幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 霊夢が登場する話が意外と少なかったので投稿。ちなみに前後編の前編です。


第十四話 焼き芋の極意

「いい陽気だな……」

 

 昼下がりもいい時間帯。ここは博麗神社。いつも妖怪たちの宴会場に指定されているイメージがあるが、平時はこうした静かな場所だ。すんでいるのは霊夢だけだし、その霊夢もこの神社では基本的に境内の掃除や時々のお賽銭チェックと、特別騒がしいことをしたりはしない。噂ではあの光の三妖精の住処がこの近くにあるというけど、今日は彼女たちが出張ってくる様子は無し。

 

「ちょっとあなた、根が生えた老人みたいに縁側に座っているんじゃないの。はい、掃除掃除」

 

「もう隅から隅まで掃いたって」

 

「分社の方、まだ屋根に落ち葉が残っていたわよ?」

 

「えっ、あれも?」

 

「当り前じゃない。梯子なら蔵の方にあるから、しっかりとやるのよ」

 

「人使いが荒いなぁ」

 

 どうせ明日にはまた元通りになってしまうものを、よく几帳面に掃除するものだ。いや、他にすることがないから掃除だけはせめて真面目にやろうとしているのだろうか? 基本的に参拝客いないし。

 

「あだっ!?」

 

 すこーんとお祓い串が飛んできて僕の額にクリーンヒット。跳ね返ったお祓い串は霊夢の手にブーメランのように戻って納まった。

 

「何がおんぼろ神社には客が来ない、よ!」

 

「そこまでは思っていないけど的は得ている……」

 

 ジンジンと痛む額を押さえつつ、箒を片手に逃げるように蔵へ向かう。

 

「さて、さっさと仕事を済ませるか」

 

 蔵の重い扉を開けて、中に入る。季節も相まって、石造りの蔵は床も壁も氷のように冷たい。息も少し白くなっている。

 

「梯子は……あんな奥に」

 

 基本空を飛べる霊夢は梯子なんてあまり必要としないのか、奥へ奥へと追いやられていた。かろうじて通れる荷物の隙間を通過して、外に運び出そうと接近を試みる。

 

「……この葛籠じゃまだな。何が入っているんだ?」

 

 それを阻んだのが大きな葛籠。だいぶ重く、中身を少し減らさなければずらすこともできない。

 

「勝手に開けさせてもらいますよっと……」

 

 中から妖怪が飛び出してくるなんていうことはなく、現れたのは神事に使いそうな道具だらけ。

 

「……この葛籠は何だ?」

 

 葛籠の中にまた一つ小さな葛籠が。興味本位でそれを取り出し、ふたを開ける。

 

「これは……服? 似たようなのがいっぱいある」

 

 霊夢が来ているおめでた紅白色の巫女服とよく似たデザインと色合いの服が、何着も収まっていた。

 

「でもサイズが……今のと比べるとずいぶんと小さいなぁ」

 

 ひょっとしてだが、これは霊夢の昔の服で、ずっと前からこれを着ていたということか?遠くからでも分かるこの色。もしかしたら幼い霊夢が迷子になっても、すぐに遠くから見つけられるようにとの気遣いだったんじゃ……。

 

「……そんなわけないか」

 

 歴代の巫女というのはこういう服を着ているものだろう。無理やりそう結論づけた僕はさっさと中身のものを取り出して葛籠を動かした後、梯子を持って外に戻るのだった。

 

 

 

「掃除終了!」

 

「はいお疲れ様」

 

 もろもろの道具を元の場所へしまって、鳥居と本堂の間の道で落ち葉を集めていた霊夢に報告した。

 

「一応聞くけど、報酬はなんですか」

 

「今から作るわ」

 

 そう言って霊夢は、程よく熟したサツマイモを籠ごと持ってきた。

 

「それ僕がおすそ分けで持ってきたやつじゃん」

 

「なによ、焼き芋は嫌いかしら?」

 

「好きだけどさ」

 

 ちなみにたき火は周りの民家に迷惑が掛からない場所でやろう。煙で洗濯物が真っ黒になる。霊夢が落ち葉に火を着けている間、僕はあるものを神社から持ってきた。

 

「香霖堂からもらったこの金属の紙、本当に使うの?」

 

