さて、クィディッチワールドカップについての内容は今更私が触れるまでもないでしょう。その後に起こった可愛らしい暴動についても、死喰い人の親を持つものからすればある種の予定調和ですからね。
もっとも注目するべきはその際夜空に打ち上げられた【闇の印】でしょう。というのも、例のあの人の印を空に浮かべること自体がテントに面白半分に火をつけたりマグルをいじめることよりもよっぽど重い犯罪だからです。
そんな印が上がれば試合会場にいた魔法省の人間に加えて非番の闇祓いまで飛んできます。父たちが同窓会のノリでそんなことまでするかは疑問です。
まあもしかしたら父とノリの違う元仲間が冷水をぶっかけるために打ち上げたのかもしれませんが…。
そんなことを知らない世間様は大騒ぎ。新聞にはでかでかとその時の写真が載っています。
「趣味悪〜」
その写真を見てマリアが笑いました。
「ねえソフィア。なんで悪い人って魔法使いとか関係なくドクロとか蛇とか好きなのかなあ?」
「古くから不吉なものとして描かれていましたからね」
「でもそういうのってようするに使い古されてるじゃん?なんかダサいよね?」
「ん…まあ…そうですね」
父の腕にはこの印が刻まれてるので、あんまり強く言えません。マグル生まれのマリアにはこの印の下に必ず死体があったという恐怖が伝わらないので仕方がないのです。
「ね、ジニーも見たんでしょ?」
マリアはそばで今年の占い学の本を読んでいたジニーに話しかけました。ジニーはちょっと困ったような顔をして本を閉じました。
「すごく遠くからね。正直形はよくわからなかった」
「なんだ」
「ほんとに大変だったのよ?ハリーは一瞬逮捕されかけるし…」
「え?なにそれ初耳」
「なんでもあの印を打ち上げたの、ハリーの杖らしくて…落としたのを悪用されただけなんだけど、大変だったみたいよ?」
「ほんと?ハリー!ハリー!」
マリアは躊躇いなくハリーを呼び出しました。そういうところ、少し羨ましいです。
ハリーは私達のいるソファーの更に奥にいましたが、マリアの呼びかけに答えてわざわざ来てくれました。
「ごめん、今大丈夫だった?」
「ああ、うん別に。どうかしたの?」
「あのね!クィディッチワールドカップのあと、闇の印が上がったでしょ?ハリーが犯人って疑われたってほんと?」
「ああ、うん。変な男の人が僕の杖で印を打ち上げたんだ」
「その人捕まってないの?」
「そうみたい。顔を見たのも僕だけだし」
「えー、じゃあシリウス・ブラックじゃなかったんだ。あたしの推理ハズレだ」
「シリウスは…」
ハリーはそう言いかけてから苦虫を潰したような顔をして言い直しました。
「ブラックじゃないよ」
「とにかく…その場にいたのは僕とロンとハーマイオニーだけだった。…あ、あと屋敷しもべ妖精のウィンキーもいたな」
「屋敷しもべ?どこの家のです」
「クラウチ氏の」
「ああ」
バーティー・クラウチのことはまあまあ知っていました。将来の大臣と目されていたけど息子が馬鹿だったばっかりに失脚したかわいそうな役人です。彼の息子のおかげでうちの父は牢獄行きを免れたと思っています。
「学校が始まる前から大変な目にあったよ。…って割といつものことかも」
「でも去年と違って今年は楽しみだわ。クィディッチがないのはすごく不満だけど」
ハリーとジニーは息を合わせて言いました。
「三大魔法学校対抗試合!」
「えー。でもあたしたち参加できないしィ…」
「あら、マリアは参加したいんですか?」
「え?うーん。参加したいわけじゃないけど…七年生の友達とかいないし、もし誰か選ばれても応援に身が入らないなって」
「なるほど。それもそうですね」
「でも楽しみだな。他校の人と会う機会なんて滅多にないし」
「ね!あたしも楽しみー!」
