異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第百四話 戦況は最終局面へ

 

 

 

 中央歴1640年 3月20日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント沖合。

 

 

 そこには多くの船舶がエストシラントに向けて微速で進んでおり、上陸部隊と共に特大発や大発といった上陸用舟艇を積んだ輸送船が大半を占めている。

 

 

 エストシラントへの攻撃に備えて数日前から艦隊はロデニウス本土を出撃し、艦隊はエストシラントから見えない沖合にて待機していた。そして忍びと特戦隊がレミールの身柄を確保したとの報告を受け、艦隊は行動を開始した。

 

 

 艦隊の中には一航戦『赤城』、『加賀』の姿があり、飛行甲板では艦載機が発艦準備を整えようと作業が進められている。

 

 その前方には『ニュージャージー』、『ノースカロライナ』、『ワシントン』の三隻の戦艦が先導している。輸送船団の周りには護衛の巡洋艦を中心に展開している。

 

 

「艦長。間もなくエストシラント沖合に入ります」

「そう。分かったわ」

 

 艦体の装甲艦橋の防空指揮所にて、『赤城』が妖精より報告を聞いて頷く。

 

「いよいよですわ、総旗艦様」

「あぁ。そうだな」

 

 『赤城』は隣に立つ『大和』に声を掛け、彼は静かに頷く。

 

 レミール確保の報告を受けた『大和』はトラック泊地を烈風改で飛び立ち、『赤城』と合流した。

 

「ですが、信用できるのですか?その人間は」

「……」

 

 『赤城』は『大和』を見てそう問いかけると、彼は出撃準備を整えている艦載機を見つめる。彼女はカイオスの事を聞いているのだろう。

 

「信用はしていない。今回の作戦はそれに合わせて行うが、別に成功を期待はしていない。成功すれば御の字というぐらいだ。国を滅ぼしてまで戦争を続けるのはこちらの本意ではない」

「そうですか」

 

 『大和』がそう答えると、『赤城』は興味をなくしたのかそれ以上は聞かなかった。

 

 今回のカイオスのクーデターは、『大和』はそれほど期待していなかった。そもそも敵の言葉を信用しろ、というのは無理のある話だ。

 敵の敵は味方というが、今回は相手が相手なので、信用に欠ける。

 

 しかしうまくいけば、この戦争を国が亡びる前に終わらせることが出来る。

 

「とにかく、お膳立ての為に、派手に暴れてくれ。無論―――」

「誤って民間人を巻き込むな。ですわね。分かっていますわぁ」

 

 『大和』が言おうとしたことを『赤城』は得意げに答える。

 

「分かっているならいい。『加賀』も分かっているな?」

『分かっているさ。一航戦の実力、信用してくれ』

 

 『大和』がそう聞くと、『赤城』の艦体の隣を航行している『加賀』より自信ある返事が返って来る。

 

 栄えある一航戦の実力は他の追随を許さない。精密な攻撃など造作も無い。

 

「よし。航空隊は準備が終え次第発艦せよ! 目標! エストシラント!!」

 

 満足する返答が帰って『大和』は口角を上げ、制帽の位置を整えて命令を発した。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、パーパルディア皇国

 

 

「……」

 

 カイオスは自身の屋敷の私室にて、椅子に座ってゆっくりと息を吐く。

 

(しかし、あの子娘一人失っただけであそこまでの取り乱しようか。まぁこの状況だと本当に唯一の心の拠り所だったのだろう)

 

 彼は椅子の背もたれにもたれかかり、息を吐く。

 

 レミールが消息を絶ってから、この二日でルディアスの情緒は不安定になり、怒鳴り散らしたり嘆き悲しんだりと、精神的に不安定になっており、彼の口から出てくる指示はどれも滅茶苦茶な内容であり、やれレミールは見つかったのか、レミールはどこに居る、レミールを探し出せと、レミールに関することばかり。とてもまともな指示を出せるような精神状態ではなかった。

 これを見ると、相当精神的に追い詰められていただけに、レミールの存在は大きかったのだろう。

 

「……」

 

 ふと、カイオスは机の一番下にある大きな引き出しを引いて抜き取ると、その奥にある箱を取り出す。

 

 箱に付いている鍵を開けて蓋を開けると、中には回転式の弾倉を持つ拳銃が弾とメンテナンス道具と共に入っている。これはカイオスがムーへと仕事として向かった際に、護身用としてムーで購入したものだ。

 本来ならこの手の代物は一般的には購入できないのだが、カイオスが国に仕える高官であり、国より所持許可を貰っているので、購入が許可された。

 

