デュエルを専攻とする学校は数多くあるが、この国で1番有名で入学するのも難しいと言われているのがデュエルアカデミア・シルバー校。
数多くのプロデュエリストを排出し、プロデュエリストになれなくても卒業しただけでデュエル業界に関係する大企業の就職にも有利となる。
その3年間の厳しさに退学する事も珍しくない。
「おい、聞いたか。今日このクラスに転入生が来るらしいぞ」
「聞いた聞いた。珍しいよな。しかも1年のこんな時期に」
デュエルアカデミア・シルバー校はデュエリストを育成する最高峰の名門校。
転入してくるだけでも珍しいのに転入してくるのは1年生でしかも1学期。
1年生が入学してすぐに転入してくるというだけで珍しい。
「皆さーん。チャイムは鳴っていますーよ。座ってくださーい」
シルバー校は1学年に3クラスあり、それぞれのクラスは、レベル組、ランク組、リンク組と分けられている。
今日はこのレベル組に転入生がやってきたのだ。
担任の若い女性の先生が教室に入ってくるとレベル組の生徒達は自分の席に着席する。
先生の後ろに翠色の髪の少年が続くように入ってきた。
その足取りはフラフラしていて、今にも転けてしまうのではないかと思わせる。
担任の先生がホームルームを始める。
「知っている人もいらっしゃると思いますが、このクラスに転入生がやって来ました。では、名前を書いて挨拶をお願いしてもいいですか?」
「……はい」
転入生がホワイトボードに黒のペンを使って名前を書いた。
「
間の抜けた話し方。
少し女子っぽさがある名前、男子の平均より身長が低い、色々な第一印象があると思うが今回はクラス全員が同じことを思い描いた。
((((すっごい、隈!!!))))
瞼に掛かるかどうかの翠色の髪の下、クラスの最後尾の生徒の席でもはっきりと確認できるほど、遊凪の目の下には隈がくっきりと浮かんでいる。
レベル組の生徒達が呆気に取られていると空気を変える為に先生が話し始める。
「えー…皆さん、仲良くしてくださいね。えーと、遊凪君の席は…」
「あの〜先生」
遊凪の席を案内しようとした先生に遊凪が頭を前後にクラクラさせながら質問する。
「遊凪君、どうしました?」
「すご〜く眠いので、寝て…いいですか?」
転入早々いきなり寝ていいかとの発言に先生とレベル組の生徒達が再び呆気に取られる。
しかし、遊凪の隈を見れば明らかに睡眠不足なのだと見て取れる。
「遊凪君、すごい隈ですけど、しっかりと睡眠は取っていますか?」
心配した先生が遊凪に質問する。
「寝て…います…が…引っ越し作業と…移動で…疲…れ…」
「きゃ!遊凪君!大丈夫ですか!」
言い終わる前に倒れかかった遊凪を先生が受け止めるが、男子の平均より遊凪が小さいとはいえ先生は女性。
腕だけでは支えきれずに体全体を使って受け止める。
ポヨン!
まるでそんな擬音が聞こえてくるように先生の豊満な胸に顔が埋まった。
「zzz…いい…枕」
眠りについた遊凪がとても気持ち良さそうな表情を浮かべながら寝言を言う。
「ゆ、遊凪君!そこは枕じゃありません!あっ、吐息があたって…」
遊凪を受け止めた先生が遊凪の吐息が当たり、顔を紅潮させていく。
その艶かしい表情にレベル組の男子生徒達は見惚れている。
「す、すみません!誰か、遊凪君を運ぶのを手伝って下さい!うっ…遊凪君…もぞもぞ…して…だ、駄目…あっ…」
より紅潮させていく先生を見て動けなくなっている男子生徒達。
その様子を見ていた女子生徒達が呆れながら男子生徒達を動かして遊凪を保健室まで運んで行った。
この出来事が起こったことにより、暫くの間、遊凪は一部の男子生徒達から嫉妬の目を、一部の女子生徒達からは軽蔑の目を向けられることとなるとかないとか。
『君、しっかりして!』
優しそうな女の人の声が聞こえる。
それは非常に誰かを心配しているのだと声を聞くだけで理解できた。
誰を?
僕を?
