兄さえいればいい   作:ようぐそうとほうとふ

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04.驚くべき組分け

 駅に向かうまでにはすっかりルシウスは上機嫌で、子供らしくホグワーツの様々なことを質問するソフィアに答えてやっていた。ドラコもちょっといじわるな答えを返したりして、場の空気は次第に和んでいった。

 

 

 キングス・クロス駅で子どもたちはたくさんのキスを受けて列車に乗り込み、ホームで手を振る両親に手を振り返す。ドラコも同様に両親からの愛を受け取り、列車の窓から手を振った。今年は去年と違って横に妹がいる。

 ソフィアは両親への挨拶もそこそこに興味深げにホグワーツ急行の中をぐるりと見回していた。

 

 ドラコはスリザリン生の固まる車両にコンパートメントを見つけた。しかし座っても落ち着く暇なく、ソフィアを見に何人かの同級生がコンパートメントを行ったり来たりして中をちらりと覗き見ようとしている。

 

 マルフォイ家の令嬢、ドラコの妹というかけられた札だけでなく、これだけ可愛らしければ男子も女子も放っておけないのだろう。

 

「兄さんは人気者ですね」

 

 そんな事を知ってか知らずか、ソフィアはドラコを見て微笑んだ。ソフィアは自分の魅力に関してはいつも過小評価している。逆にドラコに対しては過大評価だ。

「どうかな」

「そうですよ。だって兄さんは私と違ってとっても素敵な人だから」

「何言ってる。ソフィアも素敵だよ。なんて言ったって僕の妹なんだから」

 ソフィアはそれを聞いて微笑を返した。ドラコはちょっと自惚れてるかな?と恥ずかしくなってしまった。

 

「ところで兄さん、さっきの書店でのことなんてすけど…」

 

 ソフィアが話し始めた途端、コンパートメントのドアがノックされた。ドラコが「誰だ?」と言うとドアを開けてセオドール・ノットとエイドリアン・フリントが入ってきた。二人と目が合うと、ノットが気取った口調で挨拶した。

 

「やあドラコ。そしてはじめまして、ソフィア・マルフォイ嬢。噂はかねがね」

「ノット、エイドリアン。久しぶりだな。ソフィア、二人は僕の同級生。ノット家の長男に、フリント家の次男」

「はじめまして。兄がお世話になってます」

「こちらこそドラコお兄様には世話になりっぱなしで。な」

「茶化すなよエイドリアン。ソフィア、エイドリアンのお兄さんはクィディッチチームのキャプテンなんだよ」

「そうとも。優秀な兄を持つもの同士仲良くできれば光栄だね」

「私にとってはエイドリアンさんもお兄さんですよ」

「お兄さんか。新鮮だな」

 エイドリアンはまんざらでもなさそうに首筋をかいた。ソフィアはお世辞を言うのがうまいだけだって言うのにまったく。

 

「にしても君たち二人が連れ立ってるのも珍しいな」

 ドラコの疑問にセオドールがエイドリアンを指さして答えた。

「ああ。そこで一緒になってね。僕は単に同じコンパートメントの連中にうんざりして散歩していたところさ」

「僕はドラコを探してたのさ。君、クィディッチの入部希望出してたよな。シーカーになりたいんだって?兄貴から聞いたんだ」

「ああ。飛行訓練の成績は良かったし、視力には自信があるから」

 それを聞いてエイドリアンは眉を釣り上げ、大仰な口調で言った。

 

「まさかポジションが被るなんてねえ。僕もシーカー希望さ」

 

 ドラコは一瞬エイドリアンの目が意地悪く光ったのを見逃さなかった。なんて言ったって彼は現キャプテン、マーカス・フリントの弟なのだ。実力が同じくらいだったら絶対彼が選ばれる。

「じゃあ敵情視察かい?」

「ふっ、違うよ。単に励まし合いに来ただけさ」

「ああ…わかった。お互い頑張ろう」

 ドラコはエイドリアンと握手をしつつ、内心焦っていた。

 エイドリアンはドラコへの牽制パンチは無事成功したと思ったのだろう。視線をさまよわせているソフィアを見て一息ついていった。

 

