「君は、ほんとに…ッ!」
「やめなよ」
と大きめの声を出して私とエイドリアン・フリントの間に割って入ったのはハリー・ポッターでした。
中庭に繋がる渡り廊下でのことです。あまり人が通らない城の北側に通じる方だというのに、ハリーは私を見つけてくれたみたいです。
私とエイドリアンはだいたいいつも険悪なムードでいることが多いです。今回はフリントが私の襟を掴み、今にも殴りそうな雰囲気でしたので止めてくれて本当にありがたかったです。
「ポッター、首を突っ込むなよ。僕達二人のことだ」
「いくらなんでも年下の女の子が怖がってたら見過ごせない」
「怖がってる…?ソフィアが?……ハッ」
エイドリアンは鼻で笑いました。
エイドリアンはどんどん荒んでいっています。もうスリザリン内でも孤立しているのではないでしようか?ドラコはエイドリアンのことに触れたがらないのでわかりません。
「ソフィア、また話そう」
「ええ。今度は人目につかないところがいいでしょうね」
エイドリアンは鼻で笑い去っていきました。私はハリーにお礼をいいます。
「ありがとうございます。二度も助けてもらいましたね」
「これくらいなんてことないよ。彼となにかあったの?」
ハリーと私は中庭の日の当たるほうへ移動し、木の根本に腰掛けました。もうだいぶ寒いですが、日差しがあると暖かいですね。
「そうですね…彼は兄とトラブルがあって…私に当たっているのでしょう」
「トラブルって?」
「クィディッチのポジションのことで…ほらわかるでしょう?箒のこととか」
「ああ…」
ハリーはちょっぴり申し訳なさそうな顔をしました。
つい先日、グリフィンドール対スリザリンのクィディッチ戦がありました。そこでハリーはドラコを降し、スニッチを手に入れ勝利したのです。
「君のお兄さんには悪いけど、あの試合は僕たちの勝ちだ」
「お気になさらず。もとより、私はスポーツに興味がありません」
ハリーは少し残念そうな顔をしました。クィディッチ選手としてはやはりプレーの良さをわかってくれる人と話したいでしょうね。けれどもしょうがないじゃないですか。私、箒にのるの下手なんですもん。
「ああ、腕。良くなってよかったですね」
「あ…うん」
彼の腕は試合中(後)の
それ以外の点でも、あの試合は奇妙でした。ブラッジャーが執拗にハリーを狙って暴れていたのです。ブラッジャーが狂った原因は不明。しかも試合後の夜、更に不幸な出来事が起きたのです。
「これからどうなってしまうんでしょうね。コリンとは仲が良かったので悲しいです」
なんとコリン・クリービーが石になって発見されたのです。私に優しい大切な友達でした。酷いことをしますねえ。
「僕もショックだ」
ハリーはコリンにしつこく写真を撮られていました。とはいえ、いざいなくなると寂しいものなのでしょう。しかも得体の知れない何かにやられ、物言わぬ石になってしまったのですから尚更です。
「これでロックハートがいかにも怪しい風体だったら”あいつ怪しいぞ”ってできるんですけどね。あの人はただの
「そこまでポンコツじゃないとは思うけどね…」
骨抜きにされてよく言えるもんです。いや、私も本気でロックハートが弱っちいといってるわけじゃないですけどね。
なんだか歯切れの悪いハリーは、しばらく悩んでから言いました。
「……ねえ、君秘密の部屋についてなにか知ってたりしない?」
「えっと…なぜ私が?」
「ほら、マルフォイの家は代々スリザリンだし…」
なるほど。ハリーはきっとまだマルフォイ家がヴォルなんとかさんと繋がってると思っているのですね。なんなら父上のことをなんとか卿の右腕とか思ってくれてるのかもしれません。
今回の秘密の部屋事件はひょっとしたらなんとかモート卿が…ひいてはマルフォイ家が関わっているのかも知れないなんて考えてるんでしょう。(半分当たりですね)それくらい真剣な表情をしています。
「噂以上のことは知りませんね。もし本当に部屋が開かれたなら、ぜひ遊びに行きたいですけど」
冗談めかして言ってもハリーは緊張を解きません。もしかしたらハーマイオニーが噂以上の情報を掴んでいるのかもしれません。ここで変に知らないふりをしたら不審がられる恐れがあります。
「ここだけの話…かつて一度秘密の部屋は開かれたそうですよ」
「開けたのは誰?」
あら。やはりそれは知ってたようです。誰から聞いたのでしょう?秘密の部屋なんて呼称は公文書にはほとんど出てないはずですから、図書館通いでわかるはずないのですが。
