仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はファスト編第2話。主に未希の苦悩と彼女の交友関係が目玉のお話になります。前回チラリと登場した、未希の友人の名前などが判明します。


エピソード ファスト・2:葛藤に悩む

 アリスに連れられてミラーワールドへ入った未希。

 気付けばアリスの姿はなく、代わりに彼女を出迎えたのは顔に大きく鋭い牙を持った蜘蛛が人型になったようなモンスター・ミスパイダーだった。

 

「さぁ! 早くモンスターと契約して、仮面ライダーとして本格デビューと行きましょう!」

 

 何処からかアリスの声が聞こえてくる。姿は見えなくとも未希の事は見ているようだ。

 ここに来るまでの道中で基本的な事は一通り教わっている。どうすれば契約できるのかも。そして契約しなければ、仮面ライダーは本来の力を発揮できず野良のモンスターにさえ負けてしまうのだと言う事も承知している。

 

 だが――――

 

【SWORD VENT】

「えっ?」

 

 未希は何の意匠も施されていないシンプルな左腕のバイザーにソードベントをベントインし、太刀を召喚してミスパイダーに向け構えた。その行動にアリスも困惑の声を上げる。

 

「ちょっとちょっと、未希さん? 貴女一体何してるんですか?」

 

 訳が分からないとアリスが訊ねると、未希はミスパイダーを見据えながら答えた。

 

「……蜘蛛は嫌いです」

「えぇ……」

 

 命の危機が間近に迫っていると言うのに、好き嫌いで契約するモンスターを選ぶのかとアリスが呆れた声を上げる。

 

 しかしこれは半分建前である。確かに未希は蜘蛛が嫌いだが、それとは別に所謂素の状態でどこまでやれるのかを測っておきたかったのだ。

 

「行きます!」

 

 太刀を正眼に構え、すり足で近付く未希。ミスパイダーは、粗末な剣を構える未希を見て両手の爪で切り裂こうと突撃してくる。

 未希はそれを迎え撃とうとし――――――

 

 次の瞬間、上空から猛スピードで何かが飛来した。飛来したそれは高速でミスパイダーに体当たりしすぐさま急上昇。体当たりされたミスパイダーは大きく吹き飛ばされ、壁に激突してそのまま爆散した。

 

「ッ!? 今のは――――?」

 

 何が起きたのかと周囲を警戒する未希。その彼女の前で、倒されたミスパイダーの魂が空へと昇っていく。

 

 それを上空で捕食する飛翔体。未希が目を凝らすと、それは巨大な隼のようなモンスターであった。一般的な隼は片腕に軽々と乗せられる程度の大きさだが、そのモンスターは人間が片腕に乗せるどころか、人間1人程度なら軽々乗せられそうなほどの大きさだ。

 

 人型の蜘蛛と言うモンスターにも驚かされたが、他人を乗せられそうなほど大きい隼にも未希は驚かされた。

 

 その隼が、上空から未希の事を見た。その目は明らかに獲物を狙う目だ。奴は次のターゲットを彼女に定めた。

 

 一気に上空から迫り、両足の鉤爪で未希を切り裂こうと迫る隼――マッハファルコ。

 

 未希は迫るそいつに向けて、カードデッキから取り出したカード【CONTRACT】を翳した。

 

 マッハファルコの鉤爪が未希を切り裂く寸前、彼女とモンスターが光に包まれる。

 そして光が収まった時、そこには灰色で何処か頼りない見た目のブランク体のライダーの姿はなく、隼の頭部を模した仮面と鎧武者の様な鎧を身に纏った紺色のライダー……仮面ライダーファストの姿がそこにあった。

 

「これで――――!」

 

 力を手にし、決意を新たにする未希。

 

 次の瞬間、彼女は背筋に悪寒が走るのを感じ咄嗟にその場から飛び退いた。直後に彼女が居た場所に振り下ろされる、大きく鋭い脚。

 

「また蜘蛛!?」

 

 しかもそいつは先程の奴と違い、純粋に蜘蛛を化け物にしたような大きさの奴だった。人間など丸呑みに出来そうなほどの大きさの蜘蛛・ディスパイダーは牙を鳴らしながらファストに迫る。

