兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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06.容疑者目下不明

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 母さんが出ていってから父さんがおかしくなった。

 ノートを抱きしめて、一日中不死の怪物の話をしてる。

 父さんは私に見向きもしない。

 父さんは怪物になりたいんだって。

 私にはもう怪物みたいに見える。

 

 

 

 父さんはそのままおかしくなって、ご飯を食べなくなった。

 そしてそのまま死んでしまった。

 ノートは死ぬまでずっと抱いて離さなかった。

 ようやくノートの中身を見た。

 何も書いてないか意味不明な文でも書いてあるかと思ったが、違った。

 

 表題は 《『各地における“死”の伝承 始原の魔法へのしるべ』 ブリジット・キンブリー》。

 

 本の草稿のようだった。

 

 そこには不死の怪物の作り方が書かれていた。

 その内容はとても悍ましいものだったが、確かに理論上は可能だった。

 

 

 母さんが来た。

 葬式が終わってしばらくしてからだった。

 私は母さんを恨んでいた。

 父さんが私を愛してくれなくなったのは母さんがいなくなったせいだから。

 

 母さんは一緒においでと言った。

 そして、私と父の血が繋がってないことを告げた。

 

 母さんはマグルだった。

 しかしとても美しかった。

 魔法使いの父はその美しさが欲しくて欲しくて、魔法で無理やり手に入れた。

 母さんは魔法使いなんて本当は不気味で嫌だった。

 だからマグルの男と不倫していた。

 そして生まれたのが私だ。

 

 母さんは出ていく前に父に残酷な事実を突きつけた。

 父のことなんて一度も愛したことないこと。

 私は別の男との子であること。

 

 

 何という運命の皮肉。

 私はマグル生まれでありながら、魔法が使える子どもだった。

 私が魔法を使えなければ、父さんも残酷な真実にもっと早く気づけただろう。

 

 いや、そもそも魔法で手に入れた愛なんてものが紛い物で、それを本物と思ってすがっていた父が愚かだったのかもしれない。

 

 不死の怪物は、決して孤独を感じないという。

 荒野に佇む石碑のように、ただ世界を見て、魔法の息吹を寄る辺にして、永劫を過ごすという。

 父は、怪物になりたかったのだ。

 孤独を感じない怪物に。

 

 

 私は母を殺そうと思った。

 杖を突きつけ、私が不義の子である事実を消してしまいたかった。

 けれども私は不死の怪物のように孤独を感じずにはいられない。

 たとえ憎くても、本当の血のつながりが消えてしまったら私は世界で一人、この嘘を抱えて生きなければならないのだ。

 私は母に二度と来ないでほしいとだけ言って、扉を閉めた。

 

 

 

 私は父の親戚の家に引き取られた。皆優しく、高潔だった。

 私はまた嘘を吐いた。

 頭に怪物がちらつく。

 あれ以来ずっと怪物が頭から離れなかった。

 嘘を吐くたび、本当の心をごまかすたび、呪いのようにあの怪物のことが脳裏によぎる。

 

 

 

 そして私は知ってしまう。

 

 

 怪物は本当にいるのだと。

 

 

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 私は憂鬱に頭を支配されながらスネイプの魔法薬学のレポートを書いては消し、書いては消し、を繰り返しています。もちろんこの不必要なまでに文字数の要求される本人の性格を反映したかのような陰湿な課題もまた憂鬱と呼ぶに足るものですが、今回私を悩ませているのは別の問題です。

 

 

「ソフィア、眉間にシワ寄ってるよ」

「んぐぅ…」

「ソフィアって何が起きても飄々としてると思ってたけど、こういう目立つの苦手なのね」

「目立つのは嫌いじゃないですよ。ただいつでも記者が何かをたずねてくるのは鬱陶しいじゃないですか…」

「たしかに…あ」

 ジニーが向いてる方を見ると、コリンがこそこそと近寄ってきました。学内新聞記者コリン・クリービーは選出当初からハリーと私を応援してくれてます。

「ソフィア、ソフィア!ねえこれみて」

 そう言ってコリンが机に広げたのは大量の写真でした。一枚手に取ると、私が地面に擬態して岩の陰に隠れてる写真でした。その他はええと…這いずる私、ゴロゴロする私、入場するとき半目になってる私、炎に包まれてる私、どう見ても燃えてる私…

