兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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12.うそつき

「ロックハートが蜘蛛の大群に襲われた!」

 

 泥だらけのロンがそう叫んで大広間に駆け込んできて、あたりは騒然としたそうです。その時大広間にいた人数は大したことなかったのですが、その衝撃ニュースはまたたく間に全校を駆け巡り校内は大混乱。継承者を煽る落書きと相まって、ロックハートは継承者とやりあって死んだというニュースにすり替わったそうです。

 ちょうど私が寮に戻ってくる頃でした。ロックハートの安否について本気で心配している人は少なかったです。

 

 その後すぐ、生徒たちは寮から出ないように言い渡されました。なんと秘密の部屋の化物が死体で発見されたというのです。発見者は(後にわかることになりますが)ハリー・ポッターでした。

 ハリーの報告を受け、マクゴナガル先生ら寮監が秘密の部屋の化物ことバジリスクの死を確認。そして、そのときは伏せられていましたがエイドリアンが保護されたようです。

 

継承者の敵を名乗る人物が秘密の部屋をとじた。

 

 その正体がわからないまま、事件は中途半端に幕を引きました。

 

 

 私は牙に切り裂かれ大きな穴の空いたシャツを入念に引き裂き、薪の中に突っ込みました。目の前にあるハグリッドの小屋は無人です。

 

 ハグリッドは現在秘密の部屋とは別件で訴えられて勾留中の身です。まあ無理もないでしょう。彼がかつて森に離したアクロマンチュラがロックハートを再起不能にした犯人なのですから。

 50年も前のことというのもあり、アクロマンチュラを放したこと自体が罪に問われる可能性は低いです。ですがロックハートはそれじゃあ気がすまないでしょう。ロックハートの受けた傷は大変重いものでした。

 

 

 当日起きたことはこうです。ハグリッドの話を聞き意気揚々と森に行ったロックハートはアクロマンチュラの群れに出くわします。

 アクロマンチュラは自然界で見られる蜘蛛と異なり、蟻のように社会性をもつ生き物です。ハグリッドの元ペット、アラゴグはその群れのボスでした。

 ロックハートはハグリッドの名前を出し、秘密の部屋の在り処をなんとか聞き出そうとしました。しかしアクロマンチュラは実は人間よりも狡猾で賢い生き物なのです。アラゴグの話に聞き入っていたロックハートはいつの間にか蜘蛛の群れに囲まれていたそうです。

 ロックハートの後をつけていたハリーとロンが言うには、ロックハートは呪文をめちゃくちゃに乱射し、巣に火を放ち逃げました。しかし家を燃やされたらそりゃ誰だって怒りますよね。蜘蛛の群れは逃げるロックハートを追いかけました。

 アクロマンチュラの体躯は年齢により差があります。彼に襲いかかったのは群れの中でも小さな個体群でした。

 ロンは恐怖で駆け出し助けを求めに城に一目散、ハリーはなんとか救出を試みたものの、1メートル近い大きさの蜘蛛の大群にどうやって立ち向かえましょうか。

 フリットウィック先生が大急ぎで駆けつけたときにはロックハートは瀕死だったそうです。

 しかも悪いことに毒牙が顔面を切り裂き、彼の顔はしばらく人前には出せないくらいの損傷を受けたとか…。お気の毒です。

 

 その後アラゴグの話を盗み聞きしていたハリーは秘密の部屋の入り口を発見。危険を顧みずあの穴に飛び込んでエイドリアンを見つけたらしいです。にしてもあんな穴、よく入る気になりますよね。

 

 

「生徒一人で火を扱うのはいささか心配じゃのう」

 

 急に話しかけられて私は思わず杖を抜きかけました。証拠隠滅中、突然背後に気配を感じたら無理もないでしょう。

 

「ダンブルドア…先生…」

 

 内心の焦りが隠しきれません。驚きととってくれればいいのですが。いえ、現に驚いてはいるのです。ダンブルドアが今日から復職するのは知っていました。けれどもハグリッドの小屋に来るなんて…。

 

