幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 なかなかネタが思いつかないものですなぁ。


第六話 作ってみよう魔法薬

 幻想郷には様々な『力』がある。霊力、魔力、妖力、法力、神力、エトセトラ。大抵実力者はそれらの一つないし二つ以上持っている場合があるが、あいにくと僕は何一つ持っていない。

 とはいえ持ってない、とは使えないというわけではない。代用品を用いればそれに類似した現象を起こすことが可能だ。

 今回はその道具の中でも極めてシンプルな魔法薬を作ることにした。文字通り魔力を含んだ薬である。

 

「というわけで魔理沙先生。よろしくお願いします」

 

「お前って都合がいい時には敬語になるのな」

 

 夏のセミも寄り付かない魔法の森にある霧雨魔法店。魔理沙の自宅兼仕事場だ。いわゆる何でも屋の類で、依頼人の願いを聞いてくれるらしい。

 で、僕はそこに目をつけて、魔法薬も作っているというから彼女に頼んで体験させてもらおうという事にしたのだ。いつも通り暇つぶしである。

 

「まあいいぜ、人手が多いと作るのも楽だしな」

 

 ソファに座った魔理沙が立ち上がり、家の奥に案内する。

 人が住んでいないと思えるぐらいの散らかりようの中、魔理沙の工房にたどり着いた。

 

「ザ、魔法使いっていう感じの部屋だね」

 

「あまり余計なものに触るんじゃないぜ?」

 

「触ったらまずいことになるのかな?」

 

「いや、私が置いたやつだから勝手に動かされるのは困るってだけだ」

 

 典型的な片づけられない人の言い訳を聞きつつ、カーテンを閉め切った窓際にあるテーブルまで移動した。フラスコやらメスシリンダーやらアルコールランプやらが置かれたテーブル。ちょっと幻想入りする前のころを思い出す。

 

「さて、お前は初心者だからな。作る魔法薬も初級ってところだな」

 

「魔理沙ちゃん今日は何を作るの?」

 

「いきなりちゃんづけで呼ぶな! お前のノリって時々分からなくなるぜ」

 

 高校生成分が抜けきっていないものだから。こういうノリはむしろ自然だと思うんだけどね。

 

「今日はこのキノコから魔力を抽出して、何種類かの薬草と混ぜ合わせてビン詰めにするぜ」

 

「使うとどんな効果が?」

 

「胃腸を整える」

 

 それって漢方と一緒では? と思ったが口には出さない。魔法なんぞ門外漢な僕からすればそう見えるだけで、実際は魔理沙の助力無しではその作業すら僕はおぼつかない。

 

「じゃあまず水とそこの籠のキノコを一緒に入れてくれ。一番でっかいフラスコにな。私は火を着ける準備をするぜ」

 

「はいよ」

 

 言われておぼろげに光る青色のキノコをポポイとフラスコの中に放り込む。魔法の森に生えるキノコは魔力の触媒として適しているし、ただ煮だすだけで薬にもなる。魔力を含んでいる薬だから、これもりっぱな魔法薬だ。

 

「あー……まいったな、ミニ八卦炉今修理に出しているんだった。マッチマッチ……」

 

「魔理沙、水ってどこに? 蛇口部屋にないんだけど」

 

「外に井戸があるから木桶で汲んできてくれ」

 

 部屋の隅に転がっていた埃かぶった木桶を持ち出し、工房から外に直接出られる扉から出て井戸を目指す。魔理沙邸の庭は、薬の材料のために奇妙な薬草が何十種類も栽培されている。中には近づくと噛みついてくるハエトリソウみたいなものまであるので、素人が歩くのは危険だ。僕はこの庭を何度も通って貸本の回収や配達のアルバイトをしているため歩きなれているが、油断していると毒液を吹きかけられるのでたまったものではない。

 

「よっと」

 

 井戸汲みなんて幻想郷に来る前は一度もやったことなかったなーと感慨深く思いながら、取っ手にロープがついたバケツを投げ入れる。屋根がついた井戸には天井に滑車がついており、それを利用することで力を入れやすくなり引き上げやすい。素の身体能力は同年代の少女と変わらない魔理沙は、こういった工夫が至る所に施されている。

 

「おや、君がここに居るとは思わなかったよ」

 

「あれ、霖之助さんじゃないですか」

 

 庭と外を隔てる柵の向こう側から、慣れ親しんだ道具屋の店主、『香霖堂』の森近霖之助が声をかけた。

 

「魔理沙にこき使われているのかな?」

 

「半分は当たりかな。自分が薬作りを体験したいって言ったもんだから。霖之助さんこそなぜここに?」

 

「魔理沙に注文されていたものが終わったからね、近くに来るついでに寄ったのさ。彼女は中かい?」

 

「そこの工房ですよ」

 

 ありがとうと軽くお礼を言った霖之助は、僕以上に慣れた足取りで薬草畑をすり抜けて家の中に入っていった。

 水をくみ上げた僕も、重い木桶を持って中に戻る。

 

