仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はスピンオフのウィドゥ編第3話。いよいよ本編とリンクします。

尚今回、殊更に残酷なシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。


エピソード ウィドゥ・3:貪り合う飢餓

 麗美が侍ライダーと出会ってから、一体どれだけの時が流れただろう。

 ここ最近、麗美と瑠美は不満が溜まっていた。先日の一件以降、満足にライダーバトルが出来ていないのだ。

 

「最近は静かだね。少し前は熱烈に愛しに来てくれた人もいたのに」

『みんな随分と控えめになっちゃったわよねぇ。アタシ達は何時でもウェルカムなのに』

 

 そう言いながら、麗美は放課後の廊下を練り歩いている。目的は一つ、ライダーを見つける為だ。

 アリスの話では仮面ライダーとして選ばれるのは麗美の様な女子高生が主だと言う。確かに今まで出会った仮面ライダーは、皆ほぼ同年代だろう女子のみで成人女性は勿論男の姿など皆無であった。

 

 と言う事は、だ。この聖山高校には自分以外にまだまだ仮面ライダーが居るのではないか? そう考え、麗美は自分を愛してくれるライダーを求めて校舎内を彷徨っていた。

 

 しかし現状、結果は芳しくなく仮面ライダーの気配は勿論、モンスターの気配すら感じない。高まるフラストレーションに、麗美と瑠美が同時に溜め息を吐いた。

 

 その時、廊下の先に見知った人影を見た。

 

「ん? ねぇ瑠美? あれってアリスじゃない?」

『え? あっ! ホントだ、あれアリスじゃん!』

 

 廊下の先に居たのは間違いなくアリスであった。服装が何時ものセーラー服ではなく、麗美と同じく聖山高校の制服であると言う違いはあったが、顔立ちは間違いなくアリスそのものだ。

 まさか現実世界でアリスの姿を見れるとは思ってもみなかった麗美は、一瞬驚いたものの直ぐに彼女と接触を図った。

 

「久しぶり。ここで会えるなんて思ってなかったよ?」

「えっ!? な、何です? どちら様ですか?」

 

 麗美に声を掛けられたアリスは、まるで初対面かの様に動揺を露にする。その様子に麗美は違和感を感じつつも、そんなものは些細な事と本題を切り出した。

 

「ねぇ、それよりさぁ、また良い相手居ない? この間の子は相性悪かった上に、最近良い出会いがなくて」

「あの、だから何の事ですか?」

 

 麗美の漠然とした問い掛けに、アリス?は困惑した様子を隠せずにいた。全くライダーバトルに関して言及してこない彼女の様子に、麗美の中で違和感が大きくなる。

 

「ん~~?」

 

 麗美は胡乱な目でアリス?を見つめると、彼女の周りをぐるぐると回り始めた。頭の天辺から爪先まで、隈なく彼女を観察し、更には鼻を近付けて匂いまで嗅ぐ。

 

「あ、あの……?」

 

 奇行とも言える麗美の行動にアリス?が動けずにいると、麗美は彼女の正面で立ち止まり鼻先が触れ合うのではと言うほど顔を近付ける。流石にそこまでされてジッとしていることは出来なかったのか、顔を近付けてくる麗美の両肩を手で押し返した。

 

「ま、待ってください。あの、誰かと勘違いしてませんか?」

 

 そう言ってアリス?が麗美からそれとなく距離を取った。

 対する麗美はと言うと、顔を近付けようとした体勢のままアリス?を見つめていたが、徐に踵を返すとそのままフラフラと体を左右に揺らしながら廊下の奥へと消えていった。

 

 取り残される形になったアリス?は暫く麗美の後姿を見送っていたが、彼女が見えなくなると不安そうに何度か彼女が消えていった先を見つつその場を立ち去った。

 

 アリス?と分かれた麗美は、階段の踊り場で大きな鏡にへばりついていた。鏡の中から、瑠美が彼女を見つめ返している。

 

「瑠美、どうしようか?」

「このまま探そう。向こうから来てくれないなら、こっちから会いに行かないと」

「会えるといいね?」

「きっと会えるよ」

 

 2人は互いにクスクスと笑い合うと、鏡の向こうから見つめ返してくる半身にキスを落とした。世界でただ1人、無条件に自分を愛してくれる己自身に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日の間、麗美は校舎内が大分暗くなるまで学校中を探し歩いた。だが結局収穫はゼロ。部活動の為に残っていた生徒も次々と下校していき、気付けば校舎内には生徒の気配が無くなっていた。