「ろくな写真がないじゃないですか!」

「うん!どれなら掲載していいかな?」

「卵見せびらかしてるやつにしてくださいよ!」

「それが…その時ちょうどフィルムが切れちゃったんだ…」

「這いずってただけなのにシャッター切り過ぎでは?」

 ジニーもなんとか写りが良く勇敢に見えるものを選ぼうとしてくれてますが、どれもこれもやる気のない泥遊びみたいにしか見えません。

「じゃあ……うーん…この一番燃えてるやつで」

「いいね!もうほぼ炎だけど!」

 コリンはそう言うと写真を持って去っていきました。まあこれはまだいい方です。

 

 そう、最悪なのは私が魔法を使わずに試合に勝ってしまったことで手に入れた無用な注目です。そしてその注目を象徴すべきは、リータ・スキータという実にムカつく記者でした。

 私はただ這い這いして卵を掠め取っただけなのでもうなにも語ることなどないのです。なのに彼女は根掘り葉掘り聞いてきます。「その時の気持ちは?炎に巻かれたとき死を覚悟した?」答えは「特に何も…」

 満足の行く答えが得られないとわかると、次は私の学生生活についてやドラコや父上のことを聞いてくるのです。

 被害者はもちろん私だけではなく、卵を獲得した全員がそうでした。とりわけハリーは喋ってもないことを新聞に書かれたりと、著しい被害を受けています。

 でもなんで私が我慢しなければならないのです?

 

「第二の課題についてはなにかわかったの?枕元に卵置きっぱなしだけど…」

「え?さあ…」

「さあってなに」

「私、次の課題はすぐ棄権するつもりです。ちょっと張り切ったらこんなことになっちゃって、もううんざりですから」

「そんな、もったいない!グリフィンドールでワンツーフィニッシュも夢じゃないのに…」

「ずいぶんなドリームですね…」

 

 やはりジニーは勝負っ気が強いです。クィディッチの選手になるべくこっそり練習をしているだけあります。

 ですがやっぱり私はおサボり担当。頑張りはハリーとセドリックに任せたいです。

 

 セドリックは負け、ハッフルパフはますます応援が盛り上がってます。それと比例するように反グリフィンドール主義が台頭し、ホグワーツ情勢は泥沼です。とはいえ、華々しい勝利を飾ったハリーを応援する人もちらほら現れました。

 そのセドリックに勝ったドミニク・ブラッドレイは隠れファンが多数出現したようで、コリンの撮った写真がプロマイドとして流通しているようです。特にボーバトンにファンが多いとか。

 クラムは最近はホグワーツで見かけることが増えました。しかも何故か図書室に。彼は勝って当然と思われていますが、ハリーと同率一位なことにすこしは動揺しているのでしょうか?

 フラーは敗北がメンタルに来ているようでした。きりっと唇を結んで前よりも人を寄せ付けないオーラを出しています。セリルダもまた負けたはずなのですが、謎に元気です。彼女は派手な魔法で一定のファンを獲得したようです。

 

 そして私の対戦相手、ルイス・モンタギューですが、試合が終わった翌日私に真剣な顔をして話しかけてきました。

 

「昨日は完敗だった。あなたの策略勝ち」

 そう言って握手を求めてきたので、私も応じました。大広間で彼女の顔を見たときはてっきり勝敗に文句でもあるのかと思いました。

「対戦中にあなたのそばで花火が爆発したと思う。あれは私の魔法ではない」

「え?ああ…あれですか」

 私がこんがり焼かれたときの花火の話をしているようでした。別に焼かれてもいいのですが(現に無傷ですし)あれが彼女の仕業ではないというのはどういうことでしょう。

「たしかに私は途中呪文であなたの進路を妨害した。しかし、相手がドラゴンに接近した状態でそばに花火を打つなんて、下手したら死にかねない。私はそのようなことはしない」

「そう……ですか。じゃああれは誰のなんですか?」

「わからない。だが、あなたは何者かに命を狙われているんじゃないかと思う。……私はあんな卑劣な手を使うことはない。それを知ってほしくて」

 ルイスはとても真剣な顔でした。もとからあんまり遊びのない顔というか、表情の変化に乏しい人ではありましたが。

 私の命を狙う人がいるというのはまあ前例がありますのでいいですけど、そいつは再起不能になったはずです。今度は一体誰なんですかね?

