兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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炎のゴブレット
01.クィディッチワールドカップ会場


 あなたはいつも皮肉めいた笑みを浮かべてる。でも私は知ってるよ。あなたはどうしようもないくらい寂しかったんでしょ?

 その笑顔は、寂しさの裏返し。その斜に構えた態度だってそう。私、あなたみたいな人を知ってる。

 

「くだらない」

 

 私の目の前に座る彼の名前、ゲラート・グリンデルバルト。彼は秀才で私は天才と周囲から尊敬されていた。私は逆だと思うんだけどな。どうやら私は周りに勉強してないと思われていたらしい。

 ゲラートにはファンボーイがたくさんいたけど、彼の同志となれる人はあまりいなかったようで、よく私と二人で議論にも満たないおしゃべりをしてた。

 

「どうして僕ら魔法使いがかげでこそこそかくれていきなくちゃならないんだ?あのふざけた法律のせいだ」

「はじめは彼らを保護するためだったけど、いまや私達を閉じ込める檻だもんね」

「こんなの間違ってる。僕たちの世代が変えなきゃいけない」

 

 より大きな善のために

 

 そうあなたは言うけど、私にはなにが善とかわからないな。だってあなたの言う善は、あなたの善でしかないもの。

 結局ゲラートは学校に見切りをつけてイギリスに行っちゃった。私は少し、寂しかった。彼の理解者として振る舞ってたのにおいてかれちゃったんだもん。

 今にして思うと初恋だったのかな。まあ、いいか。どうせ彼にはついていけない。

 だって私はお父さんの夢を叶えなくちゃいけないんだもの。そう、7つの門を開くために呪文を手に入れる。

 

 私があなたと決定的に違うのはね。あなたは世界をとっても愛しているからこそ、間違った世界を正しい姿に変えたいと思っているところ。

 私はね、間違った世界を愛してる上で私の考える姿に変えてしまいたい。矛盾してるように聞こえるけど、愛は滅びの願いでもあるんだよ。

 

 そう、世界を変えるのはあなたじゃない。私が世界を変えるの。

 

 

 

 

 

 夢を、見ました。

 いつもの夢だったような気もするしそうじゃない気もします。もしかしたら両方だったのかもしれません。

 霧のかかったあの川辺で私はずっと何かを探しています。浮かぶのはモノリスのような黒い石版。けれどもそれ自体が欲しいわけじゃないのです。もっと何か…別の何かを痛烈に欲しているのです。

 夢が魂を持つものにしか見られない幻想なのだとしたら、私はもう少し胸を晴れるのですが、占い学の教科書にもそういうことは書いていません。

 私はベッドから起き上がります。なぜか体がとても重いので、しばらく膝を抱えてぼうっとしていました。

 

 そうだ、今日はクィディッチワールドカップに行かなくてはいけないんでした。

 

 

 

 クィディッチワールドカップの決勝戦、アイルランドVSブルガリアはいよいよ今日イギリスで開催されます。大注目の試合らしく一ヶ月以上前からテントの周りで待機している人やチケットのために犯罪に手を染めた人なんかも出たそうです。私はもともと興味がなかったのですが、ドラコがちょくちょく話してくれたおかげである程度はどれほどお祭り騒ぎなのかわかりました。

 でもそれって人がたくさんいる所に行くってことでしょう?いくらファッジ大臣直々のご招待で貴賓席でも憂鬱ですね。

 

 今日の試合は当然たくさんの同級生が見に来るそうです。シャイマはもちろんとのこと(知ったこっちゃないんですけど)ハリー、ウィーズリー一家とハーマイオニーも見に行くと手紙で話してくれました。

 トンクスは行く気まんまんでチケットをとったのに、ルーピンとシリウスの逃亡先がエジプトだというタレコミを受けたせいで帰れなくなったと嘆きの手紙をよこしてくれました。

 

 シリウス・ブラックとリーマス・ルーピンの行方はようとして知れません。親友同士手を取り合ってランデブーとは楽しそうでいいですね。

 新聞はせっかく脱獄したのに人一人殺さないシリウスに飽きてしまい、今はクィディッチワールドカップをめぐる汚職とバンド魔ンの恋の話題ばかりです。

 

 

どいつもこいつも飽きもせず、ゴシップゴシップ…ですよ。まあ見なければいいだけの話ですけどね?