「ワールドカップにもたくさん外国の魔法使いがいてすごかったよ」
「いいなーー」
与太話に発展しそうだったので私は一足お先に寝室へ向かうことにします。寝室にはあまり人がいませんでした。みんな談話室で三大魔法学校やら新しい闇の魔術に対する防衛術の“マッドアイ”ムーディーについて話すのに忙しいようです。
まあ今年は私にはなんともないはずです。そうでなければもう学校生活めちゃくちゃですよ。
「三大魔法学校対抗試合…まさか17歳未満が参加できないなんて!!」
初日の授業が終わって私はスリザリンの席で兄のとなりに座っていました。新入生が赤いフードを見てびっくりしています。でもそんなの知るもんですか!グリフィンドールのマルフォイは人の目を気にしないのです。それにどうせ私が何なのかそのうち知ることになります。
ドラコの愚痴を聞くことが私の最大の娯楽です。
「兄さん、でれたらでるんですか?」
「そりゃそうだろ」
「じゃあ私もでます」
「ソフィア、そういうの好きだったっけ」
「いいえ、ですが兄さんの一助になるなら…」
ドラコは私の冗談に笑いながら言います。
「出場者は一校につき一人だ。そういうルールなんだから」
「はあ、つまらないですね」
どうせなら何十人も集まってバトルロイヤル形式でやってほしいものです。そうすれば私も多少本気を出しても問題なかろう?ですよね。クィディッチワールドカップでわかりましたが、祭りは賑やかな方がいいですからね。
「少なくとも、伝統行事に参加できるのは貴重な体験だよ…」
と、ここでドラコの目が怪しく光りました。この感じ覚えがあります。ハリーを見つけたときの眼です。やばい、ドラコってばハリーと絡むと100%ろくでもない事になるんですから。
「兄さん、ねえ」
「…えっ?なんだソフィア」
「私を見て」
ドラコはハリーの方へ奪われかけた視線を私に戻しました。そしてほんの少しだけ怯えます。隠そうとしても、だめ。兄さんはやっぱり私がまだ怖いんです。
でもドラコの気持ちをどうこうするなんて私にはできません。だから、お願い兄さん、嘘でもいいから笑って。
「いまは私がいるでしょ」
「……ソフィアは本当に、かわいい妹だな」
「……えへっ」
そんな私を滑稽だとトム・リドルは笑います。文でしか感情を表現できない彼は、わざわざ笑い声を文字にしてきます。そっちのほうがおかしいっていうのに。
トム・リドルの学生時代は、以前手に入れたブリジット・キンブリーの写真に書かれた“ステュクスダイブ1942”とやらと被っています。彼にその言葉に覚えはないか聞きましたが、空振りでした。
名前からして神秘部の実験かなにかのようだね。一応卒業後こないかと声をかけられたが…神秘部なんかとの繋がりはそれくらいだ。今のぼくは知らないけどね
まったく役に立たないガラクタだこと。壊し方を探したほうがいいかもしれませんねえ。
さて、二日目の授業はいきなりマッドアイです。
彼の右眼には魔法の義眼が嵌め込まれているのですが、私に変に反応しないか不安ですね。なにしろ私は人でなし(文字通り)っぽいので。
案の定、授業初回からやれ「呪文をやってみろ」「呪文をかけられてみろ」だのハラスメントの嵐です。ああ…このままじゃ私も父に泣きついてしまいそう。でもそれも無理ですね、なんといってもマッドアイことアラスター・ムーディーは死喰い人殺しの達人です。
言うなれば父の天敵。父の影がちらつけばおそらく脅しどころか水を得た魚のようになるでしょう。
「ソフィア・マルフォイ。父親よりも、母親よりも、そして兄貴よりもうーんと狡猾そうだな。帽子は入れる寮を間違えたのか?」
「いいえ…自分から…」
「ほう!ならば当然勇敢であるべきだな?これで友達に呪文のかけ方を教えてやれ」
「え…ちょ…毒虫を…毒虫を近づけないで!近づけないでください!!」
