人々の熱狂が振動になって伝わってくきます。声援、足踏み、そして……
ドラゴンの息吹。
✿❀❁✾❁❀✿❀✿❁✾❁✿❀❁ ✾❁❀✿
「第一の課題は参加者同士の奪い合いじゃ」
ダンブルドアがいたずらっぽく微笑みました。結局試合の当日まで代表選手には試合内容は伝えられませんでした。私はザバツキに教えられ知っていましたが、ハリーやセドリックは大丈夫でしょうか?
運営テントに集まる八人の選手と、三人の校長。そして責任者のバーティ・クラウチ、ルード・バクマンがいます。
テントの外には観客席が岩場のようなものを囲むように設置されています。観客達は今日何が起こるのか議論し合ったり応援歌を歌ったり、好き放題ですね。
代表選手の父兄は特別に観戦が許可されています。私は外でドラコと両親の励ましを受けました。思ったよりも心配されておらず、私はやや…不満です。いつの間に逞しく…みたいなリアクションをされるのはなぜでしょうか。まるで私がズルしたみたいじゃないですか…。
「まず同校同士での戦いを避けるため、開催校であるホグワーツの三人。そしてはじめに名前を呼ばれたビクトール・クラムがくじを引く。そのくじにはそれぞれ番号が振ってある。同じ番号を引いたものがあるものを奪い合うことになる。もし同校対決になったら引き直しじゃ」
「あるもの?」
ハリーの声にダンブルドアはウィンクする。
「さよう。詳しいことを話す前にまずはくじを引いてもらおうかの…」
まずはセドリックがクラウチが差し出した袋に手を突っ込みました。そしてぎょっとした顔をしてからおそるおそる中の物を出しました。
手にはミニチュアのドラゴンが乗っていました。
「スウェーデン・ショート・スナウト。一番だね」
クラウチがそう言い、ハリーに袋を差し出します。ハリーはセドリックと同じようにおっかなびっくりドラゴンをひきました。そのドラゴンを見てハリーが震えながらつぶやきます。
「ハンガリー・ホーンテールだ…」
「そのとおり。四番だ」
そして私の番です。噛まれたらやだなあと思いながらドラゴンを掴んで引き出します。
「中国火の玉種、三番」
あらあら。可愛らしいドラゴンだこと…。ミニチュアドラゴンは私をこんがり焼死体にしてくれそうなきのこっぽい炎を鼻から吹いて威嚇してきます。
「では残りはウェールズ・グリーン種…二番だ。さてお嬢さん方も」
クラムが引いたあと、フラー、セリルダ、ルイス、ドミニクと今度は普通のくじを引きました。ルイスとクラムがあたってしまったため一度引き直しがありましたが、無事対戦相手が決まりました。
第一試合
セドリック・ディゴリー対ドミニク・ブラッドレイ
スウェーデン・ショート・スナウト
第二試合
ビクトール・クラム対フラー・デラクール
ウェールズ・グリーン
第三試合
ルイス・モンタギュー対ソフィア・マルフォイ
中国火の玉種
第四試合
セリルダ・グリンデルバルト対ハリー・ポッター
ハンガリー・ホーンテール
となりました。
「諸君らはドラゴンの守る卵を奪い合う。卵は次の課題へのヒントになっておる。手にすれば試合を通して大きなアドバンテージとなるじゃろう」
ダンブルドアの言葉をバクマンが継ぎました。
「当課題はもちろん選手同士の対決も視野に入れている!……とはいえ、相手を殺傷に至らしめるような攻撃や騎士道精神に反することはご遠慮いただきたいですな。スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦っていただきたい!」
第一、第二試合ではドミニク、クラムが勝利しました。
セドリックは犬を放ちドラゴンの興味をひきつつ、卵へ向かって猛然と走りだしました。しかし犬は即座に焼き殺され、呪文を無駄にかけていた結果隙が生まれ、ドミニクに魔法をかけられ石化されてしまったようです。
そして第二試合、クラムとフラーはクラムの完勝でした。フラーは魅惑呪文をクラムより先にドラコンに食らわせましたが、鼻息で出てきた炎でスカートが燃え上がったことで怯み、その隙にクラムが結膜炎の呪いをかけて卵をとったようです。
そして第三試合。もっとも注目度の低い試合でしょうね。最年少の私がまともに戦えるとは、皆さん思っていないでしょう。ましてやあのマルフォイ家の箱入り娘お嬢様が危険に立ち向かう様なんて誰も想像しません。いかにもたくましいルイスが勝つに決まっていると。
ですが私、今回は兄に応援されてしまっているのでできる限りは勝ちを狙いに行くつもりです。
私はモスグリーンのコートのジッパーを下げました。そして長すぎる袖をまくるボタンを留め、ファー付きのフードをかぶります。どこかのマグルの軍服のような頑丈な作りです。これがザバツキからの必勝アイテムその一。
