異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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今回で本作は100話目に到達しました。
これからも本作品をよろしくお願いします。


第百話 パールネウス攻略戦 弐

 

 

 

 リーム王国によるパールネウスへの攻撃は失敗に終わり、パールネウスに損害を与えるどころか、王国軍が大損害を被るという結果となった。

 

 

 王国軍はもしものために備えていた連邦共和国空軍の航空隊の掩護で何とか撤退することが出来たが、その被害は多大なものであり、少なくとも軍事行動が取れる状態に無いという。

 

 

 


 

 

 

 その日の夜の連合軍陣地

 

 

「これはっ、どういうっ、ことですかぁっ!!」

 

 会議室代わりのテント内にて、カルマの苦し気な怒声が響く。

 

 ワイバーンオーバーロードの導力火炎弾の火を受けて火達磨になったことで、カルマは全身に火傷を負ったものの、命に別状は無いという。

 

 しかし全身に包帯が巻かれ、所々血が滲んでいるその姿は、かなり痛々しいものである。普通なら動くのもきついだろうに抗議するほどの元気さを見ると、思いの外頑丈なようである。

 

 そんな彼の姿を哀れんで、それでいて呆れた様子で『三笠』達は見ている。

 

「皇軍の戦力は前日に排除していた、はずではなかったのですか!! お陰で我が王国軍は甚大な被害を被ってしまったのですよ!! 一体どうするのですかぁっ!」

 

 カルマはそう言いながら怒りに任せて机に拳を叩きつける。拳を叩きつけた事で包帯に血が滲んでいたが、興奮状態とあって痛みを感じづらくなっているようである。

 

 先の戦闘でリーム王国は甚大な被害を被っており、地上部隊は三分の一が失われ、180騎はいたであろう竜騎士団は僅か28騎までに減っていた。

 装備も多くが撤退時に破棄されており、銃の他に魔導砲が失われた。

 

 兵士達も奇跡的に無傷で居る者は少なく、多くが重傷を負っており、戦線復帰出来る者はいない。

 

 もはやリーム王国にパールネウスを攻撃できる余力は無いに等しい。

 

「……」

 

 と、『三笠』は呆れた様子で小さくため息を付く。

 

「だから申し上げたはずです。ちゃんと戦果確認をしてから動くべきだと。それを聞かずに攻撃を強行したのはあなた方です。被害を受けたからと言って抗議するのはあまりにも筋違いでは」

「ぐっ……」

 

 彼女の指摘にカルマはぐぅの根も言えなかった。

 

 まだ攻撃するべきではないと彼女が警告したにも関わらず、パールネウスへの攻撃を強行したのはリーム王国であり、それでいて被害を受けてその文句を言われる筋合いは無い。

 

「しかし、あなた方のお陰でパールネウスの手の内は大体把握出来ました。犠牲となった方々にはお悔やみ申し上げます。被害を受けた方々にはこちらから可能な限りの支援をいたしますので」

「……」

 

 『三笠』の言葉にカルマは身体を震わせて俯くが、その表情は怒りに染まっている。遠回しに「お前達の犠牲のお陰で助かったよ」と言われたような気がしたからだ。

 

 やがて彼は大きく鼻を鳴らして踵を返し、松葉杖をついて兵士に支えられながらテントを後にする。

 

「やれやれ。あれだけの怪我を負っていながら元気ですな」

 

 カルマがテントを出た後、ミーゴが呆れた様子で声を漏らす。

 

「ですが、リーム王国のお陰でパールネウスの防衛戦力は凡そ判明しましたな」

「えぇ。リーム王国の方々には悪いですが、お陰で被害を受ける前に対処できます」

 

 『三笠』は頷いてそう言うと、机に広げた地図を見る。

 

(しかし、こんな形で総旗艦が望む状況に持ち込めるとはな)

 

 彼女は地図を見ながら内心呟く。

 

 

 リーム王国の性格やこれまでの行動を知ってから『大和』と『紀伊』は、いかにしてリーム王国に今回の戦争に損をしてもらうか、と考えていた。その一環として技術強奪を防ぐ為、雷神二機によるパールネウスにある研究所の爆撃を行ったのだ。

 

 しかし表立ってリーム王国を妨害すると、その性格から行動を妨害したという一件をダシに周辺国へ何かしら吹聴しかねない。今後フィルアデス大陸での貿易を考えるなら余計な風評は無い方が良い。

