今日も今日とて雪は降り、人々は家屋の中で様々な寒さ対策を行っている。暖炉付きの家屋では火を焚くことは言わずもがな。囲炉裏や火鉢、自身も厚着することも忘れない。
その中でも、冬の魔物ともいうべき存在……こたつは、まるで人間や妖怪を引きずり込む罠のような驚異的な威力を発揮している。
それは妖怪退治専門の二人を捉えて離さないところから、現に僕の前で実証していた。
「おい霊夢、いい加減新しいみかん出さないか?」
「だったら魔理沙が出しなさいよ。それとも、そこの彼氏さんに取りに行かせる?」
僕と魔理沙の仲は、なるべく黙っておきたかったのに人伝いに瞬く間に広がり、今では人里で出かけた先ではどこでも茶化される始末。当然、僕の知人らにも知れ渡っており、霊夢も知らないわけがなかった。
「ったく、分かったよ持ってくるぜ」
「大丈夫だって魔理沙。ちょうど立ってるし」
僕はこたつには入らず、台所で夕飯の準備。今日は霊夢のところで大晦日、霊夢はこの後行う神事のため体力を温存する名目上、家事は僕に任せてこたつに入り込んでいる。魔理沙は僕にくっ付いてきただけで特に何もしない。
「冬のこたつで食べる料理と言えば、やっぱり鍋だよね」
霊夢と魔理沙の希望通りにみかんを持っていく。今作っているのは寄せ鍋だ。野菜たっぷり、キノコたっぷり、鶏肉も入っている。
「でもあんまりみかん食べ過ぎると、本命の鍋が入らなくなるよ」
「大丈夫だ、私の胃袋は特別製だ」
「魔理沙の持ってくるキノコは、消化を助ける働きをするものが混ざっているのよ」
「毎度思うけど、魔理沙が持ってくるキノコのレパートリー多くない?」
魔法薬の材料として使っているあたり網羅して当然だとは思うけど、たまーに失敗をやらかすことがあるものだから少し警戒してしまう。
「大丈夫だって、それ以外は当たり前の食材だ」
「ならいいんだけどね」
台所に戻って鍋づくりに戻る。白菜、白ネギ、水菜、ニンジン、大根、シイタケ、マイタケ。ついでに魔理沙が持ってきた名所不明のキノコ。野菜だけでなく豆腐、鶏のもも肉、手羽元などのたんぱく質も豊富だ。少し鶏肉が多かったので、ミンチにして数種類の調味料を加えて肉団子も作ってみた。
「我ながらザ・鍋っていう出来栄え」
鍋の出来に満足して頷く。後はしっかりと具に火が通るのを待つだけだ。
「おい霊夢! 私の足を蹴飛ばすなよ」
「そこにいたあんたが悪いのよ」
一方その頃の二人はこたつむり状態。霊夢はどてらも羽織っている。
「ここは私の領土だ。大人しく左に足を延ばすんだな」
「今右向いているから足そっちしか曲げられないのよ」
「このぐーたら巫女め」
「うっさいうぶ魔法使い」
「んなぁ!?」
うぶって、確かにお互い恋愛初心者なわけだけれども。
「お、おいおいおいおい、霊夢には恋のお相手すらいないじゃないか」
「いたら神事に邪念が入っちゃうから、これでいいのよ。でも、いずれ相手は見つけるつもりよ。跡継ぎもいることだしね」
「夢がない理由だなぁ」
「あんたたちは、ただ好き同士だったから一緒になったっていうけど、それだと始まりは素敵だけど後でマンネリしちゃうんじゃないの?」
「そんなことはないぜ! ……なあ、ないよな?」
「不安がらないでよ魔理沙。僕も心配になってくるから」
ただ霊夢の指摘も心にグサグサ来るものがある。あの時の告白がただ勢いに任せたものではないという事を証明するには、もう一段回踏み込んだ行動を起こさなければならない気がする。
「好きなもの同士なら、せめて同じ屋根の下で暮らすぐらいしなさいよ」
「「あっ、それだ!」」
「えっ?」
その霊夢の発言は、僕らにとって転機になることは、もう少し先の話である。
「よーし煮えたよ」
「待ってたぜ!」
「ようやくご登場ね」
「ええほんと、待っていた甲斐がありますわ」
鍋敷きの上にぐつぐつと煮える具材満載の鍋を置く僕。えっ、なんで紫がいるのかだって? 料理完成間近になったと思ったら取り皿と箸を持ってスキマから生えてきたのです。思い違いかもしれないけど、食べ物がかかわっているときによく紫と遭遇する気がする。