 屋上で誰も居ない校庭を眺め、地平線の下へと沈みゆく夕日を見る。

 

「…………帰ろっか」

『そうだね』

 

 落胆を抱え、麗美は屋上から立ち去った。誰も居ない暗い廊下を歩き、美術室の前に差し掛かる。

 

「…………ぐすっ、うぅ……」

「……?」

 

 その時、麗美の耳に誰かのすすり泣く声が響いた。見ると美術室の扉が少し開いている。不思議に思って少し開いている扉から美術室の中を覗き込むと、そこには1人の女子生徒が美術室の一角で蹲って涙を流しているらしいことが分かった。

 

 これが普通の生徒であれば悲鳴を上げて逃げ出し、翌日には学校の七不思議入り間違いなしだっただろう。

 しかしそこは常人とはロジックが異なる麗美。この光景に悲鳴を上げるどころか音も無く美術室に入ると、背後からそっと近づき声を掛けた。

 

「どうしたの?」

「ひゃっ!? な、何ですか貴女は!? もうとっくに下校時間を過ぎてますよ!?」

「それはお互い様。こんな時間に何してるの?」

 

 慌てる女子生徒に対し、麗美はマイペースに返す。問い掛けられた女子生徒は、涙を拭いながら言葉を返した。

 

「す、少し用事があっただけです!」

「美術室で1人で泣く事が用事なの?」

「余計なお世話です!? 私はもう帰りますから、貴女ももう帰ってください!」

 

 女子生徒はそう告げると足早に麗美の隣を通り過ぎ美術室から出ていこうとする。

 

「ねぇ……もしもの話だけどさ……」

「はい?」

 

 美術室から出る直前、麗美が女子生徒に声を掛ける。まさかここで声を掛けられるとは思っていなかったのか、それとも生真面目な性格なのか女子生徒は足を止めてしまった。

 

「もしも、どんな願いでも叶えられる力を手に入れたら…………貴女はどうする?」

「ッ!?!? な、何の話ですか――――?」

 

 突拍子も無くそんな事を問い掛けられ、言葉を失う女子生徒。何も答える事が出来ない女子生徒に、麗美はゆらりと近付き耳元に口を近付けた。

 

「私なら……喜んで自分の願いを叶える為にその力を使うけどね」

 

 そう言って麗美は女子生徒の耳をぺろりと舐める。耳から伝わる悍ましい感触に、女子生徒が飛び退き麗美から距離を取る。

 

 既に周囲は暗くなっている為、互いの顔は見えていない。が、麗美には女子生徒が警戒した目を向けているのが分かった。

 女子生徒からの視線に麗美は怪しい笑みを浮かべると、首を右に傾けて右目を前髪で隠した。

 

「ねぇ、アンタはどうする?」

 

 瑠美がそう問い掛けると、女子生徒は俯き肩を震わせ何も言わずその場を立ち去った。瑠美を乱暴に押し退けるようにして立ち去る女子生徒を、瑠美は愉快そうに見つめてから自分も改めて美術室を出て帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、瑠美は先日の女子生徒を探していた。何故かと問われれば、彼女の勘が囁いたとしか言いようがない。具体的に理由がある訳ではないが、強いて言うならば“気配”を感じたからと言えばいいだろうか。

 

 とは言え、名前も知らない上に顔も碌に見えなかった相手である。当ても無く探して見つかる訳も無い。気付けば日も大分暮れ、校舎内に誰も居なくなってしまっていた。

 先日の事も考えて美術室にも向かったが、この日は誰も居なかった。

 

「名前聞いとけば良かった」

『居ないものは仕方が無いよ。今日はもう帰ろ』

「ん~」

 

 とても残念そうに項垂れて校門から出る瑠美を麗美が宥めた。麗美も彼女に会えなかった事は残念だが、ここら辺の切り替えの早さは麗美の方が上だった。

 

 校門から出た彼女は、暗くなりつつある空の下を自宅の安アパートに向かって歩いていく。

 

 その道中、瑠美は聖山市中央の繁華街『屋戸岐町』を通った。もう少し早い時間であれば同じく下校した聖山高校の生徒達が気楽に騒いでいるのだろうが、ここまで遅い時間になると高校生の姿は殆ど見られない。もし居たとしてもそれは真面目な生徒ではなく、俗に言う不良と呼ばれる連中であろう。

