幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 意外と長編になる予感。久しぶりの投稿です。


第二十六話 妖怪妖精大雪合戦、その壱

「幽香、柵はこのぐらい建てておけばいいかな?」

 

「あと、そこの花壇と木々の境目あたりまでお願い」

 

 今は冬の影響で花たちの姿はないが、ここは『太陽の畑』。いつもの服装にマフラーを巻いた『風見幽香』の家もあるこの場所で、僕は野生動物により傷んだ柵の補修を行っていた。と言っても、初めから用意されていた替えの柵を入れ替えるだけなのだけれども。

 

「冬の労働は実に堪えるなぁ」

 

「あなたから進んでやりますって言ったからじゃないの」

 

「人里で捕まえておいてよく言うよ」

 

「私は何も言っていないわ。独り言をつぶやいて、あなたから言い出すのを待っていただけ」

 

「確信犯じゃん。圧がすごいんだよね、圧が」

 

 一見柔和そうに見えるが、あの紅い目で意味ありげに見られるとただじゃ済まなさそうな気がする。幽香の家の周りには花壇が備わっているが、今は咲き誇っている花はない。

 

「冬に見られる花って、何かあったりするの?」

 

「今だと……そうね、梅の花やサザンカが咲く頃合いね。もう少し経てば椿やカンザクラが咲く時期になるわ」

 

「この花壇には植わっていないようだけど……」

 

「見に行けばいいのよ」

 

 花好きの幽香にとって、花を見るために遠出をすることは何のその。そもそも幻想郷の中でも特に強力な妖怪なのだから、そんなことも苦労の内に入らないのだろうが。

 

「幽香? いるかしら?」

 

「こっちよ」

 

 聞きなれた声が、家の裏手で作業していた僕らの耳に届いた。

 

「あれ、アリス?」

 

「あなたもいたのね。まあ連行されている姿人里でも見かけたから知ってたけど」

 

「だったら助けてよ」

 

「私は別用で忙しかったの」

 

 そう言ってアリスは、抱えていた紙袋から一体の人形を取り出した。

 

「はい、頼まれていた人形」

 

「ありがとう、いい出来じゃない」

 

「幽香が上海人形を? 飾るために?」

 

「冬の作業はできれば避けたいところなの。彼女が雪かきは人形に任せていると聞いたから試してみようと思ってね」

 

「人形操作はアリスの専売特許じゃなかったっけ」

 

「得意なのが人形操作なだけであって、その気になれば誰だって操れるようになるわ。まあ、いつも私が扱っている数までできる人はほかにはいないでしょうけど」

 

 ふふんと自慢げなアリス。暗に幽香を挑発しているようにも見えるが、もともとそれも織り込み済みのようで幽香は気にしない。

 

「家が小さいから、一、二体でもいれば十分。屋根の雪かきぐらいにしか用向きはないし」

 

「やったぁ、それじゃあ雪かきはしなくて済むぞぉ」

 

「あっ、柵が終わったら今度は家の周りの雪かきを頼むから、よろしくね」

 

「ですよねー」

 

 

 

 除雪道具を活用して家の周囲から雪を撤去した後、僕らは遅めの昼食を食べることに。

 

「サンドイッチ美味しい。シンプルな中身だけどそこがいいね」

 

 幽香お手製サンドイッチはおいしくぺろりと平らげてしまう。

 

「菜の花のお浸しを挟んだものとかもいいのだけれど」

 

「あら、花を食べるのって幽香的には大丈夫なの?」

 

 ほうじ茶を飲んでいたアリスが質問した。ほうじ茶美味しいです。

 

「生き物のサイクルに組み込まれている以上、花も本望だと思うわよ。醜く抗おうとするのは獣と人間だけ」

 

「耳が痛いお話で」

 

 妖怪はそこんところ含まれていないのか。まあすごい長く生きているから生への執着は薄そうなものだけど。知人の一部はすでに死んでいるし。

 

「柵も終わったし、雪かきも済んで、これにて僕はお役御免という事になるのかな?」

 

「なんだか、あなた私から離れたがっているようね……」

 

「そ、そんなことないよ。限界までこき使われそうだなぁとか思ってないから」

 

「そのわざとらしさに免じて、追加にもう一つ仕事を与えるわ」

 

 うーんサディスティック。いや意外と社会とかに出たらこういう感じなのかな。

 

「傷んだ柵を取り換えてもらったけど、一部は悪戯によるものもあるようなの。頭が飛んでいて誰の家なのかわかっていない妖精や下っ端妖怪がね。これから見回りに行くからあなたもついてきなさい」

 

「僕が行く必要があるのかな?」

 

「私だけだと“無駄”に怖がらせてしまうから……花畑から人っ子一人いなくなるのもさみしいでしょう?」

 

(自覚無いのかなぁ……)

 

「夏の夜間フェスティバルの観客が少なくなるのはいただけないわね」

 

