仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はウィドゥのストーリー第二話!前回よりも更に麗美/瑠美のキャラの掘り下げを行います。
前回以上に狂気に満ちた麗美/瑠美を描けたと思います。


エピソード ウィドゥ・2:止め処無い飢餓

 麗美がライダーとしての力を手に入れてから、早くも数週間が経過していた。

 その間、彼女は実に充実した日々を送っていた。

 

 時折挑戦してくる仮面ライダー達。勿論その全てを倒す事は叶わず、あれから新たに倒すことが出来たのは1人だけで、他は大体逃げられている。

 それと言うのも、本来ウィドゥは攻撃力・防御力共に低いライダーであった。それ故に、相手の攻撃は強烈に彼女に響き動きを鈍らせ、彼女の攻撃は相手を仕留めきるには僅かに及ばない事が多々あったのだ。

 

 だがそれを差し引いても、今の状況は麗美にとって最高の日々であった。今までに無い位の愛の応酬。見ず知らずだった相手と育む愛情は、彼女の乾いた心に潤いを齎し目に映る世界を輝かせていた。

 

 ここ最近はあまりの上機嫌に、鼻歌を歌う事も少なくない。

 

「~♪~~♪~♪」

 

 今も、先日の激しい戦闘で受けた愛情(痛み)を思い出し、教室の中だと言うのに人目を憚らず鼻歌を歌い始めた。ここ最近生き生きしてきた彼女に、しかし同級生達は不気味な何かを感じ近付くような真似はしない。

 

「昨日も素敵だったね」

『アタシはちょっと物足りなかったけどね。もっと長く激しく愛し合いたかった』

「シャイな人だったから仕方ないよ」

『あ~ぁ、偶にはもっとイケイケな人と愛し合いたいなぁ』

「きっと居るよ」

 

 徐に瑠美と話し始める麗美に、同級生たちは更に彼女から距離を取る。これが授業中だったら、隣の席の者などは動く事も出来ず居心地の悪い思いをせずにはいられなかっただろう。尤もその場合、教師も黙っていないが。

 

 だがそれを差し引いても、周囲の者にとっては困ったものだった。彼女は何の前触れも無く誰かと話しているような独り言を始める。それが不気味で不気味で仕方がない。

 実際には自分の中のもう1人の人格である瑠美と話しているのだが、彼女がその事を全く公言しないので他人がその事を察するのは無理と言うものであった。それが更に彼女を悪目立ちさせているのだが。

 

 そして、悪目立ちすると攻撃の的にされるのが人間社会と言うもの。特に精神的に未発達な少年少女の内はそれが顕著であった。

 

「ちょっとあんた」

 

 取り巻きを連れていきなり教室に入るなり、麗美に近付き声を掛ける女子生徒。周囲の生徒達は何と無謀な事をと言う驚愕が半分、何と勇気があるのかと言う称賛が半分の視線でその様子を見ていた。

 

「そう言えばこの間のアレ、覚えてる?」

「ねぇ、ちょっと? 聞いてる?」

「そうそう、それ。アレは良かったよねぇ。また会えるといいなぁ」

「~~~~!? ちょっと!」

 

 声を掛けられた麗美だったが、彼女は瑠美との会話に夢中で女子生徒の存在に気付いてもいない。その事に業を煮やしたその生徒は、麗美の肩を掴んで自分の方を振り向かせた。

 

 そこで麗美は漸くその女子生徒の存在に気付いたのか、キョトンとした顔を相手に向ける。

 

「ん?…………何?」

「何? じゃないわよ。さっきから呼んでるのに、無視してんじゃないわよ!」

「あぁ、ゴメンね? お話してて気付かなかった」

「話? 誰とよ、あんた1人じゃない?」

 

 女子生徒がそう言って訝しげな顔をすると、麗美は意味深な笑みを浮かべてクスクス笑うと席を立ち教室の外へ向かう。教室から出る直前、女子生徒に視線を向けると何処かへと向かってしまう。

 何となくだが、ついて来いと言われている様な気がして女子生徒は麗美の後をついて行った。

 

 麗美が向かったのは階段の踊り場だった。近くには大きな鏡があり、麗美はその鏡に片手をついて鏡の中の自分と見つめ合っている。

 だが女子生徒が近くに来ると、麗美はゆらりとそちらに顔を向けた。

 まるでズルリと言う擬音が聞こえてきそうな様子に、女子生徒達は悪寒を感じながら強気な姿勢を崩さず詰め寄った。

 