 

マグルも魔法使いも昔からそこは変わらないね

 

だとしたら救いようのない話ですね

 

僕も夏休みのときはうんざりだった…まあご時世的にゴシップというよりは戦争のことばかりだったけど

 

マグルの孤児院とは地獄のような場所なんですね

 

君みたいな子じゃ一日ともたないね

 

でしょうね。行く気もありません

 

 

 トム・リドルの日記とは以前吸魂鬼の話をして以来、よくこうして話しています。私の心に踏み込もうとしてきたりハリーや兄のことを聞き始めたら即閉じるようにしていますが。

 流石というべきでしょうか。彼の会話術には人の興味をひくというか、独特の魅力を感じます。苛烈な純血思想で人々を煽り犯罪へ掻き立てたカリスマぶりは17歳のときから健在だったのですね。

 危険はないとは言い切れませんが、なんせ私には彼が乗っ取りすり減らすための魂が無い…もしくは欠けているというのだから、前より警戒しなくていいと判断しました。甘いですかね?けれども彼に乗っ取られるなら私にも魂があるという証明になるような気もします。

 

 

もちろん、だからって僕は彼らを排除すべきと言っているわけじゃないが…品がないものは好ましくないね

 

すべての人間が私のように品が良ければあなたもあんな愚行に走らなかったのに…

 

君はほんとうに好ましくないね

 

 

 

 ヴォルデモート卿の努力も虚しく、マグルは日々増え続けています。信奉者の皆さんにとっては残念なことですね。私は視界に入らない生き物の事なんて特に気にしませんけど。

 あ、そうか。だからドラコはマグル生まれの生徒が嫌いなんですね。見たくない世界から来た子だから。私は兄しか見てないのでわかりませんでした。

 

 

 

 さて、クィディッチに関しては兄も楽しみにしていたわけで、朝からテンションが高めでした。私はドラコが喜んでくれるなら毎日ワールドカップをやってくれていいとさえ思いました。

 楽しげにクィディッチ情報を集めていたドラコ。それを眺める私。完成された風景だったんじゃあないでしょうか?なんてナルシズムに浸りたくなっちゃいますね。

 

 朝食のとき父はドラコと私に言いました。

「今日、私はご要人がたに挨拶をしなくてはならないからね。ドラコとソフィアは約束の時間に魔法省の暖炉が設営されたテントにいなさい」

 

 母はとても心配そうな顔をしていました。クィディッチワールドカップのような騒がしい場所を…とくに分け隔てなく人が密集するような場所を…母は好みません。私達二人のことが心配でついこの間まで同伴しようか迷っていましたが、今になって行かないと決めたことを後悔してそうですね。

 

「わかりました、父上」

 

 とドラコはいかにも物分りが良さそうに言っていますが、実は私とドラコはこっそり早めにキャンプへ行って探検をするつもりなのです。

 

 その提案を聞いて私がどれだけ安心したことか!

 

 昨年度、私とドラコの間にはちょっとした緊張があったというか、ギクシャクしたというか…。とにかく、大変胃の痛い一年だったんですよね。けれどもこういう問題を一つ一つ乗り越えて行くのってなんだか本物の兄妹の絆っぽくて素敵ですよね?

 

 

「盗難防止呪文は?」

「完璧です」

「いざとなったら?」

「ドビーを呼ぶ」

「繋いだ手は」

「離しませんっ!」

「じゃあ今度こそ完璧だ」

 

 

 ドラコはとってもいいお兄ちゃんです。だから私は完璧な妹でいられる。ドラコの手は日に日に大きく、温かくなっていきます。私の手はすっぽりとドラコの手の中に納まってしまいそうです。

 

 私達は魔法省職員用の煙突で会場内に設営されている大会役員用のテントに辿り着きました。その向こうにはすぐにスタジアム入り口と、キャンプ会場への入り口があります。

 私達はせーのでキャンプ場へ足を踏み入れました。

 

「うわ…」

 ドラコが感嘆の息を漏らしました。騒がしいとは思っていましたが、実際に騒ぎの中に身を投じると耳だけでなく体全体で音を感じます。

「すごいですね」

「え?ごめん、なにか言った?」

「すーごーいーでーすー!」

 そこかしこから異国の音楽、流行りの音楽、誰かの喧嘩する音が聞こえてきます。これじゃ自分たちが何を歌ってるのかも分からなくなりそうなものです。

 少し歩くとテントがずらりと並んでいました。ベーシックなテントから、遊牧民のような広く優雅なもの、変わり種だとマグルの車なんかもあります。これらのテントはみんな空間が拡張されて、中は広く快適なはずです。マルフォイ家が所有していない数少ないものの一つですね。ただでさえ家は広いし、どこかにテントで泊まる必要はないので。

