兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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04.罪

 校内では今年度初のホグズミード行きの日程が掲示され、三年生より上の生徒はワクワクしています。私は来年なので関係ないのですが、ドラコがお土産を買ってきてくれるそうなので楽しみです。

 そんな浮かれた中、なぜかハリーだけはしみったれた雰囲気を出しています。

 

「保護者の人に許可、もらえなかったんだって」

 

 ジニーがこっそり教えてくれました。それはそれはお気の毒に。三年生で居残りはハリーくらいのものでしょう。彼は確かご両親を失くしマグルの叔母夫婦のもとで暮らしているんでしたっけ。あまりいい扱いを受けていないようです。寂しいハロウィンを過ごすのは可哀相です。

 

 私は授業後、ドラコと話す日以外はほとんど図書室にいます。そして自ずとハーマイオニーと同席し課題をこなします。

 ハーマイオニーは三年生になってからかなり勉強でてんてこ舞いらしく、いつも大量の課題を抱えていました。その量たるや、時に私の前に本の壁が築かれるほどです。

「なんだか最近疲れてそうですね」

 司書のマダム・ピンスが見当たらない時を見計らってハーマイオニーに話しかけました。ハーマイオニーははあーっと溜息をつきます。

「ハリーは暗いし、ロンはスキャバーズスキャバーズってクルックシャンクスを責めてばっかりなのよ。ストレスだわ」

「スキャバーズ…?」

「ロンのペットのネズミよ。ほら、私の猫にネズミが食べられるって大騒ぎなの。ずっと」

「ふうん…」

 クルックシャンクスのことは何度か撫でさせてもらったのですがロンのネズミのことは知りませんでした。猫がねずみを追うのは当然ですから、ロンには気の毒ですが籠にでもいれて大切にしてあげるしかないでしょうね。

「それに…勉強も…数占いが曲者だわ。ソフィア、もし来年受けるつもりなら覚悟が必要よ」

「なるほど、受けるのはやめておきます」

「それがいいかも。…あ、でもたしかグリンゴッツとかに勤めたいなら必須科目だったはずよ」

「将来の仕事ですか…まだ何も考えつきませんね…。ハーマイオニーはなにになりたいとかあるんですか?」

「私?そうね…魔法省で働きたいとは思ってるわ。でもそこで何をすべきか、まだわからない」

「そうですよね、まあ焦ることでもありませんし」

「ええ、その通り。それにしてもソフィアってホント達観してるわよね」

「いえ…あまり興味がないだけだと思います。兄さえ幸せならそれでいいので」

「ほんっとブレないわね。……ねえ、バックビークのことだけど…本当に大丈夫?あなたのお父さんが…」

「処刑?ありえませんよ。ただハグリッドについては知りませんね」

「そう…よね…。はあ」

 ハーマイオニーは物憂げです。ちょっとため息をついてから本を閉じました。

「まあなるようにしかならないわよね。…とにかく今日はこれでおしまい。ソフィアは?寮に帰る?」

「いいえ。もう少し調べものをしていきます」

「そう。じゃあお先に」

 

 ハーマイオニーが図書館から出たのを確認してから、私はカバンから黒い革張りの手帳を取り出しました。そう、トム・リドルの日記です。

 

 この日記はトム・リドルそのものといえるほど精巧に作られた‘’器"です。正確な名称をずっと調べているのですが、やはり生徒に開かれた書架では見つからなさそうです。こうなると禁書の棚に入る他ありませんが、2年生では許可なんてもらえないでしょうね。

 となると侵入する他ありません…が、鷹の目を持つマダム・ピンスの目を盗むには透明人間にでもなるしかなさそうです。

 

 窓の外を見ました。外はもう真っ暗です。マダム・ピンスがそろそろ出ていくように生徒たちに声をかけ始めるはずです。その前に談話室へ戻りましょう。

 談話室への道すがら、廊下の窓から外を見上げました。月明かりの中に吸魂鬼の影が見えたような気がしました。

 

 私は首元をさすります。バジリスクの牙を受けた箇所はなんの傷跡も残っていません。毒も体内にあるのか抜けてしまったのかわかりませんが、私の命を奪うまで至りませんでした。

 私の体がおかしいと気づいたのは6歳の頃でした。自殺に失敗したのです。なんで自殺しようとしたのか?まあいろいろありましてね。

 

 体にナイフを突き刺しても、血はやがて止まり、刃は自然と身体の外へ押し出されて傷が塞がります。首を吊っても苦しいだけでいつまでたっても死ねません。子供だからなにか失敗して死ねないと思い、泣いて嫌がるドビーに私を殺させようとしましたがそれも失敗したのです。

