前回のあらすじ。博麗神社の掃除の後焼き芋を作って食べていたら焼き芋泥棒が現れた! まあ、二人じゃ多かったからどのみちよかったんだけどね。
「はいお茶」
「ありがとう。霊夢と違って気が利くわね」
博麗神社の居間にて、少々時期早のこたつの前で正座をする紫に茶をふるまう。
「本人がいる前で言わないようにね」
勝手知ったる他人の家ってね。幻想郷に来て間もなくしばらくの間霊夢のところで居候させてもらったので、どこに何があるかおおよそ把握している。
「それで、話というのは何?」
「結構重要なことなのだけれど……あなたが外の世界に戻れるかどうかの」
「……」
僕の幻想入りした原因については不明だったが、外に返すこと自体は紫の能力で簡単なことらしい。でも一つの可能性を鑑みて、今までずっとここでの生活を送っていた。
可能性とは『僕が戻ってもまた幻想入りするかもしれない』という事だった。幻想入りした理由という根本的な問題がある限り、僕は安易に外の世界に戻させることはできないのだという。
「一年以上ここで過ごしてもらって得た結論というのは、まず、あなたはただの人間。純度百パーセント。魔力も妖力もない普通の人間よ」
「それを聞いて安心したよ」
「そして問題なのは次。あなたにも能力があったという事。幻想入りしたのはそれが原因ね」
「えっ、本当?」
「本当よ。この期に及んで嘘をついたりはぐらかしたりはしないわ」
一般人Aの僕がそんなものを持っているなんて思わなかった。でも何の力もないのにどうして能力は持っているのだろう。
「妖怪や一部の人間が持つ能力は後天的に、特に強い力を持っていなくとも発現する場合もあるの。あなたの働き先の店番のようにね」
「小鈴のことか……確かにどんな文字でも読めるっていうこと以外は、普通の女の子だからなぁ」
「それと同じようにあなたも後から能力が生まれて、それが影響して幻想郷という最後の楽園に引きずり込まれたということよ」
「能力系バトル漫画みたいな展開だね。全然戦える力なんて無いけど」
「あなたの場合それでいいと思うわ。むしろ好戦的でないが故の能力といったところかしら」
この言葉から察するに、紫にはどんな能力なのかも既に予想がついているのだろう。
「ちなみに僕の能力に名付けるとしたら、どんなものになるのかな?」
「んーそうね……色々と考えてみたのだけれど……」
ビシッと紫に目の前まで指をさされ。
「ズバリ『輪の中に入る程度の能力』というものよ」
「な、なにそれ?」
能力としてはかなり不思議なフレーズが飛び出した。具体的にはどんなことが出来るのだろうか。
「能力自体は常に発動しているわ。何かの輪に入る……グループに入るということね」
「グループに入る? 僕はどの勢力にも属していないんですがそれは」
「もっと抽象的なものよ。よりかいつまんで言うと、自然と他人と仲良くなるっていうところかしら。すでに出来上がった関係に、馴染んで自然と入り込めてしまう。ある意味恐ろしい能力ね。すなわち自分の勢力を簡単に作り上げてしまうのだから。まあ、そうなるまで親密な関係に至れるというのは、あなたの人徳によるものかしら」
「僕はそんなカリスマ持ちじゃないよ」
「そんなものではないわ、“自分と同じ立場で接せる”ということは、幻想郷の、特に妖怪との関わり合いではどれだけ大変なことか。どんな大妖怪だろうと、あなたの前ではただの知人に成り下がる。……私ぐらいの古株じゃなければ、そこのところの違和感には気づけなかったわ。ただの人間が、話して楽しいって思うわけがないもの」
つまりだれとでも仲良くなれるという能力というわけか。いいことだと思うけど、紫にとっては結構な問題なのだろう。
「人心掌握とはまた違うものよ。弱い妖精も大妖怪も、神々でさえも。同じ立場で物申せる存在……つまり大局を左右させる可能性があるということよ。もしあなたの一言で、コロッと誰かが気が変わったら、途端に今までのバランスが崩す可能性もある。でも、危惧するのと同時に、安心したわ。だってあなただもの。少なくとも悪いことなんてできるはずもないものね」
「そりゃあ仮に事件おこしたら霊夢たちが来てフルボッコですし」
「軽ーいお仕置きで済むかもしれないけどね。で、ここまでがあなたの能力について。本題はここから」
「元の世界に帰れるかどうか、だよね」
心して聞くことにする。僕の今後の生活が一変するかもしれないからだ。
