今年のホグワーツの飾り付けはハロウィンを超えて豪華でした。そもそも毎年クリスマス休暇に学校に居残る生徒は少なく、ツリーはあれど全体的な飾り付けはやや寂し目でした。今年は本気の飾り付けなんじゃないでしょうか?
巨大なクリスマスツリーにはいくつもの飾りが散りばめられ、よく見ると空飛ぶミニチュアサンタらしきものがいます。
大広間の天井からは雪が降り、その広間にはたくさんの氷像や石像が飾られています。ダンスが始まる前からみんなそれを見て興奮で目をキラキラ輝かせています。
これには私もテンションが上がってしまいますね。
「ちょっとソフィアちゃーん、選手がそんなとこいちゃだめでしょうに」
そうやって飾り付けを見学していると、シャイマが私を見つけて廊下へ引きずり出しました。ちょっと寒いです。
シャイマはおそらくは地元の伝統衣装を現代風にアレンジしたエキゾチックなドレスを着ています。去年着ていたものよりよりダンスパーティーっぽくていいですね。
「そろそろ男性陣も来るんじゃない?」
「はあ」
「なんでそんなに気が抜けてるのさ」
ドラコが横にいないからです。
「ソフィア…おまた……せ…」
どうやら私のダンス相手が来たみたいです。おろしたてのドレスローブを着て、(多分)セットした髪はいつもよりは整っています。
ずり落ちそうになった丸眼鏡を直しながら、ハリー・ポッターは私を凝視しました。
「すごい……かわいい」
「まあ当然ですね」
「ご、傲慢…」
私はドミニクを置いて走り去ったあと、フクロウ小屋でヘドウィグを探し出し、いやいやしてる彼女に無理矢理ハリーへのダンスの誘いの手紙を持たせました。手紙には
私と踊ってください。いえ、踊りなさい。いくらでも払いますから
P.S このことは内密に
と書きました。ヘドウィグはすぐに大きくイエスと書かれた返事を運んでくれたのです。
私が着てるドレスは薄いピンクが基調のミモレ丈でうしろにリボンの編上げがあります。足元をふんわりと覆うスカートは年上ばかりのダンスパーティーにはいささか可愛すぎて幼くも思えますが、母いわく「だからこそ」だそうです。
なんとわざわざドビーまでよこして私のヘアメイクをしてくれました。髪の毛に散りばめられた花は私が踊るたびにふわりと微かな香りを出すのだとか。
母上が私がハリーと踊ると知ってたらもしかしたらここまで可愛く仕上がらなかったかもしれません。ですが私はどうしても今できる最高の私になりたかったのです。
ハリー・ポッターと踊る私をみて兄さんには最上級の屈辱?いえ、嫉妬?とにかく複雑な気持ちになってほしいのだから、有無を言わせぬ美しさを身に纏わなければならないのです!
「かぁ〜〜!ねえソフィアちゃん、私はじめはハリーを誘ったのさ。でも無下に断られちゃって…誘いたい人がいるって、ね!ハリーは誰を誘うつもりだったのかなぁ〜?」
「そうだったんですか。すみません強引にお誘いしてしまって」
「え、いや。いいんだ!渡りに船っていうか…超ラッキー」
「はあ?!ちょっとハリー文脈読みなさいよ…」
「うぅ……」
はしゃぐシャイマの後ろに誰かが立っていました。古臭い裁断されたドレスローブの塊かと思ったらなんとロンです。
「殺してくれ…」
それを見てシャイマは爆笑しました。聞くと、お婆ちゃんちのタンスから発掘されたと思しきローブはフリルまみれだったらしく、無理やり切り取った結果パンクになってしまったらしいです。
「あたしはすっごくいいと思うよ?傑作」
シャイマのいういいはお笑い的ないいでしょうが。
「で、結局ハーマイオニーは誰と踊るんだ?」
「え?うだうだしつつ最終的にロン……と思ってたんですが違うんですか?」
「ハーマイオニーは最後まで口を割らなくて」
「あたし知ってるぅ。ロンと踊っていいか聞きに行ったとき教えてもらった」
「え?!なんで教えてくれなかったのさ!」
「絶対当日見たほうが面白いもん。……あ!ほら」
シャイマが指差す方向を見ると、ハーマイオニーが階段から降りてきました。なんと驚くべきことに髪の毛がまっすぐになっています。髪型と化粧とドレスで普段のハーマイオニーとは全く別人です。
しかもそんな彼女にさっと手を差し伸べたのはビクトール・クラムでした。ハーマイオニーのダンスのお相手はなんとクラムだったのです。
「うそ…だろ…?」
絶望のつぶやきを漏らすロンにシャイマはまたも爆笑です。まったく何がそんなにおかしいんだか。ハーマイオニーはもとから結構美人です、ガリ勉なだけで。
ふむ、なるほど…。けれどもロンくらいの絶望顔をドラコにはしていただきたいところです。
「代表選手とそのお相手の皆さん…揃いましたね?」
そうこうしてるとマクゴナガルがやってきました。私達の頭数を数え、(ハリーと私を二度見してから)頷きます。
「準備はよろしいですね?」
ええ。もちろん。
「では…」
そうだ、ここで私は自分のミスに気が付きました。ハリーがみんなの前で転びでもしたらドラコは私への複雑な感情なんかすっかり忘れて一年それを擦り倒すに決まっています!(なんてこと!)