 

 もしかしたらバジリスクなら…とも心のどこかで思っていたのですが、結果は見ての通りです。

 

「……キス…か」

 

「キス?ソフィア誰かとキスしたの?」

「ひゃっ?!……な、なんだ、ルーナでしたか…」

 急に聞こえてきた声に驚いて変な声を出してしまいました。ルーナは土のついた顔を拭いながら言います。

「あたしはパパとママ以外とキスしたことない」

「私もです。…ルーナは…図書館帰りではなさそうですね?」

「ううん。罰則が終わって寮に帰るところだよ」

「罰則?何をしたんですか?」

「うーん……なんていうか……薬草学の授業で間違ってクソ爆弾を爆発させちゃった」

「……?なんでですか?」

「だれかがあたしのプランターに爆弾を混ぜたの」

「それは許せませんね。またロジャー・スチュワートですか?懲りてないようですね」

「別にいいよ。あいつも思いっ切り爆発しちゃってたし」

 ルーナをいじめてるロジャーはやっぱりちょっとどこか抜けてる人みたいですね。ルーナが平気そうならいいんですけど、もしかしたらまたナメクジに変えてやらなきゃいけないかもです。

「だから今のあたしとはキスしないほうがいいよ。ファーストキスがドラゴンの堆肥の味になっちゃうもン」

「忘れられない初キスになりそうですね。じゃあまた今度にしておきます」

「だね。じゃあねソフィア」

 

 

 ハロウィンの日の昼、上級生たちはみんなホグズミード行きの列車に乗るため駅に向かいました。

 もちろん私は前日にドラコに欲しくもないお土産をおねだりしました。(ええ、全てのイベントは私にとって兄に甘える口実です。いけませんか?)

 私はいつも誰かが座っている一番ふかふかのソファーにジニーと腰掛けなんでもないおしゃべりに興じました。そのあと私は図書室へ、ジニーはそのまま談話室で宿題を片付けることになりました。

 

 図書館へ向かう途中、打ちひしがれた様子のハリーが歩いてきました。いつもはハリーから気付いてくれるのですが、今日はまともに前を見れてないみたいです。

「ハリー、こんにちは」

「あ……ソフィア…」

 きっとギリギリまでマクゴナガルと交渉したんでしょう。あえなく散ってしまったようですが。

「散歩ですか?」

「あー、そんなこと。…一緒にどう?」

「構いませんよ」

 どうせ文献探しにも行き詰まっていたところです。それにハリーといればなにか新しいことが起きるような気もします。

 

 上級生がいないホグワーツは心なしかいつもより広く、静かで、過ごしやすいんですよね。ハロウィン当日の昼としてはいささか盛り上がりにかけるかもしれませんが、私は好きです。

 

「僕、去年のハロウィンパーティー行けなかったから楽しみなんだ」

「ああ…私もです。具合悪くなっちゃって…」

「ほんと?実は一年生のときも途中でトロールが来ちゃって最後までちゃんと楽しんだことがないんだ」

「じゃあなおさら楽しみですね。…絶命日パーティー、今年は誘われなくてよかったですよ」

「あはは…ニックも僕じゃ交渉役は無理って気づいてくれたみたい」

 散歩というだけあって特に宛もなく校内をふらつきます。廊下をいくつか歩いていると「ハリー?」という声が聞こえました。

 振り向くと、ルーピン先生が自分の部屋のドアの向こうからこちらを覗いていました。

「ハリーに、ソフィア・マルフォイさん。何をしているんだい?」

「散歩ですね」

「あー、うん。そうだね」

「ロンとハーマイオニーは?」

「ホグズミードです」

「そうか、なるほど…」

 ルーピンはちょっと悩んでからドアを私達に向けて開きました。

「ちょっと中にはいらないか?ちょうど三年生で使うグリンデローが届いてね」

「私もいいんですか?」

「もちろん。さあどうぞ入って」

 

 ルーピンの部屋は闇の魔術に対する防衛術の教室に隣接しているみたいです。いろんな道具があるせいで半ば準備室のようになっていました。ベッドは見当たらないし、本当に準備室なのかもしれませんが。

