遊戯王 ーknocking・gateー    作:光屋尭

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第6話「決闘者の強み」

 

「先ほどは私の先走った判断により、誘拐紛いの行動をしてしまい本当に申し訳ありませんでした~!」

 

「誘拐・・・・・・」

 

 あながち間違いでもなく、土下座する加賀頼珠美の姿を見るのは昨日今日で2度目だなと冷静に振り返る遊之だった。

 遊之が千華柄学園に入学して2日目。彼はクラスメイトに誘拐されかけた。

 登校してきた珠美に昨日の事を誰にも喋っていないかと問われたと思えば、顔を真っ赤にした彼女に手を引かれて教室から連れ出される羽目になった。

 暴走した珠美が我に返ったのは朝のホームルームが始まるチャイムを聞いたからで、すぐに教室に戻れれば良かったが、千華柄学園の校舎は1つ1つが大きく広い上に無我夢中で走り回っていたせいで現在地がどこだかわからない場所まで来てしまったらしく、もう授業が始まるまでに戻れないと悟った末に目の前にあった教室に入った。

 

「先ほどは私の先走った判断により、誘拐紛いの行動をしてしまい本当に申し訳ありませんでした~!」

 

「2回も言わなくていいよ? それに僕は気にしてないから大丈夫だよ」

 

 こうして、珠美に土下座される状況に至った。

 誘拐紛いの行動に出た理由は、だいたい予想ができていた。

 昨日の放課後、遊之の寮の部屋に生徒会長であり兄弟の間柄でもある龍皇斎、寮長であり顔なじみの鬼名川愛奈と一緒にメイド服を着た珠美も訪問してきた。

 具体的にはわからないが、その時の事を彼女は他の誰にも喋ってほしくない様だった。

 

「でも~、私のせいで授業に遅れる羽目になっちゃったし、まだ遊之くんは学園に来たばかりなのにきっと先生の心象とか悪くなっちゃうかもって思ったら申し訳なくて~!」

 

 ホームルームの時間は10分、終わればすぐに1限目の授業が始まる。珠美のいうとおり、自分たちの居場所すらわかっていない状態で始業前に戻るのは難しそうに思えた。

 千華柄学園は、世界規模でも最大級の敷地面積を誇る広大な学園だ。

 その中でより多くの生徒を迎え入れるために適した環境を作ろうとした結果、3000人前後の各学年の生徒をそれぞれに纏めて1つの校舎で勉学を完結させる形式になった。

 勉強に必要な設備やスペースも全てが集約された校舎は学園全体の西洋風の雰囲気に合わせてホテルに近い外観をしており、100以上の様々な用途の空間が内臓された巨大な建造物だ。校舎内にエレベーターはあるが、まだ遊之も全容を把握できておらず下手に動けば迷子になりかねなかった。

 珠美はかなり責任を感じているようで、瞳を潤ませた上目遣いで遊之を見つめながら、土下座の姿勢を解こうとしなかった。

 

「珠美」

 

「っ!」

 

 歩み寄って手を伸ばす。

 珠美は叩かれるとでも思ったのか一瞬だけ目を硬く瞑り、身構えているように見えたが、遊之は彼女の手を掬い執る形で床から持ち上げ、ゆっくりと立たせた。

 

「僕は怒ってもないし、そのままだと珠美の制服が汚れてしまう方が気になるよ。気持ちは受け取る、きっと珠美にとっては大事だったからあんなに焦ってたんだと思う、それはわかったよ。だから次は建設的に物事を進めていこう?」

 

 出来る限り優しい声色で諭しながら、負担にならない程度の力で手を握って語り掛ける。

 意外とでも思われたのか、それとも別の感情か、珠美はポーカーフェイスの遊之の心情を探るように目を合わせ続けていたが、安心したようにいつもの笑顔を浮かべた。

 まだ珠美と友達になって浅いが、やっぱり彼女は笑っていてくれた方が安心できると思った。

 

「ありがとう遊之くん。ごめんね~」

 

「気にしてないよ、これからどうしよう」

 

「そうだね~、でも、ここが校舎のどこなのかまったくわからないし、探しながら帰っても良いけど途中で運悪く先生に見つかって怒られるのは嫌だな~・・・・・・」

 

 珠美の考えも一理あると考え、学園から支給されていた電子生徒手帳を操作する。

 

「多目的教室」

 

「え?」

 

「ここは6階の多目的教室だよ」

 

 電子生徒手帳は、所有している人物が学園の生徒である証明書である他に、携帯電話と遜色ない機能と学園生活を円滑に過ごしてもらうための各種アプリがインストールされている。

 その中にはGPS機能付きのマップアプリがあり、汎用的な二次元ナビゲーションマップよりも進化した、学園内ならば現在地がどの建物の何階のどこなのか一目でわかる三次元で表示される優れものだった。

 

「遊之くんすご~い! こんなのよく知ってたね~!」

 

 珠美が目を輝かせて遊之の肩越しに画面をのぞき込んでくる。

 身体は当たっていなくても、両肩に手を置いて寄り添うような距離感はとても近く、首を横に振れば目の前には珠美の顔があるのは見なくてもわかった。

 その距離は異性同士の友達というよりも、同性の友達か彼氏彼女の距離感だったが、珠美に後者の意識がないのはわかっていた。

 元々親しみやすい気性なのもあれば、彼女にとって遊之は男子というよりも年下の子どもという安心感と気安さもあるのが近さの原因なのかもしれなかった。

珠美も顔が整っており、日本人らしい童顔と合い余った愛らしさのある美少女で、異性で彼女を魅力的に見ないタイプはそうはいないだろうとも思えた。

 

「僕が凄い訳じゃない、珠美もマップ機能は知っていたはずだけど表示の切り替えがわかりにくかったんだと思う」

 

「そうなんだけど、私計算とか機械とか苦手でわからないとすぐに諦めちゃうんだ~、だからそういう事を調べたりすぐに理解できる人って凄いと思うの~」

 

「僕も珠美の事を凄いと思う時があるよ」

 

「そうなの~?」

 

「珠美、もしかしたら僕たちはわざわざ教室に戻らなくてもいいのかもしれない」

 

 多目的教室には、気軽に決闘ができるように決闘円盤(デュエルディスク)の派生形である卓上型の立体映像装置(ソリットビジョンシステム)が搭載されたテーブルがある他に、各席に備え付けられたタブレットから一般生徒でも使用できるレベルの学園のネットシステムの操作、情報の閲覧などができるようになっている。

タブレットの電源を入れ、インストールされている複数のアプリから目当てのモノを探す。

様々な電子書籍が読める読書アプリ。が配信している過去のプロ決闘者の決闘映像が閲覧できる配信アプリ。現在に校内で行われている生徒同士の決闘をAIの解説付きで視聴できるアプリなど気になるアプリが多く、まだ1人で来ようと遊之は密かにテンションが上がっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 興味深いアプリに紛れて、妙なアイコンの『みんなの生徒会長、龍皇斎のお悩み相談室』なる名前のアプリを発見した。

 妙なアイコンをよく観察すると、上等な革製の椅子に座っている斎が決め顔とモデルのようなポーズをしているという奇怪なデザインだった。

 

「いつもの斎だった」

 

 昔から斎はセンスの悪い茶目っ気を出す癖があった。

 

「生徒会長がどうしたの~?」

 

「なんでもない」

 

 センスの悪いアプリの存在自体を意識の隅に追いやると、目当てのアプリである学園の情報を統括する高性能人工知能《AI》『マザー』と直接意見交換ができるアプリを起動させる。

 アイコンをクリックすると、背景が真っ黒な画面が開かれる。

 しばらくすると白色の光球を中心に七色の光の輪が廻っているデザインが表示された。

 

「レベル2ノ生徒ニヨルログインヲ検知シマシタ、ヨリ詳細ナ証明確認ノタメ、電子生徒手帳ヲ端末ニ繋イデクダサイ」

 

 人間よりも劣る流暢さの機械音声、これが『マザー』の声なのは明白で、レベル2の生徒とは恐らくシステムに介入できる権限のレベルを現わしているのだろうと思われた。

 

(もしくは他の意味なのか・・・・・・)

 

 遊之は音声に従って自分の電子生徒手帳とタブレットをケーブルでつなぎ、予め決めていたパスワードを打ち込む。

 

「接続者ガ1年F組、天神・オルレア・遊之トシテノ証明確認ヲ完了シマシタ、要件ヲマイクニムカッテオツタエクダサイ」

 

「『マザー』、訳あって僕たちは教室にいない。今から急いで教室に行っても始業前に間に合うとは思えない、この端末から1年F組で行われる予定の授業に参加は可能か?」

 

「可能デス」

 

「珠美、この教室から僕たちは授業に参加できるよ」

 

「え!? じゃあ遅刻扱いにはならないってこと~?」

 

「そう」

 

「やった~! 本当にそんな事できるんだ~!」

 

 珠美が両手を挙げて喜んでいるのを見ていると、こっちまで嬉しくなる気がした。

 

「でも、遊之くん。どうしてそんな事ができるって知ってたの~?」

 

「千華柄学園の授業カリキュラムはAI『マザー』が管理していて、授業も教師の代わりにAIが教えてくれる。その利点として様々な理由で学園や教室まで来れない状態の生徒が居た場合、ネットを介してのオンライン授業を自由に選択できるって学園のパンフレットに書いてあったのを思い出した。だから、もしかしたらここならできるって思った。珠美も生徒手帳を端末に繋いで、もうすぐ授業が始まるよ」

 

「うん!」

 

 珠美と隣同士に座って、無事に予定されていた授業には参加できた。

 F組に帰った時のクラスメイトの反応は気になる部分ではあったが、大した問題じゃないと開き直った。

 1限目の授業は数学で、開始して3分の2の時間が経った頃に珠美が悩ましい声を漏らした。

 

「なんで~! なんで数学の授業の最後に『詰め決闘』の問題が出てくるの~!?」

 

プロ決闘者育成機関(デュエルアカデミア)だから?」

 

「そ、そうなの、かな~?」

 

 遊之がさらりと出した答えに納得できそうでできない珠美だった。

 詰め決闘とは、予め盤面が決められた決闘シーンから、定められた条件をクリアした回答を導き出すパズルゲーム形式の問題だ。

 双方のデッキ内容、ライフ、手札、フィールド、墓地、除外ゾーン、あらゆる要素と選択肢を把握し、最善の行動《プレイング》を考えなければならないこれは、決闘者において最もポピュラーで実践的な問題形式だ。

 

「珠美は詰め決闘が苦手なの?」

 

「苦手っていうか、興味のないカードが使えないっていうか~」

 

「?」

 

「私ね、可愛いカードが好きなの~」

 

 珠美は、恥ずかしさを紛らわす、そんな笑みをしていた。

 

「ほら、マキくんとか遊之くんが使ってる〔古代の機械〕とか〔斬機〕っていかにも男の子が好きそうなカッコいい感じのカードでしょ~? 私は〔妖精伝姫〕とか〔メルフィー〕とか、あと〔閃刀姫〕とか可愛い動物とか女の子のモンスターが好きなの~。好きになったカードしか興味が沸かなくてずっと同じデッキばっかり使ってたんだけど、そのせいで使った事のないカードとか全然わからなくて~、同じデュエルモンスターズのカードなんだからわかる気はするんだけど、苦手意識が消えなくて・・・・・・」

 

 自分の事を語る珠美は徐々に自信が無くなっているのか、声が小さくなっていた。

 

「運が良かったのもあったんだけど、せっかくプロ決闘者育成機関に入学できたんだから頑張らないといけないなって思ってるんだけど・・・・・・・・・・・・、実はね、私入学してからあまり決闘実技で勝った事がないんだ。皆すごいよね~、興味あるないじゃなくていろんなカードを知ってるし、勝つために強いカードをバンバン使ってるし、だから私みたいな変なタイプって弱いのかな~とか思っちゃったりして」

 

「違うよ」

 

「え?」

 

「僕は珠美の考え方は変じゃないし、それのせいで弱いとは思わない。好きなカードを使うのは何もおかしい事じゃない、強いカードを使っている、知っているだけでは本物の強さにはつながらない。全てのカードを性能の強弱だけで判断したら僕もマキも真澄も今のデッキを使ってないと思う」

 

真剣に意見を伝えようとする遊之に、珠美は真剣に耳を傾けていた。

彼がアメリカのアマチュアチャンプになった実績を持つ決闘者なのもあり、彼自身が感じ、考えて結論に至った、そんな確信めいた重みを感じさせたからだった。

 

「例えば、6代目にして初の女性【決闘王】(デュエリストキング)〟瑠璃色姫〝(ラピスプリンセス)アリエナ・パートニーは、プロ決闘者になって以降、【決闘王】になっても引退する日まで公式戦においてずっと〔ブラック・マジシャン〕デッキを使い続けていたのは有名な話。初代【決闘王】、武藤遊戯の大ファンだから〔ブラック・マジシャン〕デッキを使い続けた」

 

「そんな人がいたんだ~」

 

「そう、しかもそれは彼女だけじゃなくて、調べてみると他の歴代の【決闘王】や現役のプロ決闘者でも公式戦の様な大切な決闘がある時は流行に限らず使い慣れたデッキやカードを使う傾向が高いのがわかった、勝率も悪くない。現代のデュエルモンスターズは、決闘者とデッキの相性がカード本来の性能差を覆すのは珍しい話じゃない」

 

「決闘者とデッキの相性・・・・・・」

 

 珠美の右手の甲には、ハートマークをした精霊巧紋が刻まれている。

 

「でも、色々なカードを知っておいて損はないと思う、だから詰め決闘はできるだけ頑張った方が良い」

 

「だよね~! でも、ありがとう、突然ネガティブな事言ってごめんね~? なんか、もやもやしてたのが無くなった気がするよ~」

 

「問題ない、決闘者なら誰でもぶつかる壁だから」

 

 珠美の表情からは曇った笑顔は消えていて、悩みは解消できた様だった。

 それでも興味のないカードに触れてこなかったのは痛手であり、出題された詰め決闘は悉く(ことごと)自力回答できず遊之が教えた。

 時間を10分残して、2人は1限目の授業範囲を終わらせた。

 

「ねえ遊之くん、髪の毛いじっていい~?」

 

「いいよ」

 

 遊之が時間を有効活用しようと次の古文の授業の予習をしていると、暇を持て余している珠美が髪の毛をいじり始める。遊之は慣れているのか特に抵抗を示さなかった。

 金色と水色のコントラストに彩られた男子にしては長く艶がある細やかな質の髪は、初めに手櫛で整えようとした珠美の指に一切引っ掛らずすり抜ける。

 

「キューティクルやばい・・・・・・ねえ、遊之くんって髪の毛の手入れって何かしてるの~?」

 

「なにも。シャンプーとリンスは使ってるけど」

 

「良い意味でやばいね~」

 

「不思議な言葉の使い方だね」

 

 現役女子高生も脱帽のキューティクルの持ち主だった。

 

「良い匂いもするし、どこのシャンプー使ってるの~?」

 

「シルフィードのオーダーメイド」

 

「それってハリウッド女優が使ってる海外の高級化粧会社のやつだよね~!? しかもオーダーメイドとか羨まし~! 高すぎて手が出せないけど私も人生で一度は使ってみたいな~」

 

「ストック1つあるから使ってみる?」

 

「良いの!? ありがと~! あっ、ポニーにしても良い~?」

 

「問題ない」

 

「ありがと~。うん、やっぱり遊之くんは元が可愛いからどんな髪型も似合うね~」

 

 珠美は終始楽しそうに遊之の髪をいじり、様々な髪型を試していた。

 

「本当に遊之くんって、男の子だよね?」

 

「そう」

 

 持参した髪留めやシュシュを駆使して一通り髪型を試したのか、遊之の髪をサイドテールにした珠美は真顔でそんな事を聞いてきた。

 ここまで性別を疑われるのは初めてだったが、傍から見ても遊之は中性的な顔立ちと幼さもあって服装や化粧の仕方によっては間違えられてしまっても仕方ない容姿をしていた。

 

「ねえ、やっぱり土曜日の買い物の時、私も一緒に服選びしてい~い? 遊之くんに似合いそうなブランドがあるんだけど~」

 

「メンズでなら」

 

「そうだよね~! でも任せて、お姉さんはメンズにも明るいから~」

 

「それなら楽しみにしてる」

 

 珠美の魂胆を予知した遊之は彼女の野望を退ける。

 どういう服を着させようとしていたのかは想像し難いが、メンズでない可能性が高いのは確かだった。

 

「ちっ、マスミンめチクったな~」

 

 そんな小声の愚痴が聞こえたが無視を決め込んだ。

 1限目が終わるチャイムが鳴り、遊之は予習に一区切りを付けて立ち上がる。

 さすがに2限目には教室に戻るべきだと思ったからだ。

 

「おまたせ珠美、教室に戻ろう。珠美?」

 

 返事が無くて振り返ると、珠美は笑顔のまま無言で遊之を見つめていた。

 目の前の少年の挙動を見逃さないように、焼き付けるように、興味津々とばかりに大きな瞳に写し続けていた。

 

「どうしたの?」

 

「遊之くんって本当に不思議な子だよね~?」

 

「何の話?」

 

「見た目が女の子みたいで可愛いのに決闘してる時はちょっとカッコいいなって思ったし、私たちよりも年下なのに年上みたいに落ち着いてて、飛び級してくるぐらい頭も良いし~」

 

 遊之は珠美の脈絡のない会話の流れに戸惑っていた。

 何が言いたいのか表面上はわかっているが最終的に彼女が何を訴えているのか、結末を予想ができなかった。

 珠美はおもむろに遊之の両頬に両手を添えて顔を固定させる。

 そのまま躊躇もなく彼の顔に顔を、唇に唇を重ねようと近づき、触れるかどうかの距離で避け、耳元で囁いた。

 

「ねえ遊之くん、お悩み相談に乗ってくれたお礼に今日の決闘実技、私と決闘しよ?」

 

 その時の口調と雰囲気は、ついさっきまでのクラスメイトとしての彼女とは違う、昨日にメイド服姿で現れた時の珠美のモノになっていた。

 

 

 

                                      ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ほー、今日は加賀頼と決闘するのか。意外だな」

 

 良平が関心ありとばかりにそんな事を言ってきた。

 

「どうして?」

 

「いや、お前ぐらいの実力なら真澄に興味が沸くもんだと思ってたからな。俺としては禽野ともやって欲しい気持ちもある、あいつも中々強いぜ?」

 

「僕も決めてはいなかったけど、竜一としたいと思ってた。でも今日は珠美の方から誘われたから」

 

「加賀頼から? 珍しいな、あいつが自分から決闘を誘うのはあんまり見た事ねえけど。どういう流れでそうなったんだ?」

 

「わからない」

 

「はあ?」

 

「ちょっとマキ、あまり駄弁ってると牛尾先生に怒られるわよ」

 

 4限目の決闘実技の時間。

 遊之たち1年F組は第三決闘広場(アリーナ)に集まって、担当教師である牛尾の前で整列をしていた。

 

「今日の決闘実技だが、お前たちに課題を与えたいと思う」

 

「なんで俺だけに言うんだよ、一緒に喋ってる遊之にも言えよ」

 

 牛尾の話を半分聞きながら、良平は斜めから注意してきた真澄に不満を口にしていた。

 

「あんたが喋りかけてるからよ、付き合って貰ってるのがわからないの? 天神君はちゃんとTPOを弁えるに決まってるでしょ」

 

「ちょっと待ってくれ、なんで俺にTPOが無いみたいな話になってんだ?」

 

「あるの? 今まで生きてきた時間のどの辺に?」

 

「あっただろ!? そりゃあ空気読めない時もあっただろうけど、16年も生きてりゃせめて1度はあっただろ!?」

 

 彼の幼馴染である真澄は記憶を遡っていたみたいだが、本気で首を捻っていた。

 

「あれ、本当にあったかしら?」

 

「マジかよ」

 

「いくらマキでもあっても良いと思う」

 

「遊之、お前それは煽ってるのか? 煽ってるんだよな? よーし、今日も俺と決闘しろ! 昨日の白星を黒に塗りつぶしてやるよ!」

 

「おらそこの3人組! 漫才なら放課にやれ!」

 

「「すいません!」」

 

「すいません」

 

 牛尾の激が飛び、周囲からクスクスと笑いが零れた。

 

「お前のせいで怒られたじゃねえか!」

 

「私は巻き込まれた被害者よ!」

 

 遊之は何も言わなかったが、わざわざ大声を出さなくてもいいのにと不満は覚えていた。

 

「聞いてなかった奴らのためにもう1度言うぞ、今日の決闘実技だが俺はお前たちに課題を出す。別に感想文を提出しろとは言わねえ、そんなもん書く暇があるならその集中力を決闘に回せ、課題の事を頭に入れながら戦え。そしてお前らなりの答えを見つけろ。これは俺が決闘者として生きてきた中で、答えを見つけ出した事で確実に成長の糧になった課題だ」

 

 昨日の決闘実技で虎河が犠牲になった事で牛尾の実力が証明されているため、F組の全員は彼の金言を聞き逃さないように集中していた。

 

「課題は『自分の強みを自覚しろ』それだけだ、以上、実技を始めてくれ」

 

「強み?」

 

「自覚ってどういう事?」

 

 この時点で、生徒間で反応が分かれた。

 

「なにざわついてんだ? 言われなくてもわかるだろうよ、もしかして謎々か?」

 

「いや、そのままの意味で正解だと思うよ虎河」

 

「フーン、全員が自覚できてた訳じゃないんだ」

 

「人間は見たい物しか見ない生き物だ、意識しなければ気づけぬ事もある。それを悟らせるための課題だろう、全員とは言わずとも自覚できていない者が多数いると見抜いた牛尾先生の慧眼には恐れ入るな」

 

 竜一を筆頭にした4人組は既に課題をクリアしているようだった。

 

「なるほどね、天神君はわかってる?」

 

「問題ない」

 

「さすがね」

 

 遊之と真澄もクリアしていたが、1人だけ頭を抱える友達がいた。

 

「強みってなんだ? 自覚ってどういう事だ? 漢字の意味を知れって事か? わからねえぞ!? 強みを自覚するってなんなんだ!?」

 

「しまった、アンダーツートップの馬鹿さ加減を見誤っていたわ」

 

「マキ・・・・・・」

 

 頭を抱える良平に頭痛を感じる真澄と若干引く遊之だった。

 でも、良平は無自覚で自身の強みを理解していると直接戦った遊之はわかっていた。あとは彼がそれを自覚してくれるのを祈るしかなかった。

 きっと良平なら、好敵手(ライバル)ならできると、次のステージに昇って来るという期待とそんな未来が必ず来る自信があった。

 

「遊之くん、決闘しよ~」

 

「わかった」

 

「加賀頼さんが今日の天神君の相手なの? 課題の意味はわかってるの?」

 

「うん、大丈夫だよマスミン、心配してくれてありがと~。偶然だけど遊之くんが教えてくれたから~」

 

「そうなの?」

 

「偶然だけど100%じゃない。あとはこの決闘で答え合わせをするだけ」

 

「実はねマスミン、1限目の時に遊之くんにお悩み相談してね、ちょっとだけわかった気がしたんだ~。皆がどうしてそんなに強いのか、私に何が足りなかったのか・・・・・・そのお礼も兼ねて決闘するの~」

 

「そうなのね、頑張って」

 

「うん、行ってきま~す!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 決闘スペースに歩いていく珠美と遊之を見送りながら、真澄は珠美にはっきりとした違和感があった。

 女同士でしかわからないぐらいの些細な変化。声色、態度、心情の変化、それらを取り繕っていつもどおりを演じているかのような。

 

「お手並み拝見といこうじゃない、加賀頼さん」

 

 珠美が遊之からの助言で何を得たのかはわからなかったが、この決闘はこれまでの彼女の評価が覆るかもしれない、そんな決闘者としての直感が真澄に興味を持たせた。

 

「私ね、学園に来てからずっと焦ってたし、迷ってたんだ~。地元だと強い方だって自信があったんだけど、ここに居る皆は私よりもずっと強いし勉強熱心だし、だから、努力はしてたつもりだけどずっと私のやり方って、決闘者としての在り方ってダメなんじゃないかって迷ってた」

 

 決闘をするためのスタンディングポジションに立ち、決闘円盤(デュエルディスク)にデッキをセットしながら向かい合う遊之に珠美は言う。

 

「でもあの時、遊之くんがそんな私を肯定してくれた。それで迷いが吹っ切れたっていうか、もうやりたいだけ貫いちゃえって思えるようになった、だからこの決闘はそのお礼。久しぶりの全力の私を遊之くんに見て欲しいんだ~」

 

「珠美の悩みが晴れたのなら僕も嬉しい、だから遠慮なく決闘をしよう。僕も全力の珠美が見たい、今、この瞬間は珠美しか見ない」

 

「ありがと~、遊之くんならそう言ってくれるって信じてたよ~」

 

 両者の交戦する意志が伝わり、決闘円盤が起動する。

 共鳴して決闘広場の立体映像装置も展開され、決闘者を決闘の戦場(フィールド)へと誘う。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

「先攻は私がもらうね~、私は手札から〔閃刀姫レイ〕を通常召喚!」

 

 珠美が召喚したのは、赤黒い刀を持つ金髪碧眼の可愛らしい少女の姿をしたモンスターだった。

〔レイ〕は膝を着いた状態で立体映像装置により映像化され、立ち上がると敵である遊之に

 刀の切っ先を向ける。

 その表情が好戦的に微笑んでいたのは、持ち主である珠美の心情を映しているかのようだった。

 

「今回も珠美さんは〔閃刀姫〕なんだね」

 

「水橋さんも後発組?」

 

「そ。暇のついでに天神ちゃんと珠美さんの決闘を観戦しようかなって」

 

 遊之と珠美の決闘を観戦していた真澄に喋りかけたのは、水色の髪のクラスメイト、水橋隻だった。

 決闘広場は、将来、プロ決闘者となる生徒たちのために現役のプロが使用する世界決闘協会が規定している広さの決闘スペースを設置し、使用させている。

 その関係上、スペース1つの広さは十分に確保されているが決闘広場の容量的に生徒全員が同時に決闘できる訳ではない。

 そのため、いつの間にか先に決闘する組を先発組、順番待ちになる生徒を後発組と呼ぶようになっていた。

 

「ん? 天神ちゃん?」

 

「え? なんか変?」

 

「変じゃないけど。ごめんなさい、気にしないで」

 

 真澄は隻の遊之の呼び方に引っ掛かりがあったが、気のせいだと流した。

 

「でさ、真澄は珠美さんがなんで天神ちゃんに決闘を挑んだか知ってる?」

 

「理由って事? それなら具体的には知らないけど天神君に珠美さんが助言をもらったらしくて、そのお礼とか言ってたわね」

 

「フーン、お礼ね」

 

「それがどうかしたの?」

 

「別に大した意味はないんだけどね」

 

 視線を遊之たちに向けながら話す隻は、素っ気ない言い方にどこか不機嫌な雰囲気を滲ませていた。

 

「さっき真澄と珠美さんの会話を聞いてたんだけど、今回の先生の出した課題の答えがわかってるみたいな事言ってたでしょ? 珠美さんって私たちよりも明らかに弱いし、クラス順位でも中の下だし、正直、課題の答えがわかってると思えないんだよね。その程度の実力しかないのに、クラスで2番手の浜巻君を相手に勝った天神ちゃんによく決闘を挑めたなって思ってたんだけど、仲良しごっこみたいな理由で逆に納得した」

 

「そう思うわよね」

 

 辛口の評価を告げる隻に、真澄は同意を示す。

 プロ決闘者育成機関である千華柄学園に入学した生徒たちは、ごく普通の学生とは異なり、友達やクラスメイトという関係と並列してそれぞれを1人の決闘者として敵対者、好敵手と見なす関係が成立している。

 プロ決闘者の世界は、強さが、決闘での勝利が己の存在価値となる。

逆に負けが続き、弱者の烙印を付けられた者が日の目を見る事もなく引退に追い込まれるのは日常茶飯事な世界でもある。

 その価値観は、プロの世界に夢を見て目指す少年少女が揃うこの学園でも適応されており、決闘実技の勝敗は成績に大きく反映され、強いては夢を勝ち取るための最善の行動もひたすらに勝ち星を上げ続ける事であるという、ある種の常識と認識されていた。

 

「好きなカードだけを使って勝てるほど学園(ここ)は甘くない。珠美さんは圧倒的に決闘者としての才能がないよ、クラス順位1位の真澄もそう思うでしょ?」

 

「そうね、でも」

 

 真澄は、とある人物から過去に言われた言葉を反芻するために口にした。

 

「『決闘者としての強さはそんな単純なモノじゃない』とも私は思うわ」

 

「どういう意味?」

 

「加賀頼さんが本当に課題の答えを理解しているのかは、決闘の結果が示してくれるって意味よ」

 

「フーン、そんな簡単に変わるとは思えないけど」

 

 そんな外野の雑談は、幸いにも決闘に集中する珠美には聞こえておらず、耳が良くて全て聞こえていた遊之は一先ず安心した。

 余計な雑音が雑念を誘発し、彼女の調子が狂ったらせっかくの決闘が台無しだったからだ。

  様子を観察していると、珠美は徐々に集中力が高まりつつあった。

丸く大きい眼は瞼が持ち上がり、より大きく見開かれ、瞳孔がわずかに開いた瞳は戦術を組み立てているのか手札を見るために左右に忙しなく動いていた。

 その時の彼女は、1限目の多目的教室で決闘の約束を取り付けてきた時と同じ眼をしていた。

 

(楽しそうだね、珠美)

 

そう話しかけたい気持ちもあったが、邪魔をしてはいけないと内心だけの言葉に留める。

遊之も、彼女に倣って今ある手札と相手が〔閃刀姫〕使いである情報を加味した上で勝利のための戦術をイメージしていく。

  思考の海に潜り込んだ遊之が知覚するのは、無数のカードが光の線により繋がっていき、ピラミッドを形成していく映像。

戦術ピラミッドの天辺には、辿り着きたい未来、決闘に勝利するための最後の鍵となるためのカードが鎮座しており、望むように手の平を天に掲げるとそのカードが手元に降りてくる。

 

(今回は、うん、君に頼んだ)

 

 思考の海から脱し、目を開けるとイメージの世界で降りてきたカードはまだ手札には存在していなかった。

 だが決闘は止まらない、珠美は最後に手札の右端のカードを見ると動き出す。

 遊之は珠美のその些細な行動を見逃していなかった。

 

「私は〔閃刀姫レイ〕1体をリンクマーカーにセッティングして、〔閃刀姫―カイナ〕をリンク召喚!」

 

 〔レイ〕が刀を胸の前に掲げると、空中に異次元へと繋がっている穴が発生し、そこから複数機の黄金色の機械が飛び出てくると彼女の身体に鎧のように繋がっていく。

 両肩と両腰に2本の巨大な機械の腕を備えた、顔以外の全身に機械の鎧を纏った姿。

 それが〔レイ〕の数多ある戦術形態の1つ、〔カイナ〕の姿だった。

 

「〔カイナ〕?」

 

「まだまだ行くよ遊之くん、楽しんでいこうね~」

 

「もちろん、この決闘を楽しもう。珠美」

 

〔カイナ〕が召喚された事に疑問を持つ遊之だったが、珠美がどんな戦術を披露してくれるのかという期待も抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

                          遊戯王 ―knocking・gate― 第6話「決闘者の強み」・終

 

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