異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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今回短いので早めの投稿


第百七話 降伏調印式

 

 

 

 

 講和会議が終わり、連合軍の代表とパーパルディア皇国の代表たちとルディアスは、ロデニウス側が用意した車に乗ってエストシラントの市街地を抜けて港へと向かう。ムーの車よりも洗練された車に、エルト達は驚きに満ちていた。

 

 道中街の様子を見ていたエルト達は、破壊された街でロデニウスの兵達が復興に手を貸し、市民に食事を提供し、治療を行っている姿に驚きを隠せなかった。

 

 彼らの常識からすれば、敗北した者をぞんざいな扱いにするのは当然だったからだ。そんな姿が見られないどころか、自国民に救いの手を差し伸べているロデニウスの兵士に、精神面と思考面から何もかもがロデニウスに負けていた、という認識を突き付けられた。

 

「っ! あれは!?」

 

 市街地を進んでいくと、エルトは車の窓から港の沖合を見て、驚きを隠せなかった。

 

 そこには多くの軍艦が停泊しており、やはり一際目立つのは『ニュージャージー』と『ノースカロライナ』、『ワシントン』の三隻の戦艦だ。更に『赤城』と『加賀』もだが、『ニュージャージー』達よりも後方に居るせいで、エルト達からは同じぐらいの大きさの船と認識されている。

 

「なんて大きな……」

「ムーでも……いや、ミリシアルでもあんな船は……それなのに、文明圏外の国が……あんなものを」

「皇国自慢のフィシャヌス級なんか……赤子同然じゃないか」

 

 エルト達は初めて目にする海に浮かぶロデニウスの軍艦を目の当たりにして、自分達がどれだけロデニウスの事を分かっていなかったのを、そして最初から勝敗は決まっていたというのを実感してしまう。

 後ろの車に乗っているルディアスも、同じ感想を抱いている。

 

 同行しているアルタラス王国のルミエスとフェン王国のモトムは以前にもロデニウスの軍艦を見たことがあるので驚きはしなかったが、73ヵ国連合の代表たちは初めて見るロデニウスの軍艦に目を見開いて驚愕し、パーパルディア皇国に最初から勝ち目など無かったというのを理解する。

 

 

 

 港では連邦共和国陸軍の工兵隊がトラック泊地の妖精達を交えて各種重機を投入し、更に海軍の工作船も投入してフル稼働で復旧作業を行っており、お陰でごく一部の港の機能が回復し、湾内の残骸も多くが除去されて小型の船であれば入港が可能となっている。

 工作船の中には、KAN-SENの『明石』と『ヴェスタル』も含まれている。

 

『……』

 

 港が凄まじいスピードで復旧されている光景に、エルト達は呆然と見つめている。

 

「そんな……こんなにも、こんなにも差があるのか」

「一部分で復旧にどれだけ時間が掛かると思っているんだ……」

「これだけ……差があるのか」

「……」

 

 三人が絶望している中、カイオスは早い復旧速度に息を呑むしかなかった。

 

「それでは、あの内火艇で海を移動し、サイン会場へ向かいます」

 

 と、『大和』がカイオス達に復旧している港に停泊している内火艇二隻を見て説明する。内火艇には『大和』と連合軍の面々、パーパルディア皇国の代表と別れて乗船する。

 

 これからパーパルディア皇国の代表たちには、降伏調印式の会場となっている軍艦へ内火艇で移動し、そこで書類に調印し、正式にパーパルディア皇国はロデニウス連邦共和国を筆頭にした連合軍に降伏したことになり、戦争は終結する。

 

 かつて旧ロウリア王国が降伏した際に行った降伏調印式と同じように、パーパルディア皇国の代表には軍艦の上で降伏調印を行うのである。

 

 ただ、以前と違って今回は少しだけ異なっているが。

 

 

 内火艇にそれぞれの代表達が乗船し、降伏調印式の会場となっている軍艦へと向かう。

 

(船の上で調印を行うか。中々考えている)

 

 波に揺れる内火艇に揺られながら、カイオスは海に浮かぶロデニウスの軍艦を見つめつつ内心呟く。

 

 軍艦はその国の国力を示す象徴であり、降伏する側からすれば自分達と相手との間にどれだけの差があったのか、というのを見せつけられながら降伏調印式に挑まなければならない。

 最後までロデニウスは徹底している。

 

(となると、会場はあの軍艦か)

 

 カイオスは、必然的に一番大きな船で降伏調印式が行われると考え、一番大きな軍艦……『ニュージャージー』を見る。

 

(ムーの『ラ・カサミ』より遥かに大きいな。いや、もしかしたらミリシアルの魔導戦艦よりも大きい。こんな船を作れる国に戦争を仕掛けて、勝てるわけが無い)

 

 彼は改めて自分の祖国がどれだけ無知で愚かだったのを自覚し、呆れてため息を付く。

 

 

 しかし内火艇は針路変えて別方向へと進み出す。

 

「?」

 

 揺られながらカイオスは怪訝な表情を浮かべる。

 

「か、会場はあの船じゃないのか?」

「いえ。調印式の会場となっているのは別の船となっています。間もなく見えてきます」

「何?」

 

