兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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09.汚れた手

 ごぼり。口から漏れたあぶくがそのまま私の口の周りに残ります。あぶく玉の呪文、そんなに長持ちしないものですが結局スピード勝負なんですから気にしたって無駄です。

 コートは水の中でも重しになるようなことはなく、地上と同じように私を覆っています。

 水中は濁っていて水草も繁茂しています。視界はせいぜい2メートルでしょうか。杖でなんとか魔法をかけて…ああもう、なんてしても無駄ですね。川底を歩くようにあくせく泳ぎましょう。

 

 水中は不気味な気配で満ちています。悪意的な眼差しを感じてそちらに杖を向けると、何かが泳ぎ去っていきます。水中人でしょうか。

 しばらく泳ぐと生き物の気配が濃密になってきました。水草もどんどん背が低くなり、上の方の視界が開けて来ています。かわりに石作の建造物のようなものがちらほら見えて来ました。

 私の頭上を大きな影が横切りました。

 魚かと思いましたが、ちらりとダームストラングの校章が見えた気がしました。変身術を使った代表選手でしょう。水草の中に紛れてる私に気づかなかったのですかね。気づいたところでまあ、このゲームは選手同士の競争である以前に人質救出ゲームです。構ってられるはずがありません。

 私も急がないと。ダンブルドア管理下で人質が命を落とすことはないだろうとふんではいますが、万が一があったらたまりませんからね。

 

 泳ぎと歩きの中間のような速度で、ようやく広場らしきところに辿り着きました。中央の石段から鎖が伸びて何人か繋がれているように見えます。

 あ、いましたドラコです。かわいそうに、きれいにセットしてある髪も水草のように揺れています。その他の人質含めてパッと見死んでいるようにしか見えません。

 

 私は杖を取り出して鎖の根本までまたもったりと歩いていきます。そんな私を水中人が遠巻きに見ていますね。子供だから攻撃しないように配慮されているんでしょうか?うーん、たしかにドラゴンよりは話が通じそうですけど。

 

 代表選手はすでに何人か到着しているのでしょう。いくつかの鎖は下へ落ちています。

 また誰かが泳いできました。セドリックです。続いてルイス・モンタギュー。それに遅れてハリーが泳いできました。

 どうやらまたここにたどり着いてないのが二人いるようです。のんびりしていた私より遅いなんてだめですね。

 私が鎖の根本にたどり着く頃にはセドリックもルイスもとっくに鎖を解いて人質を救出していました。ハリーも少し苦戦していますがなんとかなりそうです。

 私はドラコの鎖だけ破壊しました。ドラコがゆっくり浮き上がったので私もジタバタともがいて上へ行こうとします、が。制服が重いです。そして私、泳ぎなんて浅いプールでしかしたことありませんでした。浮上はなかなかに手こずります。

 するとハリーが手を差し伸べて私をドラコのそばまで引き上げてくれました。私はハリーにお礼をいいますが、ごぼりとあぶくが出ただけです。

 ハリーは首元にエラが生えてます。(気持ち悪いです)ハリーもこのまま浮上するのかと思いましたが、まだ繋がれている二人の方へ泳いていきます。

 

 

 私はドラコの脇を抱えて浮上しながらそれを見ます。どうしてハリーはああもお人好しなんでしょう?人から酷い扱いを受けたことがないのでしょうか?どうせ人質なんて死にません。馬鹿正直に助けたところでなんの得もありません。

 案の定、水中人の妨害にあっています。タコ足の水中人が絡みつき、ハリーの杖を奪おうとしています。

 私は杖を振り、ハリーの周りにいる水中人を撃ち落としました。ハリーはびっくりした顔で私を見てから、大慌てで残り2つの鎖を解きます。ハーマイオニーと年をとった女性です。

 

 三人抱えて浮上するのは難しそうに見えましたが、ハリーは逆噴射呪文で爆速で水面へ上がっていきます。なんと。美しくありませんが私ももう少し急いだほうがいいかもですね。

 水上のぼんやりとした昼明かりがもうすぐそこに迫っています。あともう一息、気合を入れてバタ足をしようとした足に何かが絡みつきました。

 

 湖のそこから映える水草です。どうして今更足に絡みついてくるんでしょうか。鬱陶しく思い藻掻きます。(文字通りですね)しかし水草はなおも足に絡みつき、さらに意思を持ったかのように私を水中へ引っ張ります。