クラムとハーマイオニーを先頭に代表選手とパートナーの入場です。
広間のスポットを浴びても私は全く緊張しません。堂々とこの完璧に可愛い私をドラコに見せつけるのです。しかし、ハリーはガッチガチに緊張しています。
こんなんじゃ兄さんはハリーに夢中になってしまいます!
「ちょっと、ハリー」
「な、なに?」
扉をくぐって右手と右足を一緒に出しそうなハリーを無理やりこっちへ向かせました。
「私だけ見ていてください、ここには私しかいないなら特に緊張しないはずです」
「いや、するよ…」
「まったくもう…」
ドラコの姿が目に入りました。黒いビロードの詰め襟、私が知らない間に母上が用意したのでしょう。とても似合っています。隣にいるパンジー・パーキンソンさえいなければ完璧ですが、私は彼女で少しホッとしました。だって彼女はどんなに背伸びしても私の足元にも及ばないじゃないですか?きちんとヒトであるという事以外はね。
ドラコは私の隣にいるハリーに(…もしくはハリーの隣にいる私に?)驚いて目を丸くして口をぽかんと開けていました。
代表選手8名とパートナーたちは中央に立ちます。腰に手を当てるのをためらうハリーを睨むとハリーはおっかなびっくり手を当てました。
曲が始まります。ハリーの足元はいかにも危なっかしかったですが、及第点ですか。私は適度にハリーに合わせながらも、見せつけるかのように華麗に踊ってみせます。
兄さんさえ素直に言うことを聞けばこんなに陰でダンスの練習をしなくてすんだというのに…。
ダンスが終わり、他の参加者も踊りだしました。
私は確かな手応えを感じ、ハリーの手を引き飲み物の置かれたテーブルへ引っ張りました。
「ふ…見ましたか?兄さんのあの顔…!」
「はは…やっぱりマルフォイを悔しがらせるためだったんだ」
「ええ、私の動機の大半はドラコのためですよ。さてバタービールを一杯……うまい!!!」
「ぼくはソフィアと踊れてすごく嬉しい」
「ええそうでしょう、今日の私は完璧に近いですからね。マルフォイ家の令嬢としても、代表選手としても…ッ!」
「なんか変なテンションになってない?」
「えへへ…流石に少し。あまりにきれいなもので」
「ええと…よかったらもう一回踊らない?」
「いいですよ。何回だってドラコに見せつけるのです」
ハリーは困ったような笑顔を浮かべました。
「ねえ、二人共!」
そこにハーマイオニーがやってきました。紫色のドレスがふんわりと揺れます。流石に彼女も興奮気味です。
「ああ、ハーマイオニー。すごく可愛いですね」
「ありがとう、ソフィアもお姫様みたい」
「びっくりした…まさかクラムと…」
ハリーがそこまで言うと、ハーマイオニーのうしろからぬっとクラムがやってきました。手にした飲み物をハーマイオニーに手渡します。
「どうも、君たちも素晴らしいダンスでした」
「なんか英語めっちゃうまくなりましたね」
「ええ。彼女がヴぉくに教えてくれて」
「そっか、クラムの図書館通いって…」
ハリーの言葉にハーマイオニーの頬がぱっと赤く染まります。おやおやお熱いですね。
「君たちにも、あちらのマスカットジュースを持ってきます」
「え、いや!そんな…全然気を使わないで…」
「ああじゃあお願いします」
クラムは13歳の私でも舐めないでジュースを取りに行ってくれました。ちょっと冗談だったのですが、紳士ですね。
「全然知らなかったよ、君がクラムと…なんて」
「誘われただけよ!でもまあ…そうね、私も予想外だった」
「それにすごく綺麗だ、今日の君」
「ありがとう。ってソフィアの前なのに」
「私は気にしませんよ。ハーマイオニーはこのパーテイーのMVPだとと思います」
「そういう話ではなく…」
「はろろーん。ロン・ウィーズリーさまのお通りだよーん」
そこでシャイマがかしましく登場しました。一曲踊り終わったようですね。ロンが「やめてくれ」という顔をしてトボトボと後ろをついてきました。
「ほら、ロン。ハーマイオニーめっちゃかわいいよ」
「あーもーー」
ロンはなんだか感情がぐちゃぐちゃになっているようで泣きそうなのか怒り出しそうなのかわからない感じになってます。ハーマイオニーが憧れのクラムと踊ったのが彼の感情にエラーを起こしたようです。
「なんでダームストラングの生徒と踊ってるんだ」
「はあ?」
ハーマイオニーの返事がすでにキレてます。めんどくさそうな気配を察知したので私はスッ…と一歩下がりました。無意識でハリーのローブを掴んでたので彼も一緒に一歩下がってます。
「そもそも私が誰と踊ろうが、ロンの許可なんて必要ないと思うけど?」
「そういうことじゃなくて、彼は敵じゃないか!」
「敵って何?この試合はそもそも、3校の交流が目的なのよ!」
面白がって連れてきたシャイマが想像以上の火の付き方に引いてます。クラムがのそのそ戻ってくる気配がしてきたので私は更にもう一歩スッと引きました。
「逃げます」
私はハリーにつぶやいてするりとその場を立ち去りました。まったくこんな時に喧嘩なんてしなくても!
