異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

102 / 132
第百二話 目標確保へ

 

 

 

 

 レミールは全身寝汗で濡れた不快感を感じつつ重い身体に鞭打って歩きながら、歯軋りを立てる。

 

 ここ最近ストレスからくる不眠症により、眠るに眠れなかった日々が続いて睡眠不足に悩まされていたが、医者から処方された睡眠薬を服用してここ最近は何とか眠ることが出来ていた。

 

 今日は食欲が無かったので夕食を取らず、彼女は睡眠薬を服用して眠りについていたのだが、この日に限って悪夢に魘され、処刑されそうになった瞬間に彼女は目を覚ました。

 

 睡眠薬を服用しても目を覚ますほどの悪夢に彼女は怒りに満ちて恨めしそうに掛け布団を何度も殴りつける。この時は粗相をしていなかったので、まだ彼女の気持ち的にはマシだった。

 

 悪夢を見たことで全身から汗が噴き出しており、彼女が身に纏っている寝間着はびっしょりとなっており、それ故に喉はカラカラだった。

 

 びっしょり濡れて肌に張り付く寝間着に気持ち悪さを覚えて使用人を呼ぼうとしたが、時刻は深夜。この時間では誰も起きていないのは明白だ。今のレミールに使用人達を叩き起こしてでも寝間着を着替えさせ水を持って来させようと気は起きず、仕方なく寝間着は後で自分で着替えることにして、今は水を飲みに行くことにした。

 

 重い足取りで部屋を出るが、この時周囲に若干の違和感を覚えるが、気のせいかと思い、ゆっくり歩いて食堂を目指す。

 

 

 食堂に着いてそこを経由して厨房に入り、皇族の間でもまだ珍しいムー製の冷蔵庫の扉を開け、中にある水を入れているボトルを手にする。いちいちコップに注ぐのが面倒だったのか、蓋を外してそのまま口に付けて水を飲む。

 

 冷蔵庫の上段に入れている大きな氷のお陰でボトルごと冷えた水は、彼女の喉を潤すと共に火照った身体を冷やしてくれた。

 

 水を飲んでボトルを口から離すと、昂っていた気持ちはある程度鳴りを潜め、レミールは深く息を吸って、ゆっくりと吐く。

 

「……クソ、クソ、クソ、クソッ……っ!」

 

 しかし冷たい水を飲んで頭も冷えていたが、不意に怒りがこみ上げてきてレミールはボトルを握り締めると、ボトルを冷蔵庫に叩きつけてボトルは大きい破片となって割れ、中身の水を床に撒き散らす。

 

(なぜだ!! なぜ、なぜこうなったんだっ!!)

 

 彼女は内心恨めしく呟き、頭に両手を付いて髪を乱暴に掻き上げる。

 

 

 先ほど彼女が見た夢は……自身が処刑台に上げられ、身動きが取れないように身体は固定された。その間にも目の前には大勢の人間が自分に対して人殺しだの悪魔だのと、罵詈雑言を投げかけてきた。

 

 見たくも無い、聞きたくも無い。なのに彼女の目には怒りと憎しみに染まった人々の姿が映り、彼女の耳には罵詈雑言が嫌に鮮明に響く。

 

 そしてその彼女の周りには、全身が薄暗く、首から血を流したり身体のあちこちから血を流したりと、血濡れた人達が血涙を流している虚ろな目で、それでいて恨めしく呟いてレミールを見つめている。

 

 彼女はその者達が何者か、言われずとも本能的に分かってしまった。

 

 

 彼女がこれまで自らの意思で処刑を命じ、処刑によって命を刈り取られた者達だ。

 

 

 血濡れた者達は小さな声だったので何を言っているかは分からなかったが、それなのに彼らの声は罵詈雑言を投げかける者達よりも酷く響いた。

 

 そんな中、自分の命を刈り取るであろう処刑人が大きな斧を持って現われ、自身の命を刈り取ろうとする斧を振りかぶり、勢いよく振り下ろした。

 

 その瞬間に、彼女は目を覚ました。

 

 

 今までならこんな夢を見ても気にはならなかった。怨念共の戯言だと、負け犬共の遠吠えだと、それで一蹴できたはずだ。

 

 だが、今はそうは思うことが出来ず、彼女の精神をゴリゴリと削っていた。ロデニウスによるエストシラントの空襲以来、この状態だ。

 

(私は、これまで通りにして来ただけだ!! 生意気な蛮族に教育してやっただけだ!! 我らに支配されるだけの蛮族共に恨まれる筋合いは無い!! 無いんだ!!)

 

 心の中で自らを正当化しつつ、頭を振るう。

 

 こんな状況でも自らが正しく思えるその姿勢は、逆に称賛に値するほどである。

 

(だが、まだだ、まだ終わっていない!!)

 

 と、レミールは顔を上げると、濁っていながらも、その眼には闘志が宿っている。

 

「私は、こんな所で、終わってたまるか!」

 

 この状況でありながら未だに闘志を衰えさせない辺り、彼女のメンタルは妙な所で頑丈のようである。

 

 レミールは冷蔵庫の扉を閉め、散らかったボトルの破片と水をそのままにして厨房を出て、食堂を通って自室へと戻る。

 

 

「ッ!?」

 

 レミールが食堂を出た直後、突然彼女は首に強い圧迫感を覚える。

 

 とっさに首に手をやると、何かが首に巻き付いている。何とかそれを退かそうとするが、力が強く剥がれようとはしない。そして背中の感触から誰かが自分の首を絞めていると瞬時に理解する。

 

 叫ぼうにも首を圧迫されて気道が塞がれているので、声を出すことが出来ない。

 

 拘束を解こうと抵抗するが、直後首の圧迫が更に強くなる。

 

「ッ! ――――……」

 