そしてその二、③の香水を全身にふりかけます。
開始の合図がなりました。
「…ふう……」
深呼吸して、フィールドへ一歩踏み入れます。ものすごい熱気がこもっています。中央に蹲る山のような生物がいます。
中国火の玉種、滑らかな真紅の鱗をもち、顔には金の棘が生えています。そして特徴的な房毛が生えています。他のドラゴンと比べるとシュッとしています。東洋で龍と呼ばれる架空の生物の元ネタですね。他の爬虫類的なドラゴンと比べ、目がぎょろっと飛び出ているという特徴があります。
「いいですか、ソフィア様。今回の課題で選ばれるドラゴンには共通点があります」
「はあ…」
ザバツキは湖畔で私にかなりの情報漏洩をしはじめました。選ばれるドラゴンの種類、卵を奪い合うこと。なぜなら彼は今回の課題でドラゴンを調達してきたチームの一員だからです。
ドラゴンは現在かなり数を減らしています。その中で四匹もイギリスに輸送するとなるとかなりの労力が必要だったでしょう。代表選手が八人に増えたはいいが8種も用意できなかったんですね。
「今回のドラゴンはどれも穏やかで寛容という点でございます!」
この男、キラキラ輝いてます。けれどもドラゴンが穏やかで寛容なんてものから程遠いのは火を見るよりも明らかなのに、何を言ってるのでしょう。
「え……そんなドラゴンいるんですか?」
「ええ!現存している十種のドラゴンのうち、近くに他種が存在しても殺戮に至らない、とても寛容な種だけを連れてきました」
それが寛容の最低ラインなら、アラゴクだって聖母です。
「なるほど……」
「その中でも気性が穏やかなものを連れてきたのですが…まあみなかなり殺気立ってはいますね。長旅で疲れたのでしょう」
ザバツキは咳払いをして誤魔化します。
「そこで、その香水です」
「ああ…4つもありますけどなんですか?香りが違うんですか?」
私は一番の匂いをちょっと嗅ぎました。瞬間、窒息するほどの獣の匂いと土の焼ける臭いがしました。私はひっくり返りそうになりながらたずねます。
「なっ…なっ…なに?!なにこれ!!劇物?!」
「ドラゴンの巣穴の土と糞と尿から作りました」
「劇物じゃないですか!!」
ザバツキは全く悪びれなく笑います。
「とんでもない!まさにこれこそドラゴン向け透明マントといっても過言ではありません!」
ザバツキは美形が霞むほど興奮しながら言います。よほどドラゴンが好きなのでしょうか…。
「よいですか、今回は選手二人がドラゴンの守る卵を奪い合うという形式です。そこで、こちらの香水です。こちらは今回選ばれたドラゴンたちの糞尿、縄張りの土、食い残し等々をブレンドしたものです。これを振りかければソフィア様はたちまちドラゴンの巣の中で地面も同然の存在になります」
「ええと…それで?ドラゴンにだって目はありますよね?」
「ええ。ですが今回はドラゴンの目を釘付けにしてくれそうな囮があるじゃありませんか?」
ルイス・モンタギューがちょうど反対側の入り口から出てきました。ドラゴン越しに私を睨みつけているのがわかります。不正な手段で選ばれたことでどうやら彼女の反感を買っているようですね。濡れ衣なのに。
「さて両選手が入場してきました!ルイス・モンタギュー、ダームストラングの秀才と名高い彼女と13歳という驚異の若さで選ばれてしまった我が校のトリックスター、ソフィア・マルフォイの対決です」
中国火の玉種がムクリと鎌首をもたげました。金色の房毛がふわりと揺れます。私はピタリと静止し、息すら止めました。
ルイスがすかさず動きます。ドラゴンはすかさず反応し、ルイスが隠れた岩場へ即座に炎を吐きました。私はそのすきに地面に転がり猛然とゴロゴロ!ゴロゴロ!地面の土をコートにつけます。
「ソフィア選手、一体何をしてるのでしょう?!イヤイヤ期なのか…?!おっと、ルイス選手。岩場へかける!かける!」
ルイスはやっぱり正攻法できましたね。私は足がすくんで動けないから相手にならない。真正面からドラゴンの攻撃を交わしつつ卵を獲りに行くようです。
私はすっと姿勢を低くして、四つん這いでドラゴンのもとへ近づいていきます。長いしっぽがルイスめがけて攻撃するたびぶんぶんと揺れるのでこれに当たらないように気をつけます。
ザバツキの計画通り、順調に安全に進んでいます。
「ルイス選手、護りの呪文をうまく使って火を防ぐ!見事な腕前です。しかし攻撃がうまく当たりません!炎に遮られています!あっ…あれ?ソフィア選手の姿が見当たりません
……あっ!あんなところに!ソフィア選手、ドラゴンがルイス選手に釘付けのすきに匍匐前進!これは…とるんじゃないか?!」
実況の声にルイスが見開いた目でこちらを睨みました。よく見つけたものです。ドラゴンよりも目がいいんですか?