そんな訳はない。
そんなことは…僕は…僕は…
『大丈夫…大丈夫だから。私が君を守ってあげるからね』
とても暖かいものに包まれたような気がした。
初めての…いや、前にも感じたかもしれないけど…とても…とても暖かい気持ちに満たされていく気がした。
「……う〜ん……」
間の抜けた話し方。
眠りについていた遊凪が目を覚ました。
何か夢を見ていたような気がするが目を擦りながらあたりを見渡す。
「あれ〜?どこ〜、ここ〜?」
ベッドに寝かされて周りは白のカーテンで囲まれている。
「おっ、やっと起きたか。もう、昼休みだぞ」
カーテンが開かれる。
そこから現れたのは顎髭を生やした三十歳前後程の白衣を着た男性だ。
「おに〜さん、だ〜れ?」
「お兄さんか。嬉しいことを言ってくれる。俺は養護教諭の鯉ヶ崎だ。ここは保健室で眠ったお前さんをクラスの連中が運んできたって訳だ」
起きた遊凪に状況を説明してくれた。
「そっか〜。みんな優しいね〜」
「ちゃんと礼を言っとけよ。それは置いといて、お前さん転入生だってな。転入したてで忙しいのはわかるがちゃんと睡眠は取っておけよ。体を壊してはいいデュエルも出来ないぞ」
「ごめんなさ〜い。気をつけま〜す」
「本当にわかってんのか。まだ、すげぇ隈だぞ」
間の抜けた返事をした遊凪に鯉ヶ崎は嘆息する。
「隈はいつも出来てるよ〜。ベッドありがとうございました〜」
ベッドの脇の台に置かれていた自分のデッキケースを取り、遊凪はベッドから降りた。
「おう、気をつけろよ」
遊凪が保健室の扉から出て行く。
するとすぐに保健室の扉が開かれて遊凪が入ってきた。
「教室〜どこですか〜?」
「寝てたし分からんか。よし、俺が案内してやる」
「ありがと〜、鯉ヶ崎先生〜」
保健室を出て遊凪の1年生のレベル組を目指し、鯉ヶ崎に続くように歩いていく。
相変わらずの隈だが睡眠を取ったからか足取りはしっかりとしたものとなっている。
遊凪は初めて見る学校をキョロキョロしながら観察する。
「すごく広いね〜。迷っちゃうよ〜」
「シルバー校は国一番の敷地面積を誇っている学園だからな。ま、中等部、高等部、大学部があるからそのせいでもあるけど」
「そ〜なんだ〜」
「お前さん、学園のホームページとか見てないのか?転入の説明とかでも説明されただろ」
「してたと思う〜。けど、忘れちゃった〜。あと〜、お前さんじゃなくて〜、遊凪翠奈だよ〜」
「忘れたってお前さんな…まあ、いいか。デュエリストなんだからもっとシャキッとしろよ、遊凪」
「ん〜、頑張る〜」
そんな会話をしながら歩いていると窓の外の光景に2人の目が映る。
制服の色が違う男子生徒2人がデュエルディスクを使ったデュエルをしていたのだ。
シルバー校の制服は形は同じだが学年毎に色分けされており、白と赤を基調としている制服は1年生のもので遊凪より小柄で男子用の制服を着ていなければ女子と見間違えてしまう程の顔つきをした男子生徒が着ているものと同じで1年生なのだと分かる。
その相手、金髪の髪を後ろに逆立たせている男子生徒の制服は白と黄を基調としているので2年生の制服だ。
ちなみに、3年生の制服は白と青を基調としたデザインとなっている。
制服の色は学年で固定されており、毎年新しい制服を新調しないといけないがシルバー校では制服に関しては無料で配布していたりする。
少しでもカードに資金を回して強くなってもらいたいとの学園の配慮なのだとか。
デュエルはどうやら2年生の男子生徒が勝ったようだ。
デュエルが終わり金髪の生徒とその友達であろう取り巻きの2人の男子生徒が1年生に近寄って行く。
