幻想郷とて日常はある   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 いろんなキャラのかわいいところが見れる回……のつもり。


第八話 スイカと怒りは爆発するもの

 博麗神社ではしょっちゅう神社なのに妖怪が集まって、大なり小なりの宴会が開催される。家主である霊夢は愚痴をこぼしながらもそれを受け入れている節があり、一部の料理は彼女が作るほどだ。

 で、基本的に集まるのはお酒大好きな人外たちなので、酔っ払うといってもほんのり気分が高揚するぐらいでほとんどが泥酔するまではいかない。逆にその程度まで酔っぱらうというという事は普段の性格が、程度がどうあれ大雑把になってしまうという事だ。

 そして、今の状況もそんな適度に酔った彼女たちならではの提案だった。

 

「スイカ割りだぜー!」

 

「ジャンジャン割るわよー!」

 

 霊夢と魔理沙が肩を組んで、大量に山積みにされたスイカを背にはしゃいでいた。二人はそろって種族は人間なので、酒に対する耐性は妖怪より低い。

 

「割るというのなら私が、きれいに食べやすい八等分にして差し上げます」

 

「それは割るじゃなくて斬ると言うのよ妖夢ー?」

 

「塩をかけて食べるのだから、いい具合に砕いたほうがおいしいわよ。というわけで私のグングニルでまとめて串刺しにするわ」

 

「お嬢様、それは割るのではなく貫通と言いますよ?」

 

 適度に酔った妖怪たちも、冗談なのか本気なのかわからない口調で名乗りを上げる。ちなみに参加者は紅魔館のメンバーと白玉楼の住民。あとは八雲家といった感じだ。こんなにいるのに男の参加者は僕一人という。

 

「ところで、あのスイカはどこから?」

 

「紫様が外の世界で豊作になったスイカを一部拝借したらしい」

 

 喧噪を傍から眺めている僕の質問に答えてくれたのが、このメンツの中で最も常識人の『八雲藍』である。狐の尻尾が九つ生えた、いわゆる九尾の大妖怪だ。紫の式神で、式神なのに式神を使役できるというトンデモ式神な式神である。式神多すぎてごめん。

 ちなみに藍の膝には、彼女の式神である二又猫の『橙』が頭をのせて酔いつぶれている。ゴロゴロと喉を鳴らしている姿は可愛らしい。二人とも先日作りすぎた料理を一緒に食べてもらった。

 

「農家さんは大変だろうなぁ」

 

「採れ過ぎて廃棄するつもりのやつだったらしいから、別に気に病むことはないさ」

 

「ならいいんだけどね」

 

「君は参加しないのかい?」

 

「片付けが大変そうだからそっちのフォローで」

 

「苦労をかけるね」

 

 大体僕が宴会の後始末を担う。まあ酒を飲まないから素面の僕がその役回りになるのは必然か。

 

「にぎやかなのはいいことよ」

 

 藍とは反対に僕の隣に座る紫が、そんな彼女たちの喧騒を見ながら言った。

 

「紫さんが用意したんだからあなたが割れば?」

 

「私はあなたで遊ぶことに忙しいですもの」

 

 人間をおもちゃ扱いするなんて、なんて危険な妖怪だ! 確かに男ならコロッと行きそうな魅力と美貌を持っているが、すでに人となりを知っている僕は騙されないぞ!

 

「えいっ」

 

「うわっ!」

 

 いったい紫が何をしたと思う? いきなり僕に抱き着いてきたのだ。

 

「ゆ、紫様、何をしていらっしゃるのですか!?」

 

「何って見ればわかる通りよ藍。男の人を全身で感じているの」

 

「いろいろと危険な発言!」

 

 密着してくる紫から、いろんな情報が与えられる。具体的には、女性の熱とか、女性と柔らかさとか、女性の匂いとか。って何考えているんだ僕は。場の雰囲気に酔ってきたのか?

 

「こうして時々外の世界に行って、ホイホイ寄ってきた男の人を幻想郷送りにしているわけだ」

 

「人を神隠しの主犯のように言わないで頂ける?」

 

「事実じゃん」

 

「こんなことをするのは、私が気に入った人だけ。当然あなたのことも私は気に入っているわ、本当よ?」

 

「お酒が入っている時点で信用に値する言葉ではない。飲んでなくても信用しないけど」

 

「どうしたら信用していただけるかしら?」

 

 ふむ、ここで無茶ぶりをして彼女を困らせるのも一興か。でも紫を困らせるほどの無理難題というと……。

 

「ほっぺにチューぐらいはしないとダメかな」

 

 これでどうだ! これ以上ひどいお願いはセクハラになりそうなのでここが上限といったところか。

 

「分かったわ、はいチュー」

 

「「えっ?」」

 

 声を上げたのは僕と藍だけだったが、会話を聞いていた人数はそれ以上だ。多くの観衆の目がある中で、何のためらいもなく、紫は僕の頬に唇を触れさせた。

 

「……なんだろう、恥ずかしさと虚しさが混合したこの感情」

 

「なによ、私の口づけを受けた人は歴史上はじめてよ?」

 

「それはすごいことだね」

 

「私は好いた相手じゃなければ口づけなんてするつもりはなかったわ。本当よ?」

 

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆかりさま?」

 

 藍が顔を真っ赤にして、なぜか僕の肩を揺さぶる。やめてください、首が取れてしまいます。

 

「あらら、もしかして藍もしたかったのかしら? それとも私にされたい?」

 

「どっちでもないですっ! あっ、いえ決して紫様の口づけが嫌とかというわけではなく……ってそういうことではなくて!」

 

 一応九尾ってすごい妖怪だって聞いたことあるんだけど、こうしてテンパる姿はいかにも苦労人といった感じだ。今度油揚げを差し入れよう。

 

「紫ぃ―――!? あんた何やってるのよ!」

 

 スイカを持った霊夢が、僕たちに向かって突進してきた。あれ、これヤバくない?