しかしドラゴンはルイスに狙いを定めています。そう簡単に逃れることはできません。
「
ルイスは杖を振り、私のすぐそばの石を爆破し行く手を妨害しました。危ない!ドラゴンも爆発に一瞬反応しますが、しかしその程度でドラゴンは地面とほぼ同化している私を見つけることはできません。
「小賢しい…ッ」
ルイスはドラゴンの炎を杖から吹き出した水で退けます。すごい、あのイカれたゴブレット、ひょっとしたらあとに呼ばれた人たちは適当に選んだんじゃないかと思ってたんですが、十分な実力者です。
ですが派手に動き回れば動き回るほどドラゴンは怒りで激しくルイスに攻撃します。
「すごいぞ!ルイス選手の立ち回りもさることながらソフィア選手!なんと蛇のように這いずって卵まであと10メートルの位置まで漕ぎ着けています!なんとうことでしょう。まさか一度も魔法を使わずに卵を手に入れてしまうのでしょうか?!」
うるさいですね…。勝てばいいじゃないですか。私だって別に魔法で立ち回れますよ。でも13歳で正攻法で勝っちゃったら明らかにおかしいでしょうが。
卵があるのは少し高い岩場の上。背伸びじゃ届かないので目立つのを覚悟で登らなければいけません。くぼみに足をかけて身体を持ち上げると、巣の中に金色に輝く卵がありました。
それに手を伸ばすと、突然パンという爆発音がして私のすぐ上で花火が爆発しました。
とっさにルイスを見ました。彼女が飛ばした花火かと思いきやどうやら違うようです。目を見開いて驚いた様子でした。
ドラゴンは卵のそばでの爆発音に即座に反応します。そして岩場に登った私とバッチリと目が合いました。ギョロっとした目が私を見据えると即座に火を吹きました。
「ああーーーッ!!ソフィア選手、ついにドラゴンに見つかってしまった!!激しい炎に包まれています!これは!これは大丈夫なんでしょうか?!怒り狂ったドラゴンはルイス選手にもものすごい勢いで襲いかかる!危ないッ!」
「そんな…!」
「ここまでドラゴンを怒らせて本当に卵がとれるのかッ!?」
「ルイス選手、本気のドラゴンの炎に行く手を阻まれる!おっと!火のついたローブを脱ぎ捨て呪文を発射する…これは結膜炎の呪いか?しかしドラゴンの顔にある棘が邪魔をします…ッ!」
「すごい!すごいぞ…ドラゴン相手に長時間逃げ回るなんて地獄も同然ですッ!果たしてこの試合、終わるのでしょうか?!」
と、そこで突如ホイッスルが鳴り響きました。実況者であるルード・バグマンの「おや?」という声が聞こえてきます。
そして一歩遅れて、爆発的な歓声が私の耳に聞こえてきました。
ええ、当然生きております。火傷もおってませんよ?私は煤けたコートをはらって、抱え込んだ卵を観衆に向けて見せつけました。
「なんと!!ソフィア選手生きていた!あの業火を耐え、卵に忍び寄っていた!!なんということでしょう…最年少の選手が魔法を一切使わず卵を勝ち獲ってしまいました!!」
とはいえこのコートがなければまた死んでいたでしょう。焼死体になってから復活…乙女的にはあまり大勢に見せたくない光景ですので、ザバツキに感謝しなければなりません。
おそらくこれはマンティコアの革を使った特注コートでしょうか。なかなかの希少品です。ほとんどの呪文を跳ね返すだけでなくドラゴンの炎をも効かないとは。
私がテントに引っ込むと、ハリーが緊張で目を白黒させていました。私は卵を顔の横に掲げて、ウィンクです。
さて、ハリー対セリルダ・グリンデルバルトの試合はハリーの勝利に終わりました。
セリルダはこの勝負を「ドラゴンを倒せば勝ち」と勘違いしてたのでしょうか。ハンガリー・ホーンテール相手に岩石落としをした後その岩を溶かし「マグマ対炎ならマグマの圧勝ですわ〜!」とか言ってたみたいです。卵と対戦相手のことを忘れてる大暴れっぷりは、正直見事でした。
しかし観客を沸かせることに夢中になった彼女はファイアボルトを呼び寄せしたハリーにあっという間に卵を奪われ、全試合が終了しました。
