「一体どうなっている?八人だって?!聞いたことがない!」
「ああ、前代未聞だ!まったく、警備はどうなっていたんだ」
クラウチが苛立った声で怒鳴ると、アンブリッジが肩を震わせました。そして絞り出すような声で返事をします。
「警備は……その……まさかこんな……」
しどろもどろになるアンブリッジを見てバクマンが頭を抱えて叫びます。
「一体誰がこんなことを仕組んだ!?こんなことしてなんになる!!ずっと前から準備してたっていうのに!」
「私達、このようになるなど聞いていませーん!厳重に抗議します」
おやおや。大人はてんやわんや。熱気のあまり、私はのぼせてまいりました。選手たち八人と関係者一同でお部屋が狭いですしねえ。
そう、ゴブレットに選ばれし八人の代表選手というこの超異常事態に大広間は大荒れ、運営は大慌ての真っ只中でございます。
そして私、ソフィア・マルフォイは八人の選手のうちの一人というわけですね。ふふふ、なんでですか?
「皆のもの、落ち着くのじゃ」
遅れて入ってきたダンブルドアの一声で大人たちはハッとしてだまりました。
一瞬の沈黙の後、ボーバトンのマダム・マクシームがまず口火を切ります。
「ダンブリー・ドール。これは一体なんなーのですか?どうして我が校の生徒だけ二人なのです?いえ、なぜまず八人なのでーすか?!」
「これは一人増やしたり減らしたりするとは訳が違う。熟練した魔法使いの強力な錯乱呪文のせいだ」
「この一週間の警備体制は一体どうなっていたのでーすか?」
アンブリッジに視線が集まりました。
「私どもの仕事は部外者からホグワーツを守ることです。今回の事件は明らかに、内部のものの犯行では?」
「この中に三大魔法学校対抗試合をめちゃくちゃにしようとしてる人間がいるとでも!?」
ダームストラングのカルカロフがフン、と嘲笑うかのように高らかに言いました。
「職務怠慢ではないかね、英国魔法省職員どの」
アンブリッジの顔がカッと赤く染まりました。
「おいおまえたち」
ムーディーが突然選手たちを呼び、羊皮紙を配りつけました。ゴブレットからでてきたものです。
「この字は自分で書いたものか?」
その問いかけに私とハリー以外はうなずきます。残念ながら私の名前は全然見たこともない、左手で書いたような下手くそな字で書かれていました。
「ふむ…そしてポッターとマルフォイの名前を書いたのも……いや…これだと判別できん、か…」
「容疑者を絞り込むのは不可能のようじゃの」
「はじーめに選ばれた三人で試合を進めればいいのでは?特にこの小さい二人は、どう見てーも試合に参加する年齢を満たしていませーん」
そう鼻息を荒くするマクシームにクラウチが意見した。
「今回の年齢線は我々が勝手に設けた安全措置です。それにゴブレットに選ばれるということは魔法契約だ。たとえ錯乱呪文をかけられた結果だとしても…選ばれた以上は戦わねばいけない」
それで大人たちはますます焦り始めます。試験の内容はどうなるのか、子どもはいくらなんでも無理だ。死者が出たらまずい…。全員が自分の領分で問題が出ないか不安でたまらなくなっています。
「おだまり」
場がヒートアップしてきたとき、カツンとヒールの音が響きました。
「こんなところで話していても埒があきませんわ!起きてしまったことにあれこれいうより、これから起きることに対して各々全力を尽くすべきだと思いますの。はい、解散!各自の持ち場へ戻りなさいませ」
セリルダ・グリンデルバルトの鶴の一声で、大人たちはみんな一息ついて、それぞれ対策や調査へ向かうと部屋を出ていきました。なぜ彼女が仕切ってるのに誰も何も言わないんです?