「ファングの様子を見てくれと頼まれておってのう。どうやらケトルバーン先生が随分かわいがってくれているようでの」

「そうですか。よかったですね」

 ファングってなんですか?とは聞けません。普通の動物でしょうか。

「ハグリッドももう明日には帰ってくるはずじゃ。ワシの予想だと薬で皆が目覚める頃には」

「めでたいですね」

 兄と父は喜ばないでしょうがね。

 

「今度から焚き火は誰かとしますね」

「それがよい。君とハグリッドはきっと仲良くなれる」

「へ?そ、そうですか…?」

「そうじゃとも」

 

 この人適当言ってないですか?ここに来たのもたまたまで、なんかそれっぽいことを言ってるだけなのでは?ダンブルドアはそう思っちゃうくらい邪気のない顔をしています。

 とはいえ油断はなりません。ダンブルドアが私が真犯人(素敵な響きです)だと気づいてたっておかしくない。だってダンブルドアなのですから。

 

「じゃあ戻ってきたら遊びに来てみます」

「それがいい。…では城にもどろうかの。ミス・マルフォイも一緒にどうじゃ」

「いえ、私は火の始末をきちんとしてから行きます」

「それは感心感心」

 ダンブルドアはほっほっほと笑っていってしまいました。

 

 私のしようとしていることをダンブルドアは是とするでしょうか?わかりません。彼ほど強力な魔法使いならきっと賛成してくれると思いたいですが、年寄りはどうも後ろ向きになる傾向があります。まだなんとも、わかりませんね。

 私は火を消して城へ戻ります。すっかり日常を取り戻したホグワーツへ。

 

 

 期末試験は最後までおわり、マンドレイク薬は完成。ハグリッドも戻ってくるとのことで、今年の修了式はお祝いムードでした。今年の寮対抗はなくなり、とにかく戻ってきた平和にみな祝杯を上げています。

 いいですね。こういうのは。

 ハリーとロンはもう百回は話したであろう蜘蛛の大群の話をせがまれて大変そうです。ジニーは熱のこもった眼差しでハリーを見ているし、コリンはバシャバシャ写真を撮っています。

 私は微笑みながらそれを眺め、料理を食べます。ああ、やっぱり味の濃い料理って美味しいですね。

 

 晩餐が終わり、いよいよ明日からは夏季休暇。ベッドルームではみんなトランクに荷物を詰め終え、おしゃべりに興じています。マリアが喋り疲れてウトウトしてきた頃、ジニーが切り出しました。

 

「今だから言うけど、私ね、ソフィアのこと怖かったの」

 

 ジニーが不意にそんなことを言いました。まあそうでしょうね。マルフォイ家の令嬢で、初手上級生暴行ときたら怖がられるのも無理はありません。

 

「なんていうか…普通の子だって思えなかったのよね。学校を一緒に歩いてるときとか、あなたは一度も迷わなかった。学校を歩き慣れてるみたいだったわ」

 あ、そっちですか。そんな、驚異的な方向感覚とかそういうふうには思ってくれなかったんですか?

「話題もなんだか無理して私達に付き合ってくれてるみたいに感じてた。でも、それも私の間違った印象よね。マルフォイの家の子だからって偏見を持ってたんだと思う」

「そう…ですか。無理なんかしてませんよ」

「今はわかってるよ。ソフィア、あなたは私の友達だわ」

「ええ。私もジニーのこと大切に思ってますよ。ルーナも、マリアも」

 これはちゃんと事実ですから。信じてくれますよね。けれどもジニーは本当に言いたいことがあるみたいで、真剣な面持ちを崩しません。

 

「だから教えてほしいの。……あの、私が持っていた日記…」

「………日記つけてたんですか」

「そうよ。せいぜい二ヶ月くらいだけど。でもある日失くしてしまったの」

「そうですか」

「ソフィア…あなたが持っていたりしない?」

「いいえ。どこで失くしたんですか?ベッドルームなら、夏季休暇中にしもべ妖精がみつけてくれるかもしれません」

「そうじゃないわ。なくした日はハロウィンの日…私が気絶した日よ。ねえソフィア、本当のことを教えて。あの日私は一体何をしていたの?あの日記は何だったの?」

 

