幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 オチもネタ性も弱い回。むしろ強烈なオチをつくのが難しい……。


第四話 夏の日氷上デットヒート

 幻想郷には『霧の湖』と呼ばれる場所がある。文字通り霧がかかっていることが多い湖で、その中央には小さな孤島があり、そこには赤い洋館がある。

 その洋館がある小島のほとりは今、夏真っ盛りだというのに巨大な氷のスケートリンクが出来上がっていた。

 

「どうだみたかアタイの力! こんな暑い日でも全く溶けない氷を作り出せるなんて、アタイったら最強ね!」

 

 氷を張った張本人が、湖面に張った氷のど真ん中で仁王立ちしながらドヤ顔でふんぞり返っていた。背中に氷の結晶を羽のようにはやした、青いワンピースを着た女の子である。

 

「ね、ねえチルノちゃん、あの洋館の人に怒られたりしないかなぁ」

 

「へーきだって大ちゃん! あのおにーさんがやってくれって言ったんだから! えっと……セキニンカンテン? をすればいいんだよ!」

 

 氷の妖精チルノと大妖精(大ちゃん)の二人から少し離れた湖畔にて、僕が今しがた氷漬けにされた湖面の上でジャンプをして、強度を確かめていた。ちなみに責任転嫁ね。

 

「まさか『涼みたいなー』って言ったらこうなるなんてなー」

 

 幻想郷は季節がはっきりと感じられる気候だ。夏はバッチリ暑いし冬はカッチリ凍るほど寒い。今日も相変わらずうんざりした暑さの中、家の中で蒸し焼きになるのも嫌だったので、湖畔の木陰で涼むことに決めたのが昼飯を食べた後のこと。

 そうして霧の湖に来たわけだが、コッソリ用意したボートで湖を移動中に上からあの二人に声をかけられたのだ。

 相変わらずのおてんばぶりを見せるチルノと、それを押しとどめる大ちゃんというコンビはいつ見ても和むものがある。そんな中、チルノの周りはエアコンが効いているかのように涼しいことに気づいた。

 

「我ながら名案だと思ったけど……後で紅魔館メンバーに怒られないかな」

 

 氷の妖精だから氷を出してもらえればいい! そう思った僕は早速チルノを持ち上げるような感じでお願いした。

 そうしたら調子に乗りすぎたチルノは、あろうことか湖の一部をそのまま凍らせて広大な氷原を作り出してしまったのだ。確かに涼しいが、おかげでボートが浮いたまま凍ってしまった。今は岸から数十メートル離れた位置に放置されている。

 

「……溶けるまで待つしかないか」

 

 これだけ大きいといつ溶けるかわかったものじゃないが、夏の日差しにお願いするしかない。

 

「どうだ、涼しくなったろー」

 

 氷の上を氷で作ったスケートブーツで滑りながらチルノが言う。確かに涼しい。打ち水なんか目じゃないくらいだ。

 

「ちょっとそこの、何か楽しそうなことをしているわね!」

 

「これだけ大胆に氷漬け……わたしの目からはごまかせないわ」

 

「何を企んでいるのかは知らないけど……とにかく」

 

「「「私たちも涼みに来たわ!!」」」

 

 バアアアン!! といきなり背後の森から現れてキメポーズをとったのは妖精三人組。サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドらチビッ子たちだ。

 

「……何してんの?」

 

「いきなり冷気を感じ取れば、こんなにでっかい氷が張ってるじゃない!」

 

「やるべきことは一つです」

 

「スケートブーツ、あの洋館から持ってきたの」

 

 三人がそれぞれ自分に合うサイズのブーツを取り出し、いそいそと履き始める。というか館から勝手に持ってきたのか。あそこの住民に知られたらただじゃすまないだろう。

 まあそういった悪戯は妖精の基本論理に組み込まれているから扱いは慣れているだろう。あそこは妖精メイドもいっぱいいるし。

 

「ふっ……このアタイに挑戦しようとするおバカさんが現れたようね」

 

 チルノが普段の頭の弱さを感じさせない滑りで近づいてピタリと停止すると、不敵なまなざしを三妖精に向けた。ちなみに大ちゃんは最初に降り立った場所からほとんど動けずに転びまくっている。

 

「なによ、おバカさんなのはあなたの方じゃない!」

 

「バカって言ったほうがバカなんだよー!」

 

「言ったわねこのバカ!」

 