 

 瑠美がここを通るのは、別にここに用事がある訳ではなくここを通るのが一番の近道であるからだった。普通の女子高生であればこんな繁華街を、日が暮れる頃に出歩くなんて身の危険を感じて御免被るだろうが瑠美の場合は話が別だ。

 

 持ち前の豊かな胸が、夜になりいろいろと箍が緩んだ男の視線を集めている事に気付きつつ瑠美は日の暮れた繁華街を進む。

 そうして歩いていると、ある裏路地の前を通りかかる。

 

「ッ!!」

 

 瞬間、麗美は何かに弾かれるように路地裏に目を向けた。街灯の明かりも碌に届かない暗い裏路地の先は満足に見通す事も出来ない。

 

 では何が彼女を引き付けたのかと言うと、一言で言えば匂いだ。この裏路地の奥で血の匂いがする。

 

「アヒャァッ!」

 

 ニチャリと笑みを浮かべ、意気揚々と裏路地へと入る瑠美。

 

 果たして、そこには4人の男がボコボコにされた状態で裏路地に転がっていた。既に騒動が終わった後なのだろう、男達をボコボコにした下手人の姿は見当たらない。

 

「い、つつつっ!? くっそぉ……」

「あの女共、次会ったらただじゃおかねぇ――――!?」

 

 ボコボコにされたダメージから回復したのか、男達が起き上がり始める。

 

 瑠美は男達が起き上がったのを見ると、笑みを深め麗美と交代する。

 

「うふふ……どうしたの?」

「ん? うをっ!?」

 

 麗美が男達に声を掛けると、男達は彼女の姿を見て過剰に驚く。言葉の端々から察するに、彼らをこんな風にしたのは女性…………それも恐らくは麗美と同年代、もしかすると制服も同じ少女かもしれない。

 

 だが男達は直ぐに気を取り直すと、麗美を下卑た笑みを浮かべて取り囲んだ。

 

「へっへっへっ! お嬢ちゃん、こんな所で何してやがんだ?」

「おいコイツ、さっきの奴と同じ制服着てるぜ!」

「ちょうど良い。俺ら丁度むしゃくしゃしてんだ! いっちょヤらせてくれよ!」

「見ろよコイツ、さっきの2人よりもスゲェ良い体してんぞ! こいつは楽しめそうだ!」

 

 4人で麗美を囲み壁に追い込む男達。並の少女であれば恐怖に顔を歪め、涙を浮かべて体を震わせるだろう。場合によっては半狂乱になって逃げ出そうとし、悲鳴を上げる者も居るに違いない。

 

 だが麗美は普通ではない。こんな状況だと言うのに、麗美は依然として笑みを浮かべている。男達はそれが、彼女が自分達を誘っているように見えていた。

 事実、彼女は男達を誘っていた。麗美は熱に浮かされたような笑みを浮かべ、全てを受け入れるとでも言うかの様に両手を広げた。

 

 それを見て男達は一斉に麗美に飛び掛かった。その様子は正に、オオカミの群れが羊に襲い掛かるかのようだ。

 

 尤も――――――

 

「ぎっ!? ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

「…………アヒャッ!」

 

―――――彼らが手を出したのは、羊どころか腹を空かせたトラが可愛く見える程の猛獣であった。しかも見た目は猫に見えると言うおまけつき。

 

 麗美に飛び掛かった男の1人が片目から血を流している。男達が飛び掛かる直前、瑠美が表に出て男の1人の片目に親指を突っ込んだのだ。

 

「アヒャヒャッ! 痛い? ねぇ痛いでしょ? 大変な目に遭ったアンタ達にアタシが愛をプレゼントしたんだけどどうかな?」

「ふ、ふざけんなこのアマ!?」

 

 片目を潰されたのと別の男が瑠美の顔面を殴る。防御も回避もしない瑠美はこれを諸に受け、殴られた衝撃で背中を壁に叩き付けられた。

 

「うぐっ!? いひ、アヒャ!」

「こ、コイツ!? さっきの2人と言い、何なんだ最近の女は!?」

「抵抗できないように徹底的にボコしちまえ!?」

 

 男達は一斉に瑠美に殴る蹴るの暴行を加え始めた。四方から飛んでくる拳が顔や腹に突き刺さり、口の端が切れて血が流れるが瑠美は笑みを絶やさない。寧ろ殴られたら殴られただけ、蹴られたら蹴られただけ笑顔が輝きだした。