代表選手たちはとりあえず各々自分の部屋に戻るように言われました。
「はぁ〜〜……」
「大変なことになったね」
ため息をつく私にセドリックが話しかけてきました。なんだか気遣わしげです。
「あなたが真の代表選手のはずなのに…一体何なんですかね?」
「ゴブレットに細工なんて…できるんだなあ」
「私はあなたを応援しますから。どうぞお手柔らかに」
「こちらこそ…。なにか力になれる事があったら言って、ライバルである以前に同じ学校の仲間なんだから」
そう言ってセドリックはハッフルパフの寮に向かって帰っていきました。人格者です。
セドリックが優しくてホッとしている私の背中に誰かがぶつかりました。
「一体どんな手を使ったんですの!!」
後ろを見るとセリルダが仁王立ちしていました。
「ちょっと…!」
見かねたハリーがすかさず私とセリルダの間に立ちました。セリルダはフン、と鼻を鳴らします。
「生き残った男の子、ハリー・ポッター。名誉欲に溺れてあなたがやった可能性も否定しきれませんが…」
「僕はそんなことしない。ソフィアもだ」
「あらそうかしら。そこのマルフォイの小童はとびきり怪しいですけれども」
「あのねえ私は13歳なんですよ!15.16ならやってたかもしれませんが流石に危険が勝ります!」
「え?13?」
「ハリーだって14ですよ!」
「うそ…危なっ」
いや、今まで私のこと何歳だと思ってたんですか。どうみても小さいでしょうに!退くかに思えたセリルダは一瞬萎えかけた勢いをすぐ取り戻しました。
「とにかく…ハリー・ポッター、あなたが選ばれたことには確実に闇の魔法使いの意思が見えますわ!!特別にこの私があなたに降りかかる危険を退いてあげますわよっ!」
「えぇ…?」
「そしてマルフォイの小童ぁ!」
「ソフィアです」
「あなたが選ばれたのはぶっちゃけよくわかりませんわ!でもあなたの背後に感じます、邪悪な企ての気配をね」
奇遇ですね、私も感じています。
「なので、場合によっては助けてあげてもいいですわよ。……では、選ばれた以上は正々堂々お互いベストを尽くしましょう」
セリルダはツカツカとヒール音を立てて去っていきました。彼女のオンステージ中に他の生徒たちもいつの間にか帰っていってしまいました。
「何あの人…」
「変人です。…はあ。お互い災難ですね」
「うん。僕まだ今の状況飲み込めてない」
「無理もありません。……うぅ…ドラコがなんていうかなあ…」
ハリーと並んでグリフィンドールへ帰ります。ハリーはずっと何かを切り出したくてたまらないという顔をしていました。面白いので気づかないふりをしていると、階段も終わりに差し掛かった頃にようやく意を決したように私を引き止めました。
「ソフィア……ッ」
「はい?」
「代表選手の件だけど…僕が選ばれたのは、なんとなくわかるんだ。ヴォルデモート…どうせあいつ絡みだ。でも、ソフィアは…?誰かに狙われてるの?君、もしかして困ってるんじゃないかなって…」
この状況で私の心配とは、少し驚きました。まあでも確かにハリーは巻き込まれる理由がある。でも私にはない…少なくとも傍から見れば。
でも私からすれば裏で糸を引いてる人物に心当たりがありますよ。エクリジスと名乗ってる地黒のガキです。
「あら。ハリー…もしかしたら私が選ばれたのもあなたを嵌める作戦の一環かもしれませんよ。あなたを間近で見て事故死に見せかけて殺すかも」
ハリーは目を丸くしました。しかしすぐにくすっと笑います。
「ソフィアが人からの命令を聞くとは思えないけど?」
「ええ…まあ…ききませんね」
「こんなことになっちゃったけどソフィアも一緒で少し気が楽かもしれない…」
「そうですか。私はもう…とにかく犯人を磔にしてやりたいです」
ハリーはやや本気の私の語気に引き笑いして、一緒に寮に帰りました。もちろん待ってるのは説明を求める生徒たちの群れでした。ぴえーんもう陰謀はこりごりだよ〜、と泣き出したくなりました。
翌朝から、生徒たちはどこか不安げでした。三大魔法学校試合という世紀のイベントは錯乱したゴブレットの異例の代表者8名の選出により陰謀渦巻く不穏な催しになってしまったのですから。