 

 私はドラコに手を引かれ、特に騒がしい開けた場所に行きました。

 

 露天には様々なものが売っています。クィディッチ関連のスポーツ用品はもちろんのこと、各国代表のフラッグやらのグッズ、公式ルールブックや解説本、そして応援用の爆竹や花火。観戦用オペラグラスなんかも棚から溢れんばかりに並んでいました。

 すごいのはその棚の前には常時お客さんがぎっちりということです。ダイアゴン横丁でもなかなか見ない盛況ぶりです。

 イギリスに閉じこもっているので忘れていましたが、そういえば世界は広くてたくさん魔法使いがいるのだと思い知らされます。

 

「このカオスな感じはめったに味わえないな」

「そうですね。…あ、兄さん。スニッチのレプリカが売ってますよ」

「うん…?純金製…?絶対に嘘だ」

「嘘たぁとんだ言いがかりだね、坊っちゃんよ」

 突然棚の向こうにいる店主らしき男が私達に向かってニヤニヤした笑みを浮かべて話しかけてきました。ドラコは一瞬ビビりつつも、毅然と言い返しました。

「こんな汚らしい出店に純金製なんて置いてるわけないさ」

「なんだと?マンダンガスさまの出店にゃちゃーんとしたもんしか置いてねえぞ」

「へえ?だったら今この場でスニッチを出してくれよ。うちには金製品なんていくらでもある。重さですぐわかるさ」

「フン。そんなの子供のでまかせだろ。渡した瞬間走って逃げる気さ」

「この僕がそんなことするわけないだろ」

「兄さん…そのくらいでいいじゃないですか」

「そうだよオイ、ダング。子供相手に本気だすなって」

 周りの小汚い男もそう言って店主を宥めました。どうやらこの一帯、胡散臭い出店ゾーンのようです。

「たしかにな。はやくパパママ連れてきな」

「父上や母上がこんなところに来るか!…いこうか、ソフィア」

 私はひと悶着が起きずにホッとしました。

 

 

「もう…兄さん、犯罪に巻き込まれたらどうするんですか!」

「ソフィアは心配性だな。あいつら、多分僕がマルフォイだって知ってたさ」

「え?」

「あのマンダンガスって店主、ノクターン横丁で見かけたことがある。僕と父上はああいう場所では目立つから、当然あっちも知ってたさ。ちょっとからかってやるつもりだったんだろう」

「なんと…」

 

「ソフィアもうかつになにか買おうって素振りを見せないほうがいいよ」

「わかりました。気をつけます」

 兄の意外な大人っぽさに私は思わずたじろぎます。どこか私のほうがおませさんな気がしてたのですが、どうやら間違いだったみたいですね。ドラコは父の背中からたくさんのことを学んでいるのです。

 そんなドラコの一面を発見できただけでものすごい価値があります。ありがとう、胡散臭い店主!

 

 私達は異国のパイプと水晶の売ってる店やエジプトのピラミッドから盗掘した可能性の高い呪いの品々、他にはマグル製品を使ったショーを見物し、父上が来る時間に慌てて魔法省のテントに向かいました。

 息を切らしてテントに入り、呼吸を整えます。お互い髪の乱れを直したりしてバレないように身だしなみを整えました。私がドラコの髪を仕上げると、父がちょうど仮設暖炉から出てきました。そんな私達を見て父は優しく尋ねます。

 

「冒険は楽しかったかい?」

 

 やはりぜんぶお見通しのようでした。私とドラコは顔を見合わせて苦笑いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ルーピンとブラックが逃亡するのを見逃した、とあなたはおっしゃるわけですね?」

 

 ドローレス・アンブリッジのとびきり冷たく険しい質問にダンブルドアは極めて穏やかに、いつも生徒たちに話しかける時と同じように返した。

「誤解があるようじゃの、ドローレス。我々は突如制御不能となった吸魂鬼への対応と、不運にも人狼へ変身してしまったルーピン先生を宥めるための応援とで混乱しておった。現に特に殺気立った吸魂鬼、彼らのうち何匹かは生徒たちへ襲いかかろうとした。教師の仕事は脱獄囚を捕まえることではなく、生徒を守ることじゃ」

 

 イギリス魔法省地下十階、ウィゼンガモット法廷。もっとも古く、広い法廷だ。本来ならば人々を虐殺するような大罪を裁くために使われるはずだ。しかしダンブルドアほどの魔法使いを呼び出すとなれば、このような大げさすぎる舞台もアンブリッジにとっては必要だったのかもしれない。

