異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
所変わり、パラディス城。
「市街地各所に設置された拠点が次々と破壊されています!! このままでは、防衛線の維持が不可能になります!!」
「状況の把握はまだなのか!?」
「市民の暴動をどうにかしろ!! 邪魔するのなら反逆者として始末させろ!!」
臨時的な指令所となっている会議場では、戦場の様に慌ただしくなっており、各所からの報告が上がって情報が錯綜している。
「ロデニウスの上陸部隊が接近中です!!」
「すぐに集められる戦力を海岸付近に送れ! 敵はいよいよこのエストシラントに上陸するぞ!! 急いで関係各所に伝えろ!!」
「ハッ!」
戦争の様に慌ただしい空気の会議場では、アルデが指示を出してロデニウスの上陸を阻止しようとしている。
アルデより指示を受けた兵士はすぐさま伝令に走り出す。
(くそっ!! 魔信が故障などしなければこんな面倒な方法を取らずに済んだのに!!)
彼は苛立ちを見せて内心呟く。
エストシラント内で魔導通信機の故障が起きているので、命令の伝達手段は伝令でしか行えないので、伝令係の兵士が行ったり来たり駆け回っている。当然伝令では情報の伝達は遅い上に、市街地では暴動が発生しているとあって、伝令兵の到着が大きく遅れてしまっている。
それがロデニウス側が仕掛けた通信妨害であるとは、皇国側は思いもしないが。
(そもそも! 陛下が余計な事をしなければ迎撃態勢は整っていたんだ!! たかが小娘の為に兵を動かしたせいでこのざまだ!!)
苛立ちのあまり彼は強くテーブルに拳を叩きつける。周りが騒がしいあまり、誰もそのことに気付いていない。
と言うのも、アルデはロデニウスによるエストシラント上陸に備えて数少ない戦力を上陸予想地点後方に配備させていた。使える戦力を掻き集めて、迎撃態勢を整えていたのだ。
だが、ルディアスはレミールが消息不明となるや、その迎撃に当たらせるはずだった戦力の多くに加え、貴重な近衛兵も捜索に当たらせるという愚行に走ったのだ。その上ロデニウスの飛行機械の攻撃で防衛施設が破壊されているとあり、まともな迎撃ラインの形成すらも出来ない状態であった。
すぐに捜索に当たっている兵士を呼び戻そうにも魔信が故障して連絡できない―――実際は通信妨害が行われている―――ので、伝令で伝えなければならなかった。
その結果、全く防衛体制が出来ていない状態で迎撃しなければならないのだ。アルデが怒りを露にするのも、当然であった。
(こんなので、こんなのでどうやって迎撃しろと言うんだ!!)
アルデは声にはしなかったが、どう考えてもこの状況ではロデニウスの迎撃は不可能だというのを悟っていた。
尤も、迎撃態勢を整えていたとしても、対処出来るわけでもないが。
(それに加えて、このタイミングで市民の暴動が起こるとは……!!)
いつかは暴動が起きると考えていたが、あまりにのタイミングの悪さに、彼は苛立って歯軋りを立てる。
どうすればいいか、そう悩んでいると、突然扉が開かれて軍人たちが雪崩れ込んで来た。その人数45名。
突然のことにアルデを含んだ会議室にいた者達は、唖然としたが、その間に軍人たちは手にしているマスケット銃を構えて銃口をアルデ達に向ける。
「な、何だ!? 何事だ!?」
アルデが声を荒げると、新たに5人の軍人を引き連れた隊長らしき人物がサーベルを抜いたまま入室する。
よく見ると入って来た軍人たちは左肩に白い布を巻いている。この白い布を巻いているのはカイオスのクーデター計画に賛同した兵士達であり、見分けを付けるために白い布を左肩に巻かせたのだ。
「動かないでいただきたい!! この会議室と関係各所は、たった今我々が掌握した!! 勝手な行動をされると命の保証はない!!」
「何だと!? この国家存亡の危機の前に、革命ごっこのつもりか!? 指導者がいない国は動かんぞ!! お前達は皇国を滅ぼしたいのか!?」
隊長の言葉に兵士達から銃や剣を突きつけられながらも、アルデは声を荒げる。
「この未曽有の危機を作り出したのはあなた達と皇族共だ!! 我々は愛するこの国を滅亡から救うためにここに来たのだ!」
「馬鹿者が!! ただ行政機構を抑えただけでは何の解決にもならん!! 相手が居るんだぞ!! 相手が!! 国を救うというのなら具体案を出してみろ!! それが出来なければ、お前達は大馬鹿者だ!!」
と、アルデが抗議すると、隊長は鼻で笑ってアルデを哀れめいた目で見下す。
「あなたはとんだ勘違いをしておられるようだ。この反乱の首謀者は私ではない。第3外務局局長のカイオス様だ」
「なっ!? カイオスだと!?」
「そして具体案ならある。既にカイオス様はロデニウスと戦後を含めて話を付けられた。あとは我々が国内の大掃除を行えば、この国は救われる!」
反乱の首謀者がカイオスであると明かされてアルデは驚愕し、隊長より具体案を述べられたものの、アルデは怒りを露にする。
「たわけが!! ロデニウスだけをどうにかしても、属領の反乱軍はどうする?! 準文明国はどうする!! そいつらは止まらんぞ!! 仮にすべてがうまくいったとしても、我が国はロデニウスに殲滅戦を宣言しているのだ!! それでいて我が国にあの国が譲歩するとでも思ったか!!」
「……どうやらあなた方は本当にロデニウスの事を理解していないようだ。お前達のような無能共が上層部に巣食っていれば、報告が捻じ曲げられていてもおかしくないか」