「さすが〜、デュエルの学園〜。休みの時間でも〜デュエルするなんて〜…あれ〜?鯉ヶ崎先生、どうしたの〜?」
間の抜けた話し方をしている遊凪を他所に鯉ヶ崎が深妙な顔つきで男子生徒達を見ていた。
すると、1年生の男子生徒は金髪の2年生の男子生徒にカードを渡していた。
「アンティ〜、なんてしていいの〜?」
アンティとは互いのカードなどをかけてデュエルすること。
カードはデュエリスト魂などと言うデュエリストもおりアンティを毛嫌いするデュエリストも大勢いるのだ。
「禁止はされてない。互いの合意の上ならデュエル前に申請していればやってもいい。…が、あの子がそんなことをするか」
デュエルをしていた男子生徒を知っていたのか、鯉ヶ崎が不審に思っていた。
「何だこのカードは!」
カード受け取った2年生の男子生徒が叫んだ。
「俺はいいカードを掛けてアンティデュエルするって言ったよな!何だこのクズカードは!」
「うっわ、何だこのクズカード」
「今どきこんなカード使ってるやついねぇよ」
金髪の男子生徒は怒りをあらわにし、2人の取り巻きもカードを確認すると嘲笑う。
「だ、だって1番いいカードって言ったから…」
1年生の男子生徒は怯えるように答えた。
「おい、お前さんら!無理矢理のアンティは禁止されているだろ!」
その光景を見ていた鯉ヶ崎が2年生の男子生徒達に注意した。
「鯉ヶ崎先生。別に無理矢理のじゃないですよ。そうだよな〜」
金髪の男子生徒が悪びれる様子もなく、1年生の男子生徒に問いかける。
「……はい」
1年生の男子生徒は俯きながら答えた。
「寧ろ聞いて下さいよ〜。お互いの1番いいカードをアンティで賭けてデュエルをしたのに、こいつはこんなクズカードを渡してきたんですよ〜。これこそルール違反じゃないですか〜」
まるで自分は被害者と言わんばりの言い草である。
その取り巻きの2人も不敵に笑っている。
「そ、そんな…それは1番大切なカードで…」
「あっ?1番いいカードって言ったらレア度の高いカードだろうが!」
「れ、レア度は低いですが…僕の…僕の1番大切なカードなんです!」
怯えながらではあるが、自分のカードを馬鹿にされ怒りに身を震わせている。
「はん!何が1番大切なカードだ!こんなカードはこうしてやる!」
「や、やめて!」
2年生の男子生徒がカードを破ろうとして、1年生が悲痛な叫びを上げる。
「じゃあ〜、僕とアンティデュエルしようよ〜」
緊迫する中、その場に似つかわしくない声が響いた。
「何んだと?」
金髪の男子生徒が今まで存在にも気づかなかった遊凪を見た。
「僕が負けたら〜僕のデッキから好きなカードをあげる〜。僕が勝ったら〜そのカードを返してあげて〜」
遊凪が自分のカードを賭けてデュエルを提案する。
「だ、駄目ですよ!僕の為に君のカードを賭けるなんて!」
1年生の男子生徒が心配して声を上げる。
自分の為に他人が犠牲になることが耐えられなかったからだ。
「だいじょ〜ぶ。なんだか負けない気がするから〜」
1年生の男子生徒の心配を他所に遊凪はマイペースに返事をした。
「負けない気がするだと!」
今の発言に激怒する金髪の男子生徒とその取り巻きの2人。
「いいぜ、やってやる。その代わりお前が賭けるのは1枚じゃなくてデッキ全てだ。負けないんだったらそれくらい当然受けれるよな」
金髪は脅すように言う。
1枚ではなくデッキ全てだ。
そんな条件を受け入れる者は普通はいないだろう。
「いいよ〜」
遊凪は即答で答えた。
「おい、遊凪!一度申請したら内容の破棄が出来なくなるんだぞ!デッキを失う可能性がある!それでもいいのか!」
鯉ヶ崎は養護教諭とはいえ学園に勤めている教育者。