 カイオスは拳銃を箱から取り出すと、中折れ式の拳銃のロックを外して傾け、弾倉を開けると、箱にある弾薬箱よりカートリッジを取り出して弾倉に一発ずつ弾を込めていく。

 

(これから起こることは、この国の歴史を大きく変えるだろう。もはや在り方すらも……何もかもが変わる)

 

 最後まで弾を込め終えると、中折れにした弾倉と銃身を元の位置へと戻してロックを掛ける。残った弾は全てズボンのポケットに入れる。

 

 これから行われることは、歴史的な事として語り継がれるだろう。それがどんな結果をもたらすかは、神のみぞ知る。それを行うカイオスの評価もまた、大きく左右されるだろう。

 

(だが、それで救われる多くの命がある。対価を支払うことになるが、それが必要な犠牲ならば……)

 

 改めて弾が込められた拳銃を見つめて、気を引き締める。

 

 

 

「っ!」

 

 すると小さく爆発音らしき轟音が部屋に響き、カイオスは立ち上がって拳銃をズボンとベルトの間に差し込んで上着の裾で拳銃を隠す。

 

「カイオス様!!」

 

 と、扉が激しくノックされると共に使用人の声がして、カイオスはすぐに向かって扉を開ける。

 

「どうした?」

「大変です!! ロデニウスが、またエストシラントに!」

「っ! 来たのか……」

 

 慌てる使用人を他所に、カイオスは来るべき時が来た、と悟る。

 

 再度部屋に戻って窓を開けると、エストシラントの上空で飛行機械が飛び交い、各所で黒煙が上がっている。

 

 『赤城』、『加賀』より発艦した烈風改、艦爆隊、艦攻隊の流星改二が上空で飛び交い、特戦隊によって把握されたエストシラントの要所要所に設置された防衛拠点に対して攻撃を行っている。

 

「カイオス様! 早く避難を!」

「分かった。だが、その前に確認しておきたい事があるから、陛下の元に向かう。お前達は先に行け」

「し、しかし!」

「急げ! 時間は待ってくれないぞ!」

「か、畏まりました」

 

 使用人はカイオスに言われて一礼し、その場を離れて他に居る使用人達に声を掛けていく。

 

「……」

 

 カイオスは使用人が行ったのを確認し、机の引き出しを開けて白い布を左肩に巻き付けて部屋を出る。

 

 

 


 

 

 

 エストシラントの市街地では、阿鼻叫喚の光景が広げられていた。

 

 上空にはロデニウスの飛行機械が飛び交い、市街地に設置された防衛拠点に対して急降下爆撃が行われて破壊される。精密な爆撃とあって、拠点のみが破壊され、周囲への被害は最小限に留められた。

 

 市民たちは我先に逃げて、兎に角安全そうな場所を探して逃げる者や、家屋に身を隠して震えながら頭を抱える者と行動はそれぞれ分かれた。

 

 銃や魔導砲が無い皇軍兵と動員兵達は、飛行機械に対して無力も同然だった。彼らは物陰に隠れてやり過ごすしかなかった。

 ごく少数で残っている銃を使って反撃する者が居たが、高速で飛行する飛行機械に対して命中するはずが無く、むしろ自分の居場所を相手に知らせるだけで、直後には機銃掃射に遭いその命を散らす。

 

 

「くそぉ!! こんなのどうしろっていうんだ!!」

 

 物陰に隠れている動員兵が上空を飛び交う飛行機械を一瞥して悪態をつく。

 

 反撃する手段を持たない彼らは、身を隠して脅威が過ぎ去るのを祈るしかない。

 

「……」

 

 動員兵の中に居るシルガイアは、虚ろな目で上空を飛び交う飛行機械を見つめる。

 

「もう終わりだ……この国はもう終わりだ!!」

 

 中には発狂した動員兵が物陰から飛び出して叫び散らし、直後に拠点に対して行われた機銃掃射に巻き込まれて文字通り飛散する。

 

 その光景を目の当たりにして何人もの動員兵達が発狂して暴れ出し、他の動員兵が落ち着かせようとする。

 

 

「お前達の……お前達のせいだ!!」

 

 すると近くの家屋の雨戸が開けられ、中に隠れていた市民が動員兵達に対して叫ぶ。市民の不満が、遂に爆発してしまったのだ。

 

「お前達がロデニウス戦争を仕掛けたせいでこうなったんだぞ!!」

「そうだ!! どうしてくれるんだ!!」

「お前達のせいで息子は死んだのよ!!」

「兵士ならさっさとやつらを何とかしろ!!」

「この役立たず!!」

 

