月の幻術使いと禁忌教典   作:レイラレイラ

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今話から魔術競技祭編です。

しばらくはこっちメインで行きそうです。


第二巻 魔術競技祭編
月は祭りを謳歌する


 グレン先輩が学院長室に入っていくのを見かけ、私ことイリア=イルージュはエシュア君とともに学院長室に入ろうとしたところで手を掴まれて止められた。

 

 エシュア君がふるふると首を振り、部屋に入るのを拒絶しているのかと思いきや…………

 

「お姉ちゃん、グレン先生に何かしようと…………してる?」

 

 むっ、心外ですね。

 

 私がグレン先輩に酷いことなんてするわけないじゃないですか。やるとしたらギャンブルでイカサマしているのを相手に教えてあげるとか、コーヒーを暖めためんつゆとすり替えることぐらいですよ。

 

「なにもしませんよ。ただ…………ちょっとだけ先輩『で』遊ぶぐらいです」

 

「やっぱり何かするんじゃない…………」

 

 私たちが意気揚々と学院長室に入室したところで、私も驚愕のあまり一瞬呆けざるを得ない光景に出くわしました。

 

「────と言うわけで。給料の前借り、もしくはお小遣いをプリーズ」

 

「《ふざ──》」

 

「ふんっ!!」

 

「へばぁ!!」

 

 学院長とセリカさんに土下座して頼み込んでいるところに出くわし、無意識に後頭部を踏みつけていた。

 

「ほらやっぱり何かした!」

 

「違います、今のはツッコミです。ボケたらツッコムのが相方の仕事です」

 

「相方?」

 

「そう。この人は私の相方。二人してそれはそれは仲のいいコンビを組んでいるのです」

 

「本当?」

 

「…………んなわけあるか……」

 

 私がにこやかに説明しているところでグレン先輩は起き上がり、恨みがましい視線をこっちに送り込んでいた。

 

「そいっ!」

 

「ぐぼぁ!!」

 

「ほらまた!」

 

「ツッコミです」

 

「何に対する!?」

 

「存在じたいがボケみたいなグレン先輩に対する」

 

「うん、それには同意だイリア。今のは私もスッキリしたぞ」

 

 セリカさんがうんうんと頷いていると、学院長が苦笑いをしていた。

 

「お小遣いって…………グレン君、この間貸したお金全部使っちゃったの!?」

 

「あー…………それはだな……」

 

 セラさんが一連の茶番の末に最も早く復帰、グレン先輩を問い詰めるようにぐいっと寄っていく。

 

 さすがにセラさん相手ではグレン先輩もバツが悪そうにどもるばかりで言い返せていない。

 

 これはもう少し弄ってみたいと私の胸のなかで嗜虐心がぞわぞわと沸いてくるのを感じる。

 

(もっと…………グレン先輩を苛めたい!)

 

「セラさん…………グレン先輩は具体的にギャンブルで全てスッたんです。…………あ、そういえば紳士の方御用達のお店にも行っていたような…………」

 

「バカ野郎! 後者はともかく、前者しかやってねぇよ! それにあれは多額の投資だ! ただそれには大きな代償があるっていうだけで…………」

 

「グレン君…………ちょっとお外でお話しよっか?」

 

「おい、待て。セラお前、一体何処へ…………」

 

「さあ? 何処だろうねぇ…………」

 

「離せぇええええええええええええええええッ!!」

 

「…………最……高……です」

 

((こいつ、魔性のドSだ!!))

 

 私がエシュア君に見えないように背を向け、恍惚のあまり全身が火照るのを感じる。

 

 セラさんによって何処かへ連れ去られたグレン先輩は放置しておくとして、私は今できた要件を片付けることにしました。

 

「というわけなので学院長。グレン先輩が金欠で困っているので、何とかなりませんかね?」

 

「イリア…………お前がどういうやつなのか、私は分からなくなりつつあるよ」

 

「ワシもじゃよ。長年生徒を見てきたが、ここまで変則的な子は初めてじゃ。…………こほん。つまりは給料の前借りを申請したいということかね?」

 

「いいえ? 確か、特別賞与というものがありましたよね? 来週開催される魔術競技祭で優勝したクラスの担当講師に恒例として特別賞与が出ることになっている…………ですよね?」

 

「う、うむ。そうじゃが…………」

 

「『勝てる見込みは薄い。グレン君のクラスには成績優秀者のシスティーナ君がいるとはいえ、彼女を全種目で使い回してもおよばないかもしれない』…………ですか? ご心配なく、手はあります。それに、学院長達は知っているはずですよ? 昔、私が何をしたのか…………」

 

 私の不遜な物言いに二人は機嫌を悪くするでもなく、どこか面白がるような笑みを浮かべてさえいた。

 

「…………いいですね? 色々やらかすでしょうけど」

 

「ああ、好きにやれ。師匠の私が許可しよう」

 

了解(ラジャー)です」

 

 立派な敬礼を残し、イリアは学院長室から退室するとリック学院長もセリカも口の端を同時につり上げる。

 

「今までで唯一面白かったのは、あいつが二年の頃出た競技祭だけだったな。ここ最近の競技祭に蔓延する例の風潮にはうんざりしてたんだ。…………何をやらかそうとしているのか、見ものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギイブル、それ本気で言ってる…………?」

 

 教室の中からピリッとした雰囲気が伝わり、私は数年前を思いだし懐かしい気持ちになる。

 

(昔、私が仲裁していなかったら開催前に内部分裂する寸前までいっていましたっけ…………)

 

 あの頃の空気ははっきり言って最悪でした。優秀な成績を修めているものが半ば強制的に先導し、成績下位者の生徒には見向きもしなかった。

 

 最初は前世ではまともに通えなかった学校の文化祭のようなものだと胸を踊らせていたのに、蓋を開けてみれば中にあったのはくだらないプライドに汚された汚物同然の感情たちでした。

 

 ですので腹いせに私が先導した成績下位者だけで固め、上位者を一切出さないという端から見れば正気の沙汰とは思えない行動に出た。

 

 その結果は私を除いた全員が予想していなかったことで、あのセリカさんでさえも鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたくらいのものでした。

 

 当然優勝した私のクラスは一躍時の人のような扱いとなり、グレン先輩も楽しそうにしていましたね。

 

 昔を懐かしむのもそこそこに、扉を開いて無言で入っていく。

 

「…………」

 

「…………イリア先輩?」

 

「システィーナさん、リストをください。ルミアさんは名前の記入をお願いできますか?」

 

「は、はい!」

 

「分かりました!」

 

 エシュア君を一番前の席に座らせた後、私はシスティーナさんからリストを受け取りルミアさんに指示を出す。

 

「システィーナさん。これは確認ですけど、『決闘戦』などのいくつかの例外を除いて同じことはない…………そうですね?」

 

「はい。ですけど、今までにない競技が出てくることもありますし、一見同じに見えても微妙にルールが違うということもあって…………」

 

「…………ようは、生徒の応用力を試していると…………」

 

(でも…………なんていうか、間が悪いなぁ…………)

 

 イリアがとてもやる気だというのは表情を見れば分かる。しかしそれは、父親から聞かされていたような楽しい魔術競技祭になることはないということだ。

 

 全員で種目に出て、楽しい競技祭にするという目標は今年も叶わないのだと寂しげな嘆息をあげるシスティーナを他所にイリアは種目毎のメンバー発表に入っていた。

 

「それでは、まずは『決闘戦』から発表します」

 

 ほとんどの生徒が成績上位三名のシスティーナ、ギイブル、ウェンディが選ばれると思っているのだろう。

 

 それが普通のボンクラ講師であれば、という条件がつくということを彼らは知る由もない。

 

「まずはシスティーナさんとギイブル君。そして────────────カッシュ(・ ・ ・ ・)君です!」

 

「…………え?」

 

「な!?」

 

 システィーナとギイブルの驚愕をあえて無視したイリアは淡々と、競技と生徒たちの名前を呼んでいく。

 

 名前が呼ばれていくにつれ、生徒たちは徐々に気づいてくる。

 

 …………使い回されている生徒が一人たりともいない、と。

 

「聞かれる前にそれぞれの疑問に答えていきたいと思います。ウェンディさんは『決闘戦』の選抜から外されていることに納得がいかないようですけど、それはあなたがよく呪文を噛むことも要因の一つ、ただ【リード・ランゲージ】の腕前は優れています。ですのでそちらで点数を稼いでください」

 

「分かりましたわ。そういうことなら…………」

 

 適切に解かれた疑問にあっさりと納得せざるをえないウェンディ。

 

 全員の疑問に懇切丁寧に答えていると、ギイブルがイリアに突っかかってくる。

 

「イリア先輩、いい加減にしてくださいませんかね?」

 

「これが現状の最善策です。…………ああ、ギイブル君はこう言いたいんですね? 『成績上位者だけで全種目を固めるべき』と?」

 

「…………そうですよ。ですから…………」

 

「何を言ってるの、ギイブル! イリア先輩が考えてくれた編成にケチつける気!?」

 

「システィーナさん?」

 

「先輩のこの選出は、みんなの得て不得手を考えてのものよ! そしてそれは、全員でやるからこそ意味がある。頭の固いあなたにだって分かるはずよ!」

 

「…………まあ、いい。好きにすればいいさ」

 

「ですよね、先輩!」

 

「…………あ、はい。そうですね…………」

 

 イリアの真意は昔の自クラスのようになってほしくないという単純なものだったのだが、システィーナの輝く瞳の前ではさすがに言えるはずもない。

 

「なんか…………噛み合ってないような…………」

 

 

 




イリアちゃんのドS…………我ながらよきです。

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