 

「ちょっと酔い覚ましに外に出るわね」

 

「あ、ちょっとぉ!?」

 

 早口に紫が言うと、スキマを開いてその中に飛び込んでしまった。そして接近するは博麗の巫女。酔いのせいで紫がいなくなったのに気づいていない様子。そして大きなスイカを両手で振り上げて。

 

「『果実:大玉西瓜』!!」

 

「何その即興スペル!?」

 

 僕にめがけてスイカを投球した。

 スイカは凶器、ちなみに果物じゃなくて野菜です。

 

 

 

「やってしまったわ……」

 

 博麗神社の屋根の上で、両手で顔を押さえてもだえる賢者が一人。指の隙間からのぞかせる顔は、リンゴのように真っ赤だ。

 

「あの場はごまかしたとはいえ、勢いに任せて……抱き着いたりも……」

 

 御覧の通り、紫は人前では本心を明かさないし、見せることもない。だが、彼が絡むと話は別だ。反応は初心の少女のそれと何ら変わりがない。

 八雲紫は彼に好いている。ただの人間で何も力がない、それなのに気安く接せるという不思議な気質を持つ彼に惹かれていたのだ。

 

「あの子大して喜んでいなかったし……嫌われたかも!」

 

 いつもの賢智ぶりはどこに行ったのか、男女の関係というものが関わると途端にうぶになる紫なのだった。

 

 

 

「なんで僕が、スイカ割りをしなきゃならないのかなっ!」

 

 手に持った木の棒で、薪割りの要領でスイカを割る。よくある目隠しして、周りの人の誘導でスイカに導くといったやり方はしない。こんなに大所帯なのにもかかわらず、誰一人イベントとしてのスイカ割りを好む人物はおらず、まず食せればそれでいいといった人がほとんどだ。人間は少数派だけど。

 

「よースイカ人間。ちゃんと割ってるかー?」

 

「魔理沙、手伝ってくれるの?」

 

「他人の労働を見て飲む酒はうまいぜ」

 

 お酒が入った瓶と杯を持った魔理沙が、縁側に腰かけた。

 

「魔理沙はサドの素質があるよ」

 

「そういうお前はマゾの素質があるな。スイカをぶつけられて果汁まみれになってるのに、周りから責任をもって割りなさいって言われてホイホイ言う通りにしてさー」

 

「いやぁ、まあ、ほっぺにチューは僕から言い出したことだし。本当にするとは思わなかったけど」

 

「男の発言は時に女を狂わせるもんだ。もっと責任を持つようにするといいぜ」

 

「善処するよ」

 

 あの紫が本気で僕を恋愛的に好いているとは思えない。困らせる目的で口づけしたと考えるのが無難だ。最初にそんなことを考えていたのに見事にやり返された気分だ。

 

「しかしみんなの反応は面白かったな。時が止まったかのような感じで二人を凝視していたし」

 

「そういえば魔理沙はあの時どうしてたの? 霊夢に気を取られて見れていなかったんだ」

 

「私? 私はなー……」

 

 なんだか言いにくそうな様子だ。言えないようなことでもやっていたのだろうか?

 

「喋りたくないんなら、無理しなくてもいいよ」

 

「そ、そういうわけじゃないぜ! えっと、あの時はだな……腹が立った」

 

「えっ、僕に?」

 

 予想だにしない魔理沙の発言に、スイカを割る作業を止める。

 

「いや、両方だよ。女のキスをそんなたやすくゲットしちまうおまえにも、安易に人前でそれをやる紫にも」

 

「……嫉妬?」

 

「んなわけあるか!」

 

 やけに魔理沙が突っかかってくる気がする。

 

「あー思い出したら余計に腹が立ってきた! とにかく、お前はむやみやたらに人を惹きつける才能を使い過ぎなんだよ! お前がいなかった頃の紫だったら、やんわりと断ったはずだぜ!」

 

「そ、そんなこと言われましても」

 

 自分、そう指摘されてもどう直せばいいのか。っていうか直すべき才能なのかもわからない。魔理沙が酒を置いて立ち上がり、ずんずんと僕のほうに向いて歩きだす。

 

「ストレス発散だ! 私がスイカ割りというものを見せてやるぜ!」

 

 そう言って魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、発射口を今しがた新しく置いたばかりのスイカに向ける。

 

「や、やばいっ!?」

 

「『恋符:マスタースパーク』!!」

 

 限界まで体を逸らして緊急回避! それと同時にミニ八卦炉から極太のレーザーが発射された。

 スイカは、跡形もなく消滅した。

 




 人生でスイカを割ったことは一回しかないです。
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