 

 どうするかと考えていた矢先に、アルーニの戦いにてリーム王国は意気揚々参戦していながら殆ど何もしていないことになって立場が揺らぎ、今回に至っては派遣した戦力を無駄に損失しただけに終わった。連合軍内におけるリーム王国の評価は最低なものになった。

 勝手に向こうが損害を出して二人の望み通りの展開になったのだ。

 

 少なくともリーム王国は被害の規模からこれ以上パールネウスへの攻撃に参加は出来ないだろう。出来ても後方支援ぐらいだ。危惧していたパールネウスでの略奪や技術の奪取は行えないだろう。

 

 『三笠』は二人からその手の話を聞いていたが、別に彼女はリーム王国を陥れようとは考えていなかった。リーム王国の攻撃を許したのも一応勝算があってのことであった。まさか皇国軍が爆撃を受けていながらワイバーンオーバーロードを残して、更に運用できる状態だったのは予想外だったが。

 その為、彼女は甚大な被害を受けたリーム王国に少しだけ同情したのだった。

 

 

 


 

 

 

 後日アルーニの基地より深山改と連山改といった爆撃隊が出撃し、再度パールネウスへの爆撃を敢行した。目標となっている偽装滑走路と地下壕の位置は高高度より偵察していた偵察機により判明している。

 

 爆撃には本来パールネウスを囲う城壁を破壊するのに用いる為に持ってきた80番陸用爆弾が用いられ、正規の滑走路を含め、偽装された滑走路を破壊して、大きな穴を開けた。

 

 そして本命の地下壕に避難させているワイバーンオーバーロードも80番陸用爆弾の威力によって地下壕の天井が破壊され、一緒に避難している竜騎士諸共ワイバーンオーバーロードは殆どが生き埋めになった。

 

 再び防衛基地が攻撃され、滑走路も正規と偽装を含めて破壊され、避難させていた竜騎士とワイバーンオーバーロードもその殆どが生き埋めになり、事実上損失した。

 

 

 そしてパーパルディア皇国は、今度こそ完全に制空権を喪失したのだった。

 

 

 

 

 

 中央歴1640年 3月17日 

 

 

 朝日が昇り、辺りが明るくなり出した。

 

 

 

「……凄いわね」

 

 ムーより観戦武官として派遣されたアイリスは、目の前に広がる光景に思わず声を漏らす。

 

 彼女の前の前には、戦車隊を先頭に車輛部隊と装甲車や車に乗り込んだ兵士達の姿と、攻撃準備を整えた連邦共和国陸軍の地上部隊が待機している。

 

 本国でもまず見られない光景であって、彼女が感嘆の声を漏らすのも無理はなかった。 

 

(その上砲兵隊は後方で展開して、いつでも攻撃できるように待機しているそうね。どうなるか想像が付かないわね)

 

 アイリスはこれから行われる、祖国とは規模が桁違いのロデニウスの本気の攻撃に、期待感と共に恐怖を覚える。

 

 

 彼女は案内役の兵士と共に部隊の先頭に居る戦車隊の前に移動する。

 

(改めて前に来ると、これと対峙するパーパルディア皇国に同情するわね)

 

 74式戦車改と61式戦車改を見ながら、アイリスは内心呟く。

 

 少なくともパーパルディア皇国には戦車を撃破できる兵器は無いだろう。精々足回りを破壊して行動不能に出来るぐらいだ。

 もし撃破を狙うなら捨て身の肉薄攻撃ぐらいだろう。まぁ近づくまでもなく殆どが倒されるだろうが。

 

(これなら、本国が戦車をロデニウスから輸入するのを決断するわね)

 

 彼女は少し前に本国で行われた会議についての資料を思い出す。

 

 

 ムー統合軍はロデニウスの74式戦車改と61式戦車改等の戦車の有効性や自軍の戦車の性能や数不足を痛感し、当初は次期主力戦車を国産開発で揃えようと考えていたが、グラ・バルカス帝国との緊張感が高まっていつ戦争状態になるか分からない状況になりつつある。

 国産戦車の開発は間に合わないと判断され、マイラスやラッサン、アイリスを含めた留学生達からの調査報告を受けて、ムー統合軍は国産戦車の開発は水面下で継続しつつ、ロデニウスより戦車の輸入を行って主力として採用することにした。