いくら学園が定めたルールでも生徒が悲しむのが見ていられないのだ。
「そうかもしれないけど〜、黙ってられないよね〜。こういう状況は〜」
遊凪は静かに答えた。
相変わらずのすごい隈。
だが、遊凪のその瞳を見た鯉ヶ崎が何か熱いものを感じ取った。
「よっ!」
遊凪は窓を飛び越えて外に出た。
「僕〜今デュエルディスク持ってないから〜君のデュエルディスクを貸してくれる〜?」
遊凪は1年生の男子生徒に近づくとデュエルディスクを借りようとする。
「や、やっぱり駄目です!僕は「はい、スト〜ップ〜」!?」
デュエルディスクの貸し出しを渋る1年生の男子生徒の頭を遊凪は撫でた。
「君は優しいね〜。そんな子が泣いちゃ駄目だよ〜」
遊凪は頭を撫でながらポケットから取り出したハンカチで男子生徒の涙を拭った。
「だいじょ〜ぶ。僕に任せて〜」
何故か信じられる。
男子生徒は遊凪の言葉を聞いてそう思った。
「わ、わかりました」
男子生徒がデュエルディスクを外すと遊凪に渡す。
遊凪はそのデュエルディスクを腕に装着して腰のベルトにつけていたデッキケースからデッキを取り出してデュエルディスクにセットする。
「下がってて〜」
遊凪は男子生徒を下がらせると金髪の男子生徒達と対峙する。
「お待たせ〜」
「いつまで待たせやがる。さっさとやれ」
「そう焦らなくても〜、自己紹介くらいはしようよ〜。僕は〜遊凪翠奈だよ〜。君は〜?」
遊凪のマイペースぶりに2年生の男子生徒達は苛立ちを隠せない。
「けっ!女みてぇな名前だな!さっきの1年といいよ…まあ、いい。俺は
2人がデュエルディスクを構えてデュエルをする準備が整った。
「「デュエル!」」
遊凪翠奈 LP:4000
手札5
向田槍坐 手札5 LP:4000
手札5
ピコッ!
「お、僕からだね〜」
遊凪のデュエルディスクから先行を告げるランプが点灯した。
デュエルディスクを使ったデュエルではデュエルディスクがランダムに先行後攻を決めるのだ。
「僕は〜、【
遊凪のフィールドに緑のコスチュームを纏いし、風のヒーローが登場する。
E・HERO フェザーマン レベル:3 ATK:1000
「さらに〜、カードを1枚セットするよ〜。これでタ〜ンエンド〜」
遊凪翠奈 LP:4000
メインモンスターゾーン
E・HERO フェザーマン レベル:3 ATK:1000
魔法・罠ゾーン
セット:1枚
手札:3枚
「何だこいつ、大口叩いてよ」
「そんなこと初心者でもしないぜ」
向田の取り巻き2人が遊凪の行動を見て嘲笑う。
「お前、ふざけてるのか!」
向田も怒りを露わにする。
「ふざけてないよ〜。さあ、君のターンだよ〜」
これだけ笑われても遊凪はとても冷静に、いや、マイペースなのだろうか。
向田にターンと促す
「ちっ、これじゃデッキも期待できねぇか。俺のターン、ドロー!」
向田はデッキからカードをドローし、手札に加える。
「このモンスターはレベル8だが、リリースなしで召喚することが出来る。来い!【神獣王バルバロス】!」
向田のフィールドに上半身は立髪を生やした槍と盾を持ったケンタウロスを彷彿とさせるモンスターが現れた。
「ひっ!バルバロス…」
1年生の男子生徒はバルバロスが召喚されると怯えて小さな悲鳴をあげた。
先程のデュエルでも使われたのだろう。
「ま、攻撃力は1900になるけどな」
神獣王バルバロス レベル:8 ATK:1900
「出た!向田さんのエースだ!」
「あんなバニラのヒーローなんてイチコロだぜ!」
取り巻き2人が向田がエースのモンスターを召喚したことにより騒ぎ立てる。