 

「セブルス・スネイプ先生は彼ら二人に襲われたと証言しています。加えて闇祓い局のニンファドーラ・トンクスが当日していた証言もあります。あれはまさにシリウス・ブラックとリーマス・ルーピンが共謀していた事を示しているのでは?」

 

 証人席にトンクスが現れた。彼女はダンブルドアの方をちらりとみてから息を呑み、証言を始めた。

 

「はい。ルーピン先生とブラックは暴れ柳の下にある通路でスネイプ先生を襲いました。間違いありません。ですが、アンブリッジ女史は一つ重要なことをお忘れになっています」

「なんですか?」

「その時、彼ら二人の隣にはハリー・ポッターがいました。その事をどうかお忘れなきよう」

 

 陪審員たちはヒソヒソと囁きあった。アンブリッジは露骨に顔を顰めた。

 

「シリウス・ブラックはハリー・ポッターを殺すつもりはない…?」

「それでは昨年度の吸魂鬼配備は無駄でしたな…」

 

「皆さん、静粛に。いまの論点はダンブルドア氏がホグワーツの校長として万全の対策をしたかどうかです。趣旨から外れる答弁は控えてくださいますよう」

 裁判長アメリア・ボーンズの一言であたりは静まった。アメリアという人選そのものもこの法廷同様あまりに大袈裟だった。表向きは単なる尋問だがことを荒立てたいというアンブリッジの意志がありありと感じられる。

 

「それで言うならばやはり、魔法生物部のユリカ・ケインズの件は触れねばなりませんね。彼女は心神喪失で未だに聖マンゴから出てこれませんわ」

「その日、ケインズ氏はなぜホグワーツへ行ったのでしょう?」

 その声に聴衆の一人が手を上げ発言した。ケインズと同じ魔法生物規制管理部のエイモス・ディゴリーだ。

「ケインズはその日出勤しておりましたが、昼頃に“監査チームの件で”と出かけていきました」

「アンブリッジ氏はその件を把握していなかったのですか?」

「ええ。仕事は完全に終わりました」

 アンブリッジの返事を繋ぐように、トンクスが発言した。

「えっと、その件についてはケインズが嘘をついたのだと思われます。私はケインズとホグワーツに行きましたが、その際私は“私用”でと上司に報告しました。その後ホグズミードでばったり会ったときに彼女は“個人的に気になることがあって”と同行したのです」

「トンクス、あなたの私用とは?」

「はい。私はルーピン先生を疑っていましたので…まあ今となっては彼の体調の問題だったとわかったわけですが…彼とシリウス・ブラックが接触すると睨んで学校へ」

「なるほど。ケインズから詳しい事情は聞きました?」

「いえ…ただ“念願が叶うかもしれない”とか“謎が解けるかもしれない”とは言っていましたが、なんのことやら」

 

「ダンブルドア校長は二人の来校をご存知でしたか?」

「来校時、しもべ妖精より報告は受けておった。しかしながらケインズが禁じられた森の奥深くで何をしていたのかは知るよしもありません」

「…話を戻しましょうか。私用できた二人について、ダンブルドア校長がすべての責任を負うというのは無理のある理論でしょう。ですが、やはり人狼化した教師に生徒と教師が襲われた件に関しては、安全対策面で問題があるといわざるを得ません」

 

「ですが昨年度、魔法省は授業中の生徒の怪我がきっかけで特別監査チームを設立しました。これは魔法省がホグワーツでの安全対策について責任の一端を負ったと言ってもいいでしょう。故に、この件に関しては引き続き監査チームによるさらなる安全対策の強化により解決すべきではないでしょうか」

「は?」

 

「今年は取り分け、安全対策が必要なイベントがあります。どうでしょう…そのイベントの間、アンブリッジ女史が再びホグワーツで監査をするというのは…」

 

 アンブリッジのゆるんだ顔がじわじわと焦りに変わった。これは昨年度のホグワーツへの干渉とはわけが違う。国際魔法協力部と魔法ゲーム・スポーツ部主導の三大魔法学校対抗試合のために出向で更に一年間もホグワーツにやられるなんて、魔法法執行部の人間にとっては出世の回り道だ!

 

「なるほど、わしとしてもアンブリッジ女史に来ていただければ安心じゃ。歓迎いたしましょう」

 

 しかしながら、この厳かな法廷でNOといえるほどアンブリッジ自身、雰囲気に流されないような強い芯は持っていなかった。

 

「ええ……けっこうです。ファッジも…そのほうが安心いたしますわね…!」

 

 

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