つたない文章でも気に入ってくれる方がいて、トマトに反逆したい派はとてもうれしいです。これからもよろしくお願いいたします。
ちなみにナポリタンっておいしいよね。
前回のあらすじ! 僕が涼みたいというお願いに応えたチルノが作ったスケートリンクでレースをした! (僕は不参加)以上。
咲夜がスケート遊びをしていた妖精たちからスケート靴を回収した後、彼女の案内で悪魔の住む屋敷、『紅魔館』に訪れた僕。相変わらず目が悪くなりそうな色をしていると思いつつ、屋敷の主人がいるという庭に面した二階のテラスに案内される。
「来たわね?」
パラソル付きテーブルの下でこの屋敷の主人、レミリア・スカーレットが捉えどころのない笑みで迎えた。
「お呼びにあずかりまして光栄です。ところでなんで僕の場所が分かったのかな?」
挨拶だけは丁寧に。館の主というだけであってとても高貴な雰囲気を漂わせているが、気まぐれ度具合はほかの少女と変わらないことを知っている。
「ふふ、今日は館の近くに来るという運命を見たのよ。で、私の私物が盗まれたものだから、捜索ついでに咲夜を遣わせたのよ」
「一般人Aの僕に、何の用なのかな」
「そうね、長い前置きをするほどのでもないから……咲夜、持ってきて」
「かしこまりました。こちらになります」
ほんの一瞬だけ消えたかと思うと、瞬きすらしない間にテーブルの上にケーキスタンドとその上に置かれた多種多様な洋菓子、さらにティーセット一式が現れた。いいなあ『時を操る程度の能力』。なんで僕は何も持っていないんだろう。
「お茶会の誘い? 試したいことがあるって、聞いたんだけど……」
「もちろんただの茶会ではないわ。ただの人間のあなただからこそできることを、してもらいたくてね」
三段重ねのケーキスタンドから、咲夜が一つずつケーキを取り分ける。レミリアにはこの季節仕入れるのが難しいイチゴをふんだんにあしらったタルトケーキ
そして僕には、様々な種類のベリーで作られたソースがかかったレアチーズケーキだ。ケーキ本体も少し赤みかかっている。
「今から、私が考案したケーキをあなたに試食してもらいたいのよ」
「ケーキを、レミリアが?」
そんなことなら館の住民とかほかの知り合いに言えば済む話では。と思ったところ、予想したよう彼女が補足を入れた。
「今回の主題は、『吸血鬼が好むもので作る人間用ケーキ』を作ること。うちの妖精メイドは咲夜が作ったものなら何でもおいしいって言ってあまり参考にならないし、霊夢や魔理沙を呼びつけることも考えたけど、適当な感想しか言わなさそうで……」
「咲夜がいるじゃないか。純度百パーセントの人間が」
「これは私が考案したケーキなのよ? 食べさせてみたけど、『お嬢様発案ならおいしくて当然です!』ってなってあまり参考にならなかったわ」
「だってお嬢様ですから」
「「理由になっていない」」
まあ要するに、一般人だからこそ最適の実験体だということだ。味覚は世間のものとそんなにずれていないと思うし、レミリアの気まぐれはいつものことだ。ケーキをタダで食べさせてもらえるのなら喜んで請け合おうと思う。
「……ん、でも吸血鬼が好きってことは、レミリアの好物ってことかい?」
「ええそうよ」
「ちなみに一番好きなものは?」
「生きた人間の血液。若くて体力があるのがいいわ。B型だったら文句なし」
「すんません、やっぱりキャンセルでお願いします」
さすがに他人の血液入りケーキを食べたいとは思わない。
「判断するのは早いわ。まずそこのケーキを味わいなさい」
「血入りは嫌なんだけど……ん、これは!」
ちょっぴりフォークで切り取って食べてびっくり、ブルーベリーソースとチーズケーキの相性は抜群であることは知っていたが、これはそれ以外のブドウさがある。
「これにはチーズにワインを混ぜているの。アルコールは飛ばしているわ」
「なるほどねぇ。確かにレミリアはよく飲むもんな」
吸血鬼が好むものは血と葡萄酒。以前から持っていた吸血鬼のイメージから離れていない。
「私をウワバミみたいに言わないでよ」
「誰もそんなこと思ってないって」
でも吸血“鬼”だから、実際に酒類には相当強いと思う。レミリアじゃないけど、前に『博麗神社』の宴会で現れた鬼が飲み比べをしようといった時に誰もが避けていたし。
「それにしても……味はおいしいけど、やっぱりソースと風味が被っちゃうな。でも洋酒入りケーキってチョコレート系にも使われるから、そっちで試してもいいんじゃないかな?」
「なるほどね……見た目は気に入っているのだけれど。でもいいアドバイスね」
イチゴタルトケーキを小さく切り取って頬張るレミリア。外見もあって、嬉しそうに食べている姿は五百年生きていることを感じさせない。
「じゃあ次ね。咲夜」
