兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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10.遊びはおわり

 秘密の部屋の化け物に怯えながらも、日々は容赦なく過ぎていきます。

 スリザリン対レイブンクロー戦が終わりました。結果はスリザリンの勝利です。ドラコはなんとかギリギリレイブンクローのシーカーを出し抜いたのです。

 今回の試合の観客は自寮の生徒に限られていましたが、私はこっそり抜け出してルーナのマフラーを借りてドラコの試合を見ていたのです。

 私はルーナと応援席を降り、お散歩してから寮に帰りました。ルーナも私も秘密の部屋の恐怖について、あまり心配していませんでした。

 

「あたし思うんだ…。あれって石化の魔法だよ。だから犯人はゴルゴンなんじゃないかって。だから目をつむれば平気だもン」

「頭が蛇の人…ふふ。スリザリンっぽいですね」

「絶対そう。賭けてもいいよ」

「でもそれって絶対目立ちますよ」

 ゴルゴンは普段帽子でもかぶるんでしょうか。山高帽だったら蛇が窒息する心配もありません。

 

 ルーナは寮へ。私はそのまま廊下を散歩しようとしましたが、見回りをしている監督生に捕まりました。パーシー・ウィーズリーです。片手にはすでに誰かの腕が掴まれていました。

「こら!マルフォイ。そっちは寮じゃないぞ」

「ええでも…」

「問答無用だ。昨日レイブンクローの生徒が襲われたの知らないのか?」

「知ってますけど、でも…」

 パーシーは私の言葉なんて聞かずに腕を掴んで寮へ連れていきます。

 

「やあ…」

 もう片方の腕で捕まってた生徒が言います。ネビル・ロングボトムでした。

「スプラウト先生に用事を頼まれて…それで迷子になってたんだ」

「二年生でも迷子になるのですか」

「うん…そうみたい」

 ネビル・ロングボトムは心優しい人ですが、ドラコが彼を頻繁にからかっているせいで私からは声をかけられませんでした。私を恨んでいるかと思っていましたが、今の態度を見るとそうでもないみたいです。

 

「まったく。そろそろバレンタインだからか?浮かれてる生徒が多すぎる」

 

 パーシーはお冠でした。ネビルと私には無縁なイベントだとは思うのですがキレた監督生に口を挟むほど愚かではありません。

 

 寮に帰るとみんなが談話室にみっちりです。七学年分の生徒がいると流石に混み合っていますね。実は昨晩、レイブンクローの三年生、クリス・カートマンが襲われました。そのせいで生徒たちは原則寮で過ごすように命じられました。

 

 私はまあ、過ごしにくいです。

 三年生のコーマック・マクラーゲンあたりは未だに私を目の敵にしています。彼は顔はそこそこいいのですが、性格の悪さが滲み出ています。

 あ、ちなみに授業初日に私にちょっかいを出し…えーっと…気の毒な目にあったのが彼です。あれから直接ちょっかいを出すことはやめ、嫌味だけ言ってくるようになりました。

「マルフォイ、なんでカートマンを襲ったんだ?」

「さあ。顔も知らない人なんですけどね」

「実際のとこ、お前はマグル生まれが襲われるのをどう思ってるんだ?」

「別になんとも…」

「薄情なやつだ。コリンは君がやったんじゃないのか?」

「まさか。私が犯人だったらあなたを狙いますよ」

 マクラーゲンはヒューっと口笛を吹いて仲間と笑いました。やなやつです。ドラコも傍から見たらこんな感じなんでしょうか?だとしたら、私としては歓迎です。ドラコのことを好きなのは私だけのほうがいいじゃありませんか。ハッフルパフのディゴリーみたいに誰にでも優しくてみんなから好かれてたら毎日がつらいと思います。

 

 次のクィディッチの試合はグリフィンドール対ハッフルパフです。また犠牲者が出たら中止になるかもしれないので、キャプテンのオリバー・ウッドを始めチームメンバーは毎日これ以上犠牲者が出ないよう祈っているようです。

