幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 やや期間が開いちゃったけど、二十三話目スタートです。


第二十三話 ボードゲームは雪の中

 冬の冷え込みが続き、重ね着しなければまともに幻想郷の野山を歩き回ることもできなくなった今日この頃。豊穣と紅葉の神々が鳴りを潜め、代わりに冬の妖怪が冬の訪れを伝える。

 幻想郷はかなりの量の雪が積もる。人里では雪かきが日常化するほどだ。霧の湖も凍って、氷上釣りができるぐらいになる。

 

「いい感じの雪模様ね、咲夜」

 

「ええ、このような日でなければ挑戦はできませんから」

 

 マフラーを巻いたレミリアと従者の咲夜が手をつなぎ、そろってスケートブーツを履いて凍り付いた湖面の上に立っていた。今日は一日中雪雲が空を覆いつくしており、レミリアも日中でも日傘なしで活動できる。

 

「おねーさま、見てみてこのカマクラ! お兄さまと一緒に作ったのよ!」

 

「真ん中をくりぬくようにキュッとしてドカーンなんて、器用なことをするよなぁ」

 

 湖面と岸の丁度境目のあたりでカマクラを作っていたフランと僕は、二人に向かって手を振った。常に雪が降っているので、咲夜は日傘ではなく雨傘でレミリアを守るように差している。

 

「まったくフランもやることは子供ね。冬の遊びというのはもっと優雅に堪能しないと」

 

「でもおねーさま。前に挑戦して挫折したスケートをまたやるの? うー、とか唸って結局やめたじゃない」

 

「ふっ……甘いわねフラン。私がそこのところ何も対策していないと思って?」

 

 何やら秘策がある様子。去年の冬に挑戦したときは、咲夜の補助がありつつもまともに滑れなかったのだ。

 

「その秘策というのがこれよ!」

 

「……補助輪?」

 

 取り出したのはレミリアのブーツにピッタリとはまる、体の外側に向かってついた小さなタイヤが特徴の補助輪器具だった。

 

「そうよ、これさえあれば横に転ぶことはないわ。さあ咲夜、手を放していいわ、私の華麗なターンを見て心奪われないさい」

 

「すでに心を奪われておりますので、魂まで差し出しますわ、お嬢様」

 

「じゃあ行くわよ、こうして滑り出して――うきゃーっ!?」

 

 そうして一メートルほど滑り出した段階でレミリアが盛大に後ろにこけた。お猿さんみたいな悲鳴を漏らしつつ。

 

「お嬢様――――っ!?」

 

「ほーら言わんこっちゃない」

 

「頭打ってるけど大丈夫?」

 

「ふ、ふん、このぐらいどおってことないわ。咲夜、おこすのを手伝いなさい!」

 

「かしこまりました!」

 

 咲夜は対照的になかなかの滑り具合だ。今回滑るのは二度目のはずなので、相当性に合っていると思われる。

 

「フランお嬢様、追加の雪を集めてきましたよー」

 

 紅魔館の門番、『紅美鈴』。中華風の服装の女性妖怪で、格闘技の使い手だ。紅魔館の力仕事も彼女が担当している。でも肝心の弾幕ごっこでは、自慢の格闘センスがいまいち発揮されなくて歯がゆい思いをしているのだという。

 

「じゃあ今度はその雪で、私たちの雪だるまを作ってー!」

 

「分かりました!」

 

 紅魔館周辺の積もった雪をかき集めた美鈴は、それを元手に雪だるまを作り始める。すごい勢いだ。

 

「さて、カマクラを作ったんだから中に入ってみる?」

 

「もちろん!」

 

 元気よく返事をしたフランは、さっそく用意したくつろぎセットを手に中に入った。

 

「早速フランお嬢様雪だるま完成! どうですかフラン様……あれ? フラン様?」

 

「すごーい! それに意外と温かいわ!」

 

 美鈴の頑張りをよそに一人はしゃぐフラン。従者の頑張りぐらい見てあげなよ。

 

「うーもう! 全然滑れやしないじゃないの!」

 

「あっ、お帰りレミリア」

 

「お嬢様、雪が服にこびりついておりますわ」

 

 咲夜の補助の元、どうにか岸まで戻ってこられたレミリア。咲夜はどこからか持ち出した羽箒で丁寧に雪を払い落としていく。

 

「あら、美鈴それなに?」

 

「妹様の雪だるまです!」

 

「フランの? なってないわね、私に任せなさい。立派なフラン雪像を作ってあげる」

 

 スケートブーツから普通の靴に履き替えたレミリアの興味は完全に雪像作りに移り、元になる雪玉を作り始めた。

 

「雪遊びもいいですけど、体が冷えてしまいますわ。紅茶でもどうぞ」

 

「あっ、ありがとう」

 

 毎度のごとく種も仕掛けもない手品で出した紅茶。咲夜から出される紅茶はギャンブルであるが……試しにひとなめしてみても、特に強烈な味はしない。普通の紅茶だ。ちょっと渋みが強いかも。

 

「お客様に出すお茶には気を使うわ。お嬢様のはもっとよ」

 