 

 これが先程までのブランク体だったら手も足も出なかっただろう。だが今は違う。

 

【SWORD VENT】

 

 未希は先程と同じくソードベントを使用した。今度召喚されてきたのは飾り気のない太刀ではなく、マッハファルコの翼を模した鋭い刃の太刀だった。見ただけで分かる切れ味に、ファストは頼もしさを感じる。

 

 そのファストに向けディスパイダーは足を振り下ろす。コンクリートを抉るほどの一撃だ、直撃すればただでは済まない。

 

 だがファストはその一撃を、手にした太刀・マッハセイバーで難無く切り払うとお返しとばかりにディスパイダーの脚の関節部に向けて太刀を一閃させる。すると彼女の一撃は鋭い切れ味でディスパイダーの脚の一部を切断してみせた。

 

 まさかの反撃に驚くディスパイダー。ファストはその隙にもう片方の前脚を同じように関節部で切断し、更にディスパイダーの右側に回り込んで片側の脚を片っ端から切断していった。

 

 右側の脚を次々と切断され、ディスパイダーはバランスを崩し倒れ込む。

 動けなくなったディスパイダーに対し、ファストは後ろに跳んで距離を離すとマッハセイバーを地面に突き立て左腕の籠手の手首の部分を上にスライドさせる。現れたカード挿入口に新たに引いたカードを装填し、上にスライドさせた籠手の手首を元に戻した。

 

【FINAL VENT】

「フッ!」

 

 ファイナルベントをベントインし、マッハセイバーを胴薙ぎの体勢で構えて突撃するファスト。その後ろにマッハファルコが舞い降りると、翼で突風を巻き起こしてファストをディスパイダーに向けて吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたファストはそのまま風に乗ってディスパイダーに猛スピードで突撃しあっという間に接近した。

 

 そしてディスパイダーとのすれ違いざまに、その体を手にした太刀で切り裂いた。

 

「ハァッ!!」

 

 ファストが太刀を一閃しディスパイダーの横を通過し地面に降り立つ。ディスパイダーは一刀両断され、ファストが過ぎ去った二秒後に横一文字に線が入り崩れ落ちると同時に爆散した。

 ディスパイダーの爆発後から魂が浮かび上がると、マッハファルコはそれを取り込み捕食した。

 

 こうして彼女は初めての仮面ライダーへの変身、そしてモンスターとの戦いを経験する事が出来た。まだ野良のモンスターしか相手にしていないが、それでも戦い方、力の使い方は理解できた。まだ不慣れと言うか、仮面ライダーとしての力に引っ張られている感は否めないがそれでも感覚としてはまずまずと言ったところだった。

 今後実戦を繰り返し経験していけば、仮面ライダーとしての力を文字通り手足の様に扱う事が出来るだろう。

 

 だと言うのに、彼女の纏う雰囲気に明るい色は見られなかった。彼女はただ、今し方一つの命を奪った自らの手を黙って見降ろすだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日経ち、未希は仮面ライダーの力を完璧に物にしていた。野良のモンスターを相手に何度も変身して戦い、生身の時との感覚の違い、所持しているカードの把握、契約モンスターであるマッハファルコとの連携など、来るべき他の仮面ライダーとの戦いに向けて備えていた。

 幸か不幸か、この数日の間に未希は他の仮面ライダーと遭遇する事は無かった。お陰でこうして備える事が出来ていたのだが、こうまで他のライダーと遭遇しないでいると逆に不安になってくる。

 

 気付けば戦いが終わっているのではないか? 若しくは実は既に自分は他のライダーに存在が知られており、隙を晒すのを待っているのではないか?

