仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は三次創作の上にコラボストーリーと言うある意味ごった煮なお話。マフ30さんの三次創作「仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダー( https://syosetu.org/novel/241588/ )」とのコラボになります。

互いに戦う為に戦う2人の少女のお話を、どうかお楽しみに!


コラボストーリー・レイダー編
クロスストーリー・1:あり得なかった出会い


 日本国内の地方都市、聖山市。

 ここでは平和に人々が生活している裏で、幾人もの少女達により己の願いを叶る為のバトルロワイヤル、ライダーバトルが行われていた。

 

 ある者は自分の願いの為、ある者は人を守る為にライダーとなり日夜戦いを繰り広げていた。

 

 だがその戦いは、多くの者が知る事は無いが何度も修正が加えられていた。ゲームマスターである美少女・アリスにとって望まない展開になった時、彼女は『タイムベント』によって時間を巻き戻してきたのだ。

 

 その結果、小さな相違点を持つパラレルワールドと呼べる世界がいくつも発生した。

 

 例えば、出会う筈の人物同士が出会わなかったり、存在しない人物がライダーバトルに参加したりなど相違点は様々である。

 

 その中には当然、現在進行している正史とも呼べる時間軸では出会う事のない者達が出会う世界線も存在した。

 

 これから語るのはアリスの身勝手によりなかった事にされた、物語の一つ。

 恐らく正史では出会う事がないだろう2人の少女の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うだるような暑い夏のある日、聖山市の街中を1人の少女が徘徊していた。手入れの施されていないぼさぼさの長い銀髪に、男なら振り向くだろう顔とスタイルの磨けば輝くだろう美少女だ。

 

 この少女の名前は喜多村(きたむら) (ゆう)。一応この街に存在する聖山高校に通う女子高生である。尤も授業には殆ど出席していない、所謂不良少女のレッテルを貼られた身ではあるが。

 今の時間は日の傾きから分かるが大体昼近く。こんな時間に制服姿の女子高生が街中を出歩いているなど、警察に知られれば即刻補導ものであるが、今は夏休みなので制服姿で出歩く事自体に問題はない。

 

 ただし彼女の場合、前述した不良少女である点ともう一つの問題点から警察には目を付けられているので、例え夏休みであっても彼らの目に留まる事は彼女としては避けたいところではあった。

 

 さて、そんな彼女が態々制服姿で街中を出歩いているのは何故か?

 

 それはズバリ、喧嘩の為である。

 遊の嗜好を一言で表すならば、バトルジャンキーが最適であろうか。彼女は常に闘争を求めており、日夜血沸き肉躍る戦いを求めていた。

 制服姿なのは、不埒な事を考える輩を誘き寄せる餌としての意味があった。

 

 この日も彼女は、自身を満足させる闘争を求めて街を彷徨っていたのだが、成果は芳しくない。既に数か所ほど、穴場とも言える場所を巡りはしたのだが、この暑さの所為で悪漢達も鳴りを潜めているのか全く遭遇する事が無かった。

 

「うぁ~ち~……流石に今日は釣れないかなぁ。今日は“鏡の中”も静かだし、諦めてアイスでも買って帰ろうかなぁ~」

 

 一部可笑しなことを呟きながらその場を離れようとする遊。

 

 その彼女の目に、数人の男達によって裏路地に引き摺りこまれる1人の少女の姿が映った。何処かフワフワとした印象を受ける、遊に負けず劣らずやたらと胸の大きな少女である。

 

「ッ!! にはは、見~付けた!」

 

 予定と少し違ったが、何にせよ喧嘩が出来るなら何でもいい。いや寧ろ、喧嘩をする理由が出来た。

 あの男達は恐らくあの少女を辱める気だろう。遊から見ても見事な双丘を持つ美少女だ。獣欲を抑えもしない男達からすれば、極上の獲物に違いない。

 

 悪漢達の欲の捌け口にされそうな少女を助ける為に、悪漢の群れに喧嘩を吹っ掛ける。我ながら名案だと大きく頷くと、連中の後に続いて裏路地に入っていく。

 

 全く臆することなく裏路地を進む遊だが、次第に違和感を感じ始めた。妙に静かすぎる。

 自分の事を棚に上げるが、普通あの年代の少女が悪漢に囲まれたとなると悲鳴の一つを上げてもおかしくはない筈である。それどころか、裏路地に入ってからここまで所々に物が散乱していたにも拘らず、少女が抵抗した様子が全く見当たらないではないか。

 

 これは一体どうしたことか?

