『特別監査チーム』の存在は生徒たちにとってはぶっちゃけあまり影響がありませんでした。それはまあ当然です。彼らの組織された目的はハグリッドの退職であり、他に問題のある先生なんていないのですから。強いて言うなら胡散臭いトレローニーと、えげつない贔屓を披露するスネイプくらいでしょうか?
監査チームの方々はそれぞれ専門分野に近い科目を見学し審査するようです。他の学年の生徒は薬草学で魔法事故惨事部の大男か同席していたというし、魔法史にはアンブリッジがいたそうです。(ジョージ・ウィーズリーはピンクおばさんと言ってました)
私達の闇の魔術に対する防衛術の授業では闇祓い局のニンファドーラ・トンクスが控えていました。
ルーピンは今学期はバンシーの撃退法の授業をした後まね妖怪の撃退の実践をやると告げ、生徒たちはわくわくしていました。トンクスもなぜか普通に授業を受けています。
ていうかなんで二人組であぶれた子と普通に呪文を掛け合ってるんでしょうか…。おそるべきコミュニケーション能力です。
ルーピンも特に何も言わないどころか、いい質問をしてくるトンクスに対応しています。
授業が終わったあと、急にトンクスに話しかけられました。
「ね!きみがソフィア・マルフォイさんだよね」
「ソフィアですが何か」
「風の噂で聞いてたんだ。グリフィンドールに組分けされたマルフォイの子がいるって」
「ええ、まあ…だから話しかけたんですか?友達が待ってるのでもう行ってもいいですか?」
「あ、待って待って。違うんだ、あのね、私のお母さんとあなたのお母さんって実は姉妹なんだ」
「え…?」
私は困惑しました。母、ナルシッサはブラック家の出身で姉がいることは知ってます。その姉は死喰い人として捕らえられアズカバンに収監されていますが、彼女に子供はいなかったはずです。
「マグルのお父さんと結婚したせいで絶縁されちゃったんだけどね。だから私達、実は従姉妹なんだ」
「そう…だったんですか。従姉妹というのはなかなか新鮮ですね…」
真偽の方はおいといて、確かに絶縁されてても仕方がないかもしれないと思いました。マルフォイ家の周りにいる気取った連中の中でこんな陽気で親しみやすい人見たことありませんもの。
「急に言われても困るよね、ごめん。家風と違った道を行くあなたのことを聞いて嬉しくなっちゃったんだ」
「いえ…ええっと…じゃあニンファドーラ」
「私のことは絶対にトンクスって呼んで」
名前を呼んだ途端ものすごく冷たい声で返されました。そういえばダンブルドアに名前を呼ばれたときもこんな顔をしていました。
「トンクス…その、よろしく…?」
「うん!なにか困ったことがあったら言って」
トンクスはそう言って立ち去りました。遠巻きに眺めていたジニーは「面白い人だね」と月並みなコメントをしました。
さて、ハグリッドの方はというとユリカ・ケインズという魔法生物規制管理部の職員にかなり詰められているようです。ハリーやロンはご飯を食べながら彼女について文句を言ってますが、ハーマイオニーは違うようです。
「二人にはあんまり言えないけど……あの人の言うことはもっともだわ。ハグリッドには悪いんだけど……」
ハグリッドは監査チームにかなりメンタルを追い詰められているようです。ドラコはレタス喰い虫しか見ることのできない授業にノイローゼを起こしています。
「気が狂う!!」
まあ、自業自得です。
私はてっきりアンブリッジがハグリッドを詰めるのだと思っていましたが、聞いたところによると理事会のダンブルドア寄りの人が彼女をねじ込んだらしいです。
彼女は一時かの有名なニュート・スキャマンダーの下で学んだ事もあるらしく、ゆくゆくは魔法生物規制管理部全体を統括する責任者になるだろうと目されている人です。(まああの部署自体、権力とは無縁なのであまり意味のない評価もしれません)
ケインズはどうやらルーピンと面識があるようでした。以前ルーピンのいつもの体調不良のときに二言三言、なにかを話しているのを見かけました。
いい薬でも知ってるんですかね?その割にはスネイプとはあまり親しげではありませんが。まあスネイプと仲のいい人間なんてほぼいないでしょう。
「それで…バレンタインデーについてロミルダがずーーっとあのコナーに渡すって言ってるんだけど…やめたほうがいいよね。だってまだソフィアのこと目の敵にしてるじゃない?最悪だよねアイツ」
「ロミルダって面食いだからね…まったく、学生の本分は学業!」
「やだ、ジニー。それハーマイオニーのマネ?めっちゃ似てる…」
「……二人共、手が止まっていますよ」
マリアとジニー、三人で宿題をやっつけていると、談話室の向かい側で喧嘩する声が聞こえました。またロンがハーマイオニーの猫について怒っているようです。やれやれ。
「そういえば最近ハリーの姿を見ませんね。いつもならあの二人を仲裁するのに」
「あ〜…」
ジニーは言いにくそうに視線をさまよわせてから教えてくれました。