「あんた、最近調子乗ってるんじゃない?」

「顔良くて胸もデカいからって、いい気になってんじゃないわよ!」

「あとしょっちゅうブツブツ独り言言ってるみたいだけど、何あんた? 自分は見える人とか言う痛い妄想でもしてる訳?」

 

 この女子生徒達は前々から麗美の事が気に入らなかった。いつも1人でフワフワフラフラ、どこを見ているかも分からない目をしている上にブツブツ独り言を呟き、それでいて男子の視線は矢鱈集めるのだ。

 彼女達の目には、麗美は顔立ちとミステリアスな雰囲気、そして体付きで男子の注目を集めようとしている女に見えて仕方なかったのである。所謂ぶりっ子の類と同類に見えていた。

 

 それだけでも気に入らないのに、ここ最近は目に見えて機嫌を良さそうにして更に目立ちつつある。彼女達はそれがとても気に入らなかった。

 ここらで一発脅しをかけて、化けの皮を剥がして大人しくさせてやろうと考えていた。

 

 大抵こういう輩は、ここの様な人気の無い所で囲んで威圧してやれば直ぐに身の程を弁える。今回も直ぐに本性を現して、大人しくなるだろう。

 

 そう、思っていたのだが――――

 

「うふ、ふふふふふふ……」

「ッ!? な、何がおかしいのよ?」

 

 麗美は突然笑い出すと、彼女達から視線を外し再び鏡の自分と見つめ合い始めた。その様にナルシストかと言う思いも抱いたが、そんな感想は直ぐにどこかに吹っ飛んだ。

 

 こつんと額を鏡に付けた麗美は、そのまま女子生徒達など無視して鏡の自分に向けて話し掛け始めたのである。

 

「ねぇ、瑠美……この人達はどうかな? うん、うん……うふふふ」

「ね、ねぇ。こいつヤバくない?」

 

 鏡に向かってブツブツ話し、クスクスと笑う麗美の様子に女子生徒達は異常を通り越して危険を感じ始めた。

 周囲からの畏怖の視線を気にも留めず、麗美は瑠美との会話に没頭する。

 

「そんな事言っちゃ駄目だよ。きっとこの人も1人じゃ恥ずかしいんだって。お友達連れてきてさ」

「ね、ねぇ? あんたさっきから何ブツブツ言ってるのよ? 誰と話してるって言うの?」

 

 最初に麗美に声を掛けた女子生徒が、恐る恐る声を掛ける。もう最初の勢いは完全に消えていた。人数で威圧してペースを握るつもりが、麗美1人にペースを握られていた。

 そんな麗美は、彼女からの質問にヌルリとそちらを見やる。目が合って、女子生徒は意識せず唾を飲み込んだ。取り巻きに至っては完全に腰が引けている。

 

「うふ……」

 

 麗美は女子生徒を見ながら指を鏡に向ける。当然彼女が指差した先には、指を差し返している鏡映しとなった彼女の姿があるだけ。

 女子生徒が麗美と鏡を交互に見ると、麗美は鏡にへばりつき頬擦りし始めた。今度は両手も鏡に付けて、体全体を鏡に押し付けている。お陰で豊満な胸が潰され、なかなかに扇情的な姿になっているがその事を気にする余裕のある者はこの場に居なかった。

 

「や、ヤバいって!? もう行こう!?」

 

 取り巻きの1人が耐え切れなくなり、声を掛けながらその場を逃げ出した。それを合図に、堰を切った様に全員がその場から逃げ出した。

 残ったのは鏡にへばりついた麗美1人。

 

「行っちゃったね、瑠美」

『思った通りだったね、麗美』

 

 麗美は鏡に映った自分……否、瑠美に向けて語り掛ける。

 

 麗美は鏡に向かっている時が好きだった。普通であれば鏡に映るのは左右反転した自分の姿。しかし、麗美の場合鏡に映るのは右目が隠れた自分の姿……即ち瑠美の姿だ。つまり、この時だけは麗美と瑠美が互いに対面して話す事が出来るのである。主導権を交代した場合は瑠美が麗美と対面する。

 

「やっぱり普通の人じゃ、あんなもんだよね」

『口先だけだよね』

「またライダーの人が来てくれないかな?」

『こっちから捜しに行っちゃう?』

 

 文字通り、鏡映しの自分とああでもないこうでもないと話し合う麗美と瑠美。彼女は再び、愛情に飢え始めていたのだ。

 そう、暴力と痛みと言う名の愛情に。

 