 やがて次々と声を上げる市民たちが増え、動員兵達に罵声を浴びせ、物を投げつけ始める。

 

「や、やめろ!」

「俺達は関係―――」

 

 動員兵達は反論しようにも物を投げつけられ、飛行機械から身を隠すのに必死だったので、ただ耐えるしかなかった。

 

 不満が爆発した市民たちによる暴動はエストシラント各所で発生し、中には兵士達と争い始める所も出始める。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、エストシラント沖。

 

「撃てぇっ!!」

 

 艦橋直下にあるCICにて、『ニュージャージー』が号令を掛けると、艦体に搭載された16インチ三連装砲が轟音と共に火を噴き、艦体を揺らす。続けて『ノースカロライナ』と『ワシントン』も砲撃を開始する。

 

 放たれた砲弾はエストシラントの海岸に設置されたトーチカに着弾し、爆発して粉々に粉砕される。

 

 それが沿岸部のあちこちで発生して、トーチカが破壊される。

 

「艦長! 沿岸部にあるトーチカの五割を破壊!」

「分かったわ。引き続き、トーチカを破壊するわよ」

 

 『ニュージャージー』が指示を出すと、艦体の三番砲塔が轟音と共に火を噴く。

 

(やれやれ。思っていた初陣とは大きく違うわね)

 

 彼女はモニターに映る着弾地点の映像を見ながら、内心呟いて小さくため息を付く。

 

 戦艦である以上、出番があるのは喜ばしいことなのだが、思っていた出番とは少し違っていたとあって、微妙な気持ちを抱いているのだ。

 それがパフォーマンスの為だと言われたら、尚更だろう。

 

 しかしわざわざ陽動に戦艦を用いるのはコスパが悪いのでは? と思われるが、この辺りコスパをあまり気にしないで良いのはKAN-SENの特徴の一つである。

 

 それに、目立って相手の目をこちらに向けさせられるのなら、こちらとしては願ったり叶ったりだ。

 

(さて、ここまでやっているんだから、成功させて欲しいわね)

 

 モニターを見ながら、彼女は作戦成功を祈る。 

 

 

 

「始まったか」

「はい」

 

 『赤城』の装甲艦橋下にある戦術情報管制室にて、『大和』と『赤城』がモニターを見つめる。

 

 モニターには艦載機による攻撃を映した映像と、『ニュージャージー』達による艦砲射撃の映像が映されている。

 

「それにしても……市民による暴動が発生か」

 

 『大和』はモニターに偵察機のガンカメラでリアルタイムに送られている、エストシラントの状況を見て呟く。モニターには、エストシラント各所で市民による暴動が映されている。

 

(これじゃ、市民を巻き込みかねないな。だからと言ってコラテルダメージだとして無差別に攻撃するわけにもいかんか)

 

 市民の暴動を見つめつつ、どうするか一考する。

 

 激しい戦闘が行われている中で大っぴらに行動していては、戦闘に巻き込まれるのは自明の理。軍事的行動による、致し方のない犠牲として処理しても問題は無いだろうが、そうもいかないのが現実だ。

 

 このまま市民を巻き込んで戦闘を行えば、反感感情を抱かれて戦後の関係に大きく響いて来る。

 

 結局、『大和』は『赤城』と『加賀』に対して地上の状況を見極めて攻撃を行うように指示を出す。

 

 

「艦長。秘密通信です」

「内容は?」

「『コウモリが飛び立った』です」

「そう。総旗艦様」

「あぁ。上陸部隊はどうなっている?」

「既に出撃準備を整えています。艦砲射撃が終了次第大発が出ます」

「そうか」

 

 報告を受けて、『大和』は頷いて指示を出す。

 

(さてと、ここまでお膳立てしているんだ。結果は残してくれよ)

 

 『大和』は内心呟きつつ、カイオスの動向を気にする。

 

 正直な所、これ以上戦争が長引くと本気で皇国を滅ぼしてでも終わらせなければならなくなる。それは避けておきたいことである。

 

 だからこそカイオスのクーデター計画はロデニウスからすれば戦争の早期終結ができると願ったり叶ったりなのだ。 

 

 尤も、完全に信用しているわけでは無いので、特戦隊を投入して待機させている。万が一の時はクーデターを掩護するように、最悪の場合最終手段を用いるように伝えている。

 

 最終手段を用いた場合、この戦争はパーパルディア皇国を殲滅させるという形で終わらせなければならなくなる。ロデニウス側としては、それは避けたい。

 

(とにかく、今は状況が動くまで、こっちは陽動に徹するまでだ)

 

 『大和』は腕を組み、ただ状況を見守るだけである。

 

 

 




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