「ハリー、クリスマスにすっごくいい箒をもらったんだけどそれが匿名のプレゼントでね。それで、ハーマイオニーがそれをマクゴナガルに相談したら没収されちゃったの」
「えー?プレゼント没収とか酷くない?そんな権利いくら寮監でもないよ!」
「まあハリーはシリウス・ブラックに狙われているようですし仕方がないのでは?」
なるほど、傷心なんでしょう。まあ私も本気でシリウス・ブラックがハリーの命を狙っているとは思っていませんけどね。クリスマス休暇前、霜を踏んで遊んだあとのハリーとの会話を思い出します。
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「だってシリウス・ブラックはあなたのご両親の隠れ家をヴォルデモート卿に密告した張本人ですから」
その時のハリーの顔といったら、普段の彼からは想像できないくらい強張っていました。
「シリウス・ブラックは…死喰い人だったの?」
「いえ?父からそのようなことは聞いてません。ですが彼はポッター夫妻の隠れ家を密告し、友人を殺し、マグルもついでに殺した罪で投獄されています」
「ブラックは……僕の両親の仇なんだね?」
「さあ。当時の裁判は略式でしたし、濡れ衣である可能性も捨てきれませんよ」
私にとってはどうでもいいことですけどね。ですがハリーは怒りと混乱で煮立っていました。男の子は活気盛んです。
「でもブラックは僕を殺そうとしてる!」
「そうですね。だからこそみんなピリピリしているんです。…ハリー、ブラックを捕まえようとしているなら止めたほうがいいですよ」
「…どうかな。君のお兄さんの言うとおりかもしれない」
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ハリーは復讐するつもりなんでしょうか?どちらにせよ私には関係ありませんね。それにシリウス・ブラックに13歳の子供が太刀打ちできるはずがないのです。ロンあたりがきっと彼を止めてくれるでしょう。
そうして、平和に数週間が過ぎました。ハリーの箒はアンブリッジと監査官のブローノ・ダウニーのお墨付きにより返還されたそうです。
アンブリッジは不気味なほどにハリーに優しく接ししきりにファッジの名前を出すそうですが、ハリー自身はものすごく不審がっています。
「下手したら吸魂鬼より怖いかも」
たまたま廊下で一緒になったハリーが言いました。クィディッチの練習に行こうとしていたみたいで、ユニホームを着ていました。
「そしたらまね妖怪があいつになっちゃう。練習ができないよ」
「練習?」
「うん。ルーピン先生と守護霊の呪文の練習をしてるんだ」
「へえ。すごいですね」
ハリーはシリウス・ブラックへの恨みを忘れたかのように愛おしげに箒を撫でています。よかったですね。
「正直談話室にいづらいから二重の意味で助かってるんだ」
「ロンのネズミの件ですか」
「うん。まあ…」
実はロンのネズミがついにハーマイオニーの猫のおやつになってしまったようなんです。私は現場にいなかったのですが、その時のロンの怒鳴り声だけは塔中に轟いたとか。
「まあ、頑張ってください。次の試合はレイブンクローとですよね?そのすごい箒でシャイマの鼻っ柱をへし折り、砕き、均してやってください」
「そこまで?」
ハリーは笑いました。私もちょっと微笑み、クィディッチの練習場へ行くハリーを見送りました。
シャイマにはクリスマスパーティーで会ったエクリジスと名乗る少年についていろいろ聞きたかったのですが、なかなか機会がありません。結局トム・リドルの日記がどういったものか、ついに開架では調べるのに限界が来てしまいました。
禁書の棚に入るには寮監の許可が必要です。マクゴナガルからはまずもらえないでしょう。となるとスネイプあたりに頼むしかありません。ですがスネイプとは二年のときに話しかけられた程度で、授業でも日常でも全く交流がありません。こうなるとドラコにとってもらうのがてっとり早いかもしれませんね。
そのドラコはハリーが新しい箒をもらってちやほやされているのが気に食わないようです。
「ポッターのやつ、匿名で送られてきた箒を使うなんてね!どんな神経してるんだか…一年のときみたく制御が利かないかもしれないのに」
「兄さん」
「ん?」
「心配してるみたいになっちゃってますよ」
「え?あっ…!違う!あんなやつ落ちてしまえばいいんだ!」
「ふふ…」
ドラコはぷんすこひとしきり怒ってから咳払いします。
「ソフィア、あのケインズって監査官とは話した?」
「いえ…関わる機会がありませんから」
「そうか。ケインズはハグリッドに対して授業計画の提出と講習を求めるらしい。…ヌルすぎると思わないか?」
「アンブリッジは停職を強く求めているんじゃありませんか?」
「それがどこ吹く風らしい。父上に文句言ってやらなきゃ…」
「堅物というわけですか」
なんというか、見た目通りですね。親ダンブルドア派の最後の砦…っていうかこうやって見ると実は監査チームとやら、意外と公平なのかもしれません。(アンブリッジは例外として)