「水で濡らした新聞紙も忘れずにね」

 

 アルミホイルが幻想郷に流れ着いているのには驚いたが、せっかくだから現代風の焼き芋を作ろうと思う。アルミホイルとは別に用意した濡れた新聞紙をサツマイモに巻き、次にアルミホイルを隙間なく巻きつける。蒸し焼きにするのだ。

 

「こっちは大体灰になったわよ」

 

「分かった、こっちも終わったよ」

 

 何も包まずに焼くと水分が飛んで少しぱさぱさになってしまう。なのでこうして水分を閉じ込める必要があるのだ。

 

「本当にこれで、もっとおいしくなるの?」

 

「ほくほくねっとりの黄金色になるよ。もうこれなしじゃ生きていけないぐらい」

 

「焼き芋ごときがそんなになるわけないわ」

 

「これなしというのは誇張かもしれないけど、美味しいのは間違いないよ」

 

 秋の味覚と言えば焼き芋に栗、サンマがあればうれしいけど幻想郷には海がない。銀杏は茶碗蒸しにしてもおいしい。カボチャもいろんな料理にできるし、レンコンも丁度この季節だ。

 

「あんたちゃんと火加減見てる? よだれ出てるけど」

 

「み、見てるよ。うん、見てる」

 

 芋を灰の中に埋めてからの時間は少し長い。完全に灰に芋を埋めた後も、火が強くなりすぎたりしないか見ておく必要がある。

 

「問題はそこじゃないけどね。調子に乗って全部包んでしまった」

 

「十本以上あるけどどうするのよ」

 

「僕は二本あれば十分なんだけど」

 

「私だってそうよ」

 

「……なるようになるかな」

 

 とりあえず今は目の前の焼き芋調理に集中することにする。

 火加減を見つつ待つこと半刻より少し短いぐらい。持ってきた串で刺してしっかり火が通っていることを確認した後、熱々のそれを串に刺したまま霊夢に渡した。

 

「火傷に気を付けてね」

 

「さて、その自信満々になる出来合いはいかにってところかしら」

 

 アルミホイルと新聞紙をはぎ取り、中から現れた鮮やかな紫色の皮の芋を取り出した霊夢は、真ん中からそれを二つに割る。

 

「……な、なるほど。案外おいしそうじゃない」

 

 現れた断面からは湯気が立ち昇り、ごくりと霊夢はつばを飲み込む。

 

「昔、家族と一緒に秋にキャンプに行った時に作ったことがあるんだ。記憶通りに作れてよかったよ」

 

 そして自分もできたてのそれを灰の中から取り出し、外皮を剥いで焼き芋本体を出す。霊夢と同じように二つに割り、片方にかじりつく。

 

「はふっ、ほふぅ……あーうまい!」

 

「……いただきます」

 

 僕ががっつく姿に我慢出来ず霊夢もつられたように焼き芋に一口。

 

「……!?」

 

「砂糖とか振っていないのにこんなに甘くなるなんて、サツマイモってやっぱり不思議だよね」

 

「そんな……わたしが作ってもぼそぼそになっちゃう焼き芋がこんな……」

 

「泣いておられますよ霊夢さん」

 

 悔し涙を流しながら焼き芋をものすごい勢いで食べ進めていく霊夢。このペースだと三本はいくね。

 

「バターがあればもっといいんだけど、さすがに霊夢の家にはないかな?」

 

「味噌ならあるわよ。焼き芋の味噌汁とか、いいかもしれないわ」

 

「他にもおすそ分けした食材があるし、今日は秋の味覚祭りかな」

 

「あなたが食べていく必要はないわよ?」

 

「そんな殺生な」

 

 食べ終えたら次の芋に手を伸ばす。すると焼き芋の数が、不自然に少なくなっていることに気づいた。

 

「……妖怪芋泥棒がでた」

 

「なんですって?」

 

 焼き芋の欠片を頬に付けた霊夢が、いつになくやる気を感じさせる目つきに変わる。本当に食べ物の恨みは恐ろしい。

 

「なら結界を張るわ。妖怪が入ってきたのならすぐにわかるようにね」

 

「容赦がない」

 

「報いを受けさせるに決まっているでしょ。私のお芋を盗んでいく輩には……」

 