「さあ、そこまでは。ただ開かれ、一人死んだと聞きましたよ」
それを聞きハリーはうなり、考え込むように視線を下にしました。
そんなハリーの思考を邪魔するかのように陽気で甲高い声が聞こえてきました。
「ジェバレゴ~ハリー!ってありゃ?デートかい」
シャイマ・オリバンダーでした。デートなわけあるかい。彼女は頭がいいくせにばかなふりをしているのです。いやなやつです。
「やあシャイマ」
「頼まれてたやつだよ。ハーマイオニーに渡しといてね」
「こんなところで渡すの?!…う、うん。ありがとう…」
ハリーはシャイマに渡された小瓶を慌ててバッグにしまいました。中身はなにか紙か木の皮のようにみえました。
「それなんですか?」
ハリーがギクリという顔をします。シャイマはにまっとわらい人差し指を顔の前へ持っていきました。
「上級生の秘密につっこまないでよ、ソフィアちゃん」
だったらこんなところで秘密をやり取りするなと言ってやりたいです。
妙に私に対して馴れ馴れしいシャイマを見てハリーは不思議そうな顔をしています。
「二人は知り合い?」
「そだよん。アブラクサス・マルフォイさんのお葬式であったんだよねー。私も一応純血だし〜。ソフィアちゃんのお祖父さんと私のお祖父ちゃん仲良かったんだー」
「へえ、そうなんだ」
「シャイマ、プライベートな事をそうべらべらと喋らないでください」
「え?なんでなんで?ハリーとソフィアちゃんも友達でしょ。三人で仲良くしよーよーー」
本当に癪に障る女です!根っからの煽り体質なんでしょうか?
頭にきている私を見てハリーが慌てて話題を変えます。
「あー、シャイマ!知ってる?決闘クラブが開催されるらしいよ」
「聞いた聞いた。腕がなるなあ。あたしさードラコおにいちゃまと戦うつもりなんだけど、ソフィアちゃん、あいつくる?」
「…ええ。兄さんはそういうの好きですから」
「はっはー楽しみぃ。じゃあまたね」
シャイマは手を振り校舎にかけていきます。私はため息をつきました。そんな私を見てハリーはちょっと苦笑気味に言います。
「ソフィアにも苦手な人がいるんだね」
「え?そりゃいますよ…。上級生の何人かは未だに私を目の敵にしてますし…。それに、ロックハート!あの男が一番苦手です」
「僕もだ」
二人で笑い合いました。ロックハートの価値は話のオチになるところぐらいですか。ちなみにロックハートは私を避けてます。書店でのことがまずかったですね。避けてるだけで不当な扱いはされてないのでむしろよかったです。
「ソフィアは決闘クラブに来る?」
「いえ。やめておきます。あの目立ちたがり屋がいる可能性が高いし…兄はシャイマにのされる姿を見せたくないでしょうから」
聞くところによるとシャイマは座学はさっぱりでしたが、実技において右に出る者がいないそうです。箒に関しても、ハリーと渡り合うくらいに乗りこなしているとか。座学ゼロ点、実技だけで学年三位をとった女としてレイブンクローに君臨しているそうです。
「シャイマはやたら呪文が強いからね」
「彼女は本来ワガドゥーに行くはずでした。あそこはなんというか…実力重視ですからね。もとより才能があるのでしょう」
「あー、それ、去年シャイマが言ってた。家の都合でこっちに来たって」
私は顔を顰めます。彼女自身も家の都合に振り回された被害者ではあるのですが、それでもやっぱり苦手なものは苦手なのです。
「彼女とあなたが仲がいいのは意外でした」
「まあね。去年、賢者の石を守ろうとしたときは本当に頼りになったよ」
どこからか時計の鐘の音が聞こえてきました。もうあっという間に次の授業です。
「じゃあ、またねソフィア」
「ええ。では」
✿❀❁✾❁❀✿❀✿❁✾❁✿❀❁ ✾❁❀✿
私は本当に決闘クラブには全く興味がありませんでした。
けれどもあとから思うと行っておけば良かったと後悔しっぱなしです。もちろんスネイプとロックハートの決闘は見てみたかったです。けれども最も大切なのはそこじゃありません。
なんとハリーが蛇をけしかけたらしいのです。
見た人によると、彼はドラコが召喚した蛇に対し話しかけ、ジャスティン・フレッチリーを襲おうとしたらしいです。
なんとまあ!パーセルタングにお目にかかれるとは思いませんでしたね。
まさかハリーはスリザリンの子孫なのでしょうか?そんな事はないはずです。彼の家、ポッター家は元々純血家系なので遠縁にはなるのかもしれませんが、あの家系はとっくに途絶えています。それにパーセルタングという珍しい遺伝がよりにもよって彼に発現するでしょうか?
