転生イリアちゃんは原作知識とかないので、地の対応力で頑張ります!
《月》は優しく強く
セリカ…………いいえ、セリカさんに弟子入りして数年後、アルザーノ帝国魔術学院に入学以下略…………。
あれこれあって今は《月》のイリア=イルージュとして、時には任務で殺しまくるわ、尋問で埒が明かないから非番でも呼び出されるわで過労死寸前中です。
疲労困憊でセリカ宅にたどり着こうという直前に通信用魔導器が鳴り響き、はぁと深い溜め息をつきながらも応答する私。
(おっと、その前に…………)
リモコン擬きを自分の頭部に向け、ボタンを押す。
相手が誰にしても弱味を見せたらいけない。
それは良い意味でも悪い意味でも付け入る隙を当てることにつながり、万が一がある。
自分の中のスイッチが切り替わったことを自覚しながら、通信に出る。
「あ、イヴさんじゃないですかー!! どうしました? もしかして、独り身の夜が寂しかったりするんですか~?」
通信先のイヴ=イグナイト…………帝国宮廷魔導士団特務分室の室長である女性は苛立ちつつも平坦な声で返してきます。
『燃やすわよ。イリア、あなたに任務よ。任務内容は…………』
「『廃棄王女エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノを護衛せよ』…………ですよね! 了解しました!」
私は内心ほくそ笑み、イヴさんが言うはずだった言葉をびしっと華麗な敬礼とともに言い放った。
しかし、それが癪に触るという態度を隠しもせずにイヴさんはそのまま話す。
『…………ええ、そうよ。というか、あなたの情報網はいったいどうなってんのよ』
「さあ? 私にはなんのことだか~」
『まあいいわ。とにかく、失敗は許さないわよ』
「それは、『あの』父親にいびられるのが怖いからですか~?」
命令を先に知っていたということよりも、今回の私の一言にイヴさんは底冷えのする声音で返してくる。
『…………黙りなさい』
「あなた、本当にこのまま自分の意思も持てない父親のお人形に成り下がっちゃいますよ~? 辛いですよね~。…………それでセラさんを見殺しにしそうになったんですから」
『黙りなさいと言ってるのよ!!』
そう、彼女はそれをとても気にしている。
とある事件で追い詰められたセラさんとグレン先輩ためにアルベルトさんを回そうとしてくれたのに、あのクソ親父のせいでそれができなかった。
事前に察知していた私が助け出したからこそ、二人とも無事ではあったものの…………イヴさんの心にはどうしようもない感情があふれていたことは想像に難くない。
高圧的な態度で誤解されがちですが、本当の彼女がとても優しい人物であることは私は知っている。
激昂したイヴさんを慰めるわけではないですが、ひとつだけ老婆心ながらにアドバイスを送ることにしました。
「…………イヴさん。立場やプライドに固執していたら、本当に大切なものを失うことになります。もしも、あなたが何かを怖いと思うのなら、本当にやりたいことを思い出してください。そうすれば少しは変わると思いますよ?」
これ以上なにかを言われる前に、私は通信を切った。
リモコン擬きを再度頭部に向け、スイッチを押す。
本来の形に戻ったという安堵を覚えながら、思考にふける。
仕入れた情報によれば、エルミアナ…………もとい、ルミア=ティンジェルは数年前に亡くなったとされるアルザーノ帝国の第二王女。
この時点でおおっぴらに護衛できないことが分かり、秘密を露見するなどもっての他。
彼女の出自には自分と似通ったものを感じましたが、決定的に違うことがあります。
…………王女は愛ゆえに放逐され、私は愛がないゆえに『アリエス』を殺したということだ。
◆◆◆
玄関の戸を開け、やがてリビングに辿り着くと兄弟子と師匠の会話が耳に入ってくる。
やれ働いたら負けなどと、いかにもダメ人間の言動をする黒髪の青年こと私の兄弟子のグレン=レーダス先輩。
そんなグレン先輩の態度と味のダメ出しに対して、爆裂魔術で吹き飛ばそうとしたのが金髪の美しい女性、セリカ=アルフォネアさん。
二人の会話に呆れつつ、適当な席に腰かけて朝食を戴く私。
「おお、イリア。帰ってたのか」
「…………ええ、まあ」
私はイヴさんの時とはうって変わって、心底疲れたと声音でアピールする。
事実、疲れていたのです。
私の力が尋問で一方的に情報を引き出せるからって…………ブラック企業よろしく働くことを強要される。
力とは魔術ではなく、世間で言うところの【異能】と呼ばれるもの。
なんとなくこの名前がしっくりくるのでそう呼んでいますが、何故なのでしょうね?
「なぁ聞いてくれよ、イリア。セリカのやつ、俺に働けってうるさくてよー」
「あはは…………というか、19にもなって兄弟子がニート街道まっしぐらとかこっちが勘弁してくださいよって感じですけどね」
「…………なんか、わりぃな」
適当に愛想笑いで返した後、事実をありのまま伝えるとグレン先輩は少しだけばつが悪そうに謝ってくる。
グレン先輩は、私に関してはあまり強く出れない傾向がある。
私の出自を知っている数少ない人物の一人で、兄妹同然に過ごしてきたからかお互いに家族のように思っている。
「あ、セリカさん。私アルザーノ帝国魔術学院にしばらく厄介になりますから。…………それに、グレン先輩の就職先にちょうどいいのでは?」
「ああ、そういや今日はそのことでグレンに話があったんだった。もう察してるとは思うが、お前には非常勤ではあるが学院で講師を一ヶ月やってもらう。私の地位と権限でどうにでもできるし、結果によっては正式な講師にもなれるぞ」
「…………解せないな。帝国一の魔術学院だったら非常勤なんて雇わずに、替えの講師ぐらい用意できるだろ」
さすが、元特務分室執行官No.0《愚者》なだけあって鋭いですね。
「グレン先輩の言う通り、あの学院がそんな枠を作る事態があり得ないんです。講師の一人、ヒューイ=ルイセンは表向きは一身上の都合で退職したことになっていますが、実際は突然失踪したというのが真実です」
「…………よし、断わr」
「ちなみに、お前に拒否権はないぞグレン」
早々に嫌な気配に気づいた先輩は突っぱねようとしていましたが、セリカさんにあっさりと遮られてしまいました。
「ほう? 嫌だと言ったら?」
「お前の処刑方法はいくらでもあるが…………イリアの力で全裸で街でも回ってきてもらうかな」
「「え」」
あの、それ操るほうも嫌なんですけど!?
「…………それだけは勘弁してください」
正直、グレン先輩の判断には同意せざるをえない。
身内からそんな恥さらしを出したと知られれば、こちらにもいらぬ風評被害が及ぶから。
「お願いしますセリカさん! 俺、絶対に働きたくないんです! 靴でも何でも舐めますから、どうか養ってください!」
一周回って微笑ましく思えてくるほどの清々しさを覚えた私は、リモコン擬きを自らに向けてボタンを押した。
「…………セリカさん、後は私に任せてください」
「…………任せた」
「…………おいおい、嘘だろ!?」
「嘘だったら、お前にとってどんなによかっただろうな」
私はグレンのヨレヨレになったネクタイを強く引っ張り、勢いよく引き寄せる。
「今お前が思っていることを当ててやろうか? 『やっべぇ、俺殺される』…………だろ?」
「相変わらずイリアのマジモードはえげつねぇな。私でさえ一瞬びびったぞ」
セリカの言葉も今はどうでもいい。
問題はこいつを無理矢理だろうが、講師をやることを同意させればいいのだから。
「なに、安心しろ。殺しはしないが、悪夢一週間休みなしの刑は覚悟しておいたほうがいいな?」
「嫌だぁあああああああああああああああッ!!」
「なら、分かるな? お前がどうすればいいのか…………」
「働きます、働かせてください…………」
もう一度ボタンを押し、素面に戻ると満面の笑みをグレン先輩に向ける。
「はい、よくできましたね先輩!! これから一緒に学院で頑張りましょうね!!」
私が包み込むように掴んだ先輩の両手はそれはもう震えていて、一瞬快感を覚えてしまったのは秘密です。
イリアちゃんになったオリ主、隠れSだと判明。
ここでのイリアちゃんは素でも敬語です。