 

 現在はロデニウスと交渉し、ユニオン、ロイヤル、北連、鉄血、重桜等の各国の戦車から、主力となる戦車の選定が行われているという。

 

 

「ん?」

 

 戦車隊の前を歩いていると、彼女の視界にある物が映る。

 

 彼女の視線の先には、74式戦車改と61式戦車改とは異なる戦車が待機している。

 

 74式戦車改より一回り大きく、丸みを帯びた形状がある両車と違ってその戦車は全体的に角ばっている。その傍には『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』の二人がいて、その戦車について何か話しているようだ。

 

「ねぇ、あの戦車は?」

「機密につき詳細は話せませんが、本土より持ち込まれた新型戦車の試作車輛だと聞いています」

「新型……」

 

 案内役の兵士より話を聞き、アイリスは息を呑む。

 

 74式戦車改ですら少なくともこの世界で最強格の地上戦力になりうるというのに、ロデニウスはそれを上回る戦車を開発していた。

 

(ロデニウスは常に進歩を続けているのね……)

 

 それで満足することなく、常に前を見続けているロデニウスの姿勢に、彼女は驚きと共に感心する。もちろんムーも常に進歩をし続けているが、永世中立国故に開発費は多く下りないので、技術の進歩が著しいのは否めない。

 

(だからロデニウスは戦車の輸出を認めたのね)

 

 そして彼女は事情を理解し、どこか複雑な気持ちになる。更に強力な新型を開発して優位を保てるからこそ、国産開発の為の研究用に輸入したM4シャーマンより強力な戦車の輸出を認めたのだろう。

 

(ロデニウス……どこまで進歩し続けるのかしら)

 

 アイリスはまだ見えないロデニウスの底に、言い知れない不安を覚える。

 

(まぁ、私達だって立ち止まっているわけじゃないわ。私達も進歩し続ける)

 

 彼女はロデニウスの新型戦車を見ながら、改めて技術の進歩への情熱を燃やす。

 

 

 


 

 

 

 そして時間は午前9時を迎える。

 

 

「司令。時間です」

「……攻撃開始!」

 

 副官の言葉に『三笠』は一息つき、攻撃開始の号令を放つ。

 

 

 

 後方に陣地を構えた砲兵隊は、攻撃開始の号令と共に一斉に砲撃を開始した。

 

 75式自走榴弾砲とFH 155mm榴弾砲が一斉に火を噴き、75式自走多連装ロケット弾発射機からロケット弾が順に発射されていく。

 

 放たれた榴弾とロケット弾はパールネウスの城壁に着弾し、大きな爆音と振動を伴って爆発し、城壁を揺らす。

 

 砲撃は断続的に着弾させるために、一段、二段、三段とグループごとに順に砲撃が行われ、二段目の砲撃が放たれる。その間に一段目のグループは砲弾の再装填を行って次の砲撃に備える。

 

 今回の砲撃にはトラック泊地陸戦隊所属の砲兵隊の他に、ロデニウス連邦共和国陸軍砲兵隊が初の実戦に挑んでいる。 

 

 

 

「……」

 

 砲撃が行われている中、かつてエジェイの司令であり、現在は連邦共和国陸軍の砲兵隊の司令となったノウは、双眼鏡を覗いて着弾地点のパールネウスの城壁を見る。

 

 城壁に次々と榴弾やロケット弾が着弾して爆発し、城壁の表面を少しずつ破壊している。

 

 魔導砲の直撃に耐えられる強固な作りをしているとは言えど、それ以上の威力ある攻撃はあまり想定していない。故にある程度でしか耐えられず、城壁は少しずつ表面が破壊されている。目に見えないが、城壁内部では崩れた石材の破片が落ちてきて砲兵たちが被害を被っている。

 

(うむ。思ったよりも着弾地点は広がっていないな。砲兵隊の練度は着実についている)

 

 自身が率いる砲兵隊の成長を目の当たりにして、ノウは笑みを浮かべる。

 

 発足以来、砲兵隊は絶え間ない鍛錬を繰り返しており、その実力は発足してから今日に至るまでの期間を考えると、早い方だろう。

 

「良い成果だな!! 同志ノウよ!!」

 

 と、砲声に負けない声がしてノウがその方向に視線を向けると、一人の女性が立っている。

 