 思っていたよりもジニーは私を疑っていたのですね。いえ、むしろこんなに疑ってても普通に接してくれていたのは、私のことを信じたいという思いがあってこそなんてしょうが。

 

「ジニー、あなたは階段で倒れてました。私はあなたを寮に連れ帰り、寝かしました。あの日はそう説明しましたね」

 ジニーは頷きます。

「あの時、あなたの服には血がついていました」

「そんな…じゃあもしかして私…」

 私はジニーの言葉を遮りました。

「あなたが何をしていたのか、私にはわかりません。その後しばらく、私はあなたがどこかに行かないか観察していました。ですが他の犠牲者が出たとき、あなたは普通に私達と話していたりベッドにいます。安心してください。秘密にしていたのはこれだけです」

「やっぱり…あの日記だわ。あの日記が…秘密の部屋を…私が落としたから…!」

 ジニーの顔は真っ青でした。そして縋るように私の腕を掴みます。

「ねえ、ソフィア…私…」

「犯人らしき生徒は捕まってます。あなたがやったのは壁の落書きくらいです。おそらく日記も闇祓い局に回収されているでしょう」

 私はジニーを抱きしめます。そう、何も悩むことはないんです。ジニーに罪はありません。

「みんなが帰ってきてよかったですね」

「うん…」

「もう大丈夫。危険なものはもうありません」

「うん…そうだよね…」

 

 私はジニーの口に金平糖を突っ込んでやりました。夜中に食べたら太るじゃないと怒るジニーと構わず食べる私で枕投げが起きそうになったのですが、眠りを妨害されたマリアの苦情により中止となりました。

 

 翌朝、列車に向かうときに私はドラコの姿を見つけ駆け寄りました。周りのスリザリン生が睨んでいる気がしましたが関係ありません。私はトランクをほっぽりだして飛びつきました。

 ドラコはよろめきながらも抱きとめてくれました。去年の入学式の日よりなんだか身長が伸びた気がして、逞しいです。クィディッチのおかげですか。

 

 列車に乗り込み、早速コンパートメントを占領します。車内販売が来たら何を買いましょう?家だと間違っても蛙チョコレートなんて食べれません。

 

 列車が動き出し、私達は自然と黙りました。ドラコがなにか言いたそうな顔をしていますが、なかなか切り出してくれません。仕方ないのでこちらから話を振りましょうか。

 

「秘密の部屋…」

 

 ドラコの肩がすこし震えました。

 

「解決して、良かったですね」

「ああ…そうだな。まさかエイドリアンが犠牲者になるなんて」

「あら。犯人って説もあるじゃないですか?」

 

 私の冗談にドラコは笑いませんでした。

 

「ソフィア。覚えているかな、書店で父上がウィーズリーの末っ子の鍋に本のようなものを入れたって話」

「ええもちろん」

「ひょっとして秘密の部屋に関係あったんじゃないか?」

「どうしてそう思うんですか?」

 ドラコは私を真っ直ぐ見つめました。私もドラコを見つめます。

「スリザリンの怪物だぞ、ソフィア。それがたまたま学校で目覚めるはずがない。父上がどこまで知っててウィーズリーに渡したかは知らないが、関係ないとは思えないさ」

 

 ドラコも勘がいいみたいですね。父と子で通じるものでもあるんでしょうか?それとも私、そんなにわかりやすいんでしょうか?

 

「ソフィアがウィーズリーから奪ってエイドリアンに渡したんだろう?」

「…エイドリアンが手帳を持っていたのを見たんですか?」

「ああ。ソフィア、彼は日記をつけてたんだよ。黒い革の…ソフィアが話してたような手帳に」

 

 あらまあ。人目につくところで日記に話しかけていたんですね。ジニーよりも隠し事が下手とは驚きました。しらばっくれることもできます。けれども、ドラコに嫌われてしまうかもしれません。

 

「そうですね。私が彼に日記を渡しました。けれどもあれが秘密の部屋に関係するものなんて、予想が付きますか?私はジニーと友達です。もしジニーに何かあったらとても悲しいじゃありませんか。かと言ってそのままあれを捨てて、父上のやりたいことが叶わないのも嫌です。なので誰かに渡すしかなかったのです」

 

 これは一つを除き嘘偽りない本心でした。ドラコも納得してくれたようですが、まだ引っかかるものがあるようです。

 

「……なんでエイドリアンなんだ?」

「え?当たり前じゃないですか」

 

 なんでそんなことを聞くんだろう?