「結論から言って、対策せずにあなたが幻想郷から出ても、能力によってまたすぐに戻ってくることが推測されるわ」
「幻想郷を取り囲む結界の“輪”に知らず知らずに入ってきてしまうからってこと?」
「いわば忘れられないようにする妖怪のための理想郷――言い方が悪いけれど保護区のようなものだもの。あなたの能力は、その“輪”に常に向けられている。今追い出したとしても、すぐどこかに戻るのがオチになる」
「とすると、僕は元の世界には戻れないってこと?」
「そうはならないわ。可能性としては、あなたがもう幻想郷から去りたいと思えば、もう二度と幻想郷に引き戻されることはないでしょう。……二度と来れないということでもあるけど」
「それはどうして?」
「この能力はあなたの潜在意識が働きかけているからよ。誰かと一緒に居たいという気持ち。外の世界でも友人はいたのに、なぜ幻想入りしたのかはいまだに不明だけど、古明地家の協力で明らかになったわ」
いつの間に僕に知らせずそんなことをしたんだ。まあ僕のためだというのならそこまで強くは言えないけど。
「相当な寂しんぼなのね」
「否定はしないよ。みんなといると楽しいから」
「とにかくあなたにこの場で聞くのはこの質問よ。幻想郷にとどまりたい? それとも帰りたいと思っている?」
「……」
帰りたいという気持ちは、正直のところある。家族だっているし、最初と比べたら最近はそうでもないけど、学校のことも心配だ。でも――。
「……すぐに結論は出せないけど、でも、少なくともしばらくはここに居たいと思ってるよ。こっちでも大勢知り合いがいるし。ここの生活もだいぶいいと思っていたから」
「……そういう答えが聞いて、安心しましたわ」
会話の合間合間に飲んでいた湯のみのお茶の残りを一息に飲んだ紫は、正座を崩して女座りになった。
「安心した?」
「ええ、私個人としても、友人が幻想郷から離れていくのはとても心寂しいもの。すぐに出て行かないという返事がもらえただけでも、ほっとしているわ」
「僕はそんなに紫にとっての大切な人に慣れてはいないと思うけどなぁ」
「……本気で言っているのかしら?」
「えっ?」
急に紫がすねたように頬を膨らませた。
「いったいどれだけの人間と妖怪が、あなたという存在が心に根付いているのか理解していて?」
「えっ、えっ」
「少なくとも好意を抱いている人物は片手でも数えきれないほどだというのに。彼女たちがこの事実に気づいたら、嘆き悲しむでしょうね……」
いやまって、さらっととんでもないことを言っていませんかこの賢者さん。
「ええ、この際はっきり言いますわ。あなたを好いている人妖が大勢いるという事をね!」
「ええええええええ!?」
「ええ、ええ、誰とは言いませんし私も把握してはいない。でも霊夢のような直感は持ち合わせてはいないけれど、そこは女の勘。あなたがどれだけひっかけているのか、ちゃんと自分を振り返ってみたらどう?」
「そ、そんなこと言われても。僕はフツーにご近所付き合いをしていただけですよ?」
「その普通に接せるというのは、なかなか人間と妖怪の間では高いハードルなの。それに幻想郷での実力者というのは概して女ばかり。そんな中、初めて対等に話せる男の友人が現れたら……ねぇ」
「……もっと慎重に付き合うことにする」
「そのほうが良いわね」
しかし、うーん、自分がそんなに影響力がある人間だとは思わなかったなぁ。紫が嘘をついているようにも見えないし。かと言って実際に好意を抱いている人物は誰なのか全くわからないし。
「ん、ちょっと待って、さっきの言い分だと紫も僕のことが――」
「ちょっと紫! どこも結界に穴なんてないじゃないの!」
僕の言葉をさえぎって、霊夢が縁側から靴も脱がずに上がって障子を勢い良く開けた。
「あら霊夢、お邪魔しているわ」
「よくもぬけぬけと!」
ぷんぷんと怒る霊夢は、握ったお祓い串を紫に向けながら振り回す。
「あら怖い、そろそろお暇させてもらうわね」
「あっ、紫、さっきのことは」
「お茶、美味しかったわ、じゃあまたね」
足元にスキマを広げた紫は、そのまま中に入ってこの場から離脱した。逃げたな。
「今度顔を見せたらとっちめてやるんだから……」
「いつも紫の気まぐれには苦労するよね」
「……ところで、あなた紫と何を話していたの?」
「いつもの世間話だよ」
とりあえず、紫との会話は僕の胸だけに秘めておくと誓った。
主人公の能力が決まった瞬間。でもそれがメインになる日はたぶんないし、相変わらず主人公はみんなとわちゃわちゃすることでしょう。