 首を傾げながら裏路地を進んでいくと、徐に開けた所に出た。ビルの並び方の関係で出来た、空き地的なスペースに出たらしい。周囲には建材の余りなのか、鉄パイプなどが無造作に置かれている。

 

 目的の集団はその奥の方に居た。内訳は男が5人に件の少女が1人。その少女はと言うと、突き飛ばされでもしたのか壁を背にして地面に座り込んでいる。その周りを男達が囲んでいた。

 

 傍から見れば絶体絶命のピンチ。しかしそんな状況にありながらも、少女には焦りや恐怖を感じている様子がない。寧ろ何かを期待しているかのようだ。

 もしや、そう言う嗜好の変態的性癖を持っているのか? とも考えるが、第三者視点から見れば1人の少女を男が数人掛かりで襲おうとしている様にしか見えない。となれば、乱入する事に問題はない筈だ。

 

「そりゃぁぁぁぁぁっ!」

「あ――――」

「え? ぐはぁっ?!」

 

 先手必勝と、遊は男たちの意識が少女に向いている隙に背後から飛び掛かり、一番近くに居た男に背中から飛び蹴りを喰らわせた。全く意識していなかった攻撃を喰らい、男は物凄い勢いで壁に頭から激突し一撃で意識を刈り取られる。

 

「な、何だテメェ!?」

「ムフー! 丁度いい喧嘩の理由作ってくれてありがとう! 次は君だ!」

 

 遊は最初に蹴り飛ばした男に続き、傍に居た男の顔面に拳を叩き付ける。まだ遊の乱入による驚愕から立ち直れていない男は、粗削りながら腰の入った拳を諸に喰らい鼻血を噴き出しながらひっくり返った。

 

 ここで漸く男達は遊を敵と判断し、一斉に殴りかかった。

 

「このアマッ!?」

 

 1人が横から殴りかかり、もう1人が近くに落ちていた鉄パイプを振り下ろす。

 遊の視界に映っていたのは殴りかかってきた男の方。鉄パイプを振り下ろしてきた男は気配がするだけで何をしているのかまでは見えていなかった。

 

 しかし遊は動物的直観で視界外の男が鉄パイプを振り下ろしてきたことを敏感に察知し、殴りかかってきた男の腕を取るとそいつを盾にして鉄パイプを防いだ。

 

「よいしょっと!」

「うおっ!? がっ?!」

「なぁっ!?」

 

 意図せず仲間を殴ってしまった事に、鉄パイプを握る男は動きを止めてしまう。盾にした男を捨てると、遊はそいつに飛び掛かった。

 

「さぁ次は君の番!」

「舐めるな!?」

 

 鉄パイプを持って棒立ちする男に飛び掛かる遊だったが、ここで最後の1人が横からタックルを喰らわせて遊の動きをキャンセルさせた。体勢が崩れ、遊の動きが止まる。

 

「おわっ!?」

「オラァッ!」

「う゛っ!?」

 

 遊の動きが止まったのを好機と捉え、タックルした男はそのまま彼女に殴りかかった。腕力に任せた力任せの拳が、遊の頬と腹に突き刺さる。

 そこに更に、気を取り直した鉄パイプを持った男の振り下ろした鉄パイプが遊の背中を強かに打った。勢いに押されて遊はそのまま地面に這いつくばる。

 

 この時点で男達は勝ったと思った。多少腕に覚えはあるみたいだが、所詮は少女。これ位痛めつければもう動けないだろうとすっかり油断していた。

 

 だが次の瞬間、遊は全身をバネにして飛び起きると鉄パイプを持った男に一気に近付き、油断している男の顎をアッパーカットで殴り上げた。

 

「油断大敵!!」

「ぐぎ?!」

 

 顎をかち上げられて仰け反る男。そのまま仰向けに倒れる男だったが、遊はその男に馬乗りになるとそいつの顔面を徹底的にボコボコにした。

 

「いやぁ、武器に頼ったとは言え良い一撃だったじゃないか! 今のは久々に効いたよ!」

「あがっ?! や、やめっ!? おぐっ?!」

 

 まるで恨みを晴らすかの如く鉄パイプを持っていた男をタコ殴りにする遊だが、そいつに対する怒りは微塵も抱いていない。ただ単純に、殴りたいから殴っているだけである。

 

 1人無事な男は、仲間が全員やられ1人がタコ殴りにされている様に恐怖を抱き、踵を返して逃げ出した。

 

「や、やってられるか!?」

 

 幸いな事に遊は、自分を強かに殴った鉄パイプの男に夢中になっている。逃げるなら今の内だった。

 

 そう思い、遊に背を向け連れ込んだ少女の前を通って逃げようとする最後の男。だが次の瞬間、彼は何かに躓いて派手に転んでしまった。

 

「うぉわっ!? い、つつつ……何だ?」

「ん? あっ!? 君もしかして逃げようとした!?」

「ヒッ!?」

 

 派手に男が転んだことで、遊は男が逃げ出そうとしていた事に気付くとそれまでタコ殴りにしていた男の上から退き、転んで倒れた男に歩み寄った。それまでタコ殴りにされていた男は、顔が原形を留めていなかった。

 

「ち、チクショウめぇぇぇぇっ!?」

 

 もう逃げられない事を本能的に悟ったのか、男は半ば自棄になって遊に突撃する。自分に向かって半狂乱で殴りかかってくる男に、遊は嬉しそうに笑みを浮かべるとそいつとノーガードの殴り合いを始めた。

 