 私は本気でそう思いました。

 

「邪魔だったでしょう?兄さんにとって」

 

 

 

 

 

 ソフィアの邪気のない笑顔を見て、ドラコは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 ソフィアの言ったことは事実だったからだ。エイドリアンは去年一年間、いつだってドラコの揚げ足をとって鬱陶しいことこの上なかったし、兄の威光を振りかざし、時にドラコよりも同級生たちに影響を与えていた。

 けれどもドラコはそれを不満に思ってるなんて一度もソフィアに漏らさなかったし、表に出さなかった。

 けれどもソフィアには見透かされていたんだ。透明な、ガラス細工のような瞳で。

 

 ソフィアはどこか、脆いところがある。

 たとえば笑ってるはずなのに、どこか影のある表情をする。

 ドラコはそれを見るとなんだか今までの楽しい会話や日々の積み重ねが、まるで砂浜に描いた絵のように、あるいは風が吹いたら散ってしまう花のように思えてしまうのだ。

 ソフィアはまるで、夕立のように突然で、虹のように偶然に、風のように気まぐれで、夜のように消えていく。凍てつくように悍ましいときがあれば、ふと消えてしまう初雪のように、儚い。

 

 なのに、抗い難い強さを持つ。

 

 だから、少し怖い。

 

 ドラコはそれを忘れていた。

 

 

 ドラコはソフィアを怖いと思った日のことを、唐突に思い出した。

 

 

 ドラコは7歳のころ、黄色いカナリヤを飼っていた。カナリヤはいつも小さな籠の中で狭苦しそうにしていた。羽を畳み止まり木と餌入れを往復するだけの小さな生き物。

 魔が差したのだ。ドラコは龍瘡で死んだ祖父の葬式が終わって数日、あまりに気持ちのいい空を見て、鳥籠から鳥を放ってしまった。

 

「あ…」

 

 空いてた窓から鳥が飛び立った瞬間、ドラコはそれが過ちだったと気づいた。せっかくいただいた鳥を逃してしまったと知れたら、父上も母上もさぞかしお怒りになるだろう。

 ドラコは大慌てで家を出て、鳥の飛んでいった方向へかけて行った。

 庭を抜けて、森へ。

 カナリヤは森の中の古くて大きな樫の木に止まり、羽を休めた。ドラコはなんとか捕まえようと、決心して木を登った。

 はじめての木登りの割にはうまく登れたと思った。カナリヤの止まる枝に辿り着いたとき、カナリヤは飼い主であるドラコを覚えていたのかチュンと鳴きこちらを見つめていた。

 

「大丈夫だよ、おいで」

 

優しく声をかけ、そっと手を伸ばした。カナリヤはちょんちょんと移動して、恐る恐るドラコの手をくちばしでつついた。

 

 いまだ!

 

 ドラコは手を思いっきり開き、カナリヤを捕まえた。しかしその瞬間、視界がぐらりと傾き体が宙に浮いた。

 

 頭と体に衝撃が走り、痛みに吐きそうになった。動けるようになるまでどれくらいかかっただろうか。とにかく、頭を上げてカナリヤを捕まえたはずの手を見た。

 

「あっ……」

 

 手からはみ出す鳥の足を見た瞬間、とても嫌な感触が掌から伝わった。ぐにゃりとしたゴムのような食感に、折れた小枝のような手触り。

 ドラコは恐る恐る手を広げた。

 羽の折れたカナリヤがひくひくと震えていた。

 

「そんな…!」

 

 ドラコは思わずカナリヤを手から振り払ってしまった。カナリヤは地面に落ちて痙攣している。羽だけじゃない、足も折れているし嘴から血がたれている。ドラコが落ちた衝撃で握りつぶしてしまったのだ。

 ドラコは吐きそうになってその場にうずくまった。

 

 僕がカナリヤを殺してしまった…!