 レミールは抵抗を続けるが、やがて脳に血液と酸素が行き渡らなくなり、彼女の意識は徐々に薄れて、やがてレミールの意識は暗闇の中に沈んだ。

 

 

 


 

 

 

「……」

 

 気を失ったレミールの後ろにいる『霧島』は安堵の息を吐き、レミールを静かに床に下ろす。

 

 確保目標が起きていたので、忍びのKAN-SEN達はプランBを決行し、レミールの確保に入った。

 

 彼女が厨房で水を飲んで、食堂を出た直後に、扉の陰に隠れていた『霧島』が彼女の背後に忍び寄り、チョークスリーパーのようにレミールの首に腕を回して締め上げた。

 

 レミールは抵抗したが『霧島』は死なない程度に強く締め上げ、やがて動かなくなったレミールを床に下ろし、脈を確認した。

 

「目標は?」

「生きてるよ」

「では、移送の準備を」

 

 『黒潮』の指示で『霧島』達はすぐに準備に取り掛かる。

 

「カラス1よりハンター1へ。目標を確保しました」

『ハンター1了解。湾外に迎えが待機している。手筈通りの方法にて引き渡しを頼む』

「カラス1了解」

 

 『黒潮』が通信を終えると、既に移送準備が整えられていた。

 

 レミールの両手首と両足首は結束バンドを拘束し、目隠しをして猿轡を掛け、通気孔を空けた死体袋に彼女を入れている。

 

「撤収です」

 

 『霧島』が死体袋に入ったレミールを担ぎ上げ、『黒潮』の言葉に忍びのKAN-SEN達は頷き、痕跡を回収して素早く屋敷を出る。

 

 屋敷を出た忍びのKAN-SEN達を特戦隊のUボートのKAN-SEN達が見送った後、彼女達も撤収する。

 

 

 一時間にも満たない、正に一瞬の出来事だった。

 

 


 

 

 忍びのKAN-SEN達は特戦隊のナビゲートの元、街を抜けて港へと来ると、彼女達は艤装を展開して海に飛び込み、海上を走って湾外に出る。特戦隊は引き続き周囲の警戒に入っている。

 

 沖に出ると、小さなブイが浮かんでいて彼女たちはその傍まで近づき、『黄昏月』が通信機でモールス信号を送ると、数秒後海中に待機していた潜水艦が浮上する。世にも珍しい砲撃を行う潜水艦『シュルクーフ』である。

 

「待ってたわよ~」

 

 ハッチを開けて出てきたのは、この砲撃潜水艦の主であるKAN-SENの『シュルクーフ』。ほんわかな雰囲気をしているが、彼女も特戦隊の一員である。

 

 『黒潮』たちは『シュルクーフ』の艦体に上がり、彼女と乗組員の妖精達の前へとやって来る。

 

「それが荷物かな?」

「はい。本土への移送、お願いします」

「任せてね」

 

 『霧島』は担いでいるレミールを妖精達に引き渡し、妖精達は静かにゆっくりと艦体の中へと運び込む。

 

 『黒潮』達は『シュルクーフ』の艦体から降りると、彼女は『黒潮』たちを見送りながら艦体の中へと戻り、艦体は再び海中へと潜行し、これからロデニウス大陸を目指す。

 

 忍びと特戦隊は次の作戦に備え、再びエストシラントへと戻る。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、ロデニウス連邦共和国

 

 

『……』

「……」

 

 大統領府の執務室にて、カナタは執務机の上で両手を組み、身動きせず静かにして待っている。その傍には秘書も椅子に座って静かにして待っている。

 

 近くでは『紀伊』が壁にもたれかかって、腕を組んで静かに待っている。

 

「大統領。もうだいぶ夜が更けました。もうお休みになっては?」

「いいえ。重要なことが分かろうとしている中で、私だけが眠るわけにはいきません。それに、結果が気になって眠れそうにありませんし」

「そうですか……」

 

 秘書が就寝をカナタに進言するも、彼は首を左右に振り、このまま起きているのを伝える。秘書はそれ以上何も言わず、カナタと共に待ち続ける。

 

「……」

 

 『紀伊』は何も言わず、ただただその時が来るまで静かに待っている。

 

 

 必要最低限の光のみの薄暗い部屋の中、時計の時刻を刻む秒針の音だけが大きく響き、時間だけが過ぎて行く……

 

 

「ん?」

 

 すると『紀伊』が何かに気付き、上着のポケットに手を入れて中にある物を取り出す。

 

 それはいつも使っているスマホではなく、軍用設計の通信端末であり、端末にはメッセージが入ったのを知らせるランプが点いている。

 

 彼は端末の画面をパスコードを入力して開き、更にメッセージを開く為の暗号を入力してメッセージを開く。

 

「……」

「『紀伊』殿」

 

 カナタはメッセージを確認している『紀伊』を息を呑んで、彼の言葉を待つ。

 

「……」

 

 メッセージを読み終えた『紀伊』は頷き、カナタを見る。

 

「……『狼は狩人に捕まった』」

「っ!」

 

 『紀伊』の言葉を聞き、カナタは安堵の息を吐く。

 

 このメッセージは忍びと特戦隊に作戦成功時に発するように指示していたものである。

 

 つまり、レミールの身柄確保に成功したという事である。

 

「やりましたね」

「えぇ。これで、憂いは無いでしょう」

 

 カナタは額に浮かんだ汗をハンカチで拭うと、表情が引き締まり『紀伊』を見る。

 

「では、最後の仕上げです」

「分かりました。すぐに艦隊に伝えます」

 

 『紀伊』は頷くと端末を操作して執務室を出ながら通信を入れる。

 

「……」

 

 カナタは深く息を吐き、椅子の背もたれにもたれかかる。

 

 

 

 




感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。