「今でも倒せるがこのカードを発動させてもらうぜ。【禁じられた聖杯】を発動!このカードによりフィールドのモンスター一体を対象として攻撃力をターン終了時まで400ポイントアップさせる。だが、そんなのはオマケだ!」
神獣王バルバロスの頭上に聖杯が出現し、それが傾き雫が神獣王バルバロスにかかると神々しい光に包まれる。
「【禁じられた聖杯】でターン終了時まで、【神獣王バルバロス】の効果が無効になる。これがどういう事か分かるよな」
向田は不敵な笑みを浮かべた。
「効果が無効になって〜、攻撃力が戻るんでしょ〜」
「けっ!そのくらいは理解できるか」
神獣王バルバロス レベル:8 ATK:1900→3000→3400
「さ、3400!?」
1年生の男子生徒が驚愕の声をあげた。
「流石にシルバー校の2年か。中々やる」
いつの間にか1年生の男子生徒の隣に来ていた鯉ヶ崎が意外と素直にデュエルする向田に感心する。
「バトルフェイズだ!【神獣王バルバロス】で【E・HERO フェザーマン】に攻撃!"トルネード・シェイパー"!」
神獣王バルバロスが突き出した槍がE・HERO フェザーマンを貫き爆散する。
遊凪翠奈 LP:4000→-2400→1600
「ははは!大ダメージだぜ!」
「さっさとサレンダーするんだな」
取り巻き2人が調子に乗る。
「ああ…ライフポイントが…」
1年生の男子生徒が悲痛な声をあげる。
「はっ!たわいもない」
向田は張り合いがない遊凪に落胆の声をあげる。
「あいつらの言う通りサレンダーするんだったらレアカード1枚で勘弁しといてやるぜ」
余裕を見せる向田。
しかし、遊凪は焦る様子は見せない。
「サレンダーなんてしないよ〜。僕はリバースカード【ヒーロー・シグナル】を発動するよ〜」
フィールドにシグナルライトが照らされる。
「この効果で〜、デッキからレベル4以下の【E・HERO】モンスターを特殊召喚するよ〜。守備表示で特殊召喚するよ〜。現れて〜【E・HERO エアーマン】!」
ヒーロー・シグナルにより翼がプロペラとなった風のヒーローが登場した。
E・HERO エアーマン レベル:4 DEF:300
「【E・HERO エアーマン】の効果を発動するよ〜。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから【HERO】モンスターを手札に加えるよ〜。【E-HERO シャドー・ミスト】を手札に加えるよ〜」
遊凪はデュエルディスクのオート機能によりデッキからモンスターを手札に加える。
「へ!そうかよ。なら、徹底的に倒してやるぜ。バトルフェイズを終了してカードを3枚セットする。そしてターン終了時に【禁じられた聖杯】の効果が終了し、神獣王バルバロスの攻撃力が下がるが1度効果が無効になっている為、攻撃力は元のままとなる。ターンエンドだ」
遊凪翠奈 LP:1600
メインモンスターゾーン
E・HERO エアーマン レベル4 DEF:300
魔法・罠ゾーン
なし
手札:4枚(内1枚はE・HERO シャドー・ミスト)
向田槍坐 LP:4000
メインモンスターゾーン
神獣王バルバロス レベル:8 ATK:3000
魔法・罠ゾーン
セット:3枚
手札:1枚
圧倒的までのライフポイントの差。
そして、3000の攻撃力を持つモンスターとセットカードも3枚と万全の布陣と言っていい。
大抵のデュエリストならこの状況なら諦める者もいるだろう。
「これは…」
鯉ヶ崎でさえ諦め掛けている。
「さっさとドローしてターンエンドしな。楽にしてやる」
向田は余裕の表情を浮かべている。
勝利を確信しているのだろう。
この場にいる者は向田の勝利を思い描いているだろう。
……遊凪以外は!