トンクスは生徒たちと年齢が近いのもあって、どちらかというとダンブルドア寄り。ケインズは中立。あのダウニーという人はよくわかりません。授業に同席していたこともあるんですが、特に何も喋らないし何もしませんでした。
さて、ハグリッドへの厳しい処罰がくだらないままグリフィンドール対レイブンクローの試合がやってきました。
今回はハリーがすごい箒(ファイアボルトとか言う名前らしいです)を手に入れたということで他寮の生徒もたくさん見に来ています。なので今日はドラコと隣に並んで観戦しています。
「さあやってまいりました、グリフィンドール対レイブンクロー戦です。本日は今学期最も注目されている試合と言っても過言ではないでしょう」
本日の解説者はグリフィンドール、フレッドとジョージ・ウィーズリーの友達リー・ジョーダンです。
「なんといってもグリフィンドールのシーカー、ハリー・ポッターの箒は今年の世界選手権大会ナショナル・チームの公式箒となる『ファイアボルト』!いやー遠目から見ても素晴らしさがわかりますね」
「ジョーダン、あなたは
「おっと失礼…さて、フーチ先生のホイッスルが鳴り響き、選手たちが飛び上がりました…なんてこった…ファイアボルト!!初速が違いすぎる!ところでファイアボルトには自動ブレーキが組み込まれており、さらに…」
「ジョーダン!」
「失礼。えー、今年度よりレイブンクローに加入したシャイマ・オリバンダーとハリー・ポッターは友達同士ということで、ひょっとしたら友情に亀裂が走るかもしれない試合ともなっています。…おっと!さっそくグリフィンドールのケイティ・ベル選手がボールを奪いゴールを目指しています!」
「何やってんだ!当てろよ!!」
スリザリンのキャプテンのバカでかい声が聞こえてきます。観客の目は空に奪われています。シュートが入り、グリフィンドールの席から大きな歓声が聞こえてきました。
「兄さん…」
「どうした?ソフィア」
私はグリフィンドールの優勢につまらなそうな顔をしていたドラコに話しかけました。ドラコは空を見ながら答えます。
「パーティーで少年を見ませんでした?どこかシャイマに似た」
「いや…」
「じゃあ、お祖父様の葬式ではどうです?」
「覚えてないな」
観客から歓声が上がりました。見るとシャイマの箒を追ってハリーが宙返りをし急降下し、ブラッジャーを避けたようです。
「ポッター選手、見事ブラッジャーを避けた!オリバンダー選手に引けを取らない曲芸のような飛行、本来彼のプレイスタイルとは離れていますが、ご覧ください!ファイアボルトの操舵の精密性は販売以前より大きなセールスポイントとして掲げられていましたが、この試合を見ればそれはもうすぐに…」
「ジョーダン!いつからあなたは箒のセールスになったのですか!」
この二人は漫才コンビとして上手くやっていけるのではないでしょうか。
「ソフィアがお祖父様の話をするなんて珍しいね」
「……そうですか?」
「うん。ソフィアは…お祖父様に可愛がられていたね」
私は黙りました。確かに傍から見ればきっと祖父はドラコより私をかわいがっていたのでしょう。
ドラコは何も答えられなくなった私の方を見ます。
またもグリフィンドールから歓声が上がりました。ここから近いレイブンクロー生はブーイングを飛ばしています。
みんなが空を見てる中、私とドラコだけが見つめあっています。ドラコの声はこの喧騒の中でも不思議と私の耳に入ってきます。
「ソフィア、僕が小鳥を逃してしまった日のことを覚えてる?」
私は動揺を隠すように心の中で3数えました。なぜ、そのことに触れるのか。なぜ、そんなことを思い出したのか。いろんな疑問が頭に浮かびます。そんな私が絞り出したのは、なんとも凡庸な返事でした。
「…そんなこともありましたね」
「僕はあのときのソフィアを、お祖父様が死んでしまって動揺しているんだと思ってた」
そう、たしかにそれは半分あっています。けど…
「でもそれだけじゃない。そうだろう?ソフィアはあの日、お祖父様と二人きりになってた時間があったよね。そのあとからずっと様子がおかしかった」
私は息を呑みます。その先を聞かないでほしい。お願いだから。
「お祖父様の病室で本当は何があったんだ?」
私の脳裏にまね妖怪が化けたあの扉が浮かびました。私の恐怖、それはあの扉の向こうで起きた出来事なのですから。
「お祖父様の病室で、ソフィア。君とお祖父様の間に何かあったんじゃないか?」
私は黙って兄を見ました。
いつになく真剣な兄の顔。一体いつから私にこんな疑問を抱いていたのでしょうね。
花のように可愛い妹にこんな詰問をするなんて、兄さんのバカ。
いや、馬鹿なのは私か。だって全然気づかなかったもの。
長い沈黙のあと、私は答えました。
「兄さんは先程私はお祖父様に可愛がられていたと言いましたね。それは違うんです」
周りの生徒たちが立ち上がりました。コートの上ではハリーが見事、シャイマの鼻先からスニッチを奪い取り試合を決めていました。
「お祖父様は私を心の底から蔑んでいたのです」