幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 魔理沙とひたすらラブラブな回。ついでに本格的な温泉回だよ、やったね!


第二十二話 妖怪旅館物語、その漆

 本日二回目の温泉は、あえてその時間帯を選んだとはいえ他に誰もいない。貸し切り状態だ。魔理沙はまだいないので、僕は先に露天風呂に浸かった。

 

「夜もいいなー」

 

 露天風呂の醍醐味というのは、こういった時間帯によって変わる景色もあると思う。とはいえ一日に何回も湯に入るのは体に悪そうなので、どの時間に入るかは吟味しなければならないが。

 

「お、お待たせだぜ……」

 

「あ、ようやくき――」

 

 女性専用の脱衣所から魔理沙の声がしたのでそっちに顔を向けると、言葉を失った。

 黒一色で作られた、前はワンピース型、後ろはビキニに見えるというモノキニと呼ばれる水着だった。胸元にはひもで編んだリボンがあり、自然と視線がそっちに吸い寄せられる。

 

「な、なんだよ急に黙り込んで。何か言えってば」

 

「ああ隠れないでよ……せっかくかわいいのに」

 

「か、かわいい、のか? 咲夜に手伝って選んだやつなんだけどさ……」

 

「咲夜が……」

 

 咲夜さん、あなたはとてもいい仕事をしました。魔理沙は胸とかお尻とか大きくないけど、だからと言ってスタイルが悪いわけではない。くびれのある腰は、水着の布地の合間からのぞかせてとてもきれいだ。

 

「……そっちに入らせてもらうぜ」

 

「うん」

 

 魔理沙は湯船に浸かり、僕のすぐ隣に座った。肌と肌が触れ合うほどの距離。泊まっている部屋ではこっちから抱き着いたり抱き着かれたりしたけれど、温泉で、しかも水着を着ているとはいえ素肌を大きく見せあっているこの状況では、動悸を押さえられそうになかった。

 魔理沙も僕と同じく緊張している様子だ。この後どう声をかければいいのかわからない。

 

「……」

 

「……」

 

 しばらくの間僕らの間に、沈黙が包み込む。

 

「……あ、あのさ」

 

 その沈黙を破ったのは魔理沙の方だった。

 

「結局お前の言う、忘れていることって分かったのか?」

 

「あーそれ……魔理沙も考えてよ」

 

「考えるって言われても……何かヒントが欲しいぜ」

 

「ヒント……うーん、僕らがし忘れたこと、かなぁ」

 

 気を紛らわせるための質問だっただろうけど、僕らはそこで本気に考え始める。あの時、魔理沙の告白を聞いてから、何か重要なことをやっていないような違和感。すごく根本的なことを忘れている気がする。

 

「……あっ」

 

「魔理沙?」

 

 何かに気づいた魔理沙が、リンゴのように顔を真っ赤にさせてもじもじし始めた。

 

「どうかしたの?」

 

「……ああ、なんでこのタイミングで、私が先に気づいちまうんだ?」

 

「教えてよ魔理沙、気になるから」

 

「お、お前、わざと聞いているんじゃないだろうな!?」

 

 何が分かったのかわからないけど、自分の口から言うのは相当恥ずかしい様子。でも魔理沙にしかわからないから彼女から聞き出すしかない。

 

「意地悪で聞いているんじゃないよ。お願いだから教えてくれないかな?」

 

「本当だな……? 本当だとしても許されないことだぞこれは……でも仕方がないぜ。まず……こっちを向いてくれ」

 

「分かった」

 

 言われたとおりに、魔理沙に向き直る。こうしてみると魔理沙の水着が本当に似合っていて、気持ちが高ぶってしまう。理性を働かさなければ。

 

「じゃあ目を閉じてくれ」

 

「えっ、目?」

 

「いいから閉じろっての。無理やり塞がせるぞ」

 

 怖いことを言い出したので言われたとおりに両眼を閉じた。何をしてくるのだろうか。

 

「じゃあいくぞ……」

 

「うん……」

 

 視界が暗闇に閉ざされている状態のまま、魔理沙は僕の体に両腕を回してきて、そして、僕の唇に何かを触れさせた。

 

(……!)

 

 ここまで来てその行為が何なのか気づかないのなら――だいぶ気づくのが遅いけど――僕はそれに関する情報を、今まで全く触れる機会がなかった世間知らずの人間という事になる。

 魔理沙に悪いと思いつつ、僕は薄く目を開けた。彼女がキスをしている。この僕と。

 恋人と言ったらまずキス。高校生にもなってそのことが頭から完全に抜けていたのは、ずっと魔理沙に気を使っていてその余裕がなかったからだ。でも、今こうして、僕は魔理沙と唇を重ねている。それを理解した瞬間どうしようもない征服感と罪悪感が僕の中に生まれた。

 

「んむっ!?」

 

「んちゅ……」

 

僕は魔理沙の体を抱き寄せ、より熱烈に口づけを行う。逃げようともがく魔理沙の体を押さえつけ、何度も唇を話してはついばむように唇を触れさせた。

 そして離れた時には、お互いに息も絶え絶えになっていた。

 

「はっ、はぁ……お前、分からないなんて、やっぱり嘘じゃないかよ、今の」

 

「直前まで本当にわからなかったんだよ。でも、魔理沙がキスしてくれたのが分かるとどうしても抑えられなくなって……」

 

「とんでもない変態だぜ。乙女の唇を、乱暴に扱うなんて……」

 