 ウッドのクィディッチ馬鹿具合は私ですら感銘を受けるほどです。

 私はスリザリンへの情報漏えいの危険があるため特別指名で練習の見物から閉め出されています。けれども差別やいじめをしているわけではなく、純粋に勝負へのこだわりが強いだけみたいなので私も納得しています。

 

 生徒も教師もみんなピリピリした中ですと、食事の時間もあまり寛げません。大広間だと特にそうで、生徒たちの不安を反映してか、天井では連日ゴロゴロ雷がなっています。

 私は中庭でご飯を食べます。他にも何人かそういう空気が嫌いな生徒たちがハンカチに包んだサンドウィッチやパンを食べています。

 

「ソフィアじゃないか。グリフィンドールから逃げたくなったのか?」

 

 エイドリアンが私を見つけました。彼はスリザリンにいよいよ居場所がないのです。無理もありません。ひねくれるあまり周りを攻撃し始めては、本来ならかばってくれる人も庇えません。

 

「あなたもね」

 

 私の言葉にエイドリアンはカチンときたのか、顔を強張らせました。

「この前の試合を見たか?あれで勝ちなんてむしろ恥だ」

 

 確かにドラコがスニッチを掴んだのは敵シーカーが試合中に眼鏡を壊してしまうという幸運のおかげかもしれません。チーム全体も寮生が襲われたせいか動きがぎこちなかったです。けれども勝ちは勝ちです。

 

「仕方ないでしょう。自寮の生徒が襲われたんですから」

「フレデリック・カートマン。自分は半純血だとか言ってたが本当はマグル生まれだ。当然の報いさ」

「こんな状況でマグル生まれを自称したくないでしょうからね」

 

 エイドリアンはばかにしたような口調です。スリザリン内でもビクビクしているマグル生まれはいるでしょうに。彼らのことを思うと気の毒でなりません。

 

「やけに()()よりなんだな。血を裏切るものの仲間入りでもしたくなったのか?」

「冗談を言っているつもりですか?笑えませんよ」

 エイドリアンは若干苛立ってきた私を見て煽りが効いているとでも思ったのでしょうか。調子に乗ってきました。

 

「ま、僕は純血にも罰されて然るべきものがいると思うけどね」

 

「決めるのは継承者です。あなたではないでしょう」

「どうかな。たとえばロングボトムを見ろよ。純血のくせにあの体たらく…それにクラップやゴイルもだ」

「………」

 私は特にコメントするつもりはありませんでした。誰が石になろうが死のうがどうだっていい私が、学ぶに相応しいかそうでないかを気にするわけないじゃないですか。

 

「僕は、全てうまくやってる…僕は、認められるべきなんだ」

「……そうみたいですね」

「なのになんでみんなまずはドラコなんだ?あんな小物…親が金持ちなだけなのに。どうして僕は彼らの仲間に入れないんだ?」

「兄は…あなたとは違いますから」

 

 私は昼ごはんを食べ終わったので立ち上がりました。エイドリアンは私を呼び止めます。

「なあ。ソフィア、そんなに兄貴が大切か?」

「ええもちろん。私は兄さえいれば何もいりません。兄のいない世界なんてぶち壊してしまうほど、兄が好きです」

「なんだ…それ。気持ち悪い」

「他人がどう思おうともなんとも思いませんよ」

「じゃあもしドラコが襲われたら?」

 私は鼻で笑いました。

「純血を襲う?それではスリザリンの継承者の名が廃りますね。犯人はわがままで幼稚なガキって思われちゃいますよ」

「ッ…!」

 

 エイドリアンは私の頬を叩きました。ちっとも痛くありませんけど、ここまで追い詰められている彼が哀れに思えてきました。

 

「そこでなにをしている?」

 

 声をかけられ、エイドリアンは逃げるように立ち去りました。近づいてきたのはスリザリンの寮監督、スネイプ先生でした。

 