「なんだって紫が来るのよ」
「霊夢がしっかり神事をこなしているかどうか確かめに来たの。守矢の方はすっかり準備を整えていましたわよ?」
「私の方だってもう済ませたわよ。後は時が来るのを待つだけよ」
「心持ちの違いよ。こたつの中で丸くなって、のんびり過ごしているあなたに対して、守矢ではすでに参拝客の受け入れ準備を進めているわ」
万年参拝客に飢えているのなら、もう少し何かしらの行動を起こすべきだとは僕も思う。
「うちはうち、よそはよそ、よ」
「なに寺小屋通いの子持ちの母親みたいなことを言ってんだよ」
「もう少し巫女としての自覚持ったほうが良い気がする」
「あんたたちも静かにしなさい」
霊夢が早速鍋の中身を自分の取り皿に分け始めた。
「お説教は食事のあとね」
「確かに、鍋を前にして長話は禁物だな」
「僕は飲まないけど、お酒あるよ」
僕は順番にお猪口に熱燗を注いでいく。電子レンジなんてものはないから、ちゃんと湯煎で温めておいたやつだ。
「今日は夕方からずっと雪降っているから、体の芯から温めなきゃね」
「霊夢はこれからずっと外にいないといけないもんね」
「そうそう、一回紫や魔理沙も人の身になれって話よ。一日巫女でも体験してみる?」
「私は普通の魔法使いだし、そもそも宗教違いなわけだしな」
「そもそもわたくしは幻想郷をこの上なく愛する一妖怪であるから……」
「飲みながら語るな、のんべえども」
「人のこと言えないよ霊夢」
霊夢、お酒はほどほどにね。
「そもそも巫女服なんてどこにあるんだよ。香霖堂でもらったやつだろあれ」
「前に蔵で、サイズ違いのがいっぱい見つかったよ。子供サイズのが」
「……ちょっとあなた、それいつの話?」
あれ、地雷踏んじゃったかな僕。すごい表情で霊夢がにらみつけてくるんだけど。
「いつって、秋に庭掃除の手伝いをしたときに……」
「なんだって蔵の中に入る必要があるのよ!」
「梯子出そうと思ったら中に入るしかないじゃん。荷物が邪魔でどかそうと思ったら出てきたの!」
いつの日だったか思い出した霊夢はうぐっとうめき声を漏らす。蔵の中を整理していなかった霊夢にも原因があると認識したようだ。
「子供サイズって……お前さっき跡継ぎ考えているって言ってたけど、もしかしてその巫女服を着せるつもりで……ぷぷ」
「違うわよ! 私の子供時代の服! 処分するのがもったいなかっただけよ」
「あんな腋が寒そうな格好幼少期からやっていたんなら、今でも違和感なく着られるってもんだよな」
「この巫女服は歴代の博麗の巫女で受け継がれてきたデザインよ。あまりバカにしないようにね、魔理沙」
「紫は霊夢に関しては変なところで擁護するよなー」
「小さい頃の霊夢か。ちょっと見てみたいかも」
「案外天狗のパパラッチあたりが当時の写真を秘蔵しているかもしれないぜ? 今度聞きに行ったらどうだ」
「あんたの分の鳥団子、全部持っていくけど構わないわね?」
「わっ、バカやめろ!」
お玉で汁ごと肉団子を持っていく霊夢に待ったをかける魔理沙。慌てて自分の分の具を確保する。
「紫さん、よかったら取るけど」
「あら優しい。好きになっちゃうわ」
「はいはい」
紫の取り皿にもバランスよく具材を盛っていく。三人分の具材が四人で分けることになったので少々全体的に少なくなってしまうが、そこはしめの雑炊の時のご飯の量を増やしてカバーという事で。
「それじゃあ、こいつがよそっているところで話させてもらうけど、今年もあと数時間で終わり。私は神事で忙しくなるから、新年に向けてあらかじめ先に挨拶させてもらうわ」
「わわ、待って、まだ僕の分をよそってないから……」
大慌てで紫に取り皿を渡して、今度は僕の分を自分の取り皿に適当に盛り付ける。
「時は待ってくれないんだぜ? 咲夜に頼まなきゃな」
「構うものですか。それじゃあみんな、いい?」
一呼吸おいて。
「「「あけましておめでとうございます」」」
「いやだから待ってってば!」
ゴーンと、除夜の鐘が遠くからなり始めた。
だいぶ遅れてだけど、あけましておめでとうございます。