「では、こちらですね」
咲夜が新しい皿に別のケーキをのせて提供した。さっきのケーキ、まだ半分も食べていないんだけど。
「あと二つもあるのに、早々に腹を膨らませたら味が分からなくなるでしょう?」
「うーん、じゃあ後で残りも貰うという事で」
そう言って二番目のケーキを見る。見た感じは茶色いシンプルなロールケーキだ。クリームには何かの豆の皮のようなものが見える。
「小豆入りロールケーキ?」
「ふっ……その程度の予想しかできないのならまだまだね」
口角を上げてあざ笑うレミリア。なんだか腹が立つが、このまま眺めていても始まらないので、フォークで切ってパクリと一口。
「こ、これは……!」
「どう? これは自信作よ」
入っていたのは豆類で間違いない。だが小豆ではない、大豆だ。それも発酵した。すなわち納豆。
「……レミリアは食べたことある?」
「まだよ、この後食べようかと思っていたの。咲夜は……まあ震えながらおいしいって言ってたけど」
咲夜のその反応は、恐らく素と忠誠心が足して二で割ったものだろう。
率直に言って、物凄く変な味だ。ケーキというデザートタイムには納豆特有の臭いはすごく場違いと思える。よく噛んだら粘り気も感じられるし、素材を生かしつつとかいうあれじゃない、素材がケーキを殺しに来ている。
納豆に出汁醤油ではなく砂糖を入れる人がいるとは聞いたことはあるが、少なくとも生クリームを入れる人間はこの世にいないだろう。それを試した結果がこれだよ!
「こ、個性的で好みが分かれると思うけど。僕は納豆だったらしょっぱい系がいいなぁ」
「ふぅん? 確かに私も出汁醤油が好きだわ。今度クリームに混ぜてもらおうかしら」
傷つけないようにフォローをしたつもりだったが、また変な方向性を与えてしまったのかもしれない……第一味見役咲夜、頑張ってくれ。
「じゃあ最後ね。これはね、私が作ったのよ? だから光栄に思いながら完食しなさい」
さっき全部食べるなといったのにこれだ。まあレミリアらしいと言えばらしいか。
「……頑張ってくださいね」
「えっ?」
ケーキを取り分けるときに口の動きだけで咲夜がそう言った、気がする。先ほど自分が心の中で言ったセリフがそのまま飛び出して少し驚く。
そしてその意味は、目の前のケーキを見た瞬間に発覚した。
「……えーっと、これって何ケーキ?」
「『赤い悪魔特製のショートケーキ』よ。何が入っているのかは、あなたが食べて判断しなさい」
一瞬ガトーショコラ? と思っていた疑問が、ショートケーキという前提によって謎の黒い物体エックスへと変貌した。
まず、黒い。イカ墨でも入っているんじゃないかというほど黒い。そして臭い。香ばしいを通り越して、ぶっちゃけ焦げてる。まさか中まで同じ感じになっているのではないか? 何時間焼いたんだろう。
それがホールケーキでよくある切り分け方の形になっていなければ、まずケーキだとも、いや、試食品と言われていなければ食品とも思えない存在だった。これがダークマター。その製造者がレミリアだったなんて。一般高校生悲しいです。面倒くさい妹のような感覚で接していただけにより悲しい。
「どうしたの? 早く食べなさいよ」
咲夜見ていたんじゃないのぉ!? という視線を向けたが、彼女にしては珍しくレミリアの死角から本気でペコペコ謝っていた。これ、完全にレミリアの独断だな。
「気まぐれに作ってみたにしては、なかなかよくできたと思うの」
「そうなんだ」
そうなんだじゃないよ僕! どこを見たらよくできたと思えるの? ショートケーキがガトーショコラ似の物体エックスになっている時点ですでに大失敗だよ!
というかレミリアはあの様子だと味見とかはしてない様子だ。メシマズ料理人の多くは、自分で味見をしないと言われているが、見事その基準をクリアしてしまっている。
「それじゃあ、いただきます」
いったん提供された紅茶を飲んで口の中をさっぱりさせる。あっ、ミントティーだ。咲夜にしては珍しくまともな紅茶を入れてくれた。
そんなつかの間の現実逃避をしつつ、フォークでケーキを切り取る。うわっ、この世の手触りすべてを濃縮したような手触り。何を言っているかわからねーと思うが僕もさっぱりわからねぇ。
「……もぐ」
意を決して一口。なんだこれ、砂? いやガム? 野菜みたいな繊維もある。触感のオンパレードだーってやかましいわ。
そして味、味はというと――。
「……ちょっとどうしたの? さっきから固まって。おいしいですの咲夜みたいな反応ね。何を食べてもおいしいって感想は参考にならないって――ちょっと!?」
追記、僕の意識はここで途絶えた。
あとから語った咲夜はというと、「天に召される直前の微笑みとは、まさにこのことね」と称した。
レミリアが何を入れたのかは本人しか知らない……。