「お口に合うかな?ティーバッグの紅茶なんだけど…」

 私とハリーが興味深げにグリンデローを見ているとルーピンは椅子を指し、お茶を勧めました。ルーピンは朗らかに微笑みますが、どこか顔色が悪いように見えます。

「おいしいです」

「よかった。ほら、お茶の葉にはうんざりだって聞いたから」

「ありがとうございます」

 ルーピンは占い学のことを言ってるのでしょう。ハリーは毎回死の予言を出されていると聞きますから。私は来年絶対取りません。

「ソフィアも…そう呼んでもいいかな?紅茶で平気だった?」

「ええもちろん。ティーバッグのものはめったに飲みませんが、悪くありません」

「それはよかった。二人は仲がいいのかい」

「いえ、別に」

「はい…ってえ?!嘘、ソフィア…」

「え?普通の友達ですよね?」

 ハリーは目に見えてショックを受けています。私は事実を言っただけです。

「ハリー…チョコレートたべるかい」

「はい…」

「いや、嫌いとかじゃないですよ。でも特別仲がいいかと言われると…」

「まあ学校生活はまだ長いからね。これからもっとお互いのことを知っていくさ」

 ルーピンは優しく微笑み、ハリーにチョコレートを差し出しました。なぜハリーがこんなに落ち込むのか、まあ心当たりがないわけではありませんが。

 間をもたせるため私はルーピンに話を振ります。

「先生、2年生はなぜまね妖怪の授業をなさらないんですか?」

「ああ、まだ早いかと思ってね。学期後半にやろうと思っていたんだ」

「そうだったんですか。私、ずっといつやるかいつやるかと楽しみにしていたのですよ」

「楽しみとは勇敢だね。自分が一番怖いものが出てくるんだよ?…まあそのあとは面白いかもしれないが…」

「いえ、私自分が何を怖がっているのかわからないのでぜひともまね妖怪に教えてもらいたくて」

「ソフィア、こわいものないの?」

「思い浮かびませんね」

「はは、グリフィンドールに入った理由がわかってきたかもね。ソフィアは成績もいいし、どうだろう。まね妖怪と対峙してみるかい?」

「ええ。ぜひとも」

 

 隅のドアからお馴染みの闇の魔術に対する防衛術の教室に入ります。ルービンは授業中時折ゴトゴト動く洋箪笥を指さしました。

「あそこにまね妖怪を閉じ込めてる。いちにのさんで放すから、君は対峙して。ボガートは知ってのとおり笑いに弱い。やつが出てきたら思いっ切り滑稽な姿を想像して、そして唱えるんだ。リディクラス。言ってみて」

「リディクラスですね。大丈夫です」

「よろしい。では…」

 ルーピンは杖を振ります。すると洋箪笥の戸が3インチほど開きました。しかし隙間からなにかが出てくるわけでもなく、それだけてす。

 

「……あれ?」

 

 ハリーが首を傾げます。私は慎重に前に出て、取っ手を掴んで洋箪笥をこじ開けました。

 花の匂いがしました。リンドウの香りです。その香りに混じりかすかな腐臭がしました。そう、死にかけの人間の臭いです。そして同時に紙が震えるようなかすかな息遣いが聞こえてきました。

 

 洋箪笥の戸の向こうにあったのは、ドアでした。

 

 横開きのドアで、真っ白。大人の目線の高さに曇りガラスが嵌っていてその横に名札がかかっています。

 

「……………ぁ」

 

 私はそのドアがどこに通じているのか気付き、目を見開きます。

 私の恐怖は‘’これ‘’だったとは。克服したと思っても、何処までも罪と呪いはついて回るということですか?

 ドアがゆっくりスライドし、中から息遣いがはっきり聞こえてきました。

 

「ソフィア!」

 

 名前を呼ばれ、肩を掴まれました。体を後ろに引っ張られると、洋箪笥と私を遮るようにしてハリーが割り込んできました。

 

 そのドアは暗い渦巻きに変化した後、ボロを纏った人影…吸魂鬼の姿へ変わりました。ハリーが息を呑むのが聞こえました。

 

リディクラス(ばかばかしい)

 私が慌てて杖を振るうと、吸魂鬼はシュルシュルと解けてリボンになりました。

「二人ともどいて」

 ルーピンの声にかろうじて体を動かすと、洋箪笥の戸がバターンと音を立てて閉じました。

 

「ハリー、大丈夫ですか…?」

「ハリー!」

 ルーピンと私の呼びかけにハリーはウンウンとうなずきます。

「授業で僕をまね妖怪から遠ざけたのは…こうなるからだったんですね」

「ああ…まあとにかく座りなさい」

 ルーピンはハリーを助け起こして教室の椅子に座らせました。

 