 いや、もしかしたら父上が母上のもとに持っていけば、まだ助かるかもしれない。

 けれどもカナリヤを逃し、家を抜け出し、木登りをしたことがバレてしまう。

 体のあちこちがズキズキと痛いし、膝から血が流れている。頭がぐちゃぐちゃに混乱してきて、目から涙が流れてきた。

 

「にいさん」

 

 声が聞こえて、ドラコは縮こまった。

 目の前に立っているのはまだ6歳の幼い妹だった。

 

「はしってるのをみて、心配して追いかけてきました。……だいじょうぶですか?」

「だめだ、ソフィア…見ないでくれ」

 ドラコはとっさにカナリヤを隠さなきゃと思った。けれども視線を彷徨わせた途端、ソフィアにカナリヤを気づかれた。

 ソフィアは死にかけのカナリヤを拾い、まじまじと見つめた。

 きっと泣くだろうと思った。ソフィアはドラコの部屋によく来てカナリヤを見せてくれとせがんでいたから。

 けれどもソフィアは掴んだカナリアの首を握り、そのままへし折った。

 ぐったりしていた脚がビクンと跳ねて、動かなくなった。

 

「…どうして…?」

 

 ドラコは思わずそう聞いた。ソフィアは死んだカナリアの目を閉じながら答えた。

 

「なにがですか?」

 

 ドラコは絶句した。

 たしかに苦しませるよりはいいのかもしれない。  

 けれども本当にそれでいいのか?

 ドラコは目の前で妹が鳥を殺した事実と、それが自分のせいでもある事が心に重くのしかかり、何も言えなくなった。

 二人はどちらが何を言ったわけでもなく土を掘り、カナリヤを埋めた。

 手を繋いで帰る頃には、日が沈み始めていた。

 

 森の終わりに近づき庭の生け垣が見えたとき、ソフィアがポツリといった。

 

「でも、よかったです」

 

「よかったってなにが?」

「カナリヤがいなくなって」

 

 ドラコは立ち止まり、ソフィアを凝視した。

 

「だって兄さん、カナリヤが邪魔だったでしょう?もう、お世話しなくていいんですよ。兄さん、フンの世話とか全部嫌だったでしょう?」

 

「そんなことない…!」

「ほんとに?」

 

 ほんとに?

 

 キラキラ宝石みたいに光る目が、夕陽をうけて透き通る髪が美しかった。その美しさが、怖かった。

 

 ほんとに?

 にいさん、ほんとう?

 

 ソフィアは妹だけれども、僕とは見ているものが違う。

 同じ素材でできている筈なのに、別の生き物みたいに考えて行動している。それがわかった途端、背中に薄ら寒いものがはしった。

 解きかけたドラコの指を、ソフィアの細い指が絡め取った。

 

「にいさん…生き物は死んだらどこへ行くと思いますか?」

「わからない。母上は天国だっていうけど…」

「違います。死んでもその先には何もないんですよ」

 おそろしく冷えた声だった。お祖父様が死んでしまったばかりなのに。いや、だからこそなのか。何もないなんてあまりに寂しい。

「何かの本で読んだのか?」

「知っているだけです。カナリヤはただ、空を自由に飛び回って、それから死んだんですよ。にいさん。それはきっと……幸せなことなんです」

 

 ソフィアはなぜか泣いていた。泥だらけの足に涙が落ちた。ドラコを必死に追いかけたせいで傷だらけの足だった。

 

「ごめんなさい。わたしはにいさんのことが、大好きですよ。だから、にいさん。わたしのこと…きらいに…ならないで」 

 

 そう言って泣いたソフィアは風が吹いたら消えてしまいそうで、ドラコはただ頷いて繋いだ手を強く握り返すことしかできなかった。

 

 

 

 

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