 私は自分の体重と引き換えにするように、ドラコを水面へ投げました。ゆっくりですが確実に浮上しています。そして足の水草を魔法で切りつけます。

 ずたずたに切り裂かれた水草は藻屑のように散っていきます。しかしすぐにこんどはそのクズが寄り集まり、もう片方の足にへばりつきます。沈んでいく私の体、スカート、コートに次々と水生植物がまるで悪魔の罠のように絡みついてきます。

 

 …これはちょっとまずいですね。

 

 呪文を乱射し体をよじってなんとかその植物たちから逃れようとします。ストッキングが破り取られスカートが千切れストリーキングか出来の悪いポルノみたいな格好になっていきます。

 絡みつく先端を振り払っても意味がありません。私はギリギリ視認できる深い位置にある茎から先を切断しました。

 

 植物の猛攻が緩みました。あたりは暗いです。ずいぶん深いところまで引きずり込まれてしまったようですね。美しくなかろうが、このすきにハリーのように逆噴射呪文で急上昇するほかありません。

 

 杖をふろうとほんの少し下を向いたときでした。赤っぽい閃光が瞬いた刹那、私の口の周りにあるあぶくの塊が細かい泡になって水中に霧散しました。それに気を取られてると今度は杖を掴む手を何かががし、と掴みます。そして腹に強い衝撃が走りました。肺に残った空気が一気に漏れ出します。痛みに朦朧とした意識の中で白目を向いた水中人がゆっくり沈んでいくのが見えました。

 《おぼれる》

 

 死なない私の体は果たして水の中で窒息するんでしょうか?答えはすぐわかりました。だって死ぬほど苦しいんですもの。

 水をたくさん飲んでしまいました。意識を失って浮き上がることができなかったら、私、このまま…。

 

 上か下かもわからず私はもがきます。最後に見えたのは薄暗い闇の向こう、もっと深い陰でした。

 

 

 

 

 

 

 

 あつい、体。人のぬくもり。生き物のあつさ。まるで死へ向かう篝火。

 私を抱きしめる青年はまるで今生の別れかのように私をきつく抱きしめている。こうやって私を抱きしめてくれる人はもう、あんまりいない。

 

「きついよ」

 

 そう言うと青年は離れた。プラチナブロンドの髪は少し乱れていて、目の周りが赤い。少年の頃みたいにあどけない、今にも泣き出しそうな顔をしている。さっきのパーティーでは立派なお世継ぎとしてスピーチしていたくせに、私の前ではいつまでたっても初めてあった十歳の子供のときのままみたい。

「ごめん」

「前あったときとは別人だね?アブ」

「だってもう…5年ぶりだ」

「私にとっては一週間ぶりくらいだからさ」

 

 彼の家は私達の研究に小さくない額を投資していて、その関係で小さい頃からよく一緒に遊んでいた。私がダームストラングを卒業して、時間が止まってからずっと、彼にとっては毎年…。

 私にとっては彼との出会いはせいぜい一年くらい前のことなのに、彼にとっては十年間、ずっと変わらない初恋のお姉さんなのだ。

 

 世界の時間は流れていて、私の時間は止まっている。

 その残酷なギャップが私を孤独にしていく。彼は私の孤独に寄り添おうとして、感じなくていい寂しさを恋慕と思いこんでいる。それを克服できると錯覚している限り、私とわかり合うことはできないのに。

「神秘部に入りたいと…言ったんだ」

「反対されたでしょう」

 彼は頷いた。

「僕は…君の助けになりたいのに」

 小さい頃からそう言ってたね。そのたびに私は心の中で彼を、いや。彼とその背後にある世界を嘲笑ってたのに。本当に馬鹿なんだから。

「それじゃあ…あなたが当主になったら、私達の盟友になってよ」

「……盟友?」

「そう。本当の目的を果たすための真の仲間」

「キンブリーの研究は古い闇の魔法の研究じゃないのか?」

「それは副次的なもの。私達の本当の目的、それは……“魔法”を」

 

 

 

 

 

 目が、覚めました。

 

「げほっ!ごほっ!」

「ああ、ソフィアッ…!」

 

 視界いっぱいに広がるドラコの顔が更に近づいて真っ暗になって、冷え切った私の体にはあつすぎるぬくもりが包み込みます。実際にはあんまり温かくないんだろうけど、私にはこれ以上ないぬくもりです。ああ、どうやら私は無事救助されてドラコと感動の再会を果たしたようです。