 乗船して警備に当たっている兵士に質問し、兵士の答えにカイオスは首を傾げて前を向き、聳え立つ岬を見る。

 

 内火艇は進んでいき、岬の向こう側が見える位置まで移動する。

 

「なっ!?」

『っ!?』

「……」

 

 そして目の前に広がる光景を目の当たりにして、カイオスは驚愕し、エルト達は絶句し、ルディアスは目を見開く。

 

 岬の向こう側には、自分達の常識では理解できない、巨大な……まるで島の様な、あまりにも巨大な戦艦が鎮座していた。

 

 400m以上は確実にある巨大な船体に、巨大な砲を三本持つ砲塔を前部に三基、後部に二基、城郭の様に聳え立つ艦橋。無数の対空兵装から航空機を必ず撃ち落とすという絶対的な意思を感じ取れる。

 

 

 あの紀伊型戦艦を上回り、『紀伊』の息子である第二世代のKAN-SEN……『まほろば』である。

 

 今回のパーパルディア皇国の降伏調印式の会場は、この『まほろば』である。

 

 パーパルディア皇国の心を徹底的にへし折ると決めていたロデニウス連邦共和国政府は、『大和』達に『まほろば』を降伏調印式の会場に出来ないか頼んでいた。

 

 『大和』と『紀伊』は『まほろば』を含め第二世代のKAN-SENの存在を国に公表こそしているが、元々秘匿していた存在とあって色々と悩んだが、彼らもパーパルディア皇国には最後まで心を折ってもらおうと考えていたので、本人の意思確認をして許可を出した。

 

 本来なら『紀伊』か『尾張』のどちらかを降伏調印式の会場にしようと政府は考えていたが、二人の艦体はまだトラック泊地のドックに入渠中なので、『まほろば』に白羽の矢が立ったのだ。

 

 

「こんな、こんなのって……」

「……」

「あ、悪夢だ……」

(我々は……決して相手にしてはいけなかった国と戦争していたのか)

 

 エルト達は全員が絶望し、カイオスは自分の認識もまだまだ甘かったと実感している。

 

「……最初から結果は見えていた、ということか」

 

 ルディアスだけは『まほろば』を見て、遠い目で全てを悟ったのだった。

 

 

 内火艇は『まほろば』に近づいて接舷し、『大和』達が最初に乗り込み、次にパーパルディア皇国の代表たちが『まほろば』のタラップに乗り込み、ゆっくりと登っていく。

 

 『まほろば』のその大きさ故にタラップを登るのも一苦労だったが、カイオス達は何とか登り切って甲板に出る。

 

『捧げぇ!! 銃!!』

 

 彼らが甲板に出ると、赤い絨毯が甲板に敷かれてサインするイスとテーブルがある会場へと繋がっており、その赤い絨毯の両脇にはロデニウス連邦共和国海軍の水兵達が銃剣を装着した64式小銃を掲げる。

 

 例え敗北したとしても、例え戦争の発端がどうであれ、彼らは戦って敗北し、国の代表として立派に降伏しに来たのだ。ならば彼らを最大限の敬意を以ってして迎えるのは当然である。

 

「……」

 

 カイオスはあまり経験の無いこととあって、緊張した面持ちで息を呑みつつ、絨毯の上を歩き出す。捧げ銃をしている水兵達はカイオス達が歩き出すと、構えを変えて迎え入れる。

 

 テーブルとイスがある会場には、『大和』と連合軍各国の代表、本土より連れて来たマスコミ関係者が集まっており、テーブルには降伏調印を行う書類が並べられている。『まほろば』本人は昼戦艦橋から会場の様子を見ている。

 

「どうぞ」

 

 『大和』はカイオスとルディアスに着席を勧め、二人は水兵に引かれた椅子に着席する。その瞬間マスコミ関係者は手にしているカメラのシャッターを切って撮影する。エルトとリウス、アルデは周りの空気に戸惑いつつ二人の後ろに立つ。『大和』の後ろにいる連合軍の各国代表とエルト達は、歴史的瞬間の証人としてここにいる。

 二人の着席を確認して、『大和』は水兵に指示を出して、ルディアスの両手に着けられた手錠の鍵を開錠して手錠を外させる。

 

 次に『大和』はカイオスとルディアスにどの書類にサインをするかを説明し、カイオスとルディアスは用意された万年筆を手にする。

 

 最初にルディアスが書類にサインをして拇印を捺し、次にカイオスがルディアスのサインの下に自身のサインをして、サインを終えた書類を『大和』が受け取り、サインと拇印を確認する。

 

 カイオスとルディアスは全ての書類にサインを終え、『大和』が全ての書類にサインしているかを再確認する。

 

「では、これにて貴国の降伏を受理いたします」

 

 『大和』は書類を纏めて箱に入れると、外務省の職員がその箱を受け取る。

 

 カイオスとルディアスは促されて起立し、『大和』が差し出した右手をそれぞれが握って握手を交わした。

 

 

 

 時に中央歴1640年 4月4日 

 

 

 パーパルディア皇国が起こしたこの戦争は……皇国がロデニウス連邦共和国に降伏したことで、終結を迎えた。

 

 

 それは同時に、世界のパワーバランスが大きく変化を迎えた瞬間でもあった。

 

 

 

 




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