「僕…」

 ハリーが何かを話し始めようとしたその時です。ドアをノックする音がして、誰かが部屋に入ってきました。

「ああ、セブルス」

 意外なことにノックの主はスネイプでした。手には煙を上げるゴブレットを持ってます。そしてハリーを見つけると険しい目で睨んでいます。

「どうもありがとう。二人に水魔とまね妖怪を紹介しててね…」

「ルーピン、すぐ飲み給え」

 スネイプはピシャリと言いました。無駄話なんてするつもりはサラサラないと言いたげです。

「はい、はい。そうします」

「一鍋分煎じた。もっと必要とあらば」

「多分明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」

「礼には及ばん」

 スネイプは本当にお礼なんていらないと言いたそうにそう言い放つと、ツカツカと歩いて教室を出ていきました。

「やはり体調が良くなかったんですか?」

 私が聞くとルーピンは少し困った顔をして微笑みました。

「まあね。このごろこの薬しか効かなくて…。私は昔からどうも薬を煎じるのが苦手でね、スネイプ先生が調合してくれるんだ」

「でも先生、スネイプの薬で大丈夫なんですか?」

 ハリーが本気で心配した様子で尋ねます。ですがルーピンは全然気にした様子じゃありません。

「これを調合できる魔法使いは少ない。彼と同じ職場で本当にラッキーだ」

 ルーピンはゴブレットを飲み干し、苦い顔をしました。

「砂糖を入れられたらな…さあ、ハリー、ソフィア。私は仕事を続けるとしよう。またパーティーで」

「はい」

 ハリーと私は礼をいい、退席しました。

 廊下に出るとまず私はハリーに詰め寄ります。

 

「なぜ、まね妖怪の前に立ちはだかったんですか?」

 

「ソフィア…近いよ」

「私があのまままね妖怪に襲われるとでも?だとしたらとんでもない侮辱です」

 私は精一杯ハリーに凄みます。ハリーは去年ボージンの店であったときより背が伸びているし、心なしか逞しくなった気がします。

「ごめん。ソフィアが…今まで見たことない表情をしてたから、つい」

「……私、そんな変な顔してました?」

「変な顔っていうか…うん、怖い顔してた」

「……それで庇って吸魂鬼なんか出して…まったく…理解に苦しみます」

「ごめん」

「…いえ、助けようとしてくれた事はありがとうございます。現にあれは…私も予想してなかった恐怖でした」

「あのドアって…いや」

 ハリーは聞こうとしてやめました。優しい人です。

「ルーピン先生、病気だったんだね」

「そのようですね。確かに先月末もなんだか調子が悪そうでしたし」

「スネイプの薬なんかで大丈夫なのかな」

「スネイプが毒を盛る…ありえない話ですよ。ハリーになら盛ってそうですけど」

「冗談にならないからやめて」

「ふふ…」

 ハリーと私はそのまま図書館へ行き、一緒に勉強しました。ホグズミードに行った生徒たちが帰ってくるころに談話室にもどると、ロンとハーマイオニーがハリーに鮮やかな包みの菓子を山ほどプレゼントしました。

 私もおこぼれでハーマイオニーからヌガーをもらって寝室に戻りました。寝室ではマリアがゴロゴロしながら雑誌を読んでいて、私が戻ってくるとハロウィンパーティーに行こうとせっつきます。

 

 

 

 

 私とマリアで階段を降りてくとパーティーに向かうたくさんの生徒たちと合流し、騒がしくなります。コリンはまたも写真を撮りだすし、ルーナのハロウィンを意識したちいさいかぼちゃの髪飾りが頭に思いっきり当たりました。

 大広間は何百ものろうそくに照らされ、荒れ模様の空を模した天井の吹き飾りを彩っています。なんて素晴らしい。食べきれないほどの料理はどんどん生徒たちの手によって空にされ、負けじと次々と色んな料理が現れます。

 去年出なかったことを悔やみました。ジニーも同じく、去年の分もと言わんばかりにパンプキンケーキを頬張っていました。

 

 パーティーが終わると、みんなお腹がいっぱいなのか、夢心地です。私もそうでした。みんなでベッドに潜りたい一心で階段を上りました。しかしなぜか寮の前が渋滞しています。私達の位置からはよく見えません。

「何?入らないの?」

 ジニーがちょっぴりイライラしながらいいます。ぴょんぴょん跳ねてると後ろの方からパーシーが人混みを掛け分けやってきました。

 

「まったくもう、通してくれないか!まさか合言葉を忘れたのか?」

 パーシーが人混みを割ってくれたおかげでこの詰まりの原因が私達にもわかりました。

 なんとグリフィンドール寮の入り口を守る太った婦人の肖像画がずたずたに引き裂かれていたのです。

 

 

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