 僕は行ったことないけど、妖怪たち主催の野外ライブが行うことがあるそうで、今度魔理沙と一緒に行こうかな。

 

「腹ごしらえはしたわね? じゃあ行くわよ」

 

 椅子から立ち上がった幽香は、クルッとマフラーを巻きなおした。

 

 

 

 日が中天まで昇っても吐く息は白いまま。妖精たちの多くも住処の木々や洞窟などに引っ込んだままで、見かける妖精たちはごく少数だ。それでも注意しないわけにはいかず、目につく妖精たちに聞き込みをし、念入りに注意喚起行う。妖精はたとえ死んでも自然そのものが消えない限りはまた復活するので、少し痛い目に遭ったとしても懲りないだろうが。

 

「まったく困ったものだわ。真面目に聞いてくれやしない。可憐に咲く花を美しいと思わないのかしら」

 

「相手が妖精だからね。まあ花から生まれた妖精もいるだろうし、気を付けようとは考えると思うよ」

 

「考えるだけだけど、ね」

 

 ちなみにアリスも一緒についてきている。用事が済んで暇なので、せっかくだから一緒に散策したいという事だ。

 

「こうなったら、いっそう力を見せつけて有無を言わせずいうことを利かせるしかないかしら」

 

「幽香が本気になっちゃあ幻想郷中の妖精全部集めてもかなわないって」

 

「あら、何故ひねりつぶすのがいけないの?」

 

「平和的に解決できないのかしら……」

 

 やることが短絡的過ぎる。威圧感与えないようにと僕らを連れてきたのに無意味ではないか。

 

「冗談よ。でも、妖精や木っ端妖怪に合わせるというのもなかなか面白い発想ね。とすると何か競技を行うというのはどうかしら」

 

「競技……弾幕ごっことか?」

 

「あなたも参加するのなら、そうじゃないほうが良いでしょう?」

 

「あっ、僕も参加するのね」

 

「骨は拾ってあげるわよ」

 

 幽香が絡むというだけで命の危機を感じるのは僕だけだろうか。

 

「安心なさい。どうせなら冬にちなんだ競技……そうね、雪合戦とかどうかしら」

 

「雪合戦……アクティブだね」

 

「幽香らしい競技ともいえるわね」

 

「私らしいとはどういう意味?」

 

 まあ争うという点で雪合戦は分かりやすい。とすると必要なのはメンバーだ。

 

「あなたの人脈でどうにかならない?」

 

「こういう時に頼りにされても困るんだけど……」

 

「あなたほど呼び込みが出来そうな人員はほかにいないでしょうに」

 

「買いかぶりすぎだよ」

 

 でもまあ、やれるだけのことはやってみようか。この近辺に住む人、もしくは妖怪、あるいは妖精。アリスの人形も役に立ちそうだから手伝ってもらうとして、果たして何人集まるやら。

 

 

 

「というわけで」

 

「呼ばれてきたよー」

 

「こ、こんにちはー……」

 

 僕は迷いの竹林側を担当し、鈴仙とてゐ、そして珍しく輝夜が来てくれた。

 

「初心に帰るっていうのも大事だからね」

 

「初心……でしょうか?」

 

「雪合戦なんていつぶりかなぁ」

 

 正確には、おもしろそうと珍しく乗り気な輝夜に、永琳が面倒を見ておくようにと鈴仙を遣わし、さらにその鈴仙の振り回されっぷりを拝見しようと付いて来たのがてゐというわけである。かわいそうに。

 なお、魔理沙公認とはいえ、僕と鈴仙との関係を知っている人物は僕ら以外にはいない。この事実が知られたら色々とややこしくなることは必至だ。というのも、魔理沙たちが言うには「お前を取り合う妖怪が集まって秩序がなくなるから」らしい。……僕、いったい何をしたんだろう。外の世界では一度も女の子と付き合ったことすらないのに。

 

「おにーさんこの間ぶりね!」

 

「雪遊びのグランドマスター、光の三妖精のお出ましよ!」

 

「あっ、ルナチャイルドです。二つ名が増えているけど気にしないで」

 

「面白そうだからきたのだー」

 

「雪遊びなら、私がいなくてどうするの?」

 

 こちらの面々はアリスが担当。お騒がせ三妖精組と、常闇の小さな妖怪『ルーミア』。そして冬と言えばこの方と言われる、『レティ・ホワイトロック』だ。

 

「遊びならお任せよ、三人のコンビネーションを見せてあげるわ!」

 

「お遊戯こそ妖精の独壇場という事を見せつけるときね、サニー!」

 

「寒いから家で本を読みたいのだけど……」

 

「雪を食べたの? 雪は食べると寒いものね」

 

「カマクラを作ってあげましょうか?」

 

 レティは冬の間の強さは別格であり、雪合戦におけるダークホースとなりえるかもしれない。三妖精とルーミアは……うん。

 さて、当然幽香も呼びに行ったのだが、彼女は誰を誘ったのかというと。

 