 

「死んだかと思った…!」

「ドラコ…」

 

 ドラコは震える体で、肩から落ちた毛布を拾う余裕もなく私を強く抱きしめています。ああ、なんか重要な夢を見ていたような気がしますがもうそんなことどうでも良くなるくらいにドラコからの愛を感じますね。これまでにないほどにドラコの気持ちが伝わってきます。

「大丈夫、私は死にませんから」

「ばか…!こんな無理して…僕を助けに来るなんて!」

「兄さんのためなら私、火の中にだって飛び込みますよ」

 実際、火の中水の中草の中森の中くらいなら全然行きます。今回のように、()()()()()()()()()がいたとしても。

 

 第二の試練の結果はこのようになりました。

卵入手済み

マクシームクラウチダンブルドアバクマンカルカロフ
クラム25547
ハリー899105
ドミニク678710
ソフィア36666

卵未入手

マクシームクラウチダンブルドアバクマンカルカロフ
セリルダ108996
ルイス877710
セドリック799107
フラー108886

 

さらに一着のセリルダ、二着のセドリック、三着のフラーには追加でそれぞれ20点、10点、5点が与えられます。

 

セリルダ・グリンデルバルド 103点

ハリー・ポッター 100点

ドミニク・ブラッドレイ 96点

セドリック・ディゴリー 90点

ビクトール・クラム 83点

フラー・デラクール 80点

ルイス・モンタギュー 75点

ソフィア・マルフォイ 72点

 

 私は前回の卵獲得貯金を使い果たしドン欠です。が、やはり低学年の生徒には厳しすぎる試練だったこともあってか、生徒関係者世論含めて全員同情的です。そりゃそうか。

 

 意外なのはクラムがハーマイオニーのもとにたどり着けず、私と同じように救助されていたことです。どうやらサメに変身したクラムは水中人たちの襲撃に遭い岩に突っ込んでしまったようです。それを助けたドミニクは人質救出に遅れを取りましたが、ダンブルドアとカルカロフにより加点されていますね。クラムは何も言いませんでしたがいつもより怖い顔をしています。

 堂々一位のセリルダ・グリンデルバルドはかけられた毛布をまるでマントのように翻しておりましたとさ。

 

 医務室へ運ばれた私はドラコに死ぬほど甘えてりんごをあーんしてもらいました。溺れてよかった〜。

 隣のベッドには人質だったハーマイオニー、そしてドミニクの母親だという女性も大事をとって寝かせられていました。ハーマイオニーはもうほとんど元気だというのに収容されることについてやや不満げでした。

 

「別に、クラムにがっかりしたわけじゃないのよ?でもサメに変身したせいで混乱したっていうのは…彼らしくないんじゃないかしら」

「ロンいわくクラムは頭空っぽスポーツバカだそうですが?」

「そんなことないわ。たしかに彼はその…あんまり本は読まないけど…サメに変身したからって脳みそまでサメ並みになるわけじゃない」

「…誰かにやられた、と?」

「その可能性もあるんじゃない?ドラゴンのときと違って今回は選手同士で蹴落としあえる…いえ、それも込みの課題だったかは別としてね。ソフィア、あなただって…そんな簡単には溺れない。そうでしょう?」

「そうですね。ええ。でもダンブルドアはそれを指摘しなかった。単に誰かの犯行がバレなかったのか…それとも泳がせているのか…」

「証拠は見つかってない、ということよね。でもダンブルドアも気づいてるはずよ。……ソフィア、私てっきりハリーが狙われてるんだと思ってたわ。でももしかしてあなたが狙われてるんじゃないの?」

「そうかもしれませんね」

 

 さて、そろそろ肝心の質問をしてみましょうか。

「…そんなことより、ハリーはどうしてエラ昆布なんて貴重なものを持っていたんです?」

「え?ああ…」

 ハーマイオニーは一瞬言い淀みます。そりゃエラ昆布なんて生徒が簡単に手に入れることができるわけありませんから。

 

「あれはどうやらクラウチがくれたらしいの」

「クラウチ……ってあの?」

「ええ。潔白そうだと思っていたけど意外よね?」

 少なからず驚きました。だってあのクラウチですよ?息子をアズカバン送りにするほどの公正な人間のはずなのに。

 

 私の命を狙う誰か、そしてハリーを勝たせようとしているクラウチ。

 面白くなってきましたね。

 

「ねえソフィア、次の課題は無理だと思ったらリタイアして。お願い」

「ええ。正直もう飽きてしまいました」

 

 

 

 

なんて言いながら、君は次で犯人を捕まえる気だったりして?