 一組の男女が全力で殴り合いをする様を、連れ込まれた少女はジッと見つめんている。心なしかその視線は、どこか熱を帯びている様に見えた。

 

「ぐ……ち、くしょう――!?」

 

 その時、最初に遊に蹴り飛ばされた男が意識を取り戻した。男は遊が仲間の男と殴り合いをしているのを見て、隙だらけと思ったのかナイフを取り出し駆け寄っていった。

 

「死ねオラァ!!」

「ん? げっ!?」

「逃がすか!?」

 

 最初の男が意識を取り戻し、更にはナイフを手に突っ込んでくるのを見てマズいと思ったのか回避しようとする遊。しかし殴り合いをしていた男は、遊を逃がすまいと後ろから羽交い絞めにした。

 普通に考えて、このままナイフで遊を刺すことが成功して彼女が命を落とした場合、男達はただでは済まないのだがそんな事は彼らの頭にはなかった。

 遊が大暴れし過ぎた所為で、殺す気で掛からなければ自分達の身が危ないと半ば強迫観念に駆られたのだ。

 

 そのままナイフが遊に迫る。遊は咄嗟に自分を羽交い絞めにしている男に肘鉄を食らわせ拘束から逃れようとした。

 

 だが遊の肘が背後の男に突き刺さると同時、遊とナイフの間にそれまで座り込んでいた少女が割り込んできた。少女はナイフに向かって手を伸ばし、結果ナイフの刃は少女の白く華奢な掌を易々と貫通した。

 

「あっ!?」

 

 これには流石の遊もちょっと焦った。遊はバトルジャンキーであり倫理観や価値観が常人とは大分ズレているが、それでも男達に襲われそうになっていた少女が自分の身代わりとなって傷付くのを見たら罪悪感の一つも抱く位には人間性を残していた。

 

 しかし――――――

 

「――――――――――うふ」

「うん?」

 

 遊からは少女の背中しか見えないが、確かに聞こえた。少女が笑った声を、遊は間違いなく聞いたのだ。

 

 この瞬間少女がどんな表情をしていたかは、ナイフを持った男がしっかりと見ていた。いや、見てしまったと言った方がいいだろうか。

 

 少女は自分の手がナイフで刺されたのを見ると、口を三日月の様に歪めて笑ったのだ。その目は己の血で塗れたナイフの刃を、とても愛おしそうな目で見ている。

 

――何だ、この女!?――

 

 遊も大概だったが、この少女も明らかに異常だった。何処の世界に自分の手をナイフで刺し貫かれて、笑うことが出来る少女が居ると言うのか。

 

 見ただけでバトルジャンキーと言うのが丸分かりな腕っぷしの強い遊に比べて、この少女は何を考えているのか分からずとても不気味だった。

 

 不意に、少女が視線だけを動かして男の事を見る。熱を帯びた、しかしそれでいて暗く淀んだ目と視線が合った。

 全身の毛がゾワリと逆立つのを感じた。直感的にだが、男にはこの少女が同じ人間とは思えなかった。

 

「とりゃぁぁぁっ!」

「ぐふっ?!」

 

 男が少女から目が離せずにいると、その隙に羽交い絞めにしていた男を叩きのめした遊が続いてその男も殴り飛ばした。殴られた男は今度こそ完全に意識を刈り取られ、殴り飛ばされた拍子に少女の手からナイフが引き抜かれた。

 

 一方悪漢を全て倒した遊は、自分が顔に痣を作っているのも棚に上げて少女の手を心配した。

 

「あちゃぁ、無茶したねぇ。大丈夫?」

「? 何が?」

「いやいや、何がって……これ」

「これ……?」

 

 遊が少女の、ナイフが抜けて血が流れ落ちる手を指差す。対する少女は、一体何が問題なのか分かっていないのか首を傾げている。

 

 その様子にこの少女は痛覚が無いのかと疑問を抱く遊だったが、このまま放っておくのも後味が悪かったので最低限の手当てでもと自分のハンカチを取り出し包帯代わりに少女の手に巻いた。ただハンカチを巻いただけなので、直ぐ血が滲みハンカチが赤く染まる。

 

「う~ん……まぁ、ないよりマシか。ゴメンね、君に怪我させるつもりは無かったんだけど」

「ん~ん、大丈夫」

 

 少女は本当に何でもないかのように振舞っているが、自分の楽しみに結果的にとは言え堅気の者を巻き込んでしまった事に遊は納得がいっていなかった。何より、この少女には危ない所を助けてもらった恩がある。

 

「よし! ここで会ったのも何かの縁だし、怪我させた詫びと助けてくれた恩を兼ねてアイスを奢ってあげよう! わたしも丁度暑くて食べたかったしね!」

 

 さぁ行こうと、遊が少女を手招きして裏路地を後にしようとする。

 その遊の背に、少女が声を掛けた。

 

「麗美」

「へ?」

「私の名前。氷梨 麗美」

「あ、あ~……氷梨 麗美ね。わたしは喜多村 遊だよ」

 

 徐に告げられた名前に、遊は自身も驚くほどあっさりと名乗り返した。その事に些細な違和感を感じつつ、暑さとアイスへの渇望で違和感は流され遊はその場を後にした。

 

 残された麗美は先に歩いていった遊の背を熱っぽい目で見つめ、自分の手に巻かれた彼女のハンカチのまだ血の滲んでいない部分に鼻を近付けると思いっきりそこの匂いを嗅いだ。

 

「すぅ…………、はぁ……」

 

 ハンカチに残った遊の匂いと自分の血の混じった匂い。それら二つが混じった匂いにどこか満足そうな顔をする麗美。

 

「お~い! どしたの~?」

 

 一向についてこない麗美に、遊が呼びかけてくる。麗美は彼女の声に、笑みを浮かべながらついて行った。

 

 2人が向かったのは、出会った裏路地から少し歩いたところにある公園。そこではこの季節に合わせてか、アイスの移動販売が行われている。何種類かあるアイスから好きな奴を選んでコーンに乗せる奴だ。

 

 途中水道で適当に血を落とした2人は、横に並んで何を買うか選んだ。

 

「ん~? ここはやっぱりバニラかな?」

 

 遊は早々に何にするかを選んだ。選んだのはオーソドックスなバニラアイス。クリーム色の丸いアイスがコーンに乗せられる。

 

 一方の麗美はと言うと、どれにするか悩んでいるのか顎に手を当てて目を何度も往復させていた。よく見ると、何かブツブツと呟いている。

 遊は彼女の独り言がきになり、アイスを舐めながらそれとなく近付き耳を聳てた。

 

 すると――――――

 

「瑠美――どれに――――私――え~?――」

 

――瑠美?――

 

 麗美が口にした瑠美と言う人名らしきものに、遊が首を傾げる。と言うか、麗美は一体誰と話しているのか? 見た所彼女の視線は相変わらず目の前に並ぶアイスに釘付けで、他に誰かいるようには見えない。

 

 暫く遊が観察していると、徐に麗美ががっくりと肩を落としチョコのアイスを注文した。

 

 コーンに乗った茶色いアイスを、麗美は一口舐める。その様子はあまり乗り気ではなさそうで、一舐めする毎に小さく溜め息を吐いていた。

 

「どうしたのさ? 折角人の奢りでアイスが食べれるってんだから、もっと嬉しそうにしたらどうだい?」

「私はイチゴが食べたかったの」

「え? じゃあ何でチョコ?」

「瑠美とジャンケンで負けちゃったから」

「瑠美? さっきもチラッと聞こえたけど、誰それ? 何処に居るのさ?」

 

 改めて周囲を見渡しても誰も居ないし、そもそもアイスを食べているのは麗美だ。一体彼女が何を言っているのか、訳が分からず遊は怪訝な顔をする。

 

 すると麗美は、遊と目を合わせると自分を指差して口を開いた。

 

「さっきから目の前に居るよ」

「へ?」

「居るよ。今も貴女を……遊を見てる」

 

 夏の炎天下の中、セミの鳴き声をBGMに見つめ合う2人の少女。気付けば2人の手の中のアイスが溶けてしまっていたが、2人は互いに相手から目を逸らさずにいた。

 

 どれ程そうしていただろうか。気付けば周囲から音が無くなるような感覚に遊が捉われ始めた。

 不意に2人の間を熱気と湿気が籠った纏わり付く様な風が吹き抜け、麗美の左目を隠していた前髪が右目に掛かりそうになる。

 

 その時、耳に覚えのある耳鳴りの様な音が響いた。

 

「ッ!?」

 

 弾かれるように音のした方を遊が見ると、麗美は立ち上がり何処かへと歩き始めた。

 

 突然の彼女の行動に、遊がそちらに意識を向ける。遊の視線を背中に感じてか、麗美は肩越しに背後を振り返った。

 

「アイス……ありがと。またね…………うふ」

 

 返答を待たず、笑みを浮かべたまま立ち去る麗美の後姿を遊は少しの間見ていたが、まだ耳鳴りの様な音が響いているのに気付くと急いでその場を走り去っていく。

 

 遊が走り去るのを気配で感じ取っていた麗美は、まだ手の中にあるすっかり溶けたアイスを一舐めした。

 

「…………ねぇ、瑠美? あの子どう思う?」

 

 誰も居ない虚空に話し掛ける麗美。それに対し、答えたのは彼女自身。気付けば右目が前髪で隠れた彼女が、その問いに答えていた。

 

「アヒャ!……それ聞く? 態々ブラックスキュラを嗾けて呼び寄せたくせに」

「うふふ……」

「アヒャヒャ!」

 

 自分で自分に話し掛けながら、彼女は近くのトイレの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、麗美と別れた遊は、人気の無い場所に辿り着くとポケットから鏡の破片を取り出し宙に放り、落下する鏡の破片にカードデッキを翳しVバックルを出現させる。

 

「変身!」

 

 ガンスピンの様にカードデッキを手の中で回し、こめかみに押し付けて合言葉を口にする。そしてカードデッキをVバックルに装填すると、遊の姿は黒いアンダースーツに分厚く武骨なメタリックグリーンの装甲を身に纏う仮面の騎士に変化した。

 

 これこそが仮面ライダーレイダー。遊が鏡の世界ミラーワールドで行われる、命と願いをベットしたバトルロイヤル・ライダーバトルに参加する為の鎧である。

 

「さて、行くよ!」

 

 レイダーは意気揚々と鏡の破片に飛び込みミラーワールドへと入った。

 

 それと時を同じくして――――――

 

「ん……はぁ、変身」

 

 トイレの洗面所で、麗美が遊と同じように仮面ライダーに変身していた。カードデッキにキスを落とし、左頬に当て熱に浮かされたように言霊を口にする。

 麗美が変身したのは、レイダーと同じく黒いアンダースーツの仮面ライダー。ただし重厚な鎧を持つレイダーと違い、こちらの鎧は申し訳程度。代わりに頭と肩、腰にボロボロの黒い布を身に付けている。

 

 その姿はまるで未亡人か何かの様。これが彼女の変身するライダー、仮面ライダーウィドゥであった。

 

 麗美がウィドゥに変身しミラーワールドに飛び込んだ頃、レイダーは一足早くミラーワールドに入り耳鳴り音の発生源であるモンスターかライダーを探していた。

 

「モンスター、ライダー、どっこかな~♪ 隠れてないで出ておいで~♪」

 

 久々の命を懸けた闘争の予感に上機嫌のレイダー。先程麗美に対して抱いていた疑問やら何やらは既に忘却の彼方となっていた。

 

 鼻歌混じりにミラーワールドを歩くレイダーだったが、高架下に入るなり突然歌うのを止めるとレイダーは背後斜め上に向けて拳を振り上げた。

 するとそれに合わせたかのように一体のミラーモンスターがレイダーに飛び掛かり、まるで拳に吸い寄せられたかのように殴り飛ばされた。

 

 レイダーに殴り飛ばされたのはアビスラッシャーと言うモンスター。ミラーワールドに生息する鮫型モンスターだ。

 

 見た所野良のモンスターであるらしく、周囲に契約しているライダーは見当たらない。

 

「野良のモンスターか。ちょっと物足りないけど……うん! 問題なしだね! さ、わたしと存分に喧嘩しよう!」

【STRIKE VENT】

 

 レイダーは自身が契約しているモンスター・ガッツフォルテの両腕を模した巨大なガントレット『ガッツナックル』を装着しアビスラッシャーに殴り掛かった。アビスラッシャーは両手にサメの歯を繋ぎ合わせた鋸の様な剣を構えてレイダーを迎え撃とうとするのだが――――――

 

 突如アビスラッシャーが苦しんだかと思うと宙に引っ張り上げられた。こんな能力もあるのかとレイダーが歩みを止め上を見上げると、今の考えが間違いであったことに気付く。

 

「おぉっと?」

 

 レイダーが上を見上げた先では、何度か相手をした事のあるディスパイダーを小さくしたような蜘蛛型のモンスターが口から吐く糸でアビスラッシャーを縛り首の様に吊り上げていた。

 

「おやおや、漁夫の利狙いかい? モンスターにしては姑息だね。ま、お陰でこいつを殴り易くなったし、お代わりも来てくれてこっちとしては嬉しいけど……」

 

 サンドバッグ状態になったアビスラッシャーを殴り倒し、次に上に居る蜘蛛型モンスター・ブラックスキュラと戦おうと考えるレイダーだったが、その思惑は早々に崩れ去る。

 

 突然アビスラッシャーが体をビクリと振るわせたかと思うと、その腹部から鋭い爪の付いた手甲が飛び出した。

 

「ッ!?」

 

 手が引き抜かれると同時にアビスラッシャーは幕が上がるかのように引き上げられ、その場に新たなライダーが姿を現した。黒い衣装を身に纏った未亡人の様なライダー、ウィドゥだ。

 

「アヒャ! 見~付けた!」

 

 レイダーの前に姿を現したウィドゥは心底嬉しそうな声を上げる。それに呼応するかのように、レイダーも心が昂るのを感じた。本能的に察したのだ。目の前に居るライダーは自分と同類の相手であると。

 

「にっはっはっ! 君は少しは楽しませてくれそうだね! 正直、野良のモンスターだけじゃ物足りないと思ってたところだよ!」

「アヒャヒャ! ゴメンね、獲物横取りしちゃって! でも先に横取りしようとしたのはこいつの方だし、そこは勘弁してね?」

 

 ウィドゥが指差した先では、ブラックスキュラがアビスラッシャーを貪り食っている所であった。そのウィドゥの言葉で、レイダーが最初に感じた耳鳴りはアビスラッシャーのものではなくブラックスキュラのものである事に気付いた。

 

「良いって良いって! さぁ、やろう!」

 

 構えるレイダーとウィドゥ。睨み合う両者の上で、アビスラッシャーを食べ終えたブラックスキュラが勝鬨の様に声を上げた。

 

「キィィィッ!」

 

「「ッ!!」」

 

 ブラックスキュラの雄叫びを合図に、同時に駆け出す2人のライダー。放たれた拳と爪が交錯し、先手を取ったのはレイダーの拳だった。

 

「あぐっ?!」

 

 申し訳程度の装甲しかないウィドゥの胸に突き刺さるレイダーの拳。走る痛みに動きを止めるウィドゥに、レイダーの更なる追撃が襲い掛かる。

 

「そらそらそら! まだまだ行くよぉっ!!」

 

 見ただけで防御が弱そうなウィドゥの体に容赦なくレイダーの拳が叩き込まれる。まるで歪なダンスを踊るようにウィドゥの体は不規則に揺れ動き、見る見る内にボロボロになっていった。

 

 一向に反撃してこず防御もしないウィドゥに内心で違和感を抱き始めるレイダー。望んで相手をしに来たのだからもう少し血沸き肉躍る戦いが出来るかと期待していたのに、こんなワンサイドゲームでは拍子抜けだ。

 

――期待外れだったかな?――

 

 心の中で密かに肩を落とすレイダーだったが、拳を振るう速度は緩めない。もう何発目になるか分からない拳がウィドゥに振り下ろされた。

 

 その拳を、ウィドゥが片手で受け止めた。

 

「お?」

 

 かなりボコボコにした筈なのに、まだ元気があるのかと首を傾げる。

 

「ヒャ……アヒャ……」

 

 首を傾げるレイダーの前で、ウィドゥの口から小さな笑い声が漏れ肩が小さく震え始めた。震えと漏れ出る笑い声は徐々に大きくなり、次の瞬間堰を切ったかのように彼女は感情を爆発させた。

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャッ!! あぁ、イイ!! 最高!! こんなに愛されたの久しぶり!!」

 

 己の拳を掴みながら大笑いするウィドゥを見て、レイダーは先程のウィドゥに対する評価が間違いであった事を理解した。

 仮面の下で遊は口角が上がるのを抑えきれなかった。今ので確信した。このウィドゥは今まで出会ってきた仮面ライダーとは根本的に違う。

 

「ねぇ、もっと! もっともっともっと! もっと一杯愛して!! アタシも全力で愛してあげるから!!」

 

 言うが早いかウィドゥは下から掬い上げるように拳を掴んでいるのとは反対の手の爪でレイダーの装甲に傷を付けた。重厚なレイダーの装甲相手に、ウィドゥのパワーでは力不足もいい所だったがそんな事は関係ない。

 

「にはは! いいよ! この時間を存分に楽しもうじゃないか!!」

 

 そこからは傍から見たら目を覆いたくなるような戦いが繰り広げられた。

 

 正しくノーガードの殴り合い。互いに至近距離で相手に攻撃し続ける。防御など一切考えず、否、防御するのも勿体無いと言わんばかりに互いに拳と爪を叩き付け合っていた。

 

「うぎっ!? あがっ?!……アヒャ!」

 

 全く同じように互いを攻撃し続けるレイダーとウィドゥだったが、一見すると勝敗は明らかだった。重厚な装甲で覆われたレイダーに対して、ウィドゥの鎧は在って無いようなレベル。殴り合いでどちらに軍配が上がるかは火を見るよりも明らかだろう。

 

 にも拘らず、レイダーはウィドゥがそんな簡単な相手ではない事を理解していた。

 

「アヒャヒャ! キて! もっとキて!」

 

 ボロボロになっていると言うのに、男を床に誘うかのように求めてくる。それだけではない。時間が経てば経つほど、ウィドゥの動きが激しくなってきたのだ。まるで自分への攻撃を、痛みを、そのまま糧にしているかのようにウィドゥの攻撃の激しさが増した。

 

 今までレイダーが戦ってきたライダーは、例え最初に威勢が良くても自分のダメージが嵩む等して不利になると逃げ出そうとしたり命乞いをする奴が多かった。

 

 しかしウィドゥは違う。どれだけダメージが嵩もうが不利になろうが、今この瞬間を心の底から楽しんでいる。求めているのだ。命乞いどころか、逃げると言う発想すらない。

 レイダーはそれが嬉しくて楽しかった。単純に嗜好を理解されるのとは違う。嗜好を共感できる楽しさがここにあったのだ。

 

 この時間を心行くまで楽しもうとするレイダーだったが、同時に惜しくも思う。しぶとく喰らい付いてきてくれるのはありがたいが、それでもウィドゥのパワーの低さはどうしようもない。どれだけ装甲を傷付けられようが、レイダーには大きなダメージとはなり得ないのだ。レイダーが10のダメージを受ける前に、ウィドゥは100も200もダメージを受けるだろう。

 どうせなら互いに削り合うような、そんな戦いがしたかった。相手の全力の威力を肌で感じたい。決してマゾと言う訳ではないが、ワンサイドゲームよりも一進一退の手に汗握る戦いをレイダーは望んでいた。

 

 そんな事を考えていたからか、僅かな隙を突かれて右腕のアンダースーツをウィドゥの爪が掠った。装甲で受けるよりは大きな痛みがレイダーを襲うが、その程度で怯む彼女ではない。

 

 だが――――――

 

「ん?」

 

 攻撃を受けた右腕に違和感を感じた。攻撃されたのとは違う痛みと痺れが広がった。

 それがウィドゥの攻撃によるものである事を直ぐに理解した。ウィドゥの付けている手甲・ブラッククローの爪は攻撃と同時に相手に毒を注入する効果があるのだ。

 

 それを理解したと同時に、全身が一気に痺れと痛みを訴えだした。これまで装甲で受けてきた攻撃に付与されていた毒がレイダーに届いたのだ。

 

 瞬く間に全身を苛む痺れと痛みにレイダーの動きが鈍くなる。その瞬間、拮抗は崩れた。

 

「アヒャ!」

 

 ウィドゥはレイダーの動きが鈍くなったのを見ると、彼女に飛びついて押し倒し馬乗りになるとそれまでのお返しと言わんばかりにレイダーを両手の爪で切り裂いた。

 

「アヒャ! アヒャヒャ! 届いたのね、アタシの愛が! あなたはアタシ達の愛を受け取ってくれるのね!!」

「いぎっ?! ぐ、あ!? に、にはは! いいね! こう言うのだよ! わたしが求めてたのは!」

 

 お互いに楽しくて楽しくて仕方がない。命を削り合うが如く攻撃の応酬を続ける2人は、しかし仮面が無ければ互いに相手の満面の笑みを見ていただろう。

 

 レイダーの装甲を掻き毟って中身を引きずり出そうとしているかの如く爪で引っ掻きまくるウィドゥに、レイダーは毒の痛みと痺れを感じながらも仮面の奥で笑いながら反撃した。蓄積したダメージの影響かそれとも毒の所為か、口の中に血の味を感じるがそれも今の彼女には極上の甘味に等しい。

 

 一方押し倒された状態からでも脇腹に叩き込まれる重い拳に、しかしウィドゥは歓喜の笑い声を上げた。痛みが強ければ強い程、彼女にとっては熱烈な愛情表現となる。特に今正にウィドゥの毒とダメージで倒れたレイダーが、それでも尚自分に対して反撃して受ける痛みは彼女にとって愛する人とのロストヴァージンに等しい痛みであった。

 

 2人にとってこれ以上無い程の至福の時。しかしどんな時間にも、終わりはやってくる。特にこのミラーワールドでは、仮面ライダーであっても10分もいられないのだ。

 

 突然体が粒子化し始め、2人は同時に相手への攻撃を止めた。時間切れだ。

 

「え? 時間切れ?」

「あ~ぁ、もう終わりか……あ」

 

 楽しい時間が終わってしまった事に落胆する2人だったが、レイダーはすぐに焦りの声を上げた。

 

 残り時間が僅かだと言うのに、体が満足に動けないのだ。原因はウィドゥの攻撃に付与されていた毒である。消滅が近付いたことに気付き頭が冷えた瞬間、毒の効果で痺れが足に回り動きたくても動けなくなってしまったのだ。

 

 このままではミラーワールドから出られず、粒子となって消滅してしまう。

 

「あ~、ヤッバイ。どうしよう……」

「うんしょっ、と」

「え?」

 

 どうしようと悩むレイダーだったが、ここでウィドゥが思わぬ行動に出た。ブラッククローを外してレイダーの両脇を掴むと、一番近くにある鏡面に向かって引っ張っていったのだ。当然その間レイダーだけでなくウィドゥの体も粒子化しつつあり、このままでは2人揃って消滅してしまう。

 

「ちょ、君何してんの?」

「え? だってあのままじゃ動けなくて消えちゃうでしょ?」

「うん、そうだね。でもわたしが聞きたいのはそこじゃなくてね?」

 

 曲がりなりにも互いに敵同士だったのに、何故助けるようなことをするのかとレイダーは聞きたかったのだ。だがウィドゥはそんなレイダーの疑問など知った事かと言わんばかりに、鏡面に彼女を引っ張っていく。

 

 そしてあと少しで2人揃って完全に消滅してしまいそうなほど粒子化が進んだ直後、2人は鏡面に到着しギリギリでミラーワールドから脱出できた。

 

 ミラーワールドから出た瞬間2人の変身は解け、ボロボロとなった本来の姿で相対する。

 

 遊はウィドゥだった相手の正体に、思わず目を見開く。

 

「え!? 君だったの?」

 

 ウィドゥの正体が麗美であったことに遊は驚いた。何しろ先程出会った時とは雰囲気がまるで違う。

 これまで戦った中にも、変身の前後で性格が豹変する者は何人か居た。しかし彼女の場合はそれらとは何かが根本的に違っていた。

 

 それを表すかのように、麗美……と交代して表に出ているもう1人の人格である、前髪で右目を隠した瑠美が答えた。

 

「そうだよ~、さっきはアイスありがとうね! 美味しかったよ!」

「えと、麗美だよね? 君「違うよ」……え?」

 

「アタシは瑠美。氷梨 瑠美だよ。アヒャ!」

 

 遊に向け満面の笑みを見せる瑠美。口の端から血を流しながら向けられた笑みに、遊は目をパチクリとさせながら問い掛けた。

 

「えっと、君が瑠美だとすると……麗美は?」

「麗美も居るよ、遊の目の前にね」

 

 そう言うと瑠美は手で前髪をズラし左目を隠した。すると彼女の雰囲気がガラリと変わった。

 

「……さっきぶり。素敵な時間だったね、遊」

 

 爛々とした瑠美の笑顔とは対照的な、掴みどころのないフワフワとした笑みを浮かべる麗美に遊は最初困惑を隠せなかった。だが次第に冷静さを取り戻し、遊は一つの結論に辿り着いた。

 

「君、二重人格ってやつ?」

「ん~? あぁ、世間一般じゃそう言うね。…………アタシと麗美の関係を二重人格って言うなら、確かにその通りよ!」

 

 大人しい性格の麗美と、爛漫な性格の瑠美。あまりにも違い過ぎる性格だったので、戦っている最中は同一人物だと気付かなかった。

 だが同時にどこか納得もしていた。先程麗美と出会った時、遊はとても自然に麗美からの自己紹介に名乗り返していた。それは、麗美の事を心の奥底で自分と同類であると気付いていたからである。

 

 そこで遊は、麗美――いや先程戦っていた時は瑠美か――が、時間切れの危険を顧みず遊をミラーワールドから一緒に引っ張り出した事を思い出した。

 

「そう言えば、さぁ。何でさっきは……わたしの事を助けたんだい? ライダーは敵同士、あそこで私を放っておけば……ライバルが1人減るって言うのにさ?」

 

 毒と疲労で段々と朦朧としてきた意識の中で訊ねはしたが、遊には何となく答えが分かっていた。多分自分が逆の立場なら、あんな所であんな終わり方で決着がつく事を認める事は無い。

 

「ん~……うふ」

 

 瑠美は麗美と主人格を交代すると、まだ起き上がれない遊に馬乗りになると上から彼女に覆い被さるように顔を近付けた。互いに立派なものを持っている為、胸が押し潰されて傍から見るととても扇情的な有様だったが、遊は麗美の胸の感触よりも妖艶さを感じさせる彼女の笑みの方に意識を奪われていた。

 

「だって……まだまだ物足りなかったんだもの」

 

 近くで言葉を発されたことで、遊の顔に熱い吐息を吐き掛けられる。ただの吐息の筈なのに、遊は頭がくらくらするのを感じた。それはただ毒と疲労の影響で意識が朦朧としてきただけなのだが、遊には麗美の吐息が媚薬の様な効果を持っているように思えた。

 

「私はもっと貴女に愛されたいし、貴女をもっと愛したい」

「あんなにアタシ達を愛してくれたのは父さん達以来……ううん、それ以上よ」

「それがあんな形で終わるなんてつまらなすぎるから、一緒に外に出たの」

「遊もあんな形で終わらせたくないでしょ? あんなに楽しそうだったもんね」

 

 ダメージと疲労、毒の影響でもう遊の意識は限界だった。だがそれでも、麗美と瑠美の言葉だけはしっかりと頭に入ってきていた。

 

「だから…………ね? 次に会った時は、もっともぉっと愛し合おう」

「次はもっと素敵な時間にしよう。アタシ達、楽しみにしてるから」

 

 焦点の合わない目をした遊にそう告げると、麗美は遊の口元の血に舌を這わせ丹念に舐めとった。そして最後に彼女の顔に残った涎を自分のハンカチで拭き取り、ハンカチを彼女の胸元に置くと立ち上がり彼女から離れた。

 

「それじゃ、ね。次に会える時を、楽しみにしてるから」

「次もたくさん愛し合おうね!」

 

 遊に別れを告げてその場を離れる麗美。その場に取り残された遊は、意識が途切れる直前に心の中で彼女の言葉に答えた。

 

――わたしも今日は楽しかったよ! 次に会った時も元気にヤろうぜ!!――

 

 そうして遊は意識を手放した。炎天下の中、しかし意識を失った彼女の表情はこれ以上無い程に満ち足りたものになっていた。




と言う訳でコラボストーリー第1話でした。

本編で麗美/瑠美が美玲先輩に論破されて精神的にズタボロにされたので、こちらでは逆に同族とも言える遊ちゃんと出会ってテンションMAXな麗美/瑠美を描こうと思います。

今回は謂わば出会い編と言った感じ。次回からは麗美/瑠美と遊ちゃんがもっと親しく?キャッキャウフフする(ある意味で)ハートフルな話になる予定です。

今回のコラボは全部で3話予定していますので、どうかお付き合いの程よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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