呆れたように隊長はため息を付き、それが神経を逆なでしたのかアルデの顔がますます赤くなって身体を震わせる。
「まぁいい。これ以上無能と問答するつもりはない。大人しくしてもらうぞ」
「……後悔するぞ」
アルデは捨て台詞を吐いて兵士達に拘束される。
隊長の言葉通り、皇軍の関係各所はクーデター派の兵士達と近衛兵により制圧されており、当然会議室があるパラディス城も制圧されている。
ここまで制圧が容易だったのは、兵士が完全に出払って、近衛兵の数が少なかったのもあるが、その近衛兵の大半がクーデターに参加しているのが、大きな要因だろう。
「これはどういうことだ、カイオス」
パラディス城のルディアスの私室にて、クーデターに賛同した近衛兵5人に囲まれ、中央で椅子に座っているルディアスは、目の前にいるカイオスに拳銃を突きつけられており、拳銃を突き付けている本人を睥睨する。
「皇帝陛下。あなたを拘束します」
カイオスはルディアスの睥睨に臆することなく、拳銃を突きつけたままその双眸を直視する。
「ふん。この期に及んで革命か。そんなことをしたところで民はついては来ないぞ。むしろ今攻めて来ているロデニウスに滅ぼされるだけだ」
「既にロデニウスとは話を付けております。この攻撃も反乱が成功する為の陽動ですので」
「……」
「反乱が成功すれば、パールネウスへの攻撃も止まる手筈となっています。そうすれば、この戦争は終わります」
「……」
「それに、この状況では貴方と私、民はどちらを信用しますかな?」
「……」
カイオスの明かした内容に、ルディアスは何も言わなかったが、その双眸は怒りを孕ませている。
「余を……どうする気だ」
「あなたには軍に戦闘を停止させ、降伏するよう指示を皇帝の命として出してもらいます」
「……」
「そしてあなたを含めた皇族は、講和会議での交渉材料として活用させていただきます。ですので、身の安全の保障は致しかねます」
「……」
カイオスの言葉に、ルディアスは双眸の怒り色が更に濃くなる。
「悪魔に、魂を売ったか」
「何とでも。皇族の命と、私の命で大勢の命が助かるのなら、安いものです」
彼は「ニィ……」と、狂気を孕んだ笑みを浮かべる。
「では、皇帝として最後の仕事をしてもらいます」
「……断ると言ったら?」
「拒否権はありません。あなたには必ず仕事をしてもらいます」
「……」
カイオスにそう言われても、未だに皇帝陛下としてのプライドがあってか、渋りを見せるルディアス。
「皇帝陛下。あなたに民を思う気持ちが残っているのなら、今起きているこの状況に何も思わないのですか」
「……」
と、カイオスは部屋の窓を開けてルディアスに外を見せる。
外では市街地の要所にある簡易トーチカに対して艦爆隊の流星改二が急降下爆撃を行い、投下した爆弾が着弾して爆発を起こし、近くにいた動員兵諸共吹き飛ばす。
市街地の各所で黒煙が上がり、間隔を空けて爆音が響き、海からは輸送船より出撃した特大発が浜辺を目指して突き進んでいる。
「……」
「陛下!」
沈黙するルディアスにカイオスが一喝すると、彼は観念した様子でため息を吐く。
「……良いだろう。好きにしろ」
と、ルディアスは椅子から立ち上がり、近衛兵に囲まれる形でカイオスに連れていかれる。
「……」
『赤城』の艦体の戦術情報管制室にて、『大和』は腕を組み、ただただその時が来るのを待っている。
「第二次攻撃隊発艦完了! 第一次攻撃隊の収容作業に入ります!」
「上陸部隊。着々にエストシラントへ上陸しています。敵からの抵抗は皆無とのことです」
「パールネウス攻撃隊により連絡! 敵基地司令部を制圧!」
次々とエストシラントやパールネウスでの戦況報告が入り、『大和』は少しだけ顔を上げる。
「……」
「総旗艦様……」
ずっと沈黙している『大和』に『赤城』は小さく声を掛ける。
「艦長!」
と、通信士の妖精が『赤城』の元に向かうと、手にしている紙を手渡す。
「……総旗艦様」
「……」
『赤城』は紙に書いている一文を見て、すぐに『大和』に見せる。
「……」
紙に書いている一文を見た『大和』は、安堵の息を吐いて制帽を脱ぐ。
「エストシラント、及びパールネウス攻撃隊に連絡。戦闘を停止。動きがあるまで待機せよ。尚抵抗がある場合に限り、応戦を許可する」
『大和』の指示を受けて、通信士たちはすぐに各隊に指示を伝える。
(やってくれたか……)
彼は内心呟きつつ制帽を被り直し、モニターを見る。
パーパルディア皇国はカイオスを首謀としたクーデターが発生し、皇国の政治中枢を掌握。皇帝ルディアスを拘束し、彼の命により全軍の戦闘停止命令が伝えられた。
パールネウスは包囲していた攻撃隊は全て城壁内側へと突入し、皇軍の激しい抵抗に遭うものの、抵抗兵力を排除して防衛基地を包囲し、抵抗を続けていた皇軍だったが、パールネウス防衛基地司令は状況を悟って降伏を選択し、連合軍に制圧される前に皇軍は降伏し、パールネウス全域に居る軍に戦闘停止命令を下した。
パールネウスに住んでいた皇族だが、彼らは逃走用の地下通路にて逃亡を図ろうとしたものの、事前に地下通路の存在を把握した特戦隊が待ち伏せを行い、皇族全員を鎮圧して拘束した。
ともあれ、パーパルディア皇国とロデニウス連邦共和国、73ヵ国連合による戦争は、終結へと大きく進み出す。
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