「前に福寿草をお茶にしたって聞いたけど……」

 

「人間には人間用の、お嬢様にはお嬢様用の茶葉を用意しているの。こだわりは強いの、私」

 

「要はちゃんと出す相手を考えているってわけだね」

 

 ここで人間に致命的な飲み物が出されたらたまったものじゃない。

 

「咲夜さんもどうですか? 雪だるま作り」

 

「完璧なお嬢様雪像を作り上げて見せるわ」

 

 こういう場面では気合が入る咲夜である。

 

「お兄さまも一緒に入ろうよ!」

 

「分かった分かった。だから引っ張らないで」

 

 フランがカマクラの中から腕を伸ばし、服の裾を掴んでぐいぐい引っ張る。

 

「外は寒いけど、こっちは暖かいな」

 

「こうやって火属性の弾幕を中で浮かばせて……ほら、もっと暖かくなった!」

 

 その場でとどまるタイプの弾幕を浮かばせたフラン。確かにさらに暖かくなった。

 

「いっぱい遊び道具を持ってきたの。トランプでしょ、オセロでしょ、ルドーなんてのもあるけど、四人いないと楽しめないわ」

 

「あとでみんなが戻ったらやろうか」

 

「遊び相手が必要ならば、こうして適任がいらっしゃいますよ、フラン様。私は少々忙しいのですが……」

 

 入口から咲夜の声が投げかけられ、僕とフランは外に顔を出した。

 

「さいきょーのアタイと冬に勝負だなんて、百年早いわね! でも勝負してあげるわ!」

 

「お邪魔しまーす……」

 

「もちろん私たちも参戦するわ!」

 

「光の三妖精がゲームにも強いってところを見せてあげる!」

 

「とにかくそこそこ頑張るわ」

 

 外には咲夜によって連れてこられた妖精五人衆。うーんこの戦隊もの感。青(チルノ)と青(スター)がかぶってしまっている。誰かピンクか黄色にならないかな。

 とにかく、これでゲームをするのに必要な人数はそろったわけだが、カマクラに七人全員はいれるかな?

 

 

 

「お兄さままた六出してる!」

 

「三回連続とは僕も驚いているよ」

 

「ぐぬぬぬ……アタイはまだ駒が一つしかゴールしていないのに! なんでみんなそんなにいっぱいゴールしているの!?」

 

「チルノちゃん、他の駒の前に出ると危ないんだよ」

 

「あっ、お兄さんのせいで今振出しに戻った」

 

「えー!? あと一つなのにぃ!」

 

「これで通算十回目……みんな駒を食い過ぎよ!」

 

 ルドー。伝統的なイギリスのスゴロクゲームで、インドのパチーシと言うゲームが元になっているという。というパチュリーの豆知識思い返しつつ、駒を六個進める。サイコロで六が出たらもう一回振るか、スタート地点に一つ駒を出せる。僕はすでに手持ちの四つの駒の内三つをゴールさせていた。

 

「そして二、と。次はチルノの番だね」

 

「ここはアタイがこの人を振り出しに戻させればいいのね!」

 

「チルノちゃんはもっと駒を出すことに集中しないと……」

 

 場に出せる駒の数が増えれば増えるほど、選択肢が出て有利になる。チルノはとにかく一つの駒をゴールさせようと躍起になっていた。おまけに僕とチルノのマスの差は七。六を出してもう一回サイコロを振らない限り、どうあがいても重ならない。

 

「見てて大ちゃん! ここでアタイがばっちり六を出して見せるんだから、ちょあーっ!」

 

 コロンコロンとテーブルの上でサイコロが転がる。

 

「一だよ、チルノちゃん」

 

「一ね」

 

「一だね」

 

「どうあがいても一」

 

「そこはかとなく一」

 

「控えめに言っても一」

 

「いちいちうるさいっ!」

 

 がーっとがなり立てて駒を一マス進めるチルノ。

 

「じゃあ次は私ね……五。あ、チルノの駒が振り出しだわ」

 

「んなぁ!?」

 

 ルドーのルールでは進めた駒と相手の駒が同じ場所に重なると、相手の駒を振り出しに戻すことが出来る。フランに悪気がなかったとはいえ、チルノちゃん、ご愁傷さまです。

 

「じゃあ今度は私の番」

 

「ルナ、やっちゃって!」

 

「お兄さんをゴールさせないでよ!」

 

「せいっ!」

 

 コロコロコンとサイコロが転がる、出てきた数字は六。もう一度振れる。

 

「つまり私は、ここであと三回連続六を出せればお兄さんを振り出しに戻せるってわけね」

 

「すごく確率は低いと思うけどね」

 

 もうそんなのコンマ数パーセントの世界だ。三回連続六を出せただけでも奇跡に近いのに、今度は四回連続出すという。

 

「よーし二回目……えいっ」

 

「すごいわ、六が出たわよ!」

 

「あと二回!」

 

「ルナ、いけるわ!」

 

 何気に弾幕ごっこよりも盛り上がっている気がする。盛り上がることはいいことだ、うん。

 