 しかし次の瞬間、彼女の耳に耳鳴りのような音が響いた。それを聞いた瞬間、それまで退屈そうにしていた麗美と瑠美の顔に花が咲いたかのような笑みが浮かぶ。

 

「ッ! 瑠美、どっちかな? モンスター? それとも仮面ライダー?」

『分からないけど、どっちでもいいよ。早く行こう!』

 

 麗美は目の前の鑑にカードデッキを翳した。鏡の中の麗美からオーバーラップして腰に装着されるベルト。

 

「ん……はぁ。へん、しん」

 

 腰にベルトが巻かれると、カードデッキにキスをしそのままデッキを左頬に当てる。そして掛け声の後にデッキをベルトのバックル部分に装填すると、麗美の姿が一瞬で変化した。

 

 黒いアンダースーツに鈍色の装甲。頭には黒くボロボロのベールを被っており、肩には同じくボロボロの布で出来たケープが、腰にもボロボロの前開きスカートが巻かれている。

 

 それは騎士と言うよりは未亡人と言う言葉がしっくりくる姿の戦士。仮面ライダーウィドゥがそこに現れた。

 

 ウィドゥはそのまま倒れ込むように鏡の中に入ると、ライドシューターに乗ってミラーワールドへと移動した。

 

 ミラーワールドに入ってすぐ、彼女は目的の存在を見つけた。近くの民家の住民でも狙っているのか、鮫型のミラーモンスター・アビスハンマーが一件の家に近付いていた。

 それが野良のモンスターである事を一目で見抜いた瑠美(途中で交代した)は、落胆した様子を隠せない。

 

「な~んだ、野良か。食欲しか頭にないモンスターじゃ、期待できそうにないわね」

『ね~。さっさと終わらせて帰ろう』

 

 物陰から飛び出し、アビスハンマーに近付くウィドゥ。近付く彼女に気付いたアビスハンマーは、民家に近付くのを止めウィドゥに向けて胸部の二門の砲で砲撃してきた。

 その砲撃は、寸分違わずウィドゥの胸に直撃する。

 

「ッ!?」

 

 接近している所を正面から砲撃され、もんどりうって倒れるウィドゥにアビスハンマーの更なる砲撃が襲い掛かる。立ち上がった端から砲撃を喰らい、彼女の装甲が見る見る内に傷付いていく。

 遂には倒れて動かなくなるウィドゥに、アビスハンマーは勝利を確信したのか砲撃を止め彼女に近付いていった。彼女を捕食しようと言うのだ。

 

 仮面ライダーと言えど、中身は人間。滅多に起こる事ではないが、ライダーがモンスターに敗北すれば待っているのは単純な死ではなくモンスターによる生きたままの捕食である。生きながらに食われる苦しみは、想像を絶するに違いない。

 

 そうこうしている内に、アビスハンマーがウィドゥに近付いた。彼女を捕食すべく、アビスハンマーは手を伸ばす。胸部の連装砲が邪魔なので、体を傾け砲口を彼女から逸らした。

 

 その瞬間、ウィドゥが手を伸ばしアビスハンマーを引き倒した。困惑した様子を見せるアビスハンマーに、ウィドゥは顔を近付ける。

 

「アヒャヒャッ! 掴まえた!!」

 

 アビスハンマーの砲撃は確かに強力だった。だが固定砲台で、しかも体の大部分を占めていると言うのが大きな弱点だ。特に手が届くレベルになると、固定砲台と言うのが災いして満足に動く事が出来なくなる。

 

 ここからはウィドゥのターン。ウィドゥは砲撃が出来なくなったアビスハンマーを今までの礼と言わんばかりに徹底的に叩きのめした。

 

「あんた、野良のモンスターにしてはなかなか良い攻撃してくれたじゃない! もしかしてアタシの事好きなの? でもゴメンね、アタシ達別にケモナーでも何でもないの!!」

 

 先程までとは打って変わって、殴り、蹴り、叩き付けるなどしながらウィドゥは右肩の蜘蛛型のバイザーの尻からカードキャッチャーを伸ばし、一枚のカードを挿して手を離した。カードキャッチャーからは糸が伸びており、彼女が手を離すと糸が巻き取られカードがバイザーに装填される。

 

「ストライクベント」

 

 電子音声が響き、ウィドゥの両手に指先が鋭い手甲・ブラッククローが装着される。彼女はそれでアビスハンマーを滅多切りにした。

 このブラッククロー、ただ指先が鋭いと言うだけではなく毒がある。これで攻撃された相手は、毒を喰らい徐々に体力を消耗させるのだ。

 