「やっぱりこれがなきゃ生活が成り立たないぜ。火力調節にもってこいだから――おっ戻ったな」

 

「ミニ八卦炉、確かに渡したよ。じゃあ僕はこれで」

 

「おう、ありがとなー」

 

 八角柱型の道具を渡した霖之助は会話もそこそこに、僕の脇を通り過ぎてそそくさと帰ってしまった。

 

「もっといればよかったのに」

 

「私としては、物珍しいもんを持っていかれる心配がなくてほっとしたけどな」

 

 霖之助も魔理沙ほどではないが蒐集癖がある。『無縁塚』と呼ばれる危険地帯まで行って中古品を探しているほどだ。

 

「さて、マッチを探す手間が省けたところで、さっさと水を入れて煮込むぜ」

 

「了解」

 

 僕が柄杓を使って水を注ぎ入れる間、今度は魔理沙が別の机のものをまとめて押しのけて、ざるに乗った薬草数種類と乳鉢二つをどさどさと置いた。

 

「終わったらこいつで火をかけて、今度は薬草をすりつぶすぜ」

 

 魔理沙が先ほど受け取ったミニ八卦炉を取り出して、大きなフラスコの下にセットする。

 

「分かった。……魔法って、案外地味なんだね」

 

「逆に何を想像していたんだ?」

 

 イメージとしては、手のひらから光の粒子をキラキラと水に溶け込ませて作るみたいな。それは別の意味で古いか

 

「むしろ材料を何種類も放り込むのは魔女らしいか」

 

「私は魔女じゃなくて、普通の魔法使いだけどな!」

 

 なぜかそこは譲らない魔理沙。こだわりというのは他人にはよくわからないものである。

 

「よし、お前はこっちな。今日は量が多いから二人掛かりでやらないと」

 

「確かに。では早速」

 

 乾燥させた薬草何枚かを乳鉢に入れて、乳棒ですりつぶす。ただそれだけ。その作業を薬草がなくなり、キノコの抽出が終わるまで続く。

 

「……」

 

「……」

 

 ごりごりごり、ごりごりごり

 

 ……やっぱり薬草をすりつぶすだけだから会話が成り立たない! 魔理沙が静かだとこうも普段と空気が違うのか。

 というか、魔理沙ってちゃんと静かな時があるんだ。普段本を読んでいる時ですらなんか喋っているイメージだけど、こうしてみると雰囲気が違う気がする。慣れているだけかもしれないが、地味な作業にも文句を一つも言わずに自分から進んでやっているし、案外努力家だったりするのだろうか。

 

「ん、どうした? 手が止まってるぜ」

 

「あー……えっと、前にアリスの家で起きたこと、しっかりと謝っていなかったなと」

 

 すりつぶす動きを再開し、とっさに思い付いた言い訳をかます。魔理沙が勝手に混ぜたキノコのせいとはいえ、年下である彼女を襲ってしまったのだ。あの出来事は自分でも若干黒歴史となりつつあるが、あの場にいた二人は僕に非はないと言ってくれた。

 でもだからと言って、あの後もしばらく怯えさせるようなことをしたのは事実だ。言い訳を利用するのは心苦しいが、この場で謝りたい。

 

「あー、あのことな。あの後確かに私もいろいろ言ったけど、結局私の注意不足ってだけだからさ。気にすんな」

 

「そうはいっても、一度ちゃんと謝罪がしたいんだ」

 

ごりごりごり、ごりごりごり

 

「私が気にすんなって言っているんだぜ? お前がいつまでも心に根っこが絡みついてついているみたいに思わなくってもいいんだって」

 

「謝罪は世の中を渡るのに必須スキルだからさ、自分でも白黒はっきりつけたいんだよ」

 

 ごりごりごり、すりすりすり

 

「だーもう、面倒くさいやつだなお前は!」

 

「魔理沙こそ、いい加減謝られてほしいんだけどなあ!」

 

 会話の途中で薬草が完全に粉になったので、新しく入れようとざるに手を伸ばす。そしたら。

 

「「うわっと!」」

 

 魔理沙も同じタイミングで腕を伸ばして、偶然お互いの手が触れあった。反射的に互いに手を引っ込める。

 

「ご、ごめん」

 

「ちょ、ちょっと驚いただけだ……あっ」

 

 お互い顔を赤くしつつも、魔理沙が何かに気づいた。

 

「どうしたの?」

 

「今、謝ったよな」

 

「……あー」

 

 うっし! となぜかガッツポーズを作る魔理沙。何か勝利したような気分でいるらしいが、謝られたのだからむしろ負けでは?

 

「ま、いいか」

 

 そんな無粋なツッコミは無しにしよう。なんだかとてもいい気分だ。

 

「よし、それじゃあ用意した瓶にすりつぶしたやつを、このスプーンで一杯分入れてくれ! 私はキノコの煮汁を魔法で冷ますからな!」

 

 そう言ってフラスコに魔法をかける魔理沙も、どこか嬉しそうな表情だった。

 




 回ごとにキャラクターの性格が変わっていたらごめんなさい。
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