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短剣をレイクの右胸に突き刺し、すぐさま引き抜く。
その際に返り血を浴びたが、さして問題ではないだろう。
黒魔【スペル・シール】と黒魔【マジック・ロープ】で動きと魔術を封じて拘束、死なせないように治療を施してから一息をつくイリア。
もうすっかり先ほどまでの気迫は消え失せ、いつものイリア=イルージュへと戻っていた。
「この人、私が殺さないって本当は分かっていたのでは…………」
ただし、月のアルカナをいちいち相手に見せる必要があるという欠点あり、なおかつ術者本人にもデメリットがある。
それは、相手に見せている夢の中で傷つけられれば同様の苦痛がやってくるということ。
イリアの
いや、それはどうでもいいことだ。
情報収集の為に
復活させる人間の遺伝情報から採取された「ジーン・コード」を基に、錬成した代替肉体と、他者の霊魂に初期化処理を施した「アルター・エーテル」。精神情報を変換した「アストラル・コード」。この三要素を一つに合成し、本人を復活させる。
なるほど、どうりで殺されてそうになっても平気だったわけだ。
しかし、現在の最優先事項はそれではない。
「イリア!!」
明らかに慌ててこそいるものの、グレンが一切の怪我もなく現れたことにイリアは心底ほっとしていた。
「グレン先輩…………よかった。無事だったんですね」
「へっ、俺がそんなあっさりやられるようなやつに見えるか?」
「ええ。割りとあっさりと」
「お前さ、もう少しオブラートに包むとかねぇの?」
そこで私は重要なことを思い出しました。いえ、今までの情報も重要といえばそうなんですけど。
「先輩大変です! ルミアさんが!」
「ああ、実は別口から教室に向かったんだがもうルミアは拐われていた。エシュアが止めようとしたみたいなんだが…………」
「グレン先輩…………今、なんと?」
「んあ? だから、エシュアが…………!!」
「ふふふふ! そうですか、エシュア君が頑張ったんですか。それで、エシュア君は無事ですよねそうですよね! でないと承知しませんよ、先輩~~!?」
「だぁもう! 影を纏うな、このブラコンやろう! 無事だよ! かすり傷もついてなかった! これでどうだ!?」
「そ、そうですか…………」
ほう、と安堵から胸を撫で下ろす私。
あの臆病なエシュア君が勇気を振り絞り、守ろうとしたということは、もはやクラスメートの存在は彼にとってもかなり大きくなっているに違いない。
であれば、弟が守ろうとしたものをお姉ちゃんが守らないでどうするというのでしょう!
「グレン先輩、この男は帝国宮廷魔導士団の方に届けてくれませんか? あとは、私がカタを…………」
「ばーか。妹分を一人で行かせられるかっての。それに、まだ敵がいるかもしれねぇこの状況でお前が生徒をほっぽりだして、宅配物届けろとか言うわけねえだろ。今回の件の下手人はお前が行こうとしている場所のやつが最後の一人、違うか?」
「さすがはグレン先輩ですね。では、行きますか」
「おっと、そういやエシュアから伝言があったな」
「なんでそれをもっと早く言わないんですか!?」
零距離で騒ぎ立てる私に、グレン先輩が鬱陶しいと追い払おうとしてくる。
お姉ちゃんよりも先に弟のアレコレを知っていることが許せないだけですよ、私は!
「…………『頑張ってね、イリアお姉ちゃん』だってよ。お前、もうとっくに正体ばれてんじゃねえの…………って、おい!!」
私の唐突の全力疾走に意表を突かれたグレン先輩の声なんて、もうほとんど聞こえていなくて。
グレン先輩に追いつかれ拳骨を落とされるまで、私は転送法陣のある塔までの道のりを駆け続けた。
◆◆◆
転送法陣のある塔への道を多数のガーディアン・ゴーレムが本来の仕事通りに徘徊していた。
「…………あー、イリア頼むわ。これ、俺にはムリ」
「はぁ…………まったく、ニート先輩はこれだから…………」
「おい、さりげなく今ディスったろ。それにニートじゃねえし、講師だからな俺。非常勤だけど」
「…………ユゥユゥ」
『ハオハオ~!! 思う存分やっちゃって!!』
ユゥユゥの力を借り受け、私の左手から青白い炎が噴出する。
あのクソ親父に見せてやったらどんな顔をするかな、と想像しようとしたところで辞めました。
顔も見たくないですからね、あのクソ親父。
八つ当たりのつもりで私は手を振るうと、炎がゴーレムたちを一瞬で包み込みその巨駆をあっという間に燃やし尽くす。
灰すら残らず焼失したゴーレムたちを見てグレン先輩は冷や汗だらだらと流しまくっていましたが、こちらの改竄力でどうとでもなりますし気にしなくても。
転送塔内部に侵入、かつ最上階にたどり着いた私たちの前に現れたのは想像通りの人物でした。
「あなたがヒューイ=ルイセンですね?」
「…………噂には聞いていましたが、さすがは《月》のイリアさんですね。やはり、情報戦ではそちらに分がありますか。白魔儀【サクリファイス】の術式が完成する前にここを突き止められては僕に勝ち目はありません。投降しましょう」
「ずいぶんあっさりですが、いいでしょう。こちらも楽になるので助かります」
グレン先輩にはルミアさんの救出を頼み、無事に保護。これで事件は一旦落着ですね。
「あれ? これ、俺いらなくね?」
「…………」
事件の後、グレン先輩たちは帝国上層部に呼び出され、ルミアさんの素性についてを聞かされていたらしい。
私はもともとその王女の護衛で学院に潜入していたわけですし、余計な情報まで明かしかねないとむしろ突っぱねられたくらいです。
今頃ルミアさんが元王女で異能者だと告げられて、事情をしったということで彼女の秘密を守るため、協力を要請されていることでしょう。
そんなことを思いながら、私は
エシュア=イグナイト。
この子にも大きく関わってくる人物が、この墓地には眠っている。
エシュア君の手を引き、墓地の中でも奥の方に向かう。小さな木の根っこの部分にそのお墓はたてられていました。
ただし、名前が一切書いていないためにパッと見誰のお墓なのかわかるものはいないでしょう。
…………私を除いては。
「イリアちゃん、ここは…………?」
「私の姉さんのお墓です。姉さんは立派で強くて、優しい人でした」
「イリアちゃんのお姉ちゃん?」
「父に酷い仕打ちを受けていた私のことをいつも庇ってくれて、そんな姉さんのことが私は大好きでした。姉さんはその後、異母妹の女の子を守り魔術能力を失ったのです。…………そして、父は最も優秀だった姉さんすらも殺した」
「!! …………そんな……」
「知ったのはつい最近なんですけどね? でも、私は復讐心に囚われたりしない。…………姉さんを解放してあげることはできなかったけど、あなたは私が守るから。…………こんなどうしようもない私だけど、一緒にいてくれる?」
「うん! 僕、ずっとイリアちゃんと一緒にいる! だから、ね? イリアちゃんのことお姉ちゃんって、呼んでもいい?」
「…………うん。だって、私はあなたのお姉ちゃんだから…………!!」
私は力の限りエシュア君を抱きしめると、彼も抱きしめてくる。
もう姉はいないけど、目の前の弟だけは守ろう。
『アリエス』ではなく、イリアとしてエシュア君を誰にも奪わせはしない。
リディア姉さんの墓前で、そう固く誓った。
原作のイリアちゃんと違い、弟がいるので踏みとどまりました。
エシュア君まで殺されたら、どうなるのでしょうね…………