「君思ったより強いね〜」
間の抜けた話し方で遊凪が向田に問いかける。
それは向田を苛立たせる。
「思ったより強いだと!」
向田が激情する。
「何言ってんだあいつ」
「状況分かってんのか」
取り巻き2人に至っては呆れていた。
「最後まで〜やってみないと〜分からないよ〜」
「何…はん!ならやってみな!」
遊凪は瞼に掛かりそうになっている前髪を掻き上げる。
「お楽しみは、これからだ!」
前髪を掻き上げた遊凪の表示は先程と違い、原理は不明だが隈が無くなっており、雰囲気が変わった。
(なんだ…こいつ雰囲気が…)
雰囲気が変わった遊凪に向田は冷や汗を一筋垂らし、警戒する。
「ドロー!」
遊凪はデュエルディスクより思いっきりカードをドローした。
遊凪翠奈
手札:4枚→5枚
ドローしたカードと手札を見て、フッ、と小さく笑った。
「僕は魔法カード【融合】を発動!」
フィールドに渦巻くエフェクトが現れる。
「融合素材は【E・HERO】モンスターと風属性モンスター。フィールドの【E・HERO エアーマン】とさっき手札に加えた【E・HERO シャドー・ミスト】を融合させる!現れいでよ!全てを薙ぎ払う、竜巻のHERO!【
遊凪の間延びした話し方は無くなっている。
E-HERO エアーマンとフィールドに出現したE-HERO シャドー・ミストが渦に巻き込まれてその渦が爆発し、マントを翻した風のヒーロー、E・HERO Great TORNADOが突風と共に登場した。
「おっ!意外といいカード持ってんじゃん」
「これはいいカードが手に入ったな」
取り巻き2人が欲望に目を光らしているが、向田は身構えて状況を判断している。
「【E・HERO Great TORNADO】の効果発動!融合召喚に成功した場合に発動する。相手フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力を半分にする!さらに、墓地に送られた【E・HERO シャドー・ミスト】の効果も発動!デッキから【E・HERO シャドー・ミスト】以外の【HERO】モンスターを手札に加える」
E・HERO Great TORNADOから発生した竜巻が神獣王バルバロスを取り囲む。
融合召喚に墓地で発動するサーチ効果。
この場にいる者は怒涛のチェーンの展開に見入っていた。
「こ、これで【神獣王バルバロス】を倒せます!」
1年生の男子生徒は感激して声をあげた。
「そうはいかねぇ!永続罠【スキルドレイン】をライフポイントを1000払い、発動する!このカードがフィールドに存在する限り、フィールド上の表側表示のモンスターの効果を無効にする!これで【Great TORNADO】の効果は無効だ!」
更なるチェーンでモンスター効果を無効とする罠カードを向田が発動する。
向田槍坐 LP4000→-1000→3000
「そ、そんな…」
再び1年生の男子生徒の悲痛な声が漏れる。
その声を聞いた遊凪だが、焦りもせずに手札のカードをさらに発動させる。
「速攻魔法【ツインツイスター】!手札を1枚捨て、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで対象として発動する。そのカードを破壊する」
更なるチェーンを遊凪が発動する。
遊凪翠奈
手札2枚→1枚
「こ、これで【スキルドレイン】を破壊すれば【Great TORNADO】の効果は有効です!」
1年生の男子生徒の言う通り、永続罠カードはフィールド上に存在して効果を発揮する。
フィールドから離れれば効果が失われるのだ。
「効果処理に入るよ。僕は…2枚のセットカードを破壊する!」
「ええっ!」
1年生の男子生徒が驚愕の声を上げる。
2つの竜巻が向田のセットカードを巻き上げて破壊した。
セットカード
【
【宮廷のしきたり】
ツインツイスターの効果処理の後にスキルドレインの効果は有効となる。
「そして、【E・HERO シャドー・ミスト】の効果により、デッキから【E・HERO エッジマン】を手札に加えるよ。さらに、【E・HERO Great TORNADO】の効果、相手の攻撃力・守備力を半分にする。"タウン・バースト"!っと言っても無効になるけどね」
竜巻は効力を失ったことにより霧散した。
「ど、どうして【スキルドレイン】を破壊しなかったんですか!」
1年生の男子生徒は驚愕の声をあげて遊凪に問いただす。
「チッ!」
1年生の男子生徒の驚愕を他所に向田は舌打ちをした。
「いや、正しい選択かも知れない」