「待って、ソフィア」
なぜかハリーもついてきてました。いたたまれなくなったのでしょうか。まあ喧嘩を見るよりかは普段見れない先生方のダンスやらを見たほうが楽しいに決まっていますもんね。
「あの二人はなんで喧嘩するんでしょうね?」
「普段は仲いいんだけどね」
「もう一曲踊りましょうか?」
「うん、もちろん」
一通り踊ったあと、私とハリーはあつすぎる会場から出て中庭に面した廊下にいました。途中からドラコのことを忘れて楽しんでしまいました。さすがの私のこの大イベントにはしゃいでしまいました。
「ソフィアから誘われて嬉しかった」
降りゆく雪を見て私は去年のクリスマスを思い出します。エクリジスと名乗るガキ。私に使命があるとほざいてそれっきりです。
「私も受けてもらえて助かりました」
「…ちなみに僕じゃなかったら誰を誘うつもりだったの?」
「いえ、どんな手を使ってもハリーと踊るつもりでしたから」
「ほんとにすごいなソフィアは…」
「すごい頑固でしょう?甘やかされて育ったもので」
「ううん。ぼくも頑固だから」
「そうなんですか?…そういえば私、ハリーのことってよく知りませんでした」
「ぼくはソフィアのこと結構知ってる……と思う。その、ずっと見てたから」
「へえ。じゃあ私はどんな人間か、答え合わせしましょうか?」
「いいよ」
ハリーは緊張した面持ちでベンチに座り私へ向き直りました。間違えても怒りませんよ。
「まず…マルフォイのことが一番」
「正解です」
私と言ったらこれですよね。私がニコッと微笑むとハリーも微笑み返してくれました。
「自信家」
「うぬぼれ屋ってことですか?」
「ううん。どっちかというと自分のことがわかってるからこそ、控えてるっていう感じ」
なかなか鋭いですね。たしかに全力を出したことはないです。明らかに不自然ですし、不審がられますから。控えてる…か。ものは言いようです。
「なら正解ですね」
「でも実は目立つことは嫌いじゃない」
「あたりです」
「ものすごくマイペースで頑固」
「ええ。でもそれくらいならジニーなら全部常識ですね」
私がちょっと煽るように言うと、ハリーは少しだけ考えて、微妙なカードを切るときみたいな顔をして言いました。
「じゃあ…実は大きな秘密を持ってる…」
「…ふうん?どんな?」
「なんとなくだけど…僕にとってのヴォルデモートみたいな、そういう大きな存在があるんじゃないかなって」
これは…アブラクサスのことでしょうか?たしかに去年、ボガードが彼の病室の扉に化けましたから。あれは失敗でした。ハリーに見られて、しかも強く印象に残っていたとは。
とりあえず今は笑ってごまかします。
「…はは。流石にヴォルデモートレベルの秘密なんてそうそう持っちゃいませんよ。でもそうですね…大体あたりってことにしてあげます。たしかによく見てるようですね」
「よかった」
ハリーは軽いリアクションの私に安堵したようです。人の微妙に痛いところをついておいて何いい笑顔をしてるんでしょうか。
「私もハリーのことよく知ってますよ?『悲劇のヒーロー?生き残った男の子、その眼鏡の奥に隠された瞳は同級生の秀才女子生徒に恋をしている…?』」
「そ、それ日刊予言者の記事じゃないか!」
「『切ないグリーンの瞳は課題への不安と、グレンジャーへの恋しさで染まっていた…』」
「やめてくれ!それは全部でっち上げだ」
私は本気で狼狽えるハリーに満足です。
「わかってますって。からかったんです」
ハリーは赤面を冷ますようにして立ち上がって雪のそばへ行きます。日刊予言者新聞には本当にお冠だったようです。
「まったく、ハーマイオニーのことはもちろん大好きだけど…友達としてだからね。…ぼくは……ぼくはその…ちゃんと好きな人がいる」
「そうなんですか。皆さんちゃんといるものなんですね…」
「その口ぶりだとソフィアはいないんだ?」