 好戦的な笑みを浮かべる霊夢。というか僕らの目の前で姿を見せずに盗むことが出来る人物と言えば、かなり限定されていると思うけど。

 

「……! 犯人は近くにいるわ」

 

「どこどこ?」

 

「……そこよ!」

 

 霊夢は僕にやったようにお祓い串を投擲。ぎゅるぎゅるぎゅると回転しながら鳥居のほうへと向かっていき、そして空中でガツンと何かにぶつかった。

 

「いったーい!」

 

「やっぱりそこにいたのね、悪戯三妖精。もう隠れても無駄だから出てきなさい!」

 

 うひゃーとサニーの能力で不可視化していた妖精三人組が、芋づる式に姿を現した。

 

 

 

「三本減っていたから、もしかしたらって思ったけどね」

 

「もう齧っちゃっているじゃない!」

 

「だってー」

 

「おいしそうー」

 

「だったんですぅー」

 

 正座をして口をそろえて弁明? をする三人組。ちなみにお祓い串の直撃を受けたのはルナチャだった。額が赤く腫れている。

 

「ふふ、私の焼き芋に手を出したツケは、どうやって払ってもらおうかしら」

 

「いいじゃん霊夢。どうせ二人じゃ食べきれなかったんだし」

 

「そうは言うけどねぇ」

 

「いよっ、男前!」

 

「一生ついていきます!」

 

「今ので惚れ直したかも」

 

「やっぱり一回しめておかないとだめね」

 

 クルクルと片手でお祓い串を回して脅す霊夢。ストップストップと、僕は片手で制した。

 

「もらうときはちゃんと面と向かってお願いしなきゃダメだと思うよ。分かったかな?」

 

「「「はいっ!」」」

 

 霊夢の威圧もあってか、ここは素直に従う三人。果たしてちゃんと従うかはともかく、少なくともしばらくの間悪さはしないだろう。

 

「さて、それじゃああと一人も出て来てもらおうかな」

 

「えっ?」

 

 僕がたき火跡の方に振り向くと、ちょうどそこに焼き芋に手を伸ばそうとする白い長手袋に包まれた細い手が見えた。例のスキマから。

 

「あっ、紫!」

 

「ばれてしまったなら仕方がありませんわね」

 

 手を引っ込め、上からするんとスキマから降り立った紫は、いつも通りの胡散臭い微笑みを湛えながら僕たちに会釈した。

 

「何やらおいしそうな匂いにつられてくれば、こんな素敵なものを作っていたんですもの。ご相伴にあずかりましたわ」

 

「もう食べたんだ。しかも二個目に手を伸ばしていたと」

 

「口の横にサツマイモの欠片がついているわよ」

 

「……」

 

 顔を見られないように振り向いて、取り出したハンカチで口元を拭う紫。指摘されるまで気づいていなかったのか。

 

「……こほん。ところで霊夢、西の方で結界に緩みがありました。今すぐ向かって修復していきなさい」

 

「そんなわけないでしょ。ついこの前に直した場所じゃない」

 

「そう断言できるのなら、それこそ一度自分自身の目で確かめてみなさい?」

 

「……釈然としないけど、行けばいいんでしょ」

 

 むすっとした表情で後はよろしくと言った霊夢は、その場で飛び上がってまっすぐ西の空へ向かっていった。

 

「さて、あなた達もお家に帰りなさい?」

 

「は、はい!」

 

「焼き芋全部食べるんだよー」

 

「焼き芋美味しい」

 

「また焼き芋よろしくお願いします」

 

 何人か焼き芋にかじりつきながらその場から飛び立っていく妖精たち。

 

「……で、僕に何か用でもあるのかな?」

 

「あら、まだ何も言っていないのに」

 

「だって霊夢に用事があるのなら、わざわざあの三人を帰らせる必要なんてなかっただろうと思ってね」

 

「ええ、その通り。あなたに一つ重要なお話がしたくて。……ここで話すのもあれだから、中に行きましょう?」

 

 紫の話とは大抵面倒くさいものが多いが、どうやら今回はそれとは違い感じがした。はたして、紫がしたい話とは一体何なのか。恐れと興味半分ずつの気持ちで、僕は神社の居住スペースに向かった。




 博麗神社の構造がいまいちよくわかっていない。とりあえずこたつはありそう。
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