 

「アヒャヒャ! イイ! イイよぉ、アンタ達! 感じるよアンタ達の素敵な愛!」

 

 ライダーバトルで感じる痛み()に比べると温いが、生の肉体で感じる暴力はそれはそれで味があった。

 

『瑠美、私にも代わって?』

「あ、ゴメンね麗美!」

 

 途中で麗美に交代したところで、男達の暴行が止んだ。先程ボコボコにされて体力を消耗していたからか、男達は肩で息をし汗を流している。

 

「はぁ、はぁ、これだけボコせばもう抵抗できないだろ?」

「どうするコイツ? ここでヤッちまうか?」

「いや、ここまで手古摺らせてくれたんだ。普通にヤるんじゃつまらねぇ。どこかに連れ込んで――――」

 

 男達が麗美をどうするか考え、意識を彼女から逸らした。

 

 その瞬間、彼女は男の1人に飛びついた。

 

「なっ!? こいつまだ――――!?」

「うふふ……ねぇ、もうお終いなの? なら今度はこっちの番だね」

 

 抱き着いた事で男の胸板には麗美の巨乳が押し付けられ柔らかい感触を感じるが、そんなもの直ぐに気にならなくなった。

 

 何故なら麗美が男の耳を容赦なく噛み千切ったのだ。

 

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁっ?!」

「こ、コイツ何して――――!?」

 

 悲鳴を上げた男に他の3人の男達の思考が停止する。その隙を麗美は見逃さず、スカートのポケットに手を突っ込んで鍵を取り出すとそれを指で挟むように拳で包んで、鍵が指の間から突き出た拳を別の男の頬に叩き込んだ。容赦ない拳から突き出た鍵が、男の頬を突き破る。

 

「はごぉっ?!」

「え、ろぉ……ぺっ」

 

 頬を鍵で突き破られた男が頬を押さえて蹲る。麗美は蹲る男を頬を紅潮させた顔で見下ろしながら、口の中に残っていた噛み千切った耳を吐き出した。

 人間にあるまじきその姿に、唯一無傷の男が恐れ戦きその場を逃げ出した。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!?」

 

 麗美は逃げる男の後姿を見つめ、暫しどうするか考える。あの男はまだ愛せていない。これでは不公平だ。

 

「あの人も愛してあげないとね」

『行こう行こう!』

 

 片目を潰した男、片耳を噛み千切った男、片頬に穴を開けた男を放って、麗美は逃げた男を追い掛けた。男が逃げていったのは繁華街の大通りとは逆に人気の少ない公園の方。そのおかげで男の返り血などで汚れた麗美も目立つ事は無かった。

 

 鼻歌を歌いながら男の後を追う麗美だったが、火事場の馬鹿力だろうか。男は尋常ではない速度で逃げ切り麗美の追跡から逃れてしまった。

 

 物の見事に逃げられ、麗美は物憂げな顔をする。

 

「……逃げちゃった」

『男のクセに恥ずかしがり屋さんなのね』

「戻って残りの3人を存分に愛してあげようか…………ん?」

 

 元居た場所に戻って残りの3人を存分に愛してやろうかと考えた麗美だが、彼女の耳に訊きなれた耳鳴りのような音が響いた。ミラーモンスターか、それとも仮面ライダーかは知らないが、とにかく久しぶりの戦いだ。嫌でもテンションが上がると言うものだ。

 

 周りを見渡し、近くに公衆トイレを見つけた麗美は洗面台の鏡にカードデッキを向ける。

 

「うふふ、私を愛してくれる人は居るのかな? へん、しん」

 

 ウィドゥに変身した麗美は、鏡に飛び込んでライドシューターで音が聞こえた方に向かう。

 現場と思しき場所に向かうにつれてウィドゥのテンションが上がった。そこでは既に戦闘が行われているのか、何かがぶつかり合う音や銃声のような音が聞こえてくる。

 

 きっとそこでは楽しい楽しいパーティーが開かれている筈だ。ウィドゥはそんな期待を胸にライドシューターを走らせ、交差点を右折した。

 

 その時、別方向からもう一台のライドシューターが現れた。乗っているのは先日見逃さざるを得なかった、あの侍ライダーである。

 

「ッ!! また会えた!」

「ッ!? 貴女はッ!?」

 

 互いに以前であった事のある相手である事に気付くと、ライドシューターから降りて対峙した。

 

