幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 甘えたがり魔理沙ってかわいいと思う。


第二十一話 妖怪旅館物語、その陸

 一度魔理沙と共に部屋に戻ると、書置きが一つ机の上に残されていた。

 

「何々……『小宴会場、梅の間に集合するように』ってさ」

 

 手に取って読み上げた魔理沙。時間帯から察するに、女将が二グループの部屋が一緒になったことを受けて、食事も一緒にしたほうがよかろうと思ったのだろう。部屋ではなく宴会場となったわけだ。

 

「多分もうみんな集まっているな」

 

「そうだね。文たちは早速記事にするために、さっそく色々と食べていると思う」

 

 旅行の目的が新聞づくりのための文たちにとって、旅館の料理は温泉と並んで新聞の一面を飾るネタだ。一番出来上がりのいいタイミングでの味の感想を述べたいところだろう。

 

「なんか待ち受けているって考えたら、急に戻りづらくなってきたな」

 

「ちょうど僕も同じことを考えていた」

 

 このまままっすぐ宴会場に向かったところで、パパラッチ二人がカメラのフラッシュをたきまくる未来しか見えない。旅行前に言っていた言葉を思い出す。僕は台風の目、だと言っていたが、今更実感することになるとは。

 

「でもお腹もすいてきたしなぁ」

 

「戻るタイミングをずらすのなら、腹ごしらえに少し何か入れておくべきだな。ちょっと待っててくれ」

 

 魔理沙は部屋の中に置いた自分の荷物をひっかきまわして、小さな箱を取り出した。

 

「それって温泉街の……」

 

「土産物の温泉饅頭だ。霊夢あたりに持って行ってやろうと思ったけど、帰り際にまた買い行けばいいしな」

 

 箱を包んだ神を剥がして、ふたを開ける魔理沙。出てきたのは計六個の茶色い手のひらサイズの饅頭。

 

「味は昼に食べたから保証するぜ」

 

「それじゃあ遠慮なく……」

 

「おっとまった」

 

 饅頭を手に取ろうとしたら、急に魔理沙が箱を取り上げてしまった。

 

「ここで私の命令がさく裂するぜ」

 

「……分かった分かった。何なりとご命令を、魔理沙様」

 

 今日一日中『魔理沙の言うことを何でも聞く程度の罰』を受けている僕は、素直に従わなければならない。

 

「せっかくだ、食べさせ合いっこしようぜ」

 

「……随分と大胆になったね魔理沙」

 

「う、うるさい! 今まで抑えていた分、きっちり取り返さないと損だからな!」

 

 饅頭を取り出した魔理沙は、机を挟んで正面に座る僕に指でつまんだ饅頭を差し出した。

 

「ほら、あーん」

 

「あー」

 

 開けた口に放り込まれる饅頭。黒糖風味の柔らかい皮と餡子の味。でも魔理沙から食べさせてくれたという事実が、より一層美味しく感じられた。

 

「どうだ?」

 

「うん、おいしい。じゃあ、今度はこっちの番だね」

 

「わ、私はいいって」

 

「食べさせ“合いっこ”って言ったのは、どこの誰かな?」

 

「うっ……」

 

 ちょっとした言葉も聞き逃さない。全部言いなり罰ゲームの最中なのだから、自分の発言には責任を持ってもらわないと。

 

「ほら、口を開けて」

 

「あ、あー」

 

 恥ずかしながらも魔理沙は口を開ける。そして僕は彼女の小さな口に、茶色い饅頭を咥えせた。

 

「……はふはいひへ」

 

「恥ずかしい? 僕だってやったんだからおあいこだよ。それに、今後他にも、お互いに恥ずかしいところを見せあいながら生きていかなきゃならないしね」

 

「んぐ……恋人って、難しいな」

 

「なら、やめる?」

 

「それは選択肢には入らないな。もう私は、お前のものになるって決めたわけだし」

 

「男冥利に尽きる言葉だよそれ。……でもなんか、まだ大切なことをし忘れている気がするんだよなぁ」

 

「大切なこと? なんだそれ」

 

 ものすごく重要なことだと思うんだけど。軽くスルーしている気がするのは気のせいだろうか?

 

「話は変わるけどさ……その」

 

「どうかした?」

 

「……わ、私と一緒に、お風呂に入ってくれ。も、もちろん混浴でだぞ! お前が女湯に入ってきたらシャレにならないからな!」

 

 これも罰ゲームの一環だろうか。でもその魅力的な提案に、逆らえるはずがなかった。

 

「……一応聞くけど、水着って持ってる?」

 

「念のため……まだ女湯しか入ったことないけどな」

 

「なら問題ないね。でもそれは、ご飯を食べ終わってからだよ。だからその代わりに……」

 

 僕は立ち上がって、魔理沙の傍まで近づく。これから僕も少し大胆なことをするけど、今なら何でも許されそうな気がする。

 

「なんで私の傍にきて……わっ」

 

 僕は壁を背もたれにして、魔理沙の体を抱き寄せた。やっぱり、一番魔理沙を感じ取るとしたら、こうして密着することが一番だ。魔理沙は決して恵まれた体を持っているわけではない。年相応の小さな少女の体。それはむしろ、全身を包み込むように抱きしめられるという抱擁感を満たされるものだった。

 

「お前っ、いきなりこんなことをするなよ!」

 

「恋人同士なら、こういうことにも慣れていかないとね。あーあったかいなぁ」

 

「やーめーろー!」

 

 どんどん顔を赤らませていく魔理沙がじたばたもがくがどうしようもない。もう少し時が経つまで、こうされるしかない魔理沙なのであった。

 

 

 

「遅いですねぇお二方。こちらはいつでもシャッターを切る構えですのに」

 