「さて、じゃあ僕はもう用がないし消えるよ。兄妹水入らずの邪魔しちゃ悪いし」

「僕もお暇しよう。兄妹がいるの羨ましいよ」

 セオドールは本当に羨ましそうだった。

「いると案外邪魔だよ。なあドラコ」

「ソフィアを邪魔なんて思ったことないさ」

「ええ。兄さんがいない私なんて考えられません」

 ドラコの言葉にソフィアはニッコリと微笑んで答えた。それをみてエイドリアンは肩をすくめた。

「おっと…いよいよ僕らはお邪魔だね。早く退出したほうがいいな。それじゃあな、ドラコ」

 

 ノットとエイドリアンがコンパートメントを出ていくとソフィアはふうと息を吐きだした。

「緊張しました」

「そうは見えなかったけど」

 ソフィアがなにかに物怖じしたり緊張することはあまり見たことがない。なにかあると取ってつけたように緊張したと言ってるが、いつも汗ひとつかいてない。

 

「ところでさっき何かいいかけてたよな?書店で…なんだっけ」

「ああ、そうでした。兄さんは書店で父上とウィーズリーさんが喧嘩したあとのこと、覚えていますか?」

「喧嘩したあと…?」

「はい。あのあと父上がウィーズリーさんの末っ子の鍋になにか入れたんです」

 

 父上が、ウィーズリーの女の子の鍋に何かを入れた?

 

 あまりに突拍子もないことをいうのでドラコは一瞬ぽかんとした顔を浮かべ、間抜けな質問をしてしまった。

「え?確かなのか?」

「はい。…そうですか、兄さんは気付きませんでしたか」

 むしろあの状況でよくそれに気付けたものだ。ソフィアの見間違えかなんじゃないかとも思ったが、ソフィアは確信のないことをみだりに話すような性格ではない。

 

「父上は一体何を入れたんだろう」

「さあ。けど本か手帳のように見えました。かなり自然に教科書の間に入れていたので…。あんなことがあったあとではあの娘に直接確かめるのも憚られますねえ」

 ボージンの店では何も買い物しなかった。となるとうちの秘密の部屋から持ち出したのだろうか?呪いの品には事欠かないが、一体どうしてウィーズリーの娘の荷物に忍び込ませたのだろう。さっぱりわからない。

「ああ。…それに父上もなにか考えがあってのことだろう。僕らが邪魔しちゃまずいんじゃないか?」

「はあ…兄さん。つまらないこと言わないでください」

 

 ソフィアは急にむっつりした顔になった。

「は…?どうして」

「どう考えても変じゃないですか。気にならないんですか?」

 またソフィアの好奇心がくすぐられているらしい。この点に関してはどうしてもドラコと気が合わない。

「あいにく僕はソフィアと違って慎重なんだよ」

「え?去年禁じられた森にはいったって聞きましたよ」

「あれは…!偶然が重なったんだ!それに大したことないぞ、森なんて」

「じゃあ行ってみます」

 残念ながらソフィアには危険を顧みることができないのだ。リスクとリターンの天秤が最初からない。そのせいで幾度となくドラコは肝を冷やした。

「ダーメだ!バレたら父上になんて言われるか。それにソフィア、妹が危険な目に合うなんて兄として見過ごせない」

「む……んーーっ…つまらないです!」

 

 ドラコが兄という立場を持ち出すとソフィアはいつも不服だろうと黙るしかなかった。しかし黙ったからといってやらないわけじゃないのだ。小さい頃からいつもソフィアは表面上従ったふりをするのが大得意なのだ。ドラコは寮ではソフィアを厳しく監視しようと決心した。

 

 

 他愛のない会話をしているうちに車窓から見える景色は夕闇に沈み、クラップとゴイルが合流してきた。気づいた頃にはコンパートメントにお菓子が溢れ、すっかり夜になっていた。

「晩餐の前によくこれだけ食べれるな…」

 ホグワーツ魔法魔術学校に近づく頃にはあたりは一面の森で、ソフィアは木々の隙間から城が見えないかと暗闇に目を凝らしていた。

 

「さすがにまだ城は見えないよ。駅からずいぶん歩くんだから」

「え…?ああ。そうですね」

 

 新入生用の黒いネクタイを締めたソフィアはプラチナブロンドの髪とのコントラストで余計青白く、人間離れして見えた。身内のドラコから見てもきれいだと思うのだから、下手したら上級生からも目をつけられるかもしれない。