そう言うのは鯉ヶ崎だ。
「どうしてですか?」
「あの2枚のセットカード。1枚は攻撃を無効にしそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える【魔法の筒】。ライフが少なくなっている遊凪にとってはまさに天敵となりうる罠カードだ。そしてもう1枚の【宮廷のしきたり】は自身以外の永続罠カードを破壊から守る永続罠カード。【スキルドレイン】をもし破壊対象に選択していれば向田のフィールドには破壊されなかった【スキルドレイン】が残る結果になる。確かに神獣王バルバロスの攻撃力は下げられなかったが【スキルドレイン】と【宮廷のしきたり】をフィールドに残すよりは片方だけでも破壊しておく方が正しい選択と言えるのかも知れない」
養護教諭とはいえシルバー校の教育者。
遊凪の戦術を解説をした。
その解説を聞いて1年生の男子生徒も向田の取り巻きでさえ感心する。
「だか、【神獣王バルバロス】の方が攻撃力は上だ!」
向田の言う通り。
神獣王バルバロスは攻撃力3000でGreat TORNADOの攻撃力は2800で神獣王バルバロスには届かない。
「今はそうだね。けど、僕のヒーロー達は結束の力で力を発揮するよ」
「は?何言って…」
向田はフィールドの異変に気付く。
遊凪のフィールドに半透明の赤と黒のコスチュームを纏いし、闇のヒーローが浮かんでいた。
「何だこいつは!」
「【E・HERO ネクロダークマン】だよ。このカードが墓地に存在する限り一度だけ、レベル5以上の【E・HERO】をリリースなしで召喚する事が出来るんだよ。【スキルドレイン】はフィールドの効果は無効に出来ても墓地の効果は無効に出来ないね」
この場にいる遊凪以外は驚愕に包まれる。
「そんなもんいつ墓地に……そうか!【ツインツイスター】のコストで!」
向田が声を荒げる。
「そういうこと。これで今手札に加えた【E・HERO エッジマン】を召喚するよ。現れよ!【E・HERO エッジマン】!」
遊凪のフィールドに黄金に輝く最上級ヒーローが登場した。
「す、凄いです!最上級モンスターを2体も1ターンで召喚するなんて!」
1年生は遊凪の戦術に感激していた。
「ふん!それがどうした!攻撃力は俺のモンスターの方が上だ!」
向田の言う通りなのだが遊凪は冷静にフィールドを見据えている。
「まあ、落ち着いてよ。ヒーローにはヒーローの戦う舞台があるんだよ。フィールド魔法を発動【摩天楼-スカイスクレイパー-】!」
フィールド魔法の効果により、無数の高層ビルが出現した。
「バトルフェイズ!【E・HERO エッジマン】で【神獣王バルバロス】を攻撃!」
E-HERO エッジマンが神獣王バルバロスに向かって突撃していく。
「何やってるんだあいつ!」
「自爆かよ!」
向田の取り巻きが騒ぎ立てるが向田は焦りを感じていた。
「【摩天楼-スカイスクレイパー-】の効果で【E・HERO】モンスターが自身より攻撃力の高い攻撃力のモンスターに攻撃するダメージ計算時、攻撃力を1000ポイントアップするよ。【E・HERO エッジマン】"パワー・エッジ・アタック"!」
E・HERO エッジマン レベル:8 ATK2600→3600
E・HERO エッジマンの拳が神獣王バルバロスに突き刺さり、神獣王バルバロスが爆散した。
「ば、バカな!」
向田が驚愕の声をあげた。
向田槍坐 LP:3000→-600→2400
先程までは向田が優勢だった。
この場にいる者はそう思っているだろう。
しかし、いつの間にか遊凪が逆転している。
「君が【スキルドレイン】を発動してくれたお陰で、このターンで決着をつけられるよ」
「な、何だと…」
遊凪の発言に向田が動揺する。
「そうか!【Great TORNADO】は囮だったのか!」
鯉ヶ崎が納得したのか声をあげた。
「ど、どう言うことですか?」
1年生の男子生徒が鯉ヶ崎に疑問を投げかけた。
「遊凪は【Great TORNADO】の効果を発動させることにより【スキルドレイン】の発動を誘導したんだ。【スカイスクレイパー】があれば【神獣王バルバロス】を戦闘で破壊できるからな。ライフポイントをそれで減らし、攻撃の妨害となるセットカードを【ツインツイスター】で破壊したんだ」
「す、すごいですね」
「しかし、これにはリスクがある。【Great TORNADO】の召喚を無効とするカードを使われたりした場合だ。もし発動されていたらフィールドがガラ空きになる訳だが…」
鯉ヶ崎の解説に遊凪が答えた。