「本当よ。あいつらの分の料理もなくなっていても文句は言えないわ」

 

 旅館料理を堪能しつつ、いつでもカメラを取り出せる用意をしている新聞記者二名。料理に関する写真撮影やレポートなどもぬかりなしだ。

 

「まあ、気長に待てばいいんじゃない? 二人にも何か用事があるかもしれないから」

 

「アリスさん、何か知っているんですか?」

 

 一方こっちは食べ進めてはいるけれど、他の二人と比べてそのペースはやや控えめ。

 

「まあ、ね」

 

「そこのところ詳しく!」

 

「知っていても教えないわよ、聞いても記事に向いていない内容だから」

 

「余計気になりますね……教えてくださいよー」

 

 アリスの返しに文は食い下がる。

 

「あれ、あの方は……!」

 

「どうしたのよ文……あっ」

 

 その人物に気づいた椛とはたての両名が、そっと宴会場から離れた。文に一言も声をかけないまま。

 

「スクープ! スクープの予感がするんです! コッソリでいいですからぜひ私に――」

 

「おうおう、なーんか楽しそうにしているねーお前たち」

 

「はっ!?」

 

 ドキーンと心臓が物理的に飛び跳ねそうになる文。壊れた人形のようにギギギと振り向けば、そこにいたのは程よく酔っ払った星熊勇儀。片手に盃、片手に一升瓶の飲んだくれスタイルだった。

 

「アタイも混ぜておくれよ。この旅館、いい酒がいっぱいあるしさぁ」

 

「は、はたて、椛……って誰もいない!? アリスさーん!」

 

「強引なパパラッチには、救いの手は差し伸べられないものなのよ。どうぞご自由に、勇儀さん」

 

「まだ何もしていないのにぃ――!!」

 

 文の悲鳴が、旅館中に響き渡った。

 

 

 

「……まあ見ての通りです、私たちは勇儀さんが言ってから戻ります」

 

 事前に察知して退避した二人から状況を聞かされた僕たち。これなら文も取材活動はできないだろう。

 

「これなら撮影どころじゃないね。はたては文よりまだましだし」

 

「他人の色恋沙汰を記事にするつもりはないわよ。文にもこっちから説明してあげる」

 

「天狗にしては随分と気が利くな」

 

「こっちはあなたに関する秘蔵情報を公開してもいいのだけれど?」

 

「真実はともかく今回に関しては感謝するぜ! うん」

 

「随分と体のいいことね」

 

 かくして、僕らは勇儀の接待に追われている文に気づかれることなく、ゴージャスな旅館の料理を堪能することが出来たのであった。

 

 

 

「うーだらけるー……」

 

「溶けてるよ魔理沙」

 

 部屋に戻って敷いた布団の上でうつぶせになって伸びている魔理沙。満腹のお腹が圧迫されないかな。

 僕ら以外に人はいない。みんな隣の部屋に居て、勇儀主催の飲み比べ大会が開催されているからだ。勇儀のあの盃にかかればどんな酒も極上の酒になるはずだが、味が違うやつも飲んでみたいとのことだろう。結局はたても椛も文と加わって接待をする羽目になった、ご愁傷さまです。

 アリスは温泉に入り直すとかで行っちゃったが、これまでの経緯から予想するに気を使ってくれたのだろう。今度お礼しないと。

 

「満足満足でさ、イノシシ肉も出るなんて思わなかったぜ」

 

「僕は初めて食べたよ。臭みが強いと思っていたけど全然そんなことなかったね」

 

「若いやつは臭みが少ないんだ。ドングリばっかり食べてるやつとかは特にな」

 

「勉強なるかどうかは分からないけど、覚えておくよ」

 

 明日帰るとき慌てないように荷物の整理をしておく。着替えを下にして、お土産はつぶれないように順番に気を使いつつ入れていく。

 

「……おりゃ」

 

 無防備だった背後から、急に魔理沙が抱き着いてきた。

 

「どうしたの?」

 

 直前まで布団の上で這いずってくる気配はしたので、特段驚くようなことはしない。

 

「さっきのお返しだ」

 

「魔理沙はその……気にならないのかな」

 

「なにがだ?」

 

「……柔らかいのが、背中に当たってるんだけど」

 

「……当ててる、んだぜ」

 

 そのことを完全に意識外だったらしく、声がどもる魔理沙。しかし離れようとはせず、むしろ僕の首元に顔をうずめた。

 

「息がくすぐったいよ」

 

「それは前のスライムのお返しだ。あれと比べれば優しいもんだぜ」

 

「動かしていたのはパチュリーだよ」

 

「へんちくりんなことばっかり言って楽しんでいたやつがよく言うぜ」

 

「弁明できない……」

 

 耳元に囁かれるたびに背筋が少しぞくぞくする。耳のすぐそばに魔理沙の唇があるのを想像すると、ちょっとヤバい。

 

「唇……」

 

「い、いきなりなんだよ唇って」

 

「んー……喉まで出かかっているんだけど、なんだろう?」

 

 変な奴だなと、魔理沙は身を引いて自分の荷物を探り始めた。

 

「魔理沙も荷物の整理?」

 

「その、さっき混浴に一緒に行くって、言ったじゃないか」

 

「……もしかして、水着を?」

 

 魔理沙の水着、個人的に物凄く気になる。

 

「あー今は見るなよ! お楽しみってやつだ。人が少なくなる時間帯になったら行くぞ!」

 

「はいはい」

 

 口では淡白に返答するが、僕は内心とても心臓を高鳴らせながら、その時を待った。




 次回は魔理沙とイチャイチャ回。ピー音入りそうなことも……?
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