「うふふ……久しぶり。私の事、覚えてくれてた?」

「えぇ……以前、仮面ライダーをモンスターに食べさせようとしていましたね」

 

 覚えてくれていたことにウィドゥが身震いする。あの時は惜しくも時間が来てしまった為戦う事が出来なかったが、今度は違う。思う存分戦う事が出来る。

 

「今度は時間もたっぷりある事だし…………心行くまで愛し合お! アヒャ!」

「ストライクベント」

「ッ!」

「ソードベント」

 

 ブラッククローを装着したウィドゥが侍ライダーに飛び掛かる。侍ライダーはそれを召喚した太刀で受け止めた。

 

「あぁん! アタシの愛を受け取ってくれないなんてイケずねぇ! 遠慮せずに受けとって、それで思いっきりアタシ達を愛してよ!」

 

 ウィドゥはそのままインファイトで次々と攻撃を繰り出す。引っ掻き、突き出し、手刀を振り下ろす。

 だが侍ライダーはそれを全て達で防いでしまった。ブラッククローの攻撃特性は攻撃と同時に相手に注入する毒にあるので、この行動は非常に正しい。一発二発ならともかく、立て続けに何発も喰らったら毒が回って動きを鈍らされる。どんな奴が相手でもそうだろうが、彼女の場合は特に一発も喰らわないに越した事は無い。

 

 どれほどそうしていただろうか? 侍ライダーはウィドゥの攻撃を全て太刀一本で防ぎきった。ウィドゥが技巧には優れていないと言うのもあるだろうが、それ以上に侍ライダーの技量が優れていた。

 恐らくは剣道でもやっているのだろう、構えが堂に入っている。

 

 だが足りない技量を、ウィドゥは勢いで補っていた。侍ライダーはウィドゥの攻撃を防げてはいるが反撃に回れていない。

 

 このままでは埒が明かないと考えたのか、侍ライダーが新たなカードを使用した。

 

「ガードベント」

 

 侍ライダーの両肩に肩当の様な盾が装着される。あまり大きくは無く、防げる範囲は狭そうだ。

 

 あんなものでどうするのかと疑問に思いつつ、ウィドゥは再度攻撃を開始した。左のブラッククローで斬り付け、太刀で弾かれたところに右のブラッククローで貫手を放つ。

 

 侍ライダーはそれを待っていた。彼女は左肩の盾をウィドゥの貫手に当てると、なんとそれを盾の上を滑らせることで攻撃を逸らしてしまったのだ。

 

「ッ!!」

「シッ!」

 

 攻撃が逸らされ、ウィドゥの胴体ががら空きになった。それを見逃さず、侍ライダーは太刀を振りぬき無防備なウィドゥの胴体を一閃した。

 

「あがっ!?」

「フッ!」

 

 さらに返す刃で背中を斬り付ける侍ライダー。強烈な斬撃がウィドゥに襲い掛かるが、それは彼女を喜ばせるだけだった。

 

「アヒャヒャ! イイわねぇ! 今のはなかなか良かったわよ!!」

「ッ!? くっ!」

 

 攻撃を受けたとは思えない反応を返すウィドゥに侍ライダーは嫌悪を抱いたのか僅かに動きが鈍る。

 その瞬間、今度はウィドゥが相手の懐に潜り込んだ。しまったと思った時にはもう遅い。

 

「アヒャ!」

「ぐぅっ?! あっ!?」

 

 容赦ないウィドゥの引っ掻き攻撃。毒を伴ったそれをまともに喰らってしまい、毒が回り侍ライダーの動きが鈍くなる。

 

 今までのライダーであればその後はウィドゥの独壇場だったが、このライダーは違った。驚異的な精神力で痛みを堪えると、先程と殆ど変わらぬ攻撃を繰り出した。

 

「うぐっ!? ア、ヒャヒャ!」

 

 二度三度と太刀で斬り付けられるウィドゥ。だがウィドゥはそんな中で一瞬の隙をつき自身の体で太刀を受け止めると、そのまま太刀を抱きしめ動かないようにしてしまった。

 

「あっ!?」

「アンタはアタシの事を思いっきり愛してくれるのね! 嬉しいわ! 今度はアタシ達の愛も受け取って!!」

 

 太刀を抱きしめたまま、ウィドゥは渾身の貫手を侍ライダーに叩き込んだ。マズいと太刀を手放そうとした侍ライダーだったが、その判断は僅かに遅く距離を取るよりも早くにウィドゥの毒の貫手が彼女を襲った。