 

「あなたがそうおっしゃるなら、私は信じます。命に関しては…まあ善処します。わざわざ教えてくれてありがとうございます」

「私は私の名誉のためにきただけ。それでは、気をつけて」

 ルイスはそう言って去っていきました。

 

 彼女の得点が活躍と比べて低かったのは私への攻撃が心象的にマイナスだったせいと思われます。(弁明したところで今更得点は覆らないでしょうが)わざわざ教えに来てくれるということはやはり悪い人ではないのでしょうか。

 いやどうでしょう、自分で打っておいてあえて弁明しに来たとも見えますよね。だって私は彼女について何も知らない。ケインズだってそうでした。

 なんにせよ誰が私の命を狙う不届き者なのかは、次の課題でわかるでしょう。

 

 

悠長だね、君は

 

 トム・リドルの日記は私にそう言いますが、躍起になって犯人を探そうとしたって見つかる確率は低いです。いったい何人の部外者が今この校内にいるんだか。しかもその中にはハリーの命を狙うやつまでいます。

 

そういえばハリーも命を狙われてるんだとばかり思ってましたが、彼の試合ではハプニングは起きませんでしたね。

 

たしかにドラゴンなんて試合中事故に見せかけて殺すにはうってつけだが…まあドラゴンを操ろうなんてまず無理だ。話を聞いた感じ、セリルダって子が派手にやってたから何かするスキがなかったのかもね

 

悪かったですね、私の試合は地味で

 

君の試合には花火が投げ込まれたのにねえ。君、みんなから嫌われてるんじゃないかな…

 

あら、全校生徒が敵と言うならそれもまた面白いじゃありせんか?

…そもそも私を殺したいならわざわざ試合の場に引きずり出さなくても、犯人はいろんな手があるはずです。なぜわざわざ私を選ばせたんでしょうね。

 

ハリー・ポッターの参加も、その点僕には不自然さ。

課題で死ぬことを期待して?

たしかにダンブルドアは試合中では手は出せないが、そんな賭けをするために潜入してゴブレットに細工をするのはちょっとリスクに釣り合わなくないか?

 

ええ。私だったら全力で殺しにかかります。ドラゴンに精力剤飲ませるとかして

 

会場皆殺しにするつもりかい?…まあそうさ。そういうこと。ポッターの命を狙うやつにはなにか別の目的があるんじゃないか?

 

それかこれからの試合で確実に殺せる課題があると知ってるか…ね。そうすれば犯人はクラウチかバクマンの周辺人物で絞れますよね。

 

早合点はいけないが、そうだね。ポッターを殺したい奴はやはり魔法省側の人間だろう。

君の方は逆に今回参加してる二校の代表選手のうち、追加で選ばれた三人のうちの誰かなんじゃないか?

 

なぜ?

 

だってそもそも追加で選ばれてる時点で怪しいだろう?

 

んな単純な

 

きっと犯人は君を人前で殺したいのさ。君みたい怪物がのうのうと生きてるぞって知らしめるためにね

 

 

 まったく本当にムカつく日記だこと。

 

 

 

 第二の課題まで間があるので、私はムーディのパワハラに悩む以外に特になにもありませんでした。ドビーからの家に帰ってきてくれという手紙が大量に届いた以外は特に問題なしです。

 

 ええ、問題なし…だったはずなのですが…。

 

「ダンスとは…すなわち、伝統」

 

 マクゴナガルがどこか意気揚々と言います。

 普段変身学で使う教室は片付けられ、バカでかい蓄音機からひび割れたクラシックが聞こえます。

 

「主催校として恥ずかしくない足運び、素晴らしいですよウィーズリー」

 

 そしてなぜかマクゴナガルはロンと踊っています。あつめられたグリフィンドール生はその様子を見て笑いで窒息しそうになっています。うーん、ロマンチックなお二人ですね。

 

 

 なんとクリスマスには三校交えた盛大なダンスパーティーがあるようで、参加を希望する生徒はパートナーを見つけなければいけないというのです。

 私ですか?もちろん興味ないですし、原則14歳以上なので関係ありませんね。そもそもダンスは嫌いです。

 ですが、ここで重要なのはドラコが14歳だということです。兄さんがこういう催しに参加しないなんてありえません。つまり、兄さんが誰か女子と踊るということです!

 それは絶対絶対阻止しなくっちゃなりません。兄さんと一緒に踊るべきは、この可愛らしく超絶妹力を持つ私以外、いません。

 

 という趣旨の演説をドラコに熱弁したところ

 

「いや、兄妹だからだめだろう」

 

 と一蹴されました。

 

「いやいやいやいやいや!!いやいやいやいやいや!!」

「うわ、ソフィアのその感情は初めて見る」

「いやです!兄さんにふさわしい女性は今のところどこにも存在していません!どこの馬の骨ともわからない女と踊るくらいなら私しかいませんでしょうに!」

「お、落ち着けソフィア…。あのなあ、10歳ならともかく、僕は14なんだ。君だって代表選手なのに兄と踊ってたら周りになんて思われるか」

「兄さんは私と踊ることよりも周りの目がだい……え?代表選手ってなにか関係ありますか?」

「ある。代表選手はパーティーで最初に踊るんだ。……ソフィア知ってただろ?」

「あ…え?そうなんですか?」

「だからなおさら兄妹で踊るのは…」

「それとこれとは関係ありませんよ。嫌です、兄さんが私以外と踊るなんて嫌です!」

「そんなこと言われても」

 

