷とも呼べる場所に立てたと言う事実なのだから。

 それをこの後彼女は強く実感する事になる。

 

「ハッ!」

 

 出し抜けに背後から斬りかかられた。背中に走る痛みに、表情を歓喜に歪めながら振り返るとそこにはカードデッキにカミキリムシの様な紋章が刻まれた仮面ライダーがいた。右手には先程ウィドゥを攻撃するのに使ったのだろう、カミキリムシの頭を模したカタールが握られている。

 

「見た所、まだ仮面ライダーになり立てみたいね? ちょうど良い、早々に潰させてもらうわよ!」

「あはっ!」

 

 カミキリムシのライダーに変身した少女は右手のカタールで何度も麗美に攻撃してきた。麗美はそれを、避ける事無く全て受け止める。

 

「うぐっ!? ぎっ?!……ハハハッ」

 

 次々と放たれる攻撃に、ウィドゥの装甲が見る見るうちにボロボロになっていく。だがウィドゥは倒れない。それどころか、攻撃を受ければ受けるだけ積極的に近づいてくるではないか。

 その異様な光景に、カミキリムシのライダーは次第に勢いを殺されていく。

 

「な、何なの貴女――――!?」

「…………くふ」

 

 恐怖を滲ませながら放たれた問い掛けに、ウィドゥは小さく噴き出すと次の瞬間堪え切れないと言わんばかりに蕩けたような笑い声を上げた。

 

「あはぁっ! 瑠美、これ最高だよ! この人最高! ねぇそう思わない?」

「え? な、何を言って……」

「ホントホント! この人アタシ達の事大好きみたい! こんなに愛されたの、お父さんたち以来だよ!」

 

 狂ったように笑い声を上げる麗美と瑠美。感情が高ぶり過ぎているのか、互いに主導権を譲り合って交互に表に出ては言葉を紡ぎ、笑い続ける。

 

 その異様な光景に、カミキリムシのライダーは心を恐怖に支配された。そして今になって、自分が手を出してはいけない輩に関わってしまった事を知る。

 

「アヒャヒャヒャヒャッ!! ここまでされたらさぁ、アタシ達も愛を返してあげないと失礼だよね!」

「そうそう! ここまで愛してくれたんだもん、私達も思いっきり愛してあげないと!」

「ッ!? させるかッ!!」

「ファイナルベント」

 

 ウィドゥが反撃してくると悟り、その前に決着をつけるとカミキリムシのライダーは切り札となるカードを切った。

 

 姿を現す、カミキリムシの様なミラーモンスター。そいつは真っ直ぐウィドゥに近付くと、頭の触覚でウィドゥの体を持ち上げライダーの方に向けて放り投げた。

 飛んでくるウィドゥを、カタールを手に待ち構えるライダー。カタールはカミキリムシの牙の様に開いている。あれでウィドゥの体を両断するつもりだ。

 

 しかし――――――

 

「キャプチャーベント」

「ッ!? なッ!?」

 

 突然自身に覆い被さった網。それは粘着質で、ライダーの動きをその場に縫い留めた。結果、ファイナルベントは不発に終わり、それどころかウィドゥを自身の近くに引き寄せるだけであった。

 

「お待たせ! さっきまで愛されてばかりでゴメンね! 今度はアタシがあんたの事を愛してあげるからさ!」

「ストライクベント」

「ま、待って!?」

 

 相手のライダーからの制止の声を、ウィドゥは無視して攻撃を仕掛ける。両手の手甲・ブラッククローの鋭い指先による攻撃が、相手のライダーの装甲を削り取る。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

「アヒャヒャヒャヒャッ!! お父さんたちもそうだった! あたしが愛してあげたら、お父さんたちもそんな風に声を上げてた! あ~、懐かしい!」

「止めて!? お願い止めて!? 痛い痛い痛いぃぃぃっ!?」

「うんそうでしょ、痛いでしょ! それだけアタシがあんたの事を愛してるって証よ!!」

「いぎぃぃぃぃっ?!?!」

 

 ウィドゥが相手ライダーの装甲の無い所にブラッククローを突き立てると、相手は引き攣ったような悲鳴を上げる。単純なダメージによる痛みだけではなく、流し込まれる毒の痛みで二重の苦痛を感じているのだ。

 

 あっという間に虫の息になる相手ライダー。気付けばキャプチャーベントの効果が切れたのか、相手を拘束していた糸は消えている。

 

「ひ、ひぃっ!?」

「アドベント」

 

 今が好機と、相手ライダーはアドベントで自身の契約モンスターを呼び出しウィドゥの相手をさせた。ウィドゥがモンスターに掛かり切りになっている間に、何とかこの場から逃げ出さなくては。

 

「ん、フフフッ!!」

 

 モンスターを囮に逃げ出そうとする相手に対し、ウィドゥは右肩のバイザーからカードキャッチャーを伸ばすと一枚のカードをデッキから引き抜き装填した。

 

「ファイナルベント」

 

 ウィドゥが使用した切り札のカード。契約モンスター・ブラックスキュラが姿を現すと糸の弾を発射、相手ライダーとその契約モンスターを纏めて拘束してしまった。

 

「あぁっ!?」

 

 自身の契約モンスター共々再び拘束された相手ライダーに、ウィドゥが全速力で近付く。

 その姿は正しく、巣に掛かって藻掻く獲物に襲い掛かる蜘蛛そのものであった。

 

「く、来るなッ!? 来ないでッ!? いやぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

「あはぁっ!!」

「ぐふっ?! あがぁっ!?」

 

 必死の命乞いも空しく、ウィドゥの両手のブラッククローがモンスター・ライダーと立て続けに相手の腹を貫いた。強烈な猛毒を流され、モンスターもライダーもその場で力尽き体がボロボロと崩れていく。

 モンスターとライダーが息絶えると、そこから光の玉が浮かび上がる。ブラックスキュラはそれに取り付き、敗者の命を貪った。

 

 極上の餌に歓喜の声を上げるブラックスキュラ。

 その横では、ウィドゥが同じく歓喜に打ち震えていた。

 

「麗美……これ最高! こんなに愛して愛されたの久しぶり!」

『うん! これならきっと見つかるよ、私達を心行くまで愛してくれる人が!!』

 

 たった今、1人の少女の命を奪ったとは思えない恍惚とした様子を見せるウィドゥ。

 

 彼女はこれからもライダーバトルに身を置くだろう。その満たされぬ欲望を満たす為に。

 

 その心が満たされるのは、恐らく彼女自身の身が朽ちる時だけだろう。




今回この様な三次創作を執筆するのは初めてですので、なかなかに緊張しました。特に仮面ライダーツルギの設定や世界観、あちらのキャラクターを崩さない様にと神経を使いましたね。
この作品が大ちゃんネオさんだけでなく、仮面ライダーツルギをお気に入り登録している他の読者さん達にも満足していただけるか期待半分不安半分と言った心境です。

麗美・留美を主役としたストーリーはあと1~2話ほど執筆予定です。その後はもう一人の応募したキャラで数話執筆しますので、よろしくお願いします。
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