 癖のある銀色の髪を腰まで伸ばし、ご立派な双丘を持つ赤い瞳の美女であり、白い制帽に胸元が開けた白い制服に丈の短い黒いタイトスカート、その上に毛皮のファーを着けたコートを羽織っている。

 

 彼女は北連のKAN-SEN『ガングート』。『フリードリヒ・デア・グローセ』と共にトラック泊地陸戦隊に所属している砲兵隊を率いている。今回の戦闘に派遣された砲兵隊は彼女が率いる砲兵隊である。

 

「これは『ガングート』殿。いえいえ。我が砲兵隊の実力はまだまだです」

「謙遜をするな!! 今出ている結果は紛れも無く鍛錬を積んだ彼らの実力だ! 決して紛いものではない!」

 

 謙遜気味のノウに、『ガングート』は回りくどいことはせず、正面から称賛する。

 

「それに、これも貴様の指導の賜物だ! 誇りに思っても良いぞ!!」

「は、はぁ……」

 

 肩を叩いて称賛する『ガングート』にノウは苦笑いを浮かべる。

 

 当初はKAN-SENのことを快く思っていなかったノウであったが、国の為に尽力している彼女たちの姿を見てからは、そんな思いは無く、今は彼女達を受け入れている。

 

 しかしどうも『ガングート』のテンションの高さには付いて行けないでいた。それに若干思想的なのも苦手意識を抱かせている要因だろう。

 

(だが、彼女と彼女が率いる砲兵隊の実力が高いのも事実だ)

 

 ノウは『ガングート』に頭を下げてから、再度首に提げている双眼鏡を手にして覗き込む。

 

 パールネウスの城壁は確実に破壊されていき、城門に関しては正確な砲撃で榴弾が着弾して確実に破壊している。前者はノウが率いる砲兵隊の砲撃。後者は『ガングート』が率いる砲兵隊の砲撃だ。

 

 城壁と言う大きな目標に対してバラバラに命中させているノウの砲兵隊に対して、城門と言うピンポイントの目標に命中させている『ガングート』の砲兵隊。その実力差は歴然だ。

 

 

 ともあれ、砲兵隊の砲撃は断続的に行われ、パールネウスの城壁は確実に破壊されていき、侵入路になるであろう城門も粉々に吹き飛ばされた、

 

 続けて待機していた爆撃隊がパールネウスに飛来し、城壁に対して80番陸用爆弾を投下して砲撃していた城壁とは違う方角の城壁を破壊する。城壁は側面からの攻撃には強いが、さすがに垂直からの攻撃は想定していないので、80番陸用爆弾は城壁の天板を貫通し、内部で炸裂して城壁を破壊する。

 

 城壁がいくつもの方角から破壊されたので、パーパルディア皇国は連合軍がどこから攻めてくるか判断しかねて、戦力を分散せざるを得なかった。

 

 

 砲兵隊が砲撃を終え、待機していた戦車隊が『三笠』の号令と共に前進し、それに続いて歩兵を乗せた車輛部隊が続く。上空にはアルーニより飛び立った三式戦闘機 飛燕の編隊が飛び、地上部隊の上空支援に当たる。

 

 

 

 パールネウスが味わう悪夢は、始まったばかりである。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、トラック泊地

 

 

 

「そうか。パールネウスへの攻撃が始まったか」

「……」

 

 自身の執務室にて『大和』が電話で通話している。その傍には『エンタープライズ』が静かに立っている。

 

「そうだな……予定通り決行は今夜だ。手筈は……整っているな。ならば不安に思うことは無い。必ず成功させろ」

 

 そう言うと、彼は受話器を本体に置く。

 

「いよいよか」

「あぁ。いよいよだ」

 

 受話器を置いたタイミングで『エンタープライズ』が声を掛けると、『大和』が頷く。

 

「短いようで、長かったな」

「……」

「だが、これで目的は達成される」

 

 彼がそう言うと、『エンタープライズ』は何も言わなかったが、静かに頷く。

 

 

 

 歯に衣を着せない物言いなら、今回のパーパルディア皇国との戦争は、この時の為にあり、それ以外はどうでも良いのだ。目的を達成できれば、勝利時の結果はどうでもいい。

 

 パールネウスへの攻撃も、今回の為の陽動に過ぎない。

 

(頼むぞ)

 

 『大和』は内心作戦の成功を祈りつつ、窓から外の景色を見つめる。

 

 

 




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