そしてやはり、グリフィンドールへの風当たりはとても強くなっていました。まず仲良かったはずのハッフルパフの生徒が目を合わせようとしてくれません。
「おい、グリフィンドールのマルフォイだぞ」
「あいつが選ばれるなんてどう考えたっておかしいだろ…」
そんなひそひそ話も聞こえます。まあ別に私は気にしませんが…。無用な注目はやはり煩わしいですね。っていうか私にヘイトが向くのはやや心外ですね。三大魔法学校対抗試合での最年少出場選手ですよ、多分。下手したら死にます。(私は死にませんけどね)
朝食を食べてると、私にフクロウ便が届きました。ドラコからです。なぜわざわざフクロウに…と思いながらそこに書かれた時刻と場所に私は尻尾を振りながら向かってしまうのでした。
「ソフィア!」
中庭の隅の方でドラコは待っていました。
「大変なことになったな」
「兄さん…」
「ソフィア……本当に君は何もしてないんだな?」
「は?」
あ、あろうことかドラコは私を疑ってました。なんで?!と叫び出したいところですが、残念ながら疑われる心当たりが多すぎます。
「そ、そんな……ひどい…兄さん、私凄く不安で心配で……」
「あっ…ごめん……」
結構本気で傷ついた私にドラコは即座に謝ってくれました。今回何もしてないのは事実ですしね。ドラコは泣き出しそうな顔をした私の隣に座り頭を撫でてくれます。ラッキーです。
「一体どうしてソフィアなんだ…8人も選ばれてはいるけど、明らかに今回の選抜はおかしい…」
「そうですね…私の名前が書かれた羊皮紙も全然見覚えのないものでしたし」
「ソフィア…心当たりは?」
私はちょっと考えます。地黒チビ、アブラクサスの盟友、シャイマの背後にいるやつら、ケインズ…あら、思ってた以上に敵の心当たりがあるんですけど。でも、彼らにとってゴブレットに私の名前を入れるメリットなんてあるんでしょうか?
「あります」
「誰だい…?」
「父上に敵意を持つ死喰い人…」
「え?」
ドラコはやや驚いた顔をします。まあいま娑婆にいる死喰い人はほとんどみんなルシウスについてきた人たちですしね。
「ワールドカップのときに打ち上げられた闇の印、あれと同じ犯人なのではないでしょうか?」
「あれは父上があげたんじゃないのか?」
「いえ、ハリーは見知らぬ男が上げたと。それに闇の印を上げることは重罪ですよ?父上がいたずらでそんなリスクを取るとは考えにくいです」
「言われてみればそうだな…」
「思うに、反父上派の死喰い人がこの三大魔法試合の運営に紛れ込んでいるのですよ。ハリー・ポッターをゴブレットに選ばせ、試合の事故に見せかけて殺す。そして愛娘の私もついでに…」
おお、なんだかそれっぽいです。
「ああ!全部わかりましたよ!!犯人はイゴール・カルカロフですッ!!元死喰い人だし、ついでに三人も自分の学校の生徒をねじ込む卑劣っぷり…おのれ死喰い人、汚いですね!」
「ソフィア、君死喰い人のこと嫌いだろ」
「とにかく、私は被害者なのですよ。いたいけな少女を使って父上を傷つけようなんて許せませんね」
ドラコはうーん唸ってとちょっと考えます。
「ポッターを殺すのが主目的なら、カルカロフじゃないんじゃないか?いまさらやつを殺そうとするのは例のあの人の崇拝者だ。ましてや父上を陥れたいと願うのもね。でもカルカロフはまっさきに仲間を売ってアズカバンを逃れた臆病者だ」
「なるほど…」
「……問題はあの人を崇拝しているやつは全員アズカバンにいるってところだ。それに、あの人のシンパが魔法省で普通に働けるわけ無い。今働いてるのはだいたい服従の呪文で操られてるって主張してた死喰い人たちだし…」
「ん……じゃあ……えっと…?やばいやつが誰かに変装してる…ってことですか?脱獄犯とかが?」
「つまり、僕が導き出す答えはシリウス・ブラックだ!!」
「さすが兄さん…名探偵!」
とまあ茶番はこれくらいにして…。なんとか話をシリアスじゃない方に持ってけましたね。いや、でもこれも実に真実味があるというかありえそうで怖いです。シリアス・ブラックの線は薄いと思いますが、例のあの人の日記までもが牙を剥くんです。我々の知らない脱獄犯がいてもおかしくありません。何なら真相はこっちなのでは…?