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げっそり…。
でもこんなことで挫けません…。いやどうかな。やや挫けそうです。
「嫌われたものね」
「ジニー……助けてくださいよ」
「でもソフィアをいじってくれてるおかげで私達楽だわ」
「ま、まさかジニーが味方じゃないなんて…」
「味方よ、味方。ただしもちつもたれつ」
三年生ともなると私達も余裕たっぷりに振る舞えます。中庭のベンチを占領し、あれこれとおしゃべりに花を咲かせました。そうしているといつのまにか仲良しが数人集まってます。
3年生内で今流行っているお菓子だとか、ホグズミードに行けない不満だとか、女の子が複数人集まればお喋りが絶えることはございません。
「それでね。なんかフレッドがこっそりゾンゴの品を取り寄せてくれるって話なんだけど…」
「私聞いてないわ。ママが聞いたら怒りそう」
「言わないでよ、ジニー。私惚れ薬を絶対入手する!」
「ああいう店のはせいぜい数時間しか効果ないでしょう」
「それでもいーのー!そうでもしないとコーマックは私に振り向いてくれない」
「ちょっと、マリア嘘でしょ?やめときなさいよあんないじめっ子」
「でもハンサムなんだもん」
「ずっと思ってたんですがマリア、あなた男の趣味が悪いですね」
「えー、ブラコンのソフィアにだけは言われたくなーい…」
「は?私のドラコへの愛はそんな言葉に収まりきらないほど深く広大ですよ」
「げー」
「そんな…ジニーまで…」
私はしょんぼりです。私のドラコへの思いは確かに兄妹としては重いですから。でもいいんです。誰に理解されようとか、そんなこと思ってませんから。
さて、ついにボーバトン、ダームストラングの生徒たちがホグワーツにやってきます。ドラコはしきりにダームストラングに入学を考えていたことを話します。止めてほしいです、だって私がダダ捏ねて床を這いつくばって泣いて止めたのもセットで吹聴されるんですよ。
まあ聞いた人みんな「ああ、あの妹ならやりそうだね」とすんなり納得してるんですが…。
ボーバトンに関してはあまりよく知りません。フランスにあるらしいことしか…。まあさぞかし鼻高々のいけ好かない連中なのでしょう。え?私みたいに?ふふ…。
パーティーが始まる直前、私は驚きの人物と出くわしました。
「え…ミス・アンブリッジ?」
「あら。ソフィア・マルフォイさん」
横にいたジニーはノーリアクションでした。まさかアンブリッジのことを覚えていない…?そんなはずは…
「お久しぶりです。もしかしてパーティーにご出席なさるんですか?」
「ええ、まあ。そんなところね」
アンブリッジの歯切れはやたらと悪いです。招待客とかではなく仕事で来たんでしょうか?なんでそんなに居心地悪そうなんでしょう。
生徒の殆どからよく思われてない…ということはきっと気にしてはないはずです。魔法省内部でなにかあったのかもしれませんね。
なんだか変な間が空いてしまったので、私は仕方なく世間話を振ります。
「ええと…アンブリッジさんはどこが優勝すると思いますか?」
「え?そうね……ホグワーツと言いたいところだけど。さすがにダームストラングじゃないかしら。クィディッチのビクトール・クラム選手が選ばれるでしょうし」
「クラム」
突然ルーナが声を発しました。
「クラム、あの石像みたいなのに素早い選手だ」
「ああそうなんですか」
「あら、ソフィアさんはワールドカップはあんまり面白くなかったかしら」
「ええまあ。スポーツってあんまり…」
「そう。でも今回は体だけじゃなくて頭脳も使いますからね、きっとソフィアさんの興味を引くわ」
「クィディッチも頭使うってジニー言ってたよ」
「ええまあもちろんどんなことでも頭は使いますけど…」