 

「何かあったら僕に言うんだぞ。おまえは目立つから」

 

 ソフィアは瞳をキラキラさせてドラコを見つめた。

 

「やっぱり、兄さんは優しいですね」

 

 

 列車がホグワーツ駅に滑り込む。外はすっかり真っ暗で、列車から漏れるオレンジ色のランタンと街灯だけが頼りだ。ソフィアは列車を降りるとハグリッドが「いっちねんせい、いっちねんせい」と呼んでるのが聞こえた。

 ソフィアは急にドラコに抱きついた。

「兄さん…いってきます」

「ああ、またスリザリンのテーブルで」

 ソフィアはニコッと笑うとドラコに手を振って行ってしまった。

 

 ドラコは人混みからノットやザビニを見つけ、休暇の思い出を語り合った。昨年は船に乗って学校へ向かったが、今年からは馬車馬なしの馬車らしい。

 しばらく揺られていると、学校についた。またあの豪華な晩餐が食べれると思うとわくわくしてくる。ドラコは実家では食べれない油っこくて味の濃い料理が実は大好きなのだ。

 

 大広間について新入生の登場を待つ間、グリフィンドールの席にハリー・ポッターの姿が見当たらなかった。ドラコはザビニたちと「退学じゃないのか」なんて軽口を飛ばし合っていた。

 

 

 新入生が入場すると4つのテーブル全てから割れんばかりの拍手が響いた。去年は自分がそこにいたのだと思うと感慨深い。

 ドラコは列の中からソフィアを見つけた。ソフィアは横にいる赤毛の女の子と親しげに話している。

 まさか…と思い話し相手の女の子の顔を凝視した。なんとウィーズリーの末娘だった。昼間あんなことがあったのに、しかも父親同士が犬猿の仲だというのによく話しかけたものだ。

 

 ソフィアはこれまで友達を作ろうとしなかった。ドラコには幼少期からクラップとゴイルと親交があったし、同じ純血一族の子どもたちと年に何度か遊んだりしていた。だがソフィアはそういう集まりに出席するのをずっと拒否していたのだ。なのでてっきり人嫌いなのかと思っていたのだが、どうやら勘違いだったらしい。楽しそうにウィーズリーの末っ子と、まわりの女の子達と話していた。ドラコは妹の意外な一面に驚きつつも安心した。

 

 組分けの儀式では例の帽子が寮の名前を叫ぶわけだが、どれくらいの時間帽子が悩むかどうかは重要な要素だとドラコは思っていた。

 ドラコの時、帽子は頭に触れるか触れないでスリザリンと叫んだ。それはつまり悩むまでもなく、自分はスリザリンにふさわしい純血の子息だということを示している。

 例えばゴイルなんかは純血だというのに帽子はうんうん悩んだ末スリザリンと叫んだわけだが、これはおそらく、ゴイルにはスリザリンたる資格はあっても資質がイマイチだったのだろう。

 ハリー・ポッターについても帽子はずいぶん悩んでいた。(スリザリンを打診されていたとしたらどうしよう?あいつがスリザリンに来ていたら、去年の自分はどうなっていたのだろう)

 

「ソフィア・ナルシッサ・マルフォイ!」

 

 ソフィアの名前が呼ばれた。

 ソフィアも当然帽子は即座にスリザリン行きを告げるだろう。ドラコは確信していた。

 しかしいざソフィアが帽子を被せられると、帽子は黙りこくってしまった。帽子は五秒ほど沈黙したあと、ソフィアと言葉を交わして告げた。

 

グリフィンドール!

 

 スリザリン席とグリフィンドール席からわずかにどよめきが上がった。

 ソフィアは椅子から降りるとまばらな拍手を受けながらグリフィンドールの席へ向かった。

 

 ドラコはぽかんとして妹の後ろ姿を凝視した。当たり前の用にスリザリンに来ると思っていたのに…よりにもよってグリフィンドールに組分けされるなんて!

 

「なんと、まあ。驚きだな」

 ザビニが声をかけてきた。ドラコは何も返せなかった。だってスリザリンに組分けされないなんて…マルフォイ家始まって以来の出来事だ!

 

 

 

 


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