 

 そう思うと居ても立ってもいられず、神経を無駄に尖らせてしまう。教室でも絶えずピリピリとした雰囲気を纏っており、ただ席についているだけなのにもかかわらず近寄り難い状態だった。

 

 そんな彼女は現在、教室を出てトイレに居た。別に用を足したくなった訳ではない。神経を張り過ぎて熱くなった頭を冷やす為に顔を洗おうと思ったのだ。

 尤も、単純に教室が今の彼女には異様に居辛くなったと言うのも理由の一つではあるが。

 

 誰も居ないトイレの洗面台で、乱暴に顔に水を掛けて顔を洗う。一頻り顔を洗い、顔を上げ濡れた自分の顔を見る。

 

…………酷い顔だ。未希は自分でそう思ってしまった。こんな顔を正樹に見せる事など出来ない。

 

「……はぁ」

 

 未だ目覚めぬ正樹、そして来る戦いの事を考え、思わず未希の口から重い溜め息が零れる。

 

「暗~い顔してんねぇ、未希?」

「そんな顔、未希ちゃんには似合わないよ~! ほら、スマイルスマイル!」

 

 突然鏡の中の自分の左右の方から見知った顔が姿を現し、未希は驚き後ろを振り返った。

 

「た、大河さん!? 那美ちゃん!?」

 

 顔を出した2人の友人の内、制服を着崩しセミロングの黒髪をツーサイドアップにした方の少女は月夜野(つきよの) 大河(たいが)。もう片方のウェーブの掛かった茶髪の少女は真中(まなか) 那美(なみ)

 2人とも、未希が聖山高校に入学してから少しして出来た、一年生の頃からの友人である。

 

「ど、どうしてここに?」

「どうしてって、そんなの未希を心配してに決まってんじゃん」

「そうそう! ついこの間まで未希ちゃんすっごく可愛かったのに、最近変だよ? 何かあった?」

 

 正樹が事故で入院したと言う話は、学校にも届いている。だが少し噂話になる程度で、そこまで周知している訳ではない。更に言えば未希と正樹の関係については知っている者など皆無の筈だ。勿論、仮面ライダーの事など知る由もない。命懸けの戦いで勝ち残れば正樹を助けられるなど、誰かに言える訳がなかった。

 だからこの2人からしてみれば、未希が突然変貌したようにしか見えないのも納得である。心配するにも当然だ。

 

 尤もこの2人なら、様々な事情を知った上で心配してくるだろうと言う漠然とした確信もあったが。

 

「いえ……何でも」

「そうは見えないけど?」

 

 言いながら大河は自分のハンカチでまだ濡れている未希の顔を拭いてやる。

 

「ちょ、大河さん!? 自分で拭けますから!?」

「ん、そいつはゴメンね」

 

 突然のタイガの行動に未希が僅かな抵抗を見せると、大河はさっと彼女から離れた。何だか子供扱いされている様な気がして気恥ずかしくなったが、今この瞬間は先程まで感じていた憂いを忘れる事が出来た。

 

 少しだが元気になった未希に、那美は嬉しそうな顔をした。

 

「あ! 未希ちゃん少しだけど元気になった!」

「え? あ……」

 

 那美に言われて未希はハッとした顔になる。先程大河が口で教えずに未希の顔を拭いたのは、彼女を少しでも元気付けようとしての事なのだ。

 

 親友2人に元気付けられねばならない程自分が精神的に参っていたことに気付き、同時に彼女達に気を遣わせるほどに弱い自分を情けなく感じた。

 

――こんな事で2人に心配をかけてしまうなんて――

 

「……ごめんなさい」

 

 未希は情けなさと申し訳なさから2人の顔を見る事が出来なくなり、堪らず足早にその場を立ち去った。

 

 まるで自分達を拒絶しているかのような未希に、今度は2人も声を掛ける事が出来ずトイレから出ていく彼女を黙って見送る。

 未希が出ていったトイレの入り口を見ながら、那美は不安そうな顔を大河に向けた。

 

「未希ちゃん、本当にどうしちゃったんだろ? 那美ちゃん何だか嫌な予感がする」

「……大丈夫だよ。信じよう。あいつはそんなに弱い子じゃない」

 

 大河はそう言って不安そうにしている那美の頭を撫でた。彼女の目は揺ぎ無く、その言葉が本心である事を伺わせる。

 

 友人からの信頼を受けていた未希は、結局その日放課後まで誰かと口を利くことなく1人で過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、誰も居なくなった道場で未希は何時もの如く鍛錬に励んでいた。昼間に痛感した己の弱さを鍛え直す為に、竹刀に重りを付けるなどして何時も以上に自分を追い込んだ。

 

 その彼女の耳に、特有の耳鳴りのような音が響いた。ミラーワールドでモンスターかライダーが活発に活動している時の音だ。

 

 未希は音を聞いた瞬間鍛錬を止め、適当に汗を拭うと近くのガラスにカードデッキを翳して変身した。

 

「変身!」

 

 仮面ライダーファストに変身すると、彼女はミラーワールドに飛び込んだ。鏡映しとなった道場に出て校庭に向かうと、その音の主は直ぐに見つかった。

 校庭の上空を、一体のモンスターが飛翔している。赤トンボが人型になったようなモンスターだ。背に生えた四枚の羽根で空を飛んでいる。

 

【SHOOT VENT】

 

 相手が空を飛んでいると見て、ファストは左腕に装着するボウガン・マッハアローを召喚する。飛び道具はあまり好かない彼女だが、戦いともなればそうも言っていられないとちょくちょく練習していた。

 

 そのボウガンを構え、モンスターに狙いを定めて弦を引く。風が集まり矢となって放たれ、狙い通りモンスターに直撃した。

 

「よし!」

 

 風の矢が当たった事に拳を握るファストだったが、モンスターは直ぐに体勢を立て直すと明確にファストを敵と定め空中から襲い掛かった。

 

「くっ!?」

 

 空中から急降下して襲い掛かってくるモンスターにボウガンの矢を放つファスト。だがモンスターはそれを回避し、ファストに接近すると鋭い爪で攻撃してきた。

 モンスターの攻撃をギリギリで回避すると、その勢いのまま上空に逃れたモンスターに追撃の矢を放つ。しかしこの攻撃も回避されてしまった。

 

「やはり飛び道具では……ならば!」

【SWORD VENT】

 

 当たらぬマッハアローによる攻撃では埒が明かないと考え、ファストは扱い慣れた太刀であるマッハセイバーを召喚。

 更に――――――

 

【ADVENT】

 

 立て続けに二枚のカードを使用し、ファストは武器と契約モンスターを召喚した。召喚されたマッハファルコが、早速モンスターに襲い掛かり上空から叩き落す。

 その落ちてきたモンスターを、ファストが空かさず攻撃した。

 

「ハッ!」

 

 迷いのない太刀筋がモンスターを切り裂く。勿論モンスターも反撃するが、地上での接近戦はファストの方が圧倒的に上だ。ここ数日モンスター相手に実戦を繰り返したことで、彼女の剣道はより実戦的なものへと昇華しスポーツの範疇に納まる動きではなくなっていた。

 

 圧倒的強さでモンスターを相手に優位に立つファストを前に、不利を悟ったのかモンスターは羽根を広げて逃走を図った。逃がすものかとファストは叩き落そうとするが、飛翔したモンスターが本気で逃げに徹しているからか攻撃は回避され物の見事に逃げられてしまった。マッハファルコに叩き落させようとするよりも奴が逃げる方が早かった。

 

「逃がしません。マッハファルコ!」

 

 叩き落すのには失敗したが、出来る事はまだある。ファストはまだ召喚されたままのマッハファルコを呼ぶと、飛んできたマッハファルコの上に飛び乗った。マッハファルコは大きめのマンタ程度の大きさがある為、彼女1人を乗せて飛ぶくらい訳ないのである。

 

 マッハファルコをサーフボードの様に乗ってモンスターを追い掛けるファスト。これがマッハファルコ単体であれば数秒と時間は掛からなかったであろうが、固定されていない主を乗せて全力で飛べば振り落としてしまうと分かっているマッハファルコは速度を落としてモンスターを追跡した。

 全力に比べると大分遅いが、それでも飛行速度は相手のモンスターを上回っている。両者は徐々に距離を近付け、遂にファストがモンスターに追いついた。

 

 自らの攻撃圏内にモンスターが入った。その瞬間ファストは右足の踵でマッハファルコの背中を叩く。それを合図に、マッハファルコは急激に速度を上げモンスターを追い抜いた。

 同時にファストは居合切りの要領でマッハセイバーを振り抜き、追い越し様にモンスターを切り裂いた。横一文字に切り裂かれたモンスターは、空中で真っ二つになり爆散。魂のエネルギーを空中に浮かび上がらせる。

 

 マッハファルコはそれを吸収し、勝鬨の様な声を上げた。

 ファストもモンスターを苦も無く倒せたことに小さく息を吐き、胸を撫で下ろす。

 

 この戦闘で他のライダーが誘い出されやしないかと期待半分不安半分で周囲を見渡すが、他のライダーは影も形も見られない。その事に今度は安堵と不満が綯い交ぜになった溜め息を吐いた。

 

「はぁ…………ん? なっ!?」

 

 だが何気なく下を見た時、彼女の目にとんでもないものが飛び込んできた。

 

 眼下に2人の仮面ライダーだろう者が居た。1人は未亡人か何かの様な、顔をボロボロの布で隠したライダー。もう片方は背中に蝶の羽の様なマントを身に付けたライダーだ。

 その内の片方、マントを付けたライダーは今正にディスパイダーに食われそうになっていた。黒いライダーはディスパイダーより小さい蜘蛛型のモンスターに抱き着き、相手のライダーがディスパイダーに食われそうになっているのをジッと見ている。薄らと命乞いが聞こえるが、黒いライダーは助けるつもりは無い様だ。

 

 あの黒いライダーは明らかに相手のライダーがディスパイダーに食われるのを見学している。

 

 それを見た瞬間、ファストは考えるよりも先に体が動いていた。

 

「マッハファルコ、下に!!」

 

 ファストの指示にマッハファルコは彼女を乗せたまま急降下した。そして一気に地面に近付いたファストは、そのディスパイダーを何とかすべく切り札を切った。

 

【FINAL VENT】

 

 ファイナルベント『瞬翔斬』を発動し、マッハファルコの背から飛び降りたファストをマッハファルコが羽搏き一つで吹き飛ばす。急降下と羽搏きで普段の倍の速度で吹き飛ぶファストは、一瞬で近付いたディスパイダーを一太刀で一刀両断。本日二体目のモンスター討伐を成し遂げた。

 

 だがファストは安心せず、そのまま黒いライダーにマッハセイバーを向けた。ライダーをモンスターに食わせるなど、どう考えても普通の感性ではない。

 

「えと、あの……ありがとう……」

 

 ディスパイダーに食われそうになっていたライダーの少女が感謝してくるが、ファストはそれを無視した。目の前の黒いライダーに隙を見せる訳にはいかなかったし、何より自分が仮面ライダーとして間違った事をした事に悔いていたからだ。

 

――仮面ライダー同士は戦うものなのに……私は何をッ!?――

 

 彼女が内心で悔いている間に、食われかけていたライダーは逃げ出しこの場には黒いライダー――仮面ライダーウィドゥとファストだけになった。

 

「アヒャ! いいわねぇ、今度はしっかり愛してもらえそう! ねぇアンタ! アンタはアタシの事を愛してくれる?」

 

 ウィドゥは心底嬉しそうに声を上げた。敵を前にし、そして今し方人間をモンスターに食わせようとしておいて愛等と何を言っているのかと、ファストは仮面の奥で顔を顰めた。

 

「敵に対する情は持ち合わせていません」

 

 相手の言葉に対し、拒絶の言葉を口にするファスト。初めての対ライダー戦と言う事で緊張しているのもあるだろう。その口調は酷く冷たいものだった。

 

 だがウィドゥの反応はファストの斜め上をいった。

 

「ん~!! 今度は期待できそ……って、何よ麗美! これからが良いところじゃないの!」

 

 敵意を持って睨み付けたのにもかかわらず嬉しそうにするウィドゥの反応もそうだが、まるで彼女以外に誰かが居るかの様な事を口にするウィドゥにファストはマッハセイバーを構えながらも困惑を隠せない。

 

 と、よくよく見るとウィドゥの体から粒子が立ち上っている。時間が切れて消滅する前兆だ。

 

「え~!? もう……ちぇっ。バイバーイ」

【CLEAR VENT】

 

 再び誰かと話したかの様な物言いをした後、カードの効果で姿を消すウィドゥ。

 

「ッ!? 消えた!?」

 

 まさか姿を消し隠れながら攻撃してくるのかと警戒するファストだったが、直前にウィドゥが消滅しかけていたのを思い出し本当に撤退の為に姿を消したと確信。

 それと同時に彼女自身も時間が切れたのか体が粒子化してきたので、これ以上はまずいとファストもミラーワールドから撤退するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日、未希は心に鬱屈としたものを抱えていた。

 

 思い出すのは、数日前の2人のライダー。生きている動けないライダーをモンスターに食わせると言う非道を行うウィドゥと、必死に命乞いをするもう1人のライダー。

 あれを思い出す度に思うのだ。自分にあれと同じ事が出来るだろうか?

 

 非道ではあるが、仮面ライダーとしてはきっとあれは正しい行動なのだろう。ライダーバトルに勝ち残る為には、時に非情で非道な手にも手を出す。我武者羅に願いを叶える為ならば、それくらいの事をやるのは普通なのだ。

 

 頭では分かっているのだが、どうしても考えてしまう。

 ライダーバトルに勝ち残れば、正樹を目覚めさせる事が出来る。そうすれば再びあの夢のような時間を取り戻す事が出来る。だがその為に、あのような事をしてまで勝ち残って良いのだろうか?

 

 この数日間、未希は何度か他のライダーを目撃する機会があった。野良のモンスターを討伐しに向かった先で、同じ目的でやって来たライダーだ。

 だが未希は彼女らと対峙する事はしなかった。他のライダーが来る前にモンスターを倒し、見つかる前にその場を立ち去っていたのである。時には見つかりそうになったので急いで隠れたりもした。

 

 何故か? それはどうしても他のライダーと戦う踏ん切りがつかなかったからだ。彼女らの気配を感じ取る度に、未希は彼女らと戦うべきと思いはするのだが心に反して体は逃げに走ってしまうのである。

 

 未希は盛大に自身を責めた。こんな体たらくで正樹を助けるなど夢のまた夢だ。

 

――そんな事、分かってる!? でも……――

 

 それでもライダーを前にして、そして先日のライダー達の事を思い出して考えるのだ。幾ら正樹の為とは言え、非道に手を染めて本当に良いのだろうかと。

 正樹が描いてくれた肖像画の未希は、慈愛に溢れた優しい笑みを浮かべている。だが一度その手を血に染めて、もう一度同じ顔が出来るかと考えたら――――――

 

 迷いを断ち切ろうと道場で日が暮れるまで鍛錬していた未希だったが、気付けば美術室に来ていた。何故と思う前に、美術室に来たことで正樹を始めて見た時の事を思い出してしまう。

 

 後姿しか見ていないが、それでも彼と彼が描く絵に惹かれたあの時。その後彼の描いた絵が優勝し、飾られた完成した絵の前で初めて彼と出会った。そしてその後、彼からの告白を受けて付き合う事になったのだ。

 

「…………ぐすっ、うぅ……」

 

 正樹との今までを思い出し、未希の目に涙が浮かぶ。あの光り輝く時間に比べて、今は暗く澱み希望が全く見えない。彼との時間を取り戻せる唯一の希望であるライダーバトルも、一線を越えてしまったら後戻り出来ない。

 

 その事を思うと、未希の心に更なる絶望が広がり涙を流さずにはいられなかった。全てを忘れて塞ぎ込んでしまいそうになる。

 

 薄暗い美術室で1人涙を流す未希。

 

「どうしたの?」

「ひゃっ!?」

 

 その時不意に背後から誰かが声を掛けてきた。まさか人がこの時間に美術室に来るとは思っても見なかったので、未希は口から心臓が飛び出す程驚かされた。

 

「な、何ですか貴女は!? もうとっくに下校時間を過ぎてますよ!?」

「それはお互い様。こんな時間に何してるの?」

 

 思わずこんな時間に美術室に居る女子生徒を非難する未希だったが、全く同じ事が未希自身にも言える為即座に返されてしまった。これには彼女も返す言葉を失ってしまったが、直ぐに気を取り直して涙を拭いながら言い返した。

 

「す、少し用事があっただけです!」

「美術室で1人で泣く事が用事なの?」

「余計なお世話です!? 私はもう帰りますから、貴女ももう帰ってください!」

 

 この相手には何を言っても返される。これ以上この女子生徒と言い合っても仕方が無いと、未希は美術室から出ていこうとした。

 

 そんな未希の背に、女子生徒が声を掛ける。

 

「ねぇ……もしもの話だけどさ……」

「はい?」

 

 まさかこの期に及んで声を掛けてくるとは思っておらず、未希は足を止めてしまった。

 

「もしも、どんな願いでも叶えられる力を手に入れたら…………貴女はどうする?」

「ッ!?!? な、何の話ですか――――?」

 

 女子生徒の言葉に未希は胃が縮んだような気がした。どんな願いでも叶えられる力、それは今正に未希が手にしている、仮面ライダーの力に合致するからだ。

 

 まさか、この女子生徒も仮面ライダーなのか?

 未希がそんな疑問を抱いていると、女子生徒はゆらりと近付き耳元で囁くように呟いた。

 

「私なら……喜んで自分の願いを叶える為にその力を使うけどね」

 

 その言葉の直後に耳に感じる悍ましい感触。耳を舐められたのだ。

 思わず息を呑みその場から飛び退く未希。暗くて分からないが、未希はその女子生徒が言葉に出来ない怪しい笑みを浮かべているのが何となく分かった。

 

「ねぇ、アンタはどうする?」

 

 女子生徒の声色に何か違和感を感じながら、未希は言い知れない苛立ちを感じ肩を震わせ、女子生徒を乱暴に押し退けるようにして美術室を後にした。

 

 未希はとにかく苛立っていた。こんなにイライラしたのは人生で初だ。

 

 あの女子生徒は言った。自分なら喜んで力を使うと。それに比べて自分は、心の何処かで仮面ライダーの力を忌避している。この力で正樹を助けようとしているのに、だ。

 

 心の一部はこの力を存分に振るって正樹を救えと言う。だが別の一部は、この力を捨てろと言う。

 相反する二つの考えが未希の心を苛み、怒りと情けなさが込み上げてきた。

 

 気付けば未希は帰路につきながら涙を流していた。

 

「く…………うぅ――――!?」

 

 泣きながら家に帰った未希は、自分の部屋ではなく正樹の絵が置いてある部屋へと向かった。そして未希は正樹の完成直前の絵の前で崩れ落ちた。

 

「先輩……先輩!? 私は……私は一体どうすればいいんですか――――!?」

 

 この場に居ない正樹に問い掛けるが、当然答えは返ってこない。静かな部屋の中で、未希は1人泣き続けた。

 

「ぐす……うぅ、あぁ――――!? 誰か…………誰か、教えて。先輩……大河さん……那美ちゃん…………誰か助けて……」

 

 誰にも打ち明けられない悩みと苦しみを抱え、未希は孤独に涙を流すのだった。




と言う訳でファスト編第2話でした。

未希は無事ライダーになりましたが、殺し合いに心の奥で納得していないのでめちゃめちゃ精神的に不安定になってます。でもそれを相談できる相手が居ない事の辛さよ。

それと今回登名前が判明した未希の友人2人。もうちょっと詳しく紹介しますと……

・月夜野 大河
 聖山高校入学後に未希と友人になった少女。制服を着崩してる上に夜型で夜更かしをするからか日中はよく眠そうにしているが、心の芯が強く非常に友人思い。一見すると正反対な2人だが、相性は意外なほど悪くない。

・真中 那美
 大河と同じく聖山高校入学後に未希と友人になった。当初未希は彼女の事を大河と同様さん付けで呼んでいたが、那美からの強い要望でちゃん付けで呼ぶことに。音楽部に所属しており歌唱力はかなりのもの。将来の夢はアイドル。

因みに未希と大河、那美には3人揃ってある元ネタとなったキャラが居ます。ヒントは三姉妹。

次回もウィドゥ編とリンクした話になります。あの戦いの時、未希は何を思っていたのか?

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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