 途端にサニーとチルノが極端に低レベルな言い合いに発展した。

 

「これは競争が始まるかな」

 

「ちょうどいい決闘場ありますし」

 

「もちろん私たちも参加するわ」

 

 かくして夏の氷上スケートレースが開催される運びとなった。

 

 

 

 コースは凍らせた面の外側を一周。参加者はチルノと光の三妖精の計四名だった。僕? スケート靴持ってないし経験ないからパス。同じく大ちゃんもパスで、お互い湖の真ん中で凍って動かなくなったボートに乗り込んで観戦することにした。ちょうどコースの中央の位置取りだったので都合がいい。

 

「い、いきますよー」

 

 大ちゃんが爆発性弾幕を作って保持する。これを打ち上げて空中で爆発した時がスタートの合図だ。

 

「アタイのスピードに追い付くことなんてできないよ!」

 

「氷上が自分の土俵だって思い込んでいるその面に、悔し涙流させてやるんだから!」

 

「一人じゃだめでも三人なら……!」

 

「これって個人戦よね? 一応……まあ助け合うけど」

 

 なんだろうこの光景。ゲームとかでもレースでみんながまず最初に何かしらセリフを吐いていくこの感じ。絶対だれかコースアウトするでしょ。

 

「位置について、よーい……」

 

 パーーン!

 

 パッと上空に弾幕を打ち上げて、0.5秒後に破裂する。四人が一斉にスタートした。

 

「さあ始まりました、突発的に始まった霧の湖スケート選手権。実況はしがない外来の一般人である僕と」

 

「だ、大妖精です、よろしくお願いします。ところで、なんで実況風なんですか?」

 

「レースだったらこうしたら雰囲気出るかなーって」

 

「そ、そうなんですね。あ、チルノちゃんが一番に飛び出した!」

 

 スタートダッシュを決めたのは今回スケートリンクを作ったチルノだ。やはりというべきか、氷の妖精は氷の上では早い。

 

「対する他の三人は……あっ、サニーがずっこけて、その両隣にいた二人を掴んでまとめて転倒した!」

 

 練習もなにもないままで滑ろうとしたからこうなるのだ。これではチルノが独走状態で勝負にならない。

 

「あれっ、チルノが止まった」

 

「うーん……どうやら調子に乗ってあの三人を笑っていますね」

 

 実力では確かにチルノが上なのは間違いないが、そうやって油断しているのは世間でいう『フラグ』に相当する。

 さて、ずっこけ三妖精は頭にこぶを作りながらも、お互いがしっかりつかんで一緒に滑ろうとしている。フォローし合って、今度はかろうじて滑れている。

 

「チルノちゃん、差が開きすぎたからその場でクルクルターンし始めてる……」

 

「まだコースの半分も滑っていないのに、もう自分の勝ちを確信しているなぁ」

 

 大人と子供ぐらいの実力差であるが、ここは幻想郷。逆転する手段なんていくらでもあるものだ。

 チルノの態度にむかついた三妖精たちが、チルノに向かって弾幕を発射した。

 

「「あ」」

 

 そのうちの一発が見事にチルノの頭にクリーンヒット。ほげーっ! と変な悲鳴を上げて、回転した勢いのまま吹っ飛んで倒れた。

 ルールは特に決めておらず、ただ先にゴールした人が勝ち。そんな条件にすれば早々にこうなることは予想出来ていたが、弾幕ごっこなど日常茶飯事。油断したほうが悪い。

 

「チ、チルノちゃん大丈夫かな?」

 

「のびてるな」

 

 当たってもちょっと痛い程度の弾幕。頭に受けても怪我することはないが、これは大きなタイムロスだ。その隙に三人がチルノの脇を通り過ぎていく。

 

「あっ、三人が姿を消した」

 

「サニーさんの『光を屈折する程度の能力』ですね。混乱させる狙いがあるのでしょうか」

 

「うーん、三人のことだから、ここから悪戯しようって魂胆じゃないかな」

 

 あれだけせせら笑われたのだ、弾幕を一発あてた程度で満足するはずがない。

 

 チルノは弾幕が当たって赤くなった額をさすりながら起き上がって辺りを見渡すが、やはり三人の姿が消えたことで混乱しているようだ。

 するとチルノのスカートを、見えなくなった三人の内誰かが掴んでそのまま引っ張り始めた。

 

「チルノちゃん後ろ向きに引っ張られてる……」

 