 ウィドゥの攻撃を喰らう毎に、ダメージと毒で動きを鈍らせるアビスハンマー。先程まで狩る側だったモンスターは、最早狩られる側どころか弄ばれる側だった。猫が捕らえた獲物を甚振り、弱らせるも同然の光景が繰り広げられていた。

 

 しかしそれにも終わりがやってくる。アビスハンマーが仰向けに倒れ、動かなくなった。

 

「ん~? もうお終い? つまんないの」

「アドベント」

 

 反撃すらしてこなくなった相手に、ウィドゥは最早興味はない。

 興味が無いから、後は任せた。アドベントにより呼び出された彼女の契約モンスター・ブラックスキュラが、牙をギチギチと言わせながら動かないアビスハンマーに近付く。

 

 ウィドゥは、アビスハンマーの末路を見る事も無く踵を返しミラーワールドから出ていった。彼女がミラーワールドから出ていく直前、アビスハンマーはブラックスキュラにより貪り食われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーワールドから出た瑠美は、主導権を麗美に譲り自分は引っ込んだ。麗美は、戦いの影響で体に残った痛みにほんのり頬を赤く染める。

 

「野良相手だったけど、悪くなかったね。瑠美」

『そうだね、麗美。もしかしたらあのモンスター、アタシ達に懐いてたのかも』

「ペットにするのも悪くなかったかな?」

『ブラックスキュラがヤキモチ妬いちゃうよ』

「それもそっか」

 

 話し合いながら、麗美はその場を移動する。既に休み時間は終わり、授業が再開されていた。

 が、麗美は気にした様子も無く教室に戻ると自分の席に座った。教師が何か言ってきたが、適当に返事をして済ませる。教師の方も彼女の態度にいろいろと諦めたのか、それ以上何かを言う事も無く授業を再開した。

 

 説教から解放された(本人は説教をされた事自体気付いていない)麗美は、授業内容を右から左に聞き流しながら、この愛情への飢えをどう凌ぐかについて考えを巡らせていた。

 

――どうすればもっと愛して愛されるかな?――

 

 もっと愛したいし愛されたい。その為には他の仮面ライダーと出会わなければ話にならなかった。

 街を徘徊していれば時折モンスターに遭遇するが、野良のモンスターが相手では愛は望めない。戦うのならば相手は人間でなければ。

 

 とは言え、捜して見つかるほど簡単な話でもなかった。当然ながら多くのライダーは己がライダーである事を極力周りには悟られないようにしている。もし他人にライダーである事がバレ、それが敵の耳に入ってしまえば一方的に奇襲されかねない。

 

 授業が終わり、帰路につく麗美。その顔は何処か愁いを帯びている。

 

「はぁ……どこかにライダー、居ないかな?」

 

 帰り道で、麗美は鏡がある度にそれを覗き込みライダーの姿を探した。この際、ストレス発散が出来るモンスターでも良い。彼女はとにかく飢えていた。

 

――モンスターを暴れさせれば、ライダーの方から来てくれないかな?――

 

 そんな危ない事を考え始めた時、彼女に声を掛ける者が居た。

 

「お悩みですか?」

 

 声を掛けてきたのはアリスだった。相変わらず鏡の中から麗美の事を見ている。

 彼女の姿を見つけた瞬間、麗美は前髪で右目を隠した。

 

「あ、アリスじゃん。何か用?」

「いえねぇ、見た所ライダーバトルに飢えている様子でしたので、ここらで一つ私の方で一戦設けてあげようかと」

 

 戦う相手……即ち愛し合う相手を用意してもらえると聞き、瑠美/麗美の目の色が変わった。

 

『お見合いだね?』

「アヒャ! 良いじゃない良いじゃない! 早速連れて行ってよ!」

 

 一気にテンションが上がった瑠美に、アリスは鏡の中を移動しながら手招きした。瑠美はアリスを見失わないよう、そこら中にある鏡面を覗き込みアリスの姿を道標に移動する。

 

 どれだけ移動しただろうか。周囲を見渡して車の窓ガラスの中にアリスの姿を見つけた時、彼女は今度は瑠美を手招きせず意味深な笑みを浮かべながら瑠美の事を見ていた。どうやら目的の場所に到着したらしい。

 

 道中で交代し、表に出た麗美がアリスに問い掛ける。

 

「ここに居るの?」

「はい。あちらに」

 