「ま、そうしたら【E・HERO シャドー・ミスト】の効果で別のヒーローを手札に加えてターンを凌いだよ。それにリスクを恐れたら勝てるデュエルも勝てないよ」
遊凪の静かに答えたがそこには力を感じさせるものがあった。
「最後の攻撃だよ。いけ!【E・HERO Great TORNADO】!相手プレイヤーにダイレクトアタック!"スーパーセル"!」
「く、くそ!」
向田槍坐 LP2400→-2800→0
巻き起こされた突風が向田に炸裂し、向田は吹き飛ばされてこのデュエルは遊凪の勝利となった。
「…嘘…だろ…」
「向田さんが…」
向田の取り巻き2人も呆然としていた。
「イエ〜イ。勝ったよ〜」
デュエルが終わった途端に遊凪はまた間の抜けた話し方になった。
前髪も垂れ下がり、隈も元通りに浮かんでいる。
「くそが!」
向田が激情しながら立ち上がった。
「こんなクズカードなんているか!」
向田は1年生の男子生徒から取り上げたカードを地面に叩きつけた。
「行くぞ!」
「む、向田さん!」
「ま、待ってください!」
向田がこの場を後にし、取り巻きの2人もついて行った。
「も〜、酷いことするな〜」
遊凪は落ちていたカードを拾い上げて砂埃を払う。
「あ、あの!」
遊凪の元に1年生の男子生徒と鯉ヶ崎が近づいてきた。
「は〜い、君のカード。お、【ペンギン・ソルジャー】。酷いよね〜。こんなに強いカードなのに〜」
遊凪は男子生徒にカードを手渡した。
「ありがとうございます!」
「気をつけなよ〜。大切なカードなんでしょ〜」
「は、はい…このカードは僕が初めて手に入れたカードなんです。本当はアンティなんていやでした。僕のことはバカにされてもいいんです。入学以来1度も勝てた事がないですから。だけど…だけど…デッキのカードをバカにされたのが許せなかったんです!……けど、負けてしまいました…」
男子生徒は顔を伏せる。
その男子生徒の頭を遊凪は優しく撫でた。
「な、なんですか!」
先程は気持ちがいっぱいいっぱいだったためスルーしてしまったが、同級生に頭を撫でられるのは恥ずかしかったのか男子生徒は驚く。
「やっぱり〜君は優しいね〜。だから〜手助けしたんだよ〜。けど〜、もうこんな事したらダメだよ〜」
「う、すみません…」
同級生に説教され男子生徒は気を落とす。
「そうだな。確かに軽率な行動だったな。遊凪もだぞ。デッキを取られていたらどうするんだ」
鯉ヶ崎は2人を説教をする。
「すみませ〜ん」
「はい…すみませんでした」
「ふっ…まったく、これが若さかね」
悪びれない様子の遊凪に鯉ヶ崎が肩を落とす。
「さ〜て、カードを取り返したし〜僕のお願いを〜聞いてもらおうかな〜」
遊凪が男子生徒に言う。
「え!」
「それはそうだよ〜。僕もデッキを〜失うリスクがあったからね〜」
「そ、そうですね。分かりました。僕に出来ることなら何だってやります!」
男子生徒はどんな要求にも応えられるように身構えた。
「学園を〜案内してほしいな〜。今日から転入してきたから〜学園のことを〜知らないんだ〜。あと〜、友達になってよ〜」
「へ?」
予想にしていなかった要求に男子生徒は困惑した。
「そんな事でいいんですか?」
「いいよ〜。君とは〜仲良くなれそうな気がするんだ〜」
「プ、ハハハハハ」
あまりの遊凪と態度に男子生徒は思わず吹き出して笑い出してしまった。
「よ〜やく、笑ったね。そんな気を張ってたら〜勝てるものも〜勝てないよ〜」
「フフフ、そうですね。ごめんなさい。分かりました。案内しますよ」
「ありがと〜。僕は〜遊凪翠奈だよ〜。君は〜?」
「僕は
「ん〜、鳶君、よろしくね〜」
遊凪と旭山は握手を交わして友達となった。
「へぇ、あれが転入生か」
遊凪がデュエルをした場所の上の階の窓際。
ある生徒がこのデュエルを観戦していた。
「面白い。戦ってみたいな」
遊凪のデュエルに身を震わせてこの場を後にした。
今日の最強カード
摩天楼-スカイスクレイパー-
フィールド魔法
(1):「E・HERO」モンスターの攻撃力は、その攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターに攻撃するダメージ計算時のみ1000アップする。
アニメで十代も使っていたフィールド魔法ですね。
このカードを使ったら必ず逆転してくれると期待しました。
僕が書いたものでは1話で1番長い文字数でした。
かなり書くのに時間が掛かりますね。
これからはデュエルをする回と日常回は分けるかも知れません。