「身動き取れないよなあれ。向かう先はやっぱりコース外」

 

 じたばた暴れながらもジリジリと氷の縁へ移動させられるチルノ。さすがに三対一では人数が多いほうが有利である。

 そして、とうとうチルノはリンクの端までたどり着いてしまい、次の瞬間には水の上に投げ出された。

 ドッボーンと小さな水しぶきが上がる。同時に能力を解除したらしく、三人が笑いながら走り去っていった。

 

「チルノ選手、ご立腹のようです」

 

「びしょびしょになって……あっ、スペルカードを取り出して宣言を……!」

 

 氷の端をよじ登ったチルノは、ずぶ濡れのままスペルカード宣言。こっちまではっきりと聞こえる声量で「『氷符:アイシクルフォール』!!」と叫んで、スペカを発動させた。

 ……ん、あれ。僕達から見て、ちょうどチルノの反対側に三妖精がいるから……。

 

「わわわわわ!? こっちに飛んできた!」

 

「流れ弾どころじゃない!」

 

 当然、その射線上にいる僕らはひとたまりもない。氷の弾幕が押し寄せてきたのでボートの陰に隠れる。

 

「こらーっ! 観客を巻き込むなーっ!」

 

 しかし大層ご立腹なチルノはそんなことはお構いなしだ。スペルカードの力がある限り、弾幕をばらまいていく。

 実力差で言ったら、サニーら三人組とチルノだったらチルノのほうが強い。光の三妖精たちに弾幕が襲い掛かり、多数被弾して尻餅をついたりと転倒した。

 

「さあ面白くなってきました。ちなみに空を飛ぶのだけはNGです」

 

「いつ決めたんですか?」

 

「今だよ?」

 

 白熱した戦いをよそに気が抜けた実況を続ける。一応言っておくけど観客は僕たち二人しかいない。

 チルノが再び滑り出して加速する。たぶん次からはその場で止まって笑うとかはしないだろう。……たぶん。

 

「転んでしまいましたがゴールは目の前の三妖精。しかしそれを追いかけるチルノ選手」

 

「えーっと……チルノちゃん頑張って!」

 

 徐々に滑ることに慣れてきた三妖精とそれを追うチルノ。ここにきてようやくまともなレース展開になってきた。

 

「うーんデットヒートだなー」

 

 ここまで来たら三人がゴールラインに入るか、その前にチルノが追い抜くかの勝負だ。三妖精がゴールまでの距離十メートルを切る。

 そして距離五メートルのところでチルノが三人に並び――その集団に上から無数のナイフが降り注いだ。

 正確にはその目の前、ちょうどゴールラインとして縦に傷つけた線に正確に次々と突き刺さる。驚いた四人は当然急ブレーキをして、もみくちゃになって盛大に転んだ。

 

「ナ、ナイフ?」

 

「でも投げた人はどこにも……」

 

 幻想郷でナイフ使いとくれば、思い当たるのは一人だけ。

 

「こんにちは二人とも、ここは涼しいわね」

 

 いきなり後ろから声をかけられたため、少し飛び上がりながら振り返る。大ちゃんも同じ反応だ。

 そこにいたのは紅魔館のメイド長。銀髪に青と白の色合いのメイド服を着た、『十六夜咲夜』であった。ボートの端に立っているため下から見上げている都合上、スカート中が見えそうで危なっかしい。

 

「あなた、今とても不埒なことを考えていたでしょう?」

 

「何のことかわからないなぁ」

 

「……まあいいわ。用があるのはあそこの妖精だから。お嬢様の練習用スケート靴を盗み出すなんて手癖の悪い妖精たちには、お仕置きが必要だから」

 

 うふふふと怖い笑みを浮かべる咲夜。ターゲットにされなくてほっとしたというか……お仕置きをされる四人に合掌。主人が好きすぎるのも大概だなぁ。

 

「あら? なんだか自分は関係ないですって顔をしているけど、あなたも後で館にきてもらうわよ。お嬢様がお呼びだから」

 

「なんで?」

 

「試したいとか言っていたわ。あなたに相応しいことをね」

 

 あの館の主が試したいとか、ろくでもない内容に違いない。今日自分が生き残れるように祈りながら、戦々恐々している妖精たちに飛んで近づいていく咲夜を眺めるのだった。

 




 三妖精の口調がよくわからずセリフが少なめに。性格の差を出すのに苦慮した回でした。
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