 そう言ってアリスが指差した先に居るのは、麗美と同年代位の1人の少女だ。眼鏡を掛け、髪をお下げにしている如何にもガリ勉女子と言った見た目だ。

 

 彼女がアリスの言う、麗美と戦ってくれそうな相手のようだ。

 

「どうでしょうどうでしょう? 私の見立てだとお2人はなかなかにお似合いかと――――」

 

 次の瞬間、麗美がまるで窓ガラスに引き寄せられたかのようにべたりと張り付いた。突然の行動とアップになった麗美の顔に、アリスも小さく跳ねる。

 

「わぉっ!」

「あ、はぁぁぁぁ…………」

 

 アリスが見ている前で、麗美は怪しい笑みを浮かべながら窓ガラスに頬擦りをした。その視線はアリスの背後に向いている。

 

「おやおやぁ?」

 

 背後に気配を感じ、アリスが振り向くとそこには麗美と契約しているブラックスキュラが居た。麗美はブラックスキュラを熱の籠った視線で見つめ、次いで目的の少女を見やる。

 それだけで主人の指示を理解したブラックスキュラは、ミラーワールドの中を駆け目的の少女に糸を巻き付けた。

 

「なっ!?」

 

 糸が巻き付けられる直前、耳鳴りでモンスターの気配を感じたらしい少女は表情を強張らせたが、警戒するよりも先にブラックスキュラの行動の方が早くてミラーワールドに引き摺りこまれてしまった。

 

 仮面ライダーらしき少女がミラーワールドに引き摺りこまれたのを見て、麗美は笑みを深めると瑠美と交代しカードデッキを取り出した。

 

「ン~、チュッ! フフ、変身」

 

 カードデッキにキスを落とし、左頬に当ててからの変身。ウィドゥへと変身した彼女はミラーワールドに入ると、一目散に引き摺りこんだ少女の元へと向かった。

 

「いたた……え!?」

 

 目的の少女は直ぐに見つかった。少女は、ウィドゥの姿を見るとこの状況の下手人が彼女であると直ぐに気付き、恐怖に顔を引き攣らせる。

 

「な、何!? 一体何ですか!?」

「アヒャッ! いきなりでびっくりしちゃった? でも急がないと消えちゃうよ?」

「あ!? へ、変身!?」

 

 少女は自分の体が消えかけているのに気づくと、大慌てで仮面ライダーに変身した。背中のマントと、バックルに描かれた紋章から契約しているモンスターは蛾か蝶の様だ。

 

「アヒャヒャッ! さぁ、アタシが思う存分愛してあげる!」

「ストライクベント」

「何を言ってるんですか!? 言ってる事とやってることが滅茶苦茶ですよ!?」

「ソードベント」

 

 ウィドゥは相手が変身したのを見て、ブラッククローを装着。対する相手も、レイピアの様な武器を装備して彼女に対峙した。

 両者武器を構え、相手の出方を窺う…………様なことはなく、ウィドゥが一直線に突っ込んだ。

 

「んな!?」

 

 開戦早々にまさかいきなり突っ込んでくるとは思っていなかった相手ライダーは一瞬虚を突かれた。

 相手のライダーはここまでの挙動からも見て分かるレベルで戦いに慣れていないらしく、接近するウィドゥに対し迎撃も回避もしない。

 

 そのまま接近を許し、結果ウィドゥからの初撃を受けてしまった。

 

「いぎっ!?」

 

 ブラッククローの鋭い指先による攻撃を諸に喰らい、走る鋭い痛みに相手のライダーが悲鳴を上げる。だがウィドゥは止まらない。怯んで動かなくなった相手ライダーに、ウィドゥの更なる攻撃が続く。

 

「いや!? あぐっ?! 痛い、あぁぁぁぁっ?!」

「ねぇどう? アタシの愛、感じてくれてる? アヒャヒャヒャッ!」

 

 反撃してこない、否する余裕のない相手を、ウィドゥが執拗に攻撃する。ブラッククローによるものだけでなく、時には肘鉄に膝蹴りが叩き込まれ堪らず相手のライダーはその場に蹲った。

 動かなくなった相手を、ウィドゥが思いっきり蹴り上げる。

 

「うあっ!?」

「ん~?」

 

 蹴り上げられて、相手のライダーは為す術なくひっくり返り仰向けに倒れた。

 しかし圧倒的優勢であるにも拘らず、ウィドゥの様子は優れない。自分だけが一方的に攻撃している……愛を与えてばかりな事に不満を抱いている様子だ。

 