「三回目……えいっ!」

 

「……六!」

 

「す、すごいじゃない。アタイほどじゃないけどねっ!」

 

「チルノは六を二回連続で出してないよね?」

 

 フラン、あんまりチルノをいじめないであげて。

 

「さあ、ラストよルナ!」

 

「このお兄さんを懲らしめて!」

 

「プレッシャーがかかるけど……」

 

 サイコロを手に取ったルナチャ。四回目の六は、果たして彼女の手にもたらされるのだろうか。

 

 ぽつっ。

 

「あれ、水が……」

 

 ボードに水滴が一つ落ち、さらに続けざまにまた一つ。

 

「……もしかして、溶けてる?」

 

「でも溶ける要素なんて……あっ」

 

 あるじゃん、フランが作った炎の弾幕。熱で天井が崩れかかっているのだ。

 

「すぐ逃げないと!」

 

「チ、チルノちゃん、勢いよく立ち上がったら――」

 

「へぶっ!?」

 

 大妖精の制止の声が届く前に、天井が低いカマクラの中で立ち上がったチルノ。その後頭部は見事にカマクラの天井にクリーンヒットし、崩壊は瞬く間に始まってしまったのだった。

 

 

 

「ひどい目に遭った……」

 

「紅茶をどうぞ、温まるわよ?」

 

 金属製の水筒からコップに注がれた紅茶を受け取り、フーフーしながら一口飲む。数分間だけとはいえ、雪の中に埋もれていて冷えた体に染みるようだ。

 

「大きめに作ったのがアダになったかな」

 

「外からでも、あなた達が楽しんでいる声が聞こえたわよ。作ってよかったんじゃない?」

 

 僕自身も楽しかったし、カマクラそのものを作ったことに対しては間違いではなかっただろう。

 

「防寒対策、別のやつを考えないと」

 

 遠くでは体を温めるという建前で、凍った湖上でスケートを行っている妖精たち。相変わらずチルノは上手で、大妖精や三妖精に指導している。ちなみにフランは新しくカマクラを作るため、美鈴と雪集めに行っている。

 

「ところで……あれって誰の雪像なの?」

 

 カマクラ跡地の横には複数の雪だるまや雪像が。雪だるまの方は帽子や翼などがデザインされていて誰をモチーフにしているのかは分かるが、雪像の方はというとだ。

 

「お嬢様が作った雪像よ」

 

「製作者じゃなくてモデルの方だよ」

 

「左からフランお嬢様、パチュリー様、私、それに美鈴と……」

 

「……言わせてもらうけど、なんの妖怪これ?」

 

 紅魔館メンバー雪像は、像作が崩れた、よくわからない雪の塊になっていた。特に美鈴、鼻と口の位置が上下逆になっている。

 

「味があっていいじゃない」

 

「咲夜はこういう自分の像がつくられて思うところはないの?」

 

「お嬢様が私の雪像を作る……ああ、そんなけなげな光景を思い出しただけで鼻が……」

 

 すまし顔でティッシュを丸めて鼻に詰める咲夜。レミリア、本当にこのメイド長大丈夫なの?

 

「さあできたわ、小悪魔雪像よ!」

 

 意気揚々と立ち上がったレミリアがお披露目したのは、他の雪像とは頭一つ分ぐらい小さな雪像。そしてその顔はというと。

 

「……すごい美化されている」

 

 普段の小悪魔は可愛らしい顔立ちだが、こっちはもう別人のような美女に仕上がっていた。なんで小さく作ったのかは知らないけど。

 

「さすがはハレーの吸血鬼の異名を持つお嬢様。今回の当たりを引いたのは小悪魔だったわね」

 

「あれ? レミリアの異名って紅い悪魔じゃなかったっけ?」

 

 異名が量産されていくパターン。この分だと他にもありそうだ。

 

「ちなみにハレーとは彗星のことよ」

 

「うん、知ってる。数十年に一回しか見れない彗星だよね」

 

「昔、迷信が強かった時代は、彗星の尾が地球の空気を奪うとされていたわ」

 

「咲夜は信じた?」

 

「空気が五分無くなることより、お嬢様の命令一秒のほうが重要なの」

 

「そう言うと思った」

 

 もう一度僕は紅茶を飲んだ。

 

「二人とも、私と美鈴の作品、どっちが素晴らしいと思う?」

 

「もちろんお嬢様です! フラン様の雪像が、特に素晴らしく仕上がっております」

 

「見る人によっては唸らせる作品だと思うよ」

 

「咲夜はともかく、あなたの言葉には含みが感じられるのだけれど……まあいいわ。やっぱりこういった創作関連に才能を持っているのよね、私」

 

 フランがいたら率直な感想を言いそうなので、この場にいないことにほっとしている。

 

「ところで、あなた達ボードゲームを興じていたようだけれど、決着はどうするの?」

 

「それはもう、春までお預けってことで」

 

 遊び道具は雪の中に残されたまま。探し出す気力は湧かなかった。




 遅れた理由? ちょいとゲームのし過ぎで……。
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