さて気になる得点はこちらです
| マクシーム | クラウチ | ダンブルドア | バクマン | カルカロフ | |
| クラム | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| ハリー | 8 | 8 | 9 | 10 | 4 |
| ドミニク | 7 | 8 | 7 | 6 | 10 |
| ソフィア | 3 | 6 | 8 | 7 | 1 |
以上四名は卵を獲得したため20点が追加されます
| マクシーム | クラウチ | ダンブルドア | バクマン | カルカロフ | |
| セリルダ | 10 | 8 | 9 | 9 | 5 |
| ルイス | 8 | 6 | 7 | 5 | 10 |
| セドリック | 7 | 8 | 7 | 9 | 7 |
| フラー | 10 | 8 | 7 | 6 | 4 |
…私の点数低すぎませんか?
いや、まあ魔法使ってないですしね。全然いいんですけど…。ドラコも父上、母上も大変な喜びようでしたし、みんな祝賀モードで楽しそうですしまあよしとしましょうか。
私は手に入れた卵を触りたがる同級生たちに渡し、がむしゃらにシャワーを浴びました。喜ぶ暇もなく、それはもう一心不乱に。
だって私を抱きしめたドラコの一言が「くさ!!!」だったんですよ?これなら負けたほうがマシでした!
✿❀❁✾❁❀✿❀✿❁✾❁✿❀❁ ✾❁❀✿
サウル・クローカーは警備主任ドローレス・アンブリッジの言うとおり、何回も何回も入念にゴブレットを調べた。何度調べようと結果は変わらないのに、「なにもなかった」と言うのを期待しているかのように。
しかし残念ながら、ゴブレットには何者かにより呪文をかけられた形跡があった。それも
どちらが先かはわからないが、とにかく二回目の錯乱呪文をかけられたゴブレットは狂ってしまい、代表選抜をもう一度行ったのではないか。
同一犯なら一度に済ませれば八人も選出されるようなこんな混乱は起こり得ない。
となると、やはり気がかりなのはソフィア・マルフォイの名前を入れた人物である。少なくともクローカーに心当たりはなかった。しかし、自分はもうあの子と関わりはない。事態が水面下で動いているのならば、感知しようがなかった。
それに自分があの子にしてやれる事なんてこれっぽっちもないのだ。
「残念ながら、魔法がかけられてます。犯人の特定は困難です。警備体制を厚くすることをおすすめしますが…」
「そんな……そんなことができたら……私、こんなところに飛ばされていませんわ」
アンブリッジらえらく憔悴した様子だった。出世欲や名誉欲の強い彼女がこんなところに飛ばされた挙げ句、前代未聞の不祥事を防ぐことができなかったのはキャリアに大きく響くだろう。
「闇祓いを数名置くのがいいかと。まあ、目的が試合内で事故にあわせる…だった場合、我々のできることはありませんが」
「つまり…無事を祈るしかありませんのね…」
アンブリッジはしょぼくれながらゴブレットをしまった。外からは大きな花火の音が聞こえた。
「あら私ったら…もう試合が始まってしまったんですね。どうです?よかったら少し観戦していってください」
「いや、私は…」
「世紀のイベントですのよ。ひと目でも、是非。ね」
少しでも失態を取り戻したいのか、アンブリッジはしきりに特別観覧席へ招待してくる。クローカーは渋る。しかしついには根負けして、少し見に行くことになった。アンブリッジに案内されててスタンドの通路に立つと、ちょうど何度めかの試合が開始されるようだった。
歓声をうけてフィールドに立つのは在りし日のブリジット・キンブリーそのものの姿をし、彼女の愛用していたコートを羽織るソフィア・マルフォイの姿だった。
「ブリジット…」
その名をつぶやいたあと、クローカーはその場をすぐに立ち去った。