「嫌いになった……?」

 

「そんなに委縮した顔をしなくてもいいっての。ちゃんと好きだぜ、変わらずな」

 

 お互いガチガチになりながらも、どうにか笑顔を作った。

 

「……じゃあここで、今日最後の命令だぜ。今更驚くことでもないだろうけどさ」

 

「おっ、来たね。なんだってどんとこいって感じだよ」

 

 僕は魔理沙からの指令が下されるのを待った。

 

 

 

「あー……頭が痛ったぁ……」

 

 勇儀による宿泊部屋に上がり込んでの二次会はアリスまでも巻き込まれて、勇儀以外の四人が酔いつぶれる形で終幕した。今はその翌日。アリスは自分の部屋に戻るところである。

 

「鬼もそうだけど、天狗も酒量が大概化け物ね……」

 

 アリスは早々にリタイヤしていてほとんど記憶に残っていないが、再び鬼対天狗三人による対決が行われ、酒飲み勝負へとしゃれこんでいた。この勝負もまた勇儀が勝ったのだが、今は全員泥酔して眠っていた。

 

「うまくいったかしら、あの二人……」

 

 そも、アリスが二次会に参加したのは、彼らが二人っきりになる時間を作ってあげるためだった。随分前からアリスと魔理沙の交友は続いていて、アリスは魔理沙に憎まれ口を言いつつもそこはかとなく手助けすることがあった。

 その上、今回の恋のお相手が信頼できる外の少年となれば、応援したくなる気持ちもないわけではなかった。この旅行中の行動もそれが根本にあった。

 ガチャリと部屋の鍵を開けて、中に入る。旅館で貸し出されている下駄はきっちり二人分。二人とも中にいることが分かる。

 

「あなたち、もう起きている……か、し、ら?」

 

 敷かれていた布団は三組、そのうち使用されていたのはたった一つ。そして、同じ布団に包まる一組の男女。

 

「……」

 

 そーっと気づかれないように、その顔を覗き込む。互いが抱き合うように密着して眠っている。しかも布団の隙間から見えた限り、どちらも服を着ていない。つまり……。

 

「あ、あ、あ、あなたたち……」

 

「ん……あれ、アリス?」

 

 のそっと起きたのは外の少年。頭から湯気を出して顔面赤面するアリスに、寝起きで焦点が定まっていない眼を向けている。

 

「んー……どうしたんだ? もっとくっ付いてくれないと寒くて……あっ!」

 

 口をパクパクさせているアリスが目に映った魔理沙。

 

「あなたたち、うまくいきすぎよ―――!!」

 

 朝一番の旅館の叫びが響き渡った。

 

 

 

「まさか我々が勇儀さんの接待をしている間に、そんなお熱い展開があったなんて」

 

「いつの間にそんなに急接近していたのよ。普通もっと段階踏まない?」

 

「ふ、風紀が乱れていますっ! 今すぐ処罰いたしましょうっ!」

 

 なぜかわからないが、僕と魔理沙が昨晩にやったことに対するお説教を受けている。椛に至っては大剣を取り出している物騒さだ。

 

「誰にも迷惑かけてないからいいじゃないか」

 

「よくありませんよ! だってまだあなた達はただの恋人で……あれ? 恋人ってこういうことはしてもいい? 文さん、私分からなくなってきました」

 

「椛は落ち着くように。特別悪いことはしていませんよ。恋愛は個人の自由ですし、その表現も自由です。その、あやややなことをしたことに関しては私からは何も言いませんよ。ところで、魔理沙さんはどんな声を出していましたか?」

 

「ストーップだ文! 何取材魂がさく裂しているんだよ! どのみち記事にできないだろそれ!」

 

「結構かわいかったよ」

 

「なるほどなるほど、具体的には?」

 

「お前まで何を話してるんだよ!」

 

「魔理沙、あなたってやるときはとことん大胆になる女の子だったのね……。壁際にいたから隣の部屋の声が聞こえたわよ」

 

「そんなに大声出してないぜ! って、声も出してないから! いや、そうじゃなくて!」

 

 翻弄される魔理沙。かわいそうだけど見ていて楽しい。しおらしかった魔理沙もよかったけど、彼女はやっぱこうでなくっちゃ。

 

「みんな、もうすぐ朝食の時間だよ。さっさと移動しないと」

 

「そうですねー。もうすぐ旅行も終わりですか」

 

「なんだか疲れることが多かった気がします……」

 

「もうあの人は出てこないわよね……」

 

「朝食の場にも酒を運び出しそうだからね、彼女」

 

 どたどたと部屋から出ていく四人。そして僕らは残される。

 

「ちぇ、アリスの手のひらで踊らされたあげく最後にダメ押しかよ」

 

「僕らも行こう、魔理沙」

 

「私は立ちたくないぜ。連れていきたいのなら抱っこしていけ」

 

 本人は困らせるための意地悪だろうけど、この場は自分の首を絞めるだけとは気づかなかったようだ。

 

「わかったよ、ほいっと」

 

「わっ、ば、バカやめろ!」

 

「やめません、食事場に到着するまで、何人もの目に触れられようとも放しません」

 

「コノヤロー!」

 

 こうして、残ったわずかな旅館の時間を堪能し、僕らは再び普段の日常に戻るのだった。




 これにて妖怪旅館物語編終幕。R15にしては結構ギリギリな気がする表現だったけどどうだったかな?
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