「フリントとなにかトラブルか?」

「いえ…」

 私の顔を見て、スネイプは急に杖を出しました。私は思わず身構えます。スネイプは大丈夫だというように手を前にだしました。

「エピスキー、癒えよ」

 口の中に広がっていた鉄の味が消えました。口の中が切れてしまっていたんですね。魔法薬学の先生なのに呪文が大変お上手で驚きました。それに授業で見るときよりどこか優しげです。

「君はグリフィンドールの生徒であるから我輩の監督するところではない。しかしながら、マルフォイ氏とは懇意にさせてもらっている。困ったことがあれば言うといい」

「あ、ありがとうございます…」

 あのスネイプ先生から意外な言葉をかけられ、私は驚きながらも礼を言いました。スネイプは早く帰るよう告げ廊下をツカツカ歩いていきました。

 けれどもエイドリアンの減点をしないあたり、さすがです。彼の得点の付け方はそろそろメスを入れられるべきです。

 

 

 

 そんなこんなでイースターも終わり、グリフィンドール対ハッフルパフの試合の日がやってきました。ウッドの祈りは継承者に通じたようです。

 私はジニーと席について試合が始まるのを待ちました。しかし時間を過ぎても試合が始まりません。

 開始予定時刻から5分たって、マクゴナガルが拡声魔法で試合の中止を告げました。会場からはブーイングが飛びました。しかし観客席から出る生徒を先導するフリットウィック先生や(なぜかうきうきの)ロックハートを見て、みんなささやき合いながら怯え始めました。

 

 寮に帰りしばらくするとハリーはユニフォームのまま、ロンは顔面蒼白で帰ってきました。今回の犠牲者が誰か、みんなすぐにわかりました。

 

 夜にはマクゴナガル先生からお話がありました。今回犠牲になったのはハーマイオニーとハッフルパフの監督生だったみたいです。クラブ活動の禁止や夜間外出の徹底的取り締まりが告げられましたが、みんなやむなしと言った表情です。

 学校閉鎖の可能性も示唆されました。事態は相当深刻なようで、父から私とドラコへ特急フクロウ便で手紙が届きました。今晩にでも理事としてホグワーツに向かうと。手紙の最後には五十年前に秘密の部屋を開けたのはハグリッドで、あの獣に決して近づくなと書かれていました。

 ははは…。言われなくても用はありません。それよりも大切な情報が真ん中のあたりにありました。ダンブルドアは校長の職を追われるだろう…。ここです。

 

 ずっと待っていた瞬間が訪れようとしていました。

 

 

「ハグリッドが捕まったって…」

「ダンブルドアも消えたらしいよ」

「もうおしまいだ…」

 

 翌朝、生徒たちはみんな恐れていました。これまで何人襲われようと、どこか楽観的空気はありました。けれどもダンブルドアがいなくなった途端この有様です。やはり彼の存在はホグワーツにとって重要ですね。

 純血の生徒たちはそれなりに余裕があるみたいです。しかしスリザリンでは半純血を名乗っていたのに怯えだす生徒が続出しているらしく、寮内では密かに穢れた血ダービーが行われているとか。悪趣味ですねえ。

 

「いよいよって感じがするな」

「そうですね」

 ドラコは昼休みの時間、ほんのわずかな自由時間に私と話をしてくれます。

「兄さん…私怖いです」

 私は兄さんの腕に抱きつきました。

「……ソフィア、それ嘘だろ?」

「………」

 ドラコの言ういよいよと私のいよいよは全然違うでしょうが、ワクワク感はきっと同じです。ドラコは襲われることはないでしょう。そして周りがいくら襲われようと自分と仲間さえ無事なら笑っていられるでしょう。

 

「見たかったなあ。あのハグリッドが連行される瞬間!今頃アズカバンで泣きべそをかいてるだろうな」

「魔法省の方は本当にあのハグリッドが部屋を開けたと思っているんでしょうか?」

「さあね。父上は本当のところやつは部屋を開けてなくて、不気味な化物を学校にはなっただけという見方だ。でもどっちだっていいだろ。あいつがいなくなった!ついでにダンブルドアもさ。大切なのは結果だよ」

 ドラコの意見には同意です。過程なんてどうせ誰も気にしない。大切なのは結果です。

 