「ねぇ、アンタの愛は?」

「あ……愛?」

 

 ウィドゥの言葉に困惑する相手ライダー。対するウィドゥは、一向に反撃してくる様子の無い相手のライダーに焦れたのか少し声に苛立ちを交えながら再度問い掛けた。

 

「そうよ! さっきからアタシばっかり愛してばかりで、アンタからの愛が全然届いてないんだけど!? 愛するのは良いけどアタシ達は愛されたいのよ!?」

「な、何、何なの? 何を言ってるの!?」

 

 明らかに異常な雰囲気を醸し出すウィドゥに相手ライダーは完全に委縮してしまっている。

 

 相手ライダーに詰め寄るウィドゥだったが、突然動きを止めるとガクンと項垂れた。まるで電池かネジが切れたかのようなその様子に、相手ライダーは訳が分からないが今が好機かと少しずつ距離を取ろうとする。

 

 だが――――――

 

「瑠美、私分かっちゃった。この子きっと物足りないんだよ」

 

 徐に表に出てきた麗美が、我が意を得たりとばかりに言葉を紡ぐ。

 

「え? な、何の話?」

「つまり、私を愛するには私からの愛がまだまだ足りないって……そう言ってるんだよ。ね?」

「ッ!? ち、ちが……私、そんな事一言も――――!?」

 

 もうここまで来ると、このライダーもウィドゥにとっての愛が暴力と同義語である事に気付いていた。つまりウィドゥは、自分が痛めつけられる為にこのライダーを更に痛めつけようとしているのである。

 その事に気付き、仮面の奥で顔を真っ青にする蛾のライダー。慌ててウィドゥの言葉を否定しようとしたが、再び表に出てきた瑠美には通じない。

 

「あ~、そっかそっか! さっすが麗美、相手の事をよく分かってるぅ! そう言う事なら、もっとも~っと愛してあげないとね!」

「ひっ!? いやッ!? いやだぁぁぁぁぁっ!?」

「キャプチャーベント」

 

 仰向けに倒れながらも這って逃げようとする蛾のライダーを、ウィドゥの蜘蛛の糸が絡めとり磔にする。ウィドゥはそのライダーの上に馬乗りになると、ブラッククローで滅多切りにした。

 

「あぐっ!? い、が?! やめ?! やべでぇぇぇ?!」

「まだ!? ねぇまだ足りないの!? アタシ以上に愛されるのが好きなのね、この欲張りさん!!」

 

 装甲を引っぺがすのではないかと言う程の攻撃の嵐に、徐々に蛾のライダーの抵抗が薄くなっていく。

 

「う、あ…………ぁ……」

 

 そして遂に、相手のライダーは悲鳴すら上げる事無く指一本も動かせなくなってしまった。

 そこで漸く落ち着きを取り戻したウィドゥは、もう相手が反撃する事も無い程のボロ雑巾になってしまった事に仮面の奥で口を尖らせる。

 

「む~、麗美!? こいつアタシ達を愛する前に1人で勝手に満足しちゃった!?」

『酷いんだぁ~。良い事を独り占めしちゃうなんて』

「こいつどうする?」

 

 自分達を差し置いて勝手に満足した(そう思ってるのは麗美と瑠美だけ)相手のライダーを、どうしてやろうかと考えるウィドゥ。

 

 そこへ何と野良のモンスターがやって来た。ウィドゥが契約しているブラックスキュラと同系だが、大きさが段違いの蜘蛛型モンスター・ディスパイダーだ。

 

 ディスパイダーはウィドゥに対し威嚇をしているのか、両前脚を大きく広げている。が、ウィドゥはそいつの意識が自分よりも倒れている相手のライダーに向いている事に気付いていた。恐らくは漁夫の利で弱ったライダーを捕食しようとしているのだろう。

 

 それを見て、内面に引っ込んでいる麗美に妙案が浮かんだ。幸せを独り占めしてしまったのなら、他の奴に分け与えさせればいい。

 

『瑠美、そいつこの子食べたいみたい。あげちゃおうか』

「アヒャ! それ妙案かも。アタシからの愛情を独り占めして何も返してくれないんだもんね。なら今度は自分が誰かを満足させてあげなくちゃ!」

 

 ウィドゥが黙って距離を取ると、それに合わせてディスパイダーが倒れているライダーに近付いていく。倒れているライダーは、少し体力が回復して意識がハッキリしてきたのか近付いてくるディスパイダーに気付き助けを求めた。