 ドラコは私が何を言ってるかさっぱりわからないと言いたげです。いつもの私のわがままだと。いえ、たしかに私の主張のほうが間違ってるのはわかります。ですが理性ではどうしようもできないことは存在します。それがこれです。

 

「じゃあ兄さんは私が誰と踊っても全然…何も気にしないと…?」

「ああ。もちろん相手によっちゃあ僕が後日そいつの横っ鼻を殴りに行くが…」

「じゃあ兄さんが踊ってくれればいいじゃないですか」

「だーかーら。兄妹はだめなんだ」

 

 絶対に噛み合わない平行線の議論…いえ、わたしのわがまま!。

 私は虚しく散り、しょぼくれたまま寮に帰ることもせず湖の辺りに行き黄昏れることにしました。

 

 どうしたってドラコは誰かと踊ります。私が床で泣きながら転がってもそれは変わらないでしょう。…いや、そこまでしたらもしかして踊ってくれるかもしれませんが、それこそ決定的な亀裂になりかねません。

 

 わかっています。私のほうが悪いんです。

 けれどもやっぱり、ドラコが誰かと踊るのが、誰かと私の知らない感情を酌み交わすのが許せないのです。これは独占欲なのでしょうか。それとも私が一番でなくなってしまう恐怖なのでしょうか。

 どちらにせよみっともないことには変わりません。私がそれを愛という名前で覆い隠すのも、そろそろ限界なのかもしれません。

 

 湖をボケーッと眺めていると、ドミニク・ブラッドレイが見えました。畔でじっと水面を眺め、何かを考えています。

 そこにルイス・モンタギューが現れ、ドミニクになにか話しかけました。二人は二言三言話した後、ルイスがその場を走り去っていきました。なんだか泣いてるようにも見えましたが、何を話してるかはよくわかりませんでした。

 

 ドミニクは湖から金色に光るなにかを引き上げるとこちらの方へ歩いてきて、私に気づきました。

 

「君か、ソフィア・マルフォイ」

「ええどうも。あー…どうも」

 私は別にそんなに彼に興味がなかったので座ったままでした。ドミニクも別に歩み寄る気はなく、立ったままです。

 

「もしかしてさっきのを見ていた?」

「まあ…揉め事ですか?」

「いや…そっちではなく、卵の方だ」

「ああ、あれは卵でしたか」

 ドミニクは私の淡白な反応に戸惑ったようでした。

「あれは多分マーピープルの声だ。風呂か何かで聞くといい」

「え……なんでそんな事教えてくれるんですか」

「君は幼い」

 完全にお豆さん扱いですか。まあそれならそれでありがたいです。それにしても水中人とはまた手のこんだ課題のようですね。この寒さで水に入るなんて絶対嫌です。

 

「それでルイス・モンタギューと揉めていたのですか」 

「ああ…。それはダンスに誘われたが、断ったから」

「あら…」

 そんなの人にペラペラ喋っちゃ嫌われちゃいますよ。と、私の中のお節介さんがつぶやきますが、残念ながら今はそんな気力はありませんでした。

「他校との交流のためのイベントなのだから、代表選手、しかも同じ学校同士で踊っても意味がない。そうだろう」

「普通はそんなの関係なく好きな人を誘うと思いますけどね」

「そうか…私には好きな人、とかはよくわからない」

「私も…恋はよくわかりませんね」

 

 好きな人ってなんなんですかね。マリアは自分にないものに惹かれるの、とか言ってた気がしましたが全然わかりません。だって私にないのなんてないじゃありませんか?

 

 好きな人と一緒に踊ることにどんな意味が生まれるんでしょう。触れ合うことで何かが変わるんでしょうか。所詮そんなの、肉体の感触が生むまやかしじゃないんでしょうか。私がドラコに触れられて嬉しいのと、あまり変わらない気がします。

 

「あっ」

 

 そこで私は悪魔的着想を得ました。そう、普通は好きな人を誘う…ならば、私が誘うその人は私の意中の人と解釈されるわけです。

 ドラコに私の気持ちがわかってもらえないのなら、私はドラコに対して同じような気持ちを味わってもらうしかない。

 

「失礼、私大至急やらなけゃいけないことが!」

 

 私はドミニクを放置して走ります。久々に、類を見ない全速力です!

 

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