 

 

「ええ、きっとじきに秘密の部屋にいる…怪物ですか?それを捕まえますよ!もう手がかりは掴んでいますから!ねえみなさん」

 

 ロックハートは最近ずっとそんなことを言ってます。目立ちたがり屋もここまでくれば病気でしょう?問題は効く薬がない点です。

 彼の冒険譚の大部分は創作だと思います。彼の呪文の腕であれだけ危険な旅をこなせるとは思えません。かと言って全て創作にしてはディティールが細かすぎるのです。実際相対しないとわからないようなトロールの所作なんかは、読み物として面白かったです。腕の立つ同行者がいたのでしょうか。それともその人から話を聞いたのでしょうか。

 

「なんていったってわたしは化物の正体を知っているのですからね!」

 

 ロックハートの言葉がどこまで真実かはわかりませんが、嘘であることを願います。真実ならば捕まえに行って五分とも経たずに死ぬでしょう。

 

 ハリーはハグリッドと仲が良かったのでだいぶショックを受けています。ただでさえハーマイオニーが石化された直後です。その胸中を思うとこちらも胸が痛みますね。

 

 

「ソフィア…」

 

 談話室の隅で新聞を読んでいた私にハリーがこっそり話しかけてきました。

「この前言ってたよね。秘密の部屋が昔開かれたことがあるって…あれがハグリッドだって知ってたの?」

「まさか。知りませんでしたよ。私も驚いてます。でもハグリッドがやったとはとても思えませんね」

「そうだよね…あのね、ロックハートが化物の正体を知ってるって言ってるのしってる?」

「ええ。大嘘だと思ってますけど…」

 ハリーは周りを見回した後、一段と声を潜めて言いました。

「じつはハグリッドが捕まる前、ロックハートがハグリッドの小屋に行くのを見たんだ。その時僕らもハーマイオニーのことでハグリッドに会いに行こうとしてスネイプに捕まったんだけど…」

 私はほんのちょっぴり驚きました。どこからか情報をかぎつけたんでしょうか?ロックハートは救いようのない目立ちたがり屋で愚かですが、やはり頭は切れるみたいですね。思えば書店で私の追及をひらりとかわしたのもかなりの勘の良さでした。

「…ハグリッドはやっぱりなにか知ってて、ロックハートにそれを伝えたんじゃないかと思うんだ」

「ありえなくもないですね。…でもなんで私にそれを教えてくれるんですか?」

「こんなこと言ったら失礼かもしれないけど…君って何か、僕たちの知らないことを知ってそうだから。学校に危険が迫ってるんだ。僕とロンだけじゃきっと防げない…少しでも力がほしいと思って」

 

 以前兄が英雄気取りのハリー・ポッターとぼやいてたのを思い出しました。学校に危険が迫ってる、たしかにそうですがなぜ彼とお仲間でどうにかできると思うんでしょう。

 それが勇敢ということなのでしょうか?正義ということなのでしょうか?

 やはり私はグリフィンドールには合わないようです。

 

「私が言えるのは…ロックハートには近づかないほうが良いということくらいです。彼が何を知ってるにせよ…ろくな事にならないと思います」

 

 ハリーが私の忠告を素直に聞く気がないことはわかってます。ロックハートの情報元がハグリッドなら、すぐにマートルのトイレに向かうようなことはないでしょう。

 けれども時間の問題です。彼は蛇語が話せる。ということはあの入り口を簡単に開けることができるはずです。

 犠牲者が増えて闇祓いや専門家が押し寄せる前に手を打つとしましょうか。

 

 私は真夜中起き上がり、誰にも見つからないように校内を移動しました。

 

 そして一番最初のメッセージ

 

秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ、気をつけ

 

その下に新たなメッセージを書き残しました。

 

くだらないお遊びは終わりです

継承者の敵より

 

 そして上からレンガの模様を偽装します。

 あとはみんなが試験中に剥がれるようにすればいずれ誰かが見つけ、騒ぎになるでしょう。私はただ待つだけです。

 ああ、明日が楽しみですね。

 

 

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