 

「あ……あぁ!? た、助けて!? いや、お願い!?」

 

 自分に向けて手を伸ばしてくるライダーに対し、ウィドゥは何もしない。ただ黙って見ているだけだ。

 その彼女の隣には、折角追い詰めた獲物を横取りされるのが納得いかないのかブラックスキュラが居る。大きさの違う同系のモンスターに対し、こちらも両前脚を上げて威嚇のポーズをとった。

 ウィドゥはディスパイダーを威嚇する己の相棒を抱きしめて宥めた。

 

「ダメダメ。あの子はあのモンスターに上げるって決めたんだから。後で別の奴を食べさせてあげるから今はガマンしなさい!」

 

 まるで幼い子供を叱る様な言葉だったが、それが伝わったのかブラックスキュラは大人しくなる。

 

 その間にもディスパイダーは倒れたライダーに近付き、遂に口元の触肢がライダーを捕らえた。

 

「あぁ、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!? こんな、こんな死に方!? だからこんな力いらなかったのに!? 何で!? 何でこんな事に!?」

 

 どうやらこのライダー、戦いを拒否していたらしい。察するに、アリスは前々からライダーでありながら戦おうとしないこの少女を始末しようとして麗美を嗾けたのだろう。もしかするとこれ以前に脅していたのかもしれない。

 

 だがウィドゥにとってそれは最早どうでも良い事であった。もうウィドゥは彼女に対して毛ほどの興味も抱いていない。精々が自分達の気持ちを踏み躙った(一方的)このライダーに罰が下る瞬間を眺めて、留飲を下げようと言う程度の意識である。

 

 ディスパイダーが大きく口を開け、満足に動かない体で儚い抵抗をするライダーを頭から丸呑みにしようとした。

 

 その時である。

 

「ファイナルベント」

「うん?」

 

「ハッ!!」

 

 突然突風が吹いたかと思うと、真横から1人のライダーが風の勢いに乗って飛んできて手にした太刀でディスパイダーを一刀両断してしまった。

 

 ここでまさかのライダーの乱入である。しかもそのライダー、どうやらディスパイダーに食われそうになっていたライダーを助けるつもりだったのか、倒れたライダーに敵意を向けている様子がない。

 今正に頭から食われそうになっていたライダーは、生き残った実感が湧かないのか呆然としながら自分を助けてくれたライダーを見ている。

 

「えと、あの……ありがとう……」

 

 新たに乱入したライダーは、蛾のライダーに全く見向きもしない。まるで他人を拒絶するかのような雰囲気を放つそのライダーに、蛾のライダーは小さくお礼を口にするとウィドゥから逃げるべくその場を離れて行く。

 

 ウィドゥは離れて行くライダーを完全に無視した。今彼女の興味は、新たに現れたライダーに向いていたのだ。

 

 見た目は何処か侍や鎧武者を思わせる。鳥の頭の様な頭部に、剣道の胴当ての様な胸部アーマー、左腕の籠手型のバイザーらしきもの。両脚は袴のような布で覆われている。

 

 そのライダーは、ウィドゥに対して太刀の切先を向け構えている。こちらはどうやらあのライダーとは違いやる気十分の様だ。

 

 こいつは愛してくれる。そう思い、ウィドゥは仮面の奥で笑みを浮かべた。

 

「アヒャ! いいわねぇ、今度はしっかり愛してもらえそう! ねぇアンタ! アンタはアタシの事を愛してくれる?」

「敵に対する情は持ち合わせていません」

 

 ここで初めて言葉を発するライダー。抜き身の刃の様な鋭い視線に射貫かれ、ウィドゥは思わず身震いする。

 

「ん~!! 今度は期待できそ『あ、瑠美ストップ』って、何よ麗美! これからが良いところじゃないの!」

 

 待ち望んだ瞬間がやって来たと歓喜する瑠美だったが、麗美からの制止に不満の声を上げる。瑠美の気持ちは十分理解できる麗美であったが、流石に無視する訳にはいかない事態になったのだ。

 時間切れである。

 

『残念だけど今日はここまでみたい。帰ろ』

「え~!? もう……ちぇっ。バイバーイ」

「クリアーベント」

 

 流石に消滅したくはないのか、瑠美は大人しく引き下がりクリアーベントで姿を消してその場から離れた。

 侍ライダーは姿を消したウィドゥに暫し警戒していたが、完全にウィドゥの気配が消え本当に撤退したのが分かると構えを解きその場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……もうヤダ。仮面ライダーなんて――――!?」