「特には。ピンとこなくて」
「そう…」
ハリーはしょんぼりしているような気がしました。逆にハリーもおませさんですね。お主も悪よの?いえ、んー…わかりません。
「んぇっくしょい」
外で喋りすぎたのか、くしゃみが出てしまいました。恥ずかしい。ハリーも思わず笑っちゃってます。
「中に戻ろうか?」
「ですね」
二人で中に戻ると、フラーとセリルダが口論しながらロンを囲んでいました。
フランス語なのであんまり何言ってるかわかりませんが、それを笑いながら見ているシャイマいわく「フラーを誘ったんだから私も誘えってセリルダがロンに絡んで、それを注意したフラーにロンと踊れって怒ってる」とのこと。
ロンは消えてしまいたいというような顔をしています。
私はあたりを見回します。ドラコの姿はなし。
「そういえばハーマイオニーはどうしたんです?」
「あのあとクラムが戻ってきて、ロンがしょんぼりしちゃって喧嘩は終わっちゃった。で二人で消えた。今頃チューでもしてるんじゃないの?おほほほほ」
「あらー大人ですこと…」
「ロ、ロン…!大丈夫?」
ハリーはロンを助けに行きました。しかしそれを見たセリルダは逆にハリーを捕まえます。
「ハリー・ポッター!マルフォイのちびっこと踊るとは私を驚かせますわね!今から私と踊って善悪のバランスを取るべきだと思いませんこと?」
「えぇ?!」
「フラー、あなたはそこのウィーズリーと踊りなさい。ダンスバトルですわ」
「まったく、あなーたはいつもそうでーす!私の都合を一切ー考えませーん!」
フラーはぷりぷり怒っています。やっぱり母校でもいつもこんな感じなのですね。
「じゃあ私がウィーズリーと、あなたがポッターと踊ればいいですわ!ほら、
セリルダはロンの手を引っ張って踊り場へ。そしてフラーも何故かハリーの手を引っ張りその隣へ。なんで?多分日頃こういう流れを繰り返したせいで体が勝手に動くのでしょう。ドラコがハリーを見かけたら飛びつくのと同じです。
ハリーは困惑のままダンスフロアでフラーにリードされてます。
「あのセリルダって人めっちゃ面白い」
「お騒がせ大迷惑女です」
「あは、ハリーとられて嫉妬してる?」
「いえ…なんでですか?」
「くはー…」
そういえばシャイマは今回私が選ばれたことに関与しているのでしょうか。彼女の実家はアブラクサスと通じています。というか不死の研究をしていたくらいです、なんなら黒幕なんじゃないでしょうか。
「シャイマ、あなたのご家族は私が選ばれたことに関してなにか言っていましたか?」
「え?」
シャイマは一瞬キョトンとしました。そして私の言ってることの意味に感づくと、すうっと笑顔が消えていきます。
「ごめん、わからないんだ…」
「あなた私の監視役なんじゃないんですか?」
「うん。まあ…」
シャイマはすごく渋い顔をしています。いつものおちゃらけた彼女からは想像できないほど沈んだ、真剣な顔をしています。
「あたし…やになっちゃったんだ…。ホグワーツが大好き。友達もたくさんできて、毎日楽しくて…なのにどうして、あたしは
「あら。想像していたよりもあなた、普通に子どもなんですね」
「ッ…あのねえそういうのは大人が言うセリフじゃん…!ほんと…ソフィアちゃんって何者なの?」
「私もそれが知りたいんですよ」
「はあ…」
ダンスフロアでは転びそうになるロンをセリルダが振り回しています。ハーマイオニーと喧嘩したあとフラーと踊れと強要されたあげくのこれは可哀想すぎます。
「ごめんね、昔酷いこと言っちゃって…」
「いや、普通に許しませんけど…」
「えっうそ。えっ…えー……」
「でももう気にしないでください。やりにくいので」
「あ、そお………。やっぱソフィアちゃんってへんだわあ…」
「はあ?」
唐突に悪口を言われちょっと怒り気味の私の顔を見てシャイマはくすっと笑いました。
「でも、ありがとね」