今回はユゥユゥとエシュア君を中心とした話です。
覚悟を決めてイグナイト家を出たはずなのに、こうして弟の世話を焼いている残念お姉さんは誰でしょう?
そう、私です。
食堂にたどり着くと、いかにもかっぷくのよいおばさんが厨房で料理の準備をしていた。
エシュア君の手を引いて近づくと、ようやく私に気づいたらしい。
まだ一時間目が始まったばかりで利用する人間はいるはずもなく、訝るような視線を送ってくるおばさん。
「…………まだ準備中だよ…………ってイリアじゃないかい! 久しぶりだねぇ!」
「お久しぶりですおばさま。まだ早いので、実に申し訳ないのですが…………」
「いいよ、他ならぬあんたの頼みだ! なんでも作ってやるよ!」
「いいんですか!? では、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。ラルゴ羊のチーズとエリシャのサラダ。キルア豆のトマトソース炒めポタージュスープ。ライ麦パン。全部大盛で…………」
『あ、ライチも食べた~い!』
「…………ライチもお願いします」
「あいよ、ちょっと待ってな!」
途中ユゥユゥの横槍が入ったものの、二人分のメニューをおばさんに注文。セルト銅貨を手渡すと快く調理に取りかかってくれた。
「…………」
先程からずっと黙りっぱなしのエシュア君にどうしたものかと頭を悩ませていると、思ったよりも時間がたっていたようで体感的にはすぐに料理が運ばれてきた。
二人分の料理を運び、席に腰かけると遅れてエシュア君も座った。
「…………エシュア君、あなたは魔術が怖いんですか?」
「!!」
目の前の彼が最も気にしていることを私が問うたことに酷く驚いたようで、俯かせていた頭をようやく上げてくれた。
「どう…………して…………」
「ちなみに人と話すのも怖い。父親にひどい暴力振るわれ、口を開くことも許されなかったから。…………おおかた、お前のような愚図は地べたに這いつくばっておけばいいなどと言われて勘当でもされたのではありませんか?」
「…………」
どうやら図星らしい。
まあ、私がもともとイグナイト家の人間だったからあのクソ親父のやりそうなことだと気づけた。
仮に無関係の人間だったとしても、すぐにエシュア君の現状には気づけたでしょう。
洗われてパッと見清潔さは保ってこそいるものの、よくみないと気づけないほどのシワが残っている。
よほど観察力が優れたものでなければ分からないだろう酷い有り様、生徒たちに気づけというのも酷でしょう。
「お姉さんに隠し事をできると思ったら大間違いです。さあ、きりきり吐いてください! 今すぐに!」
さすがにいきなりグイグイ行きすぎたのか、生まれたての小鹿のように震えるエシュア君を見て一気に罪悪感が増した。
そこで私は彼の心を開くために、『相棒』の話をすることにしました。
ユゥユゥとの出会いはそりゃあもう、私にとっても衝撃的でしたから。
必ずやエシュア君に何かしらの変化を与えてくれるはず。
「いきなりですが、エシュア君に私の親友を紹介してあげましょう」
『親友!? あたしを親友って呼んだの!? そっかぁ、あたしイリアちゃんの親友かぁ!』
やっぱり話すの止めようかと考えましたが、エシュア君の為です。
「…………!!」
幻術でユゥユゥ…………楊貴妃の姿を投影したところで、エシュア君は逃げようとする仕草を見せたのでリモコンをテーブルの下から彼に向けてボタン押し、身体の自由を奪った。
再び罪悪感に襲われましたが、エシュア君の為です。
我慢我慢。
「何処から話しましょうか…………」
◆◆◆
まだ私がセリカさんの弟子になって間もない頃、使い魔の召喚方法を習っていたときのこと。
手順通りに作られた魔法陣は光を発し、何かが呼ばれることは明白だった。
ですが、そこからはよくも悪くも驚きの連続でした。
呼び出されたのは、肚兜と呼ばれる背中と腋が大きく露出した衣装を着ているお団子とツインテールが合体したような髪型の美少女だった。
これだけでも驚きなのに、彼女の自己紹介に腰を抜かしそうになったのを覚えています。
「ハオハオ~! あたし、フォーリナーのユゥユゥ! どうか、末長~く君のお側に! ちなみにユゥユゥはニックネームで、本名は楊貴妃…………です」
楊貴妃と言えば、前世の私の世界では世界三大美女に数えられる女性の一人。
傾国の元凶となった人物で、あまりいい印象を持っていないものが多かったはず。
しかし、楊貴妃を名乗る少女からはそのような雰囲気は一切感じられず、無意識に彼女の手を握り…………
「私はイリア=イルージュです。よろしければ…………私の、お友達になってくれませんか?」
同性の友達が一人もいなかった私にとって、ユゥユゥとの日々はとても楽しいものでした。
素直で前向き、それでいて親切にしてくれるユゥユゥのことを親友だと思えるようになりました。
魔術や格闘術の傍ら、ユゥユゥには琵琶や歌、踊りなども教えてもらいました。
そんな楽しい日々が続いた私は、ふと疑問に思ったのです。
何故、私の世界の偉人である楊貴妃がこの世界に呼ばれたのか。
勇気を出して問い詰めると、ユゥユゥは少しずつ自分について話してくれました。
ユゥユゥ…………もとい、楊貴妃は私の世界で英霊となり誰かに召喚されるのを待っていたらしい。
本来は神性を天子と仰ぎ行動を起こすように刷り込まれているのだそうだが、召喚の際何故か改造された霊基が本来の形に戻り、力だけを残して純粋な楊貴妃として私のもとまで召喚されたのだという。
本人曰く、嫌われたくなかったとのこと。
一つ間違えば世界を滅ぼす邪神となっていたかもしれない自分とは友達ではいられなくなる、だから必要以上のことは話さなかったのだとか。
でも、そんなことは私にはどうでもいいことで。
ユゥユゥが呼ばれた理由も、今となっては彼女に眠っていた外宇宙の存在を異世界と定義され、転生者(異世界出身)という変則的な縁が繋がったと分かっているのだけども。やはりこうも思うんです。大切な親友と出会うためだったのだと。
◆◆◆
私が転生者、ユゥユゥが異世界の英霊という部分を覗いて話したところ、もうエシュア君の震えは止まっていた。
私はなんとか興味をもってもらえたことに安堵し、ライチでも摘まもうかと手を伸ばすと…………一つ残らず姿を消していた。
いつの間にか実体化していたユゥユゥがすべて頬張っており、私は彼女の頬をムニムニと引っ張った。
「えう~! いひゃいですイリアちゃん!」
「好物なのは分かります。でも一つくらい分けるとかなかったんですか?」
「
そのまま引っ張り続けていると、クスクスと笑う声がした。
二人で声の主の方に顔を向けた先にいたのは、さっきまでの怯えようが嘘のようにエシュア君は女の子のようなその顔を綻ばせて笑っていたのです。
「…………あ、ごめんなさい。笑ってしまって…………でも、二人とも仲がいいのが伝わってきて…………」
エシュア君の記憶を食堂に着く前に見て、私は全て知っていた。
私が病死したことになり、そのすぐあとに姉に魔術や勉学を教わり始めたこと。
私のような失敗作を作らないように行動を大幅に制限され、眠るとき以外の自由がなくなったこと。
クソ親父のなすこと全てに恐怖し、魔術の実体について知っていくうちに魔術にすら恐怖したこと。
それが続けば勘当されるのは目に見えていて、姉のかばいたても虚しく路頭に迷うことになったエシュア君。
なけなしのお金とともに学院へと無理矢理押し込められ、一年と少しを過ごしてきたことも。
とても辛く、全てに怯えて生きるしかなかったエシュア君の過去を彼の口から直接聞くとユゥユゥはぽろぽろと玉のような涙を流していた。
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! そんなの辛すぎますよぅ!!」
「…………エシュア君」
「ふぇ?」
「あなたがよければ、私たちと一緒に暮らしませんか?」
「それいい! そうしようよ、エシュア君!」
「でも…………」
「ただし、条件があります」
「…………条……件……?」
小首を傾げるエシュア君の可愛さに、一瞬胸をやられかけた私でしたがなんとか抑え込んでその条件を伝える。
「クラスメートたちとお友達になってください。そうすればあなたは恐怖から解放され、毎日がきっと楽しくなるはずです」
若干息を呑んだエシュア君でしたが、覚悟を決め真摯な表情に変わる。
「分かった…………頑張って……きます……」
ユゥユゥと私で見送り、エシュア君の姿が見えなくなったところで新たにできた問題に気づきました。
「ユゥユゥ…………エシュア君の分の料理、食べてくれませんか?」
「…………
魔女の旅々のネタをエクソダスさん同様に使用するイリアちゃん信者の作者とは、一体誰でしょう?
そう、私です。
今回はユゥユゥとエシュア君の中心回なので原作部分は皆無なのはご容赦を!
ちなみに楊貴妃はユゥユゥと表記します。
最後の了解は翻訳が間違っているかもしれないので、その場合はご指摘お願いします