 

いいえ?

 

おや

 

ダンブルドアの監視下で事を起こそうなんてとんでもない。あなたじゃないんだから。やられたらもちろんやり返しますけど…

 

はは、さすがにぼくもマートルのときはあとから肝を冷やしたよ。彼はぼんやりと僕がやったと確信していたからね

 

あなた、問題児でもなかったのにそんなに信用されてなかったのある意味すごいですよね

 

まったくだよ。ダンブルドアが今のハリー・ポッターに対してみたいに……父親のように僕に振る舞っていたら、多少は変わっていたとは思わないか?

 

あら、凡庸なことを言いますね。父親がいようと、母親がいようと、人はなるようにしかなりませんよ。私が幸せな家族がいるにもかかわらず()()なのは、そのように生まれついたからです

 

つまり僕は生まれついての闇の帝王だった、というわけだね

 

そうでしょ?たとえダンブルドアの息子のように暮らしていても、あなたは自分の血筋を知ったら馬鹿な間違いをするはずです

 

手厳しいね。でもまあ反論はしない。化物が言う実感にヒトの僕が楯突くなんてね。

 

今のあなたも本体も立派に道を踏み外した化物ですよ

 

軽口の叩き合いもここらへんにしておこうか。さて、君を殺そうとする誰かはともかくとしてハリー・ポッターを勝たせようとしてるクラウチについてどう思ってる?

 

そうですね。評判や噂話からすると不自然に思えます。そりゃ人間誰しもある程度のたなごころはあるでしょうが、彼のような人間がエラ昆布を与えてまで選手個人を勝たせようとするのは奇妙です。

 

選手個人を、というかハリー・ポッターをね。逆に、彼がハリー・ポッターを殺したいというのはまあわかるんだ。

 

クラウチは息子が死喰い人でしたがすでに死んでますよね。そこらへんが屈折して殺したいに変容する…まあそれは確かに理解できます。ですがやはり勝たせたい…というのはわかりませんね

 

彼が俗物なら、簡単に答えが出せるんだけれどね。

 

……ま、そんなのどうでもいいんですけどね

 

なんだい、急に

 

どうせ次の課題で最後です。かよわい私はせいぜい死なないようにするだけ

 

嘘だ、君今なにか急いでるだろ

 

 

 

 私はばたん、と日記を閉じて慌てて立ち上がります。ドラコが中庭を横切るのを見かけたからです。私は人気の少ない北側の通路から慌てて日差しの降り注ぐ中庭に駆け出しましたが、ドラコは大広間に続く人だかりに消えていくところでした。

 これでは私を見つけてもらえません。ちょっとため息をついてから空いてるベンチに腰掛けました。中庭ではボーバトンの生徒とレイブンクロー生がチェスをして遊んでいます。よくみるとロンやスリザリンのノット、ハッフルパフの監督生もいますね。どうやらチェス大会のようです。

 なんやかんや他校との交流は深まっているようですね。

 

「恩人に挨拶なしとは…」

 

 ふいに上の方から声がかかりました。上を向くとセリルダ・グリンデルバルドが背後からベンチを回って隣に腰掛けてきました。

「マルフォイ家では礼儀を教えないのかしら?」

「……恩人?」

「ええ、そうですわ。まああの状況ですもの、覚えてないのも無理ありませんが」

「どういうことですか?」

「あなた、水から引き上げられたあと本当に死んでたみたいになってたんですのよ?ダンブルドアが魔法で水を吐き出させたけど息をしてなかった」

「なんとまあ」

「そこで私がマグル式蘇生術を施しましたの。するとあなたは息を吹き返し、見事生還…!」

「マグル式蘇生術……?」

「マウストゥーマウス、ですわ。口から直接息を吹き込んで自律呼吸を…」

「は?口から直接?」

「ええ」

「それって……き……」

「人工呼吸というんだったかしら?原始的な手段も役に立つときは役に…」

「キスじゃないですかッ!!」

 

 

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