 

「あぁぁっ!?」

 

 これは流石に効いたのか、侍ライダーは悲鳴を上げながら倒れる。更に彼女にとっては悪い事に、毒が足に回って来たのか上手く立つ事が出来ずにいる。

 

 立てない侍ライダーにウィドゥが近付いていく。彼女を思いっきり愛する為だ。

 

「あ……はぁぁぁ、ん~! この感覚久しぶり! でもまだ足りないなぁ……ねぇ? アンタをもっと愛したらさぁ……私達の事、もっともっと愛してくれる?」

 

 そう言って侍ライダーに飛び掛かるウィドゥ。文字通り飛び上がって侍ライダーに両手のブラッククローを振り下ろそうとする。

 

「くっ!」

「ソードベント」

「あ――――」

 

 その瞬間、侍ライダーがもう一枚あったソードベントを使用した。ウィドゥが飛び掛かるよりも前に侍ライダーの手元に二本目の太刀が召喚される。

 そして彼女はその太刀をウィドゥに向け突き出す。それ以外に何もする必要はない。飛べないウィドゥはそれだけで自分から太刀に向けて突っ込み、自分から刺突を喰らう形になった。

 

「あがぁっ?!」

 

 侍ライダーの突きがウィドゥの薄い胸部アーマーを捉え、彼女を大きく吹き飛ばす。見るとウィドゥの胸部アーマーには大きな切り傷がついている。ギリギリで胸を貫かれる事は免れたようだが、これは彼女にとっても大きなダメージとなったのか立ち上がる事が出来ない。

 

 対して侍ライダーは体力に余裕が出来たのか立ち上がった。まだ少しよろめいているが、それでも状況は確実に逆転していた。

 

「あぁ、あはぁ……うふふふ……痛い、痛いね。愛を感じるよ瑠美」

「アタシも感じてるよ麗美! 久しぶりだね!」

 

 絶体絶命の状況だと言うのに、喜びを露にするウィドゥに侍ライダーは思わず目を背ける。

 だが直ぐに気を取り直すと、トドメを刺そうと言うのか太刀を手にウィドゥに近付いていく。ウィドゥは更なる愛が得られると、両手を広げて侍ライダーを迎え入れた。

 

「さぁ、もっともぉっと私達を愛して」

「痛みが欲しいの! 愛が欲しいの! みんなにアタシ達を愛してほしいの!!」

「貴女は私達を愛してくれるんでしょ?」

「さぁ、キて!」

 

 男を床に誘う娼婦のように侍ライダーを招くウィドゥ。侍ライダーは明らかに異常な精神のウィドゥに対し、嫌悪を抱きながらもトドメを刺そうと近付き太刀を思いっきり振り上げ――――

 

「…………?」

「う、く!? はっ――はっ――!?」

 

 ウィドゥを切り裂く直前で刃が止まった。一体どうしたのかとウィドゥが見る前で、侍ライダーは何かを躊躇するように太刀を突き立てる直前で動きを止めている。

 

 待てども待てども一向に与えられない(痛み)に、ウィドゥは思わず首を傾げる。

 

「どうしたの?」

「アタシ達を愛してくれるんじゃないの?」

 

 問い掛けながらウィドゥは侍ライダーに近付いた。こちらも時間を掛けて体力が回復したのだ。

 

 近付いてくるウィドゥに侍ライダーが太刀を振るうが、それは先程までと違って全く力の乗っていない一撃だった。まるでやる気の感じられない攻撃に、ウィドゥの雰囲気が変わる。

 

「何それ?」

「これじゃ全然感じない」

「もっと愛してよ?」

「アタシを、アタシ達を愛してよ!?」

 

 ウィドゥは侍ライダーに掴み掛ると、彼女を押し倒し両手でその細い首を絞めつけた。

 

「あが、かっ――――!?」

「ほら、痛いでしょ? 苦しいでしょ?」

「アタシ達はこんなにアンタの事を愛してるのよ!?」

「私達が愛してるんだから、貴女も私達の事を愛してよ」

「うぐ、あ……くぁっ?!」

 

 如何にウィドゥのパワーが他のライダーに比べて低いとは言え、首を絞めつけられては堪らない。侍ライダーは両手でウィドゥの手を外そうとし両足をバタバタと暴れさせるが、ウィドゥによる絞首は緩まなかった。

 