 

 一方、侍ライダーの乱入により窮地に一生を得た少女は、ミラーワールドから出るなりその場に蹲り咽び泣いた。

 彼女が仮面ライダーになったのは、本当に気の迷いによるものだった。成績が思う様に伸びず思い悩んでいた時、声を掛けてきたアリスの口車に乗せられ仮面ライダーとなってしまったのだ。

 が、元々争い事を好む性格では無かった少女はライダーバトルが出来ず、つい先日に至ってはアリスから直々にライダーバトルへの参加を脅迫されたりしていた。

 

 それでも戦いを拒絶した結果がこれだ。本当ならカードデッキも捨ててしまいたいが、それをすると自分が契約したモンスターに食われてしまうので捨てたくても捨てられない。

 どう足掻いても戦いから逃れられぬ運命に、少女は絶望に涙を流していた。

 

「見~付けた」

「え!? だ、誰?」

 

 突然誰かが声を掛けてきた。声のした方を見ると、そこには胡乱な目で少女を見つめる麗美の姿があった。少女は初対面である麗美が馴れ馴れしく話しかけてくることに違和感を覚えた。

 だがその違和感は次の瞬間恐怖に変わる。

 

「アヒャヒャ! 思ってたよりも早くに見つかったわね、麗美!」

「ッ!?!? そ、その笑い方は――――!?」

 

 特徴的な笑い方と、何より自分を見つめるドロリとした視線に、少女は目の前の麗美/瑠美こそが仮面ライダーウィドゥである事に気付いた。

 

 逃げようと立ち上がる少女だったが、それよりも早くに瑠美が近付き少女の両手を掴んで押さえつけた。

 

「つ・か・ま・え・た♪」

「い、嫌ッ!? 止めて放して!?」

 

 少女は暴れるが、瑠美の力は信じられないほど強く全く振り解くことが出来ない。

 

 瑠美は麗美に交代すると、己の右頬で少女の左頬に頬擦りした。ただの頬擦りの筈なのに、得体の知れない悪寒を感じ少女の全身が粟立つ。

 

「うふふ……まだ貴女の幸せを別の誰かにお裾分けしてるのを見てないから、だ~め」

「だから幸せとか愛って何の事よ!? あなたの趣味を私に押し付けないでよ!?」

 

 少女は未だ痛む体に鞭打って、全力で麗美を引き剥がそうとした。すると先程までビクともしなかった麗美の拘束がアッサリ解けた。と言うより、麗美の方が自分から離れたと言った方が正しい。

 

 一体何故? そう疑問に思う少女の耳に、特有の耳鳴りが響く。馬鹿に近い。一体何処から?

 

「――――ハッ!? あ、あぁ――――!?」

 

 気付いてしまった。この音は自分の背後から聞こえている。背を預けている背後から、だ。

 

 少女が麗美に押さえ付けられたのは、自分が今し方出てきた鏡の前だったのだ。そして今その鏡の向こう側には、少女からは見えないが何かモンスターが居る。

 

 少女の体は携帯のマナーモードもかくやと言うくらい震え、奥歯がカチカチと音を立てる。鏡から虫の脚の様な何かが複数本出てくる。脚は少女を囲むように出てきて、折れ曲がり彼女をミラーワールドに引き摺りこもうとしていた。もうどうあっても逃げられない。

 

 ブラックスキュラによってミラーワールドに引き摺りこまれ貪り食われる直前、鏡の向こうに見えた麗美は薄い笑みを浮かべながら少女に向かってゆっくりと手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、私達も帰ろうか」

『賛成! アタシお腹空いた』

「今日はお夕飯何にしようか?」

『アタシあれ食べたい。クリームコロッケ』

「じゃあ、帰りにスーパーで材料買わないとね」

 

 日も大分沈んできた人気の無い街の中を、己の中の人格と会話しながら麗美が帰路につく。夕闇に照らされた紅い街中に、麗美が瑠美と話す楽しげな声が響いて消えていくのだった。




という訳で第2話でした。

如何でしたでしょうか?今回は麗美が周りからどう見られているか。そして彼女が周りにどう対応しているかを描いてみたつもりです。
色々な人にヤバいヤバい言われているので、徹底的にヤバく話が通じないキャラとして描いてみました。

それと終盤で登場した侍ライダーは、私が応募したもう1人の仮面ライダーです。ウィドゥ編が終わったらそちらも描く予定ですので、どうかお楽しみに!
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