「ソフィア、頼むから危険なことだけは避けてくれ。無理だと思ったらすぐ棄権するんだ。でもポッターにだけは勝つんだ」
「はえ?」
「マルフォイ家として…ポッターにだけは負けてはいけない、そうだろ!」
「あ……えぇ…まあ…」
「僕は全力でソフィアを応援する。父上もすべてのコネを使って君をサポートするはずさ。なんなら優勝だって狙っていい!ソフィアはそこいらの上級生より魔法がうまいし」
「さ、さすがに無理だと思いますけど…」
まずい、このままじゃ私開始直後に「やーめた」ができなくなる。っていうかドラコ、あなたなんか祭りの熱に浮かされて変なテンションになってませんか。
「みせてやるんだ、純血の意地を!敵の策略なんか覆してやれ、ソフィア」
「お、おー!!」
ドラコの中での私像が入学以来どんどん変容していくのを感じます。一体どうして。可憐で儚く愛らしく、それでいて少し賢いパーフェクト妹像は跡形もなく、ちょっぴり不穏で狡猾で、可愛こぶりっ子しているやばいやつみたいになってきてませんか?
ああ、もう。これもゴブレットに私の名前を入れたやつのせいです。絶対に許せません。そういうことにしましょう。
とにかく私は試合で程々に頑張らなくちゃいけなくなりました。
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代表選手の杖調べも終え、私はやっと日常を取り戻してきました。批判や注目は主に(日刊予言者新聞内で)ハリーに向いてます。生き残った男の子様々です。ホグズミードでハリーは必ず何かしらの揶揄や応援を浴びたのに反して、私には一切そんなことなく…お豆さんのような扱いですね。
やはり8人も代表選手がいるとなると運営もごたついてるらしく、アンブリッジが誰もいない廊下でストレスのあまり絶叫するのを見かけてしまいました。
他の代表選手…セリルダ・グリンデルバルトは意気揚々自信満々鼻高々に校内を歩いております。フラー・デラクールの方は自然体で、時々ファンの男子に挨拶されてツンとしてみたりもしてます。
ビクトール・クラムも自然体…なのなかなあ。彼はもともと寡黙なのもあってよくわかりませんが、ホグワーツ敷地内で散歩してるのを見かけます。その横に同じく代表選手のドミニク・ブラッドレイがいたりいなかったりしました。一方ルイス・モンタギューは姿を見かけませんでした。船に閉じこもっているのでしょうか?気が滅入りそう。
セドリックはホグワーツの中では唯一正当に選ばれたであろう人間ということでみんなから応援されています。それでいて嫌味がないから人気なのもうなずけます。
ま、要するにハリーと私を応援してくれる人なんて身内だけということです。
そして第一の試合が近いある日、魔法生物飼育学の授業に突然ローランサン・ザバツキが現れました。昨年度限定特別監査チームにより招かれた魔法生物飼育学の臨時教師にしてマルフォイの息のかかった農園の主。
特別監査チームの解散により本業にもどったと思ったのですが、一体何の用でしょう。
「ソフィアさま!お久うございます」
昨年度同様、彼の美貌に生徒たちがため息を吐くのがわかりました。
「どうも、お変わりないようで」
「ええ、年を取ると容貌は中々変わりませんので。放課後よろしければハグリッドの小屋の前に来ていただけませんか?」
「ええ、いいですけど…ええと。農園のことですか?」
「ええまあ」
ザバツキはそう言うとポマードベットリで色気づいたハグリッドの手伝いに戻りました。仲良しですね。
放課後、ハグリッドの小屋の前でザバツキはまっていました。
「ご足労をおかけしました、少し歩きましょう」
私とザバツキは湖の辺りを歩きます。
「さて…ソフィア様。代表選手に選ばれまして、おめでとうございます」
「おめ…おめでとう…?おめでとうですかね…」
「もちろん!歴史に名の残る名誉なことではございませんか!」
「明らかに陰謀ですよ」
そういえばザバツキはアブラクサスと懇意にしていました。もしかして私の秘密も知ってるのでしょうか?
「ソフィア様、ソフィア様。みなはソフィア様を稚すぎるなどと失礼なことばかり叫んでいますね。ですが、私はソフィア様は十分に成長なさっていると存じます。昨年、数カ月ですがお近くで姿を拝見し、確信しました。貴方ならば、必ずや試練の数々を打ち砕き、優勝するということを…」
「私に優勝を期待するのがデフォルトになってませんか?………すみませんが期待にはお応えできませんよ」
「いえもちろん、今のままではとても無傷で勝ち上がることはできないでしょう。ソフィア様の大切な命が損耗するのは私も耐え難い…ですので僭越ながら私めが、ソフィア様にお力添えできれば、と思いまして」
「はあ…力添えというと?」
「ええ。こちらをどうぞ」
そう言ってザバツキが渡したのは
「第一の課題、必勝アイテムでございます」
コートと香水でした。