更に悪いことに、その夜その蛇に襲われそうになってたジャスティンが石になって発見されました。またも第一発見者はハリー・ポッター。
笑っちゃいますよね。
もちろん、生徒全員がその事で「スリザリンの継承者はハリー・ポッターだ」と思ったことでしょう。ハリーは針のむしろです。(ハリーと針がかかってる!ふふふ、面白くない)私もジニーのことを知らなかったら彼が犯人だと思っていろいろ調べていたでしょう。
私もマルフォイ家の人間ということでこの騒ぎが起きてから寮内ではだいぶ冷遇されてきましたが、ハリーはその比じゃありませんでした。お気の毒。
「あんな蛇語、出鱈目に決まってる」
とドラコは言います。
「万が一ハリーが継承者だったらどうします?手伝います?」
「お断りだね!むしろ捕まえてやる」
なんだかやっぱりうちの兄はハリーを意識しすぎていると思うんですよね。まあいいんですけど…そのうち私、ハリーに嫉妬してしまうかもしれません。
そうこうしている間にクリスマスです。私はドラコと帰省する気満々でしたが、なんとドラコは学校に残るそうです。
「なななななんでですか兄さん…!!」
「むしろソフィアこそ、どうしてこんな時に家に帰るんだ?」
何を浮かれているのやら。スリザリンの継承者がマグルをいくら殺しても、どうだっていいことだと思うんですけどね。そんなに死体が見たいんでしょうか?
私はペンシーブを使うためどうしても実家に帰らねばなりません。今年のクリスマスは一緒にいられると思ったのに残念です。
今年は例年以上に帰省する生徒が多いそうです。当然ですね。いま学校に残るということはドラゴンの巣の中で焚き火をするのと同じことです。
父と母は私を暖かく迎えてくれました。たくさんキスをして、強く抱きしめてくれます。私と違って愛情深い人たちです。本当に。
母はドラコが帰ってこないことを嘆きますが、父はなんだかご満悦のようでした。理事である父ならば学校で起きてることを当然ご存知でしょう。
人心を操り秘密の部屋を開けたあの日記。父はどこまで知っててジニーに渡したんでしょうか?
夕食の後、私は父におねだりしました。
「父上。私、憂いの篩が欲しいのですが」
「憂いの篩…?どうしてだい?学校で習ったのかい」
「ええ。本で読んで、凄く興味があるんです」
「そうだな…家にもあるが、あれは大きいからソフィアの部屋に置くのは…」
「わあ!あるんですか?!見てみたいです」
もちろん知ってました。許可が出るか微妙なお願い事をするときは、初めに断るであろう重いお願いを断らせた後に出すと通りやすいのです。
「アブラクサスお祖父様のものだよ。たしかコレクションルームにあったはずだが…ドビー!」
父が呼ぶとバシッという音がしてドビーが現れました。
「ソフィアをコレクションルームに入れてやれ」
「はい、旦那様」
「じゃあソフィー、楽しんで」
「ありがとうございます、父上!」
私たちは廊下を歩きます。ドビーは私とあえて嬉しそうでした。
「ご無事で何よりです!ソフィア様ドビーはもう心配で心配で夜も眠れませんでした…」
ドビーの目は腫れていました。本当によく眠れてないんでしょう。愚直で可愛いですね。でもいまはそんなことどうでもいいのです。
「ドビー。あなた知ってましたね?」
「え…?」
「父上が持ち出したものをです」
私のきつい口調にドビーは口籠もります。
「そ…それは…ドビーめには…」
「責めていませんよ。ただあれの危険性をどうしてあなたが知っているのか知りたいだけです」
「それは…ッそれは、い、言えません!ドビーめはあの日のことは決して言うなと言われております。言ったら死なねばなりません」
ドビーは怯えて今にも泣き出しそうな顔をしました。残念ながら無理やり喋らすことはできないでしょう。それにこの反応が答えみたいなものですしね。このまま泣きべそかかれては使い物にならないので慰めておきます。
「そうですか。ならいいです。あなたを傷つけさせはしませんよ。そんなに泣かないでください」
そうこうしてるうちにコレクションルームの前に着きました。日もろくに当たらない屋敷の端です。
