「いやっ! こんなの……認めないわ!」
「ふふん、現実を認めたまえフランちゃん」
レミリアの妹『フランドール・スカーレット』の悲鳴が響き渡る。場所は彼女が普段いる紅魔館の地下室。僕と彼女以外にも何人かいる。
「あなた……またフランを!」
「うーん、レミリアが僕を責める権利はないと思うな」
「くっ!」
ぎりぎりと奥歯をかみしめるレミリア。悪いが今のレミリアはただ見守ることしかできない。
「じゃあいくよ――くらえ!」
「いやーっ!」
僕は手に持った四枚のカードを机にたたきつけた。
「革命返しだ!」
「あーもう! なんで悉く私のやろうとすることを阻止してくるのよ!」
「ちょっといい加減にしなさいよあなた! またフランが大貧民じゃない!」
まだ勝負はついていないが、すでに勝負は決まったこの段階で、富豪として上がったレミリアが抗議した。
「勝負とは時の運と実力なのです。というわけではい、四のツーカード」
「しかもしょっぱい手で終わらせてきたわ」
「自分で勝てる分野には容赦ないですね」
トランプゲームをやるのなら人数が多いほうが良い。という事で図書館の方からパチュリーと小悪魔が参戦している。咲夜もやりたがっていたが仕事があるので泣く泣く断念という形だ。
ちなみに普段こういうゲームをする場合互いに能力の使用に上限はないらしいが、今回は僕がいるため全員使用は控えている。アンフェアになるのは目に見えているので当然の処置だけど。
「これで僕が平民。パチュリーが大富豪で小悪魔が貧民かな」
勝てたといっても三着だ。大富豪のルールでは終了毎の順位によって配られたカードが何枚か移動するが、平民は何もない。ちょっと寂しい。
「次こそは私が一位になるもん……!」
「姉を倒して乗り越えるというわけか。熱いねぇ」
「いつになくフランが燃えているわ」
「この人が来るといつもテンションが上がりますよね、フランお嬢様は」
カードを集めてシャッフルする間の短い歓談。彼女の知人の中でただの男というのを珍しがっているのか知らないが、フランは僕と勝負するのが好きなようだ。この間はオセロで対決したし。
「レミリアもフラン大事って言っているけどその割には二位だし……」
「て、手札がそうしろって言ったからよ、悪いかしら?」
「嬉々として二着を誇っていたのはどこの誰?」
「う、うるさいわよ大富豪。なんかただの順位の役職だけど、上下関係があるのは釈然としないわ。私はこの館の主なのに!」
「そりゃまあゲームですし。希望としてはレミリアとフランでワンツーフィニッシュを決めたいところだけど、そうもいかないのが大富豪というものだからね」
「平民がペラペラと語るわね……でもその通りだわ。誰の手にもゆだねられていない運命というものは、思い通りにならないものだからね」
運命操作の能力を持つレミリアからすれば、能力禁止の条件は実に歯がゆいものだろう。
「よしそれじゃあ配るよ」
「よろしくお願いします」
シャッフルし終えたので今度は順番に配る。イカサマが無きよう、順位に関係なく僕が配ることになっている。イカサマできるような技能を持っていないからだ。
配り終えたら今度はカード交換。貧民側は良いカードを。富豪側はいらないカードを渡す。平民は特に交換しないのでその光景を見届ける。
「これは……!」
「うーん、パチュリーったら相変わらず微妙なカードばかりを渡してくるなぁ……」
「ありがとうフラン。ちょうどほしかったカードだったの」
「……小悪魔、ほんとにこれしかなかったの?」
「も、申し訳ございませんお嬢様!」
「見ているだけで楽しいね」
たかがゲームされどゲーム。勝負となれば皆熱中してのめり込むというもの。こうした空気を楽しむのもカードゲームの醍醐味だ。
「最下位から始めようか。それじゃあフラン。好きなのだして」
「次こそは一番だから!」
「威勢良いなぁ」
勝負には勢いも肝心だというし、これは油断していると一杯食わされるかもしれない。かくして通算第五回戦が幕を上げたのだった。
「こ、この私が……」
「お姉さまったら、弱くない?」
最終順位。一位パチュリー、二位僕、三位小悪魔、四位レミリア、五位フラン。
圧倒的不利なフランが五位のままなのはまあ仕方ないとして、レミリアがフランのことを気にしすぎたせいか四位に転落、繰り上げて僕と小悪魔が順位を上げたという感じだ。
「フランも人のことを言えないわよ!」
「私にはハンデがあったんだもーん」
最初の意気込みなどなかったかのようなそぶりを見せるフラン。かわいいからなんだか憎めない。
「余裕過ぎてなんだか眠くなってきたわ。休憩にしましょう。小悪魔、みんなに新しいお茶を」
「かしこまりました!」
「私への当てつけなの、パチェ!?」
立ち上がって指さすレミリア。
「レミィは少しフランに依存し過ぎよ。落ち着いていれば逆転されることもなかったのに」
「その点に関しては曲げるつもりはないわ。フランは私の妹だから」
「これってシスコン?」
「違うわよ!」
こんなにも取り乱しちゃって。ケーキ試食会の時はもう少し威厳があったんだけどなぁ。……ん? ケーキ、レミリア自作……うっ、頭が。
「あら、何やら記憶の蓋が開きかけたような顔をしているわね」
「それってどういう顔なのよ?」
レミリアが僕の顔を見てそんなことを言った。なんだろう、記憶にないけどケーキ関連ではレミリアと関わらないようにしたい気持ち。
「紅茶をどうぞー」
「ありがとう小悪魔」
「咲夜と比べるとナメクジみたいな遅さね」
「咲夜さんと比べないでくださいよ……」
彼女と競うにはジャンルが悪すぎる。変なものを紅茶として入れないところでは小悪魔は優秀と言えるが。
「お茶菓子もどうぞー」
「羊羹ね。中に入っているのは……」
「栗じゃない。もうそんな季節なのね」
ほとんど外に出ないパチュリーが季節を感じるときと言えば、こうして食事に供される食材を見るときか。他には外からの来客の服装を見るときもそうかな。
「あんまり和菓子を紅茶で合わせるイメージがないなぁ」
注がれた紅茶を飲みながら一言。和には和を、洋には洋をという関係性がベストだと思っている自分としては、この二品が出てくるところにちょっと意外感を感じていたりする。
「あら、結構合うものよ? 私は餡子の菓子も好きだし」
「私は果物いっぱいのケーキのほうが好きだけど……甘いからいっか!」
フランは無邪気にフォークで取って羊羹を頬張る。
「もうじき紅葉か。妖怪の山に行くのもいいかな」
「秋の味覚は、山で採れるのが世の常よね」
「お兄さま、私焼き芋が食べたーい」
「私にはキノコ鍋をお願いするわ」
「姉妹揃って僕に頼むことが当たり前だと思ってない?」
今さっきフランは果物のケーキがいいと言っていたくせに。でもかわいいから許す。
「キノコ鍋なら魔理沙に頼めばいいじゃないか」
「なによ、フランのお願いだけ聞くつもり?」
「私はお姉さまと違って、ちゃんとしたカリスマがあるっていうことね!」
「それは聞き捨てならないわねフラン」
姉妹の間にバチバチと火花が散る。盛大に勘違いしているようだが、特に修正する気も湧かないでこのままにしておく。
「小悪魔、彼にお茶のお代わりを」
「はい、どうぞー」
「あっ、どうも」
飲み切った紅茶を新しく注いでくれる。紅茶のマナーで、純日本人としては音を立てて飲まないようにするのが結構難しい。
「いま、私のカリスマについての挑戦者が現れたわ。だから私は、この挑戦を受けることにしたわ!」
「何の挑戦よそれ」
突然のレミリアの宣言に軽く突っ込みを入れるパチュリー。少しほったらかしただけでどうしてそうなったのか。
「ルールはシンプルよ。ここにはほかに三人いるから、カリスマ度が高いほうに投票してもらうわ、人数が多いほうが勝ちよ!」
「打ち負かしてやるわお姉さま!」
「何そのカリスマ度って」
なんか勢いについていけないが、幻想郷ではよくあることです。
「じゃあさっそく三人には同時に指差しで決めてもらうわ」
「私は準備できてるわ。みんな選んで!」
二人ともふんぞり返って目を閉じた。こういうところが似ているから姉妹って面白い。
「じゃあ遠慮なく……せーのっ!」
ビシッと僕とパチュリーと小悪魔はそれぞれ思い思いの人物に指をさした。そして、その結果は――。
「……ん? な、なんで私が負けるのよ!」
「やったー! お姉さまに勝ったわ!」
結果は小悪魔がレミリア、僕とパチュリーがフランに指していた。
「パチェ、裏切ったわね!」
「ごめんなさいレミィ。私は自分が持つカリスマを争いに使おうとしている姿が醜くて」
「さっきのキノコ鍋の傍若無人さには目に余るものがあったからなぁ」
「二人とも動機が不純じゃなくて!?」
「それだけ私の方が上ということね!」
「お、落ち着いてくださいお嬢様! 私は味方です!」
「そうですよお嬢様、私もついています!」
「「「「「……あれ?」」」」」
なんか一人多いぞ。レミリアの背後に、まるで最初からいたかのように佇んでいる人物が、咲夜がそこにいた。
「レミリア様がカリスマ度で競っていらっしゃるのなら、私は忠誠心度で。常人の二倍、いや三倍から四倍、いえもっとあると言えます!」
「その忠誠心が鼻からあふれているよ」
「これは粗相を」
どこからか持ち出したティッシュで鼻血を拭く咲夜。仕事はどうしたのだ。
「……こほん、というわけですのでフラン様、申し訳ありませんが負けを認めていただきたく存じ上げます」
「認められるわけないでしょ! お兄さまだって私の好き度は咲夜の比じゃないもん!」
「えっ、僕?」
カオスになりつつあるフランの地下室。さっさとエスケープしたい気持ちではあるがそうにもいかないだろう。
「お兄さま、私のことが嫌いなの?」
抱き着かれて潤んだ瞳で見上げられるこの気持ち。これは天地がひっくり返ってもノーとは言えない。
「す、好きだよ、フランのこと」
「やったー!」
「あ、あなた……私のフランに手を出したわね!?」
「お嬢様、不埒者に処断を下すというのならばまずこの十六夜咲夜が」
シャキンとナイフを取り出す咲夜。あの目、マジだ。
「何この八方塞がりな展開」
「いくらお姉さまと言えども、お兄さまに手を出すなんて私が許さないわ!」
「言ったわねフラン。図書館まで来なさい!」
「ガチンコよ!」
ぱたぱたと両者は己の背中の羽をはばたかせて、部屋の外に飛び出していった。
「また私の本が……」
「いつも飛び火させてごめんパチュリー」
「片付けなら後でしますから。この不埒者も一緒に」
「その肩書そろそろやめていただけませんかねぇ」
「今日一日は撤回できなさそうです」
果たして、真の勝者は誰になるのか。相当な被害は免れないことだけは予感でできた。
紅魔館勢は書いていて楽しい。みんなの好きな勢力はどこかな?