アンブリッジはルーナに対して「なんだこいつ」と言いたげな視線を投げかけていますが、そんなの気にしないのがルーナのいいところです。
「とにかく、何事も興味を持って取り組んでみてほしいですわ。それでは…」
アンブリッジはどこかとぼとぼと去っていきました。ご自慢のピンクも少しくすんでるような気がします。
「あの人、マッドアイと相性悪そうだね」
「ああ、たしかに。でも私はアンブリッジとマッドアイなら断然あの人に先生をやってほしいですよ…」
「あたしはマッドアイ好きだもン」
「なんですと。う、裏切りもの〜」
パーティー直前のみんなのふわふわ感と言ったらもうあてられそうなくらいでした。アンブリッジを見かけたことを伝えると、ハーマイオニーはとても渋い顔をしました。
「私、どうもあの人とは永遠にわかりあえそうにないの」
「でしょうね」
「ま、あのガマガエルがいようがいまいが、最高に楽しめることは確かさ!」
珍しくロンが会話に割って入りました。
「まさか君の兄貴はズルしてエントリーしようなんて思っちゃいないよね?」
「そんな危険なこと私がさせるわけありません。死者が出たことだってあるんですよ?」
「それは…何百年も前のことだろ?僕はなんとしてでも出るぞ!」
「はあ…」
男の子ってこういうもんなんですか?全然心躍りませんよ、私は。
「無理に決まってるでしょ?あのダンブルドアがそう言ってるんだから…」
ハーマイオニーとロンはあーでもないこーでもないと口論を始めました。やれやれ。仲のよろしいことで…。
「…おほん。ソフィア、なんだか久しぶりだね」
「え?ああ…そうですね。ドタバタしていましたもんね」
ハリーとちゃんと話したのってクィディッチワールドカップについてマリアが聞いた時以来ですかね。しかもそれ、私はほとんど話してないですし。
学期が始まってから私はムーディーのシゴキやらなんやらで疲れて引きこもっていたので、談話室にもあまり顔を出していません。なのでハリーとちゃんと話すのは久しぶりです。
「そっちはムーディーに気に入られてるようで、羨ましいです」
「気にいられてる…のかな?まあソフィアに比べたら好かれてるかも」
「うう…兄さんですらここまで絡まれてないのになんで私だけ…」
「ソフィアに特別なものを感じたんだよ」
「じゃあとくべつ可愛がってくれてもいいじゃないですか。逆贔屓ですよ」
「同じクラスならかばえたかもしれないんだけどね…」
「えー、それなら私はスリザリンに行ってましたよ。あーあ…グリフィンドールに行きたいなんて言うんじゃなかった」
「え?ソフィアも自分で寮を選んだの?」
「ええ、まあ…。ハリーもですか?」
「うん。帽子はスリザリンかグリフィンドールで悩んでたんだけど、僕はスリザリンは嫌だって唱えてたんだ」
「そうなんですか」
私はなんでしたっけ?振り分けられないとか言われた気がします。あれは私が死ねない体だからだと思ってたんですが…今思うともっと深い意味があるような気がしますね。
「なんだか嬉しい、ソフィアと同じで」
私は不審な日記を持ってるジニーを観察したかっただけで同じではないと思いますが…まあそういうことにしておきましょう。ハリーの心の清らかさには私、時々たじろいでしまいます。
「で、ハリーはロンみたく年齢制限を突破してでも試合に出たい…とか思ってます?」
「そりゃ参加はしてみたかったけど、ぼくはもう完全に観客モードかな」
「よかった、ハリーは常識的で」
「なんかハーマイオニーに似てきたね」
「なっ…それは…なんか微妙ですね」
そんな雑談をしているうちに、いよいよ宴が始まります。
今年こそ、何も起きなければいいですよね?けれどもこんな大きなイベントを前にしてそんなことを祈るほど、私は馬鹿じゃありません。