「ドビー、あなたは扉の前にいてください。人が来たら教えてくださいね」
私は部屋に入りました。掃除は行き届いているのに、どこかカビと埃の臭いがします。それもしかたがないでしょう。そこはコレクションルームとは名ばかりで、ほとんど物置と言っていい、忘れ去られた部屋ですから。お祖父様の残した闇の魔法のかかってない物品が置かれています。
憂いの篩は一番奥の壁に鎮座していました。パイプオルガンを思わせる鈍調な色のブロンズで作られています。木組みは経年劣化で深みの出る色合いのようで、年季を感じさせる重厚感が出ています。横に据え付けられた記憶をしまっておくための棚は空っぽでした。
「アブラクサス…記憶はすべて破棄したんですね。それともうちの秘密の部屋の中でしょうか。どうでもいいですけど…」
私はジニーの記憶を取り出しました。絹糸みたいにつややかで煌めいています。それを篩にあけ、顔を突っ込みました。
ジニーの記憶は全てに靄がかかっています。
見えたのはトイレの前でジニーがシューッと息を吐く場面と、血の入ったバケツに刷毛を突っ込む場面。そしてぬらりと光るなにか鱗のようなもの…。
断片的で不安定な記憶でした。
やはり何者かの意図が介在しているように感じます。
私は顔を上げました。モヤのかかった記憶でしたが、重要な部分はなんとか拾えましたね。これで開けゴマ!ができるはずです。
秘密の部屋に入れさえすれば、中にいるのが何であれ負ける気がしません。
ああ。早く休暇が終わればいいのに!
✿❀❁✾❁❀✿❀✿❁✾❁✿❀❁ ✾❁❀✿
長く感じたクリスマス休暇。父と母に見送られホグワーツに戻ると、なぜかハーマイオニーの姿が見えませんでした。まさか襲われたのでしょうか?
ハリーに確認したところ「ちょっと……体調が悪いみたいで」と濁されてしまいました。一体何をやらかしたんでしょうかね。ロンが大量の本を抱えて保健室に運び入れていたので、無事なのは確かみたいです。
ジニーは元気そうです。ハロウィンに気絶したことなんて全然覚えていなさそうですね。
クリスマスが終わっても、皆さんスリザリンの回し者扱いを忘れたわけではないようでした。外は雪で寒いし、寮の中はそこまで居心地がいいわけではありません。それでも私の心は沸き立っていました。
私には一刻も早く行かねばならない場所があります。
私はマートルのトイレに向かいました。
トイレに行くと、早速彼女の啜り泣きが聞こえました。正直ゴーストとはいえ、今からする事を考えるとここにいてほしくありません。
「入ってこないで」
あ、早速絡まれました。
「あなたこそ出てってください」
「な…」
マートルは狼狽えます。大抵の生徒は泣いてる女の子のゴーストに対して同情的になるか関わり合いになりたくないものです。真正面から喧嘩を売られる機会はあまりないのでしょう。
「ここはトイレです。それも公共のトイレです。使わないなら消えてください。あなたは死んでるから用を足す必要ないでしょう」
「ひっ…ひどい!私が何したっていうの…?!」
マートルは肩を震わし泣きながらトイレに飛び込んでしまいました。可哀想ですね。素直に出ていってくれてよかったです。
私は洗面台の前に立ち、ジニーの記憶で見た通りに口から息を吐きます。
「シューーッシューーッ…」
洗面台が動き大穴が出てきました。上手く行ったみたいです。
のぞいてみると、どこまで深いか見当も付きません。見たところすべり台のように傾斜がついてるようですが、先が見えないためよくわかりませんね。しばらくすると穴は勝手に閉まりました。
まあこれだけわかればもう十分でしょう。
間違いなくここが秘密の部屋の入り口です。千年も前の代物ですしいろんな事情があるのでしょうが、まさか女子トイレに入り口があるとは…。ちょっと変態チックでいやですね。
哀れな猫と生徒たちを石にした手段については目星がついています。じきにすべてがわかるてしょう。
犠牲者はもっと増えるでしょう。そのうち石じゃすまなくなります。
楽しみというのは不適切で語弊がありますか。えーっと…どうなるのか興味が湧きますね?かな。
なんだか締まりませんね。