「幽々子様、お着物が汚れますよ!」

 

「野暮ったいわよ妖夢ー。たまには子供らしくはしゃいでもいいじゃない。藍もそう思うわよね?」

 

「幽々子様に呼ばれたものの……雪合戦とは」

 

「こたつ、無いかなぁ。くしゅんっ」

 

 幽々子、妖夢、藍、橙。なかなかすごいメンツが集まっていた。妖夢と橙はともかく、幽々子や藍までが来るとは。

 

「本当は紫を呼ぶつもりだったのだけれど……」

 

「ああ、今冬眠中なんだっけ」

 

 大晦日以降姿を見せていないと思ったら、そういうことだったのか。そんなわけで、困った幽香を見かねて幽々子が代わりに藍を呼んだということか。

 

「紫の代役としては少し役不足な気もするけれど、他の有象無象を呼ぶよりかはマシね」

 

「九尾の狐っていう大妖怪なわけなんだけど……」

 

「変わらないわよ」

 

 うーむこの自信。やっぱり逆らっちゃいけない人だなぁ。

 さて、こうして集まったのは僕と幽香、アリスと鈴仙に輝夜とてゐ。サニー、スター、ルナチャ、ルーミアとレティ。そして幽々子、妖夢、藍、最後に橙だ。こうしてみるとずいぶんと大所帯になったものだ。

 

「十五人ね。いろんなパターンのルールが出来そう」

 

「アリスは何か意見ある?」

 

「花が咲いていない太陽の畑は広いから、ここでやるとして……これだけ広いと何か障害物を建てるのもいいかも」

 

「面白そう。せっかくなら二チームじゃなくてもっとチームを増やすのもいいかも」

 

 鈴仙がルール決めに参加。アリスと並んで、癖があるメンツが多い中でのバランサー、頼りにしているよ。

 

「五人ずつの三チームでやるというのはどうかな? それで、まず雪を集めて陣地を作るっていう感じがいいと思う」

 

「そうなるとチームのパワーバランスを公平にする必要があるわね。まずあなたと幽香が同じチームで……」

 

「えっ、そうなの?」

 

「最強と最弱を一緒にするのは組み分けでは必然ですから……」

 

 そう言われてしまったら何も否定できませぬ。

 

「私たちは当然三人とも同じチームよ!」

 

「三位一体っていう言葉が、私たち以上に似合う妖精はいないわ」

 

「そういうことだから、私たち以外の二人を決めないとね」

 

 まあ三妖精はみんな一緒っていうのは大体予想出来ている。幽香は幽々子や藍と戦いたいだろうから……ふむ、だんだんとグループが出来てきたぞ。

 

 

 

 そんなこんなで、それぞれのチームが決定した。

 僕が属する幽香チーム。幽香、僕、鈴仙、てゐ、輝夜。輝夜は非常に強い力を持っているにもかかわらず幽香と同じチームなのは今回の勝負は人間の基準に合わせるという事で、もちろん弾幕は禁止とのこと。空も飛んではダメなので基礎体力のない輝夜がこちらのチームに属することに、当然従者の鈴仙たちも同じチームとなった。

 次にレティ率いる妖精チーム。本人は妖精ではないと強く否定していたけど、妖精の人数が多いのでそういう名前になった。こっちはレティ、ルーミア、そしておなじみの三妖精。妖精三人組の能力の愛称がよく、冬に本領発揮できるレティがいる。意外と強敵となりえそうだ。

 最後に残った五人、幽々子率いる亡霊チーム(霊率十分の三)。幽々子、妖夢、藍、橙、そしてアリスだ。元々付き合いが深いもの同士組んでもらったほうが都合いいし、連携も取りやすいだろう。

 基本的にそれぞれの勢力が大体同じチームに固まった感じだ。議論の結果ルールはフラッグ戦。それぞれの陣地に旗を立てており、雪玉を当てられて全滅するか旗を取られたチームの負け。一時間の陣地構築タイムが終了次第すぐに勝負は始まる。

 ちなみに雪玉の投げ方は自由だ。直接投げるのもいいし、弾幕みたいに魔力や揚力で浮かばせて発射するのもいい。ただ積もった雪で玉を作るから、あんまりばら撒き過ぎるとすぐに無くなってしまう。

 

「というわけで、いいかな?」

 

 わーっと歓声が上がる。自然と僕が主催みたいな形になったけど、元はと言えば幽香が悪戯する妖精や妖怪対策のために力を見せつけるというのが始まりだったのに、どうしてこうなった。

 まあこれだけ規模が大きくなると宣伝効果は高いはず。現に付近の森から顔を出してきた妖精や妖怪たちが現れ始めたし。

 

「それじゃあ長話もあれだから……早速スタート!」

 

 雪上雪玉遊戯、『妖怪妖精大雪合戦』の始まりだ。




 幽香一人いるだけでパワーバランスが決まったような気がするのは自分だけ?
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