 次第に酸素が足りなくなってきたのか、抵抗が弱くなっていく。ウィドゥは怒りと落胆にこのまま彼女を絞め殺そうと更に手に力を込めるが――――

 

「アドベント」

「ッ!?」

 

 いつの間にか侍ライダーがアドベントを使用し、契約している隼の様なモンスターを召喚しその突風でウィドゥを吹き飛ばした。

 

 ウィドゥが吹き飛ばされた先には鏡があり、彼女はそのままミラーワールドから追い出された。

 

「あぅっ!?」

 

 現実世界に戻されると同時に、変身が解ける。麗美が元の姿に戻ると、急いで自分が追い出された鏡に近付くがその向こうには侍ライダーの姿は見当たらない。今の一瞬で自分もミラーワールドから逃げてしまったようだ。

 

 鏡映しになった自分の姿を……瑠美の姿を麗美は見つめ続けた。

 その麗美の目からは、一筋の涙が零れ落ちる。

 

「ねぇ、瑠美……」

『うん、麗美……』

「愛して…………私を愛して」

『愛してあげるよ。だから麗美……アタシを愛して』

「いいよ……瑠美」

 

 麗美は涙を流しながら右手を口に近付けると…………手の甲に思いっきり噛み付いた。一切の容赦ない噛み付きが右手の甲の肉を抉り、血が流れ落ちる。

 同時に前髪が右目を隠し、主導権が瑠美に移った。瑠美は自分に主導権が移ると、右手の甲から口を離し、代わりに今度は左腕に噛み付く。

 

 己の身を己で食う。それは極限まで飢餓が達した時、人体が自らの肉体をエネルギーに変えるオートファジー(自食作用)の様であった。

 

「痛いよ、瑠美」

「痛いよ、麗美」

「愛してるよ、瑠美」

「愛してるよ、麗美」

 

自分で自分の体を傷付け、その痛みで互いへの愛を伝える麗美と瑠美。体を噛み、顔を引っ掻き、口を、体を、自分の血で汚しながらも、その顔には次第に笑みが浮かんでいった。

 

「あぁ、好き! 大好きだよ瑠美!!」

「アタシも麗美が大好き!!」

「もっと愛して! 私を愛して!」

「愛してるよ! だから麗美もアタシを愛するのを止めないで!」

「止めないよ! 瑠美!」

「あぁ、麗美! アタシ嬉しい!」

 

「「うふ! アヒャ! うふヒャアふヒャふふアヒャふヒャ!!」」

 

 誰も居ない夜の街中に、1人の狂った愛を持つ少女の歪な笑い声が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日程、麗美は学校を休んでいた。

 あの戦いで彼女が感じたフラストレーションは相当だったようで、あの後いくらか落ち着いて自宅へ戻った彼女はそれからも自らの体を傷付け続け、互いに愛し続けたのである。家になら包丁も鋏も、愛を伝える為の道具が何でもあった。

 

 数日の間自分達を愛し続け、漸く落ち着いた麗美は久しぶりに家から出た。一応制服を着てはいるが、学校へ行こうと言う気にはなれない。ある程度落ち着いたとは言え、彼女の欲求は全く満たされてはいないのだ。

 

 こんな昼間から制服を着た女子高生が出歩いているとなれば、警察に見つかれば大目玉だろうが彼女には関係ない。今彼女が抱えている飢えは、その程度の常識で押さえられるほど生易しくは無いのだ。

 

 とは言え特に当てがある訳ではなく、仮面ライダーかせめてモンスターを見つけようと街中をフラフラと彷徨っていた彼女は気付けば聖山駅裏の公園に入っていた。

 平日で時間が時間なので、公園内には誰も居ない…………いや――――

 

 ベンチに少女が1人座っていた。ボサボサの金髪で、体付きは麗美と比べると憐れに思える程貧相な少女だ。

 見た目は貧相だが、しかし少女は麗美の興味を引いた。今までにない位感じるのだ。自分を愛してくれる者の匂いを。

 

『麗美、気付いてる?』

「うん」

『匂うよね?』

「うん」

『今度は期待できるかな?』

「そうだね」

『あぁ、楽しみ!』

「ふふ」

『今度は思う存分愛してくれるよね!』

 

 麗美は少女の前に辿り着くと、ぐるりと少女に笑みを向けた。

 

「うん……そうだね、瑠美。この人はなんだか愛してくれそうな気がする……」

 

