仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は二話連続投降になります。第3話をまだ読んでいらっしゃらない方はそちらからお願いします。


クロスストーリー・4:そして出会いは消える

 時間は少し遡り、新学期が始まった聖山高校。

 

 そこに通う女子生徒の1人、日吉 佳奈は相変わらず学校に顔を出さない親友に溜め息を吐きつつ昼休みを迎えた。

 手作り弁当を机の上に取り出し、遊以外の学友と共に昼食をとろうとした時だった。

 

「ねぇ……」

「ん?」

 

 不意に声を掛けられ、そちらを見ると麗美のドアップになった顔と目が合った。

 普段全く話さない相手が声を掛けてきたどころか、超至近距離で凝視してきた事に佳奈は心臓が止まるほど驚いた。

 

「うぉわっ!? お、お前氷梨か? 何の用だよ!!」

 

 突然の事に驚かされ、咄嗟に文句を口にする佳奈。だが麗美は彼女の文句など全く意に介さずそのまま彼女を凝視し、更には匂いまで嗅ぎだした。

 凝視するだけでなく匂いまで嗅いできた事に佳奈は畏怖よりも先に怒りを感じた。何故碌に関わりも無い奴に、注目されるどころか匂いまで嗅がれなければならないと言うのか。いや、例え知り合いであったとしてもいきなり匂いなんて嗅がれたくはない。

 

「な、何だよ一体!? あたしが臭いとでも言いてえのか!?」

 

 激昂して立ち上がる佳奈を、周りの学友は止めようとした。怒りを覚えた彼女は気付いていないようだが、学友達はいち早く気付いていた。

 麗美の纏う空気がヤバい事に…………。

 

 今にも麗美の胸倉を掴まんばかりの勢いの佳奈だったが、彼女よりも先に麗美の方が動いた。

 

「ちょっと……来て」

「は? 何であたしがお前に呼び出されなきゃならないんだよ? 訳分かんねえ」

 

 呼ばれる理由が分からず拒否する佳奈だったが、彼女が拒絶の言葉を口にすると麗美が彼女の腕を思いっきり掴んだ。こんな細腕のどこにそんな力があるのかと言うくらい強く掴まれ、佳奈は痛みに顔を顰めてその手を振り払おうとした。

 

「いっつ!? 何すんだ、離せ――――!?」

 

 だが佳奈は麗美の手を振り払う事が出来なかった。痛みに一瞬怒りを忘れて麗美の目を見て、佳奈も漸く今の麗美が危険な雰囲気を纏っている事に気付いたのだ。

 

 思わず言葉を詰まらせた佳奈に、麗美は息が掛かるほど顔を近付けた。

 

「ついて来て……くれるよね?」

 

 訊ねてはいるが、ノーとは言わせない雰囲気に佳奈は無言で頷いた。佳奈の返答に麗美は目を細めて笑い、彼女の腕から手を離して彼女と共に教室から出ていく。佳奈が逃げないようになのか、彼女を先に行かせると言う徹底ぶりだ。

 

 教室から出ていく2人を、他の生徒達は不安そうに見ている。気にはなるが、注目し過ぎて気を引きたくないと言った心境だろう。

 

 佳奈を先に教室から出し、自分も教室から出る。

 

 その際麗美……と交代した瑠美は、一度教室の中を見渡し――――――

 

「…………アヒャ」

 

 教室内から彼女を見ている生徒達に笑みを見せ、改めて教室から出ていった。最後に見せた彼女の笑みに、生徒達は全員委縮し暫く動く事が出来ずにいた。

 

 瑠美によって連れ出された佳奈は、そのまま人気の無い校舎裏に連れていかれた。時間が時間の為、他の生徒の姿は全くない。

 

「……で? 態々こんな所に呼び出して、一体何の用だよ?」

 

 ここまで来る道中で落ち着きを取り戻した佳奈は、瑠美を出来る限り刺激しないように注意しながら呼び出した理由を問い掛けた。繰り返すが佳奈には麗美に呼ばれる理由が全く思い当たらない。

 

 だが麗美の方にはあった。途中で再び交代して表に出た麗美は、近くの窓ガラスに手を突きながら佳奈に逆に問い掛けた。

 

「何で貴女から、遊の匂いがするの?」

「は? 遊の匂い?」

 

 いきなり何を言い出すのかと困惑する佳奈だったが、麗美は構わず問い詰めた。

 

「貴女からは遊の匂いがするの。ねぇ教えて。貴女と遊はどんな関係なの?」

 

 つい先日、佳奈は遊の家に遊びに行っていた。何時もの如く勝手に遊の家に上がり、手料理を振舞って適当に駄弁って帰っただけだ。それ以上の事などしていない。

 

 だが麗美にとって、自分以外の人間が遊の匂いを体に付けている事はこの上なく気に入らない事だった。

 

「どんな関係って……ただの友達だよ。それ以上の関係じゃない」

「友達……それって何時から?」

「何時からって、そんなの聞いて「答えて」……中学生の時からだよ」

 

 有無を言わせぬ麗美の物言いに、佳奈は必要以上に反論せず答えた。

 

 佳奈の答えを聞き、麗美は押し黙った。何も言わなくなった彼女に、佳奈は恐る恐る話し掛ける。

 

「そ、そう言えばこの間、遊の奴も氷梨の事聞いてきたけど、お前らの関係は何なんだよ?」

 

 もしこの事態を生み出したのが遊に原因があるのなら、後で文句の一つでも言ってやるつもりだった。それ位しないと割に合わない。

 

 一方で麗美にとって、佳奈の答えはただ事ではなかった。中学生の頃からの付き合い。それはつまり、佳奈は自分以上に遊と親しい……即ち遊にとって大事な存在であると言う事に他ならない。

 

 それが意味するのはつまり、麗美にとって佳奈はこの上ない邪魔者であるという事でもあった。

 

「……私ね、遊の事大好きなの」

「は?」

「遊は今まで私があった人の誰よりも私の事を愛してくれた。だから私も遊の事をとっても愛したの。それが凄く心地良いの」

 

 突然のカミングアウトに、佳奈の思考が停止する。言葉だけを聴けば同性愛者の発言である。親友にそっちの気があったのかと、佳奈はこの場に居ない親友を問い詰めたくて仕方なかった。

 

 だが直ぐにそれどころではなくなった。

 

「でもさ、遊はアタシ以外にも優しくするのよ。皆遊の事が好きみたいで、遊も満更でも無いみたい。アタシはこんなに遊の事が好きなのに、遊はアタシだけを見てくれない!?」

 

 突然瑠美に切り替わり、雰囲気の変化に佳奈は目を白黒させる。

 

「遊にはアタシだけを見て欲しいの! アタシ達は遊の全部が欲しいの!! でもその為には邪魔な奴が沢山居るのよ。ここまで言えば、アタシ達が言いたい事…………分かるわよね?」

 

 歪な笑みを浮かべて近付いてくる瑠美に、佳奈は後退りした。佳奈が後ろに下がる度に、瑠美は距離を詰める。

 瑠美が距離を詰める度に後ろに下がる佳奈だったが、唐突にそれが出来なくなる。気付けば校舎の壁にまで追いやられていたのだ。佳奈の後ろには校舎の壁と窓がある。

 

 瑠美は佳奈の背後の窓ガラスに両手を付いた。左右を瑠美の手で遮られ、佳奈は逃げ場を失う。その佳奈に瑠美は顔を近付け、彼女に付いた僅かな遊の匂いを嗅いだ。

 

 佳奈は瑠美の行動に、蛇を前にした蛙の気持ちを理解した。

 

「すぅ…………はぁ、アンタからは凄く遊の匂いがする。アンタが居ると遊がアンタの事を見ちゃう。そんなの嫌。遊にはアタシだけを見て欲しい。だから…………」

 

 瑠美が佳奈の背後の窓ガラスに目をやる。そこには、獲物を前に主人の許可を待つブラックスキュラが待機していた、

 

 今か今かと待つブラックスキュラに、瑠美が笑みを浮かべて頷く。主人からの許可が出て、ブラックスキュラは喜んで窓ガラスを背にした佳奈に襲い掛かる。

 

「佳奈ぁぁぁッ!!」

「あぐっ!?」

 

 ブラックスキュラが佳奈を捕らえる直前、遊が瑠美を殴り飛ばし佳奈を窓ガラスから引き剥がした。ブラックスキュラはギリギリのところで佳奈を取り逃がし、怒りの声を上げながらガラスから半身を出し佳奈を捕らえようとする。

 

「ば、化け物!?」

「相棒!!」

 

 尚も佳奈に襲い掛かろうとするブラックスキュラを、遊に呼び出されたガッツフォルテが抑え込む。ブラックスキュラ同様にガラスから体を半分出し、佳奈に襲い掛かろうとしたブラックスキュラをミラーワールドに引き摺り込んだ。

 

 一先ず佳奈に迫っていた脅威が去った事に、遊は安堵の溜め息を吐く。その遊に、混乱した佳奈が詰め寄った。

 

「お、おい遊!? ありゃ一体何だ!? 氷梨とお前はどういう関係なんだ!?」

「悪いけど、今それに答えてる暇はなさそうだよ」

 

 佳奈の疑問は尤もだが、瑠美が一発殴られた程度では止まらない性質である事は遊がよく分かっている。ここに居られては、佳奈の身に危険が降りかかってしまう。

 

「佳奈は早く逃げて。瑠美はわたしが何とかするから」

「瑠美? あいつ麗美だろ? お前一体何を知って「いいから早く行ってくれ!」!?……分かったよ。ただし、後で全部説明してもらうからな!!」

 

 遊が何時になく見せる本気の姿に、佳奈はこれがただ事ではないと理解しその場を離れる事にした。分からない事はまだまだ沢山あるが、この場は遊に従うべきであると心で理解した。

 

 校舎裏から逃げる佳奈を瑠美が追いかけようとするが、その前に遊が立ち塞がる。己の邪魔をする遊の姿に、瑠美は邪魔された不満と来てくれた喜びが混じり合った笑みを浮かべた。

 

「来ちゃったのね、遊?」

「あぁ。流石に佳奈はやらせないよ。佳奈はわたしの大事な友達だ」

「大事…………」

 

 遊が口にした「大事な友達」と言う言葉に、瑠美の顔から笑みが消えた。ただならぬ瑠美の雰囲気は、遊に様々な疑問を抱かせるのに十分過ぎた。

 

「瑠美。一体どうしたって言うんだい? 何だって佳奈を狙ったりした?」

「だって……あの子が居ると、遊がアタシだけを見てくれないんだもの。遊にはアタシと麗美だけを見て欲しいの」

 

 瑠美は麗美と交代した。左目を隠した彼女は、今までにみせた事の無いような悲しみと不安に溢れた顔をしていた。

 

「私、遊がこの世の誰よりも好きなの。お父さんもお母さんも、私と瑠美が愛したら居なくなっちゃった。私はこんなにあの2人の事を愛してたのに、あの2人は私達の愛に答えてくれなかった!? お父さんとお母さんだけじゃない!? それから一度は私達の事を愛してくれた人も、私達が愛したら皆離れて行っちゃった!? 誰も私達の愛には応えてくれないの!?」

 

 麗美は頭を掻き毟り、額を窓ガラスに何度も叩き付けながら叫んだ。

 その様子に遊は、以前佳奈から聞いた麗美に関する黒い噂が事実であったことを理解した。

 

「でも遊は違った! 遊は私達の愛に応えてくれた! 私達に愛されて、私達を本気で愛してくれた! 凄く凄く嬉しかった!!」

「だからアタシ達は遊の全部が欲しいの!! 遊以外何もいらないし誰もいらない! ううん、アタシ達には遊しか居ないの!?」

「だから私達から遊を持っていっちゃうものは全部無くすの! 仮面ライダーもモンスターも、遊のお友達も全部全部全部!!」

 

 狂ったように笑いながら麗美と瑠美は交互に表に出て遊に己の胸中を打ち明ける。いや、実際に彼女は狂っていた。愛に飢え、愛に狂っているのだ。

 

 そして理解した。麗美はこのまま放置してはならない。彼女を放置したら、佳奈だけでなく自分に親しい誰もが彼女の犠牲になってしまう。

 

 そんな事は絶対させない。

 

「……いやはや、わたしにまだこんな人間臭い一面が残っていたとはねぇ。仮面ライダーになってすっかり化け物になったかと思ってたけど、案外そうでもなかったみたいだ」

「ところで遊…………いい加減そこ退いてくれない? 遊を私から横取りする、あの子を早く消しちゃいたいんだ」

「退くと思うのかい?」

「ん~……思えない」

「なら、どうする?」

 

 挑発するように遊が告げると、麗美はカードデッキを取り出した。

 

「遊にも邪魔はさせないよ。私は遊を私だけのものにするの」

「やってみたまえ! 言っておくけど、私はそんなに安い女じゃないよ!」

 

「「変身!!」」

 

 麗美と遊は、ウィドゥとレイダーに変身しミラーワールドへと入る。そこでは既に佳奈を襲おうとするブラックスキュラとガッツフォルテが激しく戦っており、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 そう、一進一退である。ライダーのスペックを見れば分かる事だが、ブラックスキュラはモンスターとしてはどちらかと言うと弱い部類だ。同系統でありながら大型のディスパイダーとは比べるべくも無く、素早さと他のスパイダー系モンスターにはない毒の糸以外は全てにおいて負けていた。

 だが最近は、麗美が精力的にライダー狩りをしていたのでブラックスキュラも強化されていた。連日極上の餌を摂取して、本来であれば格上である筈のガッツフォルテと互角に戦えるまでになっていたのだ。

 

 二体のモンスターが激しく戦うのをバックにして、ウィドゥとレイダーも戦い始めた。

 

「どりゃぁぁぁっ!」

 

 レイダーの拳をウィドゥは正面から受け止める。鈍い痛みがウィドゥのボディに響くが、彼女はそれを喜んで受け入れ歓喜の声を上げながら反撃を繰り出した。

 

「うふふふふふ! こんな時でも遊は私だけを愛してくれるんだね! だから遊が好きなんだよ、私!」

「にははは、我ながら困った性分だよ。佳奈の為と思っていながらもこの戦いを楽しんでしまう。でも今回は絶対に負けられない戦いだ。悪いけどどんな手でも使わせてもらうよ!」

【NASTY VENT】

 

 今までウィドゥとの戦いでは使ってこなかった、相手の行動を妨害するカードをレイダーは切った。レイダーがカードを使用すると、ブラックスキュラと戦っていたガッツフォルテが激しいドラミングでブラックスキュラとウィドゥの動きを纏めて止めに掛かった。

 

「うぐぁっ!? く!?」

 

 今まで味わった事の無い聴覚への苦痛。それにウィドゥは一瞬両耳を手で押さえるが、直ぐにその口からは喜びの笑みが零れた。

 

「う、うふふふふふ! 遊ったらこんな事も出来たんだね! もっと早くからやってくれれば良かったのに!」

「うん、分かってはいたけど君相手には焼け石に水だったみたいだね」

 

 これが純粋に相手の動きを停止させる、それこそウィドゥ自身が使うキャプチャーベントの様なものであれば効果はあっただろう。しかしこのナスティベントは、苦痛により相手の動きを妨害するカードだ。苦痛を快楽に変換してしまうウィドゥ相手には逆効果であった。

 

 先程よりも更にキレのある動きでレイダーに攻撃を仕掛けるウィドゥ。両手のブラッククローの毒が、徐々にレイダーの体を蝕み始める。

 

「ぐぐ――――!?」

「どう、遊? 私の愛届いてる? 遊に喜んでもらおうと思って私すっごく頑張ったの! こんなにこんなに遊の事を愛してるの!」

 

 拳と爪の応酬をしながら、ウィドゥは仮面の奥で笑みと共にレイダーに語り掛ける。何とか爪による毒を捌いているレイダーだったが、ウィドゥは巧みに攻撃を当て着実に毒をレイダーの体に蓄積させていった。

 

 少しずつだが毒によりレイダーの動きが鈍くなっていく。

 

「ほら、私達の愛がどんどん遊を満たしてるよ! 遊の愛が私達の奥に染み込んでくるよ! どう、遊? 楽しい?」

 

 こんなのが、楽しい訳ない。常人であればそう答えるに決まっている。痛くて苦しくて、友人の危機が迫っている中で楽しいなんて感情湧いてくる筈がない。

 

 しかし、この場に普通の人間は存在しなかった。

 

「にははははは! そうだね! 楽しいよ! 負ければ佳奈が危なくて、絶対負ける訳にはいかないって分かってるのに、それでも君とのこの一時を私は楽しんでいるよ!」

 

 答えながらレイダーはガッツナックルを装着した拳をウィドゥにぶち込んだ。一発だけでなく、何発も。それはウィドゥのブラッククローの爪を弾き、相手の攻撃をねじ伏せて自分の攻撃を喰らわせる。

 

「ぐふっ!? あぐっ!? う……アヒャヒャヒャヒャ!! 麗美ぃ、独り占めなんてズルいよぉ! アタシも遊の愛を直に感じたいわ!」

 

 ここでウィドゥの中身が麗美から瑠美に交代する。瑠美のウィドゥはレイダーに接近すると、抱き着くようにして攻撃を仕掛けた。左右から包むように飛んでくる爪が、レイダーの装甲を削っていく。

 

 どちらも一歩も退かない攻防は続き、戦いの中で気付けば2人は校舎から大きく移動していた。2人の戦い方は一見すると殆ど移動の無い戦いのように思えるが、レイダーのパワーで殴られたウィドゥが大きく吹き飛ばされるなどして移動していたのだ。

 

 気付けば2人は、学校近くの河原まで移動していた。川の水を跳ね飛ばしながら、2人は変わらず拳と爪で相手の体を削り合う。

 

 何時までも続くかに思えた攻防戦。しかしここはミラーワールド。滞在できる時間には限りがある。

 自分達の体が粒子化し始め、レイダーをウィドゥは共に顔に焦りを浮かべた。

 

 このままでは、また勝負がつかないまま終わってしまう。今まではそれで良かったが、今回だけは絶対に決着を付けなければ。

 

 ウィドゥはレイダーを行動不能にしなければ佳奈を始めとした者達の始末が出来ず――――

 

 レイダーはウィドゥを行動不能にしなければ佳奈達親しい者の命が危ない――――

 

 何とかしなければと思った時、2人は同時に同じ結論に辿り着いた。

 

「「……出ればいいんじゃん」」

 

 何もミラーワールドで決着をつける必要は何処にもない。これ以上ミラーワールドに居られないのなら、現実世界で戦えば良いだけの話なのだ。考えてみれば簡単だった。

 

 2人は同時に相手の体を掴むと、そのまま川の水面に飛び込んだ。水面が鏡面となり、現実世界への出口となる。

 

 ミラーワールドから出ると同時に、2人の変身は解かれ元の姿に戻る。しかし2人はそのまま戦い続けた。全く強化されていない、人間としての力だけで放たれた拳が互いの顔に突き刺さる。

 

「うふふふふ! アヒャヒャヒャヒャ!」

「にははははは! にっはっはっはっはっは!」

 

 2人は互いに何度も相手に拳を叩き付けた。何も巻いていないので拳は傷付き、自分の物か相手の物か分からない血で真っ赤に染まる。

 

 それでも、2人は戦いを止める事は無かった。

 

 遊の拳が麗美の頬を殴り抜く。

 

「ぐぶっ!? う、うふ、アヒャ!」

 

 麗美、若しくは瑠美がお返しに遊の腹にねじ込むように拳を突き刺す。今の彼女が麗美と瑠美どちらなのかは分からない。何故なら普段は左右どちらか隠れている筈の目が、今はどちらも露になっているからだ。

 いや、今の彼女はもうどちらでもあり、どちらでもないのだろう。何よりも、今の彼女にとって自分がどちらかなどどうでも良い事であった。

 

 遊が自分だけを見て、自分だけを愛してくれている。それは麗美が何よりも望んだものであった。

 

「うげっ!? ぐ、え……にはは!」

 

 口から血の混じった吐瀉物を吐き出しながら、遊は殴るのを止めなかった。こんな喧嘩、今まで経験した事も無い。互いに血みどろになりながらも止まる事のない戦い。こんな戦いが出来るのは互いに譲れないものを持つ者同士しかできないと思っていた。

 その戦いを今正に自分達はしている。戦いに何よりも悦楽を見出す彼女にとって、これ以上に最高の状況は存在しなかった。

 

 2人とも今の状況を最高に楽しんでいる。

 だからだろう。どちらも全身血だらけで、傷の無い部分が無い状態だったがそれでも互いに笑顔を浮かべていた。

 

 そんな時、遊の拳が殊更に強く麗美の腹に突き刺さった。それは麗美の内臓を傷付け、口から赤黒い血の塊を吐き出させる。

 

「ぐぷ、えげ?!」

 

 どの内臓が傷付いたのかは分からないが、今の一撃は麗美にとって致命的だった。急激に足から力が抜け、体が崩れ落ちそうになる。

 

 それを支える為か、麗美は最後の力を振り絞って遊の体にしがみつくと、戦いの中で上着が脱げた彼女の剥き出しの肩に思いっきり噛み付いた。

 

「がぶっ!?」

「いづっ?!」

 

 まさか噛み付きが来るとは思っていなかったので、これには遊も驚かされた。

 

 だがそれも長くは続かない。噛み付きながらも体からは力が抜け、ずるずると崩れ落ちていく。遊はそれに合わせてしゃがみ、その途中で麗美の噛み付きを外した。

 

「はぁ……はぁ……」

「ぁ…………ぁ……」

 

 戦いは決した。麗美の命は残り僅かだろう。最後の遊の一撃がトドメとなった。

 

 徐々に心臓の鼓動が弱くなっていく。そんな中で、それでも麗美は遊に手を伸ばすことを止めない。

 

「遊……遊…………おね、がい…………わた、し……わ、たし……」

 

 もう彼女が何を伝えようとしているのか、遊には分からない。だが、遊には彼女に伝えたいことがあった。

 

 弱々しく伸ばされた麗美の手を遊は掴み、引き寄せると彼女の体を抱きしめた。

 

「…………ありがとう、麗美。瑠美」

 

「わたしにここまで付き合ってくれたのは、後にも先にもきっと君達だけだ」

 

「君達と過ごしたこの夏は、わたしにとってとても掛け替えのないものだったよ」

 

「一生の宝物だ。だから、ありがとう」

 

「大好きだよ」

 

 何だかんだで、麗美と瑠美と過ごしたこの夏の日々は遊にとって最高に輝いた日々であった。遊の嗜好に同調してくれる者など、彼女以外に居ないだろう。

 そんな相手との別れは、柄にもなく辛い。多分この先、麗美の様な者と出会う事は一生ないだろうと容易に想像ついた。

 

 だから、遊は万感の思いを込めて麗美に感謝と好意を口にした。それが彼女へのせめてもの手向けになると理解しているからだ。

 

「あ…………あぁ――――!」

 

 遊に抱きしめられ、感謝と好意を聞かされた麗美は苦しそうに喘ぎながらも目から歓喜の涙を流した。

 自身に向けられる混じり気の無い愛…………今ここに、彼女の願いは叶ったのである。

 

 歓喜の涙を流しながら、麗美は遊にその身を委ねて目を閉じた。その顔は、これまでの彼女の人生の中で最も安らかなものであった。

 

 もう彼女の目が開かれる事は永遠に無い。それを理解した遊は、麗美の頭をそっと撫でた。髪に隠れて今彼女がどんな顔をしているのかは、誰にも分からない。

 

 その後、遊がライダーバトルに最後まで勝ち残ったのか、それとも途中で脱落したのかは分からない。何故ならこの世界線はこの後、アリスにとっての不都合が起こりタイムベントで時間を巻き戻されなかったことにされたからだ。

 

 だが少なくとも確実に言える事は、この世界において氷梨 麗美は確かに救われた。苦痛と暴力にしか愛情を見出せない彼女は、本当の意味で誰かを愛し愛される事を知る事が出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、いくつかある御剣 燐と彼を取り巻く仮面ライダーの戦いの中で起こった、語られる事の無かった一幕である。

 

 果たしてこれは悲劇だったのか、それともこれで良かったのか。

 

 何より麗美と遊が正史と呼べる現在進んでいる物語の中で出会うことがあるのか? それは誰にも分からない。

 

 もしかすると出会うかもしれないし、このまま出会うことなく終わるかもしれない。

 

 ただ一つ言えることは、彼女達の物語はまだ終わっていないという事である。

 

 2人の少女がどんな結末を迎えるのか。

 

 それは御剣 燐を中心に紡がれる物語が教えてくれるだろう。




と言う訳でコラボ第4話、最終話後編になります。

このラストのバトルがコラボ執筆当初から描きたかったシーンでした。生身での笑いながらの殴り合い。ちょっぴりアルティメットクウガVSダグバを意識してますが、あちらは笑ってたのはダグバだけだったのに対してこちらはどちらも血みどろの笑顔です。

ラストの方でも描いてますが、麗美にとってはこれが最良の終わり方です。麗美はもう引き返す事が出来ないところまで狂ってしまっているので、普通のやり方ではどう足掻いても更生不可能です。何しろ何を説こうとも、麗美と瑠美で相談して自己完結してしまうので。
ただもし少しでもまともになれる余地があるとしたら、瑠美が生まれてすぐの頃に何とかする他ないでしょう。

これにて私が描くツルギのスピンオフは最後になります。ただこれで完全に終わりではなく、今後もミラクル時空や本編で描かれなかったシーンを気まぐれで書いたり、新たに応募したキャラが採用されたらそのキャラのスピンオフを書くことがあるかもしれません。その時はまたよろしくお願いします。

最後にスピンオフの許可をくださった大ちゃんネオさん、並びにコラボさせていただいたマフ30さん、ありがとうございました!
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