 少女を見る麗美だったが、その目が見ているのは少女と言うより少女が持っているカードデッキだった。麗美には分かっていた。少女が仮面ライダーで、カードデッキを隠し持っている事が。

 それは理屈ではない。前述した通り、匂いとも言える感覚で察知していたのだ。

 

 少女の雰囲気と、察知したカードデッキの気配。一見貧相に見える少女から感じる気配は、麗美を期待させるに十分だった。

 

「ねえ、あなたは私のこと……ううん。私達のこと、愛してくれる?」

 

 カードデッキを見せつけながらそう訊ねると、少女は嫌悪を滲ませた顔で拒絶の言葉を口にする。

 

「……意味わかんない。アタシ、そういう趣味ないから。他を当たりな」

 

 少女はカードデッキに特に興味もなさそうな風を装う。が、麗美にそんな演技は通じない。

 

 少女の演技があまりにもおかしくて、麗美は思わず笑いを堪えずにはいられず俯いてしまう。その際に前髪が揺れ動き右目が隠れ、瑠美が表に出てくる。

 

「アヒャ、アヒャヒャ! ねえ! 麗美! この娘しらばっくれてる! ツンデレってやつかな! ツンツンしてるけどちゃんとアタシのこと愛してくれるんでしょ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 物静かな麗美とは正反対な、狂気すら感じさせる笑い声を上げる瑠美に少女は理解が及ばないのか呆気に取られている。

 

 少女が何も言わずに――若しくは言えずに――いると、瑠美が俯き左目を前髪で隠し麗美に主導権を譲る。

 

「そうだよ瑠美。間違いないよ。この人は私達を愛してくれるよ。ふふふ……。だって、感じたでしょ? 久しぶりに。たっぷり私達のこと愛してくれて、愛を返せそうだって」

「そうだね麗美! いっぱい! いっぱい! 愛してもらおう! アヒャヒャ!!」

 

 先日の不完全燃焼の反動か、麗美と瑠美は次々と主導権を譲り合い表に出てくる。

 

「ねえ、早く愛して? 久しぶりにこんなに愛してくれそうな人を見つけて私もうどうにかなりそうなの」

 

 今度はきっとここぞと言うところで寸止めする様な事はしない。きっと心行くまで愛してくれる。

 

「アタシももう我慢出来ないの! ちょうだい! 愛をちょうだい!」

 

 だから愛そう。存分に愛そう。愛して愛して、愛してもらおう。きっと素晴らしい時間が待っている筈だ。

 

 期待に夢を膨らませる前で、少女は逃げる素振りを見せた。麗美/瑠美の危険性を察知したのだろう。

 

 だがその判断は些か遅かった。麗美は少女の姿を見た瞬間、既に網を張っていた。

 そう、ミラーワールドのブラックスキュラに指示を出していたのである。

 

「ダメ、逃がさない」

「ッ!? くそっ!?」

 

 麗美が目配せすると、それを合図にブラックスキュラがオフィスビルから糸を伸ばして少女を絡め捕りミラーワールドに引き摺り込んだ。

 

 それを麗美/瑠美は妖艶な笑みを浮かべながら見つめていた。少女が引き摺り込まれたオフィスビルの窓を熱の籠った目で見つめ、熱い吐息を吐く。

 

 さぁ、今度こそ存分に愛そう。

 

 今度こそ存分に愛されよう。

 

 (アタシ)達が欲しいのはそれだけ。愛し、愛される為に戦う。その為になら、命なんて微塵も惜しくはない。

 

 さぁ行こう。(アタシ)の愛しい人。




という訳で第3話でした。

一応今回でウィドゥ編は終了となります。いや~、今回はちょっと難産でした。何度最初から書き直したことか。

今回描いたのは本編に登場するまでに何があったのか、です。途中登場したチンピラは?-4で瀬那ちゃんと遊ちゃんにボコられた4人組です。戦闘シーンは?-5の裏側ですね。乱戦には参加できなくても、その裏側で戦っていたと言う感じにしました。

それと今回多分一番ショッキングだろうシーンの自傷行動。麗美/瑠美だったら互いへの愛情表現で絶対やるだろうなって思ってたら今回やる事になりました(;^ω^)
本編初登場時がかなり溜まってた感じだったので、その直前までに飢えに飢えてた感じですね。

これにてウィドゥ編は終了し次回からはもう一人の応募ライダー・ファスト編になります。
ただ場